霧と共に来るモノ 霧は霧へ
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■ショートシナリオ
担当:熊野BAKIN
対応レベル:1〜5lv
難易度:やや難
成功報酬:2 G 3 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:11月15日〜11月20日
リプレイ公開日:2006年11月20日
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●オープニング
●正式な依頼
「件の廃村に巣食うクルードの排除を頼みたい」
窓口に現れたのは以前窓口に来た「正体不明の人物」ではなかった。苦虫を噛み潰したような顔と衛兵隊の皮鎧を身につけた男。近郊の衛兵隊長、それが今回の依頼主だった。
「承知しました」
幾つかの疑問は有ったがそこはベテラン、個人的な興味よりも仕事を優先させる。
●立場と心情の狭間
「村の見取り図を返しておこう。役に立つかもしれん」
それは前回、廃村の調査をした冒険者達が製作した物だった。その図を一見すると、村は廃れた街道に添う様に家屋が並んでいた。宿場のような物だったのだろうか。
それにしても道幅や事件のあった廃屋等、実に綺麗に書きこまれている。
「既に分っていると思うが、敵は自由に霧を作り自在に霧中を動き回れるデビル。全くの新人に任せるわけにはいかないだろう」
隊長は自分の持ち得る情報をもとに告げる。
「とは言え、個々の能力は決して高くはない。それを勘案してこの数字で頼む」提示された額は・・・・まぁ、売りだし中の冒険者を募れる物だった。
「危険手当も期待してくれていい。道中の食費や必要な経費はこちらが負担する・・・・常識の範囲で、だが」
隊長はようやく表情を崩してニヤリと笑った。
「大盤振る舞いですね」つられて無駄口とも思える言葉を口にする担当。
「本来なら我々がやるべき仕事だからな。その手間賃と思ってくれ」
「・・・・」
その言葉にますます担当の胸にあった疑問が膨れ上がった。
「何か問題が? 」その表情を読んだ様に隊長が問う。少しの沈黙の後。
「一つ、質問をして宜しいですか?」
「答えられる事なら」
「なぜ我々にこの件の解決を? 立場を晒してまで」
衛兵は街と近郊の安全を担うべき存在であり、この件は本来は衛兵隊にもたらされた仕事だったのだ。それ故に前回の調査依頼は身分を隠しての来訪だったはずなのに、何故?
「・・・・仕事とは言え、君達の仲間が血を流して得た情報だ」
隊長は少し考えてから答えた。
「面子や体面などと言う下らん理由で我々が横槍を入れるべきでは無い。そう判断した」
それはあまりにも感傷的で「役人」らしくない理由ではあった。
●依頼
「キャメロット近郊の廃村に住みついた、クルードの排除」
対象は下級デビル、クルード3匹。
戦闘は夜、濃霧の中。
危険度高し。
●リプレイ本文
●先行隊
陽月斗(eb8229)はセブンリーグブーツの力を借り、飛ぶような早さで目的地に向かっていた。
「あれが例の廃村?」
荒れ果てた街道の先に人家らしき影が見えた。
海の姐さんことベルトーチカ・ベルメール(eb5188)は無言で頷く。
彼等の目的は村の要所に罠を仕掛ける事。「すぐ仕事に取りかかるわよ」そう言うと彼女はスピードを上げた。
「多分これがデビルの足跡だと思うんだけど・・・・」月斗は自信なさげに報告した。
猟師の心得があるとはいえ、デビルの足跡など見たことも無い。仕方なく消去法で見なれぬ足跡を見つけ出しただけなのだ。
「どっちに向かってるか分る?」
その問い掛けに月斗は暫し痕跡を調べ「向うの森に向かっているね」と答えた。
形の良い眉を顰め、暫し記憶と見取り図、仲間の判断を照らし合わせるベルトーチカ。
「霧が来た方向と消えた方向に足跡の向き、間違い無いね」
クルードは西の森から来る。それだけの情報だが、知っていると知らないでは状況は大きく変わる。姐さんの頭の中では戦場の見取り図が描かれ、罠を仕掛ける場所が導き出されつつあった。
●本隊
「そうか、無理を言ってすまない」
トレーゼ・クルス(eb9033)は依頼者である衛兵隊長と話していた。
相手がデビルである為、魔法武器を借りられないかと交渉してみたのだが、やはり貸与は難しいとの事だった。
「駄目でしたか?」
渋い顔で戻って来るトレーゼにパラの少女、シャロン・ミットヴィル(ea6484)が声をかける。童顔と無愛想な表情が相殺しあってなんとも年齢不肖な少女だ。
「貴重品だからな、仕方あるまい」
それだけ言うと彼は用意された荷を愛馬に積みはじめた。
「松脂にしろニカワにしろ冷えると固まっちまうからな。あらかじめ撒いておくってのはどうかと思う」
「そうですか」
衣笠陽子(eb3333)は衛兵の話を聞くと肩を落とした。剃髪した少年、藍采和(eb7425)が励ますように明るい声を出す。
「しゃーないですわ。まぁベル姐さんと月斗さんの罠も有りますし」
「そうですね」
諦めて仲間と合流しようと歩き出した時、ふと陽子が気付いた。
「冷えると固まると言う事は、温めておけば良いって事ですか?」
「ああ、例えばニカワは水に浸しておいてから火にかけて溶かして使うんだ」
「っちゅーことは、事前に罠として使うのは無理でも」
「温めておけば何かに使えるかも・・・・」
「ニカワは用意できますか? 」見事にハモった。
●合流
翌日。襲撃を避け、街道で夜を明かした先発隊に本隊が合流した。
「それじゃニカワを用意しておいて、鍋ごと熱いのを御見舞いしてやろう」
陽子の報告を聞くとベルはすぐに頭を切り替えた。海では一瞬の判断の遅れが命取りになる、無い物に固執するようでは生きてはいけない。
「ニカワの使い方。聞いてきたので用意しますね」陽子は積荷から大きな鍋とニカワを選り出す。
「こんなに早くから準備するんですか?」
時間は午前。いくらなんでも煮詰まってしまうのでは? シャロンは首をかしげて問うた。
「まず、水に浸して置くんです」
「そうなんですか、じゃぁ水を汲んできます」
皮袋を手にパタパタと小川に向かうパラの娘に、大きな鍋とニカワを抱えよいしょよいしょと運ぶ遠国の魔術師。
「・・・・微笑ましいなぁ」思わず微笑むベル姐さん。
「自分は何をすればいい?」
振り向くとトレーゼがスコップを手に立っていた。昨日は板切れを使って穴を掘っていたのだが、当然作業は進んでいない。
「そうね。じゃぁここに穴を掘って」
見取り図を広げ指示をだした。
●悪意の霧
夕暮れ間近、グリードの巣穴を探しに出た月斗と采和が戻って来た。
それらしき物を見つける事は出来無かったらしい。そもそも相手はデビルだ、普通の生物と同じ生態をしているかどうかも不明ではあった。
「それにしても凄い臭いだね」
「2人とも頑張ってるな」
「獣の臭いやね」
月斗が苦笑いに、トレーゼと采和は遠まわしに同意した。
ニカワは扱い易く乾いた時の接着力が強いが、素材が獣由来の為に独特の匂いは有るし腐敗しやすい。焦げ尽かさぬ様煮立たせぬ様、陽子とシャロンはニカワと奮戦していた。
「霧だ」
時刻にして夜半過ぎ、見張りに立っていたトレーゼが地を這うような薄い霧に気がついた。
「随分早いお出ましですなぁ」采和が呟く。前回は明け方間近に霧がでたお陰で夜明けに助けられた、だが今回は違う。
「完全決着って事だね。ん〜、わくわくする」
「まぁ良いけど。キッチンの2人に知らせて来るわ」
兵と戦える期待感にテンションがあがる月斗。ベルトーチカは血気盛んな少年になかば呆れつつも、陽子とシャロンに霧の到来を告げ、準備を促した。
霧が霧を呼び、より濃く白色に染まった闇がさらなる闇を呼ぶ。そは霧と共に来たるモノ。
「効かない、か」迫る来る濃霧の壁に目掛けニュートラルマジックを放ったトレーズは、得られた結果に舌打ちした。
クルードの息は魔法による産物では無く、霧を見とおすその目と同じく固有の能力。魔法に由来する物では無い以上、ニュートラルマジックがその力を発揮する事は無い。
剣士は仲間の魔法で魔力を付与された剣を抜くと、その場で霧を待ち構えた
「ぉわちゃぁぁぁ!!」
霧が晴れないの確認し、采和は裂帛の気合と共に飛び出した。経験上、敵の牙は決して致命的な物では無い、だが複数に囲まれれば深刻な状況に陥るだろう。
構えは十二形意拳奥義・兎跳姿、驚異的な回避力をもたらす盾。右拳に込められた友情パ・・・・もとい、オーラパワーは矛。
信念が武侠の道なら、義は漢の道。「・・・・落とし前、つけさせてもらわんとあかんわ」藍采和推して参る。
「始まったわね・・・・」
怪鳥の鳴き声のような音を聞き、ベルは呟いた。女性陣3人は霧が出たのを確認した後、ニカワの入った鍋を持って裏口から隣家へ回っていた。
「今です! 」ディテクトアンデッドでクルードの位置を感知したシャロンが声を上げる。
−バタン!−
合図と共にベルトーチカが扉を蹴破る。流れ込む霧を気にも止めず「せぇのっ」陽子と息を合わせ鍋ごと中身をぶちまけた。
熱せられたニカワと鍋は霧の中に吸い込まれるように消えて・・・・−ぎしゃー! −何者かの叫び声が聞こえる。少なくとも的を捕らえる事は出来たらしい。
ニカワ自体は通常の物質、デビルにダメージを与えることは出来ない。だがこの冷え込みなら程無くして粘性を発揮してくれるだろう。陽子は今の鳴き声を対象としてサウンドワードの詠唱を始めた。
「さっすが、手強いなぁ〜」
月斗はリカバリーポーションを取り出すと一息で飲み干した。傷の痛みが消え、身体に活力が甦るのを感じる。純粋に戦いを楽しんでいた月斗の脳裏に、ふと友人の顔が浮かぶ。
「すっげー気にしてたよな・・・・」ほんの瞬間だけ真顔になる月斗。だが、再びにかっと笑うと。
「さ〜て、行くぜぇ」
オーラパワーのこもった鋼拳を構え、霧中の敵目掛けて突進した。
●霧は霧へ
連れていたエレメンタルフェアリーが申しわけなさそうに戻って来る。水に属する精霊とはいえ、霧の中を見通せるわけではないようだ。
フェアリーに下がる様に命じ、ベルトーチカは状況を把握するため思考を巡らす。
物音がしない所を見ると罠はかわされたようだ。
濃霧と弓の相性の悪さは剣や拳の比ではない、行き当たりばったりで放てば味方に当る危険性すらある。
霧の向うからは「ふぉおぉ! 」「せやぁ! 」等々、熱血コンビの気迫に「皆、大丈夫か? 」周囲に気を配るトレーゼの声が聞こえるので、大まかな居場所が分るのがせめてもの救いか。
「さて、どうしよう?」本音が漏れる−ぎゅっ−いきなり誰かに腰を捕まれ、ベルは体の向きを修正された。「この方向よ」この声はシャロンか。「距離は約5mです」今度は陽子の声が聞こえた。
そうか、2人は私の目と耳になるつもりだ。
敵を直視できない。魔術師にとっては致命的なこの状況下で、彼女達は自分の出来る最善を尽くしている。ならば自分に出きる事は?
「OK、海の女をなめんなよ」
不敵に微笑むと、魔弓に矢をつがえた。
時に一撃離脱、時に射程外からの飛来する鞭のような尾が的確にトレーゼの体を捉える。威力が小さいのと皮鎧に阻まれ、一撃一撃はさして問題にならないのだが、傷が重なるにつれ徐々に体力を奪われていく。
ビシィ! 左腕に尾が巻きついた。この上、武器を奪うつもりか?・・・・「巻きついた? 」とっさに右手で尾を握り締める。
敵を直視できなければ魔法は使えない。敵は霧の向うで影すら見えない。いや見えなかった、先ほどまでは。
「ブラックホーリー!」
邪なる者には抗う事すら許さぬ、断罪の力が悪魔の尾に注ぎ込まれる。
−ギシャー!−
堪らず解けた尻尾を踏みつけ、剣を構えなおすと「クルードよ、闇に帰れ」渾身の一撃を打ち込むべく剣士は走りだした。
デビルは苛立っていた。この人間は見えるはずの無い自分の攻撃を事も無げにかわし続けている、こんなはずは無い!
彼は冷静さを失っていた、それは生き残る機会を失った瞬間でもあった。
「お待たせ采和」
「なんのなんの」
一時離れていた月斗が采和の怪鳥音を頼りに戻って来た。
「さぁて、それじゃ」「行きましょか」その言葉を境に猛攻に転じる2人の拳士。
彼等のリーチは1mも無い、1mも離れれば相手が見えなくなる。それならば「1m内に入り込めば良い」単純にして簡潔、大胆にして無謀。
霧の守りを突破されたクルードに2人を相手取る術は無く、打ち込まれる拳に意識を削り取られていった。
廃村に静寂が戻った時。あれほど濃かった霧は薄れ、微かに夜霧がかかる程度になっていた。
デビルの亡骸は既に無く・・・・霧と共に現れたモノは霧と共に消えたかの様だった。