小悪魔狂騒曲 酒豪列伝

■ショートシナリオ


担当:熊野BAKIN

対応レベル:2〜6lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 36 C

参加人数:6人

サポート参加人数:3人

冒険期間:11月07日〜11月11日

リプレイ公開日:2006年11月14日

●オープニング

●倉庫にて
「午後に出荷する分は積み込んであったかな?」
「えーと・・・・まだです」
 イギリスの首都キャメロットの外れにその酒屋はあった。
 この店のエールは質が良いものの、やや値段が高めな為に貴族や裕福な家庭が主な顧客だった。しかしこの時期は別。近隣の村では収穫祭が執り行われる事もあり「何時もより上等な酒を」という需要が高まるのだ。
「そうか。午後一番での出荷だから、昼飯までに済ましとけよ」
「分りました」
 親方に返事をすると若い男は倉庫へと向かった。
 街外れというのは商売には不向きだが、大量に酒樽を保管したり移動するのには都合が良かった。客からしても足を運ぶ手間はあるが、その手間が「わざわざ良い酒を買いに行く」という気持ちをあおる部分でもあった。

 「さてと」親方は他の注文を確認しようと店へと向かう、が。
「ひゃぁーー!!」
 倉庫から先ほどの若者の叫びが聞こえた。
「なんだなんだ?」
「樽でもひっくり返したんだろうよ」
「全くそそっかしい奴だ」 
 親方は苦笑いを浮かべると、まわりで作業をしていた店員達と共に倉庫へと向かった。

 倉庫に辿りつくと若者が扉の前でへたり込んでいた。見たところ怪我一つ負っていない。
「おい、どうした? 腰でも痛めたか?」
 「まだ若いのにだらしねぇなぁ」1人がそう冷やかすと、一気に笑いの輪が広がる。
 あっはっはっは、うははは、きしゃーしゃっしゃ、はっはっは・・・・?
「今、変な声が聞こえなかったか?」
「お前も聞こえたのか」
「俺も・・・・」
 明かに人の笑い声とは違う、異質な笑い声が混じっていた。
「あ、あれ・・・・あれ・・・・」
 へたり込んでいた若者がようやく口を開くと、倉庫の中を指差した。

 −ごくり−

 誰かが息を飲む。恐る恐る倉庫を覗きこむ男達・・・・そこにいたのは。
「で、デビルだぁ!?」
「ありゃグレムリンじゃねぇか!」
「なんてこった・・・・」
 親方はただ呆然と呟くばかりだった。

●翌日 冒険者ギルド
「・・・・というわけで」
「分りました。グレムリン退治と言う事ですね?」
「はい、宜しくお願いします」
 店評判にもかかわる事。なんとか自分たちの手で解決しようとしたが、一般人にデビルをどうこうできるはずも無く。結局はギルドへ依頼を出す事にしたのだ。

 受け付け担当は何事かメモを取ると、依頼者の親方に質問を続けた。
「そのグレムリンの数や居場所、行動。分っている事を教えてください」
「は、はい。数は3匹でうちの酒樽倉庫に3匹います」
「3匹一緒、ですか?」
 下級デビルとは言え3匹一緒となると厄介な事になる。
「いや、そのうちの2匹は出荷用の倉庫にいるんですが・・・・もう1匹が」
 言葉を濁す親方。
 店の信用に関わる事だ、ベテランの担当者はそう直感するとすぐにフォローをいれる。
「この件に関して店名は伏せます。希望者にも秘密厳守の旨を出します」
 その言葉に安心した親方は口を開いた。
「お得意様用の倉庫に1匹・・・・」
 成る程これは店にとって死活問題だ。上流階級の顧客の信用を損なえば、店の信用が落ちる・・・・だけでは済まないかも知れない。

 「ただこの1匹がなんだか妙で」親方は言葉を継いだ。
「出荷用の倉庫にいる奴等は、手当たり次第樽をこじ開けて酒をかっ食らって大騒ぎしてるんです。でもこいつは酒樽を1つづつ開けて、しかもジョッキを持ち出してきて味わう様にのんでやがるんです」
「・・・・はい?」
 あまりの展開に一瞬フリーズする担当。確かにグレムリンは酒好きだが所詮は下級デビル、そんな事がありえるのだろうか? 事実は小説より奇なり。
「悔しいがイイのみっぷりで、酒好きというより酒飲み。と言う感じでした」
 いや感心してる場合ではないから。

「・・・・それで、他に付帯条件はありますか?」
 一つ深呼吸。体勢を立て直して仕事を再開する。
「出荷用の倉庫ですが、無事な樽は壊さん様に頼みます。不幸中の幸いで大分出荷した後ですんで空間も十分あります」
 まぁ当然だ。スペースがあるなら取りたてて難しい事ではない。
「それとお得意様用の方ですが、血や体液で汚されたくないんですよ。うるさがたも多いので」
「分りました」
 こちらの条件はかなり厳しい。目の前に上質な酒がある以上、酒で誘引と言うのも難しい。いっそ飲み比べでもしかけて酔い潰すか? 馬鹿馬鹿しい手ではあるが、外に誘き出すよりは現実的だ。
「万事納まった暁には、旨い酒を振舞いますんで宜しくお願いします」

 かくしてまた一つ、ギルド掲示板に依頼が上った。

●今回の参加者

 eb3333 衣笠 陽子(26歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb4750 ルスト・リカルム(35歳・♀・クレリック・人間・イギリス王国)
 eb5295 日高 瑞雲(34歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb5450 アレクセイ・ルード(35歳・♂・神聖騎士・エルフ・ロシア王国)
 eb7300 ラシェル・ベアール(22歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)
 eb7628 シア・シーシア(23歳・♂・バード・エルフ・イギリス王国)

●サポート参加者

ホアキン・ゴンザレス(ea3745)/ デゴーズ・ノーフィン(eb0073)/ 龍一 歩々夢風(eb5296

●リプレイ本文

●酒は生き物
 冒険者一行は倉庫に屯するグレムリンを叩き出す為、依頼主である酒屋の一室を借りていた。
「上等な酒って事だし、まぁ当然かもね」
 エルフのアレクセイ・ルード(eb5450)は、若干のトラブルをそう評した。
「地下の貯蔵庫が倉庫を兼ねてるとは」
 シア・シーシア(eb7628)、相槌をうつ彼もまたエルフだった。
「わざわざ地下に保存する程の酒とは・・・・そそるぜ」
「あんまり無茶はしないでね」
 気合が入りまくる日高瑞雲(eb5295)にルスト・リカルム(eb4750)が声をかけた。

「こちらではジャパンのお酒は扱っていないそうです」
「ご苦労様、どうぞ」
 一人、部屋を離れていた衣笠陽子(eb3333)が戻って来ると、ラシェル・ベアール(eb7300)はハーブティーを注いで差し出しす。
「あ、ありがとう御座います」
 律儀にお辞儀をすると陽子は差し出されたカップを受け取った。

●挑戦者現る
 −ぐび−ジョッキに残っていた酒を飲み乾す。人間は取るに足らぬ存在だが「酒をつくる」一点においてはなかなかだ、彼はそう思っていた。
 さてもう一杯。腰掛けにしていた樽にジョッキを突込み、酒を汲み上げようとした時・・・・
「これだけの酒を独り占めたぁ、いただけねぇな」
「僕も飲みた・・・・ごほん。グレムリンと酒盛りなんてなかなか出来ないしね」
 人間とエルフの雄が1匹づつ、外へと続く石段から降りてくるところだった。
 冒険者か? それにしては武器を持っている様子もない。それどころか人間の方は酒瓶のような物を持っているし、エルフの方は「酒盛り」と言ったか?
 少なからず興味をひかれ、彼は警戒しつつも2人の出方を見ることにした。

●酒蔵捕り物帖
 「始まった頃か」アレクセイは作戦開始の合図を出すタイミングを計っていた。
 その合図を受けて陽子とルストがグレムリン目掛け、各々スリープとコアギュレイトを放つ手はずになっていた。
 だが、お得意様用倉庫と出荷用倉庫の配置上、1人で飲み比べを見届けてから即座に合図を出すのは難しい。故にお得意様用を担当したメンバーが顔を出すのを待ち、それをきっかけにする事にしていた。
 
「大丈夫。いつも通りやれば大丈夫」
 責任感の強さとネガティブな思考で必要以上に自分を追い込んでしまう、陽子自身が自覚している短所だ。
 だが幾つか依頼をこなしていくうちに、少しずつ「自分の使い方」がわかって来た。アレもコレも抱え込まず自分の役割をいつも通りこなせば良いのだ。
 陽子は自分に言い聞かせながら合図を待った。

 同じ頃、ルストは別の事を考えていた。
「日高くん大丈夫かな」
 別班と分れる直前、シアとラシェルにはグッドラックの魔法で祝福を与えたのだが、「正々堂々と勝負したい」と言う瑞雲の主張もあり止めたのだ。
 打ち合わせの時に声をかけたのは、ただ「声をかけたくなった」から。今は・・・・やんちゃな弟をもつ姉の心境?

 三者三様の思いを秘め、その時に備えていた。

●酒豪列伝
「下級とはいえ、デビル相手に平和ですね」
 とは班分けの都合上、グレムリン対瑞雲対シアの「三つ巴飲み比べ大会」を見届けるハメになったラシェルの弁。正直、酒に興味が無い者にとって「酒飲みのプライド」なんぞ理解に苦しむ世界だ。
 まぁ開始から2時間。延々と飲みつづけるヤローどもを、しかもシラフで見続けると言うのは・・・・うら若き乙女には拷問に近い、隣近所ぐらいの距離だ。
「それにしても店の人、良く納得しましたねぇ」

「いやー、いい飲みっぷりだ」
 シアは適度に酒量をセーブして瑞雲が負けた時のために備えていた。
 彼が飲み比べを提案した時、店主は当然ながら難色を示した。しかし「外へ誘き出す方法が無い」事と「酒を傷つけない」為にはこれが最良と力説するシアに、納得せざるを得なかったのだ。
「ささ、瑞雲もグレ君もどんどんいってくれ。僕は僕でやってるから」
 2人にはどんどん酒を勧め、自分は存分に良酒を楽しむ。非常にいいポジションだ。
 あの後、飲み比べの意を伝えるとグレムリンは暫しの間考え「スワレ」の一言と共にジョッキを投げて寄越した。 察するに「決闘受けた」と言う所か。
 しかし古今東西、グレムリンが飲み比べに応じたなどと言う話は聞いた事が無い。余程の変わり者か物好きか、何にせよ奇異な存在ではあった。

「言われるまでもねぇ。良い酒に良い飲み仲間、飲んだくれにしちゃぁ果報モンよ」
 瑞雲はシアの掛け声に応じる。有り物の酒では飽き足らずに持参したジャパンの酒にまで手を出していた。
 最初はデビルと酒を酌み交わす物珍しさが肴だった、しかし今は違う。種族を超えた「酒飲み」と出会った喜びが何物にも変え難い酒肴。
「こいつはとっておきだぜ」
 銘酒「うわばみ殺し」大酒飲みの妖・うわばみをも酩酊させると言う強烈な一品、先に空けたどぶろくなどとは比較にならぬ酒だ。
 2時間も飲みつづけた後のちゃんぽんは、飲み比べと言う点からみれば瑞雲にとっても非常にリスキーな選択なのだが「楽し過ぎて何も覚えてねぇ」(後日、本人語る)以上。

 先ほど注がれた白濁した酒とは違い、澄みきった泉の如き酒面にグレムリンは興味をそそられた。しかしその静寂さは何処か鋭利な刃物を思わせる輝きを浮かべている。
 人間は自分のジョッキにも酒を注ぐと躊躇い無く呷り「くぁー、キクぜぇ! 」腹の底から息を吐き出した。
 その声つられ、彼も無色の酒に口をつけた。

「!」
 その瞬間、ラシェルとシアは思わず息を飲んだ
 −ぐらり−
 グレムリンの身体が大きく傾いたのだ。しかし彼は辛うじて持ちこたえた、「まだ終らないか」そう思った時、デビルが立ち上がった。
 僅かな静寂の後、「オ前ノカチダ」言い放ってグレムリンは酒樽から飛び降りた。
 デビルが人間相手に負けを認めた。或いは敵の前で酔いつぶれる危険を回避したのかも知れない。しかし瑞雲はそうは思わなかった。
 「良い飲みっぷりだったぜ」手を差し出す。
 グレムリンはその手を一瞥すると「ふっ」ニヒルに笑った。確かに彼は勝負を始める半日以上も前から酒を飲み続けていた。
 だが自ら受けた以上は五分と五分の勝負、負けは負けだ。
 勝者には喝采を、敗者はただ去るのみ。去り行く男(多分)の背中がそう語っていた・・・・ような気がする。

●デビル酒?
 「やっと終ったか」戸口からGOサインを送るラシェルを見つけ、アレクセイは溜息をついた。
 この程度で終ったのは御の字かもしれない、何しろ世間には一晩中飲み明かす「ザル」だっているのだ。そんな長丁場になっていたら・・・・考えるだけで恐ろしい。
 瑞雲から借りうけたコルダンのナイフを確かめると、アレクセイは開始の合図を送った。

 合図を確認した陽子とルストはアイコンタクトを交わすと、飛び出して各々の目標を探す。「樽の上行きます! 」陽子はターゲットを発見すると端的に告げた。
「右は任せて」
 一方のルストは通路でジョッキを積み上げているグレムリンに狙いを定めた。

 −ぎゃ!? −−ぎ?−
 突如、戸口に表れた2人の人間にグレムリン達の反応は一瞬遅れた。
 油断もあった。だが何よりも大きかったのは浴びるほど酒を飲み、大騒ぎを続けていた事。どんなに酒が強くても、たらふく飲んで激しい運動をすれば常以上に酔いは廻るもの。
「彼の者に安らかな眠りを与えよ・・・・スリープ」
「コアギュレイト」
 2人の身体が淡い光に包まれる、それぞれの魔法が発動した証だ。
 ルストは力をセーブして魔法を発動させる。下級とは言えデビルの端くれ、確実を期しての配慮だった。
 対象を拘束するコアギュレイトの効果はたちまち現れ、ジョッキグレムリンはなす術なくその場に釘付けとなった。

 陽子が目標としたグレムリンの身体を淡い燐光が包む。まるで糸の切れた人形の様に崩れ落ち・・・・「あ」術を放った陽子が声を上げる。
 −だっぱーん−−ぎひゃ!? −−ばっしゃばっしゃ・・・・−
 「ど、どうしましょう? 」困惑する陰陽師の少女。
 因果応報、樽上グレムリンは自分達でこじ開けた酒樽へ転がり落ちていった。酒も大分残っていた様子。
 慌てていれば膝下の水深でも溺れるモノ。叫び声と水音は次第に弱くなり、やがて聞こえなくなった。
「まぁ、良いんじゃない? どの道、売り物にはならないんだし」
「そうだね。ついでにこっちも入れて蓋をしておこうか」
 アレクセイは硬直したグレムリンを縛り上げると樽へと放り込んだ。

●美酒と微笑
「・・・・美味しい」
「芳醇な香りに、滑らかな舌触り。なるほど一級品だ」
「良いお酒ですね」
 一同、ただ感嘆一頻り。普段は酒を嗜まないラシェルでさえ甘い口当たりに蕩けそうになったほどだ。
 酒屋の主が一同に振舞ったのは、シェリーキャンの涙と称される貴腐ワイン、シェリーキャンリーゼだった。
「とある方の注文のついでに、ちょいと多めに仕入れたんだ」
「是非一樽頂きたいね」
 「おいおい勘弁してくれ、破産しちまうよ」アレクセイの何気ない一言に、主は豪快に笑った。
「代わりにハーブワインを用意してあるから、そっちを持っていってくれ・・・・おや、お前さん達4人だったか?」
 今、貴腐ワインを味わっているのは4人、確か冒険者達は6人いたはず。
「ああ、瑞雲ならまだ倉庫で寝てるよ」
 同じ班だったシアが答える。
「ルストさんは日高さんの様子を見て来ると言ってました」
 こちらも同班だった陽子が答えた。

「だぁれが負けるってぇ? 俺を誰だと思ってやがる・・・・」
「はいはい」
 寝言を軽くあしらい法衣をかけてやる、外より暖かいとは言え雑魚寝が出来るような場所ではない。
 それにしても、誰かと話す夢でも見ているのだろうか? 得意げに笑ったかと思えば突然眉を釣り上げ怒声を上げたりする。
 ・・・・見ていて飽きないな。そんな事を考えているうちに、自然と笑みがこぼれた。