森の恵みは誰のモノ? 乱獲者を叩き出せ
|
■ショートシナリオ
担当:熊野BAKIN
対応レベル:11〜lv
難易度:やや易
成功報酬:3 G 4 C
参加人数:6人
サポート参加人数:1人
冒険期間:06月06日〜06月10日
リプレイ公開日:2007年06月10日
|
●オープニング
●交渉決裂
「だからさぁ、何度も言わせないで欲しいんだけど?」
栗毛の髪を肩口で切りそろえた−少なくとも村人には見えない−女は、もううんざりだ、というように手を振った。
ここはとある村の酒場。テーブルを挟んで村長と村の男達に対峙するのは、3人の男女。
一人は筋骨隆々で見事なまでに頭をそり上げたジャイアントの男。彼は、椅子に座って村人と渡り合っている女の後ろに立ち、腕組をしながら威嚇する様に村人達を睨みつけていた。
もう一人は女と同じく皮鎧を身につけた赤毛の男。その体は驚くほどに細い・・・・いや、痩せ過ぎと言ったほうが良いだろう。ナイフで爪を砥ぐその姿は、大男とは別のプレッシャーを村人に与えている。
「あんた等のやり方じゃ、森中の動物がいなくなっちまうんだよ!」
「それはアタイ達の知ったことじゃないね。買い手がいるから商品を集める、それだけサね」
村長の主張をにべもなく跳ねつける女。女の態度に、血の気の多い若者が色めき立つが・・・・ジャイアントが腕組を外し、女に詰め寄ろうとする男達の前に立ちはだかる。
「おやめ、ゴードン!」
女の一喝で巨人は腕組の体勢に戻った。
「村長さん、アンタだってこんなところで怪我人を出したか無いだろ? だったらボーヤ達の躾はしておくんだね」
「・・・・」
悔しいがこの3人は自分達など比べものにならない程の「修羅場」をくぐっている。だからこそ穏便に話し合いで解決しようとしたのだが、しかし。
「話は終りだね。そっちの望んだ話し合いってヤツに付き合ったんだ、文句は無いだろ?」
なんとも不遜・不敵な物言いに、その場に居合せたモノは反論すら浮かばない。女は満足そうに微笑むと。
「ゴードン、ヘルマン。キャンプに戻るよ」
「いいんですかい? アマンダ姐さん」
ヘルマンと呼ばれた痩身の男が女、アマンダに声をかけた。「いいのか」とは、もっと痛めつけるなり脅しつけなくていいのかと言う事だろう。
「こっちも暇じゃないのはわかってるだろう? それに・・・・」
女は村人達を一瞥すると。
「ほっといたって何もできゃしないさ。森の動物は誰のモンでもないんだからね」高笑いを残し、アマンダは男達を従え酒場から出ていった。
●ギルドに持ちこまれた揉め事
「なるほど、面倒なお話ですね」
「はい・・・・」
ギルドの窓口で多種多様な依頼を来てきた受付け担当も、今回の件には思わず唸ってしまった。何故なら今回の件は、道徳的は別にして「実質的な被害者が存在していない」のだ。
勿論、件の3人組が森中の動物を狩り尽くしてしまったとしたら・・・・将来的に森は死んでしまうかもしれない。だが、森の動物をどれだけ狩ったとしても、それを規制する「法規」が無いのもまた事実。
森を占拠したのが、危険なモンスターならいざ知らず、人間同士の揉め事にギルドが乗り出すというのは・・・・受付け嬢の悩みはこの点にあった。
「何か他に、例えばその3人がお尋ね者だとか・・・・そう言う話はないでしょうか?」
「うーん・・・・」こんどは依頼人が困ってしまった。大体、相手がお尋ね者ならギルドではなく最初から衛兵隊に行っている。
「そう言えば」
はたと思い当たり、依頼人は話し出した。
「彼等は森のあちらこちらに罠を仕掛けているんですが、露骨に人を森にいれない様に仕掛けられているモノもあるんです」
「人を狙った罠・・・・ですか」
一生懸命頭を働かせ、アイディアを搾り出す担当。やがて・・・・
「募集:森を占拠し、あちらこちらに罠を仕掛けた乱獲者の撃退する人手を求む。森の動物を乱獲するばかりでなく、近隣の住人にも被害が及ぶ可能性もあり早急な対応が求められる云々」
動物を取る為の罠ならいざ知らず、露骨に人を狙って仕掛けるのは許されるべきでは無い。かなり苦肉の策ではあるが。
「助かりました。どうかよろしくお願いします」
ふかぶかと頭を下げる依頼人に苦笑いにも見えなく無い笑顔で応える受付け嬢。何時も愛想の良い彼女にしては、なかなかに珍しい光景ではあった。
●情報
森
・3人組は森の中央付近、小川のほとりでキャンプをはっている。
・森の中は動物用の罠があちらこちらに配置されている。
・川沿いに移動すれば迷わずキャンプに行けるが、人間を狙った罠がある。
3人組
・弱い者には強いが強い者には弱い、典型的な小悪党。
・アマンダ:人間の女性。3人のリーダー格で交渉や指揮を担当する。戦闘時は炎の魔法をつかう。
・ゴードン:ジャイアントの男性。スキンヘッドで力自慢。捕まえた獲物の運搬や力仕事を受け持つ。戦闘時は大斧をつかう。
・ヘルマン:人間の男性。赤毛で痩身。罠を設置したのはこの男。戦闘時は弓をつかう。
●リプレイ本文
●川を遡り
「セオリー通りだな」
「どう言う意味だ?」
いくつ目になるか−10より先は面倒くさくて数えるのを止めた−立ち木を利用して設置されていた、ブービートラップを解除した、アンドリュー・カールセン(ea5936)の呟きに興味を持ち、クロック・ランベリー(eb3776)は尋ねた。
「言葉通りだ」
およそ人が作り出したモノは、見る人が見れば作者がどのような性格で、どれほどの腕前かを汲み取る事ができる。罠も一緒だとアンドリューは思っていた。
「罠を設置するポイント・つくり方・意図。どれを取っても基本に忠実で、卒が無い」
手堅く実用的、知らずに歩けば彼とて無傷ではいられないだろう・・・・が。アンドリューは「まだ甘い」最後にそう評した。模倣は大事だ。しかしそこで終わってしまえばどれだけ才能があっても、決して一流にはなれない。
罠の事は良くわからないが、その点は剣にも通じるところがある。
「成る程」クロックは頷いた。
●森を進み
「獣道は避けた方が良いな」
オイル・ツァーン(ea0018)は小動物用の罠を解除しながらそう提案した。出立前、友人が施してくれた巻き脚絆のお陰で下草も気にならない。
「手当たり次第って感じで、キリが無いですね」
鎖分銅で罠を強制的に発動させた、シルヴィア・クロスロード(eb3671)が同意の声をあげる。精度や危険性はともかく、罠の数だけは川の比ではない。
「そうだな。後は仕掛けた馬鹿者達に始末させよう」
フレイア・ヴォルフ(ea6557)も賛成した。村人から聞いた限りでは、この森にいる最も大型の動物は鹿との事。大掛かりな罠も覚悟していたのだが。
「さほど危険な罠も無さそうだし、それが良かろう」
尾花満(ea5322)が言うようにロープを使ったスネアや小規模な落とし穴はあったが、致命的なモノは見当たらない。
「生け捕りにしようとしているな」
「それも傷つけないように、な」
オイルと満は冷静に分析する。その結果、導き出される答えは・・・・「生かしたまま手に入れたい」と望む第三者の存在。そしてそれがあるとするならば。
「彼等がこんな方法で狩りをするのも頷けますね」
シルヴィアの瞳に使命の炎が灯る。生来の性格からして、騎士になるべくしてなったような彼女の事。「欲しがる人がいるから獲る」等という、独り善がりの考え方を容認できるはずも無い。
「もう少し様子を見れば、安全なルートを確保できるだろう」
数は多いがその殆どが獣道に集中している。罠を仕掛けた人間が自分の罠に引っかかる程、間抜けな事は無い。何処かに安全なルートがあるはずだ、フレイアは冷静に相手の行動パターンを読んだ。
●目的地
「手荒に扱うんじゃないよ。毛皮に傷がついたら値が下がる!」
突然良く通る女の声が響いた、恐らく3人組のリーダー・アマンダだろう。そこは歴戦の冒険者達、誰が言い出すでもなく素早く木立に身を潜める。
逸早く乱獲者のキャンプに辿りついたのは森組。数こそ多かったが何よりも罠の知識を持ったメンバーが多い上に、安全なルートがあると言う読みがズバリ当った。
罠の密集地である獣道に添う様に、獲物の回収用のルートが用意されていたのだ。2ヶ所ほど鳴子が設置されていたが、獲物を担いだジャイアントが通れるほどの道。見逃すはずもなく回避できた。
「・・・・」優良視力を持つメンバーが木立の隙間から様子をうかがいつつ、手と指の動きで合図を送る。彼等の位置から5m程先で木立が途切れていた。水の流れる音が聞こえるのは付近に川がある証拠。
「2人か?」 「いや、もう1人もいる」「あれ・・・・か?」
一番目だつのは一際大きな人影。もう1人、側には大人と子供程に小さな人影。あれがアマンダとジャイアントのゴードンだろうか。小さな人影の指示に、大きな方が体を揺らして右往左往する様は何処か間が抜けていた。
「ヘルマン、そっちの準備はどうだい?」
「夕方までには何とかしますぜ」
アマンダの問いかけに、川原にあった・・・・もとい、居た人影が振り返って答えた。それまで風に揺れる朽木の様にも見えたのだが、やっと人間だと確認できた。
この場に乱獲者が揃っている以上、待つ理由もない。森組の4人は突入のタイミングをはかった。
荷を下ろしたゴードンが別の獲物を運ぼうと身を屈めた瞬間、シルヴィアは猛然と突撃を開始した。今回の編成で敵のジャイアントを押さえられるのは自分だけだと自負していた。
「誰だ!?」
アマンダの叫びを無視してジャイアント目掛けて鎖分銅を叩きつける。細い鎖がジャラジャラと耳障りな音を立ててその巨躯に絡みついた。
「ぬぐぅ」
辛うじて右腕は逃れたモノの左手は鎖分銅で体に固定されてしまい、不自然な感覚にゴードンは呻き声をあげる。
「敵だ、ヘルマンっ弓を!」
「合点でさぁ」
事ここにいたってようやく状況を把握したアマンダはヘルマンに迎撃の命令を下すが・・・・
−ひょっ− 「おおぅ!?」 立ち上がろうとしたヘルマンの足元に1本の矢が突き立つ。オイルと満の突入を援護すべく、フレイアが放ったモノだ。
「ちぃ・・・・」
アマンダは自らも迎え撃つべく魔法の詠唱に入ろうとするが、彼女の扱う魔法は炎。森に引火でもしようものならそれこそ「重罪人」になってしまう。
「殴り合いは嫌いなんだけどね」歯噛みをしながらも詠唱を終え、術を解き放った。
「!」 目の前の異変を察知した満はスライディングまがいの急制動をかけて停止する。女の手が烈火の如く赤く燃えていた。「ヒートハンド」自分の手を炎に包み敵を焼き尽くす炎の魔法。だが・・・・
「当らなければどうと言う事は無し」
一言呟くと再び走り出す。
「なめるんじゃないよ!」
アマンダは目の前の男目掛けて、燃え盛る右手を叩きつけるが・・・・「いたぁい!」 思わず可愛い叫びをあげてしまう姐さん。それもそのはず、満は放たれた一撃を盾でガッチリと受けとめたのだ。まぁ当たり前と言えば当たり前、少し考えれば解りそうなモノではあるが。
−どすっ−手刀を首筋に打ちこまれ、アマンダは崩れ落ちた。
「姐さん!」
崩れ落ちるアマンダを助けに行きたいが、フレイアの牽制と両手に短剣を携えたオイルが彼の前に立ちはだかっていた。
「自分勝手な理屈をはくわりには、情に厚いじゃないか」
「うるせぇ! こっちにも事情があるんだよ」
冷静なエルフの言葉に吐き捨てるように応える・・・・辺り、律儀と言おうか何と言おうか。何れにしろこの距離で飛び道具は使えない、弓を捨ててナイフを抜いた。
隙の無い構えを見て「そこそこ使える様だな」オイルは敵を冷静に評価した。技量は自分と同じくらいか? 少し手間取りそうだな・・・・そう思った時。
−しゅかっ−ヘルマンの太腿に1本の矢が突き立った。突然の事に痛みも忘れて矢の飛来した方角を見ると、そこにいたのは。
「お前があの罠を仕掛けた男か」
油断なく二の矢をつがえたアンドリュー。
「下流だと? 嘘だろ・・・・俺の罠を抜けて来ってのか?」
ヘルマンは呆然と呟くと膝から崩れる。矢の痛みより、仕掛けた罠を突破されたショックの方が強いように見える。
「トラップを見せてもらったが、正直残念だ」強烈な追い打ちに、プライドもろとも戦意を打ち砕かれた。
「うがぁ!」
「ふっ」
ゴードンの丸太のような豪腕にシルヴィアはコンパクトな左カウンターを合わせる。と同時に、地面を殴ったような感触に思わず眉をしかめる。
盾を捨て身軽になったシルヴィアに対し、左腕の自由を奪われたゴードンは得意の斧を使う事も出来ず、とにかく自由になる腕を振りまわして抵抗を続けていた。例え武器が使えなくても、人間の女ぐらい簡単にあしらえると思っていたのだが・・・・
−どがっ−およそ人と人の体がぶつかり合ったとは思えない音が響く。シルヴィアはゴードンの拳を肩口で受けとめ、素早くカウンターパンチを放った。彼女が用いたのは敵の攻撃を急所を外しつつ受けとめ、その威力を減殺する防御技術だ。
いかにジャイアントの力が強くとも、素手でこの護りを突破するのは容易ではない。さりとてシルヴィアにも敵を一発で沈める術もなく、この打撃戦は長期化の兆しを見せていた。
ところが、ここでも状況は一気に動き出した。
「はぁ!」
アンドリューと共に川を遡って来たクロックはジャイアント目掛けてソニックブームを放った。杖から放たれた衝撃波は狙いたがわず敵を捕らえ、その巨躯を揺らす。
ようやく均衡を保っていた戦況はクロックの出現により大きく傾いた。
●自分で巻いた罠は自分で
それから数時間後。応急処置を施されたヘルマンとゴードンの2人は、冒険者達に促されて罠の撤去に従事していた。ちなみにアマンダ姐さんは、シルヴィアが持参したナイトアーマーを被された為、キャンプ地で留守番中。
「どうした、指を折って欲しいのか?」
傷が痛むのか、不満げな表情を浮かべたヘルマンをアンドリューは「優しく」励ます。
「め、滅相も無ぇでさぁ」慌てて作業に戻った。
「ぶっ飛びボロボロにされないだけマシと思いな」
フレイアは満から借りた鞭を手に物騒な発破をかける。正直、この会話だけ聞くとどっちが悪人かわからない。自業自得ではあるが。
キャンプ地では鎧の置物と化したアマンダに、シルヴィアのお説教が続いていた。
「今回は軽い罰で済むでしょう。でも次回こんな事をしたら・・・・」ごくり、息を飲むアマンダ。
「地の果てでも探し出して、償いをしてもらいますからね」
ありがちな台詞も礼儀正しく誠実な人物が口にすると不気味な説得力が生まれる。怯えた様にカクカクと頷く置物。
「そろそろ食事の準備をするか」
夕闇が迫る空を見上げ満が呟く、と。
「私もお手伝いします。尾花殿の料理、楽しみです」
・・・・色んな意味で一番怖い瞬間だったかも知れない。