【禁じられた恋に祝福を】淡雪抱く優しき風
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■ショートシナリオ
担当:綾海ルナ
対応レベル:フリーlv
難易度:普通
成功報酬:0 G 65 C
参加人数:10人
サポート参加人数:3人
冒険期間:11月07日〜11月12日
リプレイ公開日:2009年11月15日
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●オープニング
出会いは戦場だった。
小さな体で懸命に味方を守ろうとするその姿に、天使を重ねていた。
そして戦いを終え帰還した時、彼女から贈られたのは『お誕生日おめでとうございます♪』と言う思いがけない祝福の言葉と、天使の様な甘くて優しいふわふわの笑顔。
年下で、しかも異種族だとわかっていたけれど‥‥気づけば恋に堕ちていた────。
どこか余裕を感じさせるいつもの様子とは異なり、ソファに座るジルベール・ダリエ(ec5609)の顔は少しだけ緊張に強張っていた。
「ジルさん、いらっしゃいませ♪」
笑顔で紅茶を運んできたアリシアに、ジルはハッとなり慌てて微笑む。
「おおきに。急に遊びに来てごめんな?」
「いいえ。いつでも大歓迎ですわ♪」
「そうだぞ。遠慮は無用だ」
そこに爽やかな笑みを湛えたフレッドが現れ、ジルの隣に腰を下ろした。
「珍しいな。ラヴィと一緒じゃないのか?」
「あの子はリースと一緒に買い物に行っとる。久々の兄妹水入らずを楽しんどる筈や。いつもは俺が引っ付いてるからなぁ」
楽しそうに兄のリース・フォード(ec4979)を振り回す恋人ラヴィサフィア・フォルミナム(ec5629)を想像し、ジルは優しく瞳を細めた。
「今日はロイエル家の皆に相談があって‥‥」
「まあまあジルさん! お久しぶりですわっ♪」
ジルの言葉は疾風の如きレミーの抱きつき攻撃により中断させられる。
こんな所を見たらラヴィのほっぺはヤキモチでぷっくり膨れてしまうかもしれない‥‥そう思いながらも、母の様な姉の様なレミーの抱擁を笑顔で享受するジルであった。
「‥‥あら? 今日はいつもよりお顔が緊張してますわね? さては私に相談事でも?」
「レミーさんには敵わんなぁ。仰る通りや」
苦笑するジルからすっと離れ、今度は好奇に満ちた瞳で彼を見つめるレミー。
そんな母にハラハラしつつ、フレッドとアリシアはジルの言葉を待った。
「実はな、最近ラヴィと結婚の約束してんけど‥‥」
その報告にロイエル兄妹は嬉しそうに顔を見合わせる。
「そうか。おめでとう」
「まあ、いよいよご夫婦になられますのね!」
「出会ってから直に熱い恋文を贈ったジルさんにしては、随分と慎重でしたのね。私、待ちくたびれてしまいましたわ」
素直な兄妹とは対照的な、からかうようなレミーの祝福の言葉に、ジルは照れ臭そうに頭を掻いた。
「偉い恥ずかしいけど、おおきにな? けどな、ラヴィは自分がハーフエルフやから式は諦めてるみたいなんや」
ジルの告白にアリシアは悲しそうに眉を瞳を伏せ、フレッドは何も言わずにその肩を優しく叩く。
そしてレミーはと言うと、先程とは打って変わった真摯な瞳でジルを見つめていた。
「あなたはそんなラヴィさんを見て、どうなさりたいのですか?」
「今までの人生の中で1番っちゅうくらい考えに考え抜いた。でも俺の答えは初めから決まっとる‥‥」
ジルは膝の上で節くれ立った大きな手を組み、レミーの瞳を見据えた。
一方その頃、ラヴィはジルの予想通りにリースを連れ回してお買い物を楽しんでいた。
「リィ兄さま! 次はあちらのお店に参りましょう♪」
「やれやれ、まだ買うのか?」
ラヴィの戦利品を抱え少しだけよろめきながら、リースは呆れた様に深い溜息をつく。
「あそこのお店の新作コート、とっても可愛いですのよ? あっ、お揃いの手袋も飾ってありましたっけ♪」
しかし兄の様子は全く気にも留めず、ラヴィはるんるんと商店街を跳ぶ様に歩く。
「物欲兎め‥‥」
ふわふわと舞う妹の白い髪を眺めながら、リースはくすっと笑みを洩らす。
こういう風に2人だけで買い物をする機会は、これが最後かもしれないと思いながら。
(「ジルベール、俺の可愛い妹を泣かしたら承知しないからな?」)
親友の穏やかな笑顔を思い浮かべ、リースは心の中でそっと呟く。
そしてラヴィの後を追って行った彼は、ある店の前で立ち止まっている小さな後姿に声をかけられずに立ち竦む。
彼女がジッと見つめているのは、店先に飾られた純白の花嫁衣裳。
兄馬鹿かもしれないが、そのドレスはラヴィをこの世で1番愛らしい花嫁にしてくれるだろうと、そう思った。
「ラヴィ‥‥」
「素敵なドレスなので思わず見惚れてしまいましたわ。さあ、参りましょう?」
振り返った笑顔は可憐で優しくて‥‥儚い淡雪の様だった。
「あの子が花嫁さんのドレスとかブーケとか生涯の誓いとか、そーいうのに人一倍憧れてんの知っとるから‥‥何とか夢叶えてやりたいなーって思っとる」
ジルは自らの願いを口にすると、3人の顔を見渡した。
「神様の前での正式な挙式は無理でも、ドレス着て親しい人らにおめでとうって言ってもらえる様な、そんな式をどーにか挙げたい。力貸してもらわれへんかな?」
キャメロットでは異種族婚がタブーだと重々承知している。
しかしジルは、女性が人生で最も輝く1日をラヴィにプレゼントしてあげたかった。
否、共に過ごしたいのだ。彼女を誰よりも愛する男として。
「水臭いな。親友と妹分の式に力を貸さない訳がないだろう?」
「私、今からワクワクして参りましたわ。素敵な式に致しましょうね♪」
「お願いされなくても勝手に段取りをつけるつもりでしたわよ?」
3人の答えと優しい瞳に込み上げる感情を抑え、ジルは人懐こい笑顔を見せる。
「皆、おおきに‥‥場所は人目につかない所なら何処でもええねん。誰に祝ってもらえるかが重要やから」
「そう言えばこの前、キャメロットから少し離れた森の中に古びた屋敷を見つけたな‥‥そこはどうだろうか?」
その屋敷は打ち捨てられていて所有者はいなさそうだと言う事、そして少々修理が必要そうだとフレッドは付け加える。
「ラヴィには当日まで内緒にする予定や」
「でしたらそのお屋敷を修理して欲しいと言う依頼を受けた、って事にするのはいかがでしょう? ラヴィに嘘をつくのはちょっぴり心苦しいですが‥‥」
「いい嘘でしたら問題ありませんわ。そう決まれば早速色々な物を手配しませんと!」
レミーはきっぱりと言い放つと、軽い足取りで居間を後にする。
その姿に一抹の不安を覚えながら、アリシアは自身の恋心を、フレッドは自らの中にある感情を見つめ直そうと決心するのだった。
「ジルベールさまー!」
買い物を終えて迎えに来てくれたのだろうか。
大きな声でジルの名を呼びながら、勢い良く駆けて来るラヴィ。
頬を薔薇色に染めた笑顔が近づいてくる度に、ジルの胸は愛しさに締めつけられる。
「買い物、楽しかったか?」
自らの胸に飛び込んできた小さな体をぎゅっと抱きしめながら、ジルはそう尋ねた。
「はい♪ 今日のラヴィは、自分でも吃驚するくらい我が儘さんだったかもしれませんわ」
「もっと我が儘になったらええねん。ラヴィは今までずっと我慢してきたんやから‥‥」
ハーフエルフの辛さを決して見せないいじらしさを、守りたいと思ったのはいつの日だったか。
「完全に俺の事を忘れてるね。まったく‥‥」
抱擁する2人を温かく見守りながら、リースは遠くに見えるロイエル家の屋敷に視線を移した。
「‥‥ジルベール、さま?」
「俺の前では我が儘でいてや‥‥」
熱を帯びた自らの想いが大切な淡雪を溶かしてしまわないかと恐れながらも、ジルは抱きしめる腕を解く事が出来なかった。
●リプレイ本文
●祝福の始まり
ジルベール・ダリエ(ec5609)が計画した秘密の結婚式の準備は、新婦となるラヴィサフィア・フォルミナム(ec5629)に内緒で進められていた。
「サプライズ結婚式、です♪ あ、あっちのリボンも素敵ですねぇ」
装飾に使う小物はカメリア・リード(ec2307)が。
「さすがシルフィちゃん。とっても素敵だわ♪」
シルフィ作の花嫁用髪飾りはマール・コンバラリア(ec4461)が。
「先程の店でも焼き菓子を買ってしまったが、こちらは1週間の期間限定ものか‥‥」
紅茶やお菓子はラルフェン・シュスト(ec3546)が。
「やっぱり薔薇は欠かせませんわね」
「こっちの花も乙女心を擽る色やわ〜♪」
「好きに選んでいいよ。俺はブーケ用に白い薔薇を買っていくね」
たくさんの花々はミシェル・コクトー(ec4318)、ヨーコ・オールビー(ec4989)、リース・フォード(ec4979)が。
「こ、これは何ですの!?」
「厄招きネコミミぼーるす人形(大ぼるさま)なの〜」
「乙女道で人気の品らしいんだ。ティーがレミーさん達にもあげたいって聞かなくて‥‥」
ロイエル家にプレゼントした物より小さめの、厄招きねこみみぼーるす人形(中ぼるさま)はラティアナ・グレイヴァード(ec4311)とラディアス・グレイヴァード(ec4310)が。
それぞれが想いを籠めて選んだ品々は、秘密裏に会場となる屋敷へと運ばれて行く。
「皆様、お屋敷のお掃除を頑張りましょうね♪」
屋敷へ向かいながら、何も知らないラヴィはふわりと微笑む。
「今度はジルベールお兄ちゃんとラヴィちゃんのけっ‥‥むぐー!」
「ふっ、2人が仲が良くて羨ましいってさ」
「照れるなぁ。あ、あはははは‥‥」
うっかりバラしそうになるラティに冷や汗をかきつつ、ラディとジルは引き攣った笑顔を浮かべる。
明らかに怪しい様子ではあったが、素直なラヴィはにこっと微笑んだ。
そして屋敷に到着にした一同は、早速作業に取りかかるのだった。
「これで床が抜ける心配はないな。次は壁か‥‥」
「暖炉掃除が終わった。俺も力仕事を手伝おう」
額の汗を拭うフレッドに、顔中煤だらけのラルフェンは温和な笑みを浮かべる。
屋敷はかなり傷んでいたが、カメリアの修繕案に従って着々と元の姿に甦りつつあった。
「うわ、雑草が伸び放題やん!」
「これは酷いね。でもほら‥‥ちゃんと花も咲いてるよ」
庭の手入れを担当するのはヨーコとリース。
2人は楽しく談笑しつつ、雑草を取り除いていく。
「レミーママのお手伝いするのー。いっぱいいっぱい頑張るのー♪」
「ふふっ、ありがとうございますわ。では一緒にお掃除をしましょうね?」
「うん!」
ティーは終始笑顔で、レミーにべったりと甘えながら一生懸命掃除に励んでいた。
「‥‥さてと。これだけあれば充分かな?」
森での狩りを終えたラディは獲物を担いで屋敷へと引き返すと、そのまま裏庭で捌いたり血を抜いたりを開始する。
「うら若きお嬢さん方に見せたりさせたりは酷だもんな」
ラディが案ずる乙女達は、厨房で起きた奇跡に抱き合って喜んでいた。
「ミシェルさん、とっても美味しいですわ!」
「いっぱいいっぱい努力なさいましたのね‥‥ラヴィは嬉しいですわっ」
「私の手にかかれば、これくらい当然でしてよ!」
ミシェルが作ったアップルパイの奇跡的な美味しさに、アリシアとラヴィは抱き合って嬉し涙を浮かべる。
‥‥しかしただでは終わらないのが魔女料理、である。
「見て下さい〜! 綺麗な葉っぱがいっぱいでしたよ〜」
「真っ赤で素敵ね。このリボンとも良く合いそうだわ♪」
カメリアが集めてきた落ち葉の鮮やかな色に、飾り付けを行っていたマールはにっこりと微笑む。
(「随分と華やかになってきたなぁ。けど、ラヴィは屋敷の修繕完了パーティーやって信じとるから一安心やね」)
ジルの友人ヴィタリーが用意してくれたカーテンに合わせ、装飾は着々と進んでいた。
ノルマン語で『大いなる感謝を友へ』と彫られた木の匙は、結婚式終了後にジルから感謝の気持ちを込めて皆に配られるのだった。
「一人で生きて行けない小さなラヴィが昨日の事の様なのにね。守っている様で実際は逆だったのかもしれない‥‥」
アリシアを誘いペガサスで花を摘みに来たリースは、彼女に振り返り独り言の様に呟く。
「この腕の中に、ずっといるものだと思っていたけれど‥‥寂しがりの俺の腕は空いちゃったみたいだ。ここに‥‥来てみる?」
「リィ‥‥」
「でもアリシアを苦しめてしまうだけかな。きっと一生出られなくなってしまうから。鳥籠みたいに、ね」
そう言い浮かべる笑みは寂しげで、アリシアの髪に触れる手は優しい。
アリシアはそれ以上何も言えなくなり、リースの背にギュッとしがみ付くのが精いっぱいだった。
●久遠の絆、幸福な未来
そして結婚式の朝。
「ラヴィに見せたいものって何ですの?」
「見てからのお楽しみー。絶対にいいって言うまで目を開けちゃダメなのー♪」
目を瞑ったラヴィはラティに手を引かれ、ある部屋に通された。
「ラヴィはん、目ぇ開けてみてや?」
ヨーコの声にゆっくりと目を開けたラヴィは、陽の光を浴びて輝く純白のウェディングドレスに息を飲む。
それはリースと買い物に行った時に、思わず目を奪われたあのドレスだった。
「これは‥‥」
「マールさんと一緒に選びましたのよ。気に入って頂けまして、花嫁さん?」
「ラヴィは‥‥夢を見てるのでしょうか?」
「夢じゃありませんわ。甘くて幸せな現実ですよ」
「アリシア姉さまぁ‥‥」
「あらあら、まだ泣くのは早いのですよー?」
「ラヴィちゃん、少しだけ目を閉じていてね。今からとっておきの魔法をかけるから‥‥」
マールはウインクをすると、ラヴィのふわふわの髪に優しく櫛を通した。
「メイクと三つ編みは我慢する。でもドレスだけは許して!」
「‥‥残念ですわ。でも、結婚式に悪ノリはいけませんわね。次の機会に取っておきましょう♪」
ミシェルは嬉々としてリースに美少女風メイクを施していく。
「こんな服を着たのは初めてだ。レミーさんってセンスがいいな‥‥」
「良く似合ってるぞ、ラディ。俺よりも貴族らしい」
「フレッドさんは貴族って言うより王子様やからなぁ」
「そう言うジルも立派な王子様だぞ? 主役に恥じない凛々しさだ」
「おおきに。ラヴィが惚れ直してくれるとええなぁ」
ジルがラヴィの花嫁姿に思いを馳せている頃。
「はい、完成♪ とっても素敵よ、ラヴィちゃん」
恥ずかしげに微笑むその姿に、女性達から感嘆の息が漏れる。
いよいよ式の始まりである────。
ラヴィの腕の中で、青く染め上げた薔薇が揺れている。
「‥‥とっても綺麗ですわ、リィ兄さま」
「お伽話の中でだけど、青い薔薇の花言葉は『神の祝福』なんだって。それに、青はジルベールの瞳の色だから‥‥」
せめてもの兄心だよと微笑むと、小さくて可愛い花嫁は瞳を潤ませて抱きついてきた。
「綺麗だよ、我が家のお姫様。これからはその優しい心と笑顔でジルベールを守ってあげなさい。お兄ちゃんはもう、大丈夫だから」
「リィ兄さま‥‥ありがとうございます‥‥」
昔の様に手を繋ぎながら、兄妹は祝福の歌を歌う皆の元までバージンロードを歩く。ゆっくりと1歩1歩を噛みしめる様に。
「もう返さへんで?」
「‥‥2人で幸せになれよ」
悪戯っぽく笑うジルに微笑みながら、リースは彼にラヴィを委ねた。
「リース、寂しいのに笑顔だなんてすごいな」
「ええ。強い人です」
淡い色合いの礼服を爽やかに着こなしているラディに、ふわふわのドレス姿のカメリアはぽつりと呟く。
リースを案じる姉アイリスの分まで、カメリアはずっと彼を案じていた。
「俺の花嫁さん。世界一綺麗やで‥‥」
ジルは暫しラヴィに見惚れた後、優しい顔で微笑む。
フラワーモチーフのレースを何枚も重ねた清楚なプリンセスラインのウェディングドレスは、まるでラヴィの為に作られたかの様だった。
綺麗に纏められた髪に、たくさんの花で彩られた可憐な髪飾りが映えている。
「ジルベールさまも、とっても素敵ですわ‥‥」
裾にレースが施されたベールの向こうで、首飾りと揃いのイヤリングとラヴィの瞳が揺れている。
金糸で刺繍を施した黒い礼服は、ジルの凛とした艶っぽさを充分に引きだしていた。その胸元を飾るのはブーケとお揃いのブートニアだ。
「今から俺と結婚しよ。皆が立会人や」
「‥‥はい」
2人は見つめ合った後、友人達に振り返る。
「まるで夢みたいにお2人とも素敵ですわ」
「ああ。だがミシェルもいつもより、その‥‥清楚で綺麗だ」
ほんの一瞬だけミシェルとフレッドは見つめ合い、真っ赤な顔で視線を逸らした。
「僭越ながら進行役を務めさせてもらう事となった。ジル、ラヴィ、皆の前で誓いの言葉を」
ラルフェンの言葉に新郎と新婦は再び向かい合う。
「ラヴィ、俺は人間やから、あっちゅう間にラヴィを残して居なくなるやろ。その代わり俺の残りの一分一秒、最後の息を吐ききるまで、全部をラヴィに捧げるわ」
ジルはロンググローブを嵌めたラヴィの手をそっと取った。
「ここにおる皆とラヴィと自分自身に誓う。‥‥永遠に愛してるで」
最高の愛の言葉に、ラヴィは泣き笑いの表情で頷く。
「ラヴィは小さいですし、ご迷惑ばっかりおかけしてしまうかもしれませんけれど‥‥でも、寂しがり屋のジルベールさまのお傍を決して離れませんわ」
逞しくて温かい大きな手にもう片方の手を重ね、ラヴィはジルの青い瞳を見つめる。
「誰に何と言われようと絶対に、ジルベールさまとずっと手を繋いでいます。‥‥だいすきですわ、ジルベールさま」
一途な想いに胸を打たれ、ジルは潤む瞳で微笑んだ。
「誓いの言葉の次は指輪の交換だ」
「教会の偉い人はダメって言うだろうけど、きっとセーラ様もおめでとうって言ってくれるのー」
ラルフェンの目配せを受け、フリルのいっぱい付いたドレス姿のラティがリングピローを運んでくる。
震える手でお互いの左手の薬指に指輪を嵌める2人を、一同は温かく見守っていた。
「では誓いのキスを。恥ずかしがってはダメだぞ?」
意地悪な司会の言葉に微笑み、ジルは真っ赤なラヴィのベールをそっと持ち上げる。
そしてその薔薇色の頬に優しく手を添え、夢の様に甘い口付けを落とす。
「う、あかん、何か泣きそうになってきた‥‥二人とも、幸せになるんやで!」
「ほらほら、泣かないの」
巻き髪の貴婦人風の装いのヨーコにハンカチーフを渡し、上品なシルクのドレスを身に纏ったマールはポケットの中の指輪にそっと触れる。
「2人はここに夫婦となった。互いに想いを、言葉を惜しむ事無く交わし理解を。如何なる時にも決してその手離さず支え合いを。痛みも喜びも真摯に受け止め共に拓く道は、真なる幸福へと導くだろう」
新郎新婦のサインの後、2人の誓いを見届けた全員が祝福の言葉を述べながらサインを書き込んでいく。
ラルフェンからそれを手渡された2人に、レミーはにっこりと微笑んだ。
「式の後は楽しいパーティーですわよ♪ 幸せいっぱいのお2人さん、あちらへどうぞ?」
「あ、待って下さいませ。その前に幸せのお裾分けですわ」
ラヴィはくるりと振り返り、手にしていたブーケを後方へ高く放る。
その瞬間を待っていたかの様に、レミーからイリュージョンのスクロールを手渡されていたラディは、透き通る空飛ぶ泡の幻を見せるのだった。
「ふえっ? 私が取っちゃいました‥‥」
ブーケは気合十分のヨーコの頭上を通り過ぎ、ぽすんとカメリアの腕の中に納まる。
「あー、悔しいなぁ! こうなったら無礼講のパーティーで思いっきり食べて飲んで騒ぐで〜!」
ヨーコの笑顔が合図となり、ジルとラヴィの幸せを願うパーティーの幕が開けた。
●この愛と共に君に口付けを
「これは俺からのプレゼントと、妹からの手紙だ」
「リュシエンナさんの手紙か? おおきに」
「厄はみんな中ぼるさまが引き受けてくれるから、きっと幸せになれるのー♪」
「いつも満月じゃつまらないでしょう?」
「そちらも素敵です‥‥ありがとうございますわ」
羽ばたく鳥と四葉のクローバーに、新郎新婦の誕生石と名前。そして今日の日付を記した栞はラルフェンから、厄招きねこみみぼーるす人形(中ぼるさま)2つはラティから、月が徐々に満ち欠けていく様子を描いた28枚の月の絵はマールから新郎新婦に手渡される。
「シチューもサーモンの香草焼きも美味いなぁ。酒が進むわ」
「ヨーコさん、今日はとことん付き合ってもらいますわよ?」
「負けへんで? よっしゃ、神さんが見てへん分うちが騒いだる。二人の恋に祝福を♪」
楽器をかき鳴らすヨーコとレミーの酒豪コンビは肩を組んで陽気に笑い合い、
「ミシェルさんのアップルパイ、美味しいのですよ〜」
「それ程でもありましてよ。では私も一口‥‥みゃっ!?」
「ど、どうしました? お顔が真っ青なのですよ!?」
ミシェルを襲った因果応報な展開にカメリアは慌て出し、
「フレッド、本当にいいのかな?」
「ああ、俺達は大歓迎だ。末永く宜しくな、兄上」
「‥‥うん」
ラティと共にロイエル家の養子入りが決まったラディは、フレッドに照れ臭そうな顔で微笑んだ。
「リィ‥‥」
「ん、どうしたの?」
そっとアリシアに手を握られ、リースは彼女に振り向く。
「あなたを愛しています‥‥」
それは突然の告白。
リースはただ、アリシアの碧色の瞳を見つめる事しか出来なかった。
「旅に出るのか?」
「ええ。年が明けたら‥‥」
フレッドに問われ、ミシェルはある言葉を期待する。
しかしカメリアから猫の人形と共に『あなたが一番大好きな人と結ばれる事があの子の幸せです』と告げられたフレッドは、引き止めたい想いをぐっと飲み込んだ。
「そうか。寂しくなるな」
未だ定まらぬ想いのまま、ミシェルを己が傍に縛り付ける事はできないと思いながら。
皆の笑顔に包まれたパーティーは、新郎新婦の言葉で締め括られる。
「お優しい皆様に見守られて素敵なお式が挙げられるなんて、ラヴィは世界一の幸せ者ですわ。本当に、本当に皆様、ありがとうございます」
「神様に認めてもらえんでも、大事な人たちに祝ってもらえたこと、ホンマに嬉しく思う。今日の思い出を糧に、何があってもこの先二人で頑張って行けるわ。皆の温かさを一生忘れへん。有難う」
並んで頭を下げる2人を温かな拍手が包み込む。
「ラヴィと会えて良かった。神様がヤキモチ妬くくらい仲良うしよな。ずっと」
「‥‥はい。愛してますわ、ジルベールさま」
愛しい夫に微笑み、ラヴィは初めての言葉を口にする。
生涯でただ一人、全身全霊の愛を捧ぐ大切な花嫁を抱きしめ、ジルはその唇に深い口付けを落とした────。