●商人の息子 初めてのお使い?
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■ショートシナリオ
担当:熊野BAKIN
対応レベル:1〜5lv
難易度:普通
成功報酬:1 G 35 C
参加人数:7人
サポート参加人数:-人
冒険期間:03月15日〜03月20日
リプレイ公開日:2007年03月20日
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●オープニング
●直々の依頼
「ギルドへの依頼はこちらで宜しいのでしょうか?」
「はい、ここで受けたまわっております・・・・まぁ」
冒険者ギルドで毎日の様に繰り返されている光景。何かしら悩みや難題を抱えた依頼者達・・・・ある者は念の為に、ある者は藁にもすがる思いで辿りつく場所である。
そして今回の依頼人は、キャメロットでも有数の商家の跡取り息子にして街の噂に上るほどの美少年、レイモンドだった。迂闊にも一瞬、その容姿に目を奪われたがすぐに立ち直って自分の仕事に取りかかる担当。
「本日はどのような依頼でしょう?」
●荷物護衛
「キャメロットから3日ほど離れた村に荷物を届ける事になったのですが、その荷物の護衛をお願いしたいのです」
「失礼ですが、その荷物と言うのは護衛が必要なほど高価なモノなのでしょうか?」
荷物の価値次第で仕事の危険性がかなり変わる。極端な話、2〜3人のならず者が待ち構えているのと山賊が束になって襲ってくるのでは、依頼の趣旨そのものが変わってしまう。
「荷物自体は食品や嗜好品です。なんでも村長の息子さんが結婚をするとかで、その宴席に出される物です・・・・まぁ普通の品に比べれば値は張りますが」
「食料に護衛、ですか?」
たかだか村の宴会で消費される程度の食料品に、わざわざ護衛をつけるというのはいかにも割にあわない話だ。
「実は・・・・商品ではなく、道中に問題があるんです」
「その問題とは?」
「ここ最近村の近くでゴブリンが目撃されているらしいのです」
「ゴブリン、ですか」
駆け出しの冒険者でも充分に撃退できる相手だろうが、心得の無い一般人にとっては脅威に違いない。
「まだまだ見習ですが私も商人の息子です。もしもを考えてお願いにあがりました」
「わかりました。護衛募集と言う形で人を募ります・・・・なにか追記する事はありますか?」
受付け嬢は文面を考えながら依頼人に何か補足事項は無いか聞いてみる。レイモンドは少し考えると答えた。
「荷物は5頭の驢馬に乗せて運搬します。荷馬車が使えればいいのですが、雪解けで道の状態が悪いようなので驢馬を使うことになりました。それと・・・・」
「それと?」 鸚鵡返しに問う。
「この荷には私が同行します。これも修行ですので」
依頼人の安全確保。この一行が即座に草稿に付け加えられた。
●リプレイ本文
●悪路と
「なるほど。これは馬車で行くには厳しいですね」
フライングブルームネクストに跨ったエルフの青年、シャノン・カスール(eb7700)が呟いた。彼も言ったように一行が進む予定の道は、溶けかけた雪もあいまってちょっとした湿地のようになっている。もし荷を積んだ馬車が通ろうものなら、確実に車輪が取られ行くも帰るもままならない状態になった事だろう。
「大丈夫、落ちついて。そう・・・・ゆっくりでいいですよ」
アイオン・ボリシェヴィク(eb8972)は一頭の驢馬に声をかけた。驢馬が足もとの悪さに驚いて荷を落としたりすれば、本末転倒。馬車と言う選択肢を捨てた依頼主の判断が水の泡に帰す事になる。
「こちらの方がいくらか足場がいいですよ」
同じく驢馬の手綱を引いていた、マルティナ・フリートラント(eb9534)がアイオンに呼びかける。
「出るかわからないゴブリンよりも当面はこちらが問題ですね」
彼女の隣で荷の具合を調べていた、華月下(eb9760)が苦笑いを浮かべる。祝いの品だけに届ければそれで良しと言うわけではない。
「慎重に行きましょう」彼女・・・・もとい、彼は一同に声をかけた。
「ああもう! 小さいとこうゆう時に不便よね」
愚痴った所で前に進めるわけでも無いが、神楽絢(ea8406)はぬかるみの中で前進の努力をしていた。パラの彼女にとっては、この悪路は湿地どころの騒ぎではない。額に汗を浮かべながら慎重に次の足場を探していた。
「大丈夫ですか?」
その姿をみかねて、ラシェル・ベアール(eb7300)が手を差し伸べるが、当の絢は・・・・
「あ、平気へーき。その代りレイモンド君をお願いね」にっと笑って答えた。
何せこの仕事が無事終れば、お楽しみの宴会(本来、結婚式がメインのはずだが)が待っている! そう思えばこの程度の苦労は彼女にとっては酒の前の一仕事、お酒を美味しく頂く下準備のようなモノだった。
●遅い昼食と
「この辺りで一休みしましょう」
昼をかなりまわった頃、朝から続いた悪路がようやく途切れた。泥道に悪戦苦闘した一行の疲労も考え、レイモンドは休息を取る事にしたようだ。
「・・・・」
「どうかしましたか?」
何やら微笑ましげな表情で少年を見つめるアイオンにシャノンは声をかけた。
「いえ・・・・何度もレイモンド君に係わったせいでしょうか、何だか彼の成長を見守っているような気がしまして」
そんな感傷に浸る歳でも無いし、それほど長くレイモンドと一緒にいたわけでも無いが、その気持ちはシャノンにも何となく理解できるような気がして。
「・・・・将来が楽しみですね」ぽつりと答えた。
「はい、レイモンドさん」
月下は干し肉と塩で味付けしたスープをレイモンドに差し出した。それは味気ない保存食だけではなく、暖かい物を食べさせてあげたいという月下の思いやりからの行動だった。
「ありがとう御座います」
嬉しそうな表情を浮かべた少年は木製のカップを受け取る。雪が溶け始めたとはいえ本格的な春はもう少し先。冷たい風の下でぬかるんだ道を歩き続けた体には、暖かいスープは何よりものご馳走だった。
「皆さんもどうぞ」
次の器にスープを満たすと仲間に声をかけた。
●小鬼と
休憩を終え、再び悪路へ踏み入った一行に新たな厄介事が近づいていた。
「おいでなすったわね」林の下草が明かに風とは違う揺れ方をしている・・・・絢は目ざとくその小さな異変を見つけると、すぐさま号令を発した。
「前方の林に何か潜んでるっ、驢馬を集めて!」
「レイモンドさんは、私の側にいて下さい」
月下は絢の警告を受け、レイモンドに駈け寄ると彼が牽いていた驢馬と共に後方に下がると、ホーリーフィールドの魔法で聖なる結界をはった。今回守るべきは荷物だけではない、雇い主であるレイモンドも含まれているのだ。
その間にアイオンは他の驢馬を一ヶ所に集め、マルティナとラシェルはそれぞれの武器を構えて迎撃態勢を取った。
−ぎぃぃぃ!− 獲物を目の前にして我慢できなくなった仲間が茂みから飛び出した。
ここ数日間、彼等はまともな食事にありつけていなかった。俊敏と言うわけでもないゴブリンに野兎や狐はすばしこ過ぎるし、熊では相手が強すぎる。結局のところ人間を襲うのが最も手軽で、確実に食事にありつける方法なのだ。
しかし彼等には2つの誤算があった。1つは泥道に気を取られ、警戒の疎かになった人間を襲おうと思っていた事。そしてもう一つは、襲う相手が自分たちより強いとは夢にも思わなかった事。
「・・・・」
束の間の集中の後、シャノンはスクロールに秘められた魔法・ライトニングサンダーボルトを解き放った。伸ばした掌から閃光が放たれ、茂みから飛び出したゴブリンを打ち据える。
−ぎゃぁ!−
致命の一撃とはならないものの、思わぬ魔法の攻撃に浮き足立つゴブリン達。
「そう思い通りには行かせませんよ」
新たなスクロールを手にシャノンはゴブリンを見据えた。
「まだまだ未熟ですね」
マルティナは歯を食いしばりながら2匹のゴブリンを食い止めていた。騎士としての修行を欠かした事は無いが、彼女の剣の腕は傍目から見ても甘さが残る。グッドラックの祝福で辛うじて均衡を保っているものの、いつまでも持つモノではない。
「ブラックホーリー!」 −げひゃぁ!−
突然1匹のゴブリンが苦悶の表情を浮かべ悲鳴をあげた。
「アイオンさん?」
思わず声の主を呼ぶマルティナ。
「大丈夫。私達がいます」
黒のクレリックの声は戦いの場とは思えないほど落ちついていて、マルティナの胸に強く響いた。
「え・・・・?」
礼を言おうとしたその瞬間、不意に心の底から燃え上がるような闘志が湧き上がる。彼女は知るべくも無いが、それは炎の精霊魔法・フレイムエリベイションの力。
「そう言う事です」
振り向くとシャノンがスクロールを手に微笑んでいた。一人で戦っているのではない、彼女にとってはその想いが何にもかえ難い援軍だった。
『どんなに奇麗事を並べ立てようと武器は凶器。ですが・・・・使い方次第では命を奪わずに勝つ手段はあります』
ラシェルは無益な殺生を好まない性質だった。それは猟師という生業も影響していたかもしれないが、ともかく彼女は相手が誰だろうとその命を奪うことなく事を納めようと思っていた。
「力の差を見せつける事が出来れば・・・・」
魔弓ウィリアムを構え、一つ深呼吸をする。ただでさえ一回り小さいゴブリンの手足を狙おうというのだ。魔弓の力があるとはいえ容易な技ではない。
静寂、戦いの喧騒が嘘の様に遠のく。狙うべき的の動きがスローモーションのように緩やかに見え・・・・そして。
−しゅか!− −ぎゃぁあぁっ!− 足を射抜かれた小鬼が泥道を転げまわる。
「・・・・ふぅ」
同じ事をもう1度やれ、と言われても確実にこなす自信は正直なところ、無い。だが1度目の前で起った事実は絶対の説得力を発揮する。それが証拠に、小鬼達から戦意が失われていくのが見て取れた。
●そして宴会と
「さぁ皆、今日は存分に楽しんでくれ!」
滞り無く婚儀が終った事も手伝ってか村長は上機嫌で宴の開始を告げた。それと同時にわぁっ! と歓声があがる。こんな農村での楽しみと言えば、収穫祭か結婚式ぐらいのモノだ。それに村長の大盤振る舞いが重なったとあれば、盛り上がらないはずが無い。
「シャノンさん、華さん行くわよぉ! せぇの、飲酒サイコー!!」
冒険者サイドの宴会隊長こと絢は、わかるようなわからないような檄を飛ばすと、わき目も振らず発泡酒の樽へ突進した。ある意味、彼女はこの時の為に泥道と格闘し小鬼を蹴散らして来たのだから。
「はいはい、あまりハメを外さないで下さいね」名指しで呼ばれたシャノンは隊長の後を追った。
その頃、月下はというと「お姉さんも遠慮せずに飲んだ飲んだ!」 苦笑いしながら、押しつけられた振るまい酒を受けとっているところだった。
「ありがとう御座います。あの、良く女性に間違われますが僕は男ですので・・・・」
「そうかい、そいつは悪かったねぇ・・・・ささ、ぐっと空けて。お代わり自由だよお姉さん」
この親父。聞いちゃいねぇ。
「宴に行かれないのですか?」
村の教会で夕べの祈りを捧げていたマルティナは声の主に振り向いた。
「私は聖なる母に仕える身、休む場所を提供していただければ充分です。それに・・・・」
声の主・・・・レイモンドは彼女の次の言葉を待った。
「それに報酬は頂いていますし」
その答えにレイモンドはにっこりと微笑んで言った。
「あれはキャメロットと村の往復に対しての報酬でし、この宴は新郎と新婦の門出を祝うものです。きっと神様もお目こぼし下さるのではないでしょうか?」
驚いたような表情を浮かべ、マルティナは年若き商人の顔を見つめた。自分が宴に加わっていないのに気付いた事といい、理路整然とした反論といい。
「親の威光を継ぐだけの人・・・・ではないようですね」
祈りが終ったら宴に出席する気になった。新しい夫婦と、前途有望な若者に聖なる母の祝福を授ける為に。