雪の川、血に染めて

■ショートシナリオ


担当:熊野BAKIN

対応レベル:11〜lv

難易度:普通

成功報酬:6 G 65 C

参加人数:8人

サポート参加人数:4人

冒険期間:01月05日〜01月10日

リプレイ公開日:2007年01月11日

●オープニング

●異例の形式
 「討伐依頼8名急募。基本、熟練の冒険者を求む。詳細は受け付け担当まで」

●依頼内容
「朝から突然の依頼で申し訳ありません。少々面倒な事態が発生しましたので、このような形式で募集をかけました」
 いつもは窓口で依頼人の対応をしているはずの受付嬢が説明をはじめた。
「南西の方角に1本の川があります。下流には小さな村が点在しています」
 数人の冒険者が頷く、依頼でその方向に行った事があるのだろう。
「その川の上流よりバグベアの群が下流目指して移動中、との知らせがありました」
 微かなざわめきが場に走る。バグベア闘士−熊の顔と猪の体をもつ屈強なオーガ。一般人のみならず冒険者にさえ襲いかかり、全てを奪い去る狂暴な輩だ。
「どれほどの群かは知らないが、なぜ衛兵隊でなく俺達なんだ?」
 当然の質問だ。恐れをなしたわけではないし面倒なわけでもない、引きうけた依頼を全うするのが冒険者の勤め。だが疑問に思ったことは聞かなければならない。冒険者は慈善事業では無いし、依頼人が正直者とも限らないのだ。
 「推測ですが」前置きを挟んで応えがあった。
「まずは衛兵隊に任せたとして、我々冒険者ギルドよりも迅速に人が出せるか。という点」
 衛兵はれっきとした組織の一部。先遣隊による真偽の確認や派遣隊の人選等々、幾つかの手順を踏む可能性は高い。
「そしてもう一つ。この件には通報者である村人から討伐依頼。そして事態の調査依頼という形で衛兵隊から。依頼主が2人存在します」
 通常であれば先遣隊を送るところだが、あまりにも切羽詰った通報者の態度に異例の措置を取った・・・・そんなところだろうか?
 もっと単純に現在抱えている仕事で人手が割けないという事も考えられるが、まぁ何にせよギルドに仕事が廻って来た。冒険者としてはありがたい話だ。
「バグベアの総数はおよそ15匹。依頼は討伐です」
 その意味する所は「全滅」ここでなぜ経験豊かな者が求められたかが飲み込めた。
 「それともう一つ」思案していた冒険者達の目がもう1度、担当に集まる。
「出来うる限り、人家へ近づけない事」

●詳細説明
「今日中に出立したとして、通常の速度で行けば2日後にバグベア達と遭遇すると思います」
 受け付け嬢は川の略図をつかって説明をはじめた。
「この場所は石の河原で少々足場に不安があるそうです・・・・まぁそれは敵も一緒でしょうけど」
 略図に丸印を書き入れると、続いて情報を書きこんだ。
「茂みや立ち木も比較的多いですから、少し急げば待ち伏せも可能かもしれません。ですがそれなりに空間があるので、数の上で不利になるかもしれません」
 一長一短だ。

「次に時間優先で行った場合・・・・この辺り」
 さらに上流に印を書きこむ。
「雪も多く足場はさらに厳しくなります。時間的に待ち伏せや罠設置は難しいと思いますが、狭い場所ですので数的有利は薄れると思います」

「最後ですが、把握している限りで側近の村から1日程の場所です。村人がいるかもしれませんのでお勧めは出来ませんが、一応選択肢としてあげておきます」
 最後の印を書き入れる。
「雪も無く時間的な余裕がありますので、色々な仕掛けをする事も可能です。が、平地になり数を最大限に使われますし・・・・」
 そこで息をいると、辺りを見まわしてから続けた。
「村人への被害が出る可能性も高くなります」

「どの場所を選ぶか、あるいは別の場所を使うかは皆さんにお任せします。では」
 最後にそう付け加えると担当は席を立った。許された時間は限られている、冒険者達は直ぐに作戦会議に移った。

●今回の参加者

 ea1553 マリウス・ゲイル(33歳・♂・ナイト・人間・フランク王国)
 ea1749 夜桜 翠漣(32歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea1753 ジョセフィーヌ・マッケンジー(31歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea2554 ファイゼル・ヴァッファー(30歳・♂・ファイター・人間・フランク王国)
 ea5683 葉霧 幻蔵(40歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea8553 九紋竜 桃化(41歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 ea9027 ライル・フォレスト(28歳・♂・レンジャー・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb5451 メグレズ・ファウンテン(36歳・♀・神聖騎士・ジャイアント・イギリス王国)

●サポート参加者

来生 十四郎(ea5386)/ アルヴィン・アトウッド(ea5541)/ マリア・ゲイル(ea7975)/ グレン・アドミラル(eb9112

●リプレイ本文

●邂逅
『来た。うまい具合にこちら側を移動している』
 ファイゼル・ヴァッファー(ea2554)がゲルマン語で告げた。ファイゼルの通詞を買って出た、九紋竜桃化(ea8553)は頷くとをファイゼルの言葉を端的に訳す。
「じきに姿が見えるそうです」
 静かな緊張が冒険者達の間を走る。
 彼等が戦場に選んだのは中間地点、罠の設置が比較的容易で適度な広さの有るポイント。取った作戦は地の利を活かした待ち伏せ。
「ちょっとずれてるかな」
 そう言うとジョセフィーヌ・マッケンジー(ea1753)は長弓を手に移動を始めた。これも予定通りの行動、バグベアを挑発して群を罠へと誘導する重要な役目だ。
「私も行きます」
 夜桜翠漣(ea1749)がジョーの後を追う。何しろ敵の数が多い、全ての敵が罠にかかってくれる保証の無い以上、時間稼ぎの手も必要だ。
「罠にかかったら俺達もすぐに行く、無理するなよ」
 頭に布を巻きつけた青年、ライル・フォレスト(ea9027)が囮役に声をかけた。囮に人数を割けば待ち伏せの人員が減る、結果として待ち伏せ作戦の効果が薄れる事にもつながる。2人という囮役の数は最低数であり最大数でもあった。
 その時、全く別の事に悩まされている青年が1人。マリウス・ゲイル(ea1553)は出立前、義母の発した言葉が今だ頭から離れない。
 曰く「熊鬼は 熊じゃないのよ 鬼なのよ」・・・・お義母さん、貴方は何を伝えたかったのですか・・・・

 −ザッザッザッザッザ・・・・−雪を踏みしめる音が曇天に響く、不規則な足音が徐々に大きくなって来た・・・・
 今まさに戦いの幕が切って落とされようとしていた。

●雪の川、血に染めて
 −ごぁぁぁ!−
 先頭を歩いていた同胞が突如苦悶の叫びを上げた。「何事?」 群に動揺が走る。
 『サワグナ、オチツケ・・・・』1匹のバグベアが群の統制を保とうと声をあげた時、−ひゅっ− 飛来した矢が彼の二の腕に突き立った。
『敵ダ、殺セ!』
 束の間の冷静さは露と消え、彼は激痛を憤怒に変えて雄叫びを上げた。

「そのまま、そのまま・・・・よしっ」
 バグベア達は程なく弓を構えたジョーに気付いた、雪を蹴散らし猛然と突進を始めるオーガの群。だが彼等は気付いていない、冒険者が水を撒き、雪を踏み固めて用意したアイスバーン地帯が目前にある事を。
 ご丁寧にも雪でカモフラージュされていたから堪らない。3匹が冗談のような勢いとタイミングで転倒し、打ち所が悪かった1匹が後頭部を抱えてのた打ち回っている。
 「後続が川に向かった、まわりこむつもりだ!」誰かが発した叫びに、メグレズ・ファウンテン(eb5451)の巨躯が弾かれたように飛び出した。
 簡単に罠を回避させないという戦いの打算。だがそれにも増して強いのは、オーガを村に近づけさせまいとする騎士の心。
 「破刃、天昇!」異国の刃より放たれた剣風が、川を伝って移動するバグベア達を撃つ。
「しまった!」
 一先ず押し止めた・・・・そう思った瞬間、視界の端に無傷のバグベアが映った。相手は手練れ、しかも数は敵のほうが上。1匹でも後方にまわられれば確実に状況は悪化する。
「拙者に任せられい」
 声の主は、葉霧幻蔵(ea5683)。幻蔵は束の間、精神を集中すると術を解き放った。
 遠国はジャパンの魔法「忍法・大ガマの術」彼の術に応じ、体長3mの大ガマ蛙が雪上に姿を現す。
「彼奴を岸に上げてはならん、押し返せぃ!」
 召喚主の命を受け、大ガマはその巨体に似合わぬ軽快さで川岸へと跳ぶ。罠と剣風を回避したバグベアの前に巨大なガマ蛙が立ち塞がった。

「貴方達には貴方達の目的、理由があるでしょう」
 アイスバーン地帯を抜けてきたバグベアに翠漣が囁く。それは生物が生きていく上で当然の摂理、弱肉強食と言う自然の掟でもある。
 「ただ・・・・」軽やかな足取りで振り下ろされた斧を交わすと、右拳に構えた龍叱爪をがら空きの脇腹に打ちこむ。
「私達と方向が違っただけ」
 戦いを生業とする者同士が戦場で巡り合えば、結末を導く式は一つ。
 「どちらが生き残るか・・・・試してみましょう」最後に一言呟き、彼女は悠然とそして決然と身構えた。

 川の反対側、立ち木や茂み沿いに罠を迂回する一団がいた。その数4。
「こちらに備えが無いとでも思いましたか?」
 声と共に木陰から飛び出した影・・・・マリウスの放った真紅の槍が吸い込まれる様に、バグベアの腹部に突き立った。よろめくオーガにさらなる追撃。完全に間合いの外からの斬撃、大薙刀・蝉丸が獲物を捉え皮を切り裂く。
「・・・・浅い」
 手応えの薄さに桃化は眉をしかめた。敵も熟練の戦士、2度も不意を打たせてはくれないらしい。
 とはいえ対峙する2人もまたキャメロットに、いやさイギリスにその人ありと称される剣士。4匹のオーガを前にしてなお、微塵の不安無し。

『言葉が通じない、と言うのはやはり不便だな』
 ファイゼルは母国語で一人ごちた。なるほど通訳を買って出てくれた仲間がいるので、意思の疎通が出来ないわけではない。しかし微妙なニュアンスや語彙が通じ難いのも確かだった。
 『だが・・・・』ふっと笑みが浮かぶ。
 戦士という人種は、戦場にあれば例え互いの言葉が通じずとも体が動くモノだ。それは経験と言う積み重ねでもあり、曖昧な感覚でもあった。
 しかし彼には確信がある。戦いが始まればきっと体が伝えてくれるだろう、互いの動きを考えを。
 −ぐあぉぁ!−バグベアの絶叫が聞こえた。
 仲間が準備していた「片足用落とし穴」にかかったらしい。穴の底には木杭が施設されている、いかにバグベアが打たれ強くとも踏み抜けば只では済まない。
 『頃合か』ファイゼルは雪でカモフラージュした毛布を跳ね飛ばし、罠にかかった獲物に襲いかかった。
「ここまでは順調っと」
 成行きを見守っていたライルは戦況を評した。とは言え遊んでいるわけではない、鷹のミァンと犬の凍月を駆使してオーガを引っ掻きまわしている。特に前衛に廻っている敵は目の前の冒険者に集中する事が出来ず、相当のストレスを感じているようだ。
 その時、落とし穴付近でファイゼルが動くが見えた。
「そろそろ出番かな」
 数は今だ敵の方が上。複数をもって一にあたり、着実に数を減らさねばならない。ライルは短刀を抜き放つと異国の戦友の元へと向かった。

 「3匹目っ」マリウスの声を追う様に「示現流に二の太刀いらず・・・・見よや、昇竜っ!」桃化の気迫一閃。バグベアの巨体が2つ、まるで泥人形の様に崩れ落ちた。
 僅か数分で陸地側から回り込もうとした一団は2人によって殲滅された。4匹同時に相手にするのはさすがに骨が折れたが、1対1になれば遅れを取るはずも無い。
「川に向かいます」
「私はバグベアの裏に廻ります。どこから沸いたのかわかりませんが、逃がしはしませんよ」
 頷くと2人は次の戦場へと走った。

「敵もさるもの、で御座るな」
 幻蔵の言うとおり、バグベアの戦闘力は他のオーガと比べものにならない程に高かった。
 だが幻蔵とて引けは取らない、使い魔の能力は召還者に順ずる。敵の攻撃を華麗に交わす続けるガマの勇姿がそれを証明していた。
 それにしても、これほど活躍する蛙はそうそう見れるものではない、しかも真冬のこの時期に・・・・魔法のなせる技、と言えばそれまでだが。
 「ぐっ・・・・」その時、共に水際で戦っていたメグレズの声が聞こえた。
「無理をなさるな、メグレズ殿」
 声を上げる幻蔵。
「大丈夫・・・・です」
 メグレズは苦痛をこらえて答えた。今までは相手の足場の悪さに助けられていたが、複数を相手取るには少々手強い相手でもあった。仮に今退いたとしても、誰一人それを責める者はいないだろう。それほどに自分の持てる力を発揮して戦線を支えていた。
 だが彼女は退かない。仲間を守る為、そして力弱き人達を守る為に。
 「ここは通しません」巨人の騎士は法城寺正弘を握りなおすと、再びオーガの前に立ちはだかった。

 罠に踏み込んだ群の本隊もまた、迂回した者達と同じ運命を辿りつつあった。
 その数8匹。ほぼその全てが何らかの罠にかかり、攻めるも逃げるもままならない状況に陥っていた。
『テッタイダ、ヒケ! ヒケ!』
 −ぐぉあぁあっ!−
 群のリーダーとおぼしき個体が必死に叫ぶが、如何せん彼等は統率の取れた軍隊ではなかった。号令一つで恐慌状態を脱せるはずが無い。ファイゼルの魔槍とライルの急所を狙った攻撃の前に、1匹また1匹とその数を減じていく。
『オノレ・・・・人間メ・・・・』
 壊滅していく群を前に彼の戦意は失われ、ついには討たれて行く同胞を見限って一人逃走を計るが・・・・
 −しゅかっ− −ぐあぁぁっ!− −ひゅん ひゅんっ!−その背に1本、数瞬の間を置いて次々と矢が突き立つ。
 「悪いけど」狩人は崩れ落ちる獲物の姿を、感慨も無く見つめた。
「このジョーさんの弓からは誰も逃れられないんだよ」

●白は全てを塗りつぶす
「・・・・14、15。数は間違いありませんね」
 冒険者はバグベアの亡骸を確認して、討ち漏らしのない事を確認した。後は上流の様子を見に行ったメンバーが戻ってくれば依頼は終了する。
「なんにせよ皆無事で何よりで御座る・・・・おや?」
 落とし穴だけでも、と埋め戻していた仲間が空を見上げた。

「餌が不足して山を降りてきた、というところでしょうか」
 上流の調査をしていた時、誰かが口を開いた。その見解を裏付けるかのように群の痕跡に不審な点は見られない。単純に獲物を求めて下流へと移動していた様に思えた。
『雪か・・・・』
「雪ですね」
 ゲルマン語の呟きに答える様に、イギリス語の呟きが聞こえた。

 いずれこの雪は全てを白く塗りつぶすだろう。川原に転がる屍を、赤く染まった川原を、血に染まった川を。
 冒険者達は少しの間、舞い降りる雪を眺めていた。