【鈴蘭の恋】Trick or Love?

■ショートシナリオ


担当:綾海ルナ

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:11月24日〜11月29日

リプレイ公開日:2009年12月03日

●オープニング

 女の子にとって恋は大事。
 でも、友情だってそれと同じくらい大事。
 大好きなお友達には幸せになって欲しいもの‥‥。

 淡い海水を宝石にした様な指輪にそっと触れながら、優しい鈴蘭の妖精は月を見上げる。
 自分を包む幸福を少しだけ怖いと思いながら────。


 空気が凛とした冬のものに変わってきた気がする。
 その証拠に、冷え込む朝はこんなにも吐く息が白い。
 マール・コンバラリア(ec4461)はふわふわの手袋を嵌めた手を擦り合わせた後、シエラとシルフィの家のドアをノックした。
「マールさん? いらっしゃいませ♪」
「こんにちは、シルフィちゃん。突然お邪魔しちゃってゴメンね」
「ううん! マールさんなら大歓迎です。さあ、中へどうぞ♪」
 笑顔のシルフィに手招きをされ家の中に入ったマールは、テーブルに座っているあるモノに目を見張る。
「こんな気持ちは初めてだ‥‥寂しい。寂しい寂しい寂し‥‥」
「あ、あの今にも干乾びそうなのって、もしかしなくてもシエラさん?」
「そうなんです。レオンさんにずっと会えないのが寂しいらしくて、日に日に潤いがなくなってるんですよ」
 どよーんと重苦しい闇を背負い、椅子の上で膝をかかえて「寂しい」と連呼しているシエラは、はっきり言って怖過ぎだ。
「シエラさん、大丈夫?」
「‥‥これが大丈夫に見えるか。お前のその幸せオーラを分けてくれ‥‥うっ、ぐすっ‥‥」
「泣き出した‥‥これは重症ね」
「きっと、寂しいのとこんなにもレオンさんを恋しがる自分に大混乱なんだと思います」
 男勝りで色気よりも食い気純100%だったシエラ。
 そんな彼女がある夜にハーフエルフの渋カッコいい男性レオンと出会い、いつの間にか生まれて初めての恋に落ちた。
 初めて感じる『乙女な自分』と『恋の幸せと苦しさ』に、不器用なシエラは未だ慣れずにいるのだろう。
「キルシェさんやアゼルさんはよく遊びに来てくれるんですけど、レオンさんはお仕事が忙しいらしくて‥‥」
「そ、そうなんだ。あの2人からレオンさんの近況を聞けるけど、やっぱり会って顔が見たいわよね」
 アゼルの名前を聞き、マールに微かな動揺が走る。
 胸元にあるチェーンに通した指輪に服の上から触れれば、思い出すのはあの夜のプロポーズ。

『マール、俺のお嫁さんになってよ。一緒に幸せになろう』

 それはアゼルらしいプロポーズだった。
 まるでわんこの様に突然抱きついてくる事はあるけれど、彼はマールの返事を聞くまでは強引な行動に出る事はない。
(「その後のキスだって、ちゃんとお伺いを立ててくれたものね。少し掠れた甘い声とか、おねだりする様な潤んだ瞳とか、震える柔らかい唇とか‥‥全部が可愛かったな」)
 初めてのキスを思い出し、マールは頬を薔薇色に染める。
「‥‥今、アゼルのプロポーズとかキスとか思い出してたろ?」
「ふえっ!? そ、そんな事な‥‥」
「やーらしー」
「ち、違うってば!」
「お姉ちゃん! 僻み根性でオジサン化するのは止めてよね!」
 温かいホットミルクを3人分持って来たシルフィは、それをテーブルに置いた後にシエラの頭をぽかりと叩く。
「悪いな、さっきのは冗談。で、返事は決まってんだろ?」  
「う、うん。あの時はまさかプロポーズされるとは思ってなくて、お返事し損ねちゃったけど‥‥」 
「アゼルさん、遊びに来る度に『断られたら生きていけない』ってそわそわしてましたよ♪」
「ああ、鬱陶しい事この上なかったな」
 今のあんたがそれを言うか! と密かに心の中で突っ込みを入れる2人。
「わ、私の事はともかくっ! シエラさん、レオンさんに会いに行きましょうよ」
「どっ、どうして急にレオンの話になるんだよっ!? 無理だ無理っ! 忙しいのに押しかけてったら迷惑な奴じゃないか!」
「‥‥今の依頼から帰ってきたら、暫くはゆっくりするそうだ」
「へっ? そうなのか!?」
「ああ。だから今まで会えなかった寂しさを思いっきりぶつけてやるといい」
「でもそんな事をしたら嫌われ‥‥ってキルシェ!? お前、いつの間に家の中に侵入したんだ!?」
 いつの間にか会話に加わり、まったりとシエラの分のホットミルクを堪能するキルシェは、暫し考え込んだ後、
「マールがやらしいって言われてた所からだな。アゼルに報告すれば喜ぶ‥‥」
「違ーーう! あれはシエラさんの誤解よっ!」
「ん、なになに? 面白そうな話をしてるじゃんか」
「アゼルっ!?」
 そこにアゼルが現れ、マールは真っ赤な顔で俯く。
「マール、久しぶりだな。会えなくて寂しかったぜ。んーちゅっ」
「ひゃっ!!??」
 いきなりほっぺにキスをされ、マールは顔から湯気を出して固まってしまう。
「目の毒だ。自重しろ‥‥くそうっ」
「お姉ちゃん!? 泣かないでよ〜!」
「‥‥冬なのに発情期、か」
「悪りぃかよ? 好きなんだから仕方ねぇだろ!」
 ‥‥もはや何が何だか。
「こほん。と言う訳で、レオンさんのお休みに合わせて皆でお屋敷に行きましょう」
「楽しみだね、お姉ちゃん♪」
「あ、ああ。久しぶり過ぎてどんな顔して会ったらいいんだろう‥‥」
 マールの提案にもじもじとし出すシエラ。完全に乙女モードである。
「そうねぇ‥‥遅くなっちゃったけど、ハロウィンの仮装でお茶会なんてどうかしら?」
「お菓子をくれないと悪戯するぞー? ってアレだな? すげー楽しそう♪」
「‥‥お菓子を貰っても悪戯するけどな?」
 不敵に微笑むキルシェに、全員は心の中である少女に『逃げてー!』を叫ぶのだった。
「じゃあ、当日は俺達が迎えに来るな。一緒に屋敷まで行こうぜ」
「レオンも連れてくるから安心してくれ」
 アゼルとキルシェは笑顔でそう言うと、帰宅の準備をし始める。
(「もっとお話したかったな‥‥」)
 寂しげな瞳でアゼルの背中を見つめていたマールは、ふとキルシェと目が合った。
「‥‥俺は友達に挨拶をしてくる。少し待っていてくれ」
「別に構わねぇけど、友達って誰だよ?」
「鶏だ。お前の天敵のな?」
「げっ、あいつらかよ」
 友達が鶏って! しかもアゼルの天敵って! と乙女達は心の中で何度目かの突っ込みを入れる。
「マール、ちょっと外で話さねぇ?」
「う、うん‥‥」
 キルシェの心遣いに感謝しつつ、マールはコートと手袋を身に付けてアゼルと共に姉妹の家を後にした。

「寒くない?」
「うん。アゼルが温かいから平気よ」
 2人は木の枝に寄り添って座りながら、沈み行く夕日を眺めていた。
「あのさ、マール‥‥」
「なに?」
「プロポーズの返事、いつでもいいからな。俺、いつまででも待つ覚悟は出来てる」
 アゼルは温かい手でマールの頬に触れ、優しい瞳で微笑む。
「こうやって会う度に返事しなきゃ、って気負って欲しくない。マールの一生に関わる選択だから、ゆっくり考えて」
「‥‥うん。ありがとう」
 本当は返事なんてとっくに決まっている。
 だけどマールはアゼルの優しさが嬉しかった。
(「次に会える時にちゃんとお返事をするわ。だからもう少しだけ待っていてね、私のわんこ君‥‥」)
 隣にある温もりが、失う怖さを忘れさせてくれる程の一途な愛が、ずっと自分の傍らにある。
 幸せ過ぎて怖いという言葉の意味を、マールは身を以って感じていた。
(「いつか、皆で合同結婚式を出来たらいいな‥‥」)
 花嫁姿で幸せそうに微笑み合う自分達を想像し、マールはそっと瞳を閉じた。

●今回の参加者

 ec1007 ヒルケイプ・リーツ(26歳・♀・レンジャー・人間・フランク王国)
 ec4115 レン・オリミヤ(20歳・♀・レンジャー・ハーフエルフ・イスパニア王国)
 ec4163 ミリア・タッフタート(24歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ec4461 マール・コンバラリア(22歳・♀・ウィザード・シフール・イギリス王国)
 ec7123 カイト・キリヌマ(24歳・♂・鎧騎士・エルフ・アトランティス)

●リプレイ本文

●メイドさんは見た!
 久しぶりのシエラとの再会を、レオンは恭しい口付けと共に大層喜んでいた。
 しかし当のシエラは嬉しいやら恥ずかしいやらで、彼の顔をまともに見られずにいる様だ。
(「シエラさんったら相変わらずね。でも、せっかく会えたんだもの。もう少しだけ勇気を出して!」)
 マール・コンバラリア(ec4461)は心の中で親友にエールを送った後、傍らの恋人アゼルの横顔を見つめた。
(「アゼルが喜んでくれる様なお返事が出来るといいんだけど‥‥」)
 プロポーズの返事をどう答えたらいいのかと考え始めると、途端に胸はドキドキと騒ぎ始める。
「ん、どうした?」
 マールの視線に気づいたのか、アゼルは首を傾げて微笑む。
「ううん! 何でもないわ」
 マールは微かに熱い頬にそっと触れ、ふいっとアゼルから視線を逸らすのだった。
「カップルの人達をずっと見てると、モヤモヤしてくる‥‥」
 その様子を見ていたレン・オリミヤ(ec4115)は、深い溜息をついた。
「シルフィ、私達はどうしよう? 料理とか掃除とか‥‥する?」
「はい‥‥って、レンさん、可愛いっ!」
「一人じゃ恥ずかしいし、お揃いしてくれると‥‥嬉しい」
 もじもじとするメイド服姿のレンにシルフィが逆らえる訳もなく、彼女もいつの間にか同じ格好になっていた。
 そして2人のメイドさんは家事に勤しみつつ、さり気なく恋人達(若干一組は未満)を覗き‥‥目撃する為に箒を握りしめる!
「少し遅めですけれど、構いませんよね♪」 
 ヒルケイプ・リーツ(ec1007)は鼻歌を歌いながら蕪をくり抜いていく。
「このランタン‥‥目がハート型になってて可愛いな」
「ふふっ、気づきましたか? 特別仕様です♪」
「俺は星型にしてみる」
「わぁ! キルシェさんって器用なんですねぇ」
 ほのぼのオーラを放つ2人をメイド達は見つめた。
「キルシェ‥‥和む様で油断ならない男。意外と強引」
「ですがヒルケさんの嫌がる事はしないですよね」
 箒を掃きながら、メイド達はマールとアゼルの元へと向かう。
「なぁ、さっきから何を作ってるんだよ?」
「まだ秘密♪」
 小さな袋に一針一針想いを籠めていたマールは、それをアゼルに見られない様に背中へと隠す。
「俺、細かい作業って苦手なんだよなぁ」
「そんな事言わないで頑張って。ご褒美をあげるから」
「ご褒美ってキス?」
「もうっ! 喋ってばっかりいないで手を動かしなさいっ!」
 マールは真っ赤な顔でアゼルに背を向けた。
「アゼルさんって正直な方ですよね」
「欲望忠実。でも嫌われるのが怖くて強引にはなれないヘタレわんこ‥‥」
 さり気なく酷い事を言いながら、メイドさん達は荷物を抱えてミリア・タッフタート(ec4163)とルイスの側を通りかかる。
「うーん‥‥うーん‥‥」
「ミリアさん、もしかして具合が悪いのですか?」
 恋人達の様子を眺めていたミリアは、近づいてきたルイスからさり気なく距離を取る。
「だ、大丈夫大丈夫! ミリアはこの通り元気だよー」
「そう、ですか‥‥」
 あからさまに避けられた事にショックを受けながらも、ルイスは穏やかに微笑む。
「ミリアさん、どうしちゃったんでしょう?」
「大丈夫。意識してるだけだから‥‥」
 心配そうなシルフィにレンは僅かに微笑み、微かに赤いミリアの顔を見つめた。

●ハッピーハロウィンラヴ
 様々な想いが交錯する中、ハロウィンナイトのお茶会は賑やかに幕を開けた。
「お菓子をくれない人は着飾っちゃうわよ♪ 相手が惚れ直しちゃう位、ね?」
「‥‥この菓子を盗られるくらいなら仮装する」
「キルシェさん? 今日くらいは普段着って‥‥あぁっ!?」
 座敷童に扮したマールとキルシェの裏切り(?)の前に、ヒルケは呆気なくうさ耳天使に仮装させられてしまう。
「ヒルケにうさ耳‥‥もはや体の一部だな。とっても可愛い」
「あ、ありがとうございます。キルシェさんの吸血鬼さんもとっても素敵です‥‥」
 衣装によってミステリアスさを増したキルシェは、艶っぽく微笑むとヒルケの腰に手を回す。
「ひゃっ!」
「一緒に料理を食べよう。腹が減った‥‥」
 しかし口にする言葉はいつもの彼らしい。
 ヒルケはくすっと微笑むと、その腕にそっと体を寄せた。
「‥‥はふぅ」
「どうしたんですか、ミリアさん?」
「さっきから全然食べてない‥‥」
 食いしん坊のミリアがお皿の上の料理を持て余してる事に気づき、シルフィと白シーツお化け姿のレンは心配そうに声をかける。
「どかーん、ばちばちーだけが恋なのかなぁ? ミリアは明日も、明後日も、その先もずーっと幸せだね〜って笑っていられる恋がいいなぁ」
「ルイスとじゃ‥‥ダメ?」
「ううん。ルイスさんは大好き。お友達の皆も好き。楽しくって、優しくって好き」
 ミリアは自分の正直な気持ちを認める為に、そっと深呼吸をする。
「でも、ルイスさんは特別に好き。安心できるし、怖い事も、悲しい事も、寂しい事も、全部幸せに変えてくれるから好き‥‥大好き」
 ミリアは遠くで佇むルイスを見つめ、
「‥‥言ってくるっ!」
 意を決した様に彼の元へと走り出した。
「男と女どういうものかは知ってる‥‥けど、不思議。恋人ってすごく、くすぐったい感じ‥‥人の事なのに恥ずかしい、みたいな」
 その背を見送りながらレンは呟く。
「いつかレンさんをぽかぽかにしてくれる王子様が現れますよ♪」
 シルフィはぎゅっとレンに抱きつき、優しく微笑んだ。

「今夜も星が綺麗ですね」
「ああ。初めて会った夜みたいだな」
「‥‥実は私もそう思ってました」
 炎の指輪を嵌めたキルシェに肩を抱かれながら、ヒルケは嬉しそうに微笑む。
(「まるであの夜に戻ったみたいです。でもこの距離と温もりはあの頃とは違う‥‥こんなにも近くにキルシェさんがいて、心も寄り添えてる気がします」)
 自身が関わっていた事件が解決した安堵と、大事な人と一緒にいる安心感がヒルケを眠りの淵へと誘う。
「‥‥こんな所で寝たら風邪をひくぞ」
 やがて聞こえてきた健やかな寝息に微笑み、キルシェはヒルケを抱き上げて自室へと向かう。
 翌朝、ヒルケはキルシェに抱きしめられながら彼のベッドの中で目を覚ます。
 そして何もなかったのだと乙女達に必死で説明する羽目になるのは、もう少し後のお話である。
「ルイスさん!」
「どうしたんですか、そんなに息を切らして‥‥」
「ミリアね、ルイスさんが好き! 大好きっ!」
「えっ‥‥?」
 ミリアはぎゅっとルイスに抱きつく。
「あのね、ミリアは料理もお掃除も出来ないよ。全然家庭的じゃないよ」
「‥‥ええ、知っています」
「ずーーっとルイスさんの傍にも居られないし、きっとルイスさんと同じ恋も出来ないよ。それでもルイスさんは不幸じゃない?」
「あなたを失わずにいられるのならば、私は不幸になんてなりません」
「本当に? 嘘つかない? 怒らない?」
 まるで小さな子供の様に尋ねるミリアを、ルイスは熱の籠った優しい瞳で見つめる。
「ええ、本当です。それに怒る必要なんて何処にもありませんよ」
「本当に本当に本当??」
「ミリアさん、私を信じて下さい」
「‥‥うん。ミリアは何処に行っても、ルイスさんの所に帰って来たいよ」
「約束します。私はいつでも美味しいご飯を作って、あなたの帰りを待ってますから‥‥だから、安心して下さい」
「うんっ! 約束!」
 ミリアは満面の笑顔でルイスの唇にキスを落とす。
「えへへ、キスしちゃった♪ ‥‥あれ、ルイスさんっ!?」
 鼻血を噴きながら倒れるルイスを、ミリアは慌てて抱き起こすのだった。

●永久の誓いと幸福の涙
 月の光に照らされたペールブロッサムの裾を握りしめ、マールは未だ口の中にほんのりと残る甘酸っぱいジャムの味を飲み込んだ。
「アゼル、プロポーズのお返事をしていい?」
「あ、ああ‥‥」
 緊張した面持ちでアゼルはマールに向き直る。その目は不安げに揺れていた。
「大好きよ、アゼル。あなたのまっすぐな想いに戸惑った事もあったけど、気がつけば一緒に居るのが当たり前になっていた‥‥」
 出会いと共に告げられたのは「好きだ」と言う突然の告白だった。
「臆病な私に何度も手を差し伸べてくれてありがとう。いつか失う日が来るかもしれないって思うと少しだけ恐いけど、あなたを信じると決めたから‥‥今度は私から手を伸ばすわ」
 向けられる笑顔が、与えられる言葉が、そして惜しみない愛が、マールを強くしていた。喪失の恐怖を乗り越えられる程に。
「嫌われない様にうんと頑張るから、ずっと一緒にいさせてね」
 マールはアゼルから贈られた指輪を彼に手渡し、そっと左手を差し出した。
「‥‥返品不可、だからね?」
 震える声で精一杯そう告げるものの、アゼルはマールの顔を見つめるだけで動こうとしない。
(「もしかして、待たせている内に気が変わっちゃったの?」)
 湧き上がる不安を押し殺し、マールは再度口を開く。
「できればアゼルに嵌めてもらいたいんだけど‥‥駄目?」
「‥‥あっ。ご、ごめん! まだ信じられなくて‥‥本当にいいのか?」
「うん。私をアゼルのお嫁さんにしてくれる?」
 ホッとした様に微笑むマールを言葉もなく抱きしめた後、アゼルは震える手でマールの左手の薬指に指輪を嵌める。
「俺は絶対にマールを遺して死なない。それに今のまんまのマールが大好きだ。だから頑張らなくたっていい」
「アゼル‥‥」
「それに一生離さないし傍にいる」
 嬉し涙で歪む視界の向こうで、愛しい人は陽だまりの様な笑顔を浮かべていた。
「あのね、これを受け取ってくれる?」
 マールはハーフハートのペンダントが入った南天と雛菊の刺繍入りの袋をアゼルに手渡す。
「頑張ったんだけどあんまり上手に出来なくて‥‥捨てちゃっても良いからね」 
「捨てる訳ねぇだろ? こんなになるまで頑張ってくれたのにさ」
 傷だらけの指一本一本に落とされた唇は、最後にマールの唇へと辿り着く。
 甘く深い口付けを迎え入れた時、マールの瞳から幸せの涙が零れ落ちた。
「俺、日に日にマールの事が好きになってる」 
「私も同じよ、アゼル‥‥」
 南天と雛菊の花言葉を無意識の内に交わし、婚約者となった2人は幸せそうに微笑み合う。
 それは鈴蘭の恋が愛に変わった瞬間であった────。