小悪魔狂騒曲 小悪魔は花嫁の夢を見るか?

■ショートシナリオ


担当:熊野BAKIN

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 35 C

参加人数:5人

サポート参加人数:1人

冒険期間:06月14日〜06月19日

リプレイ公開日:2007年06月20日

●オープニング

●またもや災難なのは
「ご無沙汰しております・・・・」
「あら、いつぞやの神父さ・・・・いえ、お久しぶりです」
 受付けが思わず言いよどんだのも無理は無い。実はこの人物、以前自分の赴任した教会をグレムリンに乗っ取られ、何とかして欲しいとギルドに泣きついてきた神父だった。
 この件は口外して欲しく無いという依頼人の希望もあり、依頼を担当した人間と受け付け担当以外に知る者はいないわけだが。

「それで、この度はどのようなトラブルでしょうか?」
 にこやかに仕事の話を切出す担当・・・・が。どうにも神父、もとい依頼人の様子がおかしい。もしや、まさか、もしかして。
 「・・・・グレムリン、ですか?」びくん。依頼人の体が反応した。一度ならず二度までも、自分の担当する教会に、下級とはいえデビルが現れるとは。ごく一般的な神経の持ち主であれば落ちこもうと言うモノだ。
 とはいえ、話を聞かない事には仕事にならない。消沈する依頼人を前に、担当は気合を入れなおした。

●村の結婚式
「この時期は気候も良く雨も降りにくいので、結婚式を挙げる人が多いのです」
 それについてはキャメロットも似たようなモノで、6月は比較的天候の安定した日が多い。必然的のこの時期、式を執り行おうとするカップルが増えるのだ。
「・・・・それで?」
 受付け嬢の間の微妙ニュアンスに気付かず依頼人は続ける。
「6月に入ってすぐ1組の式を挙げたのですが・・・・誓が終って新郎神父が教会の外に出ると、すぐにそれは起きました」

 それは集まった人々に新しい夫婦をお披露目するはじめての瞬間だった。現れた新郎神父に注がれたのはやっかみ混じりの祝福に心からの祝辞、そして・・・・
 −ぼふ−
「きゃっ!」
 花嫁の衣装に投げつけられたのは、1個の泥玉。
「誰だ!? 幾らなんでも悪ふざけが過ぎるぞ!」
 激昂する新郎、集まった村人も式をぶち壊した犯人を探して右往左往するが・・・・
 「うわ!?」 今度は新郎の悲鳴が響く。皆が彼の方を振り向くと、顔を泥まみれにした新郎がへたり込んでいる。
 本腰を入れて犯人探しが始まったのだが。結局は犯人の目星も付かず、式はそのまま打ち切りとなった。ただ1人を除いて。

●神父の決意
「あんな事をするのはあの小悪魔以外考えられません」
 さすがに一度被害にあった人間の言葉は重い、確信と自信に満ちている。・・・・まぁそんな自信があっても仕方ない気はするが、それはさて置き。
「確かに悪質だけど子供のような手口といい、村人総出で探しても見つからなかった事といい」
 あの毛玉デビルのやりそうな事ではある。
「それでは今回の依頼というのは・・・・」
「はい。あんな事があった後ですが、数日後に次の式が決まっているのです。どうか小悪魔を退治して新しい夫婦の門出を守って下さい」
 依頼人はふかぶかと頭を下げた。

●今回の参加者

 ea3132 クラウディ・トゥエルブ(28歳・♀・バード・パラ・ノルマン王国)
 ea6484 シャロン・ミットヴィル(29歳・♀・クレリック・パラ・フランク王国)
 ec1110 マリエッタ・ミモザ(33歳・♀・ウィザード・人間・ビザンチン帝国)
 ec1999 スティンガー・ティンカー(27歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ec2025 陰守 辰太郎(59歳・♂・忍者・人間・ジャパン)

●サポート参加者

ファルナ・フローレンス(ec1519

●リプレイ本文

●教会にて
 雨の多いイギリスだが6月は恵まれる日が多い。それは霧の日が多いキャメロット近郊も例外ではなく、故にこの時期を待って結婚式を挙げるカップルが多いのも当然の成り行き。
 今日もまたとある村の教会で、将来を誓い合った2人が村人の祝福を受けて新たな一歩を踏み出そうとしていた。
 小回りの利く若者が教会の扉を押し開け、外に駆け出すと花道をつくった。娘たちは祝福の花を籠一杯につめて携え、青年達は祝福半分・やっかみ半分の心境で、新郎を「手荒い祝福」で迎えようと手ぐすね引いて、主役の登場をいまや遅しと待ち構えていた。
 程なくして晴れて夫婦となった2人が教会の中から姿を現すと、歓声と万来の拍手が響き、花びらと手荒い祝福が2人を包み込んだ。

 その様子を教会の屋根から見下ろす者が1人。陰守辰太郎(ec2025)は油断なく人垣の周囲に目を配っていた。
「もう少し早く現れると思ったが・・・・」
 余程用心深いタイプなのか、この時点でグレムリンらしき影を発見することはできなかった。もしかしたら今日はたまたま小悪魔の気が乗らずに、悪戯を諦めたのだろうか? ・・・・いや、これほど簡単に人間が右往左往してくれるタイミングを、そう簡単に見逃すはずは無い。
 時間が経つにつれ沸いてくる不安要素を払拭しながら、辰太郎は真下で行われている「祝福の儀式」を見守っていた・・・・ほんの数秒後。真横で鳴り響く鐘の音に悩まされる事のだが、それはさて置き。

●新郎新婦・・・・?
 教会の扉から幸せ一杯のカップルが姿を現す、と同時に2人の前途を祝して鐘の音が高らかに鳴り響いた・・・・が、何処かおかしい。
 違和感の正体は新郎新婦が身に着けている衣装。それはどう見ても新しい門出には相応しくない代物、傍目からも白布をそれらしく仕立てたモノにしか見えない。
「スティンガーさんと式を挙げるなんて・・・・まぁ、貰ってくれるなら構いませんが」
「欲を言えば、もう少しスタイルの良い方の方が・・・・痛! 冗談ですよ」
 夫婦は何やら小声で掛け合いをやっている。と、新婦のマリエッタ・ミモザ(ec1110)が新郎、スティンガー・ティンカー(ec1999)の太ももを軽く抓りあげた。
 この夫婦・・・・もとい、この2人は実際に式を挙げた訳ではない。最近出没する「結婚式荒らし」を捕まえるために村人達の協力の元、偽の式を執り行ったのだ。仲間の手助けと翌日本物の式を控えていた事もあり、式の準備はすぐに整った。
 ちなみに衣装は仕立て屋を生業にするスティンガーがスピード最優先で縫い上げたモノ。少々つくりが荒いのは、どうせ汚される運命だし小悪魔が人間の衣装を気にするとも思えない、という判断ゆえ。
「それにしても、良く狙われる教会ですね」
 新婦の介添え役でマリエッタの後ろにいた少女。もといパラの、シャロン・ミットヴィル(ea6484)がつぶやいた。呟きの真意は、今回現れたグレムリンが前に彼女達冒険者が捕まえたグレムリンと同一人物・・・・同一悪魔かもしれない、という懸念だった。
 もしも情けをかけて逃がしたグレムリンが、今回の事件の犯人だとしたら・・・・「あの時のグレムリンでなければ良いのですが」シャロンは溜め息混じりに呟いた。

 参列者の中にも冒険者はいた。クラウディ・トゥエルブ(ea3132)は服を借り受け、村人の振りをして紛れ込んでいた。彼女もパラなので「花嫁に憧れる村の娘」という役がぴったりとはまっている。
 今回の村人をも巻き込んだ「偽結婚式作戦」が決行に至ったのは、実は彼女の話術によるところが大きい。
 依頼人でもあり唯一事情を知っている神父はさて置き、悪戯モノを捕まえるとはいえ偽の結婚式を行うというのは、いささか大げさすぎでは無いか? という村人達をクラウディが粘り強く説得したのだ。
 村人はみな敬虔な白の神の信者。真実の愛を神の前で誓う結婚式を囮に使う事には抵抗はあったが、やはり一生に一度の晴れ舞台を汚された娘達を気の毒に思っていたし、犯人を許せない気持ちは同じだ。最後には村人総出で協力を約束してくれた。

●姿無き悪戯者
 村の人間は礼拝の日でも無いのに教会に集まっていた。小悪魔は今日もまたあの遊びが出来るかも知れない、という期待を持って教会の側に潜んでいた。
 今月に入ってから、何故かは知らないが人間達が教会に集まって暫く中にこもっていたかと思うと、外に出て大騒ぎを繰り返していた。何をしているのか全くわからなかったが騒ぎを眺めているうちに、人間の中で1人だけ白い服を着ている女がいるのに気がついた。
 最初はほんの悪戯心でその人間に泥玉をぶつけてやったら、今まで騒がしかった場が一気に静まり返った。白い服の女はこの世の終わりみたいに泣き出すし、周りの人間は泥玉をぶつけた犯人を探し出そうと躍起になって駆けずり回った。その落差があまりにも滑稽だったで、今日までに3回同じ悪戯をしてやった。
 一昨日もからかってやったのに、また遊ばせてくれるとは。人間は何と忘れっぽくて汚されるのが好きな生き物なのだろう。小悪魔はほくそ笑むと、姿を消したまま人垣の中にもぐりこんだ。

●人の恋路を邪魔する悪魔は
 異変はすぐに起こった。花嫁役のマリエッタが教会の階段を降りた瞬間−べちゃ−腰の辺りに鈍い衝撃が伝わる。見下ろすと小さな泥玉がこびり付いていた。
「来ました!」
「皆さん、教会の中に!」
 花嫁の合図に新郎・スティンガーが村人に指示を出す。村人達は犯人は何処かの悪戯小僧だと考えていたので少し大げさだと思ったが、それでも打ち合わせどおり一人残らず教会へと駆け込む。
 最後の一人が教会に入ったのを確認して神父が教会の扉を閉じた。これでこの場にいるのは冒険者とグレムリンのみ。
「クラゥディさんの右、3m程の所にいます! それと・・・・もう一匹!?」
 ディテクトアンデッドの魔法でグレムリンを感知したシャロンは、すばやく小悪魔の位置を仲間に知らせる・・・・が。
「スティンガーさんっ横です!」
「な!」
 慌てて振り向いた瞬間−べちゃ−悲しいタイミングで泥玉が胸にぶつかった。
 姿を消した相手が見えるはずも無いので、この状況を解説すると・・・・2匹目が泥玉を投げようとしたら、突然村人が走り出したため投げるタイミングを逃してしまう。彼はどうしようか迷ったものの「とりあえず投げとけ」という前向きな行動により今に至るのだが、それが大失敗。
 「えい」−ぽふ−軽い音とともに、マリエッタが投げた小麦玉がはじける。もうもうと立ち込める小麦粉が、見慣れたシルエットを浮かび上がらせた。
 ・・・・切なくも静かな間。
「職人の縫い上げたドレスを台無しにした罪。許しませんよ?」
「キツイおしおきが必要ですね」
 泥で汚れた仮縫いの花婿・花嫁衣裳をまとった2人が冷たい視線で小悪魔を見下ろす。 「魔法の必要は無いかしら?」 そう思いつつも、シャロンはコアギュレイトの詠唱を始めた。

 「最も近くにいるグレムリンに、当たれ!」 念じてクラウディはムーンアローを解き放った。彼女が開放した魔力は月の光を帯びた矢となって不可視の悪魔を追う。そして・・・・
 −ぎぃ!− シャロンの指示した場所からさらに5mはなれた場所で目標を捕らえた。
「そこか」
 成り行きを見守っていた辰太郎は、魔法の矢が着弾した辺りを目掛けて矢を放つがこれは的を外し地面に突き立った。
 やはり姿が見えない敵を狙うのは難しい。すぐさま口笛で狼牙と虎牙を呼んで「捜せ」一声命じると、フライングブルームに2頭の後を追った。

●本物の新郎新婦に祝福を
「無理なお願いをして申し訳ありませんでした」
「こちらこそ1匹取り逃がしてしまった。すまない」
 深々とお辞儀をする神父に辰太郎は答えた。小麦粉を浴びたグレムリンは取り押さえ、教会に引き渡す事が出来たのだが、辰太郎と彼の愛犬が追った1匹は最後まで姿を捉える事もできず、逃げられてしまったのだ。
「いえいえ。これだけ危ない目に遭ったのですから、もう教会には近づかないでしょう」
 確かに魔法で攻撃された上、犬に追われるわ空飛ぶ箒に跨った冒険者に追われるわの「死にそうな思い」を味わえば、その場所に近づこうとは思わないだろう・・・・余程のスリルシーカーか、全く別のグレムリンでもない限り。
「そう言って頂けると助かります」
 マリエッタは感謝の意を表した。
 「ところで、他の皆さんはどちらに?」 確か冒険者は5人いたはずだと思ったのだが・・・・
「マリエッタさんの旦那さんは、汚れた花嫁衣裳の修繕に行かれましたよ」
 あまり感情を表に出さないシャノンの言だけに、本気なのか冗談なのか判断しにくい所。新婦役の女優はとりあえず苦笑いで受け流しておくことにした。
「それで、クラウディさんは?」
 辰太郎の問いに誰も答えられなかった。

「大丈夫。明日の式はうまく行きますよ」
 クラウディは式の成功を請け負った。式を控えた娘は気の毒なほど青ざめている。唯でさえ式を前日に控えた緊張の中で、このような事件が起きれば不安になるのは当然だ。
 パラの娘は花嫁の手を取り、ぎゅっと握ると微笑む。
「困難を乗り越えて結ばれた二人ですから、この先どんな事があっても大丈夫」
 姉が妹を諭すように優しく語りかけた。