小悪魔狂騒曲 酒倉防衛・守れ高級酒

■ショートシナリオ


担当:熊野BAKIN

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 8 C

参加人数:7人

サポート参加人数:1人

冒険期間:02月15日〜02月19日

リプレイ公開日:2007年02月20日

●オープニング

●酒屋からの依頼
「ここ数日、少しづつだけど高価な酒ばかり盗まれているんだよ」
「なるほど・・・・という事は、今回の依頼はお酒泥棒を待ち構えて捕まえる、という事でしょうか?」
「よろしく頼みます」
 少しだけ寒さの和らいだある日、キャメロットでも指折りの酒屋から一つの依頼が舞いこんできた。単なる泥棒なら衛兵隊の領分ではあるが実はこの酒屋、以前にもギルドへ依頼を持ち込んでいたのだ。
 その折、冒険者達が極めて良い結果を出したので「またギルドにお願いしよう」という気になったらしい。良い仕事をすれば次に繋がる・・・・単純でごく当たり前の事だが、仕事とはかくあるべし。

「それで犯人に心当りはおありですか?」
 情報の有り無しでは仕事の手間や手段が変わってくる。より依頼の成功率を高めようと、受け付け担当は依頼人である酒屋の店主に問い掛けた。
「ある・・・・というか、あるからギルドに頼もうと思ったんだよ」
「・・・・もしかして」
「そう、そのもしかして」
「やっぱり・・・・」
 依頼人と受付け担当は同時に溜息をついた。

●受付け嬢改め
「それでは仕事内容を説明します」
 最近、冒険者への情報提供も業務になりつつある受付け嬢が口をひらいた。
「今回の依頼は、酒屋の倉庫に忍び込み高価な酒類を盗む泥棒を捕まえる、と言う物です」
 ここまでは張り出された依頼書にも書かれていた事だ、集まった冒険者達は一様に頷いた。
「それで犯人なのですが・・・・恐らくグレムリンです」
「質問。そう思う根拠は? 誰か姿を見たの?」
 あげられた質問に軽く頷くと、彼女は説明を続けた。
「大きな声では言えませんが、この酒倉は以前にもグレムリンに目をつけられた事があるんです」
 今回の件に直接関係あるかは不明だがこの酒屋さん、去年の秋頃2つある倉庫をグレムリンに占拠されてえらい損害を受けたらしい。
「実際のところ直接姿を見た人はいませんが、この位・・・・」
 自分の腰ぐらいに手をかざす。
「この位の位置で、見えない何かが酒瓶を運んでいるのが目撃されています」
 見えない何かが酒を運ぶところを見た・・・・おかしな表現だが、要は「何かがいた」という事実を言いたかったのだろう、と無理やり納得する冒険者。
「今回は主に比較的高価なお酒を置いている、御得意様用の倉庫で被害が出ているそうです」
 イコール倉庫の中で大立回りをしたり、派手に魔法を使う事ができないと言う事。
 「あと、これは参考になるかどうか解りませんが・・・・」前置きをいれてから、担当は話を続けた。
「お店の有志で犯人を捕まえようと、盗まれたのと同じお酒を餌にして待ち伏せをしたそうなのですが」
 「普通の酒屋の店員が?」 「デビルを?」 「待ち伏せって・・・・」
 担当は一同のリアクションを一通り確認してから結論を告げた。
「結局、犯人は現れなかったそうです」
 部屋に安堵の溜息が響く。偶然かはたまた幸運か、犯人が現れなかったのが幸いだった。相手が小悪魔とはいえ、危険極まりない行動だ。第一、一般人にあっさり事件を解決されては冒険者の商売あがったりだ。

 「と言う訳で」一同の視線がまた担当に集まる。
「私達、冒険者ギルドの出番です」
 彼女は満面の笑みで締めた。

●今回の参加者

 ea6484 シャロン・ミットヴィル(29歳・♀・クレリック・パラ・フランク王国)
 eb2933 ベルナベウ・ベルメール(20歳・♀・ファイター・人間・イスパニア王国)
 eb6621 レット・バトラー(34歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 eb7700 シャノン・カスール(31歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ec0290 エルディン・アトワイト(34歳・♂・神聖騎士・エルフ・ノルマン王国)
 ec1027 メイ・ホン(22歳・♀・クレリック・ハーフエルフ・イギリス王国)
 ec1219 ドラゴン・マスター(32歳・♂・バード・人間・ロシア王国)

●サポート参加者

ヒナ・ホウ(ea2334

●リプレイ本文

●それぞれの立場、それぞれの思惑
「私の立場上、デビルを見逃す事など出来ませんね」
 エルフのクレリック、エルディン・アトワイト(ec0290)は改めて自分の考えを告げた。上手くグレムリンを捕らえる事が出来たとして仮にも相手はデビル、口約束など信じられるはずも無い。と言うのが彼の主張だ。
 「俺もエルディンに賛成だ」レット・バトラー(eb6621)が賛意をしめす。
「第一、デビルをどうやって信じろって言うんだ?」
「でもでも!」
 至極当然なレットの意見に、最年少のベルナベウ・ベルメール(eb2933)が反論する。
「小悪魔さんにちゃんとおしえないとあぷだと思うの!」
 「あぷ」とは、「めっ!」 と同義らしい。意訳すれば「グレムリンに物事の善悪を教えなければいけない」という事だろうか?
「私も出きる事なら説得したいですね」
 エルフのシャノン・カスール(eb7700)が説得に票を投じる、とはいえ彼の説得プランは恫喝と紙一重ではあったが。
「私は・・・・成行き次第、ですね」
「そうですね。私も賛成です」
 パラの尼僧、シャロン・ミットヴィル(ea6484)とハーフエルフの尼僧、メイ・ホン(ec1027)が事の成行きを見守って、という判断を示した。
 はかった様に綺麗に票が割れた、とはいえそろそろ準備に取りかかる時間でもある。仲間内で揉めていたところで話は進まない、始まらない。結局は「捕らえてから」と言う事になりそうだった。

●細工は・・・・
「旦那ー、これは何処ですか?」
「それはこっちだ、こっちに運んでくれ」
「わかりやしたー」
 今日もまたお得意様用の倉庫に高級酒・貴酒の樽が運び込まれてきた。ここ最近、被害に合っているのは瓶詰めされた酒だったので、樽酒を保管する分には全く問題は無い。
 当然ながら、新しく入荷した瓶詰めの酒は別の倉庫に運び込んでいるが、既に保管されているモノを移動されずにこの倉庫に保管されている。全て移し変えては? という意見もあるにはあったが、1回あたりの被害が少ない為に見送られたらしい。

 暫くの作業が続いた後、店員たちは倉庫から出ていった。大手の酒屋とはいえ、ここは一部の「お得意様」の為の倉庫。一般向けのそれとは違い、1日の総量からみれば入荷数も出荷数もそれほど多くは無い。
運び込まれた樽の一つに「・・・・」全ての神経を聴覚に集中させているレットがいた・・・・もとい、入っていた。
 樽入りなのは何もレットだけではない。3つ隣の樽にはシャロンが、更にその2つ向うにはエルディン。そして入口付近に置かれた樽にはメイが、それぞれの樽に覗き穴をあけて倉庫の様子を伺っていた。ちなみにシャノンとべウの2人は倉庫の入口が見張れる部屋を借りて待機している。
 樽が運び込まれたのは昼過ぎ頃。酒泥棒が現れるのは夕方以降との事だったが、何時もと違う時間に搬入をすれば敵に怪しまれる危険がある・・・・4人の樽入り冒険者は、決して快適とは言えない潜伏場所で泥棒グレムリンを待ち構える事を選択したのだ。
 薄暗い樽の中では正常な時間感覚は失われる。酒蔵に運び込まれてから、幾度か店員が出入りして貯蔵していた酒を運び出していったが、本命の「見えない盗人」が現れる気配は無かった。

 それは日が沈みかけた時の事。ついに事態が動き出した。
 −きぃー 「・・・・!」 レットの耳に軋みが届いた、続いて何かが歩くような微かな音が聞こえる。同時に入口側に置かれたメイの樽が日暮れの残照に照らされた。
 (「来た・・・・」)樽に潜む一同に緊張が走る。
 丁度同じ頃、倉庫入口を見張る2人も倉庫の異変に気が付いていた。
「べウさん・・・・」
「うん」
 夕日の赤い光のなかで倉庫の扉が少しだけ開いたのだ・・・・当然あるべきはずの人影は何処にも見え無い。2人は顔を見合わせ頷くと次の行動に移った。

●立ちまわりとその顛末
 −かちゃっ、かたかた・・・・−
 倉庫の奥で何かを動かすような小さな音が響く。今日持っていく酒を吟味しているのだろうか?
 (「グレムリンの奴、タダ飲みかよ。羨ましい・・・・じゃなくて許せないな」)レットは思わず湧いて出た本音らしきモノを飲み込む。
 更に数分後、薄暗い倉庫の中を何かがふわふわと移動していく。よく見ると1本の酒瓶がまるで魔法にかかったように、低空を飛んでいるではないか。
 その光景を確認すると、シャノンはシャドウバインディングのスクロールを用意するが、相手が見えないままでは魔法は発動できない。よしんば目標になるような目印を付けられたとしても、倉の中で暴れられては元も子も無い。
 「もう少し、もう少しだ」自分に言い聞かせる様に呟いた。

「今です!」
 シャロンが扉を勢い良く開け放つ。と同時にベウが何かを倉庫の床目掛け、叩き付けるように投げ込んだ。
 −ぼふ−軽い音とともに白塵が舞い上がる。
「小麦粉玉さくれつだよー!」
 小さな海賊娘の嬉しそうな声が倉庫に響いた。ディテクトアンデッドの魔法でグレムリンの所在を感知したシャロンが扉を開け、それを切っ掛けにべウがお手製の小麦粉玉を投げ込む・・・・即席コンビながらも良いタイミングで決まった。
 もうもうと舞い上がる小麦粉が、宙に浮かぶ酒瓶ごと不可視の小悪魔を飲み込むと・・・・薄っすらと小さな白い影が浮き上がる。
 −だんっ−−どかっ− それを待ちかねたかの様に、様々な音がきっちり4つ響いて。
「コアギュレイト」
「シャドウバインディング!」
「コアギュレイト!」
 メイ、シャノン、エルディンの3人が放った束縛の魔法が、燻り出された白い輪郭目掛けて放たれる。が、何れの魔法も効果を発揮しない。
 シャドウバインディングが発動し無かったのは、小麦粉で薄っすらと輪郭は見えるものの今だ舞い上がる小麦粉に夕暮れの僅かな光が遮られ、魔法が力を発揮するような影がなかったためだ。だがメイとエルディンの2人が放ったコアギュレイトは・・・・幸運にも(冒険者にしてみれば不幸にも)グレムリンが両方の魔法抵抗に成功したらしい。
 「しまった!」 誰かが舌打ちする。
 連続して魔法を唱えようにも準備が整うまでブランクが生じる。せめて中には戻すまいとレットは仲間から借り受けた銀のナイフを構え、小悪魔の背後を塞いだ。

 後に4人、前には2人、単純な計算。グレムリンは引いて立てこもるよりも前に出て逃げることを選んだ。だが・・・・その行く手に夕暮れの紅い光を背に、一人の冒険者が立ちはだかった。果たしてその人物は? 
 べウはイシューリエルの槍を手に敢然と粉まみれグレムリンに対峙する。このまま小悪魔さんを逃がすわけにはいかない、たっぷりと「お説教」をして「いいこ」にしなければ「あぷ」なのだから。
「お酒はね、麦とかブドウとかをつくった人、ゲンリョウからお酒をつくった人、樽をつくった人、あとは・・・・」
 (間。暫時お待ち下さい)
「・・・・とにかく、たくさんの人の頑張りがあったから、今ここにあるの!」
 べウはきゅっと瞼を閉じ、盗人小悪魔さんに万感の想いを込めて言い聞かせる。
 突然の口上に一瞬グレムリンの動きが止まった。そこへ・・・・「コアギュレイト!」 「コアギュレイト」
「頑張ったゴホウビをあげなきゃダメなの!」
「今のうちに縛り上げよう。誰か手伝ってくれ」
「では私が」
 さすがに4度も幸運は続かず、グレムリンは−今だ白い輪郭しか見えないが−束縛の魔法に囚われた。魔法の効果があるうちにと、レットとエルディンが小悪魔をぐるぐる巻きに縛り上げてゆく。
「それなのに、おかねを払わないで盗んだでしょ!? あぷっ!」
「べウさん、もういいですよ」
「時間稼いでくれてありがとう御座います」
「・・・・あれぇ?」
 シャロンとメイに声をかけられて、ベウは目を開いた。数秒の間・・・・彼女にその気があったかどうかはさて置き、好連携が勝利に繋がった。
 ちょっと予定と違ったが、皆に誉めてくれるしまぁいいかな。「えへへ」ベウはにっこりと微笑んだ。

●祈りと美酒と
「何をしているんですか?」
 声をかけられたシャロンが振り向くと、倉庫の出入り口にメイが立っていた。
「再び悪魔が現れないよう、お祈りを捧げていました」
 パラの尼僧は答えた。実際その祈りにどれほど効果があるかわからない、それでも誰かの為に祈りを捧げる彼女はとても美しく思えた。メイは黙って横に並ぶと、静かに祈りを捧げた。

「いやいや、助かったよ。本当にありがとう!」
 それから小一時間ほど後、冒険者達は主の主催でささやかな慰労会が催されていた。
 提供された酒の全てが貴酒というわけでは無いが、ジャパンの酒などなかなかお目にかからないような酒もあり、飲める者は存分に宴を愉しんでいた。
「・・・・それにしても、済まなかったな」
 店主がぽつりと呟くように謝罪した。
「なぁに仕方ないさ。第一、俺は最初からそのつもりだったしね」
 レットは勤めて明るく答えた。それはグレムリンを捕らえた後の事。仲間内で話を蒸し返すよりはと、小悪魔の処遇を依頼主である店主に判断を委ねたのだ。
 「後味が悪いだろうが、処分して欲しい」との返答を受け、小悪魔を彼等の世界へと送り返したのだ。
「俺も商売人だ。出来た損失をどうこう言うつもりはないが・・・・」
 主は噛み締める様に語る。
「ルールを無視する輩には、それなりのペナルティを受けてもらわなくちゃならない」
「わかっていますよ。俺達も仕事ですから気にしないで下さい」
 シャノンはジョッキを掲げて主に答えた。
 でも・・・・今夜の酒が少しだけほろ苦く感じるのは、気のせいだろうか。