【バロール決戦】災禍の終焉と優しき奇跡を
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■イベントシナリオ
担当:綾海ルナ
対応レベル:6〜10lv
難易度:難しい
成功報酬:0 G 90 C
参加人数:39人
サポート参加人数:-人
冒険期間:12月12日〜12月12日
リプレイ公開日:2009年12月20日
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●オープニング
●結束の力で討て
フォモールの雄叫びとデビルの羽音────物々しい音が暗闇の森に響く。
(「ここまで戦支度が進んでいたとは‥‥」)
南方遺跡群領主の命を受けバロールの居城を偵察しに来ていた騎士は、ごくりと喉を鳴らす。
城と言うよりは砦と称するのが相応しい居城は堅固であり、空を飛び交うデビルの数の多さと相まって禍々しい雰囲気を放っていた。
暗闇を照らす篝火の元、たくさんのフォモールが一心不乱に動き回っていた。
左右の物見塔には弓を構えたフォモールが周囲を警戒しており、塀の上には複数の投石機が仕掛けられている。
(「2階の中央部分がバロールの居室だろうか‥‥いや、ルーグと言うデビルの可能性もあるな」)
大地を踏みしめる音とフォモール達の怒号が空気を震わせる。恐らくは居城内の敷地にて戦闘訓練をしているのだろう。
騎士は足音を忍ばせ、そっと森を後にする。
そして彼が持ち帰った『バロール勢進軍の時は近し』と言う報告を受けた南方遺跡群領主は、兼ねてより結成してあった騎士と有志の男性による混合部隊に出撃の命を下した。
そしてキャメロットへの応援要請の書簡を送った後、先手必勝とばかりに馬を駆り攻城戦を仕掛けたのだ。
しかし‥‥
「くっ! これでは近づく事すら出来ん!」
「あいつら、何処からあんなでかい石を運んで来たんだよっ!」
上空からのデビルの奇襲に加え、高所から射撃攻撃、そして大小様々な投石攻撃により、南方遺跡群部隊は成す術もなくその数を減らしていった。
引き際を見誤らなかったのが不幸中の幸いとでも言うべきか。
その数を半数に減らした南方遺跡群部隊は一時撤退し、キャメロットからの応援部隊の到着を待ち軍備を整えるのだった。
●誰が為の生か
味方の撤退の為に最後尾で戦っていた騎士を複数のフォモールが取り囲み、容赦もなく武器を振り降ろしていく。
その様を居城の防壁上から見つめながら、フォモール部隊の指揮を執るアスファは固く眉根を寄せた。
(「我らはバロール様の為の捨石。その為には誇りなどいらない。だが‥‥」)
身近な者を守り通せずに掲げる大義に何の意味があるのか?
負の連鎖の只中に在ってはいけない。子やその子孫の為に絶ち切るべきだ。
復讐を行う暗い未来ではなく、別の道を行く事は考えられないのか?
いつかの冒険者の言葉が蘇る。
彼らがひた向きに語りかける中、自分は心の中の動揺を押し殺してそれを拒絶した。
「この戦い、迷えば死ぬぞ」
聞こえてきた声に振り返れば、人である事を捨てルーグの配下となったモードレッドの姿があった。
「いざ戦となれば迷いも振り切れよう。そう言うお前はルーグの護衛か?」
「僕はある役目を与えられている。その時までは大人しくしていろと言われた」
モードレッドがそっと触れる腰にある剣が、バロールを打ち倒す為の聖剣カラドボルグである事をアスファは知らない。
「もしもバロールが人間共に倒され、お前達だけが生き残ったらどうする?」
「縁起でもない事を言う奴だな。我らの答えは決まっている。共に逝くのみだ」
主の死の可能性を示唆されたアスファはモードレッドを睨みつけ、その場を後にする。
「‥‥新しい生き方を探してみたらどうだ」
背中越しに投げかけられた言葉にほんの一瞬だけ立ち止った歩みは、信念と本心に揺らぎながら次の一歩を踏み出した。
●託される意志
ルーグの元から帰還したシンディは、彼女の身を案じていたリランにフレイ、そして仲間の少女達に温かく迎え入れられた。
シンディを責める者は誰1人いなかった。彼女がチャームと言う魔法で正気を奪われていたと、冒険者達が教えてくれたからだ。
「お呼びですか?」
深夜、リランに自室へと呼び出されたシンディは、扉の向こうに待っていた人物に目を見張る。
それは良く知る素朴な笑顔のリランではなく、あの日に1度だけ見た銀の光を纏うエフネの姿だったからだ。
リラン‥‥否、エフネは己が名前と正体を明かした後、そっとシンディの手に触れる。
「ルーグの企みやデビルについて知っているあなたにお願いがあるのです。私の活動を継ぎ、新たな指導者になって下さいませんか?」
戸惑うシンディにエフネは己が使命を打ち明ける。
初めは呆然とその話を聞いていたシンディだが、やがては目に涙を溜め激しく頭を振り出した。
「そんなの、そんなの嫌です! リラン様がいなくなってしまったら、私は‥‥皆はどうしたらいいのですか?」
「フレイが補佐として支えてくれます。あなたが新たな『奇跡の乙女』となって下さい」
「私には無理です! だって、何も出来ないし、何の取り柄もないんだもの!」
泣きじゃくるシンディをそっと抱きしめ、エフネはゆっくりと頭を振った。
「私が起こした奇跡は所詮は魔法の力です。ですが人であるあなたの持つ優しさや強さは、奇跡の力となり人々を救うでしょう」
誰もが心の中に持っている他者を労わる心。
それを絶やさずに救いの手を差し伸べていけば、人の優しさが奇跡を起こすだろう。何度でも、何度でも。
「リラン様、リラン様っ‥‥!」
溢れ出す様々な想いのまま、シンディはただリランの名を呼びその胸に縋る。
その涙が渇いた時、彼女は『奇跡の乙女』としての人生を歩み始めるだろう。
扉の外からそっと2人の様子を見つめていたフレイは、冒険者が作ってくれた歌詞を書き留めた羊皮紙をそっと抱きしめる。
そして目が合ったエフネに贈るのは、哀しくも優しい別れの微笑みであった。
●散り行く白き花
モードレッドは赤く染まり行く空を見つめ、大切な者達を想う。
両親の元を逃げ出したあの日、クレアだけを守り続けると誓ったのに。
アーサー王に屋敷を与えられキャメロットの郊外に住み始めた日から、少しずつ大切が増えていった。
その事に戸惑い「己が身を守る術を持たないのはクレアだけ。だから彼女だけを守り続けて行くのに変わりはない」と自らに言い聞かせてきた。
けれども気づけば守りたいものは増え、自らの心を偽れないまでになっていた。
その存在や思い出が自分を『人』である事に留まらせていたが、バロールを復活させ南方遺跡群の地に混沌を齎してしまったと自責の念を抱く度、心は闇へと引き寄せられる。
その方が楽になれるから、と。
(「未だだ。僕には最後の仕事が残っている‥‥」)
そっと腰の聖剣に触れると、そこに宿る女神モーリアンの柔らかな声が頭の中に響いてくる。
『大切なものを守る為にその身を犠牲にしたとて、あなたがデビルに与したという事実は変わりません』
「構わん。守れればそれ以上望むものはない」
『微かですがあなたの師の嘆きが聞こえます。失望を与えたままでいいのですか?』
バロール復活の後に相対したケイは、ほんの一瞬だけ心痛な面持ちを浮かべていた。そして袂は別たれたのだ。
「不肖の弟子で‥‥いや、息子ですみませんと謝りたいと言うのは、過ぎたる望みだな」
耐え切れず視線を落とした先に、季節外れの白詰め草が一輪、風に揺れていた。
彼の花の花言葉は約束、幸運、私を想って。そして────私を忘れないで。
(「皆とこの国の平和‥‥大切なもの全てを守れるのならば、この身など滅んでもいい」)
隠された本心に触れたモーリアンは、哀れな少年に奇跡が訪れる事を願う。
真心が引き寄せる優しい奇跡を────。
●リプレイ本文
●開戦
キャメロットからの応援部隊と冒険者達の到着を確認した南方遺跡群部隊は、まるで息を吹き返したかの如くバロールの居城に向けて進軍して行く。
戦場に似つかわしくないエフネの姿を発見し、リース・フォード(ec4979)は声をかける。
「リラン、色々ありがとう。世話になったね」
自分にとっては月の女神エフネではなく奇跡の乙女リランだから、とリースは微笑む。
「今まで沢山の人を助けてくれて、おおきにな。お父さんを封印したら、リランさんはどうするんや?」
「‥‥リランではなくエフネとして、この地に住む人々を見守り続けたいと思っています」
ジルベール・ダリエ(ec5609)に微笑むエフネは何処か寂しげであった。
『リラン』が表立って活動する時は世の中が不穏な時だけかもしれない。それならば別れの挨拶をした方がいいだろう。
リースは湧き上がる寂しさを押し殺し、柔らかく微笑む。
「リラン、また会おうね。俺は長生きな方だからさ。話し相手くらいにはなるよ」
「俺も頑張って長生きするわ。その時は子供ともお話してや」
「ええ、必ず。お2人とも、ありがとうございます‥‥」
リースとジルはエフネと交互に握手を交わす。それは‥‥エフネの最後の温もりとなった。
バロールの居城を目にした一同はその大きさと堅固さに一瞬だけ目を見張るものの、武器を構えて敵の只中へとその身を躍らせる。
「‥‥さて、派手に行こうぜ」
不敵な笑みと共に放たれたカジャ・ハイダル(ec0131)のグラビティーキャノンが決戦の狼煙となった。
魔法の直撃を食らい転倒する仲間を飛び越え、フォモール達は雄叫びを上げながらこちらへと突撃してくる。
そして城への接近を阻む様に、各所に設置された投石機から石の飛礫が降り注ぐ。
「くそっ、目が見えん‥‥ぐあぁっ!」
石と一緒に飛ばされた砂により視界を奪われた騎士の体に、フォモールの武器が深々と突き刺さる。
誇りをかなぐり捨てたその戦い様は鬼気迫るものがあった。人間達への憎悪に濁る彼等の瞳は、主バロールへの心酔に嬉々と輝く。そこには死を恐れぬ勇敢さと哀れさが混同していた。
「あの投石機は厄介だな‥‥」
放たれるのは小さな石ではなく、下敷きになれば即死も免れない様な巨大な石塊もある。その所為で徐々にだがこちらの足並みは乱れ、進軍のスピードが落ちつつあった。
ユクセル・デニズ(ec5876)の耳に響くのは、耳障りなデビルの羽音と鳴き声。そして剣戟と雄叫びと悲鳴。
今まで幾度か戦いを経験してきたが、これ程までに双方の譲れぬ想いと敵意がぶつかり合う戦場は初めてであった。
「私が‥‥止める!」
魔法の射程範囲まで駆け出し急ぎ印を結ぶユクセルは、投石機の巨石が自分を狙っている事に気づく。
(「どちらが早いかだ!」)
ユクセルが覚悟を決めるのとほぼ同時に、天空から降り注ぐ流れ星の様な矢群が投石機を操るフォモールの腕に次々と突き刺さった。
投石機が自身のアイスコフィンによって封じられたと確認したユクセルは、安堵と共に空を見上げた。
「無茶しよるわ。危機一髪やったな」
そこにあるのはペガサスに跨った親友ジルの明るい笑顔だった。
「‥‥私も投石機の動きを封じましょう」
シリル・ロルカ(ec0177)は落胆する気持ちを奮い立たせ、遠くに見える目標を見つめた。
トリスタンの心臓を持つデビルがこの戦場にいないかをムーンアローで確かめたのだが、結果は否であった。
(「私が願うのはあなたの幸せ。望むのはあなたの微笑み‥‥その微笑みが私以外の誰かに向けられたものでも、あなたが幸せならそれで良い」)
エフネの側で戦うシルヴィア・クロスロード(eb3671)への想いを心の中で呟き、シリルは投石器目掛けてムーンアローを放つ。自らの想いと同じ様にその軌跡に迷いは無かった。
やがて全ての投石機は動きを封じられ、遠距離攻撃は物見塔のフォモールによる弓攻撃のみとなる。
しかしこの事態を予測していたのか、投石機を操っていたフォモール達は城壁の上から弓を構え始める。
「こりゃ内部からも攻撃しないとキツイな。肝心の入り口は‥‥まだ突破不可能か」
カジャは城への入り口前に立ち塞がる重装備のフォモール達と、その上から南方遺跡部隊に弓の雨を降らす射撃部隊を見つめる。
「ま、入り口なんぞ作っちまえばいいよな!」
カジャはウォーホールを唱え城壁に穴を空けた。効果時間はあるものの、進入口の出現に味方から歓声が上がる。
「後ろは任せろ! 振り返らずに行け!」
一斉に穴を潜る味方達の背にカジャは発破を投げかける。
「さらに上から狙えば良いだけの事や!」
ジルは上空から城壁上のフォモール射撃部隊を攻撃していく。
応戦する敵の矢が頬を掠め血が滲んだが、ジルは怯む事なく冷静に矢を番え、放ち続けた。
戦いが始まって一時間あまりが経過し、戦局は膠着状態となった。
じわじわと双方の死傷被害が広まりつつあったが、士気は衰える所か炎の様に燃え盛っている。
『小賢しい人間共め‥‥我が業火と共に屠ってくれよう‥‥』
玉座に座していたバロールは立ち上がり、隠し通路を通って城の外へと降り立つ。
『間もなく始まる我の栄華にその血肉を供物として捧げるがいい!』
炎の柱と暴風によって禍々しさを増す笑い声が空気を震わせ、踏みしめる一歩が地鳴りと共に大地を揺るがす。
『ウオオオオォォォ!!』
主の参戦にフォモール達は気を違えんばかりに歓喜の雄叫びを上げ、瞳は狂信の輝きに満ちていく。
恐ろしい程に高まる敵の士気に圧倒されつつも、一同は炎の中に揺らめくバロールの影を睨み付けた。
「これは歌声に魔力を帯びさせる蜜よ。副作用はないから安心して」
戦場の後方に集うのはバロールを弱体化させる歌の歌い手達。
フレイが配る蜜は花の蜜と味が変わらないが、心に優しさと勇気の灯が灯った様な気がした。
「リランさんはあなただからこそ聖女を託したのよ。だから微笑んで、困っている人達に手を差し伸べて。それがリランさんへの感謝の気持ちになるわ」
サラン・ヘリオドール(eb2357)は不安気な顔のシンディを極上の笑顔で抱きしめる。
彼女が呼びかけた近隣の町や村に済む人々も、今頃は蜜を飲み歌の準備を整えている事だろう。
「私の歌‥‥リラン様に届くでしょうか?」
「きっと届くわ。あなたの歌声が彼女の力になるのよ」
サランはそっとシンディから離れると、ふわりと舞いながら歌を口ずさみ始める。
さあ、歌いましょう
陽の霊鳥が暁を告げる
闇の刻は終わり、太陽の刻が訪れる
声を合わせて
心を合わせて
争いが終わり、平和が訪れるよう
喜びを歌いましょう
愛を歌いましょう
その舞と歌声は歌い手達の緊張を優しく解していった。
「さあ、想いを籠めて歌いましょう」
フレイは全員の顔を見渡し、そっと息を吸い込む。
歌い出しに特別な合図はいらなかった。重なり合う心と願いが歌声となり、戦場に響き始める。
私とあなた 行く道は違っても
覚えていて 想いは風に乗せて
澄み渡る空気を吸い込めば
心は青空みたいに 綺麗に晴れる
どうか 私達の愛が 声が
届きますように‥‥
そよ風に寄り添い 追い風で背を押し
時に向かい風へと空回り だけど‥‥
根付く希望の永久(とわ)得るならば
畏れるものは何もない
笑い声を聞かせて
胸の中の涙を 言葉にして叫んで
あなたの傷が癒える様に
大丈夫 独りになんてさせないから
(「ねぇ、モル君? 貴方にも届くかな?」)
ユリゼ・ファルアート(ea3502)はルーグの手下となったモルに心の中で問いかける。
(「モル君、いつまでも変わらないものがある。もっと大きくなっていくものだってある。貴方の中にもあるんでしょう?」)
変わらずに大きくなっていくもの。それは人の想い。縁によって築かれた優しい絆。
それらを守る為にモルは戦っているのだろう。しかし独りで戦う道を選んだ事が悲しかった。
風の様に自然に寄り添う友情を歌に籠め、大事な人一人ずつを心に描き呼びかける様に歌うユリゼ。いつしか彼女は倒すべき敵であるバロールの事も想っていた。
バロールもかつてはこの地を愛していたのだと信じ、その気持ちを思い出して欲しいと願いを籠めて。
ささやかに色は無く運ぶ匂いは 遠くの便り
気付いたら思い出して
何時でもあなたを想ってる
心はまるで風のよう
いつもあなたの傍でそよいでる
信じる勇気が示すのは
禍も福も越える力
縁結ぶ私達 肩並べ往くは未来
清新なる風の道
旅人(あなた)の無事を祈り
寒風にその名を乗せ 想う言の葉
『ぐうっ‥‥この耳障りな歌を止めさせろ!』
頭を振るバロールの声は先程とは違い苦しげであった。歌声は徐々にだがその力を抑えつつあるようだ。
バロール撃破を狙う冒険者達は、武器を手にその巨体に向けて駆け出した。
●末路
戦う事の悲しさと虚しさは、アイリス・リード(ec3876)の心を苛め続ける。
(「仲間を守る為に刃を持つ人々の覚悟を心から尊敬し感謝しています。しかし、同時に他の道は無いのかと考えてしまうわたくしがいるのも事実です‥‥」)
戦いの最中に希望を求める己を自覚し、いつかその答えを得られると信じるアイリスは、声が嗄れるまで歌い続け様と決意する。
全ての隣人よ 咎人に深き恵みを
天に御座す母よ 迷い子に聖寵を
優しさの糸で繋がる私達は 見える事無くとも友と同じ
彷徨う想いあるのならば 心のままの告白を
隣に居るだけの 背中を眺めるだけの私
澄んだ清らかな飲み水の様に
その心に染み込んでいきたいと願っているのに
何時か決意が固まった時 言葉にしてもいいですか?
それまでは黙って傍に居させて下さい
清らかなるその想いが彼の人を包み込み
いつか祝福の元に成就するよう 私達は祈りましょう
城内へと進入しルーグ撃破を狙う冒険者達は、最奥の部屋でバロールが座るべき玉座に足を組み座しているルーグと対峙する。
「城門は未だ破られてない筈だけど‥‥どんな手を使ってここに来たんだい?」
「貴様に応える筋合いはない。お喋りはそこまでにして、さっさとこの世から消えてもらおうか」
怒りと言う名の鋭い眼光を湛えた雪切刀也(ea6228)は、剣を構えルーグを睨みつける。
「僕の危機を察した優秀な部下が‥‥モードレッド君がやって来たら、君は彼と戦うのかい?」
「ルーグ、モードレッド卿は全てを知っているぞ。お前を助けになど来るものか!」
ヴィタリー・チャイカ(ec5023)は普段の彼からは想像もできない険しい表情で声を荒げる。
「‥‥なるほどね。でももう遅いよ。モードレッド君が完全なデビノマニになるのは時間の問題だ。そうなれば彼は僕に心酔する従順な奴隷さ!」
ルーグは残酷な笑みを浮かべ、ムーンアローを放つ。しかしそれはヴィタリーの相棒であるルームのミカヤが唱えたムーンアローで相殺された。
「させるかっ!」
刀也が再び印を切るルーグの手首を切り落としたのと、シャドウボムが唱えられたのはほぼ同時であった。
轟音に2人の呻き声が掻き消され、ルーグの手首と刀也の体が宙を舞う。しかし刀也は受け身を取り無事だった。
「‥‥師匠、最強で最高のお守りをありがとう。お陰で負ける気がしないよ」
唇を人差し指で押さえてにやっと笑うアルヴィス・スヴィバル(ea2804)に、ディーネ・ノート(ea1542)は頬を主色に染める。
どうやら『怪我はいいけど、無理はなるべく控えるよーに! そ、その、まだ私の実家に行ってないんだしッ!!』との言葉とキスは恋人に勇気を与えた様だ。
「そっち手も切り落とせば呪文は使えないね。随分長いこと遊んで来たけど、それも終わりにするとしよう」
苦悶の表情で喪失した手首を押さえるルーグに、アルヴィスはウォーターボムを唱える。アイスコフィンで凍らせて終わらせる気など毛頭なかった。
「ヴィスの敵はあたしの敵‥‥あんただけは絶対に許さないっ!」
ディーネもウォーターボムで体勢を整え様とするルーグを追撃する。
「ぐうっ! 調子に乗るなよ‥‥!」
連撃の水弾に晒されていたルーグの姿が消えていく。しかし一同には透明化を見破る策があった。
「ルーグ、多くの者の心と絆を弄んだ報いを受けろ!」
主の命を受けたミカヤのムーンアローが一点に集中し、それを目印に一同は一斉攻撃を開始する。
「命も賭けずに唯弄ぶ‥‥誇り無き地蟲め、楽に死ねると思うなッ!」
剣を振り降ろす刀也の胸中で憎しみの炎が燃え盛る。
負の感情が膨れ上がり弾けそうになった時、遠くから歌が聞こえた。
全てを赦し受け入れる、博い愛の歌が。
濁り汚れ果てた水が
海へ注ぎ空へ昇り やがて慈雨となるような
清水となって湧くような
優しき水の巡りを 再生のすべを
貴方が迷うのならば
その輪廻の中に 救いを見出せるのならば
消えぬ罪を背負いながら 誰かの隣人たらんと喘ぐ者に
己が過ちを嘆きながら 贖罪の道を歩む者に
渇き苦しむ隣人に 救いの雨を降らせ給え
皆の想いが詰まった歌を一言一言大事に歌い上げるアイリスが浮かべるのは、慈愛に満ちた聖女の笑顔。
(「地獄で皆の祈りが力となった様に、今再び祈りが、愛が力となるのだったら‥‥その結末が悲しい事になる筈がない。そうあっては、ならない」)
声と心を仲間と合わせ祈りを籠めた歌声は刀也の心を鎮めていく。
(「どうか、心に愛を抱く人々皆に、聖なる母の祝福を‥‥!」)
そして祈りは届いた。
(「憎しみに流されるな、愛を思え! 俺にとっての愛とは己の全てを擲ってでも守りたいもの。恋人、契約相手。友達、仲間‥‥そして何より、他者との絆だ!」)
刀也は曇り無き心を映した剣がルーグに突き刺さり、息も絶え絶えなその体から透明化の能力を奪う。
「君との遊びも中々に楽しかったよ。それではお休み──良い夢を」
結束した冒険者にルーグは傷一つ負わせる事が出来なかった。
止めを刺すアルヴィスの言葉に優しさと憐みが滲む。
「お許し下さい、アス、タロト様‥‥」
消え行くルーグの謝罪の言葉は主に向けてのものだった。
彼もまた愚直なまでに愛するものの為に戦っていた。もしかしたら自分に通じる何かを感じ、モルを配下にしたのかもしれない。
しかし真実を語らぬまま、南方遺跡群の地を混沌に陥れたデビルは姿を消した。
●帰還
ルーグが撃破された頃、戦局は優勢となっていた。
城門は破られ、城の内部から次々と火の手が上がる。その赤い揺らめきは味方に勝利を確信させ、敵を追い込み冷静さを奪っていく。
空を飛び交うデビルの数が大幅に減った事を確認しながら、リディエール・アンティロープ(eb5977)はモルを案じ彼を救う決意を歌に籠めていた。
(「モルさんを愛する、彼が愛する仲間達の為に道を切り開くのが、私の役目です」)
揺らめく赤をじっと見つめて
凍えた指を近くかざして 伝わる熱に貴方を想う
暖かく包む炎 分け隔てなく照らす優しい炎
それはとても居心地が良くて 安心できるけど とても不安定
守る為に寄り添って 焼き尽くされても構わない
怖いのは貴方の温もりを失うこと
それだけで 私の世界は終わりを告げる
(「帰るべき場所が、待っている人が‥‥こうして迎えに来てくれる仲間がいる事を喜びなさい」)
モルと過ごした時間は決して多くはなかった。しかし彼が皆から愛され、それ以上に皆を愛しているのだとリディは痛いほど理解していた。
(「これだけ皆に望まれているのですから、戻って来なければ駄目ですよ。そして素直にありがとうと‥‥笑顔を見せて下さい」)
リディは彼を想う女性の代わりに秘めた愛情を歌い上げる。
ルザリア・レイバーン(ec1621)の想いを。
「モードレッド殿‥‥」
自室と思しき場所で対峙するモルは、以前に会った時より顔の青白さを増していた。
苦し気に眉を歪める呼吸は浅く、必死に何かに耐えている様に見える。
「モルさん、迎えに来たですよ。一緒に帰りましょう?」
カメリア・リード(ec2307)は瞳に涙を滲ませ、モルにぎゅっと抱きつく。しかし次の瞬間、彼女はモルに振り払われた。
「お前達の元に戻るつもりはないと言った筈だ」
「嫌だって言っても連れて帰ります! 私、解ったですよ。どれ位大好きなのか。だって‥‥熱いのです、心臓が」
カメリアは涙を流しながら、再度モルを抱きしめる。
モルを想う度に胸ではなく脈打つ心臓が焦がれる様に熱くなった。ずっと忘れかけていた感情と共に。
「大切な大切な人を傷つけるものを、私は絶対に赦しません。例えモルさん本人でも、です」
カメリアの耳に、心臓に、リディの歌声が染み込んでいく。
愛さなければ知らずいられた
憎み 嘆き 身を焦がすこと
愛さなければ解らなかった
見つめ 祈り 赦すこと
綺麗なだけの想いは偽りの宝石
虚ろな輝きよりも 生身の想いを貴方に捧ぐ
「己の全てを以って護りたいと思わせてくれた人はモルさんなのです。お願いです、一緒に帰りましょう?」
ぼろぼろと涙を流しながら、カメリアは忘れていた『本気』を自らから引きずり出した少年を見つめる。
「帰れないんだ! だから僕の事は忘れてくれ!」
ひた向きな想いはモルの心を揺さぶり、隠していた本心を吐露させる。
「ここまで来ちまったんだ。お前がルーグの手下になった本当の理由を聞かせてもらうまで、帰るつもりはないぜ」
聞いたとしても連れて帰るがな、と心の中でリ・ル(ea3888)は呟く。
「守るものが一つではないとしても、俺はそれを諦めはしない。それらを守りたいと言う思いこそが、今まで俺に力を与えてくれたものだからだ!」
沈黙するモルの肩を揺さぶり、グラディ・アトール(ea0640)は必死で自らの想いを訴える。
「だからこそ俺は‥‥大切な友であるお前を救いたい!」
今まで自分を支えてくれた仲間や大切な人達を守りたいと言う想い。そして同じくらい大切なモルを救いたいと言う強い想い。それがグラディが胸に抱く愛だった。
その心に呼応する様にカラドボルグが光を放つ。
「‥‥こいつに決めたんだな」
モルは安堵の笑みを浮かべ、カラドボルグをグラディに手渡した。
「今まで南方遺跡群の為に行動し、心を砕き、己が信念を曲げなかったお前をカラドボルグは選んだ。必ずバロールを倒してくれ」
「もしかしてお前‥‥これを託す為に?」
「クレアを守る為もあったがな。カラドボルグを手に入れればルーグに執拗に付け狙われる。いっそ奴の手下になってしまえば、剣もその使い手も守れると思ったんだ」
「お前が守りたかったのは‥‥クレアさんだけじゃなかったのか?」
グラディの問いかけにモルは弱々しく微笑む。
「初めはクレアだけいれば良かった。だが大切なものが増え過ぎた。それを守る為にはこうするのが一番だったんだ」
モルにとって大事なもの。それは自分を想ってくれる優しい人達。そして皆が住むこの世界の平和だった。
それと引き換えにモルは自らを差し出したのだ。
「ふざけんなっ! そんな自己犠牲、誰も喜ばねぇんだよ!!」
リルは激昂しモルを殴り飛ばす。
「お前を慕う者に必要なのは死んだ英雄か、生きているお前か? お前の犠牲で生まれた平穏を、お前を大切に思う皆が喜ぶと思うのか!?」
それは彼を想うが故に振るわれた拳だった。
「『これしかない』なんて誰も信じていない証拠だ。置いていかれた者が後を追うとは考えないのか!?」
「それは‥‥」
「わかんねぇんなら直接聞くしかないだろ、さあ!」
困惑するモルは一同の顔を見渡す。
その瞳はどれも涙に潤み、モルの帰りを待ち侘びていた。激しい後悔がモルの胸を襲う。
「‥‥皆、ありがとな。だがもう遅いんだ。デビノマニ契約をした者を元に戻す手はない。そして僕に残された時間も‥‥ぐうっ!」
優しく微笑んだモルの顔は一変し、苦悶に歪められる。
「早くここから出て行ってくれ‥‥僕はお前達を傷つけたくない‥‥」
「デビノマニ化? 成れるものならなってみろ! 私は何度も止めてみせるぞ!」
それまでジッと堪えていたルザリアの想いが溢れ出す。
孤独を一緒に共有したい
肩の荷物を一緒に持ちたい
貴方の笑顔を何度でも見たい
不安や悲しみで曇らせたくない
「貴方が抱える心の闇で考え悩んで、この想いを躊躇する事はもう止めだ! 重圧で辛いのなら全て私が持つ! 何かで躓いたのなら私が全力で支える!」
震える体をかき抱き、ルザリアは秘めていた想いをモルへとぶつける。
「好きだ‥‥大好きだ! 嫌だと言おうが、もう一生傍から離れないぞ、私は!」
ずっと言えなかった一言がルザリアから解放された時、モルの瞳から愛しさが涙と共に溢れ出す
「僕は大馬鹿者だな‥‥初めて惚れた女を泣かせるだなんて‥‥」
恋になる前に高嶺の花だとコレットを諦めた時とは違い、いつの間にかルザリアを愛する様になっていた。
「もう取り返しがつかないと分かっている。でも叶うならば、僕は大好きなお前達と一緒にいたい‥‥ずっとずっと一緒にいたい!」
モルがそう叫んだ時だった。
グラディが手にするカラドボルグから淡く優しい光が放たれる。
『私を相応しい持ち主に巡り合わせてくれたお礼に、その望みを叶えましょう。ですがあなたが失うものも大きいでしょう』
それはカラドボルグに宿る女神モーリアンの声だった。
「大切な人達と共に生きられるのならば、僕が持っている他のものを全て失っても構わない‥‥」
哀れなほど一途な少年に女神から奇跡が贈られる。それは新たな生の始まりでもあった。
貴方の命の炎は 私を生へと繋ぎ止める甘き鎖
断ち切られるくらいなら この命など要らない
愛しさという名で呼ぶ熱を
今宵も抱いて夢路を辿る
歌声とルザリアの温もりを感じながら、モルは眠りの淵へと落ちる。。
優しさと想いの強さが起こした愛しい奇跡に、一同の目から零れ落ちるもの、それは────涙と言う愛の煌きだった。
●悠遠
バロールと戦い始めてどれくらいの時が経ったのだろうか。
歌の効果によりバロールは明らかにその力を押さえられていたが、それでも繰り出される攻撃はどれも苛烈であった。
しかし戦局にある変化が起こり始める。
「デビル達が‥‥引いていく?」
天城烈閃(ea0629)は、一斉にバロールの居城から飛び去っていくデビルの群れを凝視する。
『ルーグがくたばりおったか。デビル共め、思惑を砕かれさぞ悔しかろう。貴様らが疲弊させた人間共を滅ぼし、我がこの地を支配してくれようぞ』
バロールは笑いながら手にした鞭を振るう。
「それは叶わぬ夢ってやつだ。スカアハの託してくれたこの力で、必ず貴様を討ってみせる!」
烈閃はゲイボルグ握りしめ念じた後、バロールの足元目がけて投げつける。
槍が突き刺さった地面を中心に────バロールの巨体へと雷撃が降り注ぐ。
「我が名はアヴァロン・アダマンタイト(eb8221) 。この身は力なき者達を守る、不破の盾なり!」
グリフォンで飛翔するアヴァロンはバロールの動きを封じる様にその体に攻撃を積み重ねていく。
「‥‥勝負は決まったね」
デビル勢の裏切りを知ったフォモール達は怒りを露にし冷静さを欠いて見えた。指揮官のアスファの命令を無視し、勝手に暴れ回っている様だ。
「リランさん、本当にええの?」
統率を失った部隊に勝ち目はない。
戦局を悟った瀬崎鐶(ec0097)の言葉に藤村凪(eb3310)は頷き、 ずっと護衛していたエフネに問いかける。
「ええ。長きに渡る災禍と哀しみを終わらせなければなりません」
「‥‥エフネさま。誰かを傷つけなくてはいけない事は、もう終わりには出来ないのでしょうか?」
エフネと共に負傷者達の治療をしていたラヴィサフィア・フォルミナム(ec5629)は、悲しみに瞳を曇らせる。
「バロールさまは思い違いをさせられてしまって、フォモールさん達はご自分達の信じる存在の為に一生懸命になっただけですわ」
こみ上げる遣り切れなさにラヴィの優しい心は軋み悲鳴を上げ、堪え切れなくなったのかエフネにぎゅっと抱きついた。
「エフネさましかバロールさまを止められないのはないのでしょうか? もう‥‥お話し合いは出来ないのですか?」
見上げる瞳は何処までも透き通っていた。
与えられた使命を前にエフネの心が揺らぎ、響く歌声が突き刺さる。
私達が生まれいづる処
其は命紡ぎし深き森
その場所から遥か遠く
世界中に 大地に根づく温かな愛が
庭先へ 春の草木の種を撒き
愛しき父子(おやこ) 笑顔で見つめる優しき母
愛しいと思う父は災厄を齎す魔人。
けれどもこの胸の内にある娘としての情に偽りはない。
「ありがとうございます、小さな優しき天使よ‥‥」
ラヴィの額に触れるのは祝福の口付けだった。
「私をバロールと戦う人達の側へ連れて行ってくれませんか? 最後の加護を与えたいのです」
エフネの封印が成功した時、南方遺跡群の地に永久の平和が訪れるだろう。
それが意味する事を知る凪は寂しさを押し殺して微笑み、鐶はそっとエフネの手を包み込む。
「色々とお世話になったな。また逢える事があったら顔だしてくれるとうれしーわ♪ その時は、ウチやのーて子供か孫が逢うかもしれへんけどな〜♪」
「‥‥お疲れ様。今度逢えたら、ジャパンのお茶と和菓子をご馳走するね‥‥」
「良かった。友の旅立ちに間に合いましたね」
そこにペガサスから降り立ったシルヴィアが現れ、エフネにマイアの花冠と花霞を手渡す。
「眠りについても地上の香りを感じられるようにプレゼントです。お父上の怒りが鎮まったら、私達の子供達とまた遊んであげて下さい」
「エフネさま‥‥」
全てを悟ったラヴィの頭を、エフネは慈しむ様に撫でるのだった。
私が帰る場所 私が還る場所
私が生まれた証 私が育った糧
共に起こすは 遥かな大地
祈り捧げて蒔いた種
その息吹に耳澄ませ
言葉で触れて慈しみ
温もり与え 灯火守り
涙の雫を落とすなら
大地の如く揺るがず広く
贈られた愛の証は 私と言う実り
フレイの歌声を耳に焼き付けるエフネの体から、温かな光が溢れ出す。
それはバロールと戦う者達の体の奥底から力を漲らせた。
(「モル、罪も闇も俺達に預けていいんだ。己を諦めるな、心を澄まし良く聴け、歌を‥‥皆の声を!」)
しかしモルの無事を知らないラルフェン・シュスト(ec3546)は、悔恨の想いを胸に戦っていた。
その悲しみはオーラアルファーと共に放出され、バロールは大地に片膝を着く。
「皆、モルなら無事だ!」
聞こえてきた朗報に振り返った先には、愛馬を駆るグラディの姿があった。
彼の腰に光るカラドボルグを目にし、一同の胸に希望の灯が灯る。
「バロール、俺達人間の愛の力がどう言うものか、その身に刻みつけて果てるがいい!」
金色の騎士グラディのカラドボルグが、
「愛とは決して見返りを求めないものだ!」
掲げる愛を叫ぶアヴァロンの剣が、
「これで最後だ。撃ち貫け、ゲイボルグ!!」
烈閃のゲイボルグの雷撃が、
「愛は心の光です! 幸福や奇跡を呼び覚ます、特別な人だけではなく誰もが持つ心の輝きです!」
眩き戦乙女の如きシルヴィアの聖なる槍が、
「愛とは光に霞まず闇にも消えない優しくも強き絆の灯火だ!」
左手に煌めく指輪を愛しむラルフェンの水晶剣が、
「リランの愛を胸に永久に眠れ!」
友の旅立ちを見守るリースのライトニングサンダーボルトが、皆の攻撃が束となってバロールを襲う。
その刹那、手応えと共に閃光を感じ、一同は瞳を閉じた。
『グアァァァッ!!』
巻き上がる砂塵の中、槍を片手に沈み行くバロールを見つめる青年の姿があった。
やがて彼は無言でその場から立ち去って行く。その体は先程の閃光と同じ光を纏っていた。
「バロール様‥‥あなたが逝かれたら、俺達は何を信じて生きて行けばいいのですっ!?」
その巨体を包む炎が消え行くのを、アスファは呆然と見つめていた。
「貴方達が今ここにいるのは、誰かが貴方達を守り育ててくれたから。共にありたいと望んだからです」
ゼルス・ウィンディ(ea1661)は項垂れるアスファの手を取る。
「お願いです。その想いに応えて下さい! 私達と共に生きる道を選んで下さい!」
「だが俺達は‥‥」
「神は無くても世界は続く。神が眠ったその後、大切な人は誰が護るっていうんだ!?」
限間時雨(ea1968)の言葉が尚も惑うアスファの胸に突き刺さる。
「まだわかんないのかい? 大事な家族の為に生きろ! 命を懸けろっ!」
指し示された新たな生き方。
その始まりを祝う歌がアスファの耳に届く。
廻る愛 繋ぐ命
愛しくも優しい 不変の理
清かな月日の廻り
震える夜も 歓喜の朝も
手に伝う温度と鼓動は示す
脈々たる祖の教え
揺るがぬ安息 絆の形
寄り添い人生(みち)を歩む為
私達の家を立てましょう
壊れても離れても 優しい大地が支えてくれる
零れ落ちたのは喜びの涙だった。
『皆様、本当にありがとうございます』
エフネの声が戦場に響き渡る。
空に浮かぶ彼女は老人の姿となったバロールを抱きしめていた。
『お父様、一緒に参りましょう。これからはずっと一緒です。もうお傍を離れません‥‥』
淡く優い光は輝きを増し、バロールの居城へと沈み行く。
その光が見えなくなった時。空に花吹雪が舞い、大地に色取り取りの花が咲き乱れた。
皆々往き着き還る処
其は命抱きし 土薫る揺籃
こうして戦乱は終焉を迎え、南方遺跡群の地に安息が訪れるのだった────。