熊を守れ・・・・なにから?

■ショートシナリオ


担当:熊野BAKIN

対応レベル:6〜10lv

難易度:普通

成功報酬:3 G 9 C

参加人数:4人

サポート参加人数:5人

冒険期間:12月06日〜12月11日

リプレイ公開日:2006年12月13日

●オープニング

●依頼書
 「オーガ戦士の討伐」
 西方の河川に出没したオーガ戦士の討伐隊を募集する。
 数は6匹前後。
 基本的には「討伐」だが、場合によっては「排除・撃退」でも可。
 注意・当該地域は遡上する鮭を狙って、熊が出没する地域でもあるので注意されたし。

●経緯
「熊を狩っていたんです」
「はぁ」
 どう言うリアクションをすべきか困り、受付担当は取り敢えずそう答えた。掻い摘んで説明するとオーガ戦士の一団が熊を狩っていた、と言う事だ。
 それだけならまぁ問題は無い。オーガとて食う為には狩りもするだろうし、食いでのある熊を狙う事もまぁ、ありえなくは無いだろう。
「熊を狩っていたんですよ?」
「はぁ、そうですか」
 全く話が進まない。困った物だ。
「それで今回の依頼は、どう言ったことでしょうか?」
 ・・・・いい加減、このままでは仕事にならないので本腰を入れることにした。
「ああ、すいません。実はこのオーガ達を何とかして欲しいんです」

 話は数日前に遡る。
 この日、村人達は薪を補充する為に上流の森に向かっていた。
 件の川の下流に依頼者の住む村があった。この時期、川には鮭が遡上して村の者だけでなく、熊や鳥達もその恩恵に預かっていた。
 村から半日程川を遡った時、若者が異変に気がついた。
「親父、何か聞こえないか?」
「熊の鳴き声だろう」
 この時期の熊は冬篭りの体力をつけるため、川に入り鮭を捕食することもある。確かに危険ではあるが、出没する場所や出会った時の対応はわかっている。
 父親が歩き出そうとした時・・・・−ごあぁぁぁ! −凄まじい断末魔の叫びが辺りに響き渡った。
「なんだなんだ?」
「ただ事じゃ無いぞ」
 村人達は顔を見合わせ、声のした方へと慎重に近づいていった。

「あれは・・・・オーガだ」
 叫びが聞こえた辺りまで辿りつくと。そこには1頭の熊を囲んでその肉を食らうオーガの一団がいた。先ほどの叫びはあの熊のものだろう。
 熊とオーガではその危険度は桁違いになる。村人達は静かにその場を離れると命からがら村へと逃げ延びた。

●要するに
「勿論、オーガが怖いってのもあります」
 依頼人は素直に認めた。
「でも何より怖いのは、今回のことで熊達が冬眠に失敗する事なんです」
 暫く待てば、オーガの一団は別の場所にいくかもしれない。だがその後、冬篭りの栄養を蓄えそこなった熊達は雪の中でも餌を探して動き回る事になるだろう。
 只でさえ餌の無い時期だ、腹を減らした熊が人里に近づく事も十分に考えられる。

 ここに来てようやく全容が飲み込めた。
「なるほど・・・・熊の用心棒。と言う事ですね?」
「感謝はされませんけどね」
 一頻り笑うと、担当は依頼書の作成に取りかかった。

●今回の参加者

 ea8468 ナギラ・スウィックス(41歳・♂・ファイター・人間・メイの国)
 eb3349 カメノフ・セーニン(62歳・♂・ウィザード・エルフ・ロシア王国)
 eb5295 日高 瑞雲(34歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb5451 メグレズ・ファウンテン(36歳・♀・神聖騎士・ジャイアント・イギリス王国)

●サポート参加者

若宮 天鐘(eb2156)/ ベルトーチカ・ベルメール(eb5188)/ クリスティアン・クリスティン(eb5297)/ サシャ・ラ・ファイエット(eb5300)/ サスケ・ヒノモリ(eb8646

●リプレイ本文

●下準備
「この辺りの縄張りはこんなもんだな」
 日高瑞雲(eb5295)は仲間が事前に纏めておいてくれた、熊の行動範囲情報を元に足止め工作を行っていた。
「上手く行ってくれるとええがのう」
 真っ白な髭を蓄えたエルフの翁、カメノフ・セーニン(eb3349)が応じた。
 この作戦はカメノフ老の発案。多めに仕入れた食料を獣道に配置して、腹を減らした熊が川に近づかないようにするという、シンプルかつ合理的な方策だ。
「行って欲しいねぇ。実は今さ仔熊を飼っててよ、これが可愛いのなんのって・・・・」
 スイッチが入ったように愛仔熊「どぶろく」自慢を始める瑞雲。いやはや見事な親ばかっぷり、なんとも微笑ましい。
 ちなみに横にいるカメノフ老はといえば・・・・「しかし残念じゃの〜」何やら無念さを滲ませていた。何しろ仲間内で唯一の女性が鎧一式装備ときては「個人的趣味」を楽しむ事も出来ない。しかも相手はジャイアントの騎士、迂闊に反撃を食らおうモノなら命に係わりかねない、いや本気(マジ)で。

 そのジャイアントの女性騎士、メグレズ・ファウンテン(eb5451)は河原を臨む茂みの中にいた。息を殺して見つめる先には・・・・河原に陣取るオーガ戦士らしき一団。人間とオーガが判別が出来る程の距離では無かったが、この危険な場所と状況でサーモン漁に来る村人もいないだろう。
「見つけた」
「あれか」
 ナギラ・スウィックス(ea8468)が改めて屯する人影に目を向けた。
 「相手は手強い。厳しいでしょうが頑張って欲しい」メグレズはナギラに声をかけた。年は若いが冒険者としての経験は遥かに積んでいる。その彼女をしてもこれから戦う相手は気を抜けるような相手ではない。
「足手まといにはならない」
 それは自分が最もわかっていた。力が及ばない分は立ちまわりと準備で補えばいい、弱者には弱者の戦い方があるのだ。

●ブリーフィング
 仕掛け班、調査班それぞれの仕事を終えると、事前の打ち合わせ通り下流地点で合流した。
「こちらは問題無しじゃよ」
 カメノフ老の進捗を確認すると、メグレズは自分達の調査結果を告げる。
「ここから30分ほど上流のポイントで敵を確認した」
「ってぇと、今から向かえば日暮れ前にはカタがつくな」
「朝まで餌が残っているとは限らんしのぅ」
 時間をかければそれだけ敵に気取られる危険も増すし、撒いた餌も何時まで持つかわからない。戦力において劣る冒険者側にとって、数少ない有利な材料は「こちら存在を知られていない」事。ならば取るべき手段は自ずと限られてくる。
 −速攻−イギリスの冬は昼が短い。集った4人は各々の役割を確認すると、すぐさま進軍を開始した。

●無謀なる突撃、あるいは勇者の行軍
 −移動すべきか?−
 群のリーダーは悩んでいた。と言うのも彼等を恐れてか熊が近寄らなくなって来たのだ。
 弓を使わない彼等が肉を得ようとすれば、自ずと手にした槍や棍棒での狩りとなる。動きの俊敏な鹿や肉の少ない兎を狙うよりも、的が大きくより多くの肉を取れる熊のほうが彼等には都合が良かった。
 しかもここの辺りは川の水深が浅く、遡上する魚を狙って獲物の方から寄って来てくれる絶好の狩場だった。が、肝心の獲物が出てこないでは話にならない。
 −仲間の傷が癒えたら下流に向かうか−
 狩りとはいえ相手はまがりなりにも熊、今朝の狩りでは手ひどく腕を噛まれた者もいる。命に係わるほどでは無いが・・・・まぁ無理に移動する必要も無い。
 この肉を食い尽くす前に次の獲物が来れば良し、来なければ川沿いに移動すれば何とかなるだろう。結論を出すと、彼はこの問題を打ちきった。

「いくぞい」
 カメノフは一同に告げるとすぐさま呪文の詠唱に入った。彼等が潜むのはオーガ達の夜営地点から14〜5mほど離れた茂みの中。運良く風下を取れた為、詠唱が敵の耳に届く心配は無い。
 遡る事数分前、冒険者達は川を迂回して森の中を進んだため、予定より10分ほど遅れてポイントに到達していた。
「日没まで小1時間ってとこか」
 日は既に朱に染まり、影は長く尾を引いていた。

「グラビティーキャノン」
 呪文は結した。術者たる老エルフより一直線に黒い光が放たれ、その軌道にいた3体のオーガ戦士が何かに弾き飛ばされた様に地面に転がる。
 メグレズの巨体が弾かれた様に動き出した、2撃は自分で無ければならない。何故ならば・・・・
「破刀っ・・・・天昇ぉ!」
 裂帛の気合と共に放たれたソードボンバーの剣風が、体勢を立て直そうともがく2体を飲み込んだ。
 立っていれば、もしくは武器を手にしていたなら、あるいは防げたかも知れない。だがいきなり地面に叩き付けられ、起き上がる事すら出来ていない有様ではどうしようもない。
 彼等はただ頭を抱えて、剣刃が通り過ぎるのを待つしか無かった。

「さぁて、試し切りといこうか」
 瑞雲はソードボンバーに巻きこまれぬ様に位置を調整し、転倒したもう1体に突進する。
「頼むぜおにぎり丸っ!」
 なんだかとってもジャパン語な発音で新たな相棒に激を飛ばすと、殺到した勢いそのままにおにぎり丸・・・・鬼切丸を振り下ろす。
 −斬! −音が見えるかの如き一撃。
 鬼切の名は伊達ではない。鬼(オーガ)と名の付くあらゆる種に対してこそ、この大太刀は真価を発揮する。そしてその切れ味は・・・・−ぐぉあぁあぁ!? −数瞬後、切られた事に気が付いた者の叫びに裏付けられていた。

 2人の先達が切りこむのを確認して、ようやくナギラは動き出した。自分の力量がこの場に釣り合わない事は分っている、分っていてもやらねばならぬ時だってある。彼はソードボンバーに打ち据えられた1体に狙いを定め、一息で肉薄すると手にしたロングソードを叩きつけた。

●死力の果て
 −油断だ−この失態、事実を認めざるを得なかった。
 狩りの成否に係わらず、狩場を騒がせた後はほとんど獲物は寄り付かなかったので、最低限の歩哨すら立てていなかったのだ。
−落チツケ 体勢ヲ整エテ迎エ討テ!−
 少数とは言え、そこは群を統率していた個体。すばやく頭を切り替えると反撃に転じるため仲間へ指令を飛ばした。
−ジャイアントヲ抑エロ 人間ドモハ俺ガヤル 他ハ・・・・−
 そこで声が途切れた。−声が出ない!? −半ばで途切れた指示にオーガ達が振り返ると、彼等のリーダーは喉を抑え驚愕の表情を浮かべて呆然と立ち尽くしていた。
 さらに群の統制が崩れた。

「ほ、やはりお前さんじゃったか」
 カメノフは群を落ちつかせるかのように叫んだオーガに目星をつけ、サイレンスを放った。狙いは的中、落ちつきを取り戻しかけた群は再び混乱に陥った。
 リーダーが有能な程、信頼が厚ければ厚いほどそれが機能しなくなった時の影響は大きいモノ。その点、彼は有能で部下の信頼も厚い、良きリーダーだったようだ。
 敵の指揮系統を麻痺させるというカメノフ老の試みは、奇襲の成功とあいまって想像以上の戦果をあげた。

「坊主死ぬまで経を忘れず・・・・だっけか?」
 故国、ジャパンの諺を思い返しつつも、槍の穂先を足捌きのみでかわして敵の側面を取る。
 −盗み足−ジャパンの戦士職、侍と呼ばれる者達が培ってきた歩法。最小限の移動で敵の攻撃を避け、地の利を得るまさに戦場の技術。
 「せやぁ! 」右肩に担ぐ様に構えた大太刀を袈裟懸けに切り降ろす。−ザシュ! −肉を切り裂く確かな手応え。
「この感触だけは変わらねぇな」
 崩れ落ちるオーガ戦士を背に、瑞雲は不敵に笑った。

 辛うじて槍を盾で受けとめた。そろそろまずいか? ナギラは自問した。序盤こそ敵の不意をつけたが相手は手錬、何時までも木偶人形に甘んじてはいない。地面に転がっていた槍や棍棒を手に反撃を開始していた。
 −がっ!−
 槍の一撃を凌ぎ、一呼吸入れたその瞬間。腹部に衝撃が走った。苦痛に耐えて視線を移すと、1体のオーガが棍棒を振り抜いた姿勢で立っていた。
「くっ」
 状況は最悪。最悪の結果をも覚悟したその時・・・・−ぐが!?− −がぁっ!−2体のオーガが同時に苦悶の叫びをあげた。
 槍を手にした方は鼻っ柱を抑え、棍を手にした方は武器を振り抜いた姿勢で硬直している。どうやら体の自由が利かないらしい。
 「カメノフ老にメグレズさんか?」
 ナギラは好機を逃さず一目散に戦場を離れると、ポーチからリカバーポーションを取りだして一息で飲み干した。痛みが消え傷が塞がるのを感じる。
 まだ行ける、今ここで弱音を吐くわけにはいかない。覚悟と共に盾を構え直すと前線へと戻った。

 コアギュレイトが効果を発揮したのを見て、メグレズは安堵の溜息をついた。これで瑞雲が彼の援護に廻れば何とかなりそうだ。自身も既に1体片付けているので残る敵は4体。
 冷静に彼我の戦力と状況を分析するメグレズの前に、一体のオーガが立ちはだかった。
「リーダーのお出まし、ですか」
 視線を外さず鬼神ノ小柄を納めると、リカバーポーションを取りだす。相手に動きはない。注意深くポーションを飲み干すと小柄を構え直した。
 その動きに合わせ、槍を構えるオーガ戦士。
 廻りで聞こえているはずの剣劇の音が急速に遠ざかっていく・・・・。河原の渡る風の音、川のせせらぎすら消えて。
 聞こえるのはただ、自分の鼓動のみ。
 −ぱしゃ−何かが跳ねた音が響く、それは何時までも続くかに思えた静寂の時間の終り。
「やあぁぁ!」
−ごぁぁっ!−
 二つの咆哮が夕闇を裂き、激突した。

●そして誰もいなくなった
「メグレズちゃん、大活躍じゃったの〜」
 声をかけられた女騎士は微笑みで答えた。
「死ぬ気でやって4匹か。頭も潰したし、もうここらにゃ近づかねぇだろ」
 一騎討ちの末、リーダーを失った群は決定的な破綻を迎えた。逃げ出すモノは逃げるに任せ、冒険者は休む間もなくその場を後離れた。
 熊達の冬篭りが間に合うよう、祈りを込めて。