林に潜む大敵・・・・本当にでか!

■ショートシナリオ


担当:熊野BAKIN

対応レベル:11〜lv

難易度:やや易

成功報酬:3 G 80 C

参加人数:8人

サポート参加人数:2人

冒険期間:06月25日〜06月30日

リプレイ公開日:2007年06月29日

●オープニング

●ある木こりの話
「いやね、あっしらはいつもどおり朝から林に入ったわけですよ・・・・あ、林と森の違いってご存知ですかぃ?」
「はぁ・・・・」
 受付としてはあるまじき生返事で答える受付嬢。それもそのはず、この依頼人が訪れてから数十分たつが、一向に依頼の内容に入ってくれないのだ。
 いや、彼の中では本題に入っているのかもしれない。それが証拠に「彼の仕事場である林で何かが起こっている」という事だけは推測できる。しかし・・・・
「・・・・てなわけで、あっしら木こりが手入れをしているのが林で、人の手が入っていないのを森って言うわけでさぁ」
 いい加減、我慢の限界だ。
 受付嬢は突然立ち上がると−ばむ!− 両の手でデスクをたたき、にこやかに職務を果たした。
「そ・れ・で、ご・よ・う・け・ん・は?」
「・・・・はい」
「ご理解いただけて嬉しいです」
 満面の笑みが返って恐ろしかった・・・・

●林の異変
 −・・・・・・・・−
「なぁ親父、変な音がきこえねぇか?」
 その違和感に気づいたのは彼の息子だった。
「・・・・なんだこの音は」
 父親は息子の指摘でようやくこの奇妙な音に気がついた。木を切る音ではない、そもそもこの林は彼らの祖父の代から手入れをして守り続けてきた場所で、村長と言えども木こり一家の許可無く木を切ることは出来ない決まりになっている。
「蜂の羽音みたいじゃないか?」
「そんなバカな。これが羽音なら、どれだけでかい蜂なんだ」
「ははっ、それもそう・・・・」
 息子は自分の台詞を言い切ることが出来なかった。父親もまた息子と同じものを見て絶句していた。暖かくなってきたとはいえ、まだ気温はさほど高くない。木陰に恵まれた涼しい林の中で、親子はぽたぽたと汗をたらしながら彫刻のように立ち尽くしていた。
 −ぶぅぅぅぅんぅぅうぅぅん−
 彼らの目前を巨大なスズメバチが通り過ぎる、その距離数m。10秒・・・・20秒・・・・30秒、息をすることも忘れ、2人はただ蜂が通りすぎるのを待った。
 そして1分がたった頃、ようやくうなり声のような羽音が消えた。
 「ぶはぁ!」 同時に呼吸を再開する。
「親父ぃ」
「ああ、こりゃ一大事だ」
 2人は互いに顔を見合わせ頷くと、一目散に村へと逃げ帰った。

●そして今に至る
「というわけで、あのお化けみたいな蜂を退治してほしいんでさぁ」
 手入れされた林は狩りの獲物も多く、薬草や食料の調達場所として村に無くてはならない場所との事。それに放置して置くと、いずれ繁殖して近隣の村にも被害が及ぶかもしれない。
「わかりました。すぐに募集をかけてみます」
「よろしくお願いします」
 依頼書の草案を推敲しながら、受付嬢は追加の条件が無いか依頼人に問うた。
「林ということは火を使ったり、木を傷つけないように留意したほうがよろしいですね?」
「きっちり後始末をしてくださるってんなら、多少はかまいませんが・・・・出来るだけ火を使うのは無しにしてくだせぇ」
 乾燥した時期ではないが油断は禁物。わずかな不注意が村人の財産を灰にしてしまうかも知れない。
「木のほうは・・・・まぁ傷ぐれぇなら問題ありません。村の悪がきも入り込んでますし」
 木材として出荷しているわけでは無いということか。
「わかりました。人数が揃い次第、向かうように手配します」
 そう締めくくると、受付嬢は依頼書の制作に取り掛かった。

●今回の参加者

 ea1249 ユリアル・カートライト(25歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea9669 エスリン・マッカレル(30歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 eb3173 橘 木香(29歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 eb3310 藤村 凪(38歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb5451 メグレズ・ファウンテン(36歳・♀・神聖騎士・ジャイアント・イギリス王国)
 eb6596 グラン・ルフェ(24歳・♂・レンジャー・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb7692 クァイ・エーフォメンス(30歳・♀・ファイター・人間・イギリス王国)
 eb8942 柊 静夜(38歳・♀・侍・人間・ジャパン)

●サポート参加者

レア・クラウス(eb8226)/ ルザリア・レイバーン(ec1621

●リプレイ本文

●話は短く簡潔に
「多分どこかに巣があるでしょう」
「どこか蜂が巣を作れそうな場所の心当たりはありませんか?」
 メグレズ・ファウンテン(eb5451)、ユリアル・カートライト(ea1249)の2人が林の地理に明るい樵(父親)に尋ねた。
「要点を纏めて貰えると助かる」
 間髪入れずに、エスリン・マッカレル(ea9669)が親父に釘を刺す。
何しろ彼の無駄話の破壊力は、百戦錬磨のギルド窓口担当をして半泣きにさせるほどの破壊力。冒険者といえども、仕事の前にそんな無謀を冒すほどチャレンジャーではない。
 「なんだぁ、取って置きの話があったんだが・・・・」無念のぼやきが聞こえる。まさに危機一髪。

 一方。「ラージビーを見かけた時刻は分かりますか?」 樵(息子)の方から攻める、グラン・ルフェ(eb6596)。この親にしてこの子あり、と言う可能性もあるが情報は出来るだけ多く欲しい。裏目に出ない事を祈りつつも聞き取り調査を始めた。
「簡単なんでええのですが、地図とかあらしまへんか?」
 藤村凪(eb3310)、が会話に加わった。どんなに手抜きな地図でもイメージの助けになるし、説明する側もやりやすいはずだ。
「確か今年の伐採予定を書き込んだのがあったと思います」
 樵(息子)は立ち上がり部屋を出て行った。地図は仕事場か何処かに置いてあるのだろう。グランと凪は顔を見合わせると無言で胸を撫で下ろした。

「今日は蜂蜜食べ放題ツアー!」
「ラージビーも蜂蜜を集めるのでしょうか?」
「うーん、どうだろう? それよりもラージビーだけに効く薬草があれば楽なのにね〜」
 所変わって小屋の外。うららかな春の陽気の下、なんとものんびりとしたした会話を交わしているのは、橘木香(eb3173)・柊静夜(eb8942)・クァイ・エーフォメンス(eb7692)三人娘。
 意外に思うかもしれないが、彼女達は別にサボっているわけではない。仕事は適材適所、自分達の仕事は林の中で大蜂と対峙した時だと、割り切っているのだ。
 ただ・・・・約一名「そういえば蜂蜜って旬があるんですか?」 真顔で聞くこの娘だけは今ひとつ自信ありません。

●林の中に響く羽音
「林の西側・・・・一昨年伐採したっていう場所ですね」
 地図の上でダウジングペンデュラムを揺らしていたクァイが探査結果を伝える。
「そこには丸太小屋があるそうです。痛みが酷くて修繕が必要らしいですが」
 グランは樵(息子)から得た情報を告げた。小屋の傷みがどれ程の物かは分からないが、窓や戸口をこじ開けて入り込んだ可能性は十分にある。

 「この辺りにラージビーは来た?」 「来た」ユリアルはグリーンワードで木から情報を聞き出した。
「ここにもラージビーが現れたそうです」
「依頼者さんが蜂を見た場所から、随分と足を伸ばしてるようやね・・・・どうやろ、2手に分かれて探してみぃひん?」
 凪はこの際、分散して蜂を探すことを提案した。いくら大きいとはいえ、あちらこちら飛び回っている相手を探すのに全員集まって、では確かに効率は悪い。
「そうですね。出来ればそのまま巣まで尾行できれば、手間が省けますね」
 メグレスが賛同する。ジャイアントの彼女にとっては、ここが手入れされている林だったのが幸いだった。思ったよりも木と木の間隔が開いているのでぶつかる心配はほとんど無い。
「こういう場所は不慣れですので、慣れた方に従います」
「ん〜、ねむいー」
 静夜の意見が霞むほどの木香の緊張感の無さ、ある意味大物の雰囲気と言えなくもない。ともあれ、他のメンバーからも反対の声は上がらない。目的地の見当はついているが、まっすぐ巣に向かうより1匹でも多くラージビーの数を減らしておきたい所だ。
 班分けを始めようとしたその時。「しっ!」 グランの鋭い聴覚が異変を捉えた。
「何か・・・・聞こえる」
 −ヴーンヴーン−彼以外の誰にも、まだその音は届かない。林を吹き抜ける風で掻き消されるほど微かな音、しかし。
「いた。2匹・・・・いや3匹か」
 担いでいたオークボウを構えなおすと矢を番える。エスリンの目は北から接近する大蜂の姿を捉えていた。樵親子は身動きをしないことで難を逃れたが、今回はこちらの人数も多くラージビーの数も多い。やり過ごすのは難しいか・・・・ならば。
 冒険者は武器を構え、ラージビーの動向を伺うことにした。

●丸太小屋
 夕刻を間近に控えた頃、冒険者達は蜂の巣と思しき丸太小屋近くにいた。最初の3匹の他、道中さらに4匹の大蜂を駆除している。
「傷は大丈夫?」
 ユリアルは先の戦闘で大蜂の針にやられたメグレズに声をかける。彼女の巨躯は並みの人間を凌駕する力を持つがその反面、虫のように単純な思考パターンで動くモノにとっては格好のターゲットになる。
「ええ。傷自体はかすり傷ですから」
 メグレズ本人もそれは覚悟の上ではあったが、2度目に打ち込まれた針から−じくり−と、体中に広がった激痛と不快な脱力感・・・・持参した解毒剤で解毒はしたが、無意識のうちに傷口を押さえてしまう。
 その姿を見て、ユリアルが危惧したのは毒ではない。それは彼らの中で最も重装備なはずの、彼女の装備をも貫いたラージビーの針。毒ならば受けた人間の抵抗力次第で、必ずしも効果を現すとは限らないが針は違う。もしも複数の蜂に群がられたら・・・・
 「前衛は孤立しないように、後衛は蜂を多く引き付けている人を援護しましょう」仲間に声をかけた。

「矢を分けてもらえないでしょうか」
 クァイはバツが悪そうにグランとエスリンに頭を下げて回る。用意してきた矢が少なく道中の戦いで切らしてしまったのだ。
「まだ余裕はある、気にするな」
「こうゆう時もありますよ」
 優しい言葉がかえって痛いのは、きっと気のせいでは無い。

●激突・人対虫
 徐々に日は傾き、空に朱色が混ざる頃。
「帰って来ましたわね・・・・それにしても本当に大きい事」
 獲物を求めて出払っていた蜂達が丸太小屋に舞い戻ってきた。どんなに大きくとも蜂は蜂、日が暮れれば巣に戻ってくるモノだ。何度も見ては来たが、やはり蜂とは思えないサイズに溜め息混じりに呟く静夜。
「準備はよろしいですか?」
「だいじょうーぶー」
 ・・・・決して大丈夫に聞こえない返事だが、道中で見せた彼女の動きは正に達人。天分の才か努力の賜物かは定かでないが、彼女が大丈夫と言うならきっとそうなのだろう。
 静夜は鉄扇を持ち直すと、丸太小屋に集るラージビーに集中した。

 一日中獲物を求めて飛び回ったラージビー達が住処に集まる。彼らも生き物である以上、不眠不休で動き続けることは出来ない。窓枠を噛み破って開けた穴から、次々と室内へと潜り込んでいく・・・・
 −ひゅっ−−かっ! かかっ!−
 絶えず響く羽音を裂いて飛来した3本の矢が、3匹のラージビーをまるで昆虫標本の用に丸太壁に縫い付けた。
 −ヴァンヴァン−突然体の自由を奪われた蜂達は、それでも本能で異変を知らせる羽音を立てる。
「グラビティーキャノン!」
 解き放ったれた重力の波動が、敵を求めて旋回する数匹のラージビーを大地へとねじ伏せる。まさに道開く賢者の二つ名に相応しい光景。
「さぁて、いきましょか」
 両の手に小太刀を携えた凪が飛び出す。地面に落ちた蜂は無視して、飛び回っているモノからい1匹っづつ確実に落としていく。
「撃刀、落岩!」
 気迫の篭ったメグレズの声が轟く。唯でさえ大きな体の更に大上段から振り下ろされた刃が、まるで小枝を割るような音を立ててラージビーを切り裂いた。
 「さすがやねー、迫力が違うわ」小柄な凪は思わず賞賛の言葉を口にする。
「貴女こそ見事な剣捌きです」
 律儀にも返礼を返すところに彼女の実直さが垣間見えて気がして、凪はくすっと微笑んだ。

「はぁ!」
 静夜は鉄扇でラージビーの毒針を防ぐとダマスカスブレードを叩きつけた。地面に落ちた蜂を一匹、また一匹と丁寧に叩いていたが、時間が経つにつれ小屋の中から新しい蜂が出てくると、徐々に押され始めた。剣の冴えとは違って静夜の体術はあまり錬度が高くない。
 −ずん−左太ももに鈍痛が走る!
「くっ・・・・」
 口にするより早く傷口から激痛が広がる。ラージビーの毒は致死性では無いものの、決して放置できる様なモノではない。静夜は足に取り付いた大蜂を振り払って距離を取ると、剣を下ろして毒消しに手を伸ばす・・・・が。
 −ヴヴヴン−空中で静止するラージビーと目が合った。尾から鋭利な毒針が見える。
 刹那の空白。
 「間に合え!」 念じて左手の鉄扇を叩きつける、寸前・・・・ぽと。羽を断ち切られた大蜂が地面に落ちる。
「居合い、ですか」
 夕日を背にして立つ木香に話しかけた。
「ね。ちゃんとたたかってるでしょ?」
 今だ眠そうな目をしてはいるモノの、彼女に助けられたのは事実。
「お見事です」
 そう答えると毒消しを取り出して一息で飲み干した。

●駆除完了
 エスリンは巣の奥にいた女王蜂に止めを刺した。
「これで最後か」
「巣を燃やせば終了ですね・・・・やっぱり蜂蜜はありませんか」
 剥がした巣を丹念に集めていたユリアルがポツリと呟く。
「え?」
 「いえ、別に期待してたわけじゃ無いですけど、ちょっと興味があったもので」慌てて弁解する姿が何処か可愛い。
 凪が余分に用意してくれた解毒剤のおかげで冒険者達に深刻な怪我も無く、無事に依頼を終了することが出来た。
 大きいとはいえ虫の発生は自然な事、それを駆除するという仕事に躊躇いもあった。それでも人に災いなすモノを狩るのは騎士としての、そして冒険者のアイデンティティ。

「武器の手入れしますよー。何方か希望者いませんか?」
 この声は・・・・クァイさんか。さすがは武器職人、この際だから弓の張りも見てもらおうか・・・・弓を手に小屋を出た。