リバーサイド・ストーリー 懲りない面々
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■ショートシナリオ
担当:熊野BAKIN
対応レベル:フリーlv
難易度:普通
成功報酬:0 G 52 C
参加人数:7人
サポート参加人数:1人
冒険期間:11月25日〜11月30日
リプレイ公開日:2006年12月01日
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●オープニング
●橋上の決闘
「へっへっへ、おっさん息が上がってるんじゃねぇのか? 歳は取りたくないねぇ」
「決着も付いてねぇのにもう勝ったつもりか。最近のわけぇ奴はせっかちだな」
2人の大男は橋の上で睨みあう。
「ジェイソンさん! そんな若造、さっさとぶっ飛ばしちまって下さいよ!」「ジュニア敵は虫の息だ、かるーく撫でてやんな!」
男達が橋の廻りで無責任に騒ぎ立てる。刈り取りも収穫祭も終り暇を持て余した(とはいえ、探せば幾らでも仕事はあるのだが)村の男達の殆どがこの小さな橋を取り囲んでいた。
喉もと過ぎれば・・・・という異国の諺を知るわけも無いが、つまりはそうゆうこと。
流石に今回は、男達総出で雌雄を決するという一見勇壮で、限りなくはた迷惑な真似はしなかった、が。
今度はアップサイド(川を挟んでキャメロットに近い側)から纏め役スミスの息子を、ダウンサイド(川を挟んでキャメロットから遠い方)の頭、ジェイソンの一騎討ちをやらかしたのだ。
ちなみに橋は荷馬車が通れる程度の幅と強度は備えていた・・・・橋が架けられた時、は。
「女将さん大丈夫でしょうか?」
一人の奥方がジェイソン夫人に声をかける。
村の女達は酒場を営むジェイソンの店に集まりっていた。ある者は不安そうに外の成行きを見守り、ある者は悟った様に談笑をしていた。
あくまで参考までに前者は概ね若い者が多く、後者は高れ・・・・妙齢のご婦人方が多い。慣れって怖い。
「大丈夫だよ、心配なさんな。ねぇスミスさん」
女将さん、ジェイソン夫人が豪快に笑って応じる。
「あの2人が橋で暴れてるなら、大事になる前に・・・・」
スミス夫人は意味ありげにジェイソン夫人と視線を合わせ、頷きあう。そして。
『橋が壊れるから』
見事なハーモニー、そして。
−ばきべきばきー−−ばっしゃーん−−ばしゃばしゃばしゃ−
「わー、ジェイソンさんー! 」「ジューニアー! 」「ぎゃー! 冷てー! 」「がぼげぼがぼ・・・・」「マーッシュ、かすり傷だ! 気をしっかり持てー!」
期待を裏切らない展開。それにしても・・・・橋が壊れると言うのは、大事じゃないのデスカ?
「いい加減、架け替えなきゃと思ってから、手間は省けたね」
「それにしても橋が無いのは困るわよ?」
冷静なジェイソン夫人にスミス夫人。旦那と息子はいいの?
「架けかえるにしても材料は無いですし、それに・・・・」
奥方が言いよどむ。材料が無い事よりもさらに深刻な事態、それは何かと聞かれれば。
「そろそろ雪が降る頃だねぇ」
暖炉で火に当っていた老婦人がポツリと呟いた。
キャメロットにほど近いこの村にも、厳しい冬が訪れようとしていた。
●ギルド受け付けにて
「と言う訳で」
「はぁ・・・・」
流石にベテラン担当といえどこの後の展開は想像がつかなかった。
「こんな事、冒険者の本筋じゃないのはわかってるんだけどさ、以前お世話になったし、村の内情を知ってるところに頼みたかったんだよ」
「ですが、こちらでは橋の架設は受けをいかねます」
当然の反応だ。なにしろここはカーペンターの組合ではないのだ。
担当の困惑を余所にジェイソン夫人はあっさりと答えた。
「いやなに、本格的に直そうってんじゃないのよ」
「はぁ・・・・」
「それは春にまわして、取り敢えず丸太橋を架けるつもりなんさ」
「例年だとそろそろ雪の季節ですし、村の男手の大半は寝込んでしまって」
スミス夫人が後を続ける。
「申しわけ無いんだけど、橋の仮設を手伝ってくれないかねぇ?」
まぁ珍しい依頼ではあるが、戦うばかりが冒険者の仕事と言うわけでもない。
「わかりました、取り敢えず依頼を張り出してみましょう・・・・ええと」
ふと疑問が浮かぶ。
「これは男性か力に自身の有る者指定でしょうか?」
「いえいえ、女性でもパラの方でもシフールでも構いません。村の方でも手伝って頂きたい事がありますし」
スミス夫人はにこやかに応えた。
「相変わらず報酬は少ないけど、腹一杯食べさせるから勘弁しておくれ」
たくましき女傑の笑い声がギルドに木霊した。
●リプレイ本文
●初日
−とん、てん、かん とん、てん、かん−村の鍛冶屋から規則的な鎚の音が聞こえる。
澱みのない旋律を奏でるその人物、ドワーフのオーガ・シン(ea0717)は手を休めた。
「ふむ。こんなものかのぅ」
鎹を水に浸した。
「旦那、冒険者を辞めても食っていけるよ」鞴を操っていた村の鍛冶屋も舌を巻く腕前で、橋の架設に使う鎹や釘をつくっていた。
「年の功じゃよ」
事も無げに応え鎚を握りなおそうとした時、異国の服を着た少女が通りかかった。
「あ、オーガさん。ご苦労様です」
衣笠陽子(eb3333)は律儀に頭を下げて礼をした。
「そちらはどうじゃな?」
「そろそろ火にかけようと思っています」
陽子は村に着くや、橋の繋ぎにと膠を集めて下準備をしていた。膠は接着剤としてだけでなく、薄くコーティングして木材の保護に使ったりと用途は広い。
「若いのに良く気がつくのう」オーガは少女の気配りを好ましく思った。
「なかなかの良木だのう」
セルゲイ・シュトロレイム(eb8543)は針葉樹を見上げ呟いた。斧を担いだその姿は、まさに「ドワーフかくあるべし」と言いたくなる。
「世の中には一夜にして城を建てた将もいるとか。私達も負けてはいられないね?」
レイヴァント・シロウ(ea2207)がうそぶく。
「運搬は私と愛馬が引き受けた」
エルフである彼の腕力は相応にエルフ的。軍馬を運搬に使うのは気が退けるが、これも世の為人の為。
「私も手伝うわよ」
2人の後ろにいた少女が自己主張する。少女に見えたのはその体格ゆえ。彼女は、神楽絢(ea8406)れっきとしたパラの冒険者だ。
「まぁ私も力仕事向きじゃないけど、枝打ちとか仕事はあるでしょ」
「そうだね。これも正義の味方のお仕事、がんばろう」
レイヴァントは愛馬を撫でつつ答えた。
「さぁて、そろそろ始めるかの」
「了解」「はーい」一同異議無し。セルゲイは斧を振り上げると仕事に取りかかった。
「ふむ。幅は無いけど何とか運べそうね」
ベルトーチカ・ベルメール(eb5188)はベル−水のエレメンタラーフェアリー−の報告を聞くと呟いた。
計画では木を切り出した後、レイヴァントの軍馬で川まで運び、そこから川に浮かべて村まで持って来る予定。ベルを飛ばして上空から見た限りでは運搬に差し支えるような川の蛇行は無く、水勢にも問題なさそうだ。
「マルク君、そっちはどう?」
チカは川の深さを調べていたマルク・ウィラン(eb9115)に声をかけた。
「深いところで太腿ぐらいですね」
「ご苦労様。まぁなんとかなるでしょ」
チカ姐さんは堤に上がってきたエルフの青年に労いの言葉をかけた。
●2日目
村に運ばれた丸太を前に、オーガは橋架設の手順を説明していた。
「先ずは丸太を縦に切らねばならん」
「丸太橋じゃ駄目なの?」
女将さんたちの話では、本格的な橋は春に村人の手で架けかえると聞いている。絢は素直に質問をぶつけてみた。
「うむ」一つ頷き、親方は一手間かける理由を語った。
「半円形の状態で使用すると、上から掛かる力を下で分散できるんじゃ」
「上が平だと馬車もとおりやすくなるし、助かるねぇ」奥方達も感心しきり。
「架設場所は、もとの橋があった場所でいいと思うわ」
チカが意見を述べた。長年橋があったお陰で地面も良く踏み固められている、川の調査をしたついでに下見しておいたのだ。
「地盤も良い、理想的な場所ではなかろうか」
セルゲイが同意する。
「材木の運搬は任せてくれたまえ。我が愛馬の肉体美と機能美、そして私達の人馬一体美をお魅せしよう」
彼よりも愛馬の仕事量が多いと思うのだが・・・・まぁその辺は飲み込もうよ。皆大人だしネ(爽)
各々の役割が決まり出した頃。
「ああ、そうだ」打ち合わせを聞いていたジェイソン夫人が口を開いた。
「このお嬢さんと兄さんはあたし達の手伝いをして欲しいんだけど、どうだね?」
指名されたのは陽子とマルク。2人ともきょとんとした顔で女将さんの顔を見上げている。
「こっちも男手が欲しいし、陽子嬢ちゃんにはミートパイの仕込みを手伝って貰わなきゃいけないからね」
にっこりと微笑むジェイソン夫人に、陽子は思わず「はい」即答した。
「自分もお役に立てるよう頑張ります」
「ふむ。では陽子とマルクは女衆の手伝い、あとは・・・・」
「あ、あたしもこっちの手伝いね・・・・料理なんかロクにしたことないけど」
改めて割り振りを決定しようとした時、チカが声をあげた。何やらボソっと聞こえたが、まぁその辺は(以下略)
「では始めるぞい」
親方の指示で2日目の作業が始まった。
「それじゃいくよ、せーのっ」
掛け声と共にレイヴァントは愛馬に合図をだした。
−ずずずっずーー−
軍馬、そして村の男衆に引かれて半割りにされた丸木が、最初はゆっくりとそして徐々に勢いを増して川を渡されていく。やがて・・・・
「はーい、おっけー」
絢のストップがかかった。
「順調順調」パラの娘はとてとてと渡されたばかりの橋材に駈け寄ると、金槌を振り上げ鎹を打ち込む。建築の心得は無くとも釘や鎹を打ち込むぐらいは造作ない、しかもこの仕事は体重の軽い絢が適任だった。
「おじちゃん、何してるの?」
少女が何やら木を削っているドワーフに声をかけた。ずんぐりとした手に似合わぬ器用な手つきで削られていく木材に目を丸くする。
「これは橋の欄干じゃ。この村は橋から落ちる大人が多いようじゃからの」
オーガは側の手荷物から乾燥した果物を取り出すと少女に差し出した。
「あまり近付くと危ないぞい」その顔は髭だらけで強面で、でもとても暖かな微笑だった。
「へぇ、大分サマになってるじゃないか」
女将さん達に囲まれて、それでも陽子は一生懸命ミートパイの下ごしらえをしていた。
「うんうん。前に来たときは危なっかしい手つきだったけどねぇ」
「これならウチの息子も任せてもいいね」
「よくゆうよ、お嬢ちゃんの方でお断りだってさ」
−かんらからから−色々と言われているが、本人には受け答えする余裕も無い様子。ゆとりを持って料理を「楽しむ」にはまだまだ、といった所か。
「それでも何かできるってのは羨ましいわよね〜」
ぼやくチカ姐さんことベルトーチカは、老夫人の指示で食料の運び出しをしていた。
「悪いねお嬢さん。次はチーズを持ってきてくれるかい?」
「はーい」素直に返事をするチカ。
正直、お嬢さんと言われる歳でもない。とはいえ先方が自分の倍近いご夫人では、自分などまだまだ「お嬢さん」かな〜、などと考えながら足取りも軽く食料庫へと向かった。
●完成祝賀会
「うむ、これで良かろう」
時は夕刻、やっと親方のお墨付きが出た。
半月状に切り揃えられた木材には鎹が打ち込まれ、継ぎ目は膠で補強された。転落防止の配慮、欄干がわりの木杭とロープも据えつけられ、僅か2日で架けられたとは思えない出来だ。
短期の架設には勿体無い仕上りに「下手に架けかえ無い方が良さそうね」とはご婦人方の弁。
「ご苦労様、お食事の準備が出来てますよ」
スミス夫人が喜びに湧く一同に声をかけた。この時期の夜では屋外でと言うのはあまりにも厳しいので、宴の席は酒場に設けられていた。
「今年は豊作だったしね、酒も料理もたーんと用意してあるよ。そうそう、陽子嬢ちゃんお手製もあるからね」
ジェイソンの女将さんは隣に立っていた陽子に悪戯っぽくウィンクする。
「陽子クンのお手製だって? それは楽しみだね」
レイヴァントの言に新米コック見習いは赤面するやら青ざめるやら、落ちつかない様子。初めて料理を振舞うのだ、緊張と不安が入り混じるのも無理はない。
「ねね、もういい? もう飲んでいい?」
大好物を前に待ちきれなくなった絢は、別の意味でそわそわしている。
「それじゃ始めようか」
「新しい橋の完成と、その橋の為に尽力してくれた村の恩人達に」
『乾杯!』ジェイソン・スミス両夫人の音頭で杯が打ち合わされた。
「あっはっは、あんた達、だっらしないわねー!」
一足先に起き出して来たスミス・ジュニアらをとっ捕まえて、酒の肴にしているのはベルトーチカ。
「いやでもチカさん、ジェイソンの親父は岩みてぇにごつくて・・・・」
「だって、ジュニアの腕なんか熊みてぇでしょう?」
「だってもでもも無いわよ。アンタ達、お母さんから立派な体貰っといて恥ずかしくないの? あ、君。エール汲んで来て」
「は、はい」
姐さんを囲んでいた若衆の一人がいそいそと座を離れた。・・・・顔に青アザがあるのは気のせいでしょうか? チカ姐さん。
「何?」・・・・いえ別に。
「うん、これは美味しい」
レイヴァントは陽子お手製をミートパイを味わうとにこやかに微笑みかけた。
「本当ですか? 良かった」かなりの好評価に陽子は胸を撫で下ろした。
「でも・・・・次は私の為に焼いて欲しいな」
すかさずレイヴァントのターン。
「え? あの・・・・は、はい」
おおっと!? 効果覿面・・・・「もっと美味しく作れるよう、頑張ります! 」あれ?
陽子はジェイソン夫人の元へ駈け寄り、何やら話をすると厨房へと引っ込んでしまった。
「これはどうしたものだろう」
対処に困る王国の騎士。
察するに「美味しいものを食べてもらいたい」と言う想いが、持ち前の責任感の強さに火を着けたものと思われる、が。そこまで予想できないよね、普通。
「あれ、オーガさん?」
マルクは一人宴席を抜け出すオーガに気がついた。何となく気になってドワーフの姿を追って外に出た。
−しゅっしゅっ−外に出ると農具置き場の方から音が聞こえた。中を覗くと、黙々と農具の手入れをするオーガの後姿がそこにあった。
「誰に頼まれたでもなく、ただ己の仕事を全うする。人とはかくありたいものであるな」
何時の間にかセルゲイが隣に立っていた。
「・・・・そうですね」
2人は小さく、そして大きな男の背中を見つめていた。