【秋のキャメ祭】月より団子で仮装大会!?

■イベントシナリオ


担当:綾海ルナ

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:4

参加人数:35人

サポート参加人数:-人

冒険期間:09月25日〜09月25日

リプレイ公開日:2009年10月06日

●オープニング

 アスタロト襲来により混乱の只中にあったキャメロットの町は、徐々に落ち着きを取り戻しつつあった。
「フレッドー! フレッドーー!!」
 デビルの襲撃を受け壊れた屋根を直していたフレッドは、自分を呼ぶ母レミーの声にトンカチを叩く手を止めた。
「母上、どうなさったのですか? そんなに慌てて‥‥」
 屋根からひらりと飛び降り、額の汗を拭いながらフレッドはレミーの顔を見つめた。
「私、お月見をする事に決めましたの」
「お月見? 確か、ジャパンの風習にその様なものがありましたね」
「お月様を愛でつつ皆でお団子を食べたりお酒を飲んだりして、我を忘れ騒ぐ事ですわ♪」
 最後の部分は激しく間違っているが、大よその認識は合っている。
 レミーはにんまりと微笑むと、フレッドに羊皮紙を押し付けた。
「さあ、フレッド。急ぎギルドにお月見開催のお知らせを出して来て下さいな」
「ま、またあの原っぱで乱痴気騒ぎをなさるおつもりですか‥‥」
「乱痴気騒ぎではありません。キャメロットの危機を救う為に戦って下さった‥‥いえ、今も戦っている冒険者の皆様の慰問会です。健全なっ!」
 レミーは何処からか取り出したハンカチーフで目元を拭うと、よよよとか細い声を上げる。勿論、演技なのだが。
「‥‥わかりました。春の男装女装大会も夏のカップルコンテストも、参加してくれた皆は(恐らくは)楽しんでくれてたみたいですし、今回も楽しい宴になる様に努めさせて頂きます」
「さすがフレッド! それでこそ私の息子ですわっ。そうと決まったら、早速衣装を用意しませんと♪」
 嬉々とした表情のレミーが発した一言に、フレッドの端正な顔がぴしっと固まる。
「母上、もしや今回も‥‥」
「仮装をしてお月見だなんて、我ながらいいアイディアですわ。幻想的な宴になること間違いなし! ですもの♪」
 スキップしながら去っていく母の後姿を、フレッドは胃の痛くなる思いで見つめていた。
 勿論、自分も何かしらの仮装をさせられるのだろうと、そう思いながら‥‥。

「と言う訳で、隅っこでいいからこの案内を張り出してもらえないだろうか?」
 フレッドから手渡された羊皮紙に目を通した後、受付嬢は笑顔で頷いた。
「ところで、今回もコンテスト的なものを行うんですか?」
「いや、今回は皆でゆっくりとした時間を過ごしてもらえればと思っている。依頼に赴いてばかりでは、大切な人達と語らい合う時間も持てないだろうからな」
 勿論、冒険者達で催しを開きたいのならば自由にしてくれて構わないが‥‥とフレッドは優しい笑みを浮かべる。
「お月見だなんて楽しそうですね。モードレッドさんが知ったら我先にと参加しそうですが‥‥」
「自宅謹慎中では仕方ないさ。モードレッド殿には日を改めて俺が団子を持っていこうと思う」
 苦笑するフレッドの言葉に、受付嬢は首を傾げる。
「フレッドさんの手作りですか?」
「ああ。卿は俺のアップルパイを気に入ってくれてるんだ。団子もお気に召すに違いない」
 フレッドが作るお団子は通常サイズの2倍くらいはありそうだと思いながら、受付嬢はにっこりと微笑んだ。
 こうしてレミーによる春夏秋冬祭りの秋バージョンである『お月見・イン・キャメロット』が、いつもの原っぱで開かれる事となったのだった。

●今回の参加者

マナウス・ドラッケン(ea0021)/ ヤングヴラド・ツェペシュ(ea1274)/ オルステッド・ブライオン(ea2449)/ ケイ・ロードライト(ea2499)/ ユリゼ・ファルアート(ea3502)/ 尾花 満(ea5322)/ アルテス・リアレイ(ea5898)/ フレイア・ヴォルフ(ea6557)/ 七神 蒼汰(ea7244)/ 陸堂 明士郎(eb0712)/ フォーレ・ネーヴ(eb2093)/ ステラ・デュナミス(eb2099)/ 藤村 凪(eb3310)/ シルヴィア・クロスロード(eb3671)/ 鳳 令明(eb3759)/ シェリル・オレアリス(eb4803)/ ラルフィリア・ラドリィ(eb5357)/ ニセ・アンリィ(eb5734)/ レア・クラウス(eb8226)/ サクラ・フリューゲル(eb8317)/ エルディン・アトワイト(ec0290)/ フォルテュネ・オレアリス(ec0501)/ ヒルケイプ・リーツ(ec1007)/ ルザリア・レイバーン(ec1621)/ カメリア・リード(ec2307)/ ラルフェン・シュスト(ec3546)/ アイリス・リード(ec3876)/ ミリア・タッフタート(ec4163)/ ラディアス・グレイヴァード(ec4310)/ ラティアナ・グレイヴァード(ec4311)/ マール・コンバラリア(ec4461)/ リース・フォード(ec4979)/ ヴィタリー・チャイカ(ec5023)/ リュシエンナ・シュスト(ec5115)/ エルシー・ケイ(ec5174

●リプレイ本文


●和やかな時はお団子と共に
 笑い声が夜空に響き、お月見は終始和やかに進んでいた。まるで嵐の前の静けさと言わんばかりに‥‥。
「今回もお願いするわ♪ またよろしゅーにな」
「お招きありがと♪ よろしくねぇ〜」
 まるごとじぞうな藤村凪(eb3310)と、メイドドレス「リトルデビル」の上に神隠しのマントを纏ったフォーレ・ネーヴ(eb2093)は元気良く、
「今回も宜しくお願いする。‥‥いや、しますわ」
 露出の多いスカーレットドレス姿のルザリア・レイバーン(ec1621)は、頬を赤らめてセクシー魔女なレミーと狼耳騎士のフレッドに挨拶をする。
「交流の場に出るのにドレスは必須だよ? 今の内に慣れないと♪」
「ドレスは一億歩譲っていいとして、この獣耳は何なのだ? これは非装備でもいいだろう?」
 キッとフォーレを睨むルザリアの金髪の隙間から覗く狐耳は、彼女の動揺を表すかのようにぴょこぴょこと揺れている。
「わかってないなぁ。ソレが大事なんだってば」
「これがチャームポイントだとっ!?」 
「モードレッドにーちゃんに見せたいね。よく似合ってるよ♪」
「死んでも見せられん! またからかわれるに決まってる!」
 さらに真っ赤になりながら、ルザリアは脳裏に浮かんだモルの不敵な笑みと意地悪な台詞を必死で振り払う。
「丸めたお団子にな、こうして抹茶の粉を塗すねん。綺麗な色やろ♪」
「団子は白いものだとばかり思っていたが、美味そうだな」
「これ翠玉ゆーねん♪ 食べてみるか?」
 凪はほんわかと微笑むと、オリジナルの団子をフレッドに差し出す。
「いいのか? では遠慮なく‥‥」
 嬉しそうにそれを受け取り口に運ぼうとしたフレッドの動きがぴたりと止まる。
「‥‥おだんご‥‥あっぷるぱい?」
 キュッ♪ と可愛らしい足音を立てながら、涙目でうろうろしているまるごとウサギさんなラルフィリア・ラドリィ(eb5357)を発見したからだ。
「迷子なの‥‥お菓子、どこ?」
「ラルっ! 一人でどうしたんだ!?」
 フレッドは串に刺さった翠玉を持ったまま、大慌てでラルに駆け寄る。
「あ、フレッドみっけ‥‥お菓子‥‥あっぷるぱいどこ?」
「それならあっちにあるぞ。一緒に行こう」
 手を差し伸べるフレッドの腰にラルはぺちっとしがみ付き、翠玉を見つめて一言。
「その緑の‥‥よこせ?」
 ‥‥ラルさん、強気です。
「どんな味か知ってからラルに食べさせたかったのだが‥‥美味いか?」
「ん。おいし‥‥♪」
 翠玉を食べさせてもらったラルは顔を綻ばせた後、フレッドから離れて手を拱きしゃがむ様に促す。
「フレッド、ありがとーなのー♪」
 首に抱きついて笑顔でお礼を言うラルに、フレッドはだらしなく顔を綻ばせる。この男、可愛いものに滅法弱い。
「団子作りか‥‥懐かしいものだな。ちょっとやってみよう。なあ、フレイア‥‥」
 尾花満(ea5322)は妻のフレイア・ヴォルフ(ea6557)に声をかけるものの‥‥
「凪〜、随分と可愛いカッコをしてるじゃないか〜♪」
「なぁあぁ〜〜!?」
 肝心の妻は満をまるきり無視で、凪を後から抱きしめて頬擦りをしていた。
 ちなみにフレイアはセクシーメイドドレスにスカルフェイスと言う、セクシー&ホラーな仮装をしている。
「いらっしゃいませ、旦那様♪ お嬢様♪」
 彼女にメイドドレスを貸し出したレア・クラウス(eb8226)は、セクシーな兎耳メイドさんとして初心な男性や女性をからかって遊んでいた。
 恋人のマナウスがある計画の為に忙しいので、こうして時間を潰しているのだ。
「確かにこちらでは変わった格好かも知れぬが、そこまで他人の振りを決め込まずとも良かろうに‥‥」
 溜息を付く満は巨大な仮面に藁の蓑姿‥‥ジャパンでは『ナマハゲ』と呼ばれている奇抜な出で立ちであった。
「不慣れな者には教えるぞ‥‥この間だけは蓑脱いでおくか」
 それよりも不気味な巨大仮面を外した方がいいと思います。
「このお団子、美味しいにょのじゃ〜♪」
「ほっぺが落ちそうになるズラ♪」
 わんこの仮装をした鳳令明(eb3759)と子豚の着ぐるみを着たニセ・アンリィ(eb5734)は、怖がる事無くナマハゲ作のお団子をぱくついていた。
「ちょっと一休みしよかー。これ食べてな♪」
「うむ。忝い」
「まったりお月見もいいねぇ」
 凪から翠玉とお茶を受け取り、ルザリアとフォーレは月を見上げながら実家の話に花を咲かせるのだった。
「‥‥やはり一人だと何か物足りぬな」
 満は溜息の後、遠くで可愛い女性に悪戯三昧をしているフレイアに近づく。
「こんな所に悪い子がいたか」
「わ、悪い子じゃないぞ!? ってこら満〜〜」
「あっちに行くぞ。飲み直しだ」
 じたばたと暴れるフレイアをひょいと抱き上げる満。
「っ! ど、何処触ってる〜〜」
 真っ赤になったフレイアのどの部分に手が触れているか、それはご想像にお任せしよう。
 
 目の前に現れた未知のまるごとさんを、レミーはあんぐりと口を開けて見つめていた。
「これは『まるごとららでぃ』と申しますの。特別に頂いた物ですから、少々珍しいかもしれませんね」
 にっこりと微笑むエルシー・ケイ(ec5174)は、山盛りのお団子に気づく。
「これがお団子ですのね。では一口失礼して‥‥まあ♪」
 エルシーはお団子のその美味しさに頬を薔薇色に染める。
「美味しいです。いくらでも食べられそうで‥‥むぐっ!?」
『くえぇー!』
 お団子を喉に詰まらせた主人の背を巨鳥ディアトリマが蹴っ飛ばし、事無きを得るのはお約束である。
「あ、ありがとうございました‥‥えーと」
 エルシーは、ふとある事に気づく。
「この子にはまだ名前がありませんでした‥‥レミー様、宜しければこの子の名付けをお願いできませんでしょうか?」   
「そうですわねぇ‥‥ジャパンの鳥肉料理に因んで『焼き鳥』はいかがですか?」
『くえーっ!』
 断固反対とでも言う様な一鳴きが‥‥。
「冗談ですってば。『フィデリテ』なんて素敵でしょう?」
『くえー♪』
 ノルマン語で『誠実』や『忠実』と言う意味を持つ名前がお気に召したのか、ディアトリマはジッとエルシーを見つめる。
「本物のララディを見た事はございませんが、こんなに暖かいのですもの。見た目が多少怖くとも心優しいのでしょう」
 しかし主はぼけぼけな独り言を呟いていた。果たしてどちらの名になるのやら。
「お月見会の開催に人手が必要と聞きましたのに‥‥」
 姉カメリアの策略で狸耳にロングスカートメイドさんにされてしまったアイリス・リード(ec3876)は、身を縮めながらしょんぼりと呟く。
 しかし参加者達の様々な衣装や団欒を見ている内に、次第に楽しくなってきたのもまた事実。
「アイリスさん、こちらにいらっしゃいましたのね」
 そこに妖精の様な格好をしたアリシアが現れ、隣に腰を下ろす。
 暫し共に月を眺めた後、アイリスは瞳を閉じた。
「‥‥昔、頭の芯まで冴え渡る様で、ひっそりと月や星を眺めるのが好きでした。反面、恐ろしい『外』の象徴の様で陽はあまりに眩し過ぎたのです。それなのに、今は‥‥」
 瞳を空け、アイリスは傍らのアリシアを見つめる。
「不思議ですね、陽光そのものの様な方にこれ程までに惹かれているだなんて。ですがその輝きの届く所に居たい、と想ってしまうのです‥‥」
「そのお気持ちをお伝えはしないのですか?」
 アリシアの問いに頭を振り、アイリスは遠くで談笑するフレッドを見つめる。
(「何時からか‥‥日差しの眩しさに目を細め、その熱に喜びを見出す様になっていた‥‥」)
 そして偶然振り返ったフレッドの優しい笑顔に、胸を高鳴らせるのだった。
「ミカヤは月が好きかと思ってな。言っとくが、俺に友達が居ないからお前を連れて来たってわけじゃないぞ!」
「はぐはぐ‥‥」 
 ほろ酔い加減でツンデレるヴィタリー・チャイカ(ec5023)の隣で、食事に夢中なのはルームのミカヤ。
 変身をしているので美キザ男バージョンの彼は、ヴィタリーとお揃いのジャパンの武将の仮装をしていた。
「まあでも、最近ミカヤは依頼でよくやってくれてるよ。お前は争い事が嫌いなのに、無茶を頼んで悪いと思ってる」
「もぐも‥‥きゅぴーん☆」
「いつも叱ってばかりだが、実は結構感謝してるんだ。月見団子と満月をつまみに、今夜は一緒に飲むか‥‥って、ミカヤ!?」
「美少女発見っ♪」
 一方的に話していたヴィタリーは、ミカヤがふら〜っとアリシアの元へ行こうとしているのに気づく。
「こら、ミカヤ! あぁっ!」
 必死に止めようとするものの、着込んだ衣装の重さで引き摺られるのが精一杯のヴィタリー。
 しかしアリシアは急に立ち上がって何処かへ行ってしまった。
「いきなり呼び出してゴメンね。ビックリした?」
 執事姿で悪戯っぽく微笑むリース・フォード(ec4979)に、アリシアは微かに赤い顔で頭を振る。
 ──皆に見つからない様に‥‥内緒で会おうか。
 テレパシーリングを用いた誘いに、アリシアの胸は張り裂けそうなほど高鳴った。
「この間は、これ‥‥ありがとう。いつも身につけてる。いつもアリシアと一緒にいられる気がするから」
 リースが胸元から取り出したのは、アリシアが贈ったロイエル家の紋章の形をした首飾り。
「私こそ素敵な贈り物をありがとうございます‥‥」
 リースが贈ったピンクサファイアの首飾りにそっと触れ、アリシアは花の様な笑顔を見せる。
「皆に言われるんだ。ちゃんと意味を、籠められてるメッセージを分かってるのかって。俺は勝手な憶測で決めつけたくない」
 リースはアリシアにゆっくりと彼女に近づく。
「ねぇアリシア‥‥自惚れても、いいのかな?」
 その問いにアリシアは今にも泣きそうな顔になる。
 エルフと人間。
 違う時を歩む者の恋は遺される方に深い悲しみを齎すと気づいた時から、アリシアは密かにこの恋を諦めた方がいいのではないかと思う様になっていた。でも‥‥
「‥‥リィっ!」
 溢れ出る想いのままに飛び込んだ愛しい人の胸は、こんなにも温かい。
 俯くアリシアの金色の毛がさらりと揺れ‥‥それが肯定の様に見えた。
「今夜は‥‥この手を離さないでいてもよろしいでしょうか?」
 甘い囁きにアリシアは、静かに、だがはっきりと頷いた。
「お団子貰ってお月見だなんて幸せ‥‥あっ」
 まるごとウサギさんを着込み、頭を出してお気に入りのラビットバンドを装着したラティアナ・グレイヴァード(ec4311)の手から、突然お団子が転がり落ちる。
「‥‥しまった! ティーは月の光を見たら狂化するんだった!」
 お団子作りに追われていた兄ラディアス・グレイヴァード(ec4310)が駆け寄るものの、時既に遅し。
「あーあ、やっちまった。もう、良いや‥‥」
 投げ遣りに呟く声音は同じでも、口調はいつものラティとは正反対で荒々しい。
「レミーママ、俺は月の光を見ると狂化しちまうんだ。いつもの可愛いラティじゃなくて幻滅したか?」
 顔を背けたラティは、レミーの答えを待たずに次の言葉を紡ぐ。
「でもコレも含めて俺だ。もしこれで幻滅して子供にしたくないってんなら、その程度の覚悟でハーフエルフを養子になんて事言うんじゃねーよ!?」
 突っぱねる様な言葉と態度は、まるで怯えて威嚇する仔猫のよう。
「ティー‥‥」
 2人に駆け寄ったラディはレミーの答えを祈るに待った。
 僅かな沈黙の後、レミーはラティの体をぎゅっと抱きしめた。
「ラティを娘にするのに覚悟なんて要りませんわ。だってありのままのあなたを私は愛しているんですもの」
 1つ1つの言葉を噛み締めた後、ラティは涙でぐしゃぐしゃの顔で微笑んだ。
「ママ‥‥大好き!」
 妹の全てを受け入れるとレミーは口にしたが、それでもラディは不安を拭いきれなかった。
「‥‥本当に良いんですか?」
 恐る恐るそう尋ねるラディに、レミーは言葉ではなく優しい瞳で答える。
 それが彼女の本心だと感じたラディは、戸惑いつつもぺこりと頭を下げた。
「よろしくお願いします‥‥っ!?」
 レミーに突然抱き寄せられ、ラディは目を見張る。
「あなたも私の息子になってくれますよね?」
 その問いかけは強引で、今の自分はこの人を『母さん』とは未だ呼べないけれども。
 優しい匂いと胸の温かさを、親の愛に飢えていたラディは泣き出したいほど心地良く感じた。

●言葉の向こうの願い
 甘味大好きなモルにお団子を届けてあげようと、冒険者達は仮装姿で彼の屋敷を訪れていた。
「今宵、月の美しき夜に東洋の神秘の花を一輪お届けに参上‥‥我が名はファンタスティック・ノルマン!」
 ひんやりとした空気の向こうから現れたのは、男装姿にマントとマスクを着用したユリゼ・ファルアート(ea3502)。
 ユリゼは傍らの十二単と言う着物に身を包んだサクラ・フリューゲル(eb8317)の輪郭をそっと指で撫で、その手を恭しく取る。
「や、やっぱり私ではちょっと荷が重過ぎる気がしますが‥‥」
「とても良く似合ってる。お母様の血の導きね」
「‥‥今日一日は私はあなただけの姫‥‥朝が来るまでずっと一緒にいて下さいますか?」
「勿論。‥‥離さないよ?」
 頬を染める親友の耳元で甘く囁き、ユリゼはモルへと向き直る。
「甘味王子は花より甘味かしら? 因みにこの花は既に売約済みだけど」
 くすくすと笑い声を洩らしながら、ユリゼはモルの赤い髪に触れる。
「人のものに手を出す趣味はない。安心しろ」
 唇の端を上げて偉そうに言い放つモルの頭を、七神蒼汰(ea7244)は軽く小突く。
「ほらモル。旨そうな団子をお前の為に貰ってきたぞ。自宅謹慎とか聞いたけどコレでも食って元気出せよ」
 フレッドに頼んで分けてもらったお団子の包みを解くと、途端にモルの目が輝き始める。
「大変な時に力を貸してやれなかったしな。せめてもの罪滅ぼしだ」
「気にするな。お前にとって1番大事な事を成せばいい」
「‥‥そっか。ありがとな」
 お団子を頬張るモルの頭を、蒼汰は笑顔でわしゃわしゃと撫でた。
「それにしてもお前の仮装は酷いな」
「落ち武者らしいぜ。拒否したんだけどレミー殿に無理矢理、な」
 蒼汰が溜息を付いた瞬間、鎧に刺さっていた折れた矢が床にぽとりと落ちた。
「こっちのお団子も食べて下さい♪」
 まるごとウサギさんを着込んだカメリア・リード(ec2307)は、モルに手作りのお団子を差し出す。
「昔は月って、ひんやりに見えてちょっぴり苦手で‥‥でも、ぽかぽかではなくてもささやかに注ぐ光が本当に優しいって事に気づいてからは、とっても好きなのです」
 変わり始めた自分を少しくすぐったく感じながら、
「大好きですよぅ、モルさん」
 カメリアは心のままに、モルをぎゅっと抱きしめた。
「いつか貴方は大人になって、こんな風に出来なくなってしまう日はきっと、そう遠くないのですけど‥‥今はだけはちょっぴり構い過ぎでも許して下さい♪」
「わ、わかったから離せ!」
「その言葉、忘れちゃダメですよ?」
 カメリアは満足そうに微笑むと、モルの頭をぽふぽふと撫でた。
「この部屋からでも素敵な月が拝めますね。一曲演奏してもよろしいでしょうか?」
 2人のやりとりを微笑ましく見守っていたアルテス・リアレイ(ea5898)は、横笛を手にそう尋ねる。
「僕の耳は肥えているぞ? 下手な演奏だった場合、覚悟は出来てるな?」
「構いませんよ? ご満足して頂ける自信はありますから」
 兎耳に黒の正装、そして襟元を立てたマントを纏ったアルテスはにっこりと微笑んで横笛に唇を付け‥‥月夜に相応しい幻想的で優しい曲を奏で始める。
 心が洗われる様な音色に誰もがうっとりと耳を傾けていた。
「‥‥見事だな。愛らしい兎姿もまた良い」
「ありがとうございます。ですが兎は構ってくれないと寂しくて泣いちゃうんですよ? これからもよろしくお願いしますね」
「ふん。気が向いたらな」
 言葉とは裏腹の優しい瞳に、アルテスは少女と見まごうばかりの可憐な笑顔で応える。
「無茶は禁物よ。形は変わっても見えなくなっても 皆心配して側に居るんだから」
 モルにケーキと香草茶を手渡しながら、ユリゼがそっと囁けば。
 消え入りそうに微かな「ありがとう」がその耳に響いた。
(「絶望的な状況を嘆いているだけじゃ、何もできない‥‥そうはわかってても‥‥」)  
 ステラ・デュナミス(eb2099)は少し痩せたモルの頬に心を痛めながらも、せめて今だけは明るく接しようと自身に言い聞かせる。
「モードレッドさん♪ 私のお団子も食べてくれるかしら?」
「んぐっ!?」
 ミラージュコートの効果で姿を消してモルの背中から抱きつけば、予想とは違ってお団子を喉に詰まらせて驚くモルの姿が。
 悪戯の成功に声を上げて笑いながら背中を擦ってやると、顔だけ振り向いた彼の恨めしげな瞳と出会う。
「あなたがこう言うのが好きだと思って、露出度を高くしてみたの。どうかしら?」
 まるごとぎんこを改造したステラの格好は、耳、胸元、腰周り、手元と足元、そして尻尾だけを残し裁断したセクシーな狐娘。
「いいんじゃないか? 暖かいしな」
「素直なご褒美に食べさせてあげるわ。あーん♪」
「‥‥ちょっと待て。どうして団子が楕円形なんだ?」
「ぶ、不器用なんだから仕方ないでしょ! 文句を言わずに食べなさい」
 照れ隠しにお団子を2個3個と詰め込むと、モルの頬は栗鼠の様に膨れ上がる。
 そのあどけなさに微笑みながら、ステラは素直に甘えたり弱音を吐いたりしないモルを歯痒く感じていた。
 しかし甘味を食べて過ごす皆との楽しい時間が終わりに差しかかった時。
「今日はありがとな。お前達に頼みがある」
 モルは全員の顔を見つめ、静かに口を開く。 
「僕が道を違えたら、その時は遠慮するな」
 それは悲しい予感を孕んだ切なる願いだった。

●これぞキャメのお月見なり!
 一方、夜の闇が濃くなった原っぱで、魔の計画執行のカウントダウンが始まる────。
 そんな事は露知らず、仲良くお月見を楽しむカップルが1組。
「この兎団子、可愛いだけじゃなくてめちゃくちゃ美味い! ありがとな、マール!」
 大喜びのアゼルに頭を優しく撫でられたマール・コンバラリア(ec4461)は、突然これが恋人になってから初デートだと気づいてしまった。
 途端にその頬は薔薇色に染まる。
「でも、マールの方が何百倍も可愛いからな?」
 もっと可愛い仮装にすれば良かったと言うマールの不安は、いつもと変わらない褒め言葉に霧散する。
 子猫のミトンにねこさんキャップ、鈴のチョーカーを身につけたマールが纏うのは猫柄の浴衣。しかも二股尻尾で猫股風だ。
「あ、ありがとう‥‥アゼルだってカッコイイわよ?」
 狼耳と尻尾なのに何故かマントは吸血鬼風と言うミスマッチには目を瞑り、マールも素直な感想を口にする。
「へへっ、マールにそう言ってもらえると嬉しいな」
 赤い顔を誤魔化す為に月を見上げたマールは、頬を撫でる夜風に華奢な体を震わせる。
 浴衣姿では秋の夜は肌寒く、気づけば傍らのアゼルにぴったりと寄り添っていた。
「‥‥寒い?」
「ご、ごめんなさいっ!」
 慌てて離れようとするマールだが、ぐいっとアゼルに抱き寄せられる。
「風邪ひいたら大変だぞ。それにほら‥‥こうすれば暖かいだろ?」
「う、うん‥‥」
 アゼルのマントの中に引き込まれ、マールは真っ赤な顔でぎくしゃくと逞しい肩に頭を預けるのだった。
「わーい♪ ふかふか〜〜」
 まるごときたりすを着たルイスの尻尾に跨り、まるごとろうそく姿のミリア・タッフタート(ec4163)は上機嫌だ。
「月より団子だよ〜♪ 目指すは全種類制覇! どんな味かなぁ?」
「ミリアさん! その格好で走ったら危ないですよ!」
 食欲全開でお団子に駆け寄る想い人を必死で追ってしまうのは、惚れた弱みに他ならない。
「ケルとコルが1番美味しかったのは、ルイスさんのお団子だって〜! 一緒だね♪」
 嬉しそうに抱きつくミリアを受け止めながら、ルイスは今更ながらこの恋の長期戦を覚悟するのだった。
 しかしこれはこれでいい感じなのだと、本人達は気づかないもので。
「‥‥聞こえる聞こえる‥‥愛と言う名のお砂糖の流れる音が‥‥愛を囁く甘い吐息が‥‥だって兎の耳は長いんだもん☆」
 その様子を高い所から見つめていた陸堂明士郎(eb0712)は謎の口上の後、空中で回転しながら2人の元へと舞い降りた。
「あ、あなたは誰ですかっ!?」
 まるごとウサギさんを着込み桃色の兎のお面を装着した不審人物に、ルイスはミリアを背に庇いながら尋ねる。
「私は愛とお砂糖の守護神、兎耳大明神。愛と砂糖のある所に現れる通りすがりのウサギさんさ♪」
「あっ、兎大明神だ〜〜! 恋愛に効くんだって♪ ルイスさん、家庭的な人と出会えますようにってお願いする?」
「いえ、結構です‥‥はははは」
 無邪気で残酷なミリアの一言に、ルイスはがっくりと項垂れる。
「ふふっ、私の事は気軽にジョニーと呼んでく‥‥」
「陸堂殿ですよね?」
 兎耳大明神の浮かれ気分を悪気なく粉砕するのは、天使の仮装をし腕にはシムルのアウローラを乗せたシルヴィア・クロスロード(eb3671)だ。
「い、いやっ! 私はあなたの知る明たんでは決してな‥‥」
「なぜ兎の格好を?」
「‥‥すみません。はっちゃけ過ぎました」
 シルヴィア、恐るべし!
「こ、こうなったら兎踊りしちゃうもんね! これぞジャパン流お月見の極意なんだからっ!」
 自棄っぱちな明士郎はぴょんと飛び跳ね、彼曰く『桃色兎くおりてぃー』な兎踊りを披露し始める。
「可愛い踊りだね〜♪」
 今にも一緒に踊りそうなミリアをジッと見つめ、ルイスは意を決して口を開く。
「‥‥ミリアさん。赤い髪でポニーテールの明るく元気な女性が私のタイプです」
 ほぼ告白の様な台詞にミリアはきょとんと首を傾げ‥‥
「そっかぁ。早くそんな人と出会えるといいね♪」
 それはそれは無邪気な顔で微笑むのだった。
「月の光は柔らかで、清浄な感じがしますね。まるで光の粒が降り注いでいるみたいです」
 ルイスが精神に瀕死級ダメージを負っている隣で、シルヴィアはアウローラを撫でる手を止めて微笑む。
「月の光を浴びながら、精霊がする様に素足で踊りましょう。あなたも一緒にですよ」
『なー♪』
 やがて踊り出す1人と1匹に、近くを通りかかった者達は言葉もなく見惚れていた。
(「‥‥あの人も、同じ月を見ているでしょうか?」) 
 ふと脳裏に浮かぶのは凛々しい想い人。
「貴方に会いたい‥‥」
 シルヴィアの切ない呟きは、淡い月の光に吸い込まれていった。   

 そして時は満ちる‥‥。
「原っぱは広いと思ったのですが、出会ってしまうものなんですね‥‥」
 知り合いのマールやミリアに恥ずかしいから見つかりたくないと思っていたヒルケイプ・リーツ(ec1007)は、真っ赤な顔でスリーピングビューティーの裾を握り締めた。
「やっぱりヒルケには兎耳が似合うな。可愛い」
 所在なさげに揺れる兎耳を見つめ、キルシェは優しい顔で微笑む。
「折角だし、俺も今から仮装をしてみる。何がいい?」
「ホ、ホントですか? じゃあ‥‥」
「ふっふっふっ‥‥一足遅かったな」
 リクエストを告げようとしたヒルケは、狼男に扮したマナウス・ドラッケン(ea0021)の出現にびくっと体を振るわせる。
「何だ、お前達は‥‥」
「ふはははっははは! こんな時期だからこそ楽しまねばならぬのだ!」
 ヒルケを抱き寄せるキルシェの問いには答えず、吸血鬼姿のヤングヴラド・ツェペシュ(ea1274)は高笑いを上げる。
「仮装をしていないお兄さん。ちょっとこっちに来てもらおうか」
「は、離せっ!」
「強制仮装なのだ〜。さあ、思いっきりアレな仮装にしてやるのだ!」 
「キルシェさんっ!」
 ヒルケから引き離されたキルシェは、マナウスとヴラドにずるずると引き摺られていく。
 こうして彼は魔の強制仮装行人ペアの第1の犠牲者となった。
「やはり変態紳士の国。奴等の「ヤらないか」と言う欲望まみれの視線を思い出すだけで寒気が‥‥ん?」
 オルステッド・ブライオン(ea2449)ソレとは違うギラつく視線を感じ、空になったカップを放り投げる。
「‥‥フッ、貴様ら少しは殺気を隠した方がいいぞ。何者だ? 新たな変態組織か?」
「否! 我等は変態組織にあらず!」
「では噂の乙女道とか名乗る新たな型の変態か?」
「否! 我等は強制仮装執行人!」
 月を背に現れた2人組は手をワキワキさせながら近づいてくる!
「な、何をっ! うわやめっ‥‥」
 オルステッド、堕ちたり!
「久々に故郷で見る月は、青く冴え渡り気持ちが良いですな」
「ケイ殿の帰還記念ですよ。ささ、ぐぐっとどうぞ」
 持参したノルマンの特産ワインを友であるケイ・ロードライト(ea2499)に振る舞うのはエルディン・アトワイト(ec0290)。
 しかしネタで結ばれた親友同士、その手の匂いをぷんぷんと発しているわけで‥‥
「お2人様、ご案内〜!」
「ターゲット捕獲なのだ〜!」
 強制仮装執行人達は2人を羽交い絞めにし、近くにある『強制仮装テント』へと引き摺り込む。
「何をす‥‥がくっ」
「あああ! ケイ殿ぉ〜〜!!」
 まるで引き裂かれる恋人の様に、気絶したケイに手を伸ばすエルディン。そして‥‥
「ぎゃぁぁぁ、何をする気ですかー! ちょっ! 変なところ触らないで下さいー!」
 まるで断末魔の様な叫びが夜空に響き渡った。
(「あの凄惨な混乱が嘘の様だ。日常の中では忘れがちな当たり前の尊さを‥‥こうして暢気に笑える事が、身に沁みて有り難いと思う」)
 キャメロット防衛に尽力したラルフェン・シュスト(ec3546)は、楽しそうな皆の様子に淡い笑みを零す。
 そんな彼も妹リュシエンナ・シュスト(ec5115)のリクエストにより狼耳執事の仮装に扮していた。
 家族サービスとは建前、単に食べ物に釣られたとは口が裂けても言えない男心。
「うふふ☆ まるごとさんもいいけど、執事姿がすごく似合ってますねっ♪」
 メイドドレス風ミニ丈の衣装に赤い頭巾を被り犬耳と尻尾を着けたリュシエンナは、自らの欲望が満たせてご満悦の様だ。
「全く、女の子は仮装が好きだよな」
 碧い石と鳥の羽根があしらわれた首飾りを弄びながら、ラルフェンは贈り主である恋人の顔を思い浮かべる。
 会いたいと言う気持ちが彼女との未来予想図へと発展し、上の空でお団子を口に運ぶ彼は自身に迫る危機に気づかなかった。
「お嬢さん、ちょいとお兄様をお借りしてもよろしいでしょうか?」
「どうぞどうぞ、お好きにいじちゃって下さい☆」
 ‥‥よもや実の妹にあっさりと売られる事になろうとは!
「な、何だっ!?」
 酔いが回ったラルフェンは抵抗も出来ずに、成す術もなく連行されていくのだった。‥‥ちゃんと仮装をしてたのに。
 その頃、急遽設置された舞台の裏ではエルディンが真っ赤な顔でワナワナと震えていた。
「な、何と言う羞恥プレイっ!」
 彼が身に纏っているのは、あろう事か超ミニ丈のフリフリメイド服。
「しかし何かに目覚めそうな快感が‥‥はっ! 神よ、罪深き私をお許し下さぃぃ」
 体中に広がるイケナイ感覚を振り払い、エルディンは祈りを捧げる。
「‥‥エルディン殿? 何やらステキ衣装を着ているのですな?」
「おお、気付かれま‥‥あはははは! 今度依頼をご一緒できたら、鎧じゃなくてそれを着て来て下さいよ〜!」 
 フリルてんこ盛りの甘いピンク色のヘソ出しメイド姿のケイに、エルディンはお腹を抱えて笑い出した。
「‥‥よろしい。受けて立ちましょう」
「へっ?」
「宴席を盛上げずキャメを退くはパリッ子末代までの恥っ! 突撃ですぞぉ!」
 おもしろ魂に火が点いてしまったケイは、エルディンを抱えて舞台へと飛び出す。
「舞を欲せられるなら、ジプシー以上の舞を舞うまでぇっ!!」
「わ、私まで巻き込まないで‥‥あーーっ!!」
 ふわりとスカートの裾が捲れる度に、会場からは悲鳴と怒声が響き渡る。
「お前達もお客様にサービスしたらどうだ?」
 強制仮装大会の司会を務めるマナウスことマナウルフは、舞台上の3人をニヤニヤと見つめる。
「誰がやるかっ!」
「‥‥勘弁してくれ」
「足元がスースーする。腹を壊しそうだ」
 魂の抜けかかった顔のオルステッドとラルフェンの隣で、キルシェはスカートを摘み上げ首を傾げる。
「はっはっは! 実に愉快ですぞ〜!!」
 ヒートアップしたケイがやがては3人を巻き込み、舞台上だけでなく原っぱ中が阿鼻叫喚に包まれたそうな‥‥。

 皆の和から外れていじけるラルフェンに、リュシエンナは手作りの雪だるま型お団子・フルーツジャム添えを手渡す。
「お疲れ様です♪ パリに帰ったら3人でまたお月見しましょうね?」
「‥‥女装はしないからな」
 傷心のラルフェンはそう呟き、黙々と甘味を食べ続けるのだった。
「お疲れ様。これでも如何ですか、旦那様?」 
 レアはマナウスにワインを手渡す。
「ありがとう。どんなに走り回っても、最後に戻る場所は此処なんだよ」
 それをくいっと飲み干し、マナウスはレアを抱き上げた。
「狼は情の深い生き物なんだぜ? 愛するものとは離れないからな」 
「あら、光栄ね。でも簡単に食べられる訳には行かないわよ?」
 逞しい腕の中でレアは蟲惑的に微笑んだ。
「何だかバタバタしてしまいましたけど、2人だから楽しかった‥‥ですよね?」
 ヒルケがそう尋ねると、キルシェは笑顔で頷く。
「だが夜はこれからだ。2人きりでゆっくり過ごさないか?」
 掠める様におでこにキスを落とされ、今度はヒルケが真っ赤な顔で頷く番だった。
 夜が明けるまでお月見は続き、参加者達の胸に刻まれた思い出は楽しいものとなった────筈である。