恐怖の森 夜明けの刻

■ショートシナリオ


担当:熊野BAKIN

対応レベル:6〜10lv

難易度:普通

成功報酬:3 G 40 C

参加人数:8人

サポート参加人数:2人

冒険期間:03月25日〜03月31日

リプレイ公開日:2007年03月28日

●オープニング

●災いの芽
「そろそろ森にも冬篭りから覚めた動物が出てくる頃だ。それを狙って近隣のハンターも頻繁に森に入るだろうからな」
「新たな被害者・・・・というよりも犠牲者が出るのを防ぎたい、と言う事ですか」
「うむ」
 ギルドの窓口で受付け担当と話しているのはいつぞやの衛兵隊の隊長だった。衛兵がギルドに仕事を持ちかけるというのは珍しい事ではない。
 相応の報酬を支払えば有能な人材を雇う事が出来る冒険者ギルドと言う存在は、合理的な思考概念を持っている人物ならば充分に選択肢の一つになりうる。もっとも面子や体面と言う、俗でいかにも人間的な心因がなければ・・・・の話ではあるが。

「それでは依頼内容を確認します」
 そういいながら受付け嬢は頭の中で依頼を整理し、要約する。特に依頼人からの修正が無ければこの方向で依頼書が製作される事になる。
「調査及び討伐依頼。依頼者指定の森に赴き、その森の調査を行う人員を募集中。なお、調査対象はグールもしくはそれに準ずるアンデッド」
「現地までの足は各人で用意してもらうが食費は我々が持とう、出発までに用意しておく」
 そう言うと少しの間考え、隊長はさらに付け加えた。
「今回の依頼はアンデッドの有無を確認し、発見した場合は排除する所までだ。それ以上は望まない」
 「・・・・承知しました」調査が終った後、その結果次第では正式に調査隊が組まれる・・・・そんなところかな、担当は言葉にせず呟いた。
 この人物は自分の手柄に拘るタイプではない、数百を越える依頼人を見てきた担当の評価だ。とすれば事件の完結までを望まないのはどう言う事だろうか? ・・・・そこで彼女は思考を止めた。
 ここは冒険者ギルドだ。依頼人の望まぬ事をするべきでは無いし、依頼に不要な事を詮索すべきではない。
「この内容ですと、グールがいた場合といなかった場合で報酬額が変わる可能性がありますが」
「うむ。結果次第では割増の料金を支払う用意がある」

●求む、冒険者
「こちらの依頼ですか?」
 依頼書を見てた冒険者に担当が何やら説明をしている。
「先月の事ですが、とある森にグールが発生すると言う事件がありまして・・・・」
 その折、森に取り残された弟を助け出して欲しいという依頼が出された。その時は数匹のグールを退治し、少年を無事救出して事無きを得たのだ、が。
 救助が依頼目的だった為、今もグールが徘徊している可能性があるというのだ。
 「つまり」担当は続けた。「森の調査とグールを発見した場合それの排除、が依頼の趣旨です」
 グールか・・・・誰かが呟いた。アンデッドに分類されるが、その動きはズゥンビなどよりも遥かに俊敏で強力な相手だ。
 「まぁ」考えこむ冒険者を横目に告げる。
「グールがいるかどうかもわかりませんが、春になれば森に入る人は増えますよね。潰せる可能性は早めに潰しておいた方がいいですしね」
 受付け嬢はにこやかに微笑んだ。

●今回の参加者

 eb1004 フィリッパ・オーギュスト(35歳・♀・神聖騎士・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb3333 衣笠 陽子(26歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb6621 レット・バトラー(34歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 eb7692 クァイ・エーフォメンス(30歳・♀・ファイター・人間・イギリス王国)
 eb8175 シュネー・エーデルハイト(26歳・♀・ナイト・人間・フランク王国)
 eb8646 サスケ・ヒノモリ(24歳・♂・ウィザード・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb8942 柊 静夜(38歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 eb9033 トレーゼ・クルス(33歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)

●サポート参加者

エルディン・アトワイト(ec0290)/ ランデル・ハミルトン(ec1284

●リプレイ本文

●不安は当たるモノ
「やぁぁぁっ!」
 転倒したグール目掛けて、シュネー・エーデルハイト(eb8175)はホーリーパニッシャーを振り下ろした。骨と肉を打ち砕く感触とともにグールは動きを止める。それを確認してシュネーは樹上の青年に盾を携えた左手を振った。
 サスケ・ヒノモリ(eb8646)は軽く手を振って答えると、するすると幹を伝わって地上に降りる。グラビティキャノンは効果の及ぶ限り敵味方関係無く効果を発揮してしまう魔法だが、今回は上手く行ってくれた。思わず安堵の溜息がもれる。

「前回は救助優先だったからしょうがなかったけど、調査に来て正解だったね」
 長弓を背負いなおして、クァイ・エーフォメンス(eb7692)は意見を述べた。彼女は以前の救助依頼にも参加していたので、この森に訪れるのは2度目になる。
「そうですね。でも今回はしっかり調査をして、残らず排除しましょう」
 衣笠陽子(eb3333)はそう応えた。彼女も救助に参加していただけに気合が入っているようだ。
「グールとは中々に手強い亡者ですね」
 柊静夜(eb8942)は素直な感想を述べる。初めてグールと対峙したがその打たれ強さと俊敏な攻撃には正直驚かされた。今回は1匹だったので誰一人深手を負うことなく勝利を収めたが、もし複数のグールと遭遇したら・・・・
 「もう死んでるから倒れるまで動きは鈍らないし、恐ろしく打たれ強いわ。注意してね」事前に聞いたクァイの忠告も実物を見た今なら、充分に理解できた。
「手分けして調査をしなくて正解でしたわね」
 そんな静夜の考えを汲み取ったかのように、フィリッパ・オーギュスト(eb1004)が会話に加わる。彼女は最初から「調査のみ」と区切られたこの依頼を不審に思っていた。
「そうね、地道に埋めて行きましょう」
 そう言うとクァイは森の簡単な見取り図を見て、これからの行程に思考を向けた。

「手伝っても良いか?」
 レット・バトラー(eb6621)はスコップを手に黙々と穴を掘る男−トレーゼ・クルス(eb9033)−に声をかけた。彼が何をしようとしているのかは聞かずともわかった。
 「・・・・ああ」同意が返ってくる。レットは彼の横に並ぶと剣をスコップ代わりにして土を掘り始めた。

●死者の森、夜と朝と
 その日の夕刻、冒険者達は早めに野営の準備を済ませていた。日の落ちた森の中を、しかもアンデッドを探して歩き回るというのは、あまり面白い話ではない・・・・もっとも昼間でも気の滅入りそうな仕事ではあったが。
「残ったエリアは・・・・あと半分位ですね」
「グールがいた場所にも印をつけておいた方がいいんじゃないか?」
 見取り図に薪の煤で書き込みを入れているサスケにレットが提案した。これも調査済みのエリアと未調査のエリアを正確に把握し、詳細な調査報告をする為の努力だ。
 森までの行程を馬やセブンリーグブーツを用いて短縮したので日程にも余裕がある。お陰で戦力を分散せず調査を行えているわけだ。
「1日歩きまわってグールを1体発見、そして排除・・・・これで終りならあり難いのですが」
「全くですわね」
 思わずこぼれたフィリッパの本音に、静夜が同意する。口にこそ出してはいないが他のメンバーも同じ気持ちだ。とはいえ現実はそれほど優しくは無いだろう、残ったグールがあの1体だけ・・・・とは、誰一人として思っていないのも事実だった。
「まぁ明日になれば全てわかるわ。私とシュテルンが最初の見張りに立つから、みんな休んで良いわよ」
 シュネーはペットのグリフォンを撫でながら告げた。昼間の戦いでは森の木々にその体躯が阻まれ、目だった活躍は無かったがその鋭敏な感覚は夜番にはもってこいだろう。
 「8人いますし、私もご一緒します」陽子も最初の見張りに名乗り出た。

「ん〜」
 朝の冷涼な空気を胸一杯吸い込みながらはレットは伸びをした。慣れてはいるモノの、固い地面での休息はやはり体のあちこちが痛む。
「そろそろ夜明けですわね」
「ああ、そうだな・・・・おはよう」
「おはよう御座います」
 見張り番を勤めた静夜と朝の挨拶を交わす。出切れば出会いたくは無かったが今更言っても仕方ない。後は一体残らず探し出して倒すだけだ。レットはもう一度「んーっ」思いっきり伸びをした。

●勝ち取った夜明け
 2日目の午後、日が傾きかけた頃。冒険者達は小川の辺をさ迷い歩く2体目のグールを発見した。
「他にもいるかしら?」
「木立のせいで良く見えないけど・・・・たぶん」
「今の所、あれ1体だけみたいだ」
 メンバーの中でも特に優れた視力を持つシュネーとレットが答えた。とはいえ彼等も言っている通り、障害物が多過ぎるため断言は出来ない。岩陰や少し離れた木陰に別のアンデッドがいたとしても不思議は無い。
 とはいえこのまま無駄に時間を使って、敵に気取られるような事態は避けたい。
「まずあいつを倒す。他にもいたらその後で片付ければ良い」
 トレーゼの提案に頷くとクァイは矢をつがえた。
「じゃぁ行くわよ、いいわね?」

 −しゅかっ!−
 放たれた矢がグールに突き立った。ついでサスケのグラビティキャノンがグールを川原へと捻じ伏せた。自分に何が起きたか理解できていないだろう、だが一つだけ気付いた事がある。それは「獲物がいる」という事実。

 異国よりの薫風が吹く。1つは炎の魔剣マグナソードを振るうノルマンの聖騎士フィリッパ・オーギュスト。1つは右にホーリーパニッシャー、左にガディスシールドを携えたフランクの騎士シュネー・エーデルハイト。1つはジャパンの武人、名剣ブラヴェインを握るは柊静夜。
 3人の剣士はグールが起き上がる前に三方を抑えた。いかに敵が手強く手も取り囲んでしまえば優位に戦う事が出来る。相手が相手だけに正面に立つ者の危険は高いが、速攻で倒せば良い・・・・はずだった。
「上流にもう1体いますわ!」
 静夜の叫びに振り返っるシュネー、その視界に下流目指して歩き出す人影が映った。いや、目指しているのは下流ではない・・・・獲物である自分たちだ。
 「シュテルン!」すぐさまクリフォンを呼び寄せる。
「私とシュテルンで抑えるから、そちらをお願い・・・・」
「一人でやる事は無い」
「オレが動きを封じる、その隙に終らせてくれ」
 覚悟を決めた時、トレーゼとレットが彼女に並んだ。シュネーは少しのぽかーんと2人を見つめるが『そうか、1人じゃ無いものね』当たり前の事に気が付いて、思わず微笑がこぼれた。
「オレ達、何か可笑しな事言ったか?」
 赤毛の青年の問いに「いいえ。ただ・・・・仲間って良いものだなって思ったの」と答えた。今度は男性陣2人が顔を見合わせ呆気にとられた表情を浮かべるが、その真意を問いただす時間は無い。
「何を思って彷徨ってるかは知らないが、安らかに眠れ」
 祈りにも似たトレーゼの言葉と共に、3人と1頭は迫り来る敵に視線を向けた。

 新たな敵の出現で包囲が崩れた。数的有利はあるモノの決して油断出きる相手ではない。
 「破ぁっ!」 「やぁぁぁ!」
 静夜とフィリッパの斬撃は確実にグールを捕らえるが、敵は全く衰えを見せない。どんな生物であろうと−それが悪魔であっても−ダメージを受ければ苦悶の表情を浮かべるし、痛みで動きが鈍くなる。だが目の前の敵にはそんな常識は通用しない。
 前日に同種のアンデッドと戦っている2人にも焦りが見え始めた。焦りは動揺を生み、動揺は力みなって現れた。
「しまった!」
 胴を薙ぐように放たれた静夜の一激がグールの骨に食い込み、ほんの一瞬だが彼女の動きが止まる。
「ぐっ」
 次の瞬間、グールの牙が静夜の左腕に食い込んだ。必死に苦悶の声を噛み殺すがその足下には鮮血が滴り落ちる。
 「間に合え!」 異変に気付いたクァイが矢を放つが、アンデットスレイヤーの力を秘めた一撃にもグールは耐えた。
「静夜さんから離れなさい!」
 フィリッパは裂帛の気迫と共にマグナソードを叩きつけた。アンデットの背を焼き払うかのように炎の魔剣が唸り、そして・・・・ようやくグールは糸が切れた操り人形のように崩れ落ちた。
「大丈夫ですか? 静夜さん」
「ええ、まだ腕は繋がってますわ」
 その余裕ある返事と表情に胸を撫で下ろした。仲間の無事を報せようと振り向くと、丁度、ポーションを預かった陽子がこちらに向かっていろところだった。サスケ本人が来ないのは、彼がまた木の上に陣取っているからだろう。
 静夜の傷はそれ程深い傷でも無かったが、アンデッドの汚れた牙の事を考えると素直に使わせてもらった方が良いのかもしれない。

●魂無き骸に祈りを
「これで一通りかな」
「ようやくお仕事終了ですわね」
 煤で印や調査済みの書き込みを入れられた見取り図をみて、冒険者達は依頼の完遂を確信した。一行は日が沈むのとほぼ同時刻に森の反対側へと辿りついた。取り敢えずここで夜を明かし、明日の朝一番で馬やペットを預けた村に向かう事にした。
 ちなみに村人達は「化け物を退治してくれるなら」と喜んで快諾してくれていた。彼等にとっても森の恵みは貴重な糧なのだ。

「何をしているんですか?」
 トレーゼが振り向くと、側まで来ていた陽子と目があった。
 「いや・・・・」何でも無い、と言いかけてトレーゼは思い留まる。別に隠すほどのことでも無い。
「遺品でもあれば回収してやりたかったのだが、それも叶わなかったのでな」
「・・・・」
 彼は古びた十字架を取り出すと、一言呟いた。
「安らかに眠れ」
 我ながら似合わない台詞だと思いながら振り向くと、そこには意外な光景があった。7人の仲間が各々の想いを込め、それぞれの流儀で祈りを捧げていたのだ。死した後もこの世をさ迷い続けた者達に、そして彼等の安らかな眠りを願って。

 似合う似合わないは問題ではい。顔も知らない誰かの為に祈る、それは彼等が紛れも無く人間の心を持っている証しなのだから。