【聖剣の誘い】裏切りのモードレッド

■ショートシナリオ


担当:綾海ルナ

対応レベル:6〜10lv

難易度:普通

成功報酬:4 G 83 C

参加人数:8人

サポート参加人数:1人

冒険期間:11月28日〜12月06日

リプレイ公開日:2009年12月05日

●オープニング

 暗闇の中でデビルが囁いた。
 大事なものを守る為には、もうこれしか道が残されていないのだ、と。

 そして少年は愛するものの為にその手を取った。
 ずっと求めてやまなかったものと引き換えに────。


●闇を選びしは誰が為か
 南方遺跡群の森の中に建てられたバロールの居城は、堅固な砦の様であった。
 その仄暗い一室にて、ルーグは新たな配下となった者を見下ろしていた。
「少しは僕達に近くなってきたみたいだね。我慢しないで衝動に身を任せた方が楽だよ?」
「我慢などしていない。無駄な体力を使いたくないだけだ」
「おや、僕の可愛い部下は相変わらず不遜だね。そう言う所が気に入ってるんだけど‥‥口の利き方には気をつけた方がいいよ?」
 ルーグは口元だけで微笑むと、眼前の配下に白い球を見せつける。
「君が完全に僕達の仲間になるまで、いつだってこれを壊す事が出来るんだ。そうなったら君の払った犠牲と捧げた魂の一部は全くの無駄になる」
 ルーグがそれを手にした瞬間、配下の顔色がサッと変わる。
 どこか悔しげな表情で視線を逸らすその様子に瞳を細め、ルーグは白い球をマントの下へと隠した。
「野蛮なフォモール達の部隊編成も何とか終わったし、戦支度もあと一歩だ。そこで君に重要な任務を与えたい」
「‥‥何をすればいい」
「聖剣カラドボルグを取って来て欲しいんだ。在り処はとっくに見当が付いてるけど、生憎あの場所に僕達は入れなくてね」
 目を見張る配下にゆっくりと近づきながら、ルーグは言葉を続ける。
「あの剣はバロールに対抗する武器として生み出された。そしてモーリアンと言う偉い女神様からエフネに託され、とある場所に隠されてるって訳さ」
「バロールを倒す剣を、奴の娘であるエフネにか?」
「彼らは本当の親子じゃないよ。だって似ても似つかないだろう?」
 含みのある答えを返し、ルーグは配下にカラドボルグの在り処を記した地図を手渡す。
「エフネがカラドボルグを人間共に渡す前に手に入れたい。失敗は許されないよ」
「バロールの為にか?」
「それは違うよ。アスタロト様の為さ」
 吐息と共に耳を掠める声音に、配下は僅かに眉を顰める。
「バロール達と人間共を争わせ疲弊させる。そして君がカラドボルグで奴の息の根を止めるんだ」
「‥‥端から狙いは南方遺跡群の地を支配下に治める事だったのか」
「それも違うね。南方遺跡群の地はイギリス征服の足がかりさ」
 ルーグは愉しそうな笑い声を洩らし、配下へと背を向ける。
 そしてそのまま部屋を後にしようとした彼は、何かを思い出したかの様に振り返った。
「そうだ。ついでにあの女を始末しといてよ。地下牢に閉じ込めっ放しだったから、もう干乾びて死んでるかもしれないけど」
「生きていたら道案内をさせるが構わないか?」
「ああ、君はこの地に不慣れだったね。好きにしていいよ」
 興味もなさそうに言い放つ後ろ姿が見えなくなった後、配下は地下牢へと向かう。
「‥‥何か用?」
「ルーグからお前の始末を命じられた」
 扉越しから聞こえる配下の言葉に、痩せ細った少女────シンディはそっと瞳を閉じる。
 ルーグにチャームをかけられ手駒とされていた哀れな少女は、魔法の効果が切れ正気を取り戻していた。
「いよいよ私は殺されちゃうのね。でも生きていたって皆に合わせる顔がないもの。このまま此処で気を違えて死ぬよりはましだわ」
「その前にある場所まで案内をしろ。出立の朝にまた迎えに来る」
 配下はそう言い残し地下牢を後にした。
「本当はリラン様や皆にもう1度だけ会いたかったな‥‥」
 シンディはそう呟き、暗く冷たい牢の中で独り涙を流すのだった。

 そして数日後。
「やっぱりあなただったのね‥‥」
 シンディは扉の向こうの配下を見つめ、複雑な表情を浮かべる。
「気づいていたのか?」
「ええ。だって声を聞いた事があるもの。ねえ、どうして?」
 尋ねる言葉にたくさんの意味を持たせ、シンディは配下をジッと見つめた。
「もうすぐ死ぬ人間に話して何になる。無駄話をしてないで発つぞ」
 配下は彼女の問いには答えず、踵を返して階段を上がっていく。
「それにこの足音‥‥」
 シンディはもうひとつの予想を確信に変え、慌てて配下の後を追った。
 ルーグの地図によると、カラドボルグが隠されている場所は森の奥深くにある泉の傍だ。
 そしてその森はリランとして活動していたエフネが住む教会と同じものだった。
「ずっと前にルーグが『契約』をしたいって言っていたのは、あなたの事だったのね」
「‥‥さあな」
「私、あなたに言いたい事が‥‥ううん、伝えたい事があるの」
「無駄話をする余裕はないと言っただろう。道案内以外は口を開くな」
 少し離れた場所から下級デビルがこちらを見張っているのに気付いた配下は、冷たい口調でそう言い捨てる。
 取り付く島のないその言葉に会話は途切れ、シンディはもどかしい気持ちで唇を噛んだ。
(「本当にいいの? 本当にこれがあなたの望んだ道なの? モードレッドさん‥‥」)
 風に揺れる赤毛と無言の背中を見つめながら、心の中でしか尋ねる事が出来ないシンディであった。

●望んで絶つ絆
 モードレッドがシンディと共にカラドボルグの眠る森へと旅立った頃、キャメロットの冒険者ギルドに南方遺跡群からの商人が訪れていた。
「これを届けて欲しいって頼まれたんだ」
 商人は背負っていた荷物の中から、一通の手紙と金貨の入った袋を取り出す。
「これは依頼の手紙かしら?」
「詳しい事は俺にもわからないよ。じゃあ確かに届けたからな」
 商人は受付嬢の問いに肩を竦めると、そのままギルドカウンターを後にする。
「あっ! 待って、詳しいお話を‥‥」
「悪いけど俺も忙しいんだ。これを売り捌くまでは家族の所に帰れないからな」
 ギルドの入り口で商人は振り返り、背の荷物を指差す。
 それはキャメロットではあまり見かけない柄の毛織物だった。
「手紙と依頼金を托した人について聞きたかったけど‥‥仕方ないわよね」
 受付嬢は溜息をつき、同封されていた地図を眺める。
「身柄の引き渡し場所が森の奥にある泉の傍だなんて、犯人はよっぽど用心深いのね」
 それは誘拐された少女の救助依頼であった。
 少女の名はシンディ。
 依頼人の名は記されていなかった。

(「僕に残された時間は後どれくらいだろうか‥‥」)
 自らの心の奥底から襲い来る破壊的な衝動に、モードレッドは必死で耐えていた。
(「完全なるデビノマニになれば、僕の人としての意識はなくなる。クレアや皆の事も忘れてしまうかもしれない。だが‥‥」)
 そうなった時に初めて、ルーグと交わした『クレアに今後一切危害を加えない』と言う約束は果されるのだ。
 自分がいなくなればクレアはきっと悲しむだろう。
 だが生きている限りは新たな温かい縁を築く事が出来る。
(「クレア、僕の為に生きる人生はもう終わりだ。これからは自分自身の為に生きてくれ」)
 これで良かったのだと己に言い聞かせながらも、失ったものの大きさにモードレッドの胸は痛む。
 しかしかけがえのない仲間達との思い出が、闇に沈み行く心に歯止めをかけていた。
(「モードレッドさん、あなたはルーグに騙されているのよ!」)
 今すぐにでもモードレッドに真実を伝えたいシンディだが、間近に感じるデビルの気配にその想いは叶わない。
 哀しい邂逅の時が近づきつつあった────。 

●今回の参加者

 ea0640 グラディ・アトール(28歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea6228 雪切 刀也(27歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb5522 フィオナ・ファルケナーゲ(32歳・♀・バード・シフール・フランク王国)
 ec1621 ルザリア・レイバーン(33歳・♀・神聖騎士・人間・ロシア王国)
 ec3876 アイリス・リード(30歳・♀・クレリック・ハーフエルフ・イギリス王国)
 ec4318 ミシェル・コクトー(23歳・♀・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ec4979 リース・フォード(22歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ec5023 ヴィタリー・チャイカ(36歳・♂・クレリック・人間・ロシア王国)

●サポート参加者

ニノン・サジュマン(ec5845

●リプレイ本文

●友の影
 シンディの救出依頼を受けた一同は、二手に分かれて行動し始める。
「デビル側の事情に詳しい人物でなければ、こんな依頼は出しえないと思うが‥‥気になるな」
「ああ。私もそう思う‥‥ん?」
 ヴィタリー・チャイカ(ec5023)の呟きに頷いたルザリア・レイバーン(ec1621)は、ニノンが調べてくれた南方遺跡群独特の毛織物を広げている商人を発見し足を止めた。
「‥‥顔の特徴も毛織物の柄も一致する。ミカヤのお手柄だな」
 雪切刀也(ea6228)に頭を撫でられ、ヴィタリーの相棒・ルームのミカヤは嬉しそうに瞳を細める。ミカヤがパーストを唱え、その証言を元に描いた刀也の似顔絵が功を奏した様だ。
 3人が近づき事情を説明すると、商人は伸びた髭をさすりながら口を開く。
「フードから覗いてた髪は真っ赤だったな。それに一瞬だけだったが、青い目が見えた気がするよ」
 思わぬ人物の可能性が急浮上し、3人は顔を見合わせる。
「背はあまり高くなくて、声の調子からすると少年だったと思う。酷く思い詰めている様子が気になって、思わず引き受けちまったんだよなぁ」
 商人に丁重に礼を言いその場を立ち去る3人。その胸中にある考えは同じであった。
「彼に依頼を託したのは恐らくモードレッド卿だよな?」
「ああ。だが卿ならばご自分の名でギルドに依頼を出す筈だ。解せぬな」
「もしかしたら阿蒙に変身したデビルの罠かもしれない。しかしこんな事をして奴らに何のメリットがあるのだろうか‥‥」
 湧き上がる疑念をそのままに、3人はシンディ救出の為にキャメロットを発つ。
 その先で待つ真実に向かって。

 その頃、ミシェル・コクトー(ec4318)とリース・フォード(ec4979)はリランの元を訪れていた。
「今日はいい知らせを持って来ましたの。もうすぐシンディに会えますわよ」
「本当ですか!? 今、あの子は何処に?」
 安堵が極まり今にも泣き出しそうなリランに、リースはシンディの現状を包み隠さず説明する。
「リラン、シンディをここに連れて来てもいいかな? きっと皆に会いたいと思っていると思うんだ」 
「断る理由などありません。皆もシンディの事を案じておりますから、帰って来てくれたら喜ぶでしょう。ただ‥‥」
「依頼人については不明。何故その場所を指定したのかも謎‥‥不安は最もですわよね」
「それもあるのですが、その場所には私が護ってきたものが────聖剣カラドボルグが眠っているのです」
 思いもかけぬ話に息を飲むリースとミシェルに、リランは言葉を続ける。
 モーリアンと言う気高き女神に導かれ、彼女はある使命を帯びこの地を訪れたのだが、それを果たす事が出来なかった。
 悔いる彼女にモーリアンは聖剣カラドボルグを託し、それを手にするのに相応しい者を探す様に命じたのだ。 
「聖剣はバロールを倒す切り札の一つ‥‥託された使命って‥‥」
「父を‥‥バロールを封印する事です。ですが私は娘としての情を持ってしまった。それ故に封印は不完全となり、バロールは再び目覚めてしまったのです」
「モーリアンはそれを見越して聖剣を用意したのですね。ですがリラン、本当にあなたはそれで平気ですの?」
 ミシェルの問いにリランは寂しげに微笑む。
「バロールを完全に封印できた時こそ、私の情も報われるのかもしれません‥‥」
 その言葉の意味を理解できぬまま、2人はリランの元を後にする。
 ペガサスのセフィロトに相乗りをしながら、ミシェルはリースの背にぎゅっとしがみ付く。
「どうしたの?」
「こうして2人で過ごすの久しぶりな気がしただけですわ‥‥」
 頭を親友の背に寄せ、ミシェルは暫し瞳を閉じた。

●向こう岸から君を想う
 願いが強い程、打ち砕かれた時の痛みは大きなものとなる。
「ルーグに利用されてるだけだよな? こうするしかなかったんだよな、モル?」
 グラディ・アトール(ea0640)は、シンディに剣を突き付けるモルに心痛な面持ちで尋ねる。
 彼の青白い顔とは正反対に、腰に帯びているもう片方の剣は温かな光を放っていた。
「生憎だが僕はルーグの配下となった。これからはお前達の敵だ」
「そんな‥‥わたくしの最も近しい人と愛しい人が、どれほど嘆くか‥‥どう伝えろと言うのですっ‥‥」
 悪夢の様な事実に、アイリス・リード(ec3876)はがっくりと膝を着く。
「嘘よ‥‥、モルくんがデビルの味方だなんて‥‥」
 呆然と呟くフィオナ・ファルケナーゲ(eb5522)だが、それはこちらを伺っている見張りデビルを欺く為の芝居であった。
(「どうせデビルに弱みでも握られてるんでしょ。モルくんったら単純なんだから」)
 同じ事を先程アイリスの服の中からテレパシーで尋ねたのだが、モルからの返事はない。
 だが3人の姿を発見した時、モルが微かに安堵したかの様に見えたのは見間違いではない筈だ。
「お願いだ、モル‥‥お前一人で思いつめないでくれ。俺達を、仲間を頼って欲しいんだ」
「貴様らの友達ごっこに付き合うのにはもう飽きた」
 モルはグラディの真心を踏み躙る。
「それでも、わたくし達は‥‥!」
 セフィロトの羽ばたきを耳にしたアイリスは、見張りデビルにコアギュレイトを唱えた。
 次の瞬間、リースのライトニングサンダーボルトとデビルの悲鳴が森に響き渡る。
「何もかもをクレアと引き換えに、人である事も止めるのか!?」
 そこにヴィタリー達も息を切らしながら姿を現した。
「どうして俺の周りは、こう言うのが多いんだろうな‥‥全く」
 刀也は軋む心の音を聞いた。己とモルの悲痛な音を。
「豪州で友となれた筈の者を殺し、故国では尚酷い事があった。だからずっと動いていた。それがエゴと独善だと理解していても」
 天使に声をかけ、天照に願ったのもその為だ。まるで縋るかの様に。
「愛するが故に堕ちる‥‥貴方が少し羨ましいくらいですわ。だって何よりも大切な存在がいると言う事ですもの」
 自分も同じ立場なら疑いなく剣を捨てただろう。
 ミシェルは剣を持つモルの手を鞭で絡め取る。
「シンディ! こっちだ!」
 ホーリーフィールドの中で叫ぶヴィタリーにシンディは戸惑っていたが、微かに体を揺らした後に駆け出し彼の胸の中へと飛び込む。
「お願い、モードレッドさんを助けて!」
「勿論だとも」
 ヴィタリーはシンディを抱きしめ、優しく頭を撫でてやる。
「貴方とクレアが望んでいるのは身勝手な願いだ」
 見張りのデビルに止めを刺したリースはモルを静かな瞳で見つめた。
 人が人を想うのは身勝手なものかもしれないと思いながら。
「けれど心を亡くせば温かで柔らかい想いまで捨てる事になる。貴方が望んだのはそんな事なのですか?」
 モルは何も答えない。
 まるで手が届かない場所に行ってしまった気がして、ルザリアは美しい顔を歪ませる。
「モードレッド卿、何故だ‥‥」
「これから殺す男に理由を問うとは愚かな女だ」
「殺せる訳がないだろうっ!」
「馬鹿だな。お前は‥‥」
 モルは解いた鞭を放り投げ、剣を構え駆ける。
 だがその切っ先に、瞳に、微塵の殺気もない。モルは────泣いている様に見えた。  
「刀は相手を断ち切る物。が、素材が良くとも『こんな打ち直していない刀』で出来るものなのかね‥‥断ち切る以外の事に使うしかない。そうは思わないか? 俺は‥‥お前との縁を断ち切るつもりは無い」
 胸に過る約束にモルの顔が一瞬だけ歪む。
「絶望を希望に変える道は必ず残されている筈なんだ。だから戻って来い! 俺達の所に‥‥!」
「戻る気などないっ!」
 モルは刀也から離れ、叫びながらグラディに斬りかかった。戻りたがる己を振り切る様に。
『モルくん、絶対に人としての意識を手放しちゃ駄目よ。その瞬間、あなたはあなたじゃなくなっちゃうのよ!』
 新たな見張りが観察している事に気付いたフィオナは、再度テレパシーで呼びかける。
『それで全てを守れるのならば‥‥僕など要らない』
 零れ落ちた、ただ一言の本心。
 フィオナはモルの想いに気づく。
「想いの強さ故に道を踏み外し、周りの人や自分自身を苦しめてはいけません!」
 アイリスが叫んだのと、自ら飛び込んできたかの様なモルの体をルザリアの剣が切り裂いたのはほぼ同時であった。
 顔を強張らせる彼女にモルは声もなく「行け」と呟く。
 そして瞳にルザリアへの愛しさを潜ませ、血の滲む口元で儚く微笑んだ。
「‥‥貴方の無事を願う者も多いのですよ」
 リースは膝を着くモルに薬とクッキーを手渡し、踵を返す。
「私は貴方を信じますわ。だから‥‥貴方も貴方を信じる皆を信じて」
 ミシェルの呟きにモルは答えず、シンディと共に去り行く仲間の背を見つめた。
 過ぎ去りし優しい日々に、彼らの元へ戻れたらどれほど幸せだろうか。しかし道を別ったのは自分自身なのだ。
「あれが‥‥お前の持ち主に相応しい奴らだ」
 程なく聖剣から返ってきた問いにモルは微笑む。
「ああ。やっと見つけた。大事なものを全て守れる道を‥‥」
 
「デビノマニ契約をしたデビルは、その約束を違える事も相手を傷つける事を出来ないの。なのにルーグはモードレッドさんを脅しているのよ」
 テレパシーリングをヴィタリーに返した瞬間、シンディの瞳から涙が零れ落ちる。
「それを伝えた時、彼は『ありがとう』って言ったの。お礼を言いたいのは私の方なのに‥‥」
 地下牢に閉じ込められていた自分に毎日食事を運んで来てくれたのはモルだと、シンディは出発の日に聞いた足音で確信していた。
 きっと依頼も彼からのものだと告げるシンディを、ヴィタリーは優しく抱きしめる。
「シンディ、君は優しい子だ。それに試練から立ち上がる者を神は見捨てはしない。勿論、仲間もだ」
 優しい言葉と瞳に、シンディは幼くも美しい顔を歪ませる。
 そしてリランの元に戻った彼女は、笑顔で仲間と抱擁するのだった。
 喜びと悲しみ、再会と別離を織りなしながら、物語は終焉を迎える────。