小悪魔狂騒曲 砦の決闘

■ショートシナリオ


担当:熊野BAKIN

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 8 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:05月18日〜05月22日

リプレイ公開日:2007年05月23日

●オープニング

●依頼人
「・・・・というわけです」
「はぁ、成る程」
 何時も変わらぬ昼下がり。冒険者ギルドの依頼受け付けカウンターに良い体つきをした男が一人、新たな仕事を持ち込んできた所だった。
 傍目から見てもその男には某かの心得があるように見うけられる、そんな人物が持ちこむと言うのは・・・・余程大変な依頼だと言うのか?
「ここ最近、聞かなかったんですが・・・・冬眠から覚めたんでしょうか?」
 「もしも悪魔が冬眠するなら、そうかもしれないな」依頼人は几帳面にも受付け担当の冗談に応えた。

●何が起きたかと言うと
  時間は少し戻って4日程前。
「一匹押さえたぞ!」
「よし、急いでふん縛れ!」
 キャメロット近郊の小高い丘にとある砦があった。砦と言っても外堀や跳ね橋がある大規模なモノではなく、せいぜい衛兵の詰め所に毛が生えた程度のモノ。
 それでも数十人の兵が生活できる広さはあるのだが、アーサー王の治世となった今、それほどの人数を割く必要も無く。現在は5〜6人ほどの衛兵が常駐して街道を見守っていた・・・・のだが。
 トラブルはまさかまさかの、砦のど真ん中で起きた。

「やっと3匹目か・・・・」
「ああ、あと2、3匹だと思うんだが」
 あちらこちらに引っ掻き傷をこしらえた屈強の衛兵達。彼等をこんな目にあわせたのは如何なる猛獣だと言うのか? 彼等が縛り上げたモノは・・・・1メートルほどの毛玉、否。それは悪戯好きの悪魔・グレムリンだった。事の起りはさらに2日前。夕食の準備をしていた砦に突如グレムリンの集団が乗り込んできたのだ。
 最初こそ予想外の来訪者に衛兵達はパニックに陥ったが、そこは曲がりなりにも訓練を受けた兵。すぐさま小悪魔の捕獲に打って出た。そして2日後の今、ようやく半数のグレムリンを捕まえる事ができたのだが・・・・
「残ったヤツは手強いな」
「ああ。仕掛けた酒や食い物に手を出すどころか、近づいた形跡も無いぞ」
「魔法使いがいれば居場所がわかるかも・・・・」
「馬鹿! 小悪魔に砦を乗っ取られました、なんて上に言えるかよ」
 う〜ん・・・・そこで全員が黙りこんでしまった。最前線でも重要拠点でもない小砦に魔法使いや魔法の武器があるわけも無く−だから衛兵総出で捕獲していたのだ−さりとて「小悪魔に追い出された」なんて口が裂けても言えない。

 その時、衛兵の一人が何か思いついたように口を開いた。
「・・・・なぁ皆、持ち合わせあるか?」

●善戦はしたけれど
 つまりは上に内緒で冒険者ギルドに依頼を出す事にしたのだ。
「残ったグレムリンは2匹だと思う。警戒心が強いのか用心深いのか、酒や食い物で釣っても乗って来なかった」
「なかなかやり難そうな相手ですね」
「まぁ、自分たちで何とかなってたらギルドに依頼なんかしないさ」
 担当は社交辞令的な笑いを返しておく。
「それで、何か追加条件はありますか」
「特には無いが、出来るだけ早く片付けてもらえると助かる」
「わかりました」
 そう答えると受付け嬢は依頼文章の製作に取りかかった。

●今回の参加者

 ea3783 ジェイス・レイクフィールド(30歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea8510 セシルロート・クレストノージュ(20歳・♀・クレリック・エルフ・フランク王国)
 eb7700 シャノン・カスール(31歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ec1110 マリエッタ・ミモザ(33歳・♀・ウィザード・人間・ビザンチン帝国)
 ec1858 ジャンヌ・シェール(22歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 ec2025 陰守 辰太郎(59歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ec2740 マナベル・バドワイザー(21歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ec2776 リフレティア・イシュナス(19歳・♀・神聖騎士・ハーフエルフ・イギリス王国)

●リプレイ本文

●砦に集う8人
「そりゃぁもう、真夜中に大騒ぎをする事だな」
 もっとも頭に来る被害は何? と言う、セシルロート・クレストノージュ(ea8510)の問いに、衛兵達は口をそろえて答えた。 「そう・・・・これは人の世の愛ってものを説いてあげなくちゃ、いけないわねぇ」彼女は呟くと、ふふりと笑った。
「それで、誘き出しに使ったのは食べ物ですか? それともお酒?」
 その呟きは聞かなかった事にして、シャノン・カスール(eb7700)が次の質問をしているところだった。
 彼等を筆頭に冒険者は各々グレムリン捕獲の準備を整えていた。

「こんな感じでしょうか?」
 場所は砦の食堂。小麦粉を布きれで包みながら、ジャンヌ・シェール(ec1858)は同じ作業をしていた、マリエッタ・ミモザ(ec1110)に声をかけた。
「そうですね、あまり大きくても投げにくそうですし」
 マリエッタはジャンヌの造った小麦玉を見て頷いた。
「それにしても、小麦粉を提供してもらえて助かったな」
 テーブルを挟んで同じく小麦玉の製作をしていた、陰守辰太郎(ec2025)が話に加わる。衛兵達にしてもこの問題が解決しなければ食事どころではない。「小麦粉ぐらいならいくらでも」と、提供申し出たのだ。
「それだけ期待されている、と言う事ですね」
 何気なく発したマリエッタの言葉に、ジャンヌと辰太郎は神妙に頷いた。

「マナベル姐さん、こんなもんで足りますか?」
 若い衛兵が近くの森から集めてきた木の実を、マナベル・バドワイザー(ec2740)の前に積み上げる。何れもトリモチの原料になる実だ。
「うん、これだけあれば充分だわ。ありがと」
 礼と共に向けられた笑顔に若者は頬を染めつつ、慌てて頭を下げるとその場を去った。何か声をかけられたようだが、はっきりとは聞き取れなかった。むしろ聞こえなくて幸いだったかもしれない。
 曰く「どーんと泥舟に乗せられた気持ちで待っててね〜」姐さん、泥舟は沈みますから・・・・

 リフレティア・イシュナス(ec2776)は辰太郎から借り受けた、短刀を握り締めて1つ、大きく深呼吸をした。彼女にとってこれが初めての冒険、緊張するのも無理は無い。
「気負う必要は無いぜ」
 突然、背後から声をかけられた。驚いたリフレティアが振り向くと、そこにいたのは。
 「ジェイスさん?」 ジェイス・レイクフィールド(ea3783)だった。
「俺は小細工は苦手だから、その辺は仲間に任せてる」
「・・・・」
「上手く言えないが、自分の出来る事をやればいいんじゃねーか?」
 ぶっきらぼうな口調だった。だけど・・・・飾らない分、ストレートに彼の気持ちが伝わって来たような気がして。
 「ありがとう御座います」若き冒険者は無骨な男の背中に感謝した。

●倉庫と小麦と
「この中に一匹います」
 リフレティアのデティクトアンデットに反応があった。その場所は「倉庫」。
「・・・・」
 ジャンヌは仲間と無言の合図を交し、小麦玉を取り出すとゆっくりと扉を開ける。その部屋は倉庫と言う性質上、鉄格子のついた換気窓が一つあるだけで、昼にも係わらず薄暗かった。しかもいたるところに積み上げられた、木箱や荷物のお陰で見通しは更に悪い。
 だいの大人ならまだしも小悪魔が1匹、しかも姿を消せるならこれほど隠れやすい場所は無い。
 全員が部屋に入ったのを確認するとシャノンは扉を閉めた。窓には鉄格子があるから出入り口はここ一つ。あてもなく探していた衛兵とは違い、冒険者はグレムリンがここにいるという確証を得ている。
 彼にとって絶好の隠れ場所が一点、牢獄になった。

 デティクトアンデッドの魔法は、大よその場所と数を感じる事が出来るが姿形まで見えるわけではない。冒険者達はリフレティアが示した荷物の山を慎重に取り囲んだ。
「私はアイディア勝負〜ですわん」
 そう言うとマナベルは、先端に出来立てのトリモチを巻きつけたスタッフを荷物の隙間にさし込んだ。トリモチで小悪魔を絡めとる作戦だ。只でさえ粘着力の強いトリモチがグレムリンの毛にからみついたらどうなるのか、想像に難くない。
 隙間を探る事、数分・・・・「いた!」 −きしゃー!− マナベルの声と小悪魔の叫びが交錯した。
 スタッフの先に確かな手応えを感じながら、小悪魔を引っ張り出そうと奮闘するが・・・・隙間で踏ん張っていた敵が一転、外へ飛び出そうと動いた。
 「きゃ!」 バランスを崩し尻餅をついた彼女の上を、不可視の何かがスタッフをへばりつかせたまま飛び越える。
「逃がしません」
 即座にジャンヌとリフレティアが用意した小麦玉を放つ。身体にあてる必要は無い、目標の近くで小麦粉が弾ければそれで良い。

 −ぽふ−軽い音を立てて小麦玉は弾けて辺りに粉塵を撒き散らした。程なくして姿を消していた悪魔の姿が炙り出された。小悪魔は頭にへばりついたトリモチ・スタッフを引き剥がそうとのた打ち回り、さらに小麦粉を纏わりつかせている。絶好のチャンスを逃すわけにはいか無い。
「ライトニングサンダーボルト」
 シャノンは魔法のスクロールを用いて雷を解き放つ。この小悪魔達は以前も騒動を起こしてきた経緯がある、捕らえたとしても「厳しい処分」が下されるだろう。まさに自業自得だ。
 戦乙女の剣を抜き放って走るジャンヌを追うようにリフレティアは月露を抜刀する。「自分が出きる事」一言を念じる様に呟くと、今だ小麦粉の漂う室内を切り裂く様に駆けた。

●翼と嵐と
「残るは見張り台か」
 屋上に続く階段で辰太郎は砦の見取り図にチェックを入れた。人間より遥かに敏感な馬達に異変が無いので、馬小屋にはいないだろうという予想していた。事実馬小屋にデビルが出入りした気配は無かった。人の出入りが多い寝室もマリエッタのステインエアワードで探っては見たが、結果は予想通りのモノだった。
「先に行くぜ」
 ジェイスが先頭に立って階段を上り始めた。程なくして屋上の扉に辿りつくと慎重に戸を押し開ける、と。清清しい外気が吹き込んで来た。
 外に出ると屋上の一角には狼煙台が備えられ、思ったよりも広いスペースが取られているのが見て取れた。広場の中央には櫓が備えつけられていて、見張りはこの櫓に登って監視を行い異変があれば警鐘を鳴らす手筈だ。現在も監視は続けられていて、見張り番の衛兵がこちらに手を振っている。

「それにしても私たちの裏を欠くなんて狡賢い悪魔達ね!」
 セシルロートがわざと大声でグレムリンを見つけられない苛立ちをぶちまけた。一見、冒険者が自分を探しに来ている、と警戒させてしまいそうだが実はコレ、小悪魔に自分が有利な状況にいると思わせて油断を誘う罠・・・・果たしてこの試みは上手く行くのだろうか?
「こちらもダメです」
 屋外では空気の澱みもすぐに散ってしまうし、外的要素が多すぎてマリエッタの探査魔法も思うような効果を上げられない。もしかしてグレムリンはもういないのだろうか? そんな考えが掠めた時・・・・誰かが叫んだ。

 −ききっ−その時、彼の鋭い聴覚はそよ風にも消し流されそうなほど、微かな笑い声を聞き逃さなかった。それは丁度、セシルロートの独白の直後。だが一瞬の出来事の為、居場所はおろか方向すら掴めない。
 「もう一度、もう一度だ」そっと目を閉じ神経を集中する。
「こちらもダメです」
 マリエッタの声が聞こえた時−けひゃひゃっ−右! 目を見開き、笑い声がした方向に振り向く。そこにあったのは・・・・
「狼煙台だっ、粉を撒け!」
 叫びながら自分でも狼煙台目掛けて皮袋から水をぶちまける。一瞬遅れてマリエッタが袋から小麦粉を掴みだして狼煙台に叩きつける。
 もうもうとたち込める小麦粉が少しづつそよ風に乗って流されて行く。そこに残ったのは・・・・水に濡れた毛並みにびっしりと小麦粉をまぶされた美味しそうな。もとい、惨めな濡れ粉まみれ小悪魔が1匹、何が起こったのか理解できないまま狼煙台に腰かけていた。
「俺を楽しませてくれよ」
 ジェイスは抜刀した文寿を粉デビル目掛けて最短距離で突き込む。−ぎひゃぁ!− 腕を切り裂かれた痛みにグレムリンはようやく我に返ると、すぐさま翼を広げて逃走にかかった。傷つけられた憎悪よりも保身に走る臆病さを優先する。彼が今まで人間から姿を隠しおおせた理由だった・・・・が。
 −がっ!− −ぎぃ!?− 飛び立った彼に再び激痛が走る。思わず振り向くとスリングを手にした黒髪の人間と目があう。「コイツか?」 再び湧き上がった怒りがほんの一瞬、彼の動きを鈍らせた。そしてその一瞬が運命の分かれ目。
 スクロールを開き精霊碑文学に目を落とす。文字自体に力は無い、その文字を理解し魔力を注ぎ込むことによって、初めて力が生まれる。
 マリエッタは空中の敵を見据え、力を解き放った。
「トルネード!」

●説教と天誅
 事件解決の礼を兼ねて、冒険者達は砦で一夜を明かす事になった。
 久しぶりに熟睡できる喜びと、折角だからと冒険者が提供したワインやジャパンの酒に、宴は多いに盛り上がった。
「お疲れ様です。セシルロートさんも一杯如何です?」
「そうね、じゃぁ一杯だけ頂こうかしら」
 シャノンが差し出した杯を受け取る。
 トルネードの魔法で巻き上げられ、地面に叩きつけられたグレムリンは、外で事の成行きを見ていた衛兵に袋叩きにされた上で捕獲されたのだが・・・・
「ねぇ、3時間のお説教じゃ優し過ぎかしら?」
 真顔の彼女に、「はぁ・・・・」と苦笑いを浮かべるシャノン。そう、彼女は縛り上げられたグレムリンを愛のお説教部屋−牢屋とも言う−で、絞り上げていたのだ。勿論正座で、3時間みっちりと。
「やっぱり、もう1回行って来るわね」
 「え?」 唖然とする彼を尻目に、愛を説くシスターは説教部屋へと向かった。

 自業自得だ。徹頭徹尾、自業自得なのだが。小悪魔が気の毒に思えるのは・・・・多分、気のせいでは無いだろう。