小鬼狂騒曲 パン工房
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■ショートシナリオ&プロモート
担当:熊野BAKIN
対応レベル:1〜5lv
難易度:普通
成功報酬:1 G 8 C
参加人数:5人
サポート参加人数:-人
冒険期間:08月17日〜08月21日
リプレイ公開日:2006年08月22日
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●オープニング
○3大要素・粉
城下のとあるパン工房の出来事。
早朝。
「お、親方〜!大変です」
「何を騒いでやがる、仕事の準備は出来たのか!?」
「それどころじゃないんです!倉庫に、倉庫に・・」
訝りながらも工房の主人は小麦を保管する倉庫に向かい、愕然とする。
「なんじゃこりゃぁ」
整然と積まれていた筈の麻袋が引き裂かれ、製粉前の小麦が床一面に散乱し、今朝製粉したばかりの小麦粉が倉庫一杯にたち込めていたのだ。
○3大要素・水・卵
呆然とする主人の元へ別の弟子達が駆け寄ってきた・・頭から水浸し、卵まみれという出で立ち。
「手前らなに遊んでやがる!仕込みはどうした?」
一喝されながらも弟子達は口々に異変を告げた。
「違うんです親方!井戸の方で変な声が聞こえたんで行ってみたら」
「俺達は作業場に入ったとたんに」
突然水をぶっ掛けられたり、卵をぶつけらたらしい。
なんにせよこんな姿で仕事をさせるわけにもいかず、主人は弟子達に着替えてくるよう命じた。
○工房主は見た
「一体何がどうしたってんだ。これじゃ仕事にならん」
ぼやきながらも主人は作業場に向かった。扉をくぐり、作業台に目を向けた所で時間が止まる。
5秒・・10秒・・15秒経過。
その目はただ一点、作業台でパンのタネをこねくり回している先客、もとい招かれざる客を凝視していた。
さらに数秒後、振り返った客と主人の目が合い・・一言。
−きしゃー!−
「グレムリン!?」
○水浸し粉まみれ・卵添え。
ギルドに転がり込んできた男が、受付に飛びつき口早に依頼内容を告げる。
「頼む、俺の工房からあいつ等を追い出してくれ!」
その風体にはじめは気圧されたもののそこはプロ。受け付け担当は依頼主を落ちつかせながら、少しづつ依頼内容を聞き出していった。
「依頼内容は工房内のグレムリン撃退、という事ですね?・・他に留意点はありますか?」
「ああ、一つだけ」
真剣な眼差し(受付以外が笑いを堪えているのは、多分気のせい)で依頼主が付け加えた。
「この際、小麦や卵の損害は目をつぶる。だが工房の設備だけは傷をつけんでくれ。設備を壊されたら仕事が出来なくなっちまう」
●リプレイ本文
○パン攻防奪回作戦 作業場
「いたよ。作業台の上で大騒ぎしてた」
グレムリン退治に名乗りをあげた5人の中で、もっとも隠密行動にたけた極楽司花朗(ea3780) が無事、偵察と仕掛けを終えて仲間の待つ出口へ戻ってきた。
「ご苦労様です、あとは引っかかるのを待つばかりですね」
そういって花朗を迎えたのは、白い異国風の布鎧に市女笠という、月道のあるキャメロットでもかなり目立つ出で立ちの女性。乱雪華(eb5818)だった。
その言葉に引き締まった面持ちで頷くのは、唯一デビルに対抗できる剣を帯びた白騎士、メグレズ・ファウンテン(eb5451)。
「グレムリンですか。やれるだけやってみます」
彼の剣に作戦の命運がかかっているといっても過言ではない。してみればその表情は、自分の責務を理解した上での決意と緊張感の現れだろうか。
「来ました」
注意深く中の様子を伺っていたシャロン・ミットヴィル(ea6484)が静かに告げる。法衣に身を包む彼女は、見た目通り神に使える聖職者である。
邪悪の僕を目にしてなお冷静さを保つ姿は、彼女の聖職者としての資質を伺わせた。
「陽子君、大丈夫?」
極楽寺は傍らで緊張した表情を浮かべる少女、衣笠陽子(eb3333)に声をかける。同じジャパン出身で、母国語を使える相手と話したかったと言う気持もあった。
「はい。職人さん達の為に頑張ります」
久しぶりに聞く母国語にくすぐったさを感じつつ答えた。それは意志表示だけでなく、自分への喝だったかもしれない。
○初戦
工房に辿りついた時点で作戦の打ち合せは終っていた。
「まず私が発泡酒で導線をつくって、グレムリンを外に誘き出す」
花朗が自分の仕事を確認すると、雪華が後を引きうける。
「誘き出したのを確認して、私が鳴弦の弓で動きを鈍らせます」
「そして残った私達でグレムリンを攻撃する」
メグレズの言葉にシャロンと陽子が頷いて答えた。
後はこの繰り返し。シンプルな作戦、だが単純な作戦ほど破綻しにくい。それが証拠に、発泡酒に釣られ誘き出された毛玉が1つ。
遡ること数分前。ふと芳しい香りが彼(彼女かも知れないが)の鼻を刺激した。この匂いは・・・・辺りを見まわすと作業場の戸口に、発泡酒が注がれたジョッキが置いてあるのが目に入る。
悲しいかな酒好きの性。一瞬の躊躇うが、さんざ暴れて騒いだ後の事。喉の乾きとと誘惑には勝てず、駆け寄ると一息で飲み干した。
−かはぁぁぁ−
至福の一瞬。後は野となれ山となれ。酒に誘われるがまま、工房の出口まで誘き出されるほろ酔い毛玉。
もう一杯もう一杯、戸口に置かれたジョッキに手を伸ばそうとしたその瞬間「美味しいお酒、いただき〜」唐突に飛び出してきた人間に酒を奪われた。
彼は突然の出来事に一瞬呆然とするが、1、2、3、きっかり3秒後。猛然と後を追い始めた。
「あそこじゃ中に逃げられるかも」そう考えた花朗は酒を奪い、グレムリンを怒らせて外に引っ張り出そうと試みたのだ。
彼女のアドリブは自身の技能と、酔っ払い小鬼が酒に気を取られていたと言う好条件により見事に決まる。
「来るよ」
次の瞬間、怒りに我を忘れたグレムリンが包囲の網に飛びこんできたのだ。だが既に迎撃の準備は完了していた。
「いきます」
即座に雪華が長弓「鳴弦の弓」を掻き鳴らす。神気を帯びた音色は破魔の力を宿し、邪の眷族を捕らえ束縛する。
「撃刀、落岩!」
鳴弦の弓に捕らえられ動きの鈍ったグレムリンに、大上段に構えたメグレズのセンチュリオンソードが、山頂から投げ落とされた巨岩の如き勢いで振り下ろされた。
−体が重い−
激痛のなかでグレムリンは思った。酒のせいだけではない、この耳障りな音が鳴り出してからムカムカする。この音を止めなければ。
そう判断した彼は、弓を掻き鳴らす奇妙な帽子の人間に狙いをつけ・・・・体が淡い光に包みこまれた。剣で切り裂かれた痛みとは別種の、存在を否定されるかのような衝撃。
シャロンは十字架を握り締めた。その視線の内に闇の眷族を真っ直ぐに捕らえ、聖なる言葉を解き放つ。
心正しき者には祝福の光、しかし闇の住人にとっては抗う事すら許さず裁きの雷となる、ホーリーの呪文がグレムリンに注がれる。
事ここにいたって小鬼に反撃の意志は無く。さりとて逃げる暇も与えられず、作業場グレムリンは無へと送り返された。
○井戸奪回作戦
作業場での作戦が予想以上にうまく運んだ為、休息もそこそこに次の場所へ向かった。
工房の井戸は敷地の裏庭に作られていた。屋外故に井戸以外で気をつけるべき施設は無いが、身を隠す場所も少ない。
「姿は見えませんが、お酒で井戸から引き離す準備はしておきましょう」
雪華が提案する。姿は見えなくとも井戸周りはずぶぬれで、元は積まれてあったであろう水桶も散乱している。ターゲットがいるのはまず間違い無い。
仲間達は異口同音に賛同の意を告げた。
「いきなり出てきませんように」
花朗が井戸に最初の1つを置こうとしたその時。
井戸へと近づく花朗を見ていた陽子の視界に、動く物が写った「水桶が浮いている」頭が理解するより早く叫ぶ。
「花朗さん横!」
花朗はその警告に即座に反応した、咄嗟に飛び退ると目の前を何かが掠める。
目標を外れた桶は少し先に落ちて水をぶちまける、一瞬遅ければ水浸しだけでは済まなかっただろう。
待ち伏せされた。状況を把握するや冒険者達は身を潜めていた場所から飛び出す。
−姿は見えないが、確かにいる−抜刀し、水桶が置いてあった場所へ駆け寄る者。
十字架を手に姿を探す者。
−姿が見えなくとも−弓を構える者。
「大丈夫ですか?」
体勢を崩した仲間に手を差し伸べる者。
「うん。ありがとうね陽子君、助かったよ」
人懐っこい笑みと素直な言葉に彼女は照れ笑いで応じた。
「何処だ! 」
水桶があった位置を薙ぎ払うが手応えは無い。何時までも同じ場所にいるほど甘くは無い、わかってはいたが他になす術もない。
あせる彼の耳に鳴弦の弓の音色が届いた、同時に−ぎぃ!−と言うかすかな鳴き声。「後ろかっ」振り向き様に薙ぎ払われた刀身が、虚空に何かを捕らえ弾き飛ばす。
−ばしゃ! −
自分が振りまいた水溜りに飛ばされ石畳の上を転がるグレムリン。未だ実体は見えないが、毛にからみついた汚れは十分に目標になり得る。
「慈愛の女神の御名の元に・・・・」
燐光を纏ったシャロンの力ある言葉が、光となってグレムリン(とおぼしき空間)を包む。苦痛に喘ぐ声が確実に敵を捕らえている、と言う実感と確信をもたらした。
陽子の体が一瞬、月の燐粉に包まれた。月の精霊魔法、眠りを誘うスリープの魔法だ。
「眠り誘う月の光・・・・」
空間が銀の光に包まれ姿無き小鬼を眠りに誘う。それは瞬きほどの僅かな時間、だが体勢を整えるには十分な時間だった。
○最後の一匹
「みんな大丈夫か? 」
小鬼が動きを止めた時には、攻撃を一手に引き受けていた聖騎士も引っ掻き傷をはじめ、小さな傷を負っていた。
「ええ、お陰様で無事です」
「私も大丈夫ですよ」
そう答えたものの、シャロンと雪華は精神力をつかいすぎて肩で息をしている有様だった。
苦戦の理由は有効打になり得る武器が、メグレズの剣とシャロンのホーリーだけだった事。それでも2匹目を仕留める事が出来たのは、鳴弦の弓の存在が大きかった。
しかし、掻き鳴らすだけとは言えその代償は只ではない。引き換えに魔法を使うのと同じぐらい、雪華の精神力は奪われていた。
「水を汲んできます」
陽子はせめて出きる事をと思い井戸へと向かう。
口にこそ出さなかったが皆、このまま3匹目を相手にするのは無理だと感じていた。
−キシャー−
裏庭から工房に繋がる戸口から叫び声が聞こえる。争いの物音を聞きつけたのか? 3匹目が姿を表したのだ。
花朗は効果が無いと知りながら無手で臨戦体勢を取る。メグレズも抜刀して仲間を庇うように立ちはだかった。
『私だって』
陽子は心の中で呟く。最初はパンと言う食べ物に馴染めなくて、故郷の食事を夢に見た事もある。やっとこちらの食事にも慣れて、一生懸命パンをつくっている職人さん達の役に立ちたくて参加したのだ。
「私だって」
もう一度、声にだして呟くと、陽子は相手をしっかと見据え呪文の集中に入った。
もともと責任感の強い性格だった、それが災いして過ぎた事ばかり気にしていた事もある。非力で魔法といってもスリープしか使えないけど、今やらなければ「絶対に後悔する」のがわかっているから。
−キシャァァ! −
敵から眼を離さず、グレムリンは甲高い叫び声を上げた。仲間への呼びかけだろうか? だとしてもその声に答える者は既に、いない。
時間にして数秒か数十秒か。単純な損得勘定だったかも知れない、もしかすると遊びつかれただけかもしれない。
睨み合いの末、最後のグレムリンは翼を広げ城外へ向かって飛び去った。
「終った、かな?」
「だとおもいます」
「うん」
『はぁ〜』
安堵の溜息が漏れる。一斉に。
○そして日常が始まる
「いやぁ、ありがとう! 本当に助かったよ。やっと仕事が出来る」
工房の主人は冒険者達一人一人の手を取って礼を述べた。
「また悪魔が現れないよう、祈りを捧げておきました」
その祈りに効果があるかはわからない。だがこれからの事まで配慮してくれた尼僧の、その気持ちが嬉しかった。
「そうかい。これからは仕事前にお祈りをしなくちゃな」
「でも、卵勿体無いよね。なんとかして食べられないかな?」
「はっはっは。大丈夫、使えそうなやつは俺達の朝飯にでにするさ。それにあんた達にはウチのパンをたらふく食って貰わなきゃいけないしな」
他愛も無い会話。そして今日もまたパン焼き釜に火が入り、キャメロットの一日がはじまる。