人を食う森

■ショートシナリオ


担当:熊野BAKIN

対応レベル:6〜10lv

難易度:やや難

成功報酬:3 G 80 C

参加人数:8人

サポート参加人数:3人

冒険期間:07月06日〜07月11日

リプレイ公開日:2007年07月17日

●オープニング

●若き村長の憂い
「まぁ何処の村にもあるモノ、とお思いでしょう」
 村長と言うにはまだ若い、見たところ30代の男は大きく溜め息をついた。
「私だって、子供が森の奥に行かないようにするための御伽噺だろう、と思ってました」
 幽霊の住み着いた廃屋に悪魔の住む城。はては悪食の竜が住む滝壺等々、大人が子供を脅かす為に聞かせる話はそれこそ星の数程ある。実際、その殆どは彼が言うように「危険な場所に近づけない」為の作り話。とはいえ、その御伽噺が好奇心旺盛な年頃を強烈に刺激しているのもまた、事実だったりするのだが。

「それで依頼と言うのは?」
 まさかそんな御伽噺を集めてくれと言うわけでも無かろうが、とりあえず本題に入ることにした。
「実は私達の村の側にも「人食いの森」と言われている森があるんです」
「人食いの森?」
 要は森に入った人は帰ってこれない・・・・とか、そういう意味なのだろうが。随分とストレートなようで抽象的なネーミングだ。
「とはいえここ十年程、森に入った者はいないのですが」
 「はぁ」いったいなんだとゆーのか。
「何代か前の村長の頃。3人の子供が森に入ったっきり戻って来ないと言う騒ぎがあったそうです。何日も村人総出で探したがとうとう見つからなかった・・・・と」
 話の真偽は定かではないが、もしかして村に子供の捜索に加わった人がいるのではないだろうか? その旨を村長に問うてみる。
 「ええ。幾人かがその頃の事を覚えていました」あながち御伽噺では無い、と言うことか。
「依頼と言うのはその子供達の・・・・?」
「いえ、違います」
 まさかとは思うが・・・・受付担当が念のため確認する。すぐに否定の返事があったので安堵した。彼らにしても、今更過去の悲劇を掘り返したくは無いのだろう。

●人食いの森調査依頼
「じつはこの森、少々難儀な場所でして」
 村長の話によると件の森は山と山の間。いわゆる谷間にあって、木々の密度が高く斜面や根の張り出しで足場も悪いらしい。
 そんな場所だから大型の動物も少なく、狩りに適した場所でも無い。村人が森に行くときは、せいぜい外縁の木を切り出して材木にするか、薬草を摘む程度なのだそうだ。
「本来は冒険者さんの手を煩わす必要も無い場所なのですが・・・・」
 確かにその通りなのだが、そうも行かない理由を村長は付け加えた。
「じつはこの森に道を作れないか、と言う話になりまして」
 先にも言ったとおり、この森の両脇は山が控えている。山向こうの村か町に行こうとすれば、丸1日がかりで山を迂回しなければならない。
「あまり大げさなモノを作ろうと言う訳では無いんです。せめて人一人と馬が通れれば、と・・・・」
「成る程」
 道が整備されたキャメロット近郊とは違い、彼らの村では隣村に行くのでも時間と労力を払わねばならない。「道が欲しい」と言う彼らの願いはささやかで切実な願いでもあった。

「今回の依頼は、森の調査と言うことですね?」
「はい。よろしくお願いします」
「それで・・・・もしも、例のお話のような危険があった場合は如何しましょうか?」
 受付嬢は、依頼のネックである「人食いの森」伝説を切り出した。これの取扱い如何では、募集する冒険者の技量も考えなければならない。
「そうですね・・・・取りあえずは調査の方向でお願いします」
「わかりました」
 草稿に「討伐の必要なし」の一文を書き加えた。

●依頼書
 ・森の調査人員を募集。
 ・森に道を作るための予備調査。
 ・調査が目的。モンスターや野盗等の脅威に遭遇した場合、必ずしも排除しなくても良い。
 ・調査は森林の知識のある者が数人いれば、およそ2日程で完了できる。

●今回の参加者

 ea1181 アキ・ルーンワース(27歳・♂・クレリック・人間・イギリス王国)
 ea7278 架神 ひじり(36歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb5549 イレクトラ・マグニフィセント(46歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 eb7628 シア・シーシア(23歳・♂・バード・エルフ・イギリス王国)
 eb7636 ラーイ・カナン(23歳・♂・神聖騎士・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb7700 シャノン・カスール(31歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 eb7721 カイト・マクミラン(36歳・♂・バード・人間・イギリス王国)
 ec1783 空木 怜(37歳・♂・クレリック・人間・ジャパン)

●サポート参加者

カノン・レイウイング(ea6284)/ コバルト・ランスフォールド(eb0161)/ ディディエ・ベルナール(eb8703

●リプレイ本文

●調査初日・上空偵察隊
「御伽噺の舞台に入れるなんて、なんだかわくわくするな」
 フライングブルームにまたがって森の上空を飛行していた、シア・シーシア(eb7628)は呟いた。
「その御伽噺に悩まされる人がいなかったら、俺も同感だ」
「早かったね。そちらはどうだった?」
 背後から声をかけられたシアは、驚きもせず問いかけた。
「西の方は目印になりそうな物はないね。木の密度が濃いくらいだ」
 それはシアも感じていたが、同じくエルフの、シャノン・カスール(eb7700)も同意見という事は・・・・珍しいタイプの森と言えるだろう。
「集合時間までまだ少しあるな・・・・少し北の方を見てくる」
「僕は道を拓き易そうなルートを探してみます」
 2人は何度も同じ依頼をこなして来た事もあり、お互いの理解度は深い。短くこれからの行動を申告すると別々の方向へと飛び去った。

●調査初日・大地を這いずる捕食者
 −わんっ! わんわんっ!− 同行していた柴犬が突然飛び跳ね、今まで自分が立っていた地面に向かって吠え立てた。
「何か居るぞ、気をつけるのじゃ!」
 洸牙の主人、架神ひじり(ea7278)は忍犬の唸り声に殺気を読み取り、小太刀を抜刀する
「パンダ、警戒を!」
 ラーイ・カナン(eb7636)が自分の犬に合図を送る。場所柄大きな武器は不利と選択した短剣だが、その重みが些か心もとない。
「皆、無理は禁物だよ。今回は調査が目的だからね」
 身構えつつも、アキ・ルーンワース(ea1181)は冷静に呼びかけた。彼の言うとおり、今回は必ずしも「危険を排除する」必要は無い。もしも予想外に強力な敵がいたら調査報告を出し、改めて討伐の準備をすればいい。

「空木さん、足元!」
イレクトラ・マグニフィセント(eb5549)はその異常を見た。即座にソレの最も近くにいた空木怜(ec1783)に一声叫ぶと星天弓を構える・・・・が、「くっ」低く張り出した枝に弓が引っかかる。
 怜の足元の地面が突如、意思を持ったように飛び上がった。 「な!?」 慌てて飛び退るが、一瞬遅く土色をした不定形のソレが怜の足に絡みつく。
 −じゅぅぅ− 布を溶かし、肉を焼く不快な臭いがと煙がのぼった。
「くぅぅ」
 痛みをこらえ足に絡みついた異物を振り払う。
「早く、つかまって!」
 カイト・マクミラン(eb7721)は怜に手を貸そうと駆け寄り、その正体に思い当たる。
「クレイジェルだ!」
 「手を出すな!」 「下がれ!」 敵の正体を知った主人はすぐさま犬を下がらせる。猛獣やゴブリンならまだしもジェルが相手では、噛み付いた犬のほうが文字通り大火傷を負う事になる。
 「他にいるかも知れない、油断するな」辺りにイレクトラの声が響く。ジェルの攻撃自体は決して正確では無く殺傷能力も高いわけではない。相手の位置を把握さえしていれば、正直そう恐ろしい相手でもない。
 注意すべきは、むしろその不定形な体と生息地域にあわせた体色。非常に発見しづらく、不意打ちを受けてからやっとその存在に気がついた・・・・と言うことも少なくない。
「ラーイさん、ひじりさん。犬達と周りの警戒をお願いします! まずは目の前の敵を」
 相手がジェルではブラックホーリーも効果は無い。アキは冷静に自分の出来る事を考え、仲間に呼びかけた。

●初日・調査結果
 初日の夜、冒険者達は一度村へと戻っていた。調査結果を付き合わせ、2日目の調査方針を決める予定だ。
「クレイジェルですか」
「あんなモノが森にいたなら、行方不明者の痕跡1つ発見できなかったのも説明がつくのう」
 話題は当然ながら、地上班が遭遇したクレイジェルに集まった。連れて行った愛犬の鋭敏な嗅覚が、ジェルの存在を嗅ぎ分けててくれたから大事に至らなかったものの、気付かずに接近していたら深刻な事態になっていたかも知れない。
「今日一日で3匹発見して3匹とも駆除したが、あれで全部とは思えないな」
 怜の足をリカバーの魔法で癒したラーイが打ち合わせに加わった。
「ありがとう」
 「気にするな」怜の謝意に応えると、上空班の製作した森の見取り図を見る。
「森の中にはこれと言って目印になりそうなモノは無かった。ただ・・・・」
「ただ、なんですか?」
 アキはシャノンの言葉を促す。
「谷間なのに川が見当たらなかったな」
「そうか。何か違和感があったんだけど、それか」
 納得したようにうなずくカイトに、「何か問題があるのか?」 とイレクトラが問う。
「別に深刻な問題ってわけじゃないけど」
「強いて言うなら、この森にはわかり易いルートが無い、そういう事だろうな」
 シャノンが後を受けた。迷いやすい森と言う地形では、高いところから低い場所に流れる川は自分の位置を知る手がかりになる。それにしても霧が多く、ましてや霧の溜まりやすい谷間にあって小川1つ無いとは・・・・余程水はけが良いのだろうか。

「明日は俺達も地上班に合流しよう」
 どんなに考えても仮定しか出てこない問題に、いつまでも取り組んでいても仕方ない。シャノンは話題を切り替えた。気になる事があるなら明日の調査で確かめればいい。
「よし。今日調査した場所を地図に書き込んで、休むとしようかのう」
 ひじりは筆を取り、調査地図の作成に取り掛かった。

●二日目・最終日
2日目の調査は早朝から始まっていた。初日に調査したエリアは道を造り易そうなルートを下見しながら通過し、前日の夕方に調査終了の目印を刻んだ木の下から再開する。
「蔦草が多いのも視界の悪さに拍車をかけてるね」
 シアはペットのエシュロンを先行させ、足場を確認しながら進んだ。上空からの偵察では気が付かなかったが、実際に歩いてみると木に絡まった蔦草の葉が、唯でさえ狭い木々の隙間を埋めるかのように生い茂っていた。
 前日の例もあり、2頭の犬がクレイジェルの警戒に当たる。忍犬の洸牙は勿論、パンダも猟犬として活躍する事もできるボーダーコリーだ。2頭とも賢さと主人への忠誠は折り紙つき、彼らの鋭い感覚はジェル発見の助けになるだろう。

「どうやら野盗の類はいないようだね」
「ああ、人が通った形跡も無い」
 アキの見解に怜も同意する。人に限らず、ある程度の体格があるモノが通ればこれだけ密度の高い森だ、枝も折れるだろうし蔦草を掻き分けた跡ぐらい残すだろう。
 「消えた3人の子供・・・・か」やはりクレイジェルが原因なのだろうか? 怜は口のなかで噛み砕くように呟いた。

「なんだか、古木が多くなってきたね」
 カイトは隣にいたイレクトラに話しかけた。
「言われてみると幹の太い木が多くなった気がするな」
 彼女は軍船乗りで、海の上や船の知識はあっても陸、しかも森の事に付いては専門外。素直に感じた事だけを答えた。
「それに気が付いただけでも凄いよ」
 話に加わったのは森の専門家、シャノン。これだけ多くの木を見続けていて、なお微妙な違いに気がつくのは良い観察眼を持っている証拠だと思った。
 
 「?」 何かが絡んだ感触を感じてラーイは足元に目を落とした。見れば右足に蔦草が絡みついている。なぜ蔦草が地面に? 疑問は感じたが、ともかく解くなり切るなりしなければ邪魔でしょうがない。ダークを引き抜いて屈み込む・・・・と。
 −ぐん!− 
 蔦草が足を締め付けたかと思うと強烈な力で引き倒し、そのまま引引きずり始めた!
「うわ!?」
 −わんっわんわんっ!− 主人の異変に猛然と吠え立てるパンダ。
 「どうした!」 「クレイジェルか!?」 「違う・・・・別の何かです!」
「ラーイ!」
 怜は連れ去られようとするラーイに飛びつき、引きずられまいと踏ん張り、「誰か蔦を、蔦をっ・・・・」必死に叫ぶ。
「委細承知ぢゃ!」
 怜の叫びにひじりが反応する。小太刀「微塵」を大上段に構え「はぁっ!」 裂帛の気合と共に蔦草へ叩き付けた。
 −ぶつっ−手ごたえはまさに植物を切り捨てた感触。だが断ち切られた蔦草はしゅるしゅると蛇のごとく木々の隙間を縫って消えた。
「今のは一体・・・・」
 ラーイはそこまで呟いてから、ひじりがすぐ側にいるに気付いて転がるように距離を取った。助けてくれた恩人ではあるがこればかりは仕方ない。事前に理解と了承を得てはいたが、やはりバツが悪い。
「すまない・・・・助かった、ありがとう」
 「気にするな」「気にするな、ぢゃ」怜とひじりは屈託の無い笑みと、無邪気な笑顔で応えた。

●人を食う森・御伽噺の真実
「おそらくガヴィッドウッドの類じゃないかな?」
 アキの推測に「調べてみよう」シャノンが立ち上がると、手近の木に手をあて意識を集中する。
「この近くにガヴィッドウッドはいるか?」
 『いる』グリーンワードの魔力を介して木の返事が返って来た。
 意識を集中して、再びグリーンワードを発動する。「ガヴィッドウッドのいる方向は?」 『北西』
「北西にガヴィッドウッドがいるそうだ」
 シャノンは得られた答えを端的に伝えた。無愛想なようだが、一度のグリーンワードでできる質問は1つ。得られる答えはごく単純な単語なのだから仕方が無い。
 ガヴィッドウッド・人食い大樹。トレントに似た外見をしているが、こちらは意思も思考も無い・・・・食肉植物だ。犬達が反応しなかったのも、相手が紛れも無く植物だったからだろう。

「これからどうする?」
 誰かが呟いた。どうする、とはガヴィッドウッドをどうするか・・・・と言う事だ。少しの沈黙。そして口を開いたのは・・・・
 「ガヴィッドウッドは排除リストに入れることにして、迂回して調査を続行しましょう」アキ。
 今回は調査を重視したため、冒険者達の装備は決して戦闘向きとは言えない。危険を冒してまで人食いの森の魔法を解くべきではない。

 だが・・・・すでに魔法は解け始めていた。御伽噺の舞台裏を冒険者達が見届けた、その瞬間から。