マスカレードへの招待状
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■ショートシナリオ
担当:熊野BAKIN
対応レベル:フリーlv
難易度:易しい
成功報酬:4
参加人数:5人
サポート参加人数:2人
冒険期間:05月05日〜05月10日
リプレイ公開日:2007年05月10日
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●オープニング
●何処かの屋敷。主の部屋
「色々ありましたが、伯母様のお陰で無事に勤めを果せました」
アルバートはこの館の女主に礼を述べた。
「大切な甥の為、当然の事をしたまでですわ」
女主は若き貴族の言葉を、至極当然の様に返す。第三者が見れば寛容な人物と思うかもしれない、だが・・・・この貴婦人からは熱意や気概が感じられなかった。満腹の獅子は目前の鹿に興味を示さない、ただ至福の余韻を味わうのみ・・・・
「それで、いつ領地には戻られますの?」
社交辞令とも思える口調で女主人は問うた。それを知ったところでどうと言う事は無い、特に知りたいと思ったわけでもない。
「そうですね。もう少しキャメロットを見聞したいと思いますので・・・・安息日の礼拝が済んでから発ちたいと思います」
「安息日・・・・」
彼女の記憶に間違いが無ければ、次の安息日は確か5日後だ・・・・ふいに貴婦人の瞳に熱が戻った。
「では若き領主様の前途祝して、マスカレードを開きましょう」
「え?」
「その方が身分に係わらずお客様に楽しんで頂けますし」
「あ、あの伯母様?」
「挨拶をすべきところは全て廻ってきたのでしょう? わざわざ当家に招いて挨拶をし直す意味もありませんわ」
「ええと・・・・」
何処かスイッチが入ってしまったらしい。こうなると「姉上は止まらない」アルバートは亡き父の言葉を思い出した。
「そうそう、折角ですから珍しいお客も招きましょう」
先ほどまでとは打って変って生気に満ちた表情の伯母を、彼は只見守るしかなかった・・・・
●突然の招待状
「はぁ・・・・かなりイレギュラーですが・・・・」
受付け担当はつい先日ギルドに訪れた執事の話に困惑の表情を浮かべていた。聞いた内容を頭の中で整理して、さらにゆっくり噛み砕いて整理してから言葉にだす。
「当ギルドの冒険者をマスカレードに招待したい。招待ですので報酬は無いけれど、提供される限りの飲食は自由・・・・と」
はっきり言ってギルドの利益に繋がるとは思えない。担当の表情を観察していた執事は、彼女の心を読み切ったかのように次のカードを提示した。
「これ以降、当家に何か問題が起こった場合は是非ギルドに依頼したい・・・・と主人は申しておりました」
ぴくり、担当の表情が動いた。貴族との繋がりが出きれば、依頼の幅が増える可能性も高い。とはいえ彼女の一存で判断できる問題でもなく、「少しお時間を頂けますか?」 執事の返事を待って受付け担当は上役の元へ向かった。
●マスカレード(仮面舞踏会)
「主要人物」
・マーシネス。館の女主人。謎めいた部分を持つ貴婦人。白鳥のマスクと、白鳥の羽で出来た扇子を持っています。
・アルバート。マーシネスの甥。かなり運の悪い青年貴族。簡素な仮面と学者風の衣装を身につけています。
・執事。館の一切を取り仕切る敏腕執事。神出鬼没。飾り気の無い仮面で執事の服装。
「参加条件」
・参加者は必ず仮面(マスク)を被り、マスクに相応しい衣装か小道具を待つこと。(道化のマスクなら道化風の衣装。鳥を模した仮面なら鳥の羽がついた上着等)
・社会規範を守ること。
「会場」
・中庭:パーティーのメイン会場、様々なお酒が振舞われます。アルバートはここに常駐。中央ではダンスも行われています。
・噴水:メイン会場から離れていて静かな場所。人気も少なく、星空を見上げて語らうには丁度良い場所です。
・食堂:来客が空腹を満たす場所です。異国の料理人も招かれているので故国の食事が出来るかもしれません。
・2階テラス:ホストであるマーシネスがいます。彼女と話がしたければここに来れば会えるでしょう。
●リプレイ本文
●開会
「今宵は多くのお客様を迎える事ができ、光栄の至りですわ」
館の中庭に涼やかな声が響き渡った、と同時に白鳥の羽根を配したマスクの貴婦人が来客の前に姿を見せる。今宵のホスト、マーシネスだ。
白鳥の貴婦人はその身に集まる視線を楽しむかのように間を取り、やがて手にした杯を掲げると高らかに開会を宣言した。
「この夜が皆様にとって良き一夜になりますよう・・・・乾杯」
「乾杯!」 その声を待ちかねたように客達は杯を掲げた。この瞬間、一夜限りの舞踏会・・・・マスカレードが始まった。
●テラスにて
「ご招待ありがとうございました」
「この度はお招きいただきありがとうございます」
ネフティス・ネト・アメン(ea2834)こと、羽根を模った仮面とエンジェルフェザーを纏った天使。そして白猫の仮面と毛皮で着飾った、杜狐冬(ec2497)の2人が、長椅子で寛ぐ白鳥の貴婦人に挨拶をしていた。
「ご丁寧な挨拶痛み入りますわ」
白鳥の貴婦人は身を起こすと、口元に艶やかな笑みを浮かべて言葉を続けた。
「皆様に楽しんで頂ければ良いのですが・・・・」
「あのー、今日はインドゥーラのご飯が食べられるかもって聞いたんですけど、本当ですか?」
ホストの言葉が終るか終らないかのタイミングで異国鈍りのある声が響いた。一同が声の主を見やると、そこには鷹羽の仮面とホークウィング。仕上げにペットとおぼしき鷹を留めた、シータ・ラーダシュトラ(eb3389)がもう待ちきれない! と言う様子で女主人の返事を待っていた。
「シータ! いきなり失礼よ・・・・」
慌てて嗜めるネフティス。だが貴婦人はころころと鈴のなるような笑い声を上げたかと思うと、鷹の少女に声をかけた。
「今回の特別メニューにインドゥーラ風の料理を用意してありますわ。お口に合えば良いのだけれど」
「やったぁ! ジャタユ、久しぶりにインドゥーラの料理が食べられるよ!」
鷹の少女はぺこりと頭を下げると、嬉しそうに食堂へと走っていった。残された天使は申し訳なさそうに頭を下げるが・・・・
「気になさらないで、折角のマスカレードですもの楽しんで下さいね」
白鳥の貴婦人は心底楽しそうに笑った。
「それでは私はアルバート様にご挨拶を・・・・」
「お待ちになって」天使に続いて部屋を出ようとした白猫が呼びとめられた。
「彼に会うなとはいいません。むしろ相手をしてあげて欲しいのだけれど・・・・一つお願いがありますの」
「なんでしょう?」
「彼とは一人の青年として接して頂きたいの」
彼女の甥は決して為政者向きの人物では無い、本人もそれを自覚している。それでも明日になれば領主として領地に戻らなければならない。だからせめてこの時間だけは一人の若者として、全てを忘れて楽しませてあげたい・・・・それは叔母が甥にしてやれるせめてもの気遣いだった。
白猫はすこしの間、考え・・・・一礼して部屋を出ていった。
●食堂にて
『あまり羽目を外すなよ』
簡素な白のマスクとホワイトドレスにフェザーマント。白鳥をイメージしたエルフの少女は弟の親友、シア・シーシアの言葉を思い出した、が。
「はいはい、わかってるってば」そう呟くと白鳥、レイ・カナン(eb8739)は、その忠告をあっさりと頭の隅に追いやった。
彼のお小言は何時もの事だが、一々アレはダメこれはダメと言われた事は無い。言うなれば兄妹の日常会話、そんなようなモノだった。
「このリンゴのハチミツ漬け美味しい〜。そうそうワイルドベリーの時期だよね!」
それはさて置き、この白鳥の少女。すらりとしていかにも「エルフらしい体型」でありながら、並べられた食べ物(主に果実と果実を使った料理)を、用意された美酒と共に思う存分、手加減無しで堪能していた。
呆気に取られる他の客を尻目に「それにしても人間って、こんなものが無いと自由に振舞えないのかしら?」 窮屈な仮面に不満を抱きながらも、次々と獲物を胃袋に納めていった。
「ちょっとスパイスが足りないけど、美味しいね」
ジャタユに話しかけながら、鷹の少女はインドゥーラ風鳥の串焼きを頬張った。彼女の母国は一年を通して暑く、湿度も高いので香辛料をふんだんに用い、スパイシーで食欲を刺激する料理が多かった。それに比べてこっちの料理は「美味しいけど薄味」とはシータの談。
インドゥーラ風にフライパンで焼き上げたパンに豆のペーストを浸して口に運ぶ。やはり本場と比べると香辛料の種類も量も足りない、が。故郷を遠く離れたこの地では香辛料そのモノが貴重で、しかも驚くほど高価なのだから仕方が無い。
鷹の少女は久しぶりの母国「風」料理を心行くまで愉しむ事にした。
「あれ?」 中庭から聞こえてくる音楽が変わったような気がして、鷹の少女は思わず動きを止めた。
●中庭にて
「なんて素晴らしい」「これほどの楽師がまだ野にいたとは」
舞踏会で居並ぶ紳士淑女の心を捉えたのは、華麗なる舞いでは無く、さりとてこの日の為に集められた楽師達でも無い。旅芸人風の派手な仮面と装束を身につけたパラの女性、クラウディ・トゥエルブ(ea3132)が奏でる、竪琴の妙なる音色だった。
その音色を例えるならば春風の様に軽やかに、月を映す泉の如く清らかに。旅芸人の演奏に本職であるはずの楽師達も手を止め聞き入ってしまうほどだった。
「学者様。宜しければ私と踊って頂けませんか?」
中庭でぽつねんとしていたアルバートはまさか自分が呼ばれていると気が付かず、きょろきょろと辺りを見まわしてしまう。
「いや、ダンスは不得手なので」ようやく自分の衣装が学者だった事を思いだし、今度はしどろもどろに白猫の女性に言い訳をはじめた。
「私も殿方と触れ合って踊るのは気恥ずかしいのですが・・・・」
頬を染める白猫。彼も騎士道精神溢れる(かどうかはわから無いが)イギリス貴族(の風上の端くれ)。これ以上、女性に恥じをかかせる訳にはいか無いと、覚悟を決め「よ、よろしくお願いします」白猫の手を取った。
竪琴を爪弾く旅芸人を遠巻きに見守る観客。その人波を割って学者が白猫をエスコートして進み出た。この演奏で踊ろうと言うのか? いや待てよ、今日は演奏会ではなかったはずだ・・・・ようやく仕事を思い出した楽師達が演奏を再開した。
進み出た2人はお互いの足を踏まぬよう必死で、音楽について行こうと一生懸命で。だが誰一人そんな2人を笑いはしない。マスカレードには虚勢も恥も必要無い、何にも縛られず宴を楽しむ為の仮面。
「ふぅん・・・・」
食堂の窓にもたれながら、エルフの白鳥は貴腐ワインを手にその光景を眺めていた。人間のしがらみには全く関心は無かったし、つまらない社交辞令ばかりで興味を引かれる話を聞くことも出来なかった。だからこそ食事に専念していたのだが・・・・相変わらず仮面は窮屈だったが、少しだけ。少しだけ人間が仮面をつける意味を垣間見たような気がした。
一頻り演奏が終ると、旅芸人に惜しみない拍手が送られた。喝采を受けてステージを降りる彼女を簡素なマスクの男が待っていた。
それはギルドにも訪れた事のある初老の執事だった。
「主人より伝言を受けたまわっております・・・・『素晴らしい演奏に感謝を、竪琴に愛された貴女に慈愛の祝福があらん事を』と」
「過分なお褒めの言葉恐れ入ります・・・・あの、お願いがあるのですが」
「何なりと」
慇懃に頭を下げる執事を見て少し躊躇したが、今更引っ込みもつかず思いきって切出した。
「ダンスの手ほどきを願えないでしょうか?」
「は?」 全くの予想外。いかにマスカレードとはいえ、ホストの使用人がパーティーに参加するわけにもいか無い。とはいえ「なんなりと」と言ってしまった手前、無下に断るわけにも行かず。執事は助けを求めるかのように2階テラスの主を仰ぎ見た。
釣られて旅芸人もテラスに視線を移すと「お好きになさい」とでも言うように女主人が手を広げるている。
「・・・・それでは僭越ながらお相手を勤めさせて頂きます」 主人の許可を得た執事は恭しく一礼をすると、旅芸人の手を取って何やら囁いた。
旅芸人はくすっと微笑むと「こちらこそ」と応える。曰く「10年ぶりですので、粗相があった時はご容赦を」と。
●彼の未来
一曲踊り終え、白猫と解れると学者は自分の喉がカラカラなのに気付いた。足下に全神経を集中していたので、彼女の足を踏む事は(1回しか)無かったのだが、その変わりに大量の汗をかいていた。
何か飲むものをと思ってテーブルに向かうとそこにはちょっとした人垣が。隙間を見つけて覗きこむと天使がテーブルの上に何やらカードを広げていた。
「そこの学者さん、占いは如何?」
「え?」 またもや名指しされた彼。人垣が割れ、テーブルへの道が開ける。占いには苦い思い出しかない。悪い結果は良く当たるのに良い結果は全く当たらないんだよなぁ・・・・渋い顔をする学者に天使は微笑みかけた。
「占いは道標。悪いカードが出たら、そうならないよう努力する事で未来はどんどん変わるの」
未来は変えられる、それはきっと気休めではない。未来は今日を生きる我々が創るモノなのだから。天使はカードをシャッフルすると1枚引いた。
「・・・・あらら」何のカードを引いたかは彼女のみぞ知る。
●宴の終り
そろそろ日付が変わろうかという時、テラスで宴を見守っていた白鳥が立ち上がった。
「名残惜しいですが、これをもちまして今宵の会はお開きとさせて頂きます」
水を打ったように静まり返る会場。
「何れまた皆様とお会いできる日を楽しみにしております。イギリスの未来と若者の前途に幸あらん事を・・・・」芝居がかった仕草も、名女優が演じれば当たり役。ホストの退場をもってマスカレードの幕は下りた。
夜が明ければ、また地位やしがらみに縛られる日常が始まる。次の解放の宴まで。