【儚き双珠】幸せのカタチ

■ショートシナリオ


担当:綾海ルナ

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 71 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:10月01日〜10月07日

リプレイ公開日:2009年10月09日

●オープニング

 両手で包み込む様にして持っているカップから立ち上るのは、仄かに甘くて優しい香り。
「秋ってロマンチックな季節だな‥‥」
 色づいた落ち葉がはらはらと舞い落ちるのを眺めながら、シルフィはホットミルクを口に含む。
 しかしそんな乙女の感傷タイムを邪魔するかの様に、窓から煙と共に香ばしい香りが漂ってきた。
「シルフィー、魚が焼けたぞー」
「今が食べ頃だぜー」
 呑気な姉シエラと友人アゼルの声に溜息を付きつつ、シルフィは川魚を焼いてご満悦の2人の元へと向かった。
「ほら、これが1番でかいぞ。美味そうだろ?」
「‥‥精を付けろ。もぐもぐ」
 串に刺さった魚を勧めてくるシエラの隣で、友人であるキルシェは既に魚を食べ始めていたり。
「秋は食い物が美味いって言うけどホントだよな。デザートに焼き菓子も買ってきたぜ♪」
 シフールのアゼルは自分の身の丈程もある魚に齧り付きながら、嬉しそうにお菓子の入った包みを見つめている。
(「アゼルさんもキルシェさんもやっと想いが実ったって言うのに、相変わらず食い気ばっかりなんだから‥‥お姉ちゃんが1番酷いけれど」)
 両手に焼き魚を持ち、二刀流よろしくで一心不乱で魚を貪る姉が、レオンの様な渋カッコいい男性に想いを寄せられているとは、到底信じられないシルフィであった。
「そう言えばさっきまでデザイン画を纏めてたな?」
「うん。前に皆に出してもらったアイディアを元に描いたデザインを、これから作ってみようと思って」
 シエラの問いにシルフィはこくんと頷く。
 それは『幸せ』をテーマにした小物達。
 冒険者の皆が出してくれたデザインは個性的ながらも愛らしいものばかりで、何よりもシルフィが願う『手にした人が幸せになる優しいデザイン』ばかりだった。
「またギルドで仲間を募集して、わいわい騒ぎながら小物を作ったら楽しそうだよな。勿論、俺達も手伝うぜ」
「ペット大集合のデッサン会もしてみたいな‥‥」
 既に楽しそうなアゼルとキルシェに、シルフィは笑顔で頷いた。
「私もそうしたいなって思って、実は依頼書を作成済みなんです。今、持ってきますね♪」
 嬉しそうに再び小屋へと戻るシルフィの後姿が見えなくなった後、シエラはぽつりと呟く。
「あとはギルドに出すだけか‥‥」
 シエラとキルシェの視線が魚を頬張るアゼルに集まる。そして‥‥
「「アゼル、行って来い」」
 見事にハモる命令。
 アゼルは魚を飲み込んだ後、眉を吊り上げて2人を睨みつける。
「何回も言ってっけど、俺はシフール飛脚じゃねぇっ!」
「御託はいい。取り合えず行って来い」
「帰りに‥‥あの店の秋季限定パイを買ってきてくれ」
 全く人の話を聞いていないシエラとキルシェに、しくしくと力なく項垂れるアゼルだった。
「きのこシチューが出来ましたよー♪」
 そこにルイスが大きな鍋をほくほく顔で運んでくる。
「あれ? どうしたんですか、アゼルさん?」
「‥‥放っておいてくれ。俺は今、シフールである事を悔やんでるんだ」
 早速シチューをがっつく2人を横目で見つつ、アゼルはどんよりとした長い溜息を付く。
「何があったかは敢て聞きませんが‥‥もうすぐ職人に頼んでいたものが完成するんでしょう? そんな暗い顔をしてちゃダメですよ」
 心の中で『私の遥か先を行っているくせに‥‥』と呟きながら、ルイスはアゼルの肩をぽんと叩く。
「‥‥そっか。そうだよな。喜ぶ顔を想像してたらわくわくしてきたぜ。アイツも同じ気持ちだろうな」
 アゼルは自分と同じ職人にあるものを依頼していた時のキルシェの真剣な顔を思い出し、顔を綻ばせる。
「ところで、サプライズお誕生パーティー計画はキルシェさんにバレてないですよね?」
「もちろん。て言うかアイツは自分の誕生日が過ぎた事に気づいてない。間違いねぇ」
 こっそりと耳打ちをするルイスに、アゼルは力強く頷きながら残念な真実を告げる。
「お待たせしました。皆で作った小物を近くの村に販売しに行けたらなって思って、それも付け加えてみたのですが‥‥」
 戻ってきたシルフィが手にする依頼書を覗き込む皆の顔は、楽しい一時が過ごせる予感に誰ともなく笑顔になっていく。
 こうして『幸せの小物』作りと販売、そしてキルシェのサプライズ誕生パーティーを盛り込んだ依頼書が、アゼルによってギルドに運ばれたのだった。

●今回の参加者

 ec1007 ヒルケイプ・リーツ(26歳・♀・レンジャー・人間・フランク王国)
 ec4163 ミリア・タッフタート(24歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ec4318 ミシェル・コクトー(23歳・♀・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ec4461 マール・コンバラリア(22歳・♀・ウィザード・シフール・イギリス王国)

●リプレイ本文

●幸せのお裾分け
 キャメロットで材料を大量に買い込んだ4人の乙女達は、意気揚々と姉妹の住む村に到着した。
「シルフィさんデザインの小物達が並んだお店が、やっと形になるんですね♪」
 連れて来たペットのボルゾイとペンギンの形にフェルトを切りながら、ヒルケイプ・リーツ(ec1007)は傍らでスケッチをしているキルシェに微笑む。
「‥‥ああ。今回は移動販売だが、評判が良ければいずれ店を持つ事になるだろうな」
「シルフィさんの小物がイギリス中の人に愛される様になれば、私も嬉しいですっ」
「ヒルケは優しいな‥‥」
 キルシェは優しい顔でヒルケの頭を撫でる。
 微かに頬を染めるヒルケは、ふと目に映ったキルシェのスケッチ画に瞳を細めて微笑んだ。
「これは猫さんの親子ですね。仔猫がお母さん猫にぴったりと寄り添っていて‥‥とても可愛いです」
「男女の愛だけが幸せの形じゃないだろう? このデザインの小物を親子で持っていてくれたらと思ったんだ」
「じゃあ、私のは赤ちゃんの誕生を待つご夫婦用にします♪」
 切り終えたフェルトは寄り添うペンギンの夫婦。しかもお母さんペンギンはお腹の下に卵を抱えている。
「お互いに家族向けだから、ハンカチーフや帽子にしてみるか?」
「わぁ、素敵ですねぇ♪ お子さん用限定で、猫さんとペンギンさんの顔の形をした帽子だなんて可愛くないですか?」
「それもいいな。デザインはこんな感じでどうだ?」
 キルシェがさっと書き上げた可愛らしいラフ画を見つめ、ヒルケはきらきらとした瞳で頬を薔薇色に染めるのだった。
「お店♪ お店〜♪ お客さんがたくさん来てくれるといいね〜」
 上機嫌のミリア・タッフタート(ec4163)は、鼻歌を歌いながら七色の紐を虹の様に編んでいく。
「前に聞かせて下さった夏祭りの屋台も大成功だったみたいですし、今回もきっと大丈夫ですよ」
 ミリアが編みやすい様に紐を同じ長さに切り揃えながら、ルイスは温和な顔で微笑んだ。
「うん、あの時は本当に楽しかったんだよ。皆で浴衣を着たんだー♪」
「ミリアさんもですか? それは見たかったな‥‥」
「ルイスさんが見たいならいつでも着てあげるよ? そうだ、浴衣姿で一緒に売り子さんしようか?」
「い、いいんですか?」
 突然舞い降りた幸福に胸を高鳴らせるルイスに、ミリアは無邪気な笑顔で頷く。
「その代わり頑張って小物を作ってね♪ 虹色の他にストライプ柄とお星様柄もあったらステキだよね♪」
「勿論っ! これでも手先の器用さには自信があるんです」
 どん、と胸を叩いた後、ルイスは目にも留まらぬ速さで紐を編み上げていく。
 この『ご主人様大好き的なわんこ属性』は、アゼルと通じる所がある。最もルイスはのんびりとした大型犬のイメージだが‥‥。
「わぁ、ルイスさんすごーい! ご褒美にミリアがルイスさんの為に1つ作ってあげるね♪」
「本当ですか? 頂けるのなら、家宝にしま‥‥」
「前に言ってた好みの女の人と早くで会えるますように、ってお願いしながら編むよー」
 正に飴と鞭。
 天国から地獄へと言わんばかりの突き落としっぷりに、ルイスは心の中で今日も男泣きするのであった。
「菫の花言葉は『愛・誠実・小さな幸せ』なのよ」
 丁寧に菫の花を模ったコサージュを作りながら説明するマール・コンバラリア(ec4461)を、アゼルは尊敬の眼差しで見つめる。
「マールって物知りだよなぁ。ええと、薔薇は『愛・尊敬・温かい心』か。なるほどな‥‥」
「でも色によって花言葉が違うの。黄色い薔薇は『嫉妬』だから、モチーフにしない方がいいと思うわ」
「後ろ向きな意味の花言葉もあるんだな。でも、マールから黄色い薔薇を贈られたら嬉しいかも。愛されてるって感じがしてさ」
 そう言い悪戯っ子みたいな顔で微笑むアゼルに、マールはほんのりと頬を上気させる。
「ば、馬鹿な事を言ってないで手を動かしなさいっ! さっきからあまり進んでないでしょ?」
 仕上がったコサージュを箱にしまい、今度は髪飾りの準備をし始めるマール。
 彼女を見つめるアゼルの顔は『照れちゃって可愛いなぁ』と言わんばかりに緩みきっていた。
「ええと、ワスレナグサは『真実の愛・私を忘れないで』か‥‥」
 しかしワスレナグサの2つめの花言葉を読み上げた瞬間、その顔は見る見る内に曇っていく。
「‥‥どうしたの? そんなにキツく叱ったつもりは無いんだけど‥‥」
 心配になってアゼルの顔を覗き込んだマールは、次の瞬間にぎゅっと抱きしめられる。
「きゃっ! な、何するのよ!?」
「マール、俺の事をどうか忘れないでくれっ!」
 その言葉を聞いた瞬間、マールの胸はツキンと痛む。
(「それってどう言う意味? 私を置いて先に死んじゃうかもしれないって事なら、そんなのは嫌よ‥‥」)
 喪失の恐怖に怯えるマールは、アゼルの真意を確かめようと彼の瞳を見つめた。
 そして拗ねたように悲しそうな瞳と出会い、戸惑う。
「マール、結婚して子供が産まれても、俺の事を蔑ろにしないって約束してくれるか?」
「‥‥えっ?」
「亭主元気で留守がいい、とか言われるようになったら、生きていけねぇよ、俺‥‥」
「そう言う意味だったのね、良かっ‥‥け、結婚? 子供っ!?」
 ホッと胸を撫で下ろしたのも束の間、今度は顔を真っ赤にさせ大慌てするマールだった。
「らぶらぶですわねぇ。はぁ‥‥」
 幸せそうな親友3人を祝福するミシェル・コクトー(ec4318)の気持ちに嘘はない。
 だけれども、寂しいと思う気持ちもまた事実な訳で‥‥。
「シルフィ、抱きしめて良い?」
「えっ? は、はい」
「ありがとうございますわ‥‥」
 突然の申し出に吃驚しつつも承諾したシルフィを、ミシェルはぎゅっと抱きしめた。
 伝わる温もりと柔らかな抱き心地に、寂しがり屋な心は少しずつ癒されていく。
「‥‥実は私、もういっそ巡礼の旅に出ようかと思ってましたの」
「もしかしてフレッドさんと何かありました?」
「さすがシルフィ。シエラさんと違って鋭いですわね‥‥」
 物憂げな溜息をつくミシェルの頭を、シルフィはあやす様に優しく撫でる。
「実はね、ミシェルさんが元気ないねって皆さんと一緒に心配してたんです。1人で抱え込むのは良くないですよ? 私達で良ければいつでもお話を聞きますから‥‥ね?」
「‥‥シルフィ〜〜」
 ミシェルはシルフィを抱きしめる腕に力を込めると、ぐすっと鼻を鳴らす。
 皆の優しさに感謝しながら、ミシェルは気持ちが落ち着くまでシルフィを抱きしめていた。いつの間にか、抱きしめられる形になっていたりするのだけれども。
「大丈夫、ミシェルさんはちょっぴりお料理が苦手かもしれませんけど、それ以上に素敵な所がいっぱいある魅力的な女性ですから。この腕輪と首飾りだって、とっても綺麗に出来てますよ」
 体を離したミシェルの手を握り、シルフィは彼女が一生懸命作っていた小物達に視線を移す。
 祈り紐に水鳥の羽と色取り取りの石を通したそれらは、インドゥーラ風の斬新なデザインだった。
「ふふっ。淑女の嗜みとしてこれくらいはね♪」
 目尻に残っていた涙をそっと指で拭い、ミシェルはいつもの自信に満ちた笑顔を見せる。
 そして心の中で、自らの悩みを親友達に打ち明けようと決意するのだった。
「シルフィちゃん、無理はしないでね? きりのいい所で休まなきゃダメよ?」   
「ありがとうございます。ついつい夢中になっちゃって‥‥」
 温かいハーブティーをマールから受け取り、シルフィは照れ臭そうに微笑む。
 そんな2人を遠くから見つめながら、シエラとアゼルはこそこそと密談をしていた。
「‥‥イメージとちょっと違うけど、大丈夫だよな?」
「ああ、妖精に見えるし‥‥多分」
 冷や汗の浮かぶ顔で見つめ合った後、2人は自らの作品を箱の奥深くに忍ばせるのだった‥‥。

●あなたの元に幸せを
 2日間の小物製作を終えた一同は、姉妹の村から少し離れた場所のとある村を訪れていた。
 そして早速、販売開始である。
「ペットモチーフの帽子とハンカチーフはこちらでーす! 興味を持たれた方はぜひ手に取って見て下さいねー!」
「親子や夫婦向けだが、それ以外の人も気に入ったら買ってくれ」
 ヒルケとキルシェが担当するのはボルゾイ、ペンギン、猫をモチーフにした帽子とハンカチーフ。
「お花の形をしたコサージュと髪飾りが欲しい人はこっちよ。慌てなくてもなくならないから順番は守ってね」
「それぞれの花言葉が知りたかったら、この看板を見てくれなー」
 マールとアゼルが販売するのは、幸せに相応しい花言葉を持つ菫、薔薇、ワスレナグサを模したコサージュや髪飾り。
「一風変わったインドゥーラ風の腕輪と首飾りはいかが? 人とを同じ物は持ちたくない個性派な方にぴったりでしてよ♪」
「そのお隣ではハートモチーフのアクセサリーを販売させて頂きます。首飾りと耳飾りのセットもありますよ」
 ローレライの鈴を鳴らし楽し気なメロディーを口ずさむミシェルが宣伝するのは、水鳥の羽が揺れ色鮮やかな石が煌く腕輪。
 彼女の隣でシルフィがお勧めしているのは、ハートモチーフの控えめだが可愛らしいデザインのアクセサリー達。
「虹色の腕輪が欲しい人は、この指とーまれっ! 数量限定だから早い者勝ちだよー♪」
「こちらの2種類は各色多めに取り揃えてありますよ。ご家族やお友達とお揃いでいかがですか?」
 ミリアとルイスが異なる売り文句で販売するのは、7色の紐で編んだ虹色の腕輪と、たくさんのカラーバリエーションを用意したストライプ柄と星柄の腕輪。
「アゼルの奴、あっちに行きやがったか。コレをあたし1人でどう捌けと‥‥」 
 何故か頭を抱えるシエラが持っている籠の中には、アゼルと一緒に作った妖精さんモチーフのお守りが大量に詰め込まれている。
 シエラの苦悩はさておき、一同が想いを込めて手作りした小物達は飛ぶ様に売れていった。
「こんなにたくさんの人に喜んでもらえるだなんて、夢みたいです‥‥」 
「どれも大好評みたいね。ずーっと大事に使いたいって、お客さんの皆が言っていたわよ♪」
 ここでもシルフィを気遣い休憩を取らせながら、マールはお客さんの反応を笑顔で告げる。
「お姉ちゃんとアゼルさんにお任せした、妖精さんモチーフのお守りはどうでしょうね?」
 シルフィの言葉の十数分後。
 村の外れでしょんぼりと正座をさせられるシエラとアゼルの姿があった。
「‥‥なっ、何これっ!? こんなの妖精さんじゃないわっ!」
 おそるおそるマールが手に取ったお守りに刺繍されていたのは、何故か赤い顔に金色の目の異生物。
 邪悪な笑みを浮かべるそれの背に映えているのは、歪んだ蝙蝠の様な黒い羽根‥‥妖精さんと言うよりデビルそのものだ。
「ちゃんとお手本は渡したわよね? どこをどうやったらこんなに酷くなるのよ!」
「いや、普通じゃつまんねぇと思って色で個性を出してみたんだけどさ‥‥」
「明らかに配色がおかしいでしょ!」
 マールがアゼルの余計な試みを叱咤すれば、
「お姉ちゃん! なんで優しい微笑みがこんなになっちゃうの?」
「ちゃんと手本通りにやったんだぞ! わざとじゃない!」
「じゃあこの蝙蝠みたいな羽根は?」
「‥‥上手く出来なくてカッとなってやった。後悔は滅茶苦茶してる」
「やっぱりわざとじゃない!」
 シルフィは涙目でダメ姉を睨みつける。
「「本当にゴメンなさい。もうしません」」
 声をハモらせて謝るシエラとアゼルに、2人は深い溜息をつく。
 そしてこの失敗作をどうしようかと途方に暮れていたのだが、そこを偶然通りかかった村人にどう言う訳か偉くそのお守りが気に入られてしまい‥‥。
 それを見ていた人々が興味本位で近づいてきて、口々に「デビルを遠ざける程の不細工さだ」だの「この邪悪さが逆に魔除けになるに違いない」と騒ぎ立てられ、いつの間にか完売してしまうのだった。
 翌朝、一同は空になった籠を手に笑顔で村を後にした。

●ダブルサプライズ 
 依頼で遠方に出かけているレオンは、キルシェのサプライズお誕生パーティーにも姿を見せなかった。
 会えない寂しさを誤魔化そうと張り切ってパーティー準備に取り掛かるシエラを、気づかれない様に優しく見守る乙女達であった。
(「シエラさん、寂しそうだな。レオンさんとの仲がどうなったか聞こうって思ってたけど、止めた方が良さそうだよね」)
 ミリアは自らの好奇心を抑え、シエラの背中に『元気出してね』の思いを込めて抱きつくのだった。
 その頃、本日の主役のキルシェを外に連れ出したヒルケは、赤い顔で傍らにある端正な横顔を見つめる。
(「皆さんがせっかくお気を回して下さったんですもの、それを無駄にしてはいけませんよね‥‥」)
 そっと後手に隠した包みに触れ、ヒルケはもう片方の手でドキドキと高鳴る自らの胸を押さえた。
 包みの中にあるのはキルシェへの誕生にプレゼント。
 先に渡してしまえばこの後にパーティーが控えているとは思わないだろうから、サプライズの効果も増す筈‥‥と言う乙女達のアドバイスを受け、2人きりの時に渡す事にしたのだった。
「キルシェさん‥‥」
「どうした?」
 震える声で名を呼べば、優しい声音とそれに負けないくらいの笑顔で恋人は振り向いた。
「遅くなってしまいましたけど、お誕生日おめでとうございます。それで、あの‥‥これ、私からのプレゼントです。受け取って頂けますか?」
 ぎゅっと目を瞑って包みを押し付ける様に差し出せば、暫しの間を置いてそれはヒルケの手から離れていく。
「俺も自分の誕生日が過ぎた事をすっかり忘れていた。だから謝らなくていい。ありがとな‥‥」
 ‥‥いつぞやのアゼルの予感は見事に的中していた様だ。
 それはさておき、キルシェは嬉しそうな顔で包みを紐解き始める。
 丁寧に折り畳まれたマントofディープブルーと七なる誓いの短剣+2を瞳を細めて眺めた後、キルシェはゆっくりと立ち上がった。
「早速だが身に着けてみてもいいか?」
「は、はい。お手伝いしますね」
 七なる誓いの短剣+2を腰に差すキルシェに、ヒルケはマントofディープブルーを羽織らせる。
「どちらもすごくお似合いですよ。素敵です」
「俺もすごく気に入った‥‥素晴らしいプレゼントをありがとう、ヒルケ」
「喜んでもらえて私も嬉しいです‥‥きゃっ!?」
 安堵の笑みを浮かべたヒルケは次の瞬間、翻るマントの中に包み込まれ苦しくなるほど強く抱きしめられる。
 しかしその抱擁はほんの一瞬で、呆気なく解放されてしまう。
 戸惑うヒルケの左手を取り、キルシェは恭しくその手の甲に唇を落とした。
「ずっと渡したいと思っていた物が、やっと完成したんだ」
「えっ? これって‥‥」
 自らの左手の薬指に嵌められたアイオライトが光る────キルシェが『可憐なる菫の花』と名づけた指輪を、ヒルケは信じられない思いで見つめる。
「俺と結婚してくれ。必ず幸せにする」
 熱っぽい瞳で告げられるプロポーズの言葉にヒルケの顔は薔薇色に染まっていき、やがては恥ずかしそうにこくりと頷いた。
「‥‥はい。これからも、ずっとお側にいていいですか?」
「断られたら心臓が止まるんじゃないかと思った‥‥ありがとう」
 ふーっと長い溜息を付き、キルシェは珍しく額に浮いた汗を拭う。
 優しいその笑顔がふと真剣なものに変わった時、ヒルケはある予感を胸にきゅっと瞳を閉じた。
 やがて重ねられる唇は柔らかく、そこから伝わる熱と想いは2人に甘い幸せを齎すのだった。
「ヒルケさん、ちゃんとプレゼントを渡せてるかしら‥‥」
「もうすぐ準備も終わるし、皆でこっそり覗きに行っちゃおうか? きっと幸せいっぱいさんだよ〜♪」
 会場の装飾をしながら心配そうに呟くマールを覗きに誘うミリア。
「おっ、いいな、それ! デレデレのキルシェが見られるかもしれないぜ?」
「ア〜ゼ〜ル〜! 野次馬根性もいい加減にしなさい?」
 瞳を輝かせ乗り気のアゼルは、マールに叱咤されしゅんと俯く。
「わぁ、お砂糖の天使さんが見える〜♪ ‥‥食べれるのかなぁ?」
「食べられませんっ!」
 仲のいいマールとアゼルの様子に、何故かミリアは涎をじゅるりと啜る。
 そんな彼女にすかさず突っ込みを入れるルイスだった。
「ふふっ、完璧ねっ! 私って実は(お料理の)天才じゃないかしら♪」
 一方、魔の料理人ミシェルは美味しそうな湯気を立てる野菜スープと香ばしい香りのキッシュを前に、高笑いしたい衝動を必死に抑えていた。
 彼女が手がけた2品は、信じられないほど美味しそうな見た目である。
「これで汚名返上ね。味も申し分なかったら、今度フレッドに食べてもらわなくちゃ」
 軽い足取りで料理を運ぶミシェル。
 しかし‥‥

 それから程なくしてヒルケと共にキルシェがパーティー会場である客間に姿を現した。
『キルシェ、お誕生日おめでとう!』
 せーので声を合わせたおめでとうコールに、キルシェは2、3回瞬きを繰り返した。
「‥‥ありがとう。俺の為にこの様な会を開いてもらえるとは驚いた」
 目を見開いた驚き顔は拝めなかったが、あの瞬きと僅かに開けられた口元が彼なりの驚き顔なのだろう。
 何より嬉しそうに微笑む顔が見られて満足だと思う一同は、次の瞬間にヒルケの左薬指に光る指輪に気づいてしまった。
「ヒルケさん、それってもしかして‥‥結婚指輪ですの?」
 おそるおそる尋ねるミシェルに、ヒルケは真っ赤な顔で頷く。
「‥‥はい。プロポーズされちゃいました」
 その答えに一同は顔を見合わせ、もう一度視線を2人へと戻す。そして‥‥
『2人ともおめでとうっ♪』
 再び声を揃え、夫婦として人生を共に歩む約束を交わした2人を心から祝福するのだった。
「気が早いかと思ってましたけど、タイミングばっちりになりましたわね♪」
「ええ、本当に♪」
「ミシェルさんもシルフィさんも、何を仰って‥‥わあっ!」
 首を傾げるヒルケに微笑むと、ミシェルはあるものにかかっていた布を取り払う。
 すると純白に輝くウェディングドレスがヒルケの目に飛び込んできた。
「こっそりとシルフィにお願いしておきましたの。ヒルケさんのウェディングドレスでしてよ?」
「ブーケも頼まれていたんですけど、断然生花がいいってお勧めしちゃいました♪」
「お2人とも、ありがとうございます。こんなにステキなドレスが頂けるだなんて‥‥」
 感動で涙ぐむヒルケをそっと抱き寄せ、キルシェは笑顔を以って感謝の気持ちを伝えるのだった。
「私からのプレゼントはこれよ♪」
 幸せそうな2人の姿にアゼルと自分の未来を重ねつつ、マールは笑顔で期間限定のお菓子詰め合わせを手渡す。
「ヒルケの好きそうな菓子ばかりだな‥‥だが、ありがとう」 
「ふふっ、喧嘩しないで2人で仲良く食べてね?」
 戦乙女のドレスの裾をふわりと翻しながら、マールは可愛らしいウインクを飛ばした。
「ミリアはこれをあげるね♪ お手製わんこ腹巻だよー」
 満面の笑顔のミリアが手渡すのは、あのぶちゃ犬が刺繍された腹巻だった。
 夫婦となる2人に何故色気のない腹巻を贈るのか‥‥ミリアの真意はルイスにさえもわからない。
「ありがとう。腹がぽかぽかと温まりそうだな。寝冷えせずに済みそうだ‥‥」
 そしてそれをすごく嬉しそうに受け取るキルシェも、ミステリアスと言うよりは変わった青年である。
 シエラからは雪道でも滑らなさそうな頑丈で無骨なブーツが、アゼルからは猫柄の可愛らしいマフラーが、ルイスからはお手製の特製ジャムがプレゼントされた。
「さあ、次はご馳走のプレゼントでしてよ♪ 私の自信作に戦きなさいっ!」
 和やかなムードが、ミシェルの一言で凍りつく。
 特にアゼルの誕生日に彼女の料理を食べて具合が悪くなったキルシェの顔は蒼白だ。
「ミ、ミシェルさんのお料理はどちらにあるんですか?」
「この野菜スープとキッシュでしてよ」
 ヒルケの問いにミシェルはえへんを胸を張る。
 きっと今回も見た目からして破壊力抜群だと思った一同は、視線の先にある料理の美味しそうな外見に、誰もが目を見張った。
「ミーちゃんが‥‥ミーちゃんがお料理できるようになってる!?」
 驚きのあまり言葉が出てこないものの、一同はミリアと同じ感動を覚えていた。
 そしてその味に期待し、野菜スープとキッシュ、好きな方を口に運ぶ。
『いただきまーす♪ ‥‥んぐっ!?』
 味もまともになったに違いないという淡い期待は、口の中に広がる甘ったるさに打ち砕かれてしまった。
「固まるほど美味しく出来ましたのね♪ では私も一口‥‥んにゃっ!?」
 ほくほく顔で料理を口に運んだミシェルの顔は、見る見る内にショックに打ちひしがれ始める。
「砂糖と塩を間違えるだなんて、またしてもお約束をっ! まだまだ精進が足りませんわ‥‥」
 いきなりミシェルの失敗料理に出鼻を挫かれた一同だが、その後に口にしたルイスの手料理はどれも申し分のない味だった。
 こうしてキルシェのサプライズお誕生パーティーは幾つかのハプニングがあったものの、笑顔と笑い声に包まれてその幕を下ろすのだった。

●恋の輝き 
 パーティーが終わった後、ルイスは中庭でミリアが来るのを待っていた。
『ミリアさんはかなり鈍感だから、はっきり言わないと通じないわよ? 頑張って♪』
『勇気が要りますけれど、はっきり好きだと伝えるのが1番だと思いますよ』
 マールとヒルケの励ましを思い出していたルイスは、草を踏む音に振り返る。
「お待たせ〜。ケルとコルを寝かしつけてたら遅くなっちゃった。ゴメンね?」
「いいえ、私こそ急に呼び出してしまってすみません」
 熱を持つ赤い頬を夜の闇が隠してくれる様にと願いながら、ルイスは隣に腰を下ろすミリアの顔をジッと見つめた。
「この4日間、すっごく楽しかったねー。ルイスさんの浴衣姿もとってもカッコ良かったよ♪」
「ありがとうございます。ミリアさんの浴衣姿も可憐で可愛らしくて‥‥思わず見惚れてしまいました」
「えへへ、ありがとう♪ そんな風に言われた事ないから照れ臭いけど、すごく嬉しいっ」
 にこっと微笑み、ミリアはルイスにぎゅっと抱きつく。
「ミリアね、ルイスさんに抱きつくの好き〜♪ 暖かくてほわほわして、とっても安心出来て、大好き〜♪」
 安心と言う言葉にチクリと胸を痛めながら。
 抱き付かれる度に心臓が張り裂けそうなほど悲鳴を上げる事に気づかない想い人の頭を、ルイスは返す言葉もなくそっと撫でる事しか出来なかった。 
「それにルイスさんのお料理はいつも幸せーーーって感じがするよね♪ いつもいっぱい幸せをくれて、ありがと〜」
「お礼を言うのは私の方ですよ? いつも美味しそうに私の料理を食べて下さってありがとうございます。あなたの笑顔を見ているだけで、私はとても幸せな気分になるんですよ」
 時に傷つく事もあるけれども、その痛みは彼女への愛しさに比べたら瑣末なものだ。
「そっか〜。でも、やっぱり大好きなルイスさんには可愛いお嫁さんを貰って幸せになってもらわなくちゃ! 誰か良い人いないかなぁ?」
 悪気のない無邪気で残酷な言葉を聞く度、この関係が壊れるのが怖くていつも自分の気持ちにブレーキをかけてきた。
 だが今夜は逃げない‥‥決意を胸に、ルイスは自らからミリアを優しく引き剥がした。
「私がお嫁さんに欲しいと思うのは、ミリアさん、あなたです」 
「‥‥ふえ?」
 そう告げた後の沈黙はいかばかりだっただろうか。
 ミリアはきょとんとした顔の後、ふるふると頭を振り始める。
「ミリアはだめだよ。だってずっと一緒にいられないよ? 冒険者だからすぐ出かけちゃうよ。そうしたらルイスさんは寂しいでしょう?」
「心が繋がっていれば、離れていても寂しくはありません」
「それにルイスさんは一緒に冒険するのはなんか違う気がする。ただいまーって言ったら、おかえりなさいって言ってくれる感じなの」
 そこで言葉を区切るミリアは、ざわざわと騒ぐ自らの胸に戸惑っていた。それは初めて抱く感覚だったから。
「だからぎゅーーーーってハグ〜〜♪♪」
「‥‥ミリアさん、お願いですから誤魔化さないで。私の目を見て下さい」
 この場からすぐに逃げ出してしまいたい恥ずかしさと、その先を聞きたい気持ちがミリアを徐々に混乱させていく。
「確かに私は冒険者となってずっとあなたと一緒にはいられないかもしれない。ですがあなたが帰ってくる場所に、心安らげる場所になりたいと思っています」
「ル、ルイスさん‥‥」
「ミリアさん、あなたが好きです。友達としてではなく1人の女性としてあなたを想っています」
 はっきりと告げられた想いが、ミリアの頭の中でやまびこの様に響いていた。

 そして同じ頃。
 アゼルの部屋の近くにある木の枝に並んで腰をかけながら、マールとアゼルは金色に輝く月を眺めていた。
 繋がれた手は大きくて温かくて‥‥好きな人と触れ合う事で感じる、ドキドキと安心感が混ざった切ない感情を、いつしかマールは心地良く感じる様になっていた。
「‥‥ねぇ、アゼル」
「ん、どうした?」
 大きくて澄んだ瞳を見つめながら、マールは幼い顔で微笑む。
「後からぎゅってして。そうすると安心するの」
「お望みのままに。愛しの鈴蘭姫」
 アゼルは嬉しそうに微笑むと、向きを変えてマールの華奢な体を背中から抱きしめる。
「温かい‥‥いいって言うまでこうしてくれなきゃ嫌よ?」
「わかってるよ。マールはワガママで甘えん坊だな。そんな所もすっげー好きなんだけど」
 包み込まれる安心感に目を閉じていたマールは、アゼルの言葉にハッと我に返る。
 無意識の内にアゼルに甘える子供っぽい自分が急に恥ずかしくなってきて、マールは逃げる様に身を捩った。
「は、離してっ」
「だーめ。離さない」
 ぎゅっと抱きしめられ、マールの体から力が抜ける。
「渡したい物があるんだけど、いい?」
 耳元で聞こえる声に振り向かずに頷くと、目の前に可愛らしいデザインの小箱が差し出される。
「これを私に? ありがとう、アゼル‥‥」
 手渡された小箱を丁寧に開けたマールの瞳に、大好きなアクアマリンが埋め込まれた────アゼルが『幸福の人魚の涙』と名づけた指輪が飛び込んできた。
 ふとヒルケの左手の薬指に光る指輪がマールの脳裏を掠め、その頬は薔薇色に染まる。
「気に入ってくれた?」
「ア、アゼルが私の為に選んでくれた物をもらって、嬉しくない訳ないでしょう? とっても素敵よ」
 しかし考え過ぎだと思い、動揺する気持ちを抑えて指輪を右手の薬指に嵌めようとしたマールの左手は、アゼルによってそっと制された。
「返事を急ぐつもりはないんだ。でも、俺はその指輪を左手の薬指に嵌めて欲しいって思ってる」
「そ、それって‥‥」
「マール、俺のお嫁さんになってよ。一緒に幸せになろう」
 思わず振り返ったマールは、息がかかるほど近くにあるアゼルの顔に、その真剣な瞳に息を呑む。
「返事は今すぐなんて無理よ‥‥」
「うん、わかってる。でも‥‥キスしていい?」
 首を横に振ってもきっと彼はわかってくれる。マールの心の準備が出来るまで待ってくれる。でも‥‥
 ゆっくりと頷いた後に重ねられた唇は想像よりも柔らかくて、はっきりとわかるくらいに震えていた。

 赤い顔で部屋に戻ってきたミリアとマールは、乙女達に尋問されて洗い浚いを話す羽目になった。
「さあ、今度はミシェルさんの番ですよ。私達に相談したい事があるんですよね?」
 シルフィに促され、ミシェルはぽつりぽつりとフレッドとの間にあった事を話し始める。
「そっか、勇気出して手紙で気持ちを伝えたんだな。頑張ったじゃないか」
 わしゃわしゃと頭を撫でるシエラに抱きつき、ミシェルは頭を振る。
「本当はもっと素直になりたいのに‥‥照れ屋で意地っ張りな自分に嫌気が差しますわ」
 そう口にしながら、ミシェルは自己嫌悪の海に沈んでいく。
「自分を卑下する様な事言っちゃ駄目よ。ミーちゃんを好きな人が悲しむんだから‥‥私達も含めて、ね」
「そうだよ。ミーちゃんは美人さんだしとっても優しいもん。ミリアはミーちゃんが大好きだよ♪」
 マールとミリアの優しさに感謝しながら、ミシェルはあの時のフレッドの顔を思い出す。
「妬んだり焼きもちを焼いたりするのも自然なんでしょうけど‥‥でも甘えるだけじゃ守れないもの。引き止めてくれたら、とも思うのだけど、ううん、違うわね‥‥」
 ミシェルはそこで言葉を区切ると、フレッドから貰ったアメジストのピアスにそっと触れる。
「大事なのは相手に何かをしてもらうんじゃなくて、何をしてあげられるかよね。うん、あまりに一人よがりだったかも」
「恋は独りよがりでもいいと思いますよ。想いが通じ合って愛になれば、自然とお互いの気持ちを考えられる様になるんじゃないでしょうか?」
「シルフィ‥‥」
「だから自信を持って心のままにぶつかって下さい♪ 一途な想いは必ず相手の心に届きますから」
 そう言い優しく頭を撫でるシルフィの手の優しさに、ミシェルの涙腺は崩壊し始める。
「フレッドさんは真面目な方ですし、真剣に答えを探してるんだと思います。ですから、きっと本気で答えてくれますよ。それに、そろそろミシェルさんも素直になる時ではないですかー?」
 ぽろぽろと零れる涙を優しく拭ってあげながら、ヒルケはお返しとばかりに悪戯っぽく微笑む。
「話を聞いて背中を押す位ならいつでもしてあげるわ。だからもっと甘えていいのよ」
 涙塗れのほっぺにマールがそっとキスをすると、もう限界とばかりにミシェルは声を上げて泣き出すのだった。
 
 そして夜は更け、乙女達は寄り添いながら夢へと落ちて行く。
 恋の戸惑いと幸福に優しく包まれながら────。