小悪魔狂騒曲 リース泥棒撃退編
|
■ショートシナリオ
担当:熊野BAKIN
対応レベル:1〜5lv
難易度:普通
成功報酬:1 G 35 C
参加人数:8人
サポート参加人数:4人
冒険期間:12月21日〜12月26日
リプレイ公開日:2006年12月27日
|
●オープニング
●とある出来事
それは雪降る小さな村の出来事。
聖夜を数日後に控え、村人たちはリースを作って家の戸口に飾って静かに聖夜祭を迎える準備をしていた。
ある朝の事。
「お母さん、おかぁさーん」
「なんです騒々しい」雪かきにでた娘の声に母親は溜息をついた。
あの子ももう16だと言うのに落ちつきと言う物が感じられない、これでは行く末が思いやられる。一体誰に似たのやら・・・・恐らく水桶でも覗きこめば出会えると思うが。
「お母さんてばー!」
「はいはい」
根負けして母親は戸外へと向かった。
●受け付け担当の日常
「あのー、依頼のお願いはこちらで宜しいでしょうか?」
「はい、こちらで受けたまわっております」
愛想の良い笑顔で応対する受け付け担当。当たり前の様でなかなか出来ないのがこの「笑顔の応対」。
依頼書を製作するにあたって、唯一の情報源は依頼者だ。いかに彼等の緊張を解きほぐし、より多くの情報を引き出せるか・・・・この辺りが受付担当の腕の見せ所。
「本日はどのようなご用件でしょうか?」
「はい、実は・・・・」
●リースの受難
「一体どうしたんだい?」
母親は外に出ると娘を問いただした。みたところ驚くほど雪が積もっているわけでもなく、冬眠に失敗した熊がいたわけでもない。
娘の顔を見ると、彼女は自分の後ろ・・・・家を見ているらしい。
「?」
つられて振り向く母親。そこにはいつもと変わらない光景があった。いつもと変わらない日常。いつもと変わらない母娘の家。いつもと・・・・いつもと?
微妙な違和感。それはいつもと同じの光景、恐らく1年の大半はこの景色のはずだ。だが、只1つ。この時期あるべき物が無かった。
「リースが無いねぇ」
そう、聖夜祭を祝う為に飾ったはずのリースが消えて無くなっていたのだ。
●点と点
「それが一軒だけでなく、村中のリースが外されていたんです」
依頼人は語った。
「それでリースは見つかったんですか?」
「ええ、見つかるには見つかったんですが・・・・村の外れで壊されていました」
子供の悪戯、と片付けるには少々いき過ぎている気もする。聞けば村人達は敬虔なジーザス教の信者で、このような事をする不心得物はいないと言う事だ。
「これが3日前の事でして、実はそれから毎日・・・・」
「それから毎日、ですか?」
最初は不審に思いつつもリースを作りなおしていた村人達も、こう連日では気味悪くもなろうという物だ。
「では依頼内容はリース泥棒を捕まえる、と言う事ですね。それで・・・・」
テキパキと依頼書に書き込む担当。
「犯人について、何か手掛かりはありませんか?」
「あ、その・・・・ええと・・・・信じてもらえるかどうかわかりませんが」
言葉を濁す依頼人に担当は「どんな事でも構いませんよ」優しく声をかけた。
「不寝番をしていた村の若者が『透明な何かがリースを運んで行く』のを見た、と・・・・」
「・・・・子供が歩いたような歩幅で、見たことの無い足跡がありませんでしたか?」
「ええ、ありました! 」的確な質問に驚く依頼人。
「確実ではありませんが、大よその予想はつきました。大丈夫、お任せ下さい」
●依頼書
リース泥棒退治。
犯人について正確な情報は無いが、状況から察するに「グレムリン」の仕業と思われる。
数についても詳細は不明。足跡などから、2匹以上4匹以下と推測される。
●リプレイ本文
●警戒
「そろそろです」
リヴィールタイムで時刻を確認した、衣笠陽子(eb3333)が仲間に告げる。冒険者達は罠を張った家を見張る為に向かいの家の一室を借り、リース泥棒が現れるのを待っていた。
「何でもいいけど、早く来てほしいわね」
凍えた手を擦り合わせながら、クァイ・エーフォメンス(eb7692)は呟いた。例年に無く暖かかったとはいえ、年も押し詰まったこの時期にもなると村は雪に覆われ、今も雪がちらついている。
「セルゲイさん、犯人が現れる時刻は間違いないのね?」
「村人の話じゃとそうなるのう。わしも見ておるしな」
パラの尼僧、シャロン・ミットヴィル(ea6484)の問いにエルフの老師・セルゲイ・ギーン(ea6251)が答えた。
「来ましたわ」
エルフのマリア・ゲイル(ea7975)−颯爽とまるごとペガサスを纏うその姿は、見る人によってはナデナデモフモフしたい衝動に駆られるかもしれない−の目が雪に埋もれる道に異常を捕らえた。次にその光景を見たのは同じくエルフのシャノン・カスール(eb7700)。
「雪道を見えない何かが歩いてくる、シュールな光景ですね」
「・・・・結界に気がついたか」
トレーゼ・クルス(eb9033)が罠に向かう足跡に乱れが生じたのに気付いた。
冒険者達は、リース泥棒−グレムリン−を誘引するため、リースを飾った家の廻りに発泡酒をメインにどぶろくまで動員して、簡易スタンドバーとも言うべき給酒ポイントを設置していた。しかし・・・・
「まるっきりの考え無し、と言うわけでも無い様じゃの」
セルゲイ翁が罠を張った家を中心に、ヘキサグラム・タリスマンを用いて破魔の結界を張っていたのだ。不可視の何か−雪が纏わりついて輪郭まで見えているが−は、今まで感じた事の無い不快な感覚と据え膳におかれた酒の誘惑との間で葛藤している。
「自分から行く勇気が無いなら・・・・」
「背中を押して上げれば良いだけですわ」
奇しくも女性剣士の意見が一致した。
「もう少し待ってダメなら行こう」トレーズはそう言うと、注意深く敵を見定めた。
警戒心が高まっている今、無理に強襲すれば逃げられる可能性がある。だが結界もレジストデビルも効果時間が限られているし、事によると何もせず逃げるかも知れない。
冒険者とグレムリン、双方は双方の思惑で行動を模索していた。
●時間は遡る
「それにしても、リースは古くは魔よけだったはずだが・・・・それをデビルが狙うとはな」
村の酒場に立ちよって発泡酒を仕入れたトレーゼがぼやいた。
「しかも村外れに投げ捨てられているなんて、デビルの考える事はわかりませんわ」
同じ店で保存食を補充したマリアが隣で溜息をつく。魔よけを目当てに悪魔が来て、一頻り遊んだらぽい捨て・・・・世も末だ。
「そう言えば・・・・」思い出した様に問う。
「シャロンは教会の手伝いをしなくて大丈夫なのか?」
「この件が片付いたら、一軒一軒廻って村の人とお祈りを捧げますよ」
パラの娘は振り向くと「それに・・・・これも大事な御勤めですから」言葉を続けた。
「この辺りですか?」
「うむ。その辺りじゃな」
「それで私はどう動けば宜しいですか」「おぬしはそこから玄関の方へ・・・・ああ、もう少し奥を通ってな」
雪合戦をするお爺さんと孫達・・・・ではない。パーストのスクロールを用い、過去の光景を見たセルゲイが陽子とクァイ、シャノンに指示を出し、盗人の来た方向や行動を再現しているのだ。
そして導き出された情報は。
「敵は西の方から来るようじゃな。リースを盗ったあと投げて遊んでおったわい」
「数はわかります?」
クァイの問いに翁は「ふむ」一言呟くと目を閉じ、魔法によってもたらされた過去の景色を思い返した。
「2・・・・いや、3匹じゃな」
セルゲイは目を開くと断言した。敵の数は3、この情報で冒険者の負担は大幅に減じた。
●てんやわんやの顛末
「かかった」
クァイの呟きに一同は身構える。
始めは結界の存在に警戒心を剥き出しにしていたグレムリン達だったが、幾ら待ってもなにも起らないのを確認すると、じわりじわりと酒の元へと移動を始めた。
「準備しますわ。合図をお願いします」
ホーリーダガーを抜き身で構え、レジストデビルの集中に入るペガサス・・・・もといマリア。思い返せば奇しくも出立前日に誕生日を迎えた彼女、翌日笑顔で送り出した息子にはこれほどファンシーな母の勇姿を想像できただろうか?
閑話休題。
マリア、トレーゼ、クァイの3剣士が戸口に集結して突撃の合図を待つ。
時間の流れは必ずしも同一ではない、まさに今がそれを照明する時間だった。普段は気にも止めず流れる1秒、だが今はその1秒を待つのがとても長く感じられる。
誰かが息を飲む音が聞こえ・・・・「今じゃ! 」下された突撃命令に、3人の猟犬が雪原へと飛びだした。
彼が発泡酒で満たされたジョッキを手にしたとき、背後で何かが聞こえた。
−ぎぃー! ぎぎぃー! −仲間が警戒の叫びを上げる。振り返ると向かいの家から人間とエルフが自分達目掛けて突進してくるのが見えた。
「まずい」彼の、グレムリンの知能は決して高いモノではない。それは好物の酒に釣られて不快な空間−結界−のなかに踏み込むという愚を侵した事でも察せられる。
だが知能が低いから愚か、という事ではない。現に彼は慌てふためく仲間を尻目に、悠々と翼を広げて飛び立つ準備を始めていた。
「1匹逃げるわよ!」
「そちらは任せて下さい」
クァイの叫びにシャノンが即座に応じた。例え剣が届かない場所でも「魔法なら届くのう」セルゲイ翁がニヤリと笑った。
「飛んでも無駄じゃよ・・・・凍てつく嵐よ、来たれ! アイスブリザード!」
決然と解き放った力ある言葉に答え、魔力を帯びた吹雪が空に逃げたグレムリンを飲み込む。生み出された氷雪もさる事ながら、飛ぶために広げたその翼と軽い体重が禍した。突風と打ちつける冷気に翻弄され地面目掛けて落下を始めた、が。
彼は激突寸前で体勢を立て直した。飛べるからといって油断出来ない、恐怖を感じて再び逃走を計るグレムリンの視界に、一人のエルフが目に入った。
その手にあるのは・・・・スクロール。宙に浮かぶグレムリンが突如弾かれたかの様に上空に舞った。
シャノンが用いたのはローリンググラビティーのスクロール、限られた空間の重力を反転させる魔法。その効果は空間に及ぶ為、範囲内にいる者は抵抗の余地無く・・・・今度は体勢を立て直すことも叶わず、小悪魔は地面に叩きつけられた。
「慈愛神の裁きを・・・・ホーリー」
起き上がる間を与えずシャロンはホーリーを放った。邪なる者を等しく誅する聖なる鎚がグレムリンを打ち据える。
「逃げなければ、逃げなければ・・・・」必死で足掻く小悪魔を雪よりも儚い燐光が包む。
「彼の者に眠りを与えよ・・・・スリープ」
ぐらり。異形の体液にまみれた体が白い大地にデビルの姿を穿つ。
スリープによってもたらされるのは薄氷の眠りに過ぎない。身を預けた雪の冷たさで直ぐに目を覚ますだろう・・・・だが。
10秒に満たないその空白が、彼の時間を永遠に塗り潰す永劫の白となった。
雪に舞う妖精。クァンを覗き見た村人−事前に仲間の手配で、外出を控える様に通達したはずなのだが−が後に酒の席で語った言葉。
曰く「悪魔の爪を軽やかに交わし、剣を振るえば必ず敵を捕らえた」と。それほどまでにグレムリンは彼女のとって「歯牙にもかからない」相手だった。
弄ぶ趣味も無いしね。心で呟くと魔剣・ストームレインを大上段に振り上げた。自分の末路を悟り慌てて遁走に転じるグレムリン。
その動きを気にも止めず、女戦士は「やあぁっ!」裂帛の破気とともに剣刃振り下ろす。
−ザシュ!−
斬魔の魔力を宿した剣はバターでも切るかの如き切れ味を見せ、小悪魔はなす術なく闇へと送り返された。
確かにトレーゼとマリアの得物に一撃必殺をもたらすだけのポテンシャルは無かった、だが2人は正確な連携で確実に敵を追い詰めていた。
「翼が出せなくて困っている様ですわね」
冷静に分析するエルフの騎士。いかにグレムリンが小柄とはいえ、翼を広げれば体長の何倍も的を広げる事になる。何度も言うようだが、知能が低いという事と愚かという事は必ずしも同義ではない。
切羽詰った状況だからこそ彼は生き残る可能性を必死に探していた。そして唯一にして最後の可能性に気付く。
「!」
振り下ろされた剣を交わし、小悪魔が逃げ出した先は・・・・リースの下げられたドア、囮として選ばれた家。屋内に逃げ込めば魔法使いどもの目も眩ませるし、裏口か窓かどこからか外に出らば飛んで逃げる事もできる。
後少し。扉に伸ばした彼の手が不可視の壁に阻まれた。
−ぎひゃ!? −思わず叫び声を上げる小悪魔。
「肝心な場所を見逃すはずありませんわ」逃げ道になりそうな場所には前もって手を打ってある。デビル族を通さぬ「聖なる釘」の結界がグレムリンの侵入を拒んだのだ。
振り向く彼の目に映ったのは、翼を広げる大天使を模したといわれる剣と、魔力を帯びたその刃。
そして−ぎしゃー!!−
甲高い断末魔の叫びが純白の雪に吸い込まれ・・・・雪降る村に静寂が戻る。
●聖夜に静寂と祝福を
「神の祝福がありますよう」
シャロンは一軒づつ村人のもとを訪れて、依頼の完了と聖夜の祈りを捧げて回った。村人達は事の顛末に驚き、そして心からの感謝をもって、小さな尼僧とともに慈愛深き神へ感謝の祈りを捧げた。
「ホワイトクリスマスじゃのう」
セルゲイの何げない言葉に彼は古びた十字架を握った。心を過る様々な思い・・・・少しの沈黙の後、男は応えた。
「メリークリスマス」