【アルと愉快な仲間達】森の秘宝を求めて

■ショートシナリオ


担当:綾海ルナ

対応レベル:6〜10lv

難易度:普通

成功報酬:3 G 9 C

参加人数:7人

サポート参加人数:-人

冒険期間:01月16日〜01月21日

リプレイ公開日:2010年01月25日

●オープニング

 今日はツイている。
 しかも近年稀に見る超絶好調だ。
 アルヴィス・スヴィバル(ea2804)は気を抜けば緩みそうになる頬を必死で押し留め、態と神妙な面持ちで頷いて見せる。
「なるほどなるほど。このダンジョンの奥は未開の地、って事か」
「ああ。なんせだだっ広い上に長いらしくてなぁ。今まで何人かの冒険者がそこに挑んだが、数日と持たずに全員が戻って来ちまったんだ」
「欲に目が眩む連中は総じて軟弱者が多いからね」
 涼しげな顔で本日5個目のバノックを堪能するアルヴィスに、向かい側に座る男性は片眉を上げてにやりと微笑む。
「そう言うお前だってダンジョンの奥にあるお宝が目当てなんだろ?」
「うん。それは否定しないね。誰も目にした事がない秘宝だなんて魅力的じゃないか。でも‥‥」
 アルヴィスはフォークを器用に一回転させ、片目を瞑って微笑む。
「僕をそこら辺の欲深ヘタレと一緒にしないでおくれよ。狙った獲物は必ず手に入れる、が今年の抱負なんだ」
「違いねぇ。お前の強欲さはよーく知ってるわ」
 肩を竦めて息を吐く男性は情報屋を生業とするアルヴィスの仲間‥‥つまり同業者だ。
 偶にこうして落ち合い酒場で食事を楽しんだりしながら情報交換をする間柄は、程良い大人の距離感を保っていた。
「一応確認しとくけど、この話は眉唾モノじゃないよね?」
「ぶっちゃけ100%お宝があるとは断言出来ねぇ。だがそのダンジョンの近くにある村で、お宝の話は伝承にまでなってやがる」
「ふうん。賭けてみる価値は有り、か。燃えるね。ちなみにどんな伝承なの?」
「ダンジョン‥‥まあ洞窟なんだが、それを抜けた先には妖精達が住む美しい森が広がっていて、森の守護者が長い間お宝を守ってるんだとよ」
 エールをごくごくと飲み干した男性は、近くを通りかかったウェイトレスを呼び止める。
「お姉ちゃん、いつものとエールを追加ね」
「君も好きだねぇ。じゃあ僕もバノックのおかわりを。さすがに食べ飽きてきたらかアップルジャム添えで頼むよ」
「つーか食い飽きたんなら頼むんじゃねぇよ。この甘味狂が」
 悪態を付く男性とアルヴィスには、生業の他にもう一つ共通点があった。
「はい、お待たせ! エールとフルーツ&ナッツケーキとバノック・アップルジャム添えだよ」
 元気の声と共に運ばれてきた品物が、テーブルの上にででんと置かれる。
「あんた達、本当に甘いものが好きよねぇ。それなのに太らないだなんて羨ましいわ」
 ウェイトレスは羨まし気な溜息の後「特別サービスよ♪」と小壺に入った蜂蜜を置いて行った。 
「うっはー、美味そうだなぁ。もう6個も食ってっけど全然飽きねーわ」
「甘いものは別腹だしね。しかし甘味にエールって言う組み合わせはどうしても解せないなぁ」
「だったら1回試してみろよ。絶対癖になるぜ?」
 2人の情報屋は恐ろしいほどの甘味好き仲間であった。

 結局8個もバノックを食したアルヴィスは、男性から渡されたお宝の情報と地図を手に弾む足取りで自宅へと戻った。
 そして親友のグラディ・アトール(ea0640)と恋人のディーネ・ノート(ea1542)を早速呼び寄せるのだった。 
「お宝ねぇ。てか、明らかにあやしーんだけど!」
「はっはっはっ、師匠は疑り深いなぁ。もしもハズレだったらその時はその時、だよ」
 ディーネの肩をぽんぽんと叩きながら、アルヴィスは清々しい笑顔を浮かべる。
「最近は国を守る戦いばかりで冒険らしい冒険が出来てなかったしな。偶にはいいんじゃないか、こういうのも」
 宝の地図から目を離したグラディは乗り気の様である。
「さすが我が親友ぐらっち! そう言ってくれると思ってたよ」
「っと、いきなり抱きつくなって。全く、アルは子供みたいだな」
 グラディとの抱擁で友情を再確認したアルヴィスは、くるりとディーネに振り返る。
「って事で僕達はお宝探しに行くけど、無駄足が怖い師匠は家でお留守番かな?」
「‥‥うっ」
「きっとスリリングな冒険になるんだろうなぁ。師匠と一緒に行けないのは残念だけど、無理強いは出来ないし‥‥」
「行くっ! あたしも行くわよっ!!」
 置いてけぼりは嫌だと言わんばかりのディーネの叫びに、アルヴィスは満足そうに微笑む。
「それでこそ僕の師匠だ。準備万端気合い充分の姿勢で挑むよ。そして必ずお宝を我が手に!」
「いつになく張り切ってるな。途中で息切れだなんて勘弁してくれよ」
「お宝をゲットしたら祝賀会よ! キャメロットに帰って来たら、美味しい物をいっぱい食べましょ♪」 
 勢い良く突き上げられたアルヴィスの拳に、グラディとディーネは自身の拳をコツンとぶつける。
 こうして甘味大好き魔法使いと愉快な仲間達による珍道中の幕が上がったのだった。

●今回の参加者

 ea0640 グラディ・アトール(28歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea1542 ディーネ・ノート(29歳・♀・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea2804 アルヴィス・スヴィバル(21歳・♂・クレリック・エルフ・イギリス王国)
 ea3991 閃我 絶狼(33歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea5556 フィーナ・ウィンスレット(22歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ec1007 ヒルケイプ・リーツ(26歳・♀・レンジャー・人間・フランク王国)
 ec5629 ラヴィサフィア・フォルミナム(16歳・♀・クレリック・ハーフエルフ・イギリス王国)

●リプレイ本文

●腹が減っては何とやら
 アルヴィス・スヴィバル(ea2804)は辿り着いた洞窟の入り口を見つめ、思いっきり背伸びをする。
「んー、本当に久々の冒険だなぁ。勘が鈍ってないと良いけど」
 先の見えない闇の奥から聞こえるのは、微かな蝙蝠の鳴き声と洞窟内を吹き抜ける風音。
「ああ、でもやっぱり僕は『冒険者』だね。こんなにもワクワクしてる」
 湧き上がる好奇心を笑みに乗せ、ふと仲間達を見やれば。
「いざ冒険の旅へ! ですわね♪ ラヴィの旦那さまはトレジャーハンターさんなので、きっと大丈夫だと思うのです♪」
「久しぶりの迷宮探索ですか。なんかこう言う事をしていると冒険者なんだなと実感しますねぇ。さて、冒険稼業に勤しむとしますか」
「こう言った遺跡探険は久しぶりです。素敵なものが見付かるといいですねー♪ アルヴィスさん、依頼を出して下さってありがとうございます♪」
 ラヴィサフィア・フォルミナム(ec5629)は根拠無くも可愛らしく、フィーナ・ウィンスレット(ea5556)はやる気漲るキヨラカな笑みで、ヒルケイプ・リーツ(ec1007)は礼儀正しくも元気に張り切っている。
「さて、それでは愉快な冒険に出発だ。でもその前に‥‥君は何者?」
「私はキャメロットの変態どもをへこます為、日夜戦い続ける愛と正義とフンドーシの使者うさ褌鬼面だっ!」
 アルヴィスに尋ねられた人物‥‥閃我絶狼(ea3991)はまるごとうささんの耳を揺らしながら、ばばーんと決めポーズを取る。
「なんでここに居るかと言うと、朋友ぐらっちに呼び出されたからである!」
「おかしいなぁ。ぐらっちは絶狼くんを呼んだって言ってたよ?」
「うむ、絶狼くんは急用が出来たとかでな、私が代理で来たのだよ。こちらは相棒の‥‥」
『‥‥マスカレイド閃華よ。よろしくね〜』
 フィディエルはうさ褌鬼面のポーズを微妙な顔で真似している。
「ふうん。なるほどねぇ。‥‥で、もう気は済んだかい、絶狼くん」
「わ、私は絶狼くんではないっ!」
「意地っ張りだなぁ、絶狼くんは。その変装、とっても似合ってるよ絶狼くん」
「だ、だからっ‥‥」
「さあ行こうか絶狼くん。先陣は任せたよ絶狼くん」
「う、ううううさ褌鬼面だもんっ!!」
 笑顔のアルヴィスにランタンを渡されたうさ褌鬼面は、涙ッシュで洞窟へと突撃する。
「うん。彼を弄るのは面白いね」
 こうしてアルと愉快な仲間達のお宝探索は和やかに幕を開けた。
 しかし、最初の試練は無慈悲な程の迅速さで彼らに襲いかかる────。
「‥‥あれ? おかしいなぁ」
 アルヴィスはマッピングをする手を止め、後方を歩く親友グラディ・アトール(ea0640)に振り返る。
「この印、見覚えがあるよね?」
「ああ。もう3度目だ。完璧に迷ったな」
「僕の白昼夢か敵のイリュージョンかと思ってたんだけど、違ったみたいだね」
「んな訳ないでしょ! 現実を見なさいっ!!」
 びしぃっとツッコミを入れるのは、アルヴィスの師匠であり恋人のディーネ・ノート(ea1542)。
 初っ端からこれでは先が思いやられると思った瞬間、彼女のお腹が大きな音を立てて鳴った。
「お腹‥‥空きましたわね」
 それにつられる様に、ラヴィのお腹も「きゅるるる」と可愛らしい音を立てる。
「無駄骨による無駄な空腹‥‥腹立たしいですね」
「フィ、フィーナさんっ!? 味方に魔法はいけませんよっ!!」
 冷やかな目でアルヴィスにライトニングサンダーボルトを唱えようとしたフィーナを、ヒルケは慌てて制する。
「確かに迷っちゃってますけど、まだ罠にかかった訳じゃないですし、前向きに頑張りましょうっ!」
「うんうん、ヒルケくんの言う通りだ。しかし先に進めないのは困ったね‥‥」
 アルヴィスは真横の岩壁をじぃっと見つめる。
「お約束だと、壁や床を触ったりすると罠が発動するのだよね。そうそう、こんな感じで────あれ?」
 ガコンッ!
「ちょ、それって押しちゃいけない壁‥‥‥‥あああぁぁぁぁ〜〜〜っ!!」
 絶叫のうさ褌鬼面を先頭に、一同は暗闇へと落ちて行った。
 1番先に落ちた人が下敷きになるのは、自然の摂理訳で‥‥
「ぐえっ! ぐわあぁぁっ!!」
 うさ褌鬼面は仲間が落ちてくる度に奇声を上げる。
「ふわふわで助かりましたわ。ありがとうございます、うさ褌鬼面さま♪」
「お、お役に立てて光栄だ‥‥ぐふっ」
 唯一その正体を疑わないラヴィに微笑まれ、うさ褌鬼面は吐血しながらぐっと親指を立てた。
「うーん‥‥困ったなぁ」
「今度は何ですか、アルヴィスさん」
「さっきの拍子に地図を落っことしちゃったみたいだ。これはこれは愉快だねぇ」
「ええ本当に。あなたを焼き焦がせたらさらに愉快になりそうですね?」
 笑顔のアルヴィスの背後で、フィーナが黒笑と共にゆらりと揺れる。
「‥‥フィー、悪いがその怒りをあっちにぶつけてくれ」
 グラディは剣を構え、暗闇から迫りくる集団‥‥ジャイアントラットの群れを睨みつけた。
「分かりました。お腹も空いてますし、調理して差し上げましょう」
「お前っ‥‥あれを食うつもりなのか!?」
「火を通せばイケるわよ。背に腹は代えられないでしょ?」
 腹ペコのディーネはじゅるりと涎を啜る。
「ここで会ったのも何かの運命‥‥私達のお昼ご飯になって下さいっ!」
 そして最後の良心ヒルケまでもが、嬉々として弓を引き絞るのだった。

●罠を制覇せよ!
 大ネズミの群れをあっと言う間に蹴散らし、ラヴィの調理で美味しく頂いた一同は探索を再会する。
「いけいけドンドン♪ こんな風に冒険者さんらしい事をするのはラヴィ初めてですわ♪」
 可愛らしい掛け声を上げるラヴィも、しっかりばっちりと大ネズミを食していた。報告を受けた時の旦那の反応が楽しみである。
「この周辺に罠は無いみたいですが、隠し扉も見当たりませんね‥‥」
 クレバスセンサーを唱え終えたフィーナは、ふうと物憂げな溜息を付く。
「進むしかないって事だね。じゃあ引き続き『基本方針・勘任せ』で行こうか」
「嫌よ。その所為で初っ端から迷ったんじゃない」
 ディーネはお気楽な恋人をじろりと睨んだ後、目の前に広がる4本の道を見つめる。
「ヴィス、火水風土の罠がどこら辺にあったか覚えてない?」
「ふむ。確かこの4本の道の内の1つがどれかに繋がってたと思うんだけど‥‥」
 アルヴィスが記憶の糸を手繰り寄せ始めた時、息を切らしたヒルケが1番右の道から戻ってきた。 
「この道の先に溶岩が煮え滾る空間がありました。きっと火の罠です!」
「‥‥思い出したよ。火の罠を抜けるのが最短ルートだ。と言う訳で行こうか」
「迂回って言う選択肢はないのかよっ!?」  
「敢えて危険に挑むのが冒険者ってものだよ、絶狼くん?」
 アルヴィスは不敵に微笑み、スタスタと歩き出す。
「それにしても無事で良かった。足を踏み入れた瞬間に入り口が閉ざされるって良くあるからな」
「侵入はしてないんです。罠を探している途中で道の横壁に狭い穴を見つけて‥‥よじ登って進んで行ったら、眼下は溶岩の海でした」
「そうか。良くつっかえなかったな」
「私、狭い所を抜けたりするのも得意なんです。だって引っ掛かる所がありませ‥‥」
「‥‥うん、わかった。それ以上は言わなくていい」
 ヒルケの心情を理解するグラディは、空気の読めるいい男である。
「これはこれは‥‥熱烈歓迎だね」
 アルヴィスは眼前に広がる光景と、吹きつける熱風に瞳を細める。
 細長く伸びる一本道は、灼熱の赤い海に挟まれていた。
「よし絶狼くん、レッツゴーだ」
「おわっ! 押すのはやめたまえっ!!」
 常に先頭を歩かされていたうさ褌鬼面は、アルヴィスに押されあわや溶岩の海にダイブする所だった。
 ホッと胸を撫で下ろし、着込み度ナンバー1は仲間を熱風から守る盾となる。
「‥‥熱ちぃ‥‥視界がゆらゆら揺れてるぜ」
 左右前方を注意しながら進むうさ褌鬼面。しかし、いかんせんまるごとさんなので視界が悪い。
「‥‥あ?」
 案の定、ふわもこの足は地面にあった突起を踏んでしまった。
 その瞬間、左右の壁から炎が噴き出した。
「うおぁっ!?」
 間一髪、焦げたのは鼻先だけ。
 もう少し先に進んでいたら、炎の挟み撃ちを受けてまるこげ兎さんになっていただろう。
「んー、これは参ったねぇ。でも1つ1つの噴射口が等間隔なのが救い、か‥‥。行くよ、師匠」
「了解。炎を消したら皆で猛ダッシュよ!」
 左右から噴き出す炎をウォーターボムで消火した瞬間、アルヴィスとディーネは仲間達と共にその場を駆け抜ける。
 再び炎が発射される音を背中で聞きながら、2人の水魔法使いは同じ作業を繰り返していった。
「皆様‥‥お怪我はありませんか‥‥?」
 息を切らしながら仲間を見つめるラヴィは、皆の無事を知りふわりと微笑む。
「このスリリングさ‥‥堪らないね。出来れば全部の罠を制覇したい所だ」
 その笑顔とは対照的に唇の端をにやりと上げ、アルヴィスは闇の奥へと続く三つの道を見つめた。

 アルヴィスの呟きの所為か、はたまた『応用方針・杖を倒して決める』の賜物なのか‥‥。
 足を踏み外したら最後、奈落へと真っ逆さまな細い道の上を歩く一同に、強烈な向かい風と横風が吹き付ける。
「細い道に強風は反則ですー! それにこの高さ、落ちたら死んじゃいますよー!」
「ううっ、飛ばされるもんですか! 向かい風と横風は同時に来ないから、タイミングを見計らって渡り切りましょう!」
「皆様、上をご覧になって下さいませっ! 矢が降ってきますわっ!!」 
「くそっ、風の所為で矢が乱舞してるな。だが皆に触れる前に俺が叩き落としてみせる!」
「私も加勢するぞ! 軌道修正・うさ褌サイコキネシーースっ!」
「あのスイッチを壊せば止むかな? えいっと‥‥うん、大当たりだね」
「ですが今度は毒ガスらしきものが発生しましたね。手っ取り早くストームで吹っ飛ばしてしまいましょう」
 あくまで冷静なフィーナの力技により風の罠を突破した一同だが、続けざまに水の罠に遭遇する。
「ひゃうっ!? 雨漏りにしてはびしょ濡れ‥‥て、鉄砲水まで出てきましたわっ!」
「うーん、これは水攻めだね。勢いが強過ぎてストーンウォールでも堰き止められそうにないや」
『私のウォーターコントロールでも無理よっ!』
「こう言う時に背が低いのって不利‥‥にゃーっ!? 口に水が入った! もう無理ーっ!!」
「各なる上は致し方あるまい。翔べ、ぐらっち! うさ褌・ロォォリンググラビティーー!」  
「おわあぁぁっ!?」
「グラディさん、騎士の誇りに懸けてあの天井にある突起を壊して下さい! 落ちても水の上ですから大丈夫です、きっと!」
「‥‥水が止まりましたね、お見事です。‥‥おや、ディーネさんが浮かんでますね」
 有無も言わさずに上空に舞い上げられたグラディの切っ先で難を逃れた一同は、濡れた服を乾かすお色気タイムに突入。
「さあ、潔くその裸体をさらしなさい」
「フィー、止めっ‥‥あぁっ!!」
「わ、私には愛する旦那様が‥‥っ! でも、チラッと見るだけなら‥‥や、やっぱりいけませんっ!」
「ふぅ‥‥まるごとの吸水パワー半端ねぇな」
「うさ褌鬼面さまの正体が絶狼さまだったなんて‥‥! ラヴィは純粋なうさぎさんだと信じてましたのにっ」
「今頃気づいたのっ!? す、素直な子ねぇ」
「ラヴィくんは純情だなぁ。実に良い事だ、うん」
 お茶目なハプニングを楽しみつつ、どうせなら土も行っとく? なノリでいよいよ最後の罠と対峙しようとしていた。
「な、何ですの、この地鳴りは‥‥」
 ゴゴゴゴゴゴ‥‥。
 体の芯に響く様な大音量と共に、足元がゆらゆらと揺れ出し始めた。
 天井からパラパラと降ってくる土埃に耐え、一同は揺れが収まるのをジッと待つ。
 ゴゴゴゴゴゴゴ‥‥。
 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ‥‥‥‥ゴロンゴロン。
「‥‥何だが嫌な音が聞こえないか?」
 ゴロンゴロンゴロン‥‥。
「ええ、恐らくこれは巨大な岩が転がってくる音ですね」
「ついに最後の罠が発動したみたいだね。言っておくけど、僕は何も触ってないし踏んでもないよ」
 疑惑に満ちた視線を一身に受けるアルヴィスは、両手を上げて無罪を主張する。
「‥‥ゴメン。さっき踏んだのは石じゃなくてスイッチだったみたい」
「何だ、師匠の仕業か。やっぱりやってくれたね」
「う〜、絶対にやらかさないようにって注意してたのに‥‥ホントにゴメンっ!」
 頭を垂れて打ちひしがれるディーネの首根っこを引っ掴み、うさ褌鬼面は走り出す。
「謝らなくていいっ! とにかく反対方向に逃げるぞっ! 私に続けっ!」
「大事なのは諦めない心と困難に立ち向かう勇気、助け合う仲間です! えいえいえおーっ!」
「いけいけドンドンですわ♪」
 これだけ喋りながらも逃げられるのだから、冒険者って素晴らしい。
 ゴゴゴゴゴゴゴゴ!!
 しかし運命の悪戯か、彼らの前方から動く壁が迫って来た!
「挟み撃ちですわっ!」
「うさ褌鬼面さん、食い止めて下さいっ!」
「ぐらっちはその盾で転がる大岩をよろしく」
「「えええぇぇぇっ!!??」」
 大事なのは諦めない心と困難に立ち向かう勇気、助け合う仲間‥‥じゃなかったのか!?
「あの2人は持って数秒‥‥このままじゃ仲良く圧死ですね」
「皆ゴメンっ! あの世で好きなだけ奢るから許してっ!」
 迫りくる壁と大岩、混乱する仲間達。
 その時、ラヴィの目に古びたレバーが映った。
「セーラ様、ラヴィ達をお救い下さい‥‥えいっ!!」 
 祈る気持ちでレバーを引っ張った瞬間、ふわりと宙に浮く7人の体。
「きゃあああぁぁぁぁっ!!」
 2度目の落とし穴へご案内‥‥である。
 ────どれくらいの落下し続けたのだろうか?
 蔦に絡まった状態で、一同は同じ事を考えていた。
「助かった‥‥んだよな?」
「酷く不快な状態ですけどね」
 グラディを見上げ、フィーナは長い溜息をついた。
 蔦から脱出した一同は、アルヴィスのホーリーライトの光の元へと身を寄せる。
 照らし出された天井は遥か高く、あの高さから落下して無傷なのは奇跡であった。
「ここは地下なのかしら?」
「落ちて来たからそう考えるのが妥当だけど、上り坂が多かったよね?」
「‥‥微かですが小鳥の鳴き声が聞こえます。もしかしたら、すぐ外は例の森なのかもしれません」 
 優良聴力を持つヒルケの言葉に、一同は顔を見合わせる。
 しかし出口らしきものは何処にも見当たらなかった。
「無暗矢鱈に動き回ったり触るのは勇気がいるな‥‥さっきの大岩が落っこちてきたら一溜まりもないぞ」
「そうですけど、きっとこの壁に何かあるに違いありません!」
 自身の聴力を信じるヒルケは、うさ褌鬼面の助言を思いっきり無視し目の前の壁に勢い良く触れる。
 ゴゴゴゴゴゴ‥‥。
「言ってる側から押す奴があるかっ!」
「だ、大丈夫です! きっと‥‥」
 ヒューーーーー‥‥‥‥ズドオオオォォォン!!
「どこがだよっ!」
 予想通りに落下してきた大岩は、轟音を上げて蔦を押し潰す。
 その衝撃でふっ飛ばされた一同が、巻き上がる砂埃の向こうに見たのは────
「‥‥ドンマイ、ヒルケくん。森は僕達を招待してくれたみたいだよ」
 常緑樹が茂り冬の花が咲き乱れる、美しい森だった。

●森の至宝
 薄暗い洞窟に長い時間滞在していたせいか、外の空気は新鮮でとても美味しく感じた。
 緑の葉の香りと、微かに甘い花の香りが胸一杯に満ちて行く。
「やっぱり自然の中で取る食事は美味しいね」
「そうね。やっぱり取れ立て新鮮が1番よ♪ 火は通してるけど」
 アルヴィスとディーネはぱくぱくとソレを食べ進める。
 極彩色のキノコ・スクリーマーの丸焼きを‥‥。
「この見た目だから認めたくないけど、確かに美味いな。普通のキノコと何ら変わらん」
「素材の味が活きてますよね♪ さすがはお料理上手のラヴィさんです」 
 うさ褌鬼面とヒルケの心と体をほっこりと温めているのは、ラヴィが作ったスクリーマーのスープだ。
 どんなモンスターも彼女の手にかかれば、あっと言う間に絶品料理になってしまう人妻の不思議。
「スクリーマーが美味しいって話は本当だったんですね。今度、旦那さんと一緒に狩ってみます♪」
「だから言ったじゃないですか、煮て良し焼いて良しって。ヒルケイプさん‥‥私の話を信じていなかったのですね?」
「ゴ、ゴメンなさいっ! やっぱりあの見た目ですし、凄い声で叫んでましたから‥‥!」
「ふふ、いいんですよ。誰しも未知で奇抜なものには畏怖を感じるものです。あなたが私の実験体になってくれれば、この事は綺麗さっぱり水に流しましょう」
「ひっ! そ、それは‥‥」
 フィーナのキヨラカな笑顔に、ヒルケは涙目でぶるぶると震え出す。
「それくらいにしとけよ、フィー。本気で怖がってるぞ」
「私も本気で実験体への勧誘をしていたのですが‥‥」
「‥‥その見た事の無い野草や虫のか?」
「ええ、勿論」
 引き攣り笑いを浮かべるグラディの視線の先にあるのは、得体の知れない生物がぎっしりと詰まったフィーナの採取袋だ。それはがさごそと蠢いている。
 フィーナはにっこりと微笑み、改めて森を見渡す。
「この森は素晴らしいですね。私の知的好奇心を刺激する生き物で溢れています。帰ったら早速、実験をしませんと‥‥くくくっ」
 ‥‥暫くはフィーナに近づかないようにしようと心に決めるグラディであった。  
「さて、と。お腹もいっぱいになったし、この森の奥にある秘宝を探しに行こうか。甘味を食べ歩きしながらね」
 お腹を摩りながらも大好物の甘味を片手を取り出すアルヴィス。さすがの甘味狂である。
「このはちみつマドレーヌは、甘くてほくほくなんだよね‥‥おや?」
 焼き菓子に被りつこうとしたアルヴィスは、茂みの向こうからじーっとこちらを見つめているエレメンタラーフェアリーに気づく。
 その視線はアルヴィスと言うよりも、彼の手にある焼き菓子に注がれていた。
「これは珍しいお客さんだね。よかったらお近づきの印にどう?」
『‥‥!』
 笑顔で近づくものの、エレメンタラーフェアリーは吃驚した顔で距離を取る。
「大丈夫だよ、君の事を取って食ったりしないから。まあ、若干1名、実験欲の塊なキヨラカな人はいるけどね」
『‥‥!!』
 フィーナと目が合ったフェアリーは、ぶるぶると震えながら茂みの中に隠れてしまった。
「うーん、予想以上に恥ずかしがり屋さんでガードが固いなぁ。ここに置いておくから、気が向いたら食べてみてね」
 アルヴィスはハンカチーフで包んだ焼き菓子をそっと茂みの前に置く。
 そして仲間と共に森の奥へと歩き出す彼の背を見つめた後、エレメンタラーフェアリーは恐る恐る焼き菓子を手に取った。
『‥‥♪』
 一齧りの後にぱあぁっと顔を輝かせ、夢中でそれを頬張るのだった。
「お宝を守っているのは、やっぱり宝が欲しければ俺を倒せ! 系だろうか?」
「まぁ♪ まさしく『森の守護者』って感じですわね、絶狼さま」
「うむ、試練もまた冒険の王道だな。そして私はうさ褌鬼面だと言っているではないか」
 正体がバレても尚、違うと言いきる様は逆に見事なまでに潔い‥‥かもしれない。
「さっきの妖精さん、お菓子を気に入ってくれるといいですね♪」
「きっと気に入ってくれるとも。何せこの僕が厳選した甘味だからね」
「‥‥ヴィス! あれを見てっ!!」
 得意気に胸を張るアルヴィスの服の袖を引っ張り、ディーネは緊迫した声音を響かせる。
 一同の前方に見えるのは、ラヴィよりも大きいジャイアントビートルの姿。
 それに追われているのは‥‥先程のエレメンタラーフェアリーだ。
「妖精さんが食べられちゃいますっ! 早く助けましょう」
 ヒルケはそう叫ぶのと同時に矢を放つ。
 迷い無く空を切るそれは、ジャイアントビートルの羽根に深々と突き刺さった。
「すごいでかさだな。だが所詮は昆虫、俺達の敵じゃないさ!」
「ああ、挟み撃ちにしてくれよう!」
 グラディとうさ褌鬼面は武器を構え、ジャイアントビートルに突進する。
「はああぁぁっ!」
「くらえ! うさ褌・スマーーッシュ!!」
 渾身の力を籠めて振り降ろされた2つの刃に体を突き破られ、体液を噴き出しながらジャイアントビートルは地面に伏す。
「ラヴィは‥‥ラヴィは虫さんが大ッッッ嫌いなのです〜〜〜〜〜!!!」
 青い顔で震えながらも、ラヴィはホーリーフィールドの結界を形成する。
「ここからでもライトニングサンダーボルトを撃てるのですが‥‥あのエレメンタラーフェアリーに当たってしまったら大変ですね」
「ではこちらにお連れしましょう! ハイドランジア、ゴーですわ!」
『わぉんっ!』
 ラヴィの命令を受けたセッターのハイドランジアは、恐怖で動けないエレメンタラーフェアリーに向けて走り出した。
『‥‥!?』
 そして驚くその頬をぺろりと舐めた後、小さな体を咥えてラヴィの待つホーリーフィールドへと戻って来る。
「良く出来ました♪ お利口さんですわ」
『わふっ』
 主人に褒められ尻尾をパタパタと振るハイドランジアの隣で、涎まみれとなったエレメンタラーフェアリーは事態が把握できずに未だぶるぶると震えていた。
「大丈夫。僕達は正義の味方さ」
 アルヴィスはにっと笑い、飛び立とうとするジャイアントビートルにウォーターボムを放つ。
 陽の光を浴びキラキラと輝く水飛沫の衝撃を受け、再び地に伏すジャイアントビートル。
「偶には接近戦もしないとね! 殴るウィザードもありでしょ?」
 ディーネはヒートハンドを聞き腕に纏い、思いっきりジャイアントビートルの体を殴りつけた。
 ちみっ娘の肉弾戦は微笑ましくも目の保養である。
「接近戦が好きな人達ですね。当たっても知りませんよ?」
 黒の麗笑と共に不吉な事を口にするフィーナ。
 その手から放たれた雷撃は轟音を上げ、ジャイアントビートルだけを焼き焦がす────勝負ありだ。
「僕達の手にかかればざっとこんなものだね。食後の良い運動にはなったかな」
 銀の髪をかき上げ、アルヴィスはにっこりと微笑む。
 冒険者達の雄姿を見つめていたエレメンタラーフェアリーは、漸く彼等が自分を救ってくれたのだと理解したのか。
 そろそろとアルヴィスに近づき、きゅっとその指を握った。
「あのお菓子‥‥美味しかったかい?」
 優しい問いかけにエレメンタラーフェアリーは笑顔で頷く。
「そっか、それは良かった。所で、この森にあるお宝の場所を知らないかな?」
 エレメンタラーフェアリーはじっとアルヴィスの顔を見つめた後、ふるふると頭を振った。
「楽してお宝は手に入らず‥‥だな。地道に探そうぜ、アル」
「この森の中をお散歩するのも楽しそうですよね♪ 行きましょうっ!」
 グラディとヒルケに肩を竦めて微笑し、アルヴィスは歩き出す。
 すっかり懐いてしまったエレメンタラーフェアリーと手を繋ぎながら‥‥。

 それから森の隅々を調べた一同だったが、お宝らしい物は何一つ見つからなかった。
 しかしそれを残念がる者は誰一人いない。
「形ある物よりも無い物の方が価値があるって奴だな。そして思い出はプライスレス‥‥ってか?」
「そうね。こんなに綺麗な景色を見せられちゃ文句は言えないわ。それに皆と一緒に楽しめたから、私としては良しっと♪」
「私にはしっかりと手元に残る収穫がありますけどね? ああ、実験が楽しみです‥‥」
 うっとりと蠢く袋を見つめるフィーナから、うさ褌鬼面とディーネはさり気なく距離を取る。
 茜色に暮れ行く空の下、沈み行く太陽の色に染められていく森の木々と、美しい花々達。
 踊る様に舞う蝶と数匹のエレメンタラーフェアリー達が戯れるその光景は、幻想的なだけでなく心の奥を温かくする優しさに満ちていた。
「折角ですから、こに皆の名前を残していきませんか? 宝物より、力を合わせてここまで来れた事の方が価値があると思うんです」  
 ヒルケは並んで夕日を眺める一同に微笑み、大きな木の下に転がる石碑を指差す。
「ええ、是非っ! 皆様とこうして大冒険が出来た事が、ラヴィにとって一番の宝物ですもの♪」
 ラヴィは1番乗りとばかりに駆け出し、石に名前を掘っていく。
「‥‥来て良かったな。冒険者としてって言うより、悪ガキとして楽しんだ感があるけど」
「いつまでも少年の心を持ちつつづける事。これが若さの秘訣だよ?」
 片目を瞑って見せる親友に、グラディはフッと笑みを漏らす。
「最初は心底嫌な奴だと思っていたのに、一緒に過ごす中でいつの間にかお互いに欠かせない存在になっていたな。今思えば俺は最初から、お前が内に秘めた強さに憧れていたのだと思う」
「急にどうしたんだい? 愛の告白何か始めちゃって」
「ったく、茶化すなよ。お前に相棒と呼ばれた事を、俺は誇りに思ってるんだから。ありがとう‥‥アル」
「‥‥僕もだよ、ぐらっち」
 固い友情で結ばれた親友2人は、がしっと肩を組み夕焼け空を見つめる。
「思い出という世界で一番の宝物を胸に、またいつかこうして冒険に出ましょうね?」
 その様子を眺めていた5人は、ラヴィの言葉に笑顔で頷くのだった。

●愉快な仲間達
「‥‥と言う訳で、僕達は幾多の苦難を潜り抜けて友情を深め合ったのさ」
 モルの隣で甘味を頬張りながら、アルヴィスはついて来てしまったエレメンタラーフェアリーの頭を優しく撫でる。
「それにしても愉快な冒険だったね。これだから世界は面白い。次はどんな冒険が僕等を待っているのか──楽しみだね」
「それは良かったな。‥‥ふんっ」
「おやおや、もしかしてヤキモチかい? モードレッドくんは可愛いなぁ」
「違うっ! お前達だけで楽しんできたのが気に食わないだけだ!」
「それをヤキモチと言うのですよ、モルモル」
 すっとモルの頬を撫で、フィーナは優美に微笑む。
「私はあなたに寂しい思いはさせませんよ。実験体として末長く可愛がって上げますから」
「ひぃっ! て、丁重にお断りするっ!」
「そんな事を言わずに、主従関係の復活をハーブティーで乾杯しましょう?」
 青褪めるモルを面白そうに眺めながら、普通のお茶会もいいものだと思うフィーナ。
 しかし彼女は無意識の内に恐怖を振り撒いていた‥‥。
「モードレッドさま、お久しぶりです♪ お元気そうで何よりですわ」
 そこに純白の救世主ラヴィが姿を現す。
「た、助かった‥‥」
「?? クレアさまの腕には及びませんけれど、ラヴィのお菓子を楽しんで頂けてますか?」
「ああ。お前の作る菓子は優しい味がする。結婚してからはさらに甘さが増したみたいだがな?」
「モ、モードレッドさまっ!」
 にやりと笑うモルに顔を真っ赤にする新妻ラヴィに、人妻仲間のヒルケが加勢する。
「恋人さんが出来たんですから、もう他の女の人にちょっかいを出しちゃダメですよー?」
「お前、何でそれを知ってるんだ?」 
「ふふっ、乙女の耳は恋に関する話題を逃さないのですよ♪」
 珍しく頬を染めるモルに、ヒルケは悪戯っぽく微笑んだ。
「若さとはかく在るべし。モードレッド君、元気になったようだねえ。絶狼君も心配してたよ」
 モルの肩にぽむと手を置き、うさ褌鬼面はうんうんと頷く。
「あ、ありがとう‥‥って、お前‥‥」
「これはお土産のクッキーと甘めの酒ね。ああ、私の事は気にするな」
「気にするだろうが! 人の家にいきなり押し掛けて来て、何をふざけているんだ、絶狼!?」
「わ、私はうさ褌鬼面だっ!!」
 依頼期間終了までは『うさ褌鬼面』と言い張るつもり満々の絶狼であった。
 甘味とお酒にまみれた宴は夜遅くまで続き、ドタバタと騒ぎながらも一同は楽しい一時を過ごした。
「モル‥‥ちょっといいか?」
 グラディはソファでお腹をさするモルの隣に腰を下ろす。
「お前と同じ道を歩めない事は残念だが、今こうしてお前が生きている事に比べればそれも些細な事だと思う。これから先、新しい道を自分の力で切り開いていくお前には、辛い事も泣きたい事もあるかもしれない。それでも、生きている限り必ず希望はある」
 グラディは語りながら、モルは耳を傾けながら。
 数々の思い出達を振り返っていた。 
「もし苦しくなった時は、何時でもお前の力になる。俺の魂は何時でもお前と一緒だ」
「‥‥馬鹿野郎っ」
 モルはそっぽを向き、目頭を押さえる。
 震えるその肩を優しく抱き寄せ、グラディは穏やかに微笑んだ。
「ぐらっちもモードレッドくんも浮気はいけないなぁ。僕と言う大親友がいるのに」
 アルヴィスはいつもの笑みを浮かべながら、くしゃくしゃっと2人の頭を撫でくり回す。
「ってゆーか、私の立場が無いんですけどっ! ヴィス達の友情は篤過ぎよ?」
 そこにディーネが現れ、ぎゅっとアルヴィスの腕に抱きつく。
「初恋の女性とは結ばれないと言うのは本当だったな。‥‥なあ、ディーネ?」
「ふぇっ?」
「そのジンクスは必ずしも正しくないぞ。現に僕は結ばれたからな」
「随分と自信有り気ですね、モルモル。精々捨てられない様に頑張って下さい」
「こらこら、脅すんじゃない。それにしても‥‥初めて冒険に出た日を思い出すよ。長い付き合いになったな、フィー」
 グラディはまさかこんなにもキヨラカになるとは想像もしていなかったけど‥‥と心の中で呟く。 
(「この出会いに感謝を。そして育んだ友情よ、永遠なれ‥‥なんてね」)
 アルヴィスは瞳を細めて仲間達を見つめる。
 そして次の愉快な冒険はいつにしようかと思案し、唇の端を上げて笑った────。