【ラーンス決着】野蛮なる進軍

■ショートシナリオ


担当:綾海ルナ

対応レベル:6〜10lv

難易度:難しい

成功報酬:5 G 40 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:11月15日〜11月20日

リプレイ公開日:2009年11月25日

●オープニング

●決着の時
 その日届いた手紙は、王宮を震撼させるに足るものであった。
 運んできたのはただの行商人。宛先はアーサー・ペンドラゴン。
 そして差出人は―――
「――ラーンス・ロット」
 エクスカリバー奪取事件に始まり様々な事件を経て、イギリス王国最強の騎士は今や追われる身となっていた。
 その彼からの手紙である。
 行商人の話によると、旅人らしき男が商いをしている自分に話しかけ、保存食を買った代金を渡すと同時にこの手紙を渡してきたとのこと。
 言葉はなく、しかしその手に握られたのは金貨。よって行商人は手紙に書かれた宛先へと持ってきたのだった。
(「‥‥監視されているのを恐れている、か?」)
 行商人の言葉通りなら手紙を渡した男――ラーンスは、誰にも知られないよう手紙を届けてほしかったのだろう。
 そこまでしてラーンスが届けたい内容とは‥‥アーサーは、意を決して手紙を広げる。

『――デビルは、王妃の命を盾にある事を私に要求した。
 それは、王宮の襲撃。
 デビルの話によると、円卓の騎士の離脱といいバロールの復活の騒ぎといい、今が絶好の機会らしい。
 狙いは王の命。最悪でも円卓の騎士クラスの重要人物の命。
 なら何故以前襲撃した時に狙わなかったのかと問うてみたものの、さすがにそれには答えなかった。

 ‥‥潮時、なのだろう。
 自分の過ちから重大な事件を引き起こし、それが更に多くの悲劇を生み出した。
 私はそれが許せぬとして、自分の力で何かを掴む‥‥そう思っていた。
 だが結局、その自己満足の行動の結果はこれだ。
 最早、私1人でできる事は‥‥無い。

 王妃の命を盾に取られている以上、私はデビルの言葉に従う他は無い。
 デビルもそれを分かっているようで、襲撃の際は私に力を貸すという。監視のついでだろうが。
 ‥‥そう、私はイギリス王国に剣を向ける。
 それは変えようのない事実だ。
 しかし、襲撃予定日時と予定ルートをここに記す。理由は語るまでもないことだろう。

 王よ、騎士よ、イギリス王国を守る戦士達よ。
 全身全霊を持って、イギリス王国に仇名す悪を――討ち滅ぼしてほしい』

●迎え撃つは
 ラーンスからの手紙とその内容がアーサー王から明かされ、王宮は2つの意見に揺れていた。
 この手紙が真とする者と偽りであり罠だとする者とに。
(「エクター殿は発たれる、か‥‥」)
 若き王宮騎士のフレッドは、背を伸ばし凛と歩くエクターの姿を遠くから見つめた。
 美しいその顔に迷いの色は見られない。
(「あの手紙に書かれていた事が真であれ嘘であれ、俺達が守るべきものは民と王の命だ」)
 万全を期す為に王宮、そしてキャメロットの町をぐるりと取り囲む様に騎士達が配置される事となっている。
 後者の任に就くフレッドは、決意を胸にざわめく王宮を後にした。

 程なくして、ラーンス・ロットの手紙に記されていた襲撃ルートとは別の場所でのデビル迎撃依頼がギルドに貼り出される。
 場所はキャメロットへと続く抜け道。隘路を進軍してきたデビル勢を冒険者側は川を挟んで迎え撃つ事となる。
 万が一そこを突破されても後方に騎士達による防衛線が敷かれているが、その数が想像以上に多かった場合は町にデビルの侵入を許す可能性が高い。
 そして敵の数は募集された冒険者よりも多い事は明らかであった。
 目的は撤退ではなく殲滅。
 決して負けられない戦いの幕が、静かに開けようとしていた。

「久々の戦‥‥腕が鳴る」
 青白い馬の上で巨大な剣が空を切り唸る。
 それを振るうは禍々しい鎧を着込んだ武士(もののふ)だが、その顔は人に非ず。
「奴等に遅れは取らんぞ。王の首はこのサブナクが貰い受ける!」   
 目に見えぬ不穏な何かを纏う大剣を再び振るい、獅子の面を持つデビルは卑しい笑みを浮かべた。

●今回の参加者

 ea0673 ルシフェル・クライム(32歳・♂・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 ea1274 ヤングヴラド・ツェペシュ(25歳・♂・テンプルナイト・人間・神聖ローマ帝国)
 eb8221 アヴァロン・アダマンタイト(29歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ロシア王国)
 ec0131 カジャ・ハイダル(37歳・♂・ウィザード・人間・イスパニア王国)
 ec2307 カメリア・リード(30歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・イギリス王国)
 ec4310 ラディアス・グレイヴァード(28歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ec4979 リース・フォード(22歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ec5609 ジルベール・ダリエ(34歳・♂・レンジャー・人間・ノルマン王国)

●リプレイ本文

●万全
 数多の命を守る為の戦いに参加した冒険者達は、信頼のおけるペットと共に戦場となる川辺へと急行した。
「川の深さはバラバラで橋は無し、か‥‥」
 敵側の岸辺の目立たぬ所に予備武器を置き終えたルシフェル・クライム(ea0673)は、再びウィングシールドに秘められたフライの魔法を発動させる。
 そして先程とは反対側の岸辺にもう1つの武器を置いた。エボリューション対策の為である。
「これで完成や」
 ジルベール・ダリエ(ec5609)が満足そうに眺めるのは、大小様々な落とし穴を設置した隘路の出口付近。
 落とし穴の底には矢尻を上にした複数のシルバーアローが仕込まれているのだが、落ち葉に隠されたそこに不自然さは全くない。
「ま、嫌がらせ程度やけどないよりマシやろ」 
 他にもルシフェルに手伝ってもらい投擲の仕掛けをいくつか設置してある。
 隘路に置いた板の端を敵が踏むと反対側の端にある聖水の壷が飛んでくる小型の罠も、一見するとその存在はわからなかった。
「これ位で平気かな?」
「お疲れさん。先に仕掛けといたぜ」
 集めてきた枯れ枝や枯れ草を見つめ、これで暖を取れば急激に体温を奪われる事態は防げるだろうと安堵するリース・フォード(ec4979)の肩を、ライトニングトラップを仕掛け終えたカジャ・ハイダル(ec0131)は軽く叩く。
「俺も別の場所に仕掛けて来るよ」
 予想される陸路の敵の進路には、川、川岸を問わずに複数のライトニングトラップが仕掛けられている。
 ペガサスのセフィロトに跨り飛翔したリースは、新たな罠を仕掛ける為に隘路の奥へと向かった。
「‥‥どうした?」
 アヴァロン・アダマンタイト(eb8221)は羽を逆立てている2頭のグリフォン、アウルムとクプルムを宥めながら遠くの空を見つめる。
 空には太陽と雲以外は何も浮かんでいないが、恐らくはデビルの接近を感じ取っただろう。
「ふはははははは! またも敵は雲霞の如くやって来るであるな。しかも今回は大将首付きとは! これは武者震いがするであるな〜!」
 ヤングヴラド・ツェペシュ(ea1274)は戦の前の高揚感と共に闘志が漲っている様だ。
「見敵必殺! サーチアンドデストロイ! 一匹も残さず殲滅なのだ!」
 ヴラドは専門レベルのボウを唱え己を強化した後、続けてブレッシングで刀を強化する。
「セレスト、危ない時は真っ先に逃げて下さいね?」
 カメリア・リード(ec2307)の言葉に鷹は甘える様な声で一鳴きし、葉の生い茂る木の枝に止まり身を隠す。討ち洩らしのデビルがいた場合、鳴いて知らせる為だ。
「例え全ては無理でも、少しでも多くのデビルを倒してフレッドの負担を減らすんだ!」
 近づいてくる上空の敵影を見つめ、ラディアス・グレイヴァード(ec4310)は弓に手をかける。
 それが躊躇いもなく笑って「兄上」と呼んでくれた彼に、自分が出来る事の一つだと己に言い聞かせながら。
 飛行デビル達が射程圏内に入ったのと、こちらの姿に気づいたのはほぼ同時であった。
 襲い来るインプとグレムリンに飛行手段を持つ渡河班は武器を構えて突撃する。
 戦いの火蓋は空中戦から切って落とされた。

●頼もしき連環
 投擲罠に聖水を振りかけられ、アガチオンと言う小人の様な姿をしたデビルが醜悪な叫び声を上げている。
「デビル共にこの国を蹂躙させはしない。必ず守る、必ず‥‥」
 大事なものを奪われたルシフェルの胸に渦巻くのは憎悪の炎だ。
 ウィングシールドで飛翔し戦う彼は、敬愛するトリスタンを奪われた憎しみを褐色の両刀に籠め敵を斬り伏せる。
 その近くで深紅の槍を振るうのは、アウルムに騎乗したアヴァロンだ。
「我が名はアヴァロン・アダマンタイト。邪悪なる悪魔共よ、これより先は一歩も通さん。この身は消して破れぬ盾と知れ!」
 唸りを上げる槍で敵を薙ぎ払い、アヴァロンは敵将サブナクの姿を探す。
 しかし隘路から出てくるのはライトニングトラップに混乱しているアガチオンだけだった。
「ホワイトベース、ホーリーフィールドを展開するのだ!」
 ペガサスに命令を下したヴラドは、ディバインプロテクションで守りを固める。
 渡河班で唯一地上で戦う彼は、水嵩の浅い場所で寒さに耐えながら漆黒の刀身を縦横無尽に振るい続ける。
「デビル共、いくらでも来たらエエ。この指輪にかけて、ここは通さへん!」
 ペガサスのネージュを駆るジルは、落とし穴に落ちもがく敵向けて矢を放つ。
 2つの弓技を組み合わせて敵を迎撃し続けるが、襲ってくるインプとグレムリンは後を絶たない。
「無理は禁物やな。空の敵はリィらに任して、俺は地上の敵に専念するで!」
 ジルはわざと後退し、空飛ぶデビルをセフィロトが唱えたホーリーフィールドの中で戦うウィザード達の魔法範囲内へと誘い込む。
 その刹那、リースは敵目がけて魔法を放った。
「喰らえ、怒りのサンダーボルト‥‥っ!」
 轟音と共に空を奔った稲妻は無防備な敵を焼き焦がす。
「‥‥キャメロットに一歩も踏み入れさせてなんか、やらない」
「親玉さーん、早く出てこないと子分の皆さんはみーんな私達がやっつけちゃいますからね〜?」 
 リースのストームで分散させられ落ち行く敵の集団を待っているのは、レミエラの効果で範囲を扇状にしたカメリアのライトニングサンダーボルトだ。
「とにかく連携重視だ! 敵が誘ってくる場合もある注意しろ!」
 地上をのたうつ間もなく、敵はカジャのローリンググラビティーによって地面に叩き付けられる。
「懲りない奴らだな。地上が地獄より恐ろしい場所だって思い知らせてやるか」
 それでも進軍を止めないアガチオン達は、不敵な笑みと共に放たれたグラビティーキャノンに次々と転倒していく。
 しかし戦況は冒険者側の圧倒的優位では決してなかった。
「味方の魔法を避けながらでは、思う様に救援できんか‥‥くっ!」
 後衛に下がって来たルシフェルは、悔しげに唇を噛みしめる。
 ホーリーガーリックの効果でウィザード達の周辺にいるデビルは弱体化していたが、それでもホーリーフィールドが途切れた一瞬の隙に攻撃を受けてしまう。
 しかしカジャの提案で側面と後方の防御を強化し、敵が正面から攻撃しやすい様に誘いながら戦っていた為、被害は最少で済んでいた。
「僕が聖なる釘で結界を張るから、回復はセフィロトのリカバーに頼って迎撃に専念しよう!」
 ラディの言葉に頷き、ウィザード達は寄り添い敵への攻撃を続ける。デーツの実を使用すれば、結界は50分ほど持つだろう。
 様々な弓技を組み合わせ、ラディは仲間の魔法の射線からずれた敵を矢継ぎ早に打ち落とす。
「フレッドの所へはそう簡単に行かせないからな? 大切な僕の新しい家族‥‥絶対に護る!」
 迷う事無なく放たれた矢は一直線に空へ昇り、デビルの眉間を射抜いた。

●茜色の平和
 どれ位の時が経っただろうか。
 主人の命を受け上空でデビルを迎撃するムーンドラゴンのクーと、イーグルドラゴンのザンジバルを照らす日は傾きつつあった。
 アガチオンを全滅させ残るは飛行デビルだけとなった頃、隘路から青白い馬に跨ったデビルが姿を現した。
「いい気になるなよ、人間共。1人残らずこのサブナクが血祭りに上げてくれるわ!」
 憤怒の表情を浮かべるの獅子の顔。
 かなり頭に血が上っていると読んだアヴァロンは、サブナクに下級デビルに止めを刺しす所を見せつけ、挑発的な眼差しを向ける。
「悪魔などと言っても所詮は雑魚。命が惜しくば早急に地獄に帰るがいい!」
「俺を愚弄した愚かさ、仲間の死を以って思い知るがいい!」 
 野蛮な咆哮を上げたサブナクは禍々しい巨剣を構え、最前衛で仲間の為に急ぎカリスマティックオーラを唱えていたヴラドに向かって突進する。
「危ないっ!」
 サブナクの登場と共に前衛に戻ったルシフェルは、ヴラドを庇い巨剣の連続攻撃を受け吹き飛ばされる。
 しかし巨剣は見た目に反し、その威力は深手を負わされる程ではなかった。
「見かけ倒しだな。これしきの攻撃、痛くも痒くもない」
「強がりを言っていられるのはいつまでだろうなぁ?」
 醜悪な笑顔を浮かべ再び巨剣を構えるサブナクを、アヴァロン、ルシフェル、ヴラドが囲み3方向から攻撃を仕掛けていく────防戦を装いじりじりと後退しながら。
「さっきの威勢はどうした?」
 サブナクを睨みつけながら、ルシフェルは6分間隔で襲い来るダメージに耐えていた。
 痛みは大した事がないが、攻撃の瞬間に重なると一瞬動きが鈍ってしまう。
「この巨剣の呪い、とくと思い知っ‥‥ぐうぅっ!?」
 嬉々としたサブナクの表情は、手首に深々と刺さった矢に一変し苦悶の歪みとなる。
 それは伏兵として機会を狙っていたジルの一撃であった。
「観念しぃ。あんたはもう逃げられへん」
「何だと!?」
 サブナクはいつの間にか自分が囲まれている事に気づく。
「あんたが誘き寄せられてる間に残ってた雑魚共は片づけといたぜ。ウィザード隊、連携すんぞ!」
 カジャのグラビディーキャノンはサブナクを馬ごと転倒させ、カメリアのライトニングサンダーボルトとリースのウィンドウスラッシュが同時に炸裂する。
 そして煙の中で何とか起き上ったその体に、ラディが放った無数の矢とルシフェルの剣、ヴラドの刀とアヴァロンの槍が突き刺さった。 
「ぐおおおぉぉぉぉっ!!」
 サブナクが消滅すると、ルシフェルを襲う呪いも消え去っていた。

「殲滅完了です♪」
 天使の羽ひとひらを燃やしデビルがいない事を確認したカメリアの隣で、リースは紋章の首飾りを見つめた。
(「おめでとうって言ってあげたかったなぁ。答えも、ちゃんと‥‥」)
 花の様な笑顔を無性に見たいと思いながら。
 並んで眺める夕日は美しく、一同は暫し勝利の余韻に浸る。
 そして思い浮かべるのは、同じ陽に照らされたキャメロットの人々の笑顔だった────。