小悪魔狂騒曲 新年早々縁起悪っ!

■ショートシナリオ


担当:熊野BAKIN

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 8 C

参加人数:6人

サポート参加人数:3人

冒険期間:01月16日〜01月20日

リプレイ公開日:2007年01月21日

●オープニング

●晴天の霹靂
「助けて下さい、教会にグレムリンがいるんです!」
「・・・・は?」
 長い事この仕事をやっていると、予想外の事件が飛び込んでくる物だ。この日の朝、一番に転がり込んできた依頼もその一つだった。
「ですから、村の教会にグレムリンが出たんです!」
「はぁ・・・・」

●新米神父の不幸な新年
 「なるほど」受け付け担当は依頼人を落ちつかせると、順序だてて話の流れを確認する。
「昨夜、教会の中で不審な物音がしたので確認すると、中でグレムリンが大暴れをしていた・・・・と」
「はい」
 教会に悪魔が入り込むというのも前代未聞だが、それに腰を抜かして冒険者ギルドに泣きつく神父というのも珍しい。別に行くべき場所があるような気がするので、その旨を遠回しに問うてみる。
「それで、以前にもこのような事があったのでしょうか?」
「いえ、それが・・・・実は私、一月前に赴任したばかりでして」
 「そうですか」ふむ、納得する担当。
 どうやら依頼主は新米神父さん。あまりに想定外の事態に、どうして良いやらわからずギルドに転がり込んで来たと言う事らしい。まぁ、自分の責任ではないにしろ、こんな事が表沙汰になったら・・・・という考えもどこかにあっただろうが。
「次の礼拝の日までに何とかグレムリンを追い出して頂けないでしょうか?」
 まさか教会に悪魔がいるとは言えない、礼拝の日に教会を閉め切るわけにもいかない。経験の浅い−これほどイレギュラーな事態に経験が通用するかは疑問だが−新米には荷が重過ぎるだろう。
「早急に人を募りましょう」
「ありがとう御座います! ・・・・ああ、それとお願いがあるのですが」
 「はい。なんでしょう? 」概ね予想はついている。
「デビルの血で教会を汚すわけには行きません。なんとか無傷で外に連れ出してもらえませんでしょうか」
 倒されたデビルは消滅し、存在した痕跡すら残さないものだ。とはいえ、教会を不浄の血で汚すわけにはいかないので、グレムリンをとっ捕まえて摘み出してくれ・・・・と言う事か。
「わかりました、その旨も伝えておきます」
 「是非よろしくお願いします」ふかぶかと頭を下げる新米さんを尻目に、受け付け担当は文面の推敲に入っていた。

●依頼書
 「急募・グレムリンの排除」
 教会に出没したグレムリンの排除依頼。数は2匹。
 追加条件・教会内をグレムリンの血で汚さない事・・・・云々。

●今回の参加者

 ea6484 シャロン・ミットヴィル(29歳・♀・クレリック・パラ・フランク王国)
 eb5297 クリスティアン・クリスティン(34歳・♂・クレリック・人間・イギリス王国)
 eb7628 シア・シーシア(23歳・♂・バード・エルフ・イギリス王国)
 eb7636 ラーイ・カナン(23歳・♂・神聖騎士・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb7700 シャノン・カスール(31歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 eb8646 サスケ・ヒノモリ(24歳・♂・ウィザード・ハーフエルフ・イギリス王国)

●サポート参加者

日高 瑞雲(eb5295)/ デカンダ・ガンテンブリンク(eb5298)/ 陰守 清十郎(eb7708

●リプレイ本文

●小悪魔の住む教会
 時刻にして夜10時頃。グレムリン駆除に集った冒険者一行は件の教会に集結していた。礼拝日は明後日に迫っている、礼拝堂を元通りにする手間も考えれば今夜中に仕事を片付け無ければならない。
「開けます」
 パラの少女(童顔と背丈のためそう見えるだけで、本当は立派な淑女)、シャロン・ミットヴィル(ea6484)が注意深く扉を開けた。礼拝堂に灯りは無かったが、月の光が雪に反射されて思ったよりも見通しがきく。
 ひっそりと静まり返った室内に小悪魔らしき影は見当たらなかったが・・・・
「最前列に1匹います。もう一匹は・・・・感知できないね」
 ディテクトアンデッドの魔法でグレムリンの感知を試みた、クリスティアン・クリスティン(eb5297)が告げる。
 魔法とて必ずしも万能ではない。効果の及ぶ範囲も限られるし、常に望んだ効果を得られるとも限らない。理屈はさて置き結論としては、もう一匹のグレムリンは魔法の及ぶ範囲にいないようだ。
「お酒の準備できましたよ」
 背後で餌の用意をしていた、サスケ・ヒノモリ(eb8646)の声がした。グレムリンはかなりの酒好き。何日も酒と縁の無い教会に篭っていたなら、かなりの確率で食らいつくだろう。特に今回は神父の強い要望で教会の中での荒っぽい手段はご法度、願わくば自分の意思でご退出頂きたいところだ。
「こちらも問題無い」
 ハーフエルフの騎士、ラーイ・カナン(eb7636)が応じる。実は夜に行動しようと提案したのはラーイだ。神父の体面を気遣ったのだが、日中に行動すれば物珍しさに野次馬が集まるだろう。そうなれば異性と接触する機会が増える事にも繋がる。彼自身の業にも係わる問題でもあった。
「俺もだ」
「いつでも始めてくれ、でも・・・・」
 同じくエルフの青年達、シャノン・カスール(eb7700)とシア・シーシア(eb7628)が準備OKの意思表示をする。
 「僕の出番はまだかな」シアはラーイに道を譲った。彼の魔法にも効果の及ぶ範囲がある。ディテクトアンデッドの感知にかからないと言う事は、彼の術も届かない可能性が高い。
(「出きれば消滅させたくないんだけどね」)
 彼は毛むくじゃらで悪戯好きの小悪魔を「愛嬌があって憎めない」と思っていた。できるなら穏便に事を納めたい。

 各々の思いはあるが仕事は仕事、グレムリン立ち退き作戦が実行に移された。

●先ずは正攻法
−ぎぃ?−
 先刻、扉が開いた辺りから、彼は姿を消してベンチの影から入口の様子を伺っていた。半開きになった扉からは月明かりに照らされ、幾人かの人間らしき影が見えた。何か話をしている様だが内容まで聞き取れない。
 一緒にいたはずの仲間は何処に行ったのだろう? 随分前から姿が見えないが・・・・
 心細くもあったが、彼は深夜の訪問者を観察する事にした。

「出てこないですね」
「こないな」
 シャロンの呟きにシャノンの呟きが返る。
 まさか準備の一部始終を盗み見られているとは思わない。いかに酒好きで少々思慮の足りない小悪魔でも、こんな場面に出くわせば無警戒ではいられない。
「お酒を煮立たせて匂いで誘いましょうか?」
 さらに十数分程たった頃サスケが提案した。それも手か・・・・そんな空気が流れた始めたとき。
 「オ前タチ、ナンノヨウダ? 何ヲシテイル?」 扉の奥から片言の言葉が響いた。
「・・・・え?」
 異口同音にハモる冒険者。酒に釣られて出てくるグレムリンをとっ捕まえる。と言う予定ではあったが、まさかグレムリンから話しかけられるとは思っていなかった。正に予想外。
「えーと・・・・教会からでていただけませんか? 神父さんが困っているようなので」
 思わず素直に用件を伝えてしまうサスケ。
 「・・・・」場に流れる沈黙に慌てて付け加える。
「ただとは申しません、お酒を用意しました」
 「・・・・」教会の中から返答はない。
「二度と教会に現れないと約束するなら、今回は見逃そう」
「うんと言ってくれないと、おまえは消滅させられるかもしれない」
 ラーイとシアが剛柔織り混ぜてたたみ掛けた。譲歩とプレッシャーがグレムリンの心を揺さぶる。
 実際のところ教会の内にいる限り、教会の中で戦えない冒険者よりもグレムリンの方が有利なのだが、当の小悪魔君はそんな事情を露ほども知らない。
 人間の提案を受け入れて酒と命を取るか、意地を張って両方を失う危険を冒すか・・・・彼が「自分が割りと選択の幅が狭い状況に置かれている」事を理解するのに、さほど時間はかからなかった。

「仲間が何処にいるのか君にもわからない、と言う事ですか」
 クリスティアンの質問に頷くと、素直に投降した小悪魔は3杯目のジョッキに手を伸ばした。グレムリンは下級とはいえデビルの眷族、片言ではあるが言葉を解するので尋問はスムーズに進んでいた。
 彼等の知能は高くは無いがけして愚かではない。デビルが人間の提案を受け入れる、というのは奇異なケースではあるが、「無駄に抵抗して命を危険に晒すよりは、酒と保身を選んだ」結果、つまりは打算でもあった。 
「何か心あたりはないのか」
 なおもシャノンがくい下がる、もしも既に教会の外に出ているなら一手間も二手間省けるのだ。その問いに小首をかしげて考え込むもこもこ小悪魔。
「モシカシタラ」
 「もしかしたら?」 鸚鵡返しに問い返す。
「奥ノ部屋、カモ」
 奥の部屋・・・・神父の控え部屋の事だろうか?
 そうこうしている間にグレムリンは3杯目のジョッキを空け、立ち上がると翼を広げた。その背にシャロンが声をかける。
「約束を忘れ無いように」
 シャロンが執念で誓わせた「以後悪さはしない」と言う誓約。デビルとの口約束がどれほど信用出きるか、それこそ疑問だ。疑問ではあったが、彼が自分たちを信じた様に私も彼を信じてみよう。パラの尼僧は思っていた。

●誘う歌、のせられる客
「奥にいるなら、僕が誘ってあげよう」
「ここからでは魔法は届きませんよ?」
 真打登場? 悠然と微笑むシアにサスケが問いかける。どんな強力な魔法でもその効果が及ぶ範囲には限界がある、標的が届かない場所にいるなら、自分から近づかなければならない・・・・否、近づけば良い。
「もちろん教会の中で歌うよ。あ、準備よろしくね」
 エルフの詩人は微塵の躊躇も無く教会へ踏み込んだ。
 「早く準備をしないと、俺たちまで一緒に酒を飲む羽目になるぞ」ラーイが準備を促す。
「ええっ、僕お酒はちょっと・・・・」
 的外れなリアクションがあったものの、早急に酒盛りの準備が整えられた。

 何か聞こえる。これは・・・・歌だろうか?
 控え部屋で惰眠を貪っていた小悪魔はふと目を覚ました。何処からか歌が聞こえてくる・・・・その歌を聴くうちに、彼は喉の乾きを覚えた。
 
 さあ外に出て酒を飲もう
 歌を歌い、楽しく酒を飲もう
 空に浮かぶ白い月を見ながら、酒を飲もう
 さあ、外に出て一緒に酒を飲もう

 歌に誘われるようにグレムリンは部屋を出た、月明かりで薄っすらと照らされた礼拝堂のなか・・・・祭壇に1人のエルフがいた。どうやらこの歌はエルフが歌っているようだ。
 何故こんなところにエルフがいるのか? 一緒に来たはずの仲間は何処だ? 寝起きの頭を幾つも疑問が浮かんで消えていく。
 必死に現状を把握しようとするがどうにもうまくいかない。こんな状況でも消えない「酒を飲みたい」という不可解なほどに強い欲求が、彼の思考を邪魔していた。
 このエルフをどうするべきか、それよりも逃げるべきか、仲間を探すべきか。混乱の中で考えを巡らせるデビル。
 −くん−その時、彼の鼻に微かな匂いが届いた。これは・・・・(「酒?」) どうやら半開きになった扉から吹き込む風に乗ってきたらしい。
 すこしの間思案すると彼は決意を固めた。先ずは自分の身を守る。姿の見えない仲間もこの歌うエルフも後回しで、取り敢えず外に出ようと思った。
 確かに微かな酒の香りにも心惹かれてはいたが、命には代えられない。
 一度心を決めれば後は行動するだけ。彼は不信なエルフを避けて壁沿いに出口を目指す・・・・慌しい思考の中で犯した、致命的なミスに気付く事も無く。

「・・・・コアギュレイト」
「シャドウバインディング!」
「コアギュレイト」
 戸口から姿を現したグレムリンに、あちらこちらから束縛の魔法が飛ぶ。こうなっては一つ二つ魔法を抵抗したところで焼け石に水だ。
 彼が犯した致命的なミス、それは・・・・姿を消し忘れた事。

 余りにも呆気ない幕切れに拍子抜けした表情の面々。しかし教会を汚す事なく無事に依頼を終える事が出来たのだ、喜ぶべきだろう。
「さてと」
 縛り上げられたグレムリンを前に切出した。
「二度とここに現れないと約束すれば・・・・」

●おいしいかおいしくないか
 明けて翌朝、一行はまだ教会にとどまっていた。大きく壊された場所は無いものの、あちらこちらに泥や埃が散乱している。このまま帰るのも後味が悪い。礼拝日が翌日と言う事もあり、冒険者の有志が集まって教会の掃除を手伝う事にしたのだ。
「そこまでして頂いては、返って申し訳け無いです」
「いえいえ、気にしないで下さい。グレムリ・・・・彼等が暴れて汚れ放題ですし」
 恐縮する神父を余所に掃除を始めるクリスティアン。
 「教会、きれいきれいしましょ〜」鼻歌混じりに床を磨き上げていく・・・・が。
「あ、あわ、うわぁ!?」
 がこーん! ばしゃぁ・・・・がらがらがら・・・・(バケツにつまずき転倒。水が散乱。虚しく転がるバケツ)
「磨いた所に水を撒いて、どうするんです?」
 掃除を手伝っていたシャロンの冷静な指摘に、バツが悪そうにぽりぽりと頬を書くクリスティアン。

(「どうしていつも転んじゃうだろう?」)
 きっとそれは・・・・そういう星の下に生まれてしまったから。良いか悪いか、おいしいかおいしくないかはさて置いて。