宴に訪れる者 そは招かれざる客

■ショートシナリオ


担当:熊野BAKIN

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 35 C

参加人数:8人

サポート参加人数:1人

冒険期間:12月15日〜12月20日

リプレイ公開日:2006年12月20日

●オープニング

●いつかどこかでの話。
「彼が捕まったと言うのは本当でしたか」
「ええ。彼、出自が出自でしょ。父君の筋からかなり絞られた見たい」
 暗い部屋の中、マスカレードで使うような派手な仮面をつけた一団−見た目や身のこなしから察するに紳士、淑女だろう−が思い思いの姿勢で談笑をしていた。

「皆さん、お楽しみのようですわね」
「これはマーシネス・・・・」
「ご無沙汰しております」
 音もなく扉が開くと、壮麗で見目麗しき仮面の淑女が現れた。室内で寛いでいた者達はすぐさま立ち上がると最上級の敬意を持って彼女を迎えた。
 マーシネスと呼ばれた女性は妖艶に微笑むと、一同に語りかけた。
「お集まりの方々は既にご存知じでしょうが、残念ながら当会より逮捕者が出ました」
 それ自体は周知の事実であった。だが、それが彼女の口から語られるとは・・・・微かなざわめきが走る。仮面の貴婦人はあえて制する事無く、波が納まるのを黙して待った。
 細波が納まると再び室内は静寂に包まれた・・・・マーシネスの言葉を待つために。
「言うまでもありませんが、当会はあくまでも同好の士の情報交換と親睦を目的としております」
 その意味はこの会が「結社」や「組織」の類では無い事を意味している。ではその発言の真意は?
「個人の行動が招いた結果に、我々が介入する事はありませんし個人の行動を規制する事もありえません。我々はただ・・・・」
 「他者を厭わず」「他者を蔑まず」「我の愛する物を・・・・」
「愛す」
 誰ともなく候爵夫人の言葉を継ぎ、また別の者が言葉を継ぐ。そして迎えたフィナーレの一言は部屋にいる全ての者が和した。

●閑話休題
「当家のパーティーの警護をお願いしたいのです」
 そう切出したのは今回の依頼主、キャメロットでも指折りの商人だった。
「パーティーの警護ですか・・・・失礼ですが、御当家ほどの商家なら人手は足りているのでは?」
 受け付け担当は当然の疑問をぶつけてみた。
 裕福な商家であれば有るほど警護の人手は必要になる。それは別に商品のためだけではない、もっとストレートに家人の命も仕事に含まれる。
「ええ、それはそうなんですが・・・・実は」
 あっさり事実を認めると、依頼人は事情を語った。

「パーティーと言うのは先代の60回目の誕生祝いでして」
 60と言えばまぁ長寿の部類に入る年齢だ。
「先代の頃から貴族の方々とも取引がありましたので、幾家かにも招待状をお送り致しました」
「成る程」
 確かにやんごとなき方々の来訪があるなら、警備の人手は幾らあっても多いと言う事は無かろう。
「それに・・・・」
「? それに?」
「昨日、このような物が投げ込まれました」
 それは一枚の羊皮紙だった。担当は依頼人を覗いながら羊皮紙を開いた、特に静止の合図も見えないので改めると・・・・

 「来る宴にて御当家のご子息を頂きに参上致します。
                           ネームレス」

 キャメロットにある豪商の子息でに、貴族の間にもその名が届く美少年がいるらしい。その噂だけは聞いた事があったが、まさか本当だったとは。
 それにしても予告状とは。いや、それだけならまだ良かった。良かったのだが・・・・このネーミングセンスはまさに絶句モノ。よりによって「名無し」?
「ただの悪戯であれば良し。ですが、もし招待客に何かあったら・・・・」
 「それが高貴な客だったら。なおさら、ね」心の中で呟く担当、でも決して口には出さない。お仕事ですから。
「そのような場ですと、色々条件がありそうですね」
 と言う訳でお仕事をしました。
「1つは、事が起こるまでは絶対に抜刀しないで頂きたい、魔法もです。2つ目、出来るだけ流血沙汰は避けて頂きたい」
 折角の祝いの席、無だな騒ぎと流血で水を注したく無いと言う事だろう。
「3つ・・・・息子のレイモンドを守って下さい」
 ふと顔を上げた担当が見たのは、先ほどまでの商家の主ではなく、一人の父親の表情だった。

●今回の参加者

 eb7628 シア・シーシア(23歳・♂・バード・エルフ・イギリス王国)
 eb7721 カイト・マクミラン(36歳・♂・バード・人間・イギリス王国)
 eb8229 陽 月斗(24歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 eb8317 サクラ・フリューゲル(27歳・♀・神聖騎士・人間・ノルマン王国)
 eb8972 アイオン・ボリシェヴィク(32歳・♂・クレリック・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb9033 トレーゼ・クルス(33歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 eb9192 リスティ・エルスハイマー(26歳・♀・ナイト・人間・ロシア王国)
 eb9639 イスラフィル・レイナード(23歳・♂・レンジャー・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)

●サポート参加者

ラーイ・カナン(eb7636

●リプレイ本文

●宴の前
「そろそろ行きましょうか」
 サクラ・フリューゲル(eb8317)は会場警備につく仲間に声をかけた。
「わかった」
「いきましょうか」
 礼服を着こんだトレーゼ・クルス(eb9033)と、リスティ・エルスハイマー(eb9192)が呼びかけに答えた。リスティがまとうドレスは王宮御用達の高級ドレス、冒険者とは思えない華麗な出で立ちだ。
「あれ・・・・?」
 一人分返事が足り無い。サクラは辺りを見まわすと。
「・・・・約束を守ってくれたら、私達が必ず貴方を守るから」
 カイト・マクミラン(eb7721)がレイモンド少年と話しているのが目に入った。
 狙われの王子ことレイモンドは金髪碧眼、同世代の少年と比べると些か華奢で儚げな雰囲気はあるが、利発で素直な少年だ。
「わかりました」
「うん、いい返事よ」
 満足そうに微笑むとカイトは自分の持ち場へと向かった。

「仕事を一つ、持ってかれたな〜」
 陽月斗(eb8229)がしかし、その言葉とは裏腹に笑顔で呟いた。
「なぁに、僕達の仕事もこれからだ」
「そうですね・・・・美しい物を愛でる気持ちは理解できますが、無理やりと言うのは感心しません。私達でレイモンド君を守りましょう」
 シア・シーシア(eb7628)の言葉をアイオン・ボリシェヴィク(eb8972)が継いだ。その手がシアの髪に伸びているのが気になるところだが。
 「皆さん・・・・」一同の視線がレイモンドに集まる。
「ボクの為にお手を煩わせて済みません」
 裏表の無い心からの言葉。商人の息子としては少々頂けないが、素直という才能は時として人を惹きつける事もある。彼が如何な商人になるか・・・・冒険者達は少しだけ興味を引かれた。

●ただの馬鹿? それとも
 先代の生誕と長寿を祝う乾杯で宴は始まった。あまりのゲストの多さに食堂だけでは納まりきらず、ホールや中庭までも開放されている。
 リスティは主に演奏やダンスが行われているホールにいた。ここは他所に比べて招待客以外の人物−芸人や楽師等−が多く出入りしている。もしネームレスが招待客でなければ、ここにいる可能性は高い。
 慎重に、そして不躾にならないよう気をつけながら警戒を続けていた。
「よろしければ一曲、お相手願えますか」
 「申し訳ありません。先約がって・・・・なぁんだ」幾度めかの誘いを断るために振り向くと、そこにいたのはトレーゼだった。
 身につけた立ち振る舞いに高級なドレスで着飾ったリスティは、遠方の貴族と言う振れこみでパーティー客に紛れこんでいた。当然ダンスの誘いも何度かあったが警護の立場上、断り続けていた・・・・が。
 これ以上断るのも目立つかな、と考えなおして「喜んで」差し出された手に自分の手を重ねた。
「つき合わせてすまんな」
「気にしないで。この方が怪しまれないし」
 ぽつりと聞こえたパートナーの場違いな謝罪を軽く流し、ダンスの輪へと加わった。 

「一曲いかがですか?」
 幻想のリュート弾き、カイトは二つ名のとおりにリュートを抱えて食堂に配置されたテーブルを渡っていた。
 さり気無くホスト家族の話題を振っては見るが、やはり先代の話題が多く、レイモンドの話題は耳聡い御夫人、令嬢辺りでちらほら聞こえる程度だ。
 とはいえ相手が分からない以上、気を抜くわけにはいかない。さて次のテーブル・・・・と、そこでとある人物に目が止まった。
 腰に下げた長剣と雰囲気から察するに、何処かの商人の護衛と言うところだろう。つまりは貴族の護衛にしては品が無く、芸人しては華が無いという事だ。
 何故そんな人物に目が止まったかというと「赤い・・・・仮面? 」呆然と呟くカイト。そう、その男は真紅の仮面をつけて会場を練り歩いていたのだ、仮面舞踏会でもない席で。男はカイトと目があうと足早に食堂へと消えていった。
 仮面といい行動といい不審人物度最高潮なのだが、あまりにも「露骨よね・・・・」とはいえ仕事上見なかった事にも出来無い。カイトは赤仮面の消えた方へと向かった。

「さ、寒い」
 そのころサクラは中庭にいた。風はないとはいえ屋外に違いはない。寛ぐには少々厳しい場所だが、酒や熱気に中てらた体を冷すには良い。
 設けられた席にはちらほらと人影が見えたが不審な人物は見当たらない。ホールへ向かおうとした時、木陰から誰かでてきた。
「・・・・え?」
 その人物の顔をみて思わず声が漏れた。異常なまでに青い顔、否。それは青い仮面だった。仮面の人物−恐らく男だろう−は、サクラの上げた声に気付くと足早に屋内へ向かった。
 あまりの出来事に一瞬対応が遅れたがすぐに青仮面の後を追う。「剣、取りに寄れるかな」と考えてはみたが、どうも隠した場所とは方向が違う様な気もする。隠し持ったダガーの感触を確かめると少しスピードを上げた。

●商家の息子
「お運びありがとう御座いました」
「お疲れさま。商家の跡取も大変だね」
 月斗がレイモンドに声をかけた。パーティーが始まってから今まで、彼はあちらこちらでゲストに挨拶をして廻っていた。レイモンドの護衛をである彼等も例外ではない。
 美味しい酒や豪勢な料理の脇を指を咥えて通り過ぎるだけ、と言うのもつらい所ではあったが、事件を解決するまでの我慢と自分に言い聞かせていた。
「不審者が出たよ。赤い仮面と青い仮面を被った男が2人、警備が追っているらしい」
 接客係に扮した仲間と、テレパシーで連絡を取ったシアが警告を発する。
「複数ですか。とにかくレイモンド君は自室に・・・・」
 不審者の続報があるまで、取り敢えず彼を安全な場所に移動させるべきだ。アイオンがその旨を告げようとした時。
「こ。これはマーシナス、ご無沙汰しております」
 別格の賓客に気付きレイモンドが声を上げると、従者を従えた貴婦人の元へと駆け出してしまったのだ。
「一瞥以来ですわね。息災で何より」
 この街で豪商と呼ばれるからには貴族と係わらぬ訳には行かない。当然このような事態も予測はしていたが、このタイミングは・・・・不運としか言いようがない。
 賓客の前で「隠れろ」とも言えず、3人の冒険者はあたりに気を配りながら謁見が終るのを待つしかなかった。

●余興と本気の境
「だ、だからさ、賭けをしたんだよ」
「何を賭けたんですか?」
「お前がネームレスなのか?」
 サクラは青仮面の男を使用人部屋でひっ捕らえた。青仮面の不運は逃げこんだ場所が悪かった事。追いかけてくる娘を振りきろうと、逃げこんだ先がダンスペアが張り込んでいるホールだったのだ。
 トレーゼとリスティ、サクラにはさまれた青仮面は徐々に人気の無い方へ無い方へ、と追い込まれたのだ。
「何日か前、酒場で会ったやつに持ちかけられたんだ、賭けをしないかって」
「だから何を賭けたのよ?」
「パーティーに仮面を持ち込んで、どっちが最後まで仮面を被っていられるかを、さ」
「全く、折角のお目出度い席で何をしてくれるのよ」
 その声に一同が振り向くとカイトが一人の男を連れて戸口に立っていた。その手には赤い仮面が握られている。
 彼等の話は嘘かもしれないし囮に使われたのだけかも知れない。
 ただ言える事は「厄介な事をしてくれた」トレーゼの一言に集約されていた。

「そろそろ失礼しますわ」
「左様で御座いますか。お引止めして申し訳ありません、お気をつけて」
 ようやく侯爵夫人との謁見が終了した。夫人の退席を見送るとアイオンは直ぐに自室に戻る様、レイモンドを促した。
「失礼、御当家のご子息とお見受けするが間違いありませんか?」
 再び声がかかる、見れば紳士の様だ。
「またかよ」
 思わず月斗が呟いた。
「はい、そうですが」
 「噂に違わぬ美しさですな」返答待たず、紳士はレイモンドに歩みよる。
 御当家。ご子息。予告状と寸分違わぬ表現・・・・アイオンの心に警鐘が鳴る。同時にすばやく2人の間に割り込む。もしかしたらただの客かもしれない。だが「レイモンドを守る」事とが自分の目的、ならば今は動くべき時だ。
「私は警護の者ですが、お名前を頂けますか」
 対峙するアイオンと謎の紳士。その間に月斗とシアがレイモンドを下がらせた。
 数秒。数十秒。時間だけが流れる。そして・・・・
「御当主は良い警護を雇われましたな、残念だが私の負けだ」
「随分とあっさり引き下がるんだな。何か企んでるのかい?」
 若き冒険者の懸念は当然。わざわざ予告状まで送りつけるような輩の言葉を鵜呑みには出来ない。
「祝いの席に流血は禁物、さ」
 ぐっ、冒険者達は思わずうめいた。悔しいが正論だ。向こうが騒ぎを起こさないのなら、こちらも派手な手段は使えない。一瞬の隙を見逃さず、紳士ことネームレスは背を向けて一目散に走り出した。
 引き際をわきまえた見事な遁走劇。
 ・・・・いやいや、感心している場合ではない。すぐさま後を追う月斗。アイオンは魔法を唱えようとしたが敵の背中が視界から消えた。何処か部屋にでも入ったのだろうか。
「彼を頼む」
「わかりました」
 ここで逃がせばいつまたレイモンドを狙うとも限らない。シアはフライングブルームを保管している部屋へと向かった。

●美しさは
「そうですか。犯人には逃げられましたか」
 結果だけ言えば、月斗の追跡は振り切られ、シアの上空からの捜査も盛り場の雑踏に阻まれた。
 警備班が捕らえた男達はネームレスに炊きつけられ、騒ぎを起こす囮にされたものと結論付けられた。利用されたとはいえ、然るべき場所−雇い主や詰所−でたっぷりと油を絞られる事になるだろう。
「申し訳ありません」
「いえいえ、取り逃がしたのは残念ですが、パーティーは盛況で息子も無事。言う事はありません」
 依頼人である店主は満面の笑みで冒険者を労った。

 今回はネームレス、不敵な怪人を撃退する事が出来た。だが何時かまた現れるかも知れない。いや、例え彼を捕らえたとしても、別のネームレスが現れるかも知れない。
 美しさは時として、罪。