【バロール進攻】絆焼き尽くす業火
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■イベントシナリオ
担当:綾海ルナ
対応レベル:1〜5lv
難易度:難しい
成功報酬:0 G 49 C
参加人数:55人
サポート参加人数:-人
冒険期間:10月23日〜10月23日
リプレイ公開日:2009年11月02日
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●オープニング
南方遺跡群の地に封印されていた邪眼のバロールの復活から間もなく、領主は騎士団を再編成しバロール討伐隊を領地内の各所に配置した。
しかしその人数は決して多いとは言えず、今回も各町村から有志の男性が集まり、騎士と住人による混成部隊がいつ来るかもしれないバロールとその軍勢の警戒に当たる事となった。
不安と緊張の中で過ごす日々は1日1日が────いや、1秒でさえも長く感じる。
「神経が焼き切れちまいそうだ‥‥あんた達はいつもこんな辛い事を俺達の為にやっていてくれてたんだな」
見張り番の男性は、隣で篝火を炊く騎士をジッと見つめ口を開いた。
「ありがとよ。改めてあんた達騎士を尊敬するぜ」
「当然の事をしてきただけだ。礼を言われる程の事はないさ」
騎士は感謝の言葉に頭を振ると、鼻の下を擦って照れ臭そうに微笑む。
「寧ろ貴殿達住民の皆には感謝してもし切れない。この地を守る為に力を貸してくれてありがとう」
「よせやい。体中がむず痒くならぁ」
今度は男性が気恥ずかしそうにぼさぼさ頭を掻き、暮れ行く空へと視線を移す。
そして騎士が淡い微笑と共に空を見上げた、その時であった。
ぞわり、と体中が粟立つ感覚が2人を襲う。
武器に手を伸ばし周囲へと彷徨わせた視線を真正面に戻した2人は、驚きに目を見張る。
「お前‥‥いつからそこに?」
音もなく現れたフードを目深に被った人物に、男性は掠れる声でそう尋ねた。
「遥か昔からだ‥‥地の奥深くに追いやられている間も、片時とて忘れた事はなかった‥‥この胸を焦がす憤怒と憎悪を」
「デビル風情が訳のわからぬ事をっ!」
「‥‥否。我はデビルに非ず。我は‥‥邪眼のバロール」
「なっ!?」
体の心が凍える程の冷たい声音の後、その人物は揺らめく炎に包まれ始める。
事態を悟った2人は町中に駐在する仲間の元へと走り出すが、背中から襲う熱風に吹き飛ばされてしまった。
「ぐっ‥‥」
「大丈夫か!? くそっ、背中を焼き焦がされているな。すぐに手当てを‥‥」
倒れたまま動かない男性を抱きかかえる騎士は、ふと上げた視線に映るものに再び目を見張る。
「な、何だあれは‥‥」
左右にある森を焼き尽くす炎の中に佇んでいるのは、まるで塔の如き巨大な何か。
そしてその背に迫り来るのは、空を覆う黒い影。
「人間どもよ‥‥この地を汚し我から娘を奪った大罪を、その命を以って購うがいい‥‥」
────憎しみに満ちたその言葉が、一方的な進攻戦の狼煙であった。
それまでの沈黙が嘘の様に、邪眼のバロールはデビルの大軍を率いて南方遺跡群にある町への蹂躙を開始した。
人々は成す術もなく逃げ回り、混成部隊は防戦を強いられその数を減らしていく。
そして程なく、南方遺跡群領主はキャメロットに向け救援要請を出すのだった。
●妄執の犠牲
暫く身に着けていなかったのに、騎士服は袖を通した瞬間にスッと体に馴染んでいく。
腰にレイピアを差し漆黒のマントを羽織ったモードレッドは、自室の窓からキャメロット王城を見つめた。
自分がバロールを復活させてしまったのだとを告げた時の、そして自分の手で決着を付けたいと懇願した時のアーサー王の静かな瞳が頭から離れない。
(「僕は子供だ。1人では何も出来ない‥‥」)
無力さ以上に許せないのは、独りでやるしかないと思い込んでいた、人を頼る事を恐れていた臆病な自分。
モードレッドは深呼吸の後、ゆっくりと自室のドアを開け居間へと向かった。
「‥‥モルお坊ちゃま、良くお似合いです」
「いつもの格好だ。誉められる程では‥‥ん?」
クレアの嬉しそうな顔を照れ臭そうに見つめていたモードレッドは、彼女が珍しく薄化粧をしている事に気づく。
「お城にお伺いするのに、いつものままではモル坊ちゃまに恥ずかしい思いをさせてしまうと思いまして‥‥」
「パーティーに招待された訳じゃないんだ。いつも通りで構わないが‥‥化粧すると若く見えるな」
モードレッドはそう言い微笑むと、クレアの手からひょいと荷物を取り上げる。
「さあ、行くぞ。色々と窮屈かもしれないが、少しの間あそこで我慢してくれ」
「窮屈だなんてとんでもございません。私みたいな者がお世話になっていいのか、今でも信じられないくらいです」
「王直々に許可が出たんだ。堂々としていればいい」
恐縮するクレアにモードレッドは不敵に微笑むと、ドアを開けて再びキャメロット王城を見つめる。
再びルーグに狙われる危険があると、モードレッドはアーサー王にクレアの身柄を城で預かって欲しいと頼み込んだのだ。
「‥‥少しの間とは言え、このお屋敷と離れるのは寂しゅうございますね」
「すぐにまた一緒に住めるようになる。大丈夫だ」
振り返り居間を見つめるクレアに、モードレッドは優しい声音で応えるのだった。
他愛のない会話をしている内に2人は王城へと着き、暫しの別れの時を迎えた。
「モル坊ちゃま、どうかお体にはお気をつけて。ご無理もなさらないで下さいね」
「わかっている。クレアこそ僕が帰ってくるまで元気でいなかったら承知しないぞ?」
モードレッドは心配そうなクレアに子供の様な笑顔を見せ、くるりと踵を返した。
その背中がいつの間にか逞しくなっていた事に寂しさと喜びを覚えながら、クレアはポツリと呟く。
「坊ちゃまはお独りではありません。支えてくれる温かな人達をどうか大事にして下さいませ‥‥この私よりも」
モードレッドの背中が見えなくなった瞬間、クレアの呼吸は浅く苦しげなものに変わり始める。
彼女の様子に気づいた騎士の1人は慌てて駆け寄り、今にも倒れそうな小さな体にそっと手を添えた。
「大丈夫か? 随分と顔色が悪いようだが‥‥」
「申し訳ございません。久しぶりに遠くまで歩いたので少し疲れてしまったみたいです。年は取りたくありませんね‥‥」
笑顔で頭を振るクレアは、傍らに置いてあった荷物を手に取り、ぎゅっと抱きしめる。
そして騎士に案内されこれから住まう事になる部屋に通されたクレアは、ドアが閉まった瞬間にその場に崩れ落ちた。
「坊ちゃまが戦っていらっしゃるのに‥‥私が負ける訳には、いかない‥‥」
荒い息で窓の外を見つめながら、クレアは同じ空の下を歩くモードレッドを想った。
ざわめきの中に時折混じる怒号を遠くに聞きながら、ルーグは手の中で弄んでいたあるものを見つめる。
それは彼にとっての切り札であり、生意気な少年を飼い馴らす道具であった。
「あなたは奴から大事な『花』を奪って下さった‥‥僕はあなたの為に奴の『希望』を手に入れ『絶望』へと変えてみせますよ」
ルーグは眼下のフォモール達を見下ろしながら、敬愛する主を想う。
「全てはあなたが喜んで下さる為の遊びです────アスタロト様」
恍惚としたその呟きは、ほの暗い部屋の中に溶けて消えた‥‥。
●リプレイ本文
●醒めぬ悪夢
バロールの襲撃を受けている町へと辿り着いた冒険者達は、眼前に広がる凄惨な光景に目を見張る。
町の到る所で燃え盛る炎、煙に包まれ半壊した建物、交じり合う怒号や悲鳴‥‥町は壊滅寸前であった。
「煙で視界が悪いな‥‥」
ペガサスに跨ったアリオス・エルスリード(ea0439)はデビルの集団へと素早く矢の雨を降らす。
「さて、俺にどこまで出来るかは分からないが‥‥」
天城烈閃(ea0629)はホルスで空を駆けながら、遠距離からデビルを確実に打ち落としていく。
金色に輝く羽根を持つホルスはデビルの注意を引き、烈閃目がけて次々と集まってくる。
「目を逸らすのには成功したが、ちょっと目立ち過ぎたな」
気づけば烈閃はぐるりと敵に囲まれていた。
「そこから突破して距離を取れ!」
声のした方へ視線を移すと、グリフォンで急降下してきたアシュレー・ウォルサム(ea0244)と目が合う。
「やれやれ、これまた大勢だねえ。まあ、およびでないから帰ってもらわないとね」
アシュレーはすっと瞳を細めると、手にした弓に矢を番えた。
「むっ、あれは‥‥」
アリオスは防衛線を越えようとしている数匹のデビルを目にし、急ぎそこへと急行する。
大集団ばかりに構っていて小集団を見逃し、それが元で戦線を崩されたら元も子もないのだから。
「‥‥ふむ、ジアースにこれほどまでに強大な軍勢が出現するのも久しぶりだな」
オルステッド・ブライオン(ea2449)の背に、ドラゴンに同乗する妻アリシア・ルクレチア(ea5513)の震える手がそっと触れた。
「‥‥大丈夫だ。私がついている」
「はい。どこまでもお供します。イグニス、炎での攻撃を頼みましたよ」
アリシアは微かに頷き、火の妖精に優しい声音で指示する。
主の命令通りに生み出した炎を敵目がけて操作するイグニス。
怯んだ所をオルステッドが剣で斬り付け、夫婦の連携攻撃を前にデビル達はその姿を減らしていった。
「虚なる欺瞞の世界、私の心が消えてしまう前に、幽かな希望を残す為に‥‥」
防衛線に向かっている敵の進路にスモークフィールドを唱えるジークリンデ・ケリン(eb3225)は、小さな声でぽつりと呟く。
ホルスに乗っている彼女はやはり敵の目を引き、その周囲に次々とデビルが集まってくる。
しかし超越級のストーンをかけられ、デビル達は物言わぬ石となって地上へ落下していった。
「冒険者による援軍は既に到着しています! 希望を捨てずに戦い続けましょう!」
前線にて戦う騎士や有志兵と接触を果たした木下茜(eb5817)は、必死に彼らを励ます。
(「イザナミ復活の時と同じ‥‥でも、この国を故郷の様にしない為に、全力でバロールを食い止める!」)
甦る過去を振り切り、茜は騎士や有志兵の隣で弓を番えるのだった。
「皆様を守る為の戦い‥‥私もお手伝い致します!」
ジュヌヴィエーヴ・ガルドン(eb3583)は町を守る為に戦い続ける者達に駆け寄り、負傷した者をリカバーで癒していく。
「どうかご無理をなさらないで下さいませ」
レジストデビルとグッドラックを付与しながら、ジュヌヴィエーヴは柔らかく微笑んだ。
「1匹1匹は大した事がないが‥‥この数は厄介だな」
弟分から借り受けた剣にオーラパワーを付与し振るいながら、ウィンディオ・プレイン(ea3153)は遠くの空に浮かぶ敵影を見つめる。
「ですが確実に減らしていくしかありません。この戦いに必ず終わりが来ると信じましょう」
フォックス・ブリッド(eb5375)は弓を射り傍らのウィンディオを支援する。
「凪姉様、右っ!」
「っ!」
藤村凪(eb3310)を守る様に戦う瀬崎鐶(ec0097)は、視界の隅に彼女目がけて急降下してくるデビルに気づく。
鐶が叫ぶのと凪が前方の敵目がけて矢を放ったのはほぼ同時だった。
しかし凪を守る為ならば自らが攻撃を受ける事も厭わない鐶によって、敵は呆気なく斬り伏せられる。
「‥‥汚い手で姉様に触れようとするなよ? 下衆が」
「鐶ちゃん、血ぃが出とるよ!」
「加勢します!」
叫びと共に放たれたリースフィア・エルスリード(eb2745)のソニックブームがデビルを襲う。
「大丈夫ですか!? 今、治療致しますわ!」
そこへクリステル・シャルダン(eb3862)も現れ、薬を出す手間を惜しんで鐶にリカバーを唱える。
リースフィアの登場で浮き足立ち始めた敵は、逃げるものと向かってくるものでバラバラの動きを取り始めた。
「見苦しいですよ。消え去りなさい!」
ソードボンバーで豪快に敵を吹き飛ばし、ソニックブームで追撃するリースフィア。
その後方で回復時の安全を確保しようと、クリスはホーリーフィールドを展開する。
(「疲労の激しい方には休憩をお勧めしたかったのですが‥‥この戦況では難しそうですね」)
休まずに戦い続ける騎士や有志兵の姿を思い出し、優しいその心は悲鳴を上げるのだった。
「雑魚とは言え数は厄介だ。だが纏めて吹き飛ばせば問題はない!」
マイユ・リジス・セディン(eb5500)は敵の集団目がけてアイスブリザードを唱え、尚も向かってくる敵はアイスコフィンで氷の棺へと閉じ込める。
「絶好調だな。ま、俺もだけど」
地に落ちた敵にグラビティーキャノンを扇状に展開し、カジャ・ハイダル(ec0131)はニッと微笑む。
マイユを背に庇いながらカジャがローリンググラビティーを放つと、地面へと叩きつけられた敵は醜悪な悲鳴を上げながら消えていった。
(「私は、私に出来る事をしに、行きます‥‥」)
険しい表情で町の地図を見つめ、被害が甚大な地区を騎士から聞き出しているモルの隣で、カメリア・リード(ec2307)は密かな誓いを立てる。
彼の傍にいたい気持ちは勿論あるが、より自身が役立てる場所へと赴くべきと思っての決断であった。
「モルさん‥‥お守り、です♪」
騎士との話を終え天幕を後にしようとするモルに、カメリアは勇気の印を押し付ける。
「モルさんなら大丈夫だって信じてるです‥‥信じられる人に、成長してくれたの、ですもの」
「わかっている、無茶はしない。多分な?」
不敵に笑い去っていく背中を見送ると、カメリアも自身が戦うべき場所へと駆け出すのだった。
「あれは‥‥」
ライトニングサンダーボルトとウインドスラッシュを器用に使い分けていたリース・フォード(ec4979)は、簡易救護所にリランの姿を発見した。
「リラン、来てくれてたんだね」
「あなたもご無事で何よりです」
周りに人がいないのを確認すると、リースは思い切って自らの疑問をぶつけてみる事にした。
「バロールは貴方の父だと聞いたけど、親を‥‥殺す、以外の方法はないの? 神様の親子関係って人とは違うのかもしれないけれど‥‥」
「親子の在り方はあなた方と変わりません。愛と憎に翻弄されるも同じ。ただ、持ちうる力があまりにも違うだけなのです」
「でも‥‥!」
「お気遣いをありがとうございます。ですが娘である私が止めるしかないのです。誤った力の使い方を繰り返す、愚かな父を‥‥」
その瞳に宿る決意に、リースはそれ以上言葉を重ねる事が出来なった。
(「防衛隊は私達冒険者を信じている、だから応えてあげたい」)
自分達の到着を知った時の笑顔をレティシア・シャンテヒルト(ea6215)は思い出していた。
『敵の動きが変わったわ!』
レティシアは自分と同じ伝令を務めるフィオナ・ファルケナーゲ(eb5522)にテレパシーで話しかける。
下級デビルは冒険者と交戦する内に戦力差を悟ったのか、次第に積極的には攻撃をしてこなくなったのだ。
フィオナは離れて戦う仲間達にテレパシーで情報伝達した後、再びレティシアに声をかける。
『こうなるとこっちから打って出るしかなくなるわね』
『既にそうしている仲間もいるわ。でも、敵は逃げるばかりなの』
『もしかして時間稼ぎが目的かしら?』
『そうかもしれない。ただ怖くなって逃げてるだけとは思えないもの』
2人の予想は的中していた。
止むを得ず冒険者側が追撃する形となり、加えて炎や煙、足場の悪さも拍車をかけ、掃討には予想以上の時間が費やされていく。
倒しても倒しても減らぬように感じる敵の数は、幻かと思える程であった。
●この腕で守るもの
下級デビル達の露払いに尽力している者がいれば、町の住民を保護する為に動いている者もいる。
「バロールさん一党に襲われた人達を助けよ〜。お〜!」
ロック鳥の上で小さくガッツポーズをした後、パラーリア・ゲラー(eb2257)は町の上空へと飛び立った。
デビルに接近されない様に注意しながら町を見下ろし、戦闘区域と非戦闘区域を頭の中へと叩き込む。
「モルたいちょ〜、ご報告にゃ!」
住民保護の指揮を執るモルの元へと戻り、報告の後に避難所への誘導ルートを提案したパラーリアは、住民の誘導へと向かうのだった。
「もう大丈夫ですよ。救護所までお連れ致します」
瓦礫の中から救出された住民は、ホッとした様な顔でラグナート・ダイモス(ec4117)を見つめた。
彼は町の警備兵と共に住民の救出に当たり、彼らと協力して避難所までの護衛を務めていた。
「少々足場か悪いですね‥‥どかしてしまいましょうか。下がっていて下さい」
ラグナートはバーストアタックEXで積み上がった瓦礫を破壊し、安全な道を切り開く。
そしてデビルとの遭遇を警戒しながら、避難所を目指した。
「ふはははははは! 邪眼のバロールととうとう対決であるな! 最近は強い悪魔も減ってきたであるゆえ、遠慮なくぶちのめされてもらうのだ!」
ヤングヴラド・ツェペシュ(ea1274)は十八番のカリスマティックオーラで住民達に祝福を与え、救護活動に尽力していた。
「猫も大事な家族です。連れて行きましょう」
瓦礫の下から数匹の猫を発見したデフィル・ノチセフ(eb0072)は、その内の2匹をそっと胸に抱く。
「残りの猫は余に任せるのだ。こら! 引っ掻くでないっ!」
仔猫にじゃれ付かれてるヴラドに微笑むと、デフィルは避難所を目指す。きっとそこに飼い主がいると信じて。
「‥‥あ、みぃだ! 他の子もいるー」
デフィルの願いが通じたのか。
避難所に着くなり、小さな男の子が2人の元へと笑顔で駆け寄ってきた。
「戦いが終わるまで、あなたがこの子達を守ってあげて下さいね」
優しい笑顔と声音で言い聞かせると、少年は無邪気な笑顔で頷いた。
「心配な気持ちは分かるけれども、今いたずらに騒いでも恐怖は去らないわ」
サラン・ヘリオドール(eb2357)は穏やかな微笑を浮かべ、今にも取り乱しそうな女性の手をそっと握った。
「傷を負った人達の手当てを手伝って貰えるかしら? あなたの助けが必要なの」
「‥‥あたしで力になれるのならば喜んで」
女性は力強く頷き、サランの後に付いて避難所のすぐ隣にある住民用の救護所へと向かう。
(「デビルの変身や憑依は心配しなくて良さそうね。戦うのに精一杯な感じだし‥‥」)
空を覆う黒い影に視線を移し、サランは書きかけの住民名簿をそっと抱きしめた。
「もう大丈夫ですわ。ここには怖い人は一歩も入れさせませんから」
ラヴィサフィア・フォルミナム(ec5629)は持参したくまのぬいぐるみを子供に手渡しながら、優しい笑顔で微笑む。
彼女はこの救護所で住民の心と体を癒し続けていた。
(「もう二度と‥‥誰も傷つけさせません」)
救護所の入り口にかけたヘキサグラム・タリスマンをそっと胸に抱き、ラヴィは祈りを捧げる。
そしてその結界が形成された後、さらにホーリーフィールドを展開し守りを万全にするのだった。
「迎撃に専念して下さい! 防衛線を死守します!」
防衛線上空で剣を振るうシルヴィア・クロスロード(eb3671)の指示に、共に戦う冒険者達は大きく頷いた。
「ここは絶対に通さない!」
円巴(ea3738)はソニックブームで飛び交うデビルを打ち落とし、起き上がった所をソードボンバーで遠方へと吹き飛ばす。
(「古に封じられた神、邪眼のバロール。この国の神様の事はよく知らないけれど‥‥彼はセトの眷属に利用されているの?」)
ダズリングアーマーの輝きで引き付けた敵にシュライクをお見舞いさせながら、テティニス・ネト・アメン(ec0212)は自らの予想を心の中で呟く。
「この国にも古い神様って居るのね‥‥。でもセトの眷属と一緒になって襲ってくるなんて、何を考えてるのよ!?」
ネフティス・ネト・アメン(ea2834)はサンレーザーで敵を焼き焦がし、姉の背を守る。
「ネティ、援護はお願いね! 」
「任せて! 絶対に姉様を傷つけさせたりしないわ!」
姉妹は息の合った魔法と剣技の連携で、群がる敵を一掃するのだった。
「敵が後退していく‥‥ですが追撃は不要です!」
「了解。罠かもしれないしな」
シルヴィアと巴は撤退していく敵には目もくれず、防衛線を突破しようとする敵のみを撃破していく。
4人で全ての敵の進攻を食い止めるのは不可能に近いが、彼女達の後方、避難所の前方にて戦う仲間達の姿があった。
「前線が安心して専念できるよう、後方を護りましょう!」
サンレーザーで敵を狙撃しながら、シャクリローゼ・ライラ(ea2762)は共に戦う仲間を鼓舞する。
数の暴力とも言える敵勢には戦法らしきものはなく、見かけた者に集団で襲い掛かる、それのみであった。
「これだけ単純ですと、偵察の必要がなくて戦いに専念できますわ」
「全くです。存分に働かせてもらいましょう!」
シャクリローゼのサンレーザーで打ち落とし切れなかった敵を、ホルスに乗ったゼルス・ウィンディ(ea1661)はストーンで次々と石の塊にしていく。
「バロールにクロウ‥‥魔王アスタロトとは言え、こんな者達を完全に制御できるんですかね‥‥」
「その答えを見つけるのは、この戦いの後になりそうですわね」
逃げ遅れた者を背に庇い戦いながら、シャクリローゼはゼルスの呟きに答えるのだった。
「邪眼のバロール‥‥伝承ではクロウ・クルワッハを生み出せし神。ならば彼奴を討つ事が、トリスタン卿をお助けする事に繋がるのか!?」
エスリン・マッカレル(ea9669)は彼の志を受け継がんと、愛騎ティターニアに跨り敵を射落とす。
きっと彼がこの場にいたら、愛するイギリスの民を救う事を第一とするだろう。
「デビルども。愛するトリスタン卿に成り代わり、これ以上民には手出しをさせぬ!」
正義の炎を宿した矢は、迷う事無く真っ直ぐに敵へと放たれた。
(「一人でも多くの生きる道を守らなきゃ。私の武器は、皆を励ます笑顔」)
この町の何処かで戦う兄を想いながら、リュシエンナ・シュスト(ec5115)は向日葵の様な笑顔で仲間に微笑んだ。
「今は辛くとも、皆が信じて祈れば希望は紡がれる。私達は絶対に負けない!」
リュシエンナは前衛の仲間が取り囲まれないよう、確実に1匹1匹を討ち取っていく。
(「神様の前に人はとてもちっぽけで無力に思えるけど、でも‥‥案外そうじゃないみたい。モル君にとって戦う皆の背中が励みになりますように‥‥」)
負傷者を救護所に運んだりその場で手当てしている有志のクレリックに攻撃が及ばないよう、その傍らで彼女は矢を放ち続けた。
(「強大すぎる相手に何が出来るだろう‥‥でも、折れる訳には行かないもの」)
フロージュの背の上で自らにそう言い聞かせ、ユリゼ・ファルアート(ea3502)は向かって来たデビルにアイスブリザードを放つ。
(「生きる気満々の皆がいるから大丈夫よね、モル君。それに帰ったら甘味三昧するって約束したんだもの」)
ウィンクをしすれ違った時の頼もしくも不敵な笑顔を、ユリゼは思い出していた。
「犠牲者を最小限に食い止めるよう頑張りましょう」
戦う者専用の特別救護所をホーリーフィールドで守護し、怪我人の治療に当たっているシェリル・オレアリス(eb4803)は、額の汗をそっと拭った。
「重態の方です! 治療をお願いします!」
そこにフォルテュネ・オレアリス(ec0501)が血相を変えて飛び込んでくる。彼女が連れて来た男性は、血塗れでぐったりとしていた。
「私のリカバーがあれば大丈夫よ。息がある内につれて来てくれてありがとう」
シェリルはフォルテュネに礼を言うと、男性にリカバーを唱える。
「破壊の炎ではなく、守る為の炎を‥‥」
ローガン・カーティス(eb3087)は静かだが力強い声でそう呟き、懸命に桶に入った水を燃え盛る炎へとかける。
身近な場所の消火は成功しても、また別の場所で火の手が上がる‥‥終わりの見えない炎との追いかけっこだ。
「だが、諦める訳にはいかない」
消火活動に名乗り出てくれた住民達の協力し合う姿を心強く感じながら、ローガンが呼子笛を鳴らそうとした、その時だった。
巨大な炎の柱が、天に向かって燃え盛ったのは────。
●免れぬ死の瞳
炎の柱が消え去ると、煙の中から邪眼のバロールが姿を現した。
塔の如き巨体に岩の様な肌、頭部から映えた2本の角は禍々しくうねっている。
そして何より不気味なのは1つしかない閉じられた大きな目だ。
「バロール、か‥‥復活を焚きつけた以上、俺達にも責任がある。これ以上の被害は出させねえ」
馬上の閃我絶狼(ea3991)は武者震いする手で槍を構えた。
「行くぞ。奴を攻める!」
そう言いバロール目がけ突撃する絶狼の後を追い、グラディ・アトール(ea0640)はこの町の何処かで戦っているモルを想う。
(「モル‥‥お前の想いに応える為にも、俺達が希望の光を示してみせる!」)
傍で守りたい気持ちはある。だがグラディはモルを信じていた。
グラディは愛馬との阿吽の呼吸で炎を掻い潜り、ひたすらバロールを目指す。
「あれだけの数のデビルが守っていては、バロールに辿り着くのは容易ではありませんね‥‥」
魔法で自らを強化しながら、ファング・ダイモス(ea7482)はバロールに纏わり付く黒い帯を睨みつける。それらは全て下級デビルであった。
「私は空で雑魚を切り払いつつ、バロールの死角を突く様に攻撃する。地上は任せたぞ!」
グリフォンに跨った陸堂明士郎(eb0712)の言葉にファングは力強く頷いた。
地上と上空で連携しバロールに攻撃すれば、その注意を2分させ隙を作る事が出来る。彼らはその一瞬に賭けていた。
『その手勢で我と対するとは愚かな‥‥』
バロールは地の底から響く様な声でそう呟くと、柱の様な腕を明士郎目がけて振りかざす。
「そんな大振りな攻撃に当たるものか!」
明士郎は素早くその攻撃を回避するが、風圧でグリフォンごと後方へと吹き飛ばされた。
バロールの腕を避け切れなかったデビル達は悲鳴を上げながら落下し、直撃を受けた家屋は音を立てて崩れ落ちる。
「何て馬鹿力だ‥‥だが当たらなければ怖くはない!」
前方に見えるバロールの足へと放ったグラディのソニックブームは、急降下してきたデビル達によって後1歩の所で阻まれる。
その後もバロールへ近づこうとする4人は下級デビルの必要な纏わりつき、そしてブラックフレイムの集中攻撃を受け、思う様に身動きが取れなかった。
焦燥ばかりが募る中、ついに絶狼が活路を切り開く。
剣を構えそのままバロールの足元へと突撃しようとした、その刹那────
「ぐあっ!!」
バロールはマグマブローを唱え、マグマの炎柱が絶狼を包み込む。
「絶狼殿! くっ! 好き勝手にはさせんぞ!」
明士郎は急降下と旋回を繰り返し、デビル達を振り切る。
そしてバロール目がけて再び急降下を始めるが、突如出現した竜巻によって上空へと巻き上げられてしまう。
「炎だけでなく、風魔法も操るのか‥‥だが、ただでは落ちんぞ!」
落下する勢いを剣に乗せ、明士郎はバロールの腕に斬りかかる。重い手応えの後、岩の様なバロールの腕にびしりと亀裂が入った。
『我の腕に傷を付けるとは‥‥中々やるではないか』
バロールはそう言うと、巨大な鞭を取り出した。その長さはどれ程なのか、計り知れない。
「お待たせして申し訳ない! 加勢する!」
そこへ騎士と有志兵、ある程度の経験を積んでいると思しき南方遺跡群の冒険者のウィザードとクレリック達が現れ、バロール戦へと参戦する。
「よくも私達の町をこんな目に‥‥許せないっ!」
瞳に涙を浮かべたウィザードは、バロール目がけてファイヤーボムを放つ。
数秒の後、爆音と共にその巨体がぐらりと揺らめいた。
「効いていますね、もう1回お願いします」
ファングの言葉に再び詠唱に入るウィザード。
しかしその遥か前方でデビル達がバロールの体を覆い隠した数秒後、バロールと中心として炎と暴風が炸裂した。
「そんなので怯むと思ったら大間違いよ!」
歯を食い縛り放たれた2発目のファイヤーボム────しかしバロールは微動だにしなかった。
「ならばこれはどうだ!」
再び空へ戻った明士郎は剣に込められたヘブンリィライトニングを発動させるが、全く手応えがない。
「先程は効いていたのに、どう言う事だ?」
グラディは疑惑を抱きながらバロールを見上げる。その体を覆うデビルの数は先程よりも増えている気がした。
『驚愕の余り足が竦むのは無理もないが、そのままでは格好の的‥‥動かず死を待つか、人間共よ』
バロールはデビルをも巻き込みながら巨大な鞭を振るい続ける。
その見境のない攻撃に建物は破壊され、騎士や有志兵達は直撃を受けて木や壁へと叩きつけられ瀕死の状態となった。
『つまらぬな‥‥』
落胆の色を帯びた呟きを最後に、バロールの動きがぴたりと止まった。
突然訪れた静寂が言い様のない不安とある予感を齎す。
「‥‥邪眼だ! 奴の目を見るなっ!!」
誰とのものともわからない叫びは、ほんの一瞬だけ遅かった。
閉じられたバロールの邪眼は赤い閃光を円錐状に放ちながら、ゆっくりと見開かれる。
「しまった‥‥!」
禍々しい瞳に射抜かれながら、ファングは死を覚悟する。
しかし目が合った彼の隣で、咄嗟にバロールに背中を向けたウィザードとクレリックが声も無く絶命し、地に伏して行く。
「邪眼の発動にはかなりの隙があるみたいだな!」
「この好機、逃すものか!」
邪眼を発動させる為、デビル達はどうしてもバロールの前方を集中し守っていた。
手薄になった背後へと絶狼とグラディ、そしてヌアザと共に参戦した冒険者達が一斉に攻撃を仕掛ける。
一瞬でデビル達は薙ぎ払われ、露になった背中にそれぞれが渾身の力を込めて武器を振り下ろす。
『ぐおおおぉぉっ!』
耐え切れずに膝を付くバロール。
慌てて前面のデビルが後方へと集まり始めるが、その分前方が手薄となる。
「【邪眼】め、今度こそ本当に滅びるがいい!」
ヌアザの咆哮が町に響き渡ったのと、バロールに止めを刺そうとした冒険者達がルーグのシャドウフィールドに包まれたのは、ほぼ同時であった。
「僕を忘れてもらっちゃ困るなぁ」
くすくすと笑いながら、ルーグはその姿を消して行く。
シャドウフィールドの範囲外にいた者達は、デビルに囲まれながらまるで陽炎の様に揺らめき消えていくバロールを目撃した。
『人間どもを味方につけ、我の前に立ちはだかるか‥‥銀の腕よ‥‥』
黒い闇が晴れた後────バロールは怒りに満ちた声を残し、町から撤退した。
その数を大幅に減らしたデビル達も、黒い塊となって町の上空から飛び去っていく。
町は暫しの静寂の後、勝利を喜ぶ歓喜の声に包まれるのだった。
●闇の檻
バロールとデビル勢撤退を知ったモルは、護衛を希望した冒険者と共に小高い丘の上から戦場となった町を見下ろしていた。
未だ消えぬ炎と煙に包まれ、町は甚大な被害を被った。バロールが復活してしまったばかりに。
モルの辛そうな横顔に気づいたルザリア・レイバーン(ec1621)は、そっと彼の手を握る。
「どうした? 随分と積極的だな」
途端に摩り替えられた意地の悪い笑顔に、ルザリアは頬を朱に染め口を開く。
「あ、あー。ま、また、な。その、貴殿の屋敷で‥‥」
「そんな堅苦しい顔だなんて似合わないわよ。リラックスリラックス‥‥って、あれ? タイミング悪かった?」
しかしモルの反対隣にいたディーネ・ノート(ea1542)のせいで、折角の勇気を打ち砕かれてしまう。
ちなみにディーネはモルの緊張を解く為に発破をかけたらしい。
「ディーネってホント間が悪いよねぇ。それに国が傾く程の食物摂取量だし♪」
「ちょっと! 全く脈略のない事を並び立てないでよねっ!?」
フォーレ・ネーヴ(eb2093)にからかわれ、ディーネは顔を真っ赤に染めて抗議する。
「相変わらず騒がしい奴等だな。で、さっきは何を言いかけてたんだ?」
「いや、何でもない。気にしないでくれ‥‥」
しくしくと泣きながらモルに背を向けるルザリア。
しかし次の瞬間、その顔に緊張が走る。
「自分のせいで滅びかけた町を見渡す気分はどうだい? 咎人のモードレッド君」
愉悦に満ちた声と共にルーグが姿を現す。しかし‥‥
「これはまた趣味のいい悪戯だね。さすがはルーグくんだ」
アルヴィス・スヴィバル(ea2804)は目の前に現れた複数のルーグを忌々し気に睨み付ける。
「どうせ化けてるのは下級デビルなんだろ。だったら片っ端から潰すまでだ!」
「小細工もここまでだ。さっさと表舞台から退場しな!」
ルーグへの雪辱を果たさんとキット・ファゼータ(ea2307)は素早くソニックブームを放ち、ペガサスを駆る七神蒼汰(ea7244)は上空からルーグ達を強襲する。
「行くよ、師匠。埒を明けるとしようじゃないか!」
「了解! 飛ばすわよっ!」
アルヴィスとディーネが同時にウォーターボムを唱えると、集中攻撃を受けたルーグは醜い悲鳴を上げて木へと叩き付けられた。
「ルーグの狙いは僕だ。奴が何かを仕掛けてくる前にお前達だけでも逃げろ」
襲い掛かってくるルーグをレイピアで攻撃しながら、モルは隣で戦うルザリアに声をかける。
「すまないが置いていく事は出来ない。私は傍らで戦い続けるっ!」
「こんな時だけ頑固になるな!」
「心を預け頼るには誰だって勇気が要る。だが俺達は貴殿の中でそこまでの存在になっていると思う‥‥と言うのは自惚れだろうか?」
ラルフェン・シュスト(ec3546)は剣を振るいながら、モルの背中越しにそう窘める。
「守るんは、国の為だけやない。仲間やと思ってるからやで」
矢を射る合間、ジルベール・ダリエ(ec5609)はモルの頭をくしゃっと撫でる。
「アイツだけやけに落ち着き払ってる‥‥きっと本物だよ!」
ルーグ達に動きを観察していたフォーレの言葉を聞きつけ、キットは死角から彼女の指差す先に向けて突撃する。
「そろそろ遊ぶのも飽きたろ? ここで終わりにするぜ」
「ぐうっ!」
迅速な攻撃を避け切れず、ルーグはキットの刃によって腹部を深く切り裂かれた。
変身の解けたデビル達が止めを刺そうとするキットに纏わり付く。
「ふふっ、やるね‥‥悪いけど、まだ僕には‥‥やらなくてはならない事があるん、だよ‥‥」
息も絶え絶えの声で笑うと、ルーグはシャドゥボムを唱えモルを吹き飛ばす。
彼の近くにいたジル、ラルフェン、ルザリアが急ぎモルに駆け寄ろうとするが、ルーグの高速詠唱シャドウフィールドに阻まれてしまう。
「殺したりはしないよ‥‥とびきりの絶望をあげるだけさ‥‥」
「またクレアを囮にモルを揺さぶるつもりだろうが、そうはさせんぞ!」
ルーグの企みを知り、ラルフェンは暗闇の中で必死にモルを探す。
「モル、そいつの言う事に耳を貸すな!」
「あいつの言うこと聞いたらアカン!」
蒼汰とジルも叫びながらモルを探すが、何処までも続く様な暗闇は彼との邂逅を果たさせてくれない。
やがて晴れ行く闇。
駆け出す冒険者にほくそ笑むと、ルーグは忽然とその姿を消した。
「守りたいものが1つではなかったら‥‥お前達はどうする?」
一同に背を向けたまま、ぽつりとモルが呟く。
「戦う者が斃れればその背に負う全てが危険に晒される。だからそう簡単には死ねないさ。モルもそうだろう?」
「クレアさんかモルさんか選ばなアカン局面が来たら、俺らはモルさんを選ぶしかない。でもそんな事態になっても最後まで諦めへんし、逆転の機会は常に伺う」
ラルフェンとジルの答えを聞き、モルはゆっくりと振り返った。
「お前達が僕を想ってくれている様に、僕もお前達を想っている‥‥でも、クレアには僕しかいない」
浮かべられた哀しげな微笑と言葉の意味を、この時の一同が知る由もなかった。
彼らは気づいただろうか。
去り行くルーグの掌に、2つの白い玉が握られていた事を────。
(「フォモールはデビルと共闘していた筈‥‥この場に現れなければ別に集っているのかしら」)
ルースアン・テイルストン(ec4179)はリトルフライで森の上空を飛びながら、フォモールの痕跡を探す。
バロールが戦いに赴いていると言うのに、全く姿を見せない彼らに言い知れぬ不安を抱きながら。
「バロールが何で暴れてるのかは知らねえが、崇めてた神さんがデビルの走狗になったとかしたら、連中も面白くなかろう」
クロウ・ブラックフェザー(ea2562)もまた、フォモールの動向を調べていた。
深い森を抜けた彼らは、眼前に突如現れたあるものに目を見張る。
「これは‥‥バロールの居城‥‥?」
「奴等はこれを作ってやがったのか‥‥」
フォモール達は雄たけびを上げながら、城を隠していた木々に炎を放っていく。
紅蓮の炎に包まれた砦の如き城は、不気味な威圧感を放っていた────。