真夏の夜の夢・・だったら良かった

■ショートシナリオ&プロモート


担当:熊野BAKIN

対応レベル:1〜5lv

難易度:やや難

成功報酬:1 G 35 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:08月25日〜08月30日

リプレイ公開日:2006年08月29日

●オープニング

「非常に言い辛い事なのだが‥‥」
 ギルドの依頼受付でそう切出したのは、下町を担当する自警団員だった。
「霧の深い夜に限って、被害届けが出るようになった事件があるのだ」

○被害者 メイスン(16・仮名)の場合
「全く酷い霧だな」
 メイスンは鍛冶屋の跡取息子だった。界隈でも評判の美少年で、彼を目当てに城の反対側から足を運ぶ顧客が増えたほどだ。
 この日は顧客の元へ注文の品を届けた帰りであったが、夜の帳とともに降りた濃い霧のカーテンに思わぬ足止めを食っていたのだ。
 いくら地元でも「伸ばした手が見えぬ」霧の中では身動きもままならず、道端に積んであった木箱に腰をおろし霧がひくのを待っていた。
 
 どれぐらい時間が立っただろう。幾分霧も引き、さぁ急いで戻ろうとした時だった。
「人違いならば失礼、君はメイスン君かね?」
 突然声をかけられ狼狽するメイスン。何時の間に現れたのか、伸ばせば手も届きそうな場所に一人の紳士が立っていたのだ。
 ただし、霧の濃い夜にマスクで顔を隠す人物を紳士と言うならば、だが。
「は、はい。そうですが。何かご用でしょうか?」
 距離をとろうにも、後ろは殺気まで腰かけていた木箱で下がるに下がれない。
「噂通り‥‥いや、それ以上だ」
 哀れな少年は幼いころに聞かされた怖い話を思い出していた。霧の深い夜に現れる人攫いの話、頭骸骨を収集する怪人の話‥‥。
 つくり話だと思っていた子供だましの御伽噺がまさか本当だったなんて! 恐怖で声がつまり、涙が止めど無く溢れる。
 霧とともに現れた怪人は、怯える小羊の顎に手をあて‥‥唇を重ねた。

「え?」

「恐れる事は無い。君を傷つけたりしない、そんな事をすれば世界の損失だからね」
 人間、突発的な事態に面した時の反応は概ね2つ。逃げ出そうとするか、腰を抜かすか。不幸にもメイスンは後者だった。
「いい子だ。さぁご褒美をあげよう」

 帰りが遅いのを心配した両親がメイスンのあられもない姿を発見したのは、夜霧が跡形も無く消え去った後の事だった。

○とどのつまり
「この半月で4人も被害者が出ている。あくまで被害届が出ている数で、だ。一刻もはやくこの不謹慎極まりない人物を捕縛して、こちらに引渡してほしい」
 要点を筆記していた担当がふと顔を上げる。気になった点があり、率直に問うてみた。
「いま犯人ではなく『人物』と仰いましたか?」
 依頼主は少し周囲を気にすると、声を潜めて答えた。
「実はその人物はシールリングをつけていた、と言う報告もあるのだ」
 シールリング。書簡を封印するさい、蝋に押しつけて差し出し人の代わりとして用いられる、紋章入り指輪だ。
 それ自体は珍しい物ではない。書簡を出す必要がある職業や、すこし裕福な商家でも使われる程度の物。
だが、今回はさらに事情が違った。
「図柄は‥‥クラウン」
 それは即ち、爵位を持つ人物かその家族の持ち物と言う事だ。

「承知しました」
 それ以上の質問はしなかった。ここまで聞けば、何故衛兵がこの依頼を持ちこんだのか察しはつく。
 極めて単純な話。例え身分を隠していたとしても、貴族を自分達で捕らえたくないのだ。例えそれが職務だとしても。
 後々どんな厄介事が起きるか知れたものではない、といったところだろう。
 とはいえ被害の届け出がある以上は放置も出来ない。さんざ知恵を絞った結果、善意の冒険者達が捕らえた犯人を取り調べてみたら‥‥という筋書きに達したと言うところか。

「成功条件は『犯人を殺さずに捕らえ、身分の詮索はせず詰め所に引渡す』と言う事でよろしいでしょうか?」
「その線でよろしく頼む」

●今回の参加者

 ea1332 クリムゾン・テンペスト(35歳・♂・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea4676 ダイモン・ライビー(25歳・♀・クレリック・人間・イギリス王国)
 ea7244 七神 蒼汰(26歳・♂・ナイト・人間・ジャパン)
 eb3333 衣笠 陽子(26歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb5295 日高 瑞雲(34歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb5296 龍一 歩々夢風(28歳・♂・浪人・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

○情報収集

「どうだった?」
 予定時間よりやや早く、待ち合わせ場所についていたダイモン・ライビー(ea4676)が、詰め所から戻って来た仲間に声をかけた。
「どうもこうも無いな」
 一言のもとに切り捨てたのは黒髪の青年、日高瑞雲(eb5295)。
「被害者に共通点は無し。ただ近所で評判の美少年だった、って事を除いては」
 瑞雲に続いたのはジャパンの服−着物−を着た少年、七神蒼汰(ea7244)だ。
 2人は朝一番に衛兵の詰め所を訪れ、被害届けや調書を閲覧していた。だが得られた情報と言えば、既知の物ばかりだったらしい。
「そうか、残念だったね」
「で、被害者の方はどうだった?」
 瑞雲が尋ねる。彼女は被害を受けた少年達に会いに行くと言っていたはず。
「ほとんどの家はダメだったよ。話を聞こうとしたら隠れちゃったり、親御さん追い出さたり」
「・・・・は? 」「・・・・え?」
 同時に疑問を抱く男性陣。ライビーは年恰好は若いものの聖職者だ。法衣に身を包み十字架も携えている。社会的信用ならば、貴族とは行かないまでも相当にあるはず、なのに。率直に問うてみる。
「どうして? 」「何と聞いたんだ?」
 曰く、被害者の少年を前に『どんなことをされたのか具体的に詳しく事細かに教えて下さい! 』と。
 ・・・・じとー。4つの黒眼に見つめられ、慌てて補足するライビー。
「いえその、ほら! メンタルケアも重要ですからー!」
 状況が状況なら−さすが聖職者−なその台詞も、今は虚しく街の雑踏に消えていった。


○餌は撒かれた

「なぁ、知ってるか? この辺りに・・・・」「へぇ、それは一目見てみたいわね」
 比較的上等な(裕福な客層が出入りする)酒場や街角で、自分の流した噂が順調に広まっているのを確認し、クリムゾン・テンペスト(ea1332)は満足げに頷いた。
 被害者の全員が噂に上っていた、と言う事は犯人もまた街の噂を仕入れているという事。ならば餌を撒いてやれば必ず食いつくはず。
『首尾はどう?』
『思ったより早く広がっている』
 異国語での問いに、彼もまた異国語で即答した。キャメロット広しと言えども、今、ジャパン語で声をかけて来る人物は一人しかいない。
 振り向くとピンクのローブに水晶のティアラと言う、これ以上無いほど目立つ少年が立っていた。何が厄介かといえばこの姿がまた、妙に似合っている事か。
 複雑な表情を浮かべるクリムゾンを尻目に、当の本人、龍一歩々夢風(eb5296)は涼しい顔をしている。この依頼で唯一イギリス語を解さず、しかもこれから囮として一人霧の夜を歩くと言うのに。
 図太いのかあるいは・・・・いや、胆が据わっているのだろう。きっと。多分。
『それじゃ俺、もう少しうろついてくるね。どこかお勧めの場所あるかな?』
『そうだな・・・・』
 クリムゾンは出没地点を計算に入れ、幾つか道順を説明する。その横顔を見ていた龍一がぽつりと一言。
『・・・・ちゅーしちゃおうかな』
『何か言ったか?』
『な・い・しょ』

 ここ数日、広場で芸の練習をする異国の美少年の噂が広まっていた。芸の方は決してお金を取れる出来ではないが、その美貌と愛嬌のある笑顔で話題を呼んでいた。
 だがその少年−蒼汰−を見守る少女の姿があったのを知る者はいない。
 衣笠陽子(eb3333)は蒼汰が広場に出る時は必ず自分も赴き、不審な人物が居ないか監視をしていた。
「疑って見ると、みんなが疑わしく見えてしまいます」
 それでも陽子は自分の出来る事をやろうと努力していた。


○霧と供に来れり

「きっとこんな夜に現れるんだよね」
 龍一は一人ごちた。それは調査をはじめて4日目の事、「伸ばした手が見えない」程では無いが、数メートルも見通せない霧が夜のキャメロットを覆った。
 −変態さん来ないかな〜。まぁ対決したら、俺が勝っちゃうけどね−そんな事を考えながら、何度も廻った道順を辿っていた。
 その時、ふと足音が聞こえたような気がした。
 即座に耳を澄まし神経を集中する。やがて霧の中から光が見え、「何方かいらっしゃいますの? 」言葉の意味はわから無いが、確かに声が聞こえた。
「あれぇ〜?」
 首を捻る龍一。それはどう聞いても女性の声だった。


「失礼。最近話題の大道芸人見習いと言うのは、君かな?」
 −来た−そう確信した蒼汰は、小柄に手を添えつつ「何方ですか? 」と平静を装い返事を返す。
 芝居の心得は無かったが、ジャパン出身と言う噂が幸いしたのだろう。警戒の素振りも無く霧の中から一人の男が現れた。
 その身につけた物、立ち振る舞いは確かに貴族を思わせる。その顔にあるは噂通り、顔の上半分を隠す仮面。
「成る程。この地ではなかなかお目にかかれぬ肌の色、顔立ち。噂に上るほどの事はある」
 −もう一歩、もう一歩前に来い−
「さぁ、もっと良く見せておくれ・・・・」
 −ザシュ!−カッ−からららら−
 刹那。一閃された小柄が男の伸ばした手を掻い潜り、仮面を切り落とした! 紳士は腕で顔を隠し飛び退る。
「さぁ一緒に来て貰いましょうか?」
 近隣のご婦人方(一部殿方)を魅了した無邪気な笑みを浮かべ、蒼汰は男に告げる。
「師匠は言った」
 物陰から別の男の声が聞こえた。
「愛とは自由なもの。しかし、愛とはその真ん中に心が無ければならない。欲望のままに貪る貴様のそれは、愛ではない」
「これ以上、被害が出るのを見過ごせません」
 明かにか細く高い声、これは少女か?

「私も随分と有名になったものだ」
 男は降伏するどころか悠然とそう言い放ち、懐から予備のマスクを取り出す。これが紳士の嗜みか・・・・多分違う。
「そこの君。愛といったようだが、一つ思い違いをしている」
 クリムゾンを指差し、紳士は言い放った。
「愛しきモノを愛でるのは人の性。そして私は己の性にしたがっているだけ。そう、言うなれば私は自由の使徒!」
 そんな理屈で襲われた方は、たまった物では無いが。
「そして狙ったモノは必ず愛でる、それが私の流儀だ」
 言うなり、仮面紳士は逃げる所か蒼汰めがけて駆け出した! この行動に冒険者達は虚を突かれた。
 辛うじて詠唱を行っていた陽子がスリープを解き放つ。
 銀の燐光が紳士を包み込む、しかし魔法抵抗に阻まれ眠りに誘うまでに至らない。
「くっ!」
 貞操、もとい身の危険を感じた蒼汰は小柄で牽制しようと試みる。だが相手はそれより早く、彼の体と腕を絡めとってしまった。巧みにポイントを押さえられ身動きが取れない。
 「しまった」クリムゾンが舌打ちする。彼の呪文は的を外す事は無い、しかしこの状態では蒼汰も巻きこんでしまう。
 陽子も呪文を解き放ったばかりで、すぐに次の呪文は放てない。
 万事休す、さらば蒼汰の貞操。

「そこまでです! 変態仮面さん! てんちゅー★ 」−がっ! −
 響き渡る声。颯爽と木陰から飛び出して仲間の窮地を救ったのは、華麗なるカマ狩りの使途・ライビーその人だった!
 −もう少し、どきどき・わくわくしたかったんだけど仕方ありません−
決して口に出せない出してはいけない。少女は切ない思いを胸に秘め、手にしたスタッフで仮面紳士の頭部を強かに打ち据えた。
「がふ!」
 勝利を確信し油断しきっていた所にこの一撃、さしもの仮面紳士もうずくまる。そこに・・・・
「美という物を教えてやろう」
「よくも、よくも・・・・」

 殴打音と絶叫は「こ、これ以上は死んでしまいます」陽子の助け舟が出るまで止まらなかった。


「よぉ、終ったみたいだな」
 紳士がただの物体に変わった頃、瑞雲が合流した。あまりの惨状に苦笑いしつつも「お仕置は充分だな」と、用意したロープで手際良くぼろきれを縛り上げる。
「これで良し。かなりの傷だが、命にかかわる事は無かろう」
 縛り終わると瑞雲はロープの端をクリムゾンに手渡した。
「すまんが引渡しも頼む」
「一緒に来ないんですか?」
 陽子が声をかけると、彼はもう一度苦笑いを浮かべ。
「放置しとくと、新たな変態現る! なんて噂が広がりかねないんでな」


○伝説は終らない

「まぁ、どうなさったの? こんな霧の夜に」
 さて困った、相手は言葉が通じない。それに−2人連れでは変態さんも現れないだろうな〜−と思っていた時、霧の中から断末魔の如き絶叫が聞こえた。
「何かしら今の声。気味が悪いわ」
『あ、終っちゃったかな?』
「あら、何か仰いました? 異国語かしらね」
 ご婦人は龍一がイギリス語を解さないのに気がついたようだ。何とか意志の疎通を図ろうとボディーランゲージを試みる。
 −外。危ない。私の家。来て−
 ってとこかな? しかし好意とはいえ連れて行かれても困る。少し考えた後、龍一は瑞雲の不安を敵中させた。

 後に婦人語る。
「その少年は、どうもイギリス語を理解できない風でしたわ」
 当時を思い出す様に眼を閉じる。
「その少年と話していましたら、不気味な声が聞こえましたの! 当時何かと物騒な噂がありましたでしょう。もう怖くて怖くて、とにかくその少年を家に連れて帰ろうとしましたの」
 「そうしましたら」婦人の頬が紅潮する。
「彼が私の手を握って、こう眼を覗き込んで来ましたの! それはそれは美しい碧眼でしたわ。でも私も主人のある身。抵抗しようとしましたが眼をそらすことが出来ず、生娘の様に震えておりました」
 そう続けた婦人の表情は、まるで恋人を思う娘のようだった。
「彼はふっと微笑んで、肩口を露に。ええ、透き通るような白い肌でした」

「龍一!」
 襟首を捕まれた少年はのんきに返事をする。
「日高っち、迎えに来るのが遅い〜」
「しょうがないだろう、向うが本命だったんだ。それにしても・・・・」
 瑞雲はへたり込むご婦人に眼を向け、「遅かったか」と呟く。
「兎に角、この妻女を送り届けるぞ」
「えー」
「誰がやったと思っている」
 とは言ってみたが「やはり目を離した俺の失策か」ため息混じりにぼやく。
 彼の苦悩はまだ続きそうだ。