リバーサイド・ストーリー 少女と小熊

■ショートシナリオ


担当:熊野BAKIN

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 52 C

参加人数:4人

サポート参加人数:2人

冒険期間:02月22日〜02月27日

リプレイ公開日:2007年02月28日

●オープニング

●小さくて大きな問題
「なんとか子供達を説得して、あの小熊を母熊の元に返してもらえないかねぇ?」
「なかなか手強い相手ですね」
 ジェイソン夫人の溜息混じりの依頼に、受付け担当は苦笑混じりに答えた。事もあろうに今回の難敵は他ならぬ、村の子供達だというのだ。

「3日ほど前、娘のマリアが1匹の小熊を拾ってきちまったんだよ」
 冬の間、熊は冬篭りをしているのだが、実は母熊が子供を産むのも冬篭りの間なのだそうだ。
「小熊ってのは母親から離れないモンだけど・・・・村の男どもみたいに、よっぽど落ち着きの無い子だったんだろうねぇ」
 ふらふらと巣穴の出口付近まで出てきたところを、村の子供達に見つかってしまったらしい。
「それで・・・・ギルドに仲裁を頼む理由は何処にあるのですか?」
 子供が動物を拾ってくるというのは良くある話−熊は滅多に無いだろうが−で、家庭で解決すべき問題であろう。ましてや村で一目置かれているジェイソン夫妻、子供の我が侭など一睨みで消し飛んでしまいそうなものだが・・・・
 「それがねぇ・・・・」ここで溜息を一つ。
「ウチの亭主ときたら娘にはべた甘でねぇ、「マリアのお願いなら」とでも言いかねない有様さ」
「何処の父親も娘さんにはかないませんか」
 ・・・・いや。どんなに甘くたって、いくら何でも普通の父親は「熊を飼っても良い」などとは言わないか。
「それでおかみさんはどうなんです?」
 父親に通用したからといって、母親に通じるというものではない。現に助っ人を頼んでまで、小熊を母熊の元に返そうとしているではないか。
 「私かい? 私はねぇ・・・・」少し言葉を選んで、おかみさんは話を続けた。
「私だって飼えるものなら、良いと言ってやりたいさ。でもねぇ、今は小熊でも2年もすりゃぁ立派な熊だ」
「・・・・」
「もし大きくなった熊が誰かを傷つけたりしたら、傷つくのはその人だけじゃ済まないからね・・・・」
 その目は悲しげで、でも・・・・暖かいな、担当はそう感じた。

 「そりゃぁ腕ずく力ずくなら何とでもなるさ」おかみさんは素直に認めた。
「でもねぇ・・・・相手が子供だからって、なんでもかんでも頭ごなしじゃいけないと思うんだ」
「なるほど」
「そこで、だ」
 受付け担当の同意を引き出したところで、一気に畳み掛けるおかみさん。
「説得するにも村のことしか知らないあたしらより、色々な経験をしているあんた等の方が説得力があるんじゃないか、と思ったんだよ」
 一概には言えないが・・・・まぁ冒険者という存在は、純粋に力や外の世界に憧れる子供達にとっては「カッコイイ」存在、と映るかもしれない。
「どうだろう、何とか頼めないかねぇ?」
 必要とされれば力になるのが冒険者という職業。
「わかりました。人手が集まるかはわかりませんが依頼を張り出しておきます」
「すまないね。何時も通り礼金は少ないけど、食費はこっちで持つからさ」
 「・・・・わかりました」まぁ予想はしていたが。

●子供の事
 ・マリア・ジェイソン(11歳)
 ジェイソン家唯一の娘。ダウンサイド(川を隔ててキャメロットから遠い側)の子供達の纏め役的存在。小熊を連れて馬小屋に立て篭もっている。性格は頑固で意地っ張りだが、おかみさんに似て面倒見のいい娘。

 ・ローワン・スミス(13歳)
 スミス家の三男。アップサイド(村の中で、川を隔ててキャメロットに近い側)のガキ大将的な存在。マリアがどこで小熊を拾ったかを知っているらしいが、どうしてもその場所を教えようとしない。

「事情を知っているのは2人だけですか?」
 名前があがった2人の事を書きとめると、担当は尋ねた。
 「いや、そう言うわけでもないんだけど・・・・」おかみさんは苦笑いを浮かべながら答えた。
「この2人を説得出きれば、手っ取り早いって事さね」
 まぁ息子ならともかく娘がガキ大将というのは、さすがのおかみさんでも悩みの種・・・・という事だろうか。

「成行きで強引にって事になったとしても、それはそれでしょうがないと思っているから、気にしないでおくれな」
 最後に一言いい残すとおかみさんはギルドを出ていった。それは・・・・
「子供達が自分で気が付いてくれたら、それが一番なんだけどねぇ」

●今回の参加者

 ea9589 ポーレット・モラン(30歳・♀・クレリック・シフール・イギリス王国)
 eb3333 衣笠 陽子(26歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb5295 日高 瑞雲(34歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb9534 マルティナ・フリートラント(26歳・♀・神聖騎士・人間・ノルマン王国)

●サポート参加者

アルンチムグ・トゥムルバータル(ea6999)/ リースフィア・エルスリード(eb2745

●リプレイ本文

●外堀から
「でもなぁ・・・・」
「お父さんがそんな風ではダメなんです」
 村1番の巨漢が少女にたしなめられる、という珍しい光景が展開されていた。その巨漢はマリアの父親ロイド・ジェイソン。ジェイソンの巨躯を前に一歩も引かず、真正面から理を尽くして説得しているのは異国の出で立ちをした少女、衣笠陽子(eb3333)だった。
「小熊が可愛いというのはわかります。でも、2年もしたら親熊と変わらないくらい大きくなってしまうんですよ?」
 彼女の国でも熊はいた、母熊について廻る小熊の愛らしさに目を奪われた事もある。もし自分がマリアの立場であれば彼女と同じく連れ帰ってしまったかもしれない・・・・だけど。
「お父さんがしっかりと教えるべきだと思います、娘さんの事を本当に大事だと思うなら!」
 聞けば4人兄妹の末っ子、しかも初めての女の子だという。父親にしてみれば可愛くて可愛くて、まさに目に入れても痛くない存在なのだろうが・・・・だからこそ。
「ダメな事はダメだと教えてあげる。それも父親の務めでは無いですか?」
「うぅむ」
 持ち前の責任感が廻りだした。「納得してくれるまで説得し続ける」陽子の説教・・・・もとい、説得は始まったばかりだった。

●命を所有するという事
「お前等、俺と勝負してみねぇか?」
 寒空の下でもろ肌脱いだ、日高瑞雲(eb5295)は子供達に持ちかけた。
 異国の剣士は、布を丸めたボールを足で軽快に捌いている。フットボールで子供達と打ち解け、協力を取り付けようという思惑だ。
「勝敗はそうだな・・・・先に得点した方が勝ち、ってのでどうだ?」
 「今思えば、言葉がたりなかったな」後に瑞雲語る。
 子供達が顔を見合わせにやっと笑うのが見えた。ふと嫌な予感がして「ちょっと待・・・・」確認しようとした瞬間・・・・「わーっ!!」 「ちょ、ちょっと待てー!」 堰を切ったように十数人の子供達が瑞雲目掛けて一斉に飛びかかった。
 後日、本人語る「直接攻撃は禁止って言っとくべきだった」

「兄ちゃんはマリアの事で来たんじゃないのか?」
 十分ほど後。まさか子供相手に本気を出すわけにもいかず揉みくちゃにされ、横たわる瑞雲に一人の少年が問いかけた。
「ああ、そうだよ。おめーらにも手伝ってもらおうと思ったんだがな」
 ここだけの話。計画は頓挫したが、途中から勝負そっちのけで子供達との取っ組み合いを楽しんでいた。
 「牛とか羊はいいのに、なんで熊はダメなの?」 「バカだな、熊は危ないからに決まってるだろ」「でもトム爺さんとこの犬だってでっかくて怖いよ?」
 やはり小熊の件は子供の間でも話題だったらしく、あっという間に白熱した議論が始まった。瑞雲はその様を面白そうに眺めていたが、おもむろに−ぱん!− 一つ、手を打つと子供達の注意を集めた。
「実は俺も熊を飼っててな」
 思わぬ告白に一気に引きこまれる子供達。
「ついこの前までちっこくて可愛かったんだが、あっという間にでっかくなってな・・・・でかくても可愛いに違いはないんだが」
 にかっと笑う。
「でかくなった分、力も強くなった。本人はじゃれてるつもりでも、人なんか簡単に怪我させちまうくらいにな」
「もしお兄ちゃんの熊さんが、誰かを怪我させちゃったらどうするの?」
 一人の少女が恐る恐る質問した。瑞雲は少し考えると、再び口を開いた。
「もしアイツが人に怪我をさせたら・・・・もしも誤まって誰かを殺してしまったら」
 瑞雲はあえてより厳しい状況に切り替えた。ここにいる彼等には少し早い話かもしれない、だが何時かは誰かが言うべき事だ。このタイミングで俺がここにいるのは何かのめぐり合わせかもしれない。
「俺は自分の手でアイツを斬る」
 衝撃的な決意に、誰一人言葉を発することが出来ない。
「そしてヤツの罪を俺が背負うつもりだ。熊だけじゃない、命を育てるって事はそれぐらいの覚悟が必要なんだ」
 あまりのショックにすすり泣きすら聞こえる。我ながらひでぇ事を言ったな、自覚はあった。だが何時か理解して欲しい、命を背負うという重さを。
「難しい話は終りだ、みんな肩車してやっから泣くな」
 瑞雲はそう言うと涙を拭う少女の頭を優しく撫でた。

●ほのかな恋
 この時、ローワン・スミスは人生最大級の困惑を味わっていた。突然現れたシフールの冒険者が自己紹介もそこそこに、とんでもない事を言い出したからだ。
「白の母様とジーザス様の御名において質問よっ!」
 ロザリオを取りだし、びしぃっと決める小さな冒険者。ここまではいい、問題はその質問の内容だ。
「ズバリ! マリアちゃんのコト好きでしょ?」
「なっ、何いっうんだよっ!?」
 にへら。そう言う疑問が似合うような表情を浮かべ、ポーレット・モラン(ea9589)「図星ね」と確信した。
「違うの? じゃぁマリアちゃんに教えてあげなくちゃ。ローワン君はマリアちゃんの事が嫌いだって」
「ち、ちが、そんな事言ってないだろ!」
「じゃぁ好きなのよね?」
 かなり大人気無い気がするがこれも彼等の将来の為、彼女も心を鬼にしているに違いない。まさか楽しんでなんていない筈だ。
 「・・・・」こくん、ローワンが頷く。
「いつかはお嫁さんに、なんて思ってたり? でもそれは小熊ちゃんだって一緒よね〜」
 痛い所をちくちく攻められ反論の余地も無い少年。口調こそ軽く、日常会話のようなトーンではあったが、「思いやり」という大切なモノを教えようとしていた。
 小熊の将来の事、マリアだけでなく彼女の両親の事。
「考えてみて。もし貴方が姿形も違うイキモノの中で一人ぼっちだったら」
 小刻みに震えるローワンを真っ直ぐみつめ、小さな先達はなおも語りかけた。
「どんなに大事にされてても、貴方は幸せ?」
 子供とは想像力が豊かな生物だ。扉の影に幽霊を生み出せば、朝日の中に英雄を見出す事もある。引け目があるローワンであればなおさら。

 ポロポロと涙をこぼす大きな少年を、ポーレットは優しい眼差しで見守っていたが、頃合を見て優しく諭す。
「熊ちゃんをお母さんの所に帰してあげましょ、私達も付き合ってあげるわ〜」
 こくん。彼は一つ、頷いた。

●大切なモノを想う心
「マリアちゃん、聞こえますか?」
 少女が小熊を連れて立て篭もった馬小屋に訪れたのは、マルティナ・フリートラント(eb9534)だった。中からの返答は無いが、ある意味「反応が無い」事が聞こえている証拠、と言えるかもしれない。
 返事が無いであろうとは予想していたし、別段問題があるわけでもない。マルティナは気にせず先を続けた。
「マリアちゃんはどうして小熊を連れて帰ってきてしまったのですか?」
「・・・・」
 返事は無い、が。微かに音−藁を踏みしめるような、微かな−が聞こえたような気がする。少なくとも立て篭もり少女が泣きつかれて寝込んでいる、という事も無いらしい。
 「少々大人気無い気もしますが・・・・」彼女は苦笑いを浮かべながらも、本格的な交渉に乗り出した。

 マルティナはジェイソン夫人から借りた人形に目を落とす。「マリアの大事にしているモノ」を貸して欲しいという彼女の申し出に、おかみさんが持ち出してきたのはお世辞にも上出来とは言えない、この手縫いの人形だった。
「それはねぇ、ウチの亭主が娘の為にって、一週間もかけて縫い上げたモンなんだよ」
 あの巨体でちまちま針仕事・・・・とても無理だと何度も言ったのだが「女の子には木馬より人形の方が良い」と、とうとうおかみさんを口説き落としたらしい。
 おかみさん曰く「何枚も布を無駄にして、何本も針をひん曲げた」苦心の作との事。そんな父親の心を知ってか知らずか、マリアはこの人形無しでは眠れないほど気に入っているそうだ。
 その人形を手にマルティナは少女に声をかける。
「もしマリアちゃんが可愛いと言うだけの理由で小熊を連れてきてしまったのなら。私もマリアちゃんの大好きな人形を気に入ってしまったので、貰ってもいいでしょうか?」
「やだっ! それマリアの大切なお人形だもん、絶対にダメ!」
 初めて反応らしい反応が返ってきた。
「そうですよね。では、大切で可愛い小熊を連れ去られてしまった母熊は、どんな思いをしているでしょうか?」
「・・・・」
「大切なモノを思う気持ちは人間も動物も変わらない、そう思いませんか?」
 返答は無い、それでもマルティナ粘り強く待った・・・・と。
「あら?」
 背後に気配を感じて振り向くと1人の少年が立っていた。ポーレットが付き添っている所を見ると彼がローワンなのだろう。
「マリア・・・・小熊を帰しに行こう、きっとお母さん熊が心配してる。みんな橋の所で待ってるよ」
 これが決め手になる。根拠は無かったがマルティナはそう確信した。

●母と娘、親と子
「お嬢ちゃん、皿を持ってきとくれ」
「はい」
 陽子がぱたぱたと大皿を運ぶ。本当は皆と一緒に小熊を帰しに行くつもりだったのだが、おかみさんの指名で夕食の準備を手伝っていた。
「そういや、黒髪のお兄さんは大丈夫だったかい?」
 自分から言った手前、村中の子供を肩車する羽目になった瑞雲の事だろう。
「大丈夫そうでした・・・・ちょっと腰を気にしてましたけど」
 陽子はくすっと思いだし笑いをしながら答える。
「そうかい。それじゃぁ帰って来たらたらふく飲ましてやらなきゃね・・・・」
 少しだけ沈黙が訪れた後。
「皆には感謝してるよ、ありがとう」
「私は旦那さんを説得していただけですから・・・・」
「娘に大甘な亭主の尻を引っぱたいてくれたんだ。感謝してるよ」
 別に謙遜したわけでは無いのだが、陽子は頬を赤らめて俯いた。

「そろそろ子供達が帰ってくる頃ね。仕上げに入ろうかね」
「あ、はい」
 子供達。その中にはきっと私達も入っているのかな・・・・異国から来た娘はふとそんな事を考えた。