【決戦】我らを支えしは数多の祈り

■ショートシナリオ


担当:綾海ルナ

対応レベル:6〜10lv

難易度:難しい

成功報酬:5 G 94 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月28日〜01月03日

リプレイ公開日:2010年01月06日

●オープニング

●暗黒竜の復活
 あの悪夢のようなバロールとの決戦から数日。
 キャメロットは不思議に張り詰めた空気の中にあった。
 街を行きかう人は殆ど無く、多くの人々は家の中で恐怖に震えている。
 教会には多くの人々が集い、祈りを捧げている。
 聖夜祭も間近であるというのに、人々の顔に笑顔は無い。
 ただ、恐怖に怯えるのみ。
「かみさま、どうか、わたしたちをおまもりください」
 小さな祈り。答えるもののない祈りに
「神様‥‥か」
 教会の扉にもたれ人々の様子を見つめていた一人の男性は暫くの後その場を黙って後にしたのだった。

●祈りを力に変えて
 ギルドに謎の男性が現れてから程なく、クロウ・クルワッハ討伐の依頼書が次々と張り出される。
 銀の腕ヌアザとデビルアリオーシュ、そしてリア・ファルを体内に取り入れたクロウ・クルワッハは本来の力を取り戻し、以前よりも暴れ回っていると言う。
「邪眼のバロールが封印されて、やっと南方遺跡群が平和になったと思ったのにね」
「うん。もしもクロウ・クルワッハを誰も止められなかったら、いつかはこの町も‥‥」
 町の人々がそうである様に受付嬢達の表情も暗く沈んでいた。
 その様子を眺めていたある受付嬢リズは、お菓子を手に同僚達に近づく。
「ほらほら、受付嬢は笑顔が命でしょ? これを食べて元気出して!」
「こんな時に良く食べるわねぇ」
「いいから食べてみて! 冬季限定の雪だるま型焼き菓子よ、可愛いでしょ?」
 溜息を付く同僚の目の前でリズは焼き菓子を頬張り、にこっと微笑む。
「さらにこの冬季限定ハーブティーもつけちゃうわよ! 今は暇だし、皆でおやつタイムにしましょう♪」
「‥‥そうね。せっかくだから頂こうかな」
「あたしも。それにしてもリズって美味しそうに食べるわよね」
「へへ〜。それだけが取り柄だもの!」
 リズがおどけて見せると、同僚達は微かな笑顔を見せる。
「焼き菓子で思い出したけど、モル君も無事に帰って来たみたいね」
「ちょっとリズ、王宮騎士様に愛称+君付けだなんて失礼よ」
「いいじゃない、本人に聞かれる訳じゃないし」
「んー、それもそうよね」
「今は自宅療養中みたいよ。元気になったら冬季限定お菓子を買い漁ったりして」
「「うわ、ありえるー!」」
 先程の暗い表情はどこへやら。受付嬢3人組は仕事中と言う事も忘れ、お喋りに花を咲かせ始める。
「そう言えば知ってる? 南方遺跡群で慈善活動をしていた『奇跡の乙女』が二代目になったらしいわよ」
「えっ? 前のリラン様はどうしちゃったの?」
「それがわからないのよねぇ。愛する人と旅に出た‥‥とか?」
「「それもありえるー!」」
 それから3人はリランのが恋人と旅に出たと決めつけ、どんな男性かをああでもないこうでもないと勝手に予想するのだった。
 焼き菓子を食べ尽くし暫しの休憩とばかりにハーブティーを楽しむリズ達は、ふとクロウ・クロワッハ討伐の依頼書を見つめた。
「あの中の1枚ってリズが担当してたわよね。どんな依頼内容なの?」
「クロウ・クルワッハを足止めする部隊の募集依頼よ。撃破部隊の援護だから、求む縁の下の力持ち! って感じかな」
「戦場は確か平原だったわよね。活かせる地形がないから正面衝突、か‥‥どれも危険な依頼よね」
 先のクロウ・クロワッハとの戦いがどの様なものだったか、受付嬢達は報告書や人から伝え聞いた話で理解している。
 しかもその時のクロウ・クルワッハは本来の力を取り戻していなかった。
 恐らくは今までにない程の厳しい戦いになるだろう。相手は死をも覚悟する決意がなければ打ち倒せそうにない暴竜だ。
「この依頼を受けてくれる冒険者の人達、全員が無事に帰って来てくれるといいね」
「‥‥うん。こうやって依頼書を作って張り出して、受付する事しか出来ない自分が悔しいわ。他に出来る事はないかしら?」
「じゃあ、仕事が終わったら教会に行かない? クロウ・クルワッハとの戦いが無事に終わります様にってお祈りしましょうよ」
 リズの提案に2人の受付嬢は頷き、仕事へと戻って行く。
 戦う術を持たなくとも、平和を願う気持ちは同じだった。
 キャメロットの‥‥否、イギリス王国中の人々の祈りに守られ、冒険者達はクロウ・クルワッハ討伐へと赴くのだった。

●今回の参加者

 ea1274 ヤングヴラド・ツェペシュ(25歳・♂・テンプルナイト・人間・神聖ローマ帝国)
 ea3888 リ・ル(36歳・♂・ファイター・人間・イギリス王国)
 ea5556 フィーナ・ウィンスレット(22歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 eb1421 リアナ・レジーネス(28歳・♀・ウィザード・人間・ノルマン王国)
 eb4646 ヴァンアーブル・ムージョ(63歳・♀・バード・シフール・イギリス王国)
 ec1621 ルザリア・レイバーン(33歳・♀・神聖騎士・人間・ロシア王国)
 ec3876 アイリス・リード(30歳・♀・クレリック・ハーフエルフ・イギリス王国)
 ec4979 リース・フォード(22歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)

●リプレイ本文

●死戦の始まり
 刺す様な朝の冷気の中、白い息を吐く冒険者達の目に映るのは飛翔するクロウの巨体。
 風を切る羽音が唸りの様に禍々しく耳に響く。
「初めから飛んでお出ましか。ちと予定とは違うが、討ち落とせばいいだけの事だ」
 リ・ル(ea3888)は聖槍で仲間を守護した後、にやりと不敵に笑う。
「とりあえずこいつを止めなきゃ楽しいパーティの予定も立てられん。まぁ、まずは大掃除して場所を確保せんとな」
「トカゲごときにキャメロットを滅ぼされるのは癪ですね。黒き魔女の恐ろしさ、骨身に染み込ませてやるとしましょう」
 フィーナ・ウィンスレット(ea5556)は黒衣を風に靡かせながら黒い妖笑を浮かべる。
 空を駆るクロウ撃破班の仲間の動きをジッと見つめ、足止め班としてその身を仲間の為に盾とすべく集った者達は『その時』を待つ。
 否、盾で終わる気など毛頭はない。自分達は盾であり矛でもあるのだ。
「どうか‥‥幸運を。そして聖なる母のご加護があらん事を‥‥」
 グッドラックをかけながら、アイリス・リード(ec3876)は1人1人の無事を願う。彼女は貴重な回復手として後方で負傷者の救護に専念すると心に決めていた。
「セーラ様の加護も嬉しいけど、俺にはアイリスの祈りの方が心強いよ。ありがとう」
「リィ‥‥どうかご無理はなさらないで下さいね? 彼女の為にも」
 心配そうなアイリスにリース・フォード(ec4979)は微笑み、そっと「アイリスは彼の為にも無事に戻らなきゃね?」と囁いた。
「ふははははは! 相も変わらずでかい図体であるなぁ、あのドラゴンは」
 ヤングヴラド・ツェペシュ(ea1274)は自身も相変わらずの高笑いを上げ、日本刀を握り締める。
「古き神を喰らい、上級デビルを喰らい、どれだけ喰えば満腹するやら。世界ごと喰らうのであるかなぁ」
 この悪食竜め、と心の中で呟くヴラドは、クロウに攻撃を仕掛けている飛行部隊がさらに上空に舞い上がるのを目撃する。
 それはリルの後に控えるリアナ・レジーネス(eb1421)も同じであった。
「全力でクロウを足止めし、皆様の戦いを支援します! 今が好機です、皆さんっ!」
 リアナの合図を聞いたフィーナとリースは微かに頷き、高速詠唱でライトニングサンダーボルトを唱える。
 3人のウィザードによる雷撃魔法はクロウの眼前で交差し、轟音と共に閃光を放った。
『ギャアァッ!』
 不意を突かれ魔法を食らい、さらに目晦ましをされたクロウは驚愕の雄叫びを上げる。
 空気が不穏に震える中、足止め班の戦いが幕を開けた。
「ヌアザさんとの交信は駄目だったけれど、叙事詩に残る様なこの戦いを目撃するのだわ!」
 ヴァンアーブル・ムージョ(eb4646)は落胆する気持ちを押さえ、戦場を広く見渡す。
 負傷者を逸早く発見し、それをテレパシーでアイリスに伝えるのがヴァンアーブルの大切な役目だ。
「くっ! 上空にいられては手出しが出来ん!」
 遠距離攻撃の術を持たないルザリア・レイバーン(ec1621)は悔し気に唇を噛み締めた。
 何も出来ない自分を腹立たしく思っていると、盾を構えリアナを守るリルに死角からクロウの爪が迫っている事に気づく。
「リル殿、右に跳べっ!」
 ルザリアの叫びを聞き、リルは素早くその場から飛び除く。すると彼のいた場所は振り降ろされたクロウの爪により、土埃を上げ抉れた。
「助かったぜ、ありがとな! 攻撃出来ねぇ鬱憤はアイツが落っこちて来た後にぶつけてやんな!」
 リルはルザリアの歯痒さを見抜き、発破をかける。
 すぐさまクロウの翼目がけてソニックブームを放つ背中を見つめながら、ルザリアは「礼を言うのは私の方だ」と小さく呟く。
 目晦ましで一瞬だけ動きを止めたその瞬間から、クロウは各班による攻撃を両翼に受けていた。冒険者がまず狙うのはクロウを地上に叩き落とす事だ。
『ギャアアァァァッ!!』
 地上と上空からの攻撃に被膜は徐々に傷つけられて行き、ついにその翼は飛ぶ能力を失った。
 クロウは咆哮と共に地に墜ち、その巨体で大地を揺らす。
 第一の目的を果たしほんの僅かだが勝利を手繰り寄せられたと実感する冒険者達だが、ここからが苛烈な戦いの始まりであった。

●狂い猛る暴竜
 空を駆けるものとして、翼をもがれ地べたに叩き落とされた事が余程の屈辱であったのか。
 クロウにプライドと言うものがあるのかは定かではないが、傷を負わされた事により生来の凶暴さが増しているのは確かであった。
「回復が追い付かないのだわ‥‥!」
 ヴァンアーブルからアイリスへの負傷者を知らせるテレパシーは途切れる事無く続いていた。
 皆の働きによりブレスは防げていたが、攻撃を受けてもなお繰り出される爪は仲間の体を傷つけ吹き飛ばす。
 ヴァンアーブルのイリュージョンによる妨害をものともせず、我武者羅な様でいて的確に仲間を捉えるその攻撃の破壊力は尋常ではない。
 アイリスの指示を受けたペガサスのオレアが形成するホーリーフィールドも長くは持たず、また、負傷者の多さ故にアイリス自身は回復に追い立てられていた。
「エボリューションなど想定の内なのだ! 余の正義の鉄槌を喰らうがいい!!」
 ペガサスに搭載していた槍に持ち替え、ヴラドはヒットアンドアウェイを繰り返していく。
 ブレスを喰らわぬ様にと気をつけながらの攻撃は致命傷こそ与えられなかったが、確実にその体力を奪いつつあるのだと自らに言い聞かせ槍を振るい続ける。 
「他所見とは感心しませんね。あなたは私達だけを見て下さらなければ‥‥!」
 フィーナは黒笑を氷の如き冷笑に変え、他の部隊を攻撃しようとしているクロウにウインドスラッシュを放つ。
 すぐさま第二波を放つその横顔は残酷なまでに美しい。
 クロウの動きをよく観察しここぞと言う時に放たれるフィーナの魔法は、的確に仲間の危機を排除していた。
 凍てつく様に感じていた朝の空気はすっかり昼の日差しにより緩和されていたが、戦局はそれとは対照的に厳しさを増していく。
「うああぁぁっ!」
「ルザリア殿っ!? うぐぅっ!」
 クロウの爪で引き裂かれたルザリアの体は赤い軌跡を描き地に倒れる。咄嗟に彼女の救出に向かうヴラドも背にクロウの攻撃を受け、ペガサスから叩き落とされた。
 激痛に耐え立ち上がる2人の体から血が滴り落ち、血溜まりとなってその足を汚していく。
 弱った獲物を見据えたクロウは他の者の攻撃を受けながらも尚、2人を喰らわんとその顎を雄叫びと共に開いた。
「させませんっ!」
 そこにリアナの雷撃が迸る。エボリューションによりダメージを与えられないが、気を逸らす事は出来ると信じて。
 捕食の機会を削がれたクロウはリアナへと鎌首を擡げ、再び顎を開き彼女に迫る。
「食わせて堪るかよっ!」
 仲間の危機を前にし、リルはその身をクロウの前に踊らせる。それを目にしたフィーナとリース唱えようとしていた魔法を中断せざるを得なかった。
 その刹那、リルの逞しい体はクロウの牙に噛み砕かれる。
「ぐああぁぁぁぁっ!!」
「リルっ! 貴様、よくもっ‥‥!!」
「‥‥‥‥」
 憤怒の表情のリースと無言の怒りを湛えたフィーナは、クロウの首元にウインドスラッシュを放つ。   
 その衝撃にリルは吐き出されるが、血塗れでぐったりと動かない。
「彼は私達で後方へ運ぶ! 安心してくれ!」
「必ず救ってみせるのだ! 戦線復帰まで持ち堪えるのだぞ!」
 薬で傷を回復させたルザリアとヴラドは、リルを左右から抱きかかえてアイリスの元へと急ぐ。
 しかしリルを運び終えた2人が目にしたのは、前線でクロウのブレスに晒される仲間の姿だった。

●英雄達へ贈る凱歌
 やがて戦場は夕日に照らされる。
 冒険者達の疲労は蓄積され、回復の暇を充分に与えられる程に追い詰められていた。
「死にたくもないし、誰も死なせはしないよ。じゃないと勝っても喜べないもんな」
「ええ。きっと沢山の人が祈っていらっしゃるのでしょう。大切な人の無事とそれを守るべくここに在る、わたくし達の成功を」
 もう何度目になるかわからない治療をリルに施しながら、アイリスは懸命に微笑む。
「先日のバロールとの戦では祈りと愛が力となりました。ですから、きっと大丈夫‥‥」
「おう。俺らの想いはこれくらいじゃ壊せねぇさ」
 拾い上げた槍を掲げ前線へと駆けていく背を見送り、アイリスは懐に仕舞った天使の羽ひとひらに服の上からそっと触れる。
(「祈りは、この胸にいつも在ります。必ず守り抜き、そして皆で帰りましょう。沢山の大切な人が居る、愛しい町に」)   
 聖女の祈りは癒しと共に仲間の胸に灯る。
「これ以上進ませないよ。けれどこの身に変えても、とは言わない」
 紋章の付いた首飾りを握り締めた後、リースは印を切る。
「こんな俺に心を通わせてくれるたくさんの人がいるから、誰よりも泣かせたくない人がいるから‥‥こんな所で、お前になんか殺されてやるわけにはいかないのさ!」
 大切なものなど何もなかったあの頃は、いつ死んでもいいと思っていた。けれども今は違う。
 その幸福を守る為に、リースは絶え間なく魔法を放ち続ける。
(「どうか明日が来ますように。明日もまた‥‥俺は花の様なあの笑顔が見たい。待っていて、必ず帰るから!」
 胸に抱く想いはリースに戦う力を与え続けていた。
「リア・ファルが‥‥切り離されたのだわっ!」
 レミエラの力を借りムーンフィールドで仲間を守っていたヴァンアーブルは、垣間見えた希望の一端に顔を輝かせる。
 ムーンアローでリア・ファルの場所を突き止める事に協力した彼女の喜びは一塩だろう。
 白い光に包まれたクロウは咆哮を上げ、その動きを僅かに止めた。
(「この一瞬に‥‥賭けるっ!!」)
 冒険者の狙いは同じであった。
 フィーナとリースの魔法の風刃がクロウの両目を襲い、リルとヴラドは槍を、ルザリアは剣を傷ついた体躯に突き立てる。
 クロウとの戦いに身を投じる冒険者達は一丸となり、渾身の力で攻撃を繰り返していく。
 そして────
『グギャアアアァァァァッ!!!!』
 耳を劈かんばかりの断末魔の叫びを上げ、クロウは大地に斃れる。
 そしてその巨体は夕暮れの闇に溶け、跡形もなく消え去って行った。
「勝った‥‥私達は勝ったのですね‥‥」
「守り、切れた‥‥キャメロットを、そこに住む人々の未来を‥‥」
「やっと‥‥やっと終わったのだわ‥‥」
 重なるのはリアナとアイリス、そしてヴァンアーブルの呆然とした呟き。
 後方から見渡す戦場は静寂に包まれ、まるで糸が切れたかの様に数人の冒険者が地面へと倒れ込む。
 キャメロットを守る為に戦い抜いた冒険者達が勝利の余韻に浸るには幾ばくかの時間が必要であろう。
 今は過酷な戦いを終え生きている自分と仲間を確認するだけで精一杯であった。
 彼らの無事を祈っていた人々が歓喜と共にその帰還を祝ったは、クロウとの戦いから数日後の事である────。