災難襲来 狙われた村
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■ショートシナリオ
担当:熊野BAKIN
対応レベル:1〜5lv
難易度:普通
成功報酬:1 G 35 C
参加人数:8人
サポート参加人数:4人
冒険期間:04月05日〜04月10日
リプレイ公開日:2007年04月12日
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●オープニング
●春を控えて
その村は小川の側にあった。村と言っても10世帯ほどのささやかなもので、荒地を開墾して小麦畑を作り近くの森で狩りをして生計を立てる、ありふれた人々の営みの場だった。
昨日までは。
「頼んだよ、ジョン」
「心配しないで、母さん。必ず助けを呼んで来るよ」
昼日中だというのに閉め切った家の中で抱き合う母と子、窓から外の様子を伺っていた父親が声をかける。
「奴らの姿は見えない、今のうちだ」
「行って来るよ、父さん」
「お前の足なら奴らも追いつけないだろうが、気をつけてな」
父親と言葉を交わすと息子は外に出た。背後でゴトリと閂をかける音がする。あまりの恐怖に全てを投げ捨てて逃げ出したくなるが、彼は村人の命を背負っているのだ。失敗は許されない。
その時、走り出したジョンを追いかけるように遠吠えのような叫びが響いた。
「しまった!」
奴らに気付かれたのか、それとも最初から見張られていたのか・・・・今となってはどうでもいい事だ。追跡者の姿が見えない今のうちに、青年は命懸けでキャメロットへ向かった。
●依頼
「緊急の依頼です」
ギルドの朝。新しい依頼を見にきた冒険者や様々な難題を抱えた依頼者でごった返すフロアに、受付担当の声が響いた。彼女は朝一番で「ギルドへの依頼者と思われる男性を保護した」という報せを教会から受けて確認に出ていたのだが、その帰りのようだ。
「北方の小村がコボルトに襲撃されているとの事です」
コボルト。犬が二足歩行をしたような小型のオーガだ。とりたてて強い種ではないのだが、彼等の持つ武器には毒が塗られており、まかり間違っても普通の人間が立ち向かえる相手ではない。
「村人は各家に立て篭もっているそうです。コボルトがいなくなるまで持つかわかりませんし、このまま手をこまねいているとも思えません」
確かに。希望的観測通りに事が丸く収まるなら、世の中はもっと平和になっているだろう。
「詳細はすぐに依頼書で張り出しますが、急を要する事態なので口頭でお伝えしました。検討をお願いします」
そう言うと受付け嬢はすぐさま依頼書の製作にとりかかった。
ギルドへの依頼は窓口で受けつけるのが通例だが、今回は依頼人の憔悴が激しい為に異例の受け付けとなった。逆に言えばそれだけ急を要する案件とも言えた。
●依頼書
・急募!
村を襲撃しているコボルト撃退のため、人員を募る。
コボルトの数は6匹。内1匹はコボルト戦士と思われる。
村までは人の足で3日程。現地までの移動手段は各人で用意すること。
●リプレイ本文
●反撃の兆し
「それらしき影は見当たらない、か」
大凧に乗って上空から村を一望した後、陰守辰太郎(ec2025)は仲間の元へと文字通り舞い戻った。
『どうでした?』
辰太郎が戻って来るや待ちかねたように、雀尾煉淡(ec0844)が村の状況を問う。辰太郎・煉淡、そしてロッド・エルメロイ(eb9943)の3人はセブンリーグを用い、本隊よりも早く村の側へと到着していた。
目的はコボルトの動向を探る事と村人の安否確認、そして・・・・
「見た所、扉を破られた家は一軒も無い。コボルトも村に常駐しているわけでは無いらしい」
「では今のうちに村人を一ヶ所に集めましょう」
報告を聞いたロッドはすぐ行動に移る事を提言した。他の2人に依存は無い。守るべき者が人命である以上、失敗は許されない。そして守る場所が少ないほど戦力を集中できる。
『犬鬼の居ぬ間に、ですね』
『そう言う事に・・・・なりますか』
同郷の煉淡と辰太郎が母国語で何やら言葉を交すと、顔を見合わせ笑みを浮かべる。「?」 ロッドはジャパン語での会話を理解できず、小首をかしげて2人を見つめていた。
●反撃の足音
「見えましたデスぅ〜」
先頭を走っていた馬が・・・・もとい。馬の頭にちょこんと座っていたシフールの、エンデール・ハディハディ(eb0207)が声を上げた。先行した3人に遅れること数時間、ようやく本隊が村の側に到着した。
「静かなもんね、どうやら敵さんはまだ現れていないみたい」
神楽絢(ea8406)の言うとおり、辺りはまるで廃村の様に静まり返っていた。
「ロッド達はうまく村人を集められたかしら?」
先行した仲間の首尾と安否を気遣うのは、リスティア・バルテス(ec1713)、白の神に仕える聖職者だ。仲間の応援を背に受けて出てきたのだ、みっともない真似は出来ない。
「彼等を信じるしかないね」
リスティアと馬を並べていた、アフリディ・イントレピッド(ec1997)が彼女の懸念に応えた。
「アフリディ殿も一番危険な役回りなのですから、お気をつけて下さい」
すぐ後にいたエルディン・アトワイト(ec0290)が声をかけてきた。彼女は今回の編成で唯一、正面切ってコボルトと渡り合う危険な役所。不安や気負いもあるが、自分がやるしかないのだから仕方ない。
「ま、上手く連携するさね」とだけ言っておくことにした。
「まずは先行した3人と合流しなくちゃね」
いつコボルトが現れるとも知れない状況では1秒たりとも時間を無駄に出来ない。5人の冒険者は急ぎ村へと向かった。
●反撃の時
「思ったより早かったですね」
「私達だって飛ばしてきたんだもの当たり前よ。それより村の人たちは?」
本隊を出迎えたロッドに絢が軽く答えた。
「比較的丈夫そうな家に全員集まってもらった、我々が呼ぶまでは絶対に外に出ないようにとも言ってある」
辰太郎の話では村人達は冒険者の到着を心待ちにしていたので、呼びかけるとすぐさま扉を開けて迎え入れてくれたそうだ。何処かに集まって隠れて欲しい、という申し出にも素直にしたがってくれたとの事。
「それだけ私達は期待されていると言う事ですね」
エルディンは一抹の不安を噛み殺し、あえて仲間を鼓舞するような言葉を選んだ。それはともすると弱気になりそうな自分に喝をいれる為であったかもしれない。
−おぉぉぉぉぉん・・・・−
「来たみたいデスぅ〜」『来ましたね』
ほぼ同時に、同義のイギリス語とジャパン語が重なった。村人の話によると遠吠えのような雄叫びが聞こえた後、コボルト達が村に現れるのだという。
「それでは打ち合わせ通りに」
辰太郎が赤枝のスリングを手に立ち上がる。予想以上に時間が無かったので準備万端・・・・とはいかなかったが、それでも足止め程度の仕掛けは施してある。後は狩場に獲物を引き込むだけだ。
「頑張ってね」
彼はティアの激励に微笑を返すと戸外へと消える。
「我々も出迎えにいこう」その後を追うようにエフが立ち上がった。
「回復はまかせて・・・・それだけしかできないけど」
「それだけで充分心強い、よろしく頼む」
お世辞では無い、背後を任せる事が出来るゆとりは彼女にとって心強い味方となる筈だ。
●反撃
−ひゅっ−放たれた石つぶてが1匹のコボルトを捉えた。−ぎゃん!− つぶてに打たれた犬鬼は激痛に地面を転がりまわる。
この数日間、一度も攻撃受けた事が無い彼等に動揺がはしる。怯えて逃げ惑い、隠れるだけだった人間どもに一体何があったというのか?
−がぁぁ!−
リーダー・・・・コボルト戦士とおぼしき個体が声をあげると群に一応の落ちつきが戻る。と同時に別の1匹が警戒の声を上げた。スリングを振り、今まさに次弾を放とうとする人間の姿をみつけたのだ。
「さぁ、こっちだ!」
つぶてを放つとその場で反転して走り出す−悲鳴が上がったところを見ると2発目も命中したらしい−オーガ全般に言える事だが、コボルトも知恵が廻る方ではない。適当に挑発してやれば・・・・
−があぁぁっ!−
「乗った」
あとはこのまま仲間の所に引っ張っていけば良い、適当な距離を保ちながら辰太郎は仲間の待つ場所へと走った。
「来たわ・・・・いい? 先頭が罠にかかったら仕掛けるわよ」
コボルトを率いて走ってくる辰太郎を確認すると、絢は仲間に準備を促した。数はこちらの方が上だが敵の刃には毒が塗られている、油断は許されない。
エフの側にロッドとエルディンが集まる。コボルトと直接対峙する彼女に、祝福と加護の魔法をかけるためだ。
「幸運を・・・・」
「フレイムエリベイション」
「ありがとう」仲間の助力に感謝したその時。
−がぅ!?− −きゃんっ!− 先頭を走る2匹が用意された落とし穴に足を取られ転倒した。全力疾走していたからたまらない。内一匹は勢いが止まらずそのまま前方に数メートルも転がる。
即座にエフとエンデが飛び出す。今回前衛を勤めるのはこの2人だけ・・・・エフの力量で複数のオーガを相手どるには荷が重い。シフールのエンデには敵に傷を負わせるだけの力は無い。
だが2人にはこの正念場を乗り切る策があった。
「いくデスぅ」
「了解」
コボルトに辿りつく寸前で立ち止まると抜刀して目を閉じるエフ。同時に背後から強烈な光が放たれた。エンデのダズリングアーマーが発動したのだ。
ゆっくりと目を開く・・・・背後からとは言え強い光になれず、目の奥が痛む。だがコボルトにとってみれば、突然現れた太陽に向かって戦わなければならないようなモノ、これで彼我の戦力差を埋めると言うのが彼女達の策。
「出来るだけ多く・・・・やってみるさね」
手近の落とし穴にかかった挙句、光に目を焼かれ悶絶する不運なコボルトにラハト・ケレブを振り降ろした。
突然の攻撃、事前に施設されていた罠、待ちうけていた敵にコボルト達は冷静さを失いつつあった。それに追い打ちをかけるように。
「ファイヤーボム!」
背後で炸裂した火玉によって群は恐慌状態に陥る。ただ闇雲に武器を振り回し、怒りとも恐怖ともわからぬ叫びを上げて暴れだすコボルト達。
はぐれたモノから絢の放つ矢と辰太郎の石つぶてで少しづつ、だが確実に体力を削られていく。このまま冒険者のペースで終るかと思われたその時、アクシデントが起きた。
「くぅっ!」
光に視覚を封じられながらも、闇雲に振るっていたコボルト戦士の剣がエフの腿をかすめた。ぞわっ・・・・体内に異物が侵入する感覚に悲鳴を噛み殺して耐える。
その感覚の正体はコボルトが好んでつかう鉱物系の毒。すぐさま命を奪うほどでは無いが、放置して良いというモノでは無い。事前に毒の情報は得ていたので解毒剤の準備はあるが、相手がそれを使うのを黙って見逃してくれるかどうか。
「どうする、一度距離を取るか?」 こうしている間にも傷口から徐々に違和感が広がっている。迷っている暇は無い! エフは覚悟を決めて解毒剤の瓶に手を伸ばし・・・・
「コアギュレイト」
仲間の放った魔法がコボルト戦士を釘付けにする。「今のうちです!」 間髪いれず聞こえた声に反応して彼女は薬瓶の中身を一息に飲み干した。
「今の声はエルディン? 助かった」心の中で礼を言うと目を閉じ、解毒剤が効力を発揮するまでの数瞬を待った。
●反撃の果て、訪れた平穏
『コボルトを倒せ!』
煉淡は仲間が仕留めた犬鬼に駆寄ると、クリエイトアンデッドを用いコボルトズゥンビとして使役する。前衛の少ない編成を考えて壁として使う他、彼等に「仲間だったモノに襲われる恐怖」を植えつける狙いもあった。
事実、息絶えたはずの仲間が再び起き上がり自分達に襲いかかってくると言う、悪夢のような現実はオーガ達にこれ以上無い恐怖と衝撃を与えた。
加えて、魔法で体の自由を奪われたコボルト戦士が討ち取られると、生き残った2匹のコボルトは手にした剣をうち捨て命からがら落ち延びていった。
「怪我した人は言ってね、すぐに回復してあげる」
そういいながらティアは小走りにエフの元へ向かった。解毒したとはいえ受けた傷が癒えるわけではない、傷口に手をかざすと魔法の集中に入った。
「厳しい戦いだと思いましたが、無事に終りましたね」
「殲滅とはいかなかったが、コボルト戦士は仕留められたし上出来だろう」
2匹程うち漏らしたが、あのコボルト達が他の群に入っても再びこの村に現れる可能性は無いに等しいと思われる。そう言う意味では、逃げられた事がかえって良い結果に繋がる可能性もある・・・・が、考えれば考えるほど不安や心配は尽きないモノだ。
予測できない未来を論じるよりも今は素直に勝利を喜ぼう。
「これで村も平和になるデスぅ、お祝いにダンスを踊るデスよ」
舞踏のピアスが奏でる涼やかな音と共にエンデが軽やかに踊り始めた。夕日の紅い光と長く尾を引く影を引き連れ舞うその姿に、冒険者達は勝利の実感とひと時の安らぎを味わっていた。