波間にたゆとう、厄介者

■ショートシナリオ


担当:熊野BAKIN

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 35 C

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:07月15日〜07月20日

リプレイ公開日:2007年07月20日

●オープニング

●私的にしろ公的にしろ、依頼は依頼
「よぉ」
 呼びかけられた受付担当が振り向くと、何処かで見たことがある男性が立っていた。
 「誰だったかしら?」 悩みつつも、とりあえず軽く会釈をして時間を稼ぐ。大人の対応というやつだ。
「今日は仕事上で来た訳じゃないんだが・・・・いや、まぁ自分の仕事を考えれば職務の範疇かもしれんな」
 仕事・・・・職務・・・・こんな言い方をすると言う事は宮仕えか?
「俺の弟が近場の港で漁師をやっているんだが、そこで厄介な事が起こったって知らせがあってな」
 ・・・・誰だろう、この口調からすると何度か依頼に来ているはず。思い出せ思い出せ、がんばれ私の記憶力!
「厄介ごとってのはな、入り江でウォータージェルが見つかったらしいんだ」
 ウォータージェル・・・・波間を浮遊する不定形生物で、触ったものを酸で溶かし吸収してしまう、危険な生物だ。
「まぁ上に報告しても良かったんだが、こうゆう訳の分からんものはあんたらの領分かとおもってな」
 上・・・・領分・・・・
「・・・・ああ! 詰め所の隊長さん!」
 思わずテンションがあがって大声を上げてしまう、受付嬢。
「なんだ、俺だと判っていなかったのか?」
 正体不明の男改め、隊長は半ば面白そうに半ば呆れて言った。
「いえその、いつもは制服でしたし、まさか私服で御出でになるとは思いませんでしたし」
 顧客の顔は覚えているつもりだったが・・・・不覚。なんとかその場を取り繕うと試みるが、隊長はそんな事を気にした様子も無く、後を続ける。
「今のところ見つかったウォータージェルは1匹だが、もしかしたらもう何匹かいるかも知れん」
 水面に浮かぶこの不定形生物を見つけることは非常に難しく、この個体も釣りをしていた漁師が浮きを溶かされた事で、ようやく気がついたらしい。

「船は漁でつかうモノがあるから問題ないし、船を漕げるのがいなきゃ地元の漁師が手を貸すそうだが・・・・」
 一呼吸。
 「漁師とはいえ一般人だからな、出来れば漕ぎ手も集まると助かる」おそらく・・・・これは依頼人だと言う、彼の弟さんの意見ではあるまい。
「家族思いなんですね」
 隊長は無言で、鼻の頭を掻いた。

●今回の参加者

 eb8646 サスケ・ヒノモリ(24歳・♂・ウィザード・ハーフエルフ・イギリス王国)
 ec1110 マリエッタ・ミモザ(33歳・♀・ウィザード・人間・ビザンチン帝国)
 ec2497 杜 狐冬(29歳・♀・僧侶・人間・華仙教大国)
 ec3256 エルティア・ファーワールド(23歳・♀・ファイター・ハーフエルフ・イギリス王国)
 ec3279 セフィア・リーンナーザ(23歳・♀・レンジャー・パラ・イギリス王国)

●リプレイ本文

●出航準備
「網か・・・・たしかうちの爺さんが使っていたのがあったはずだけど」
 依頼人−衛兵隊長の弟−はそう言うと、息子を漁具倉庫に走らせた。
「無理を言ってすみません。あの・・・・いかほどでしょうか?」
 マリエッタ・ミモザ(ec1110)は自分の持てる最大級の笑顔で価格交渉に臨む。あまり高額だと、報酬から足が出てしまうかも知れないが「作戦成功上必要なら・・・・」と、覚悟を決めたいた、が。
「そうだな・・・・船の漕ぎ手をそちらで用意してくれたようだし、その分の手間賃って事でどうだい?」
「え?」
 願っても無い話だが網は漁師の仕事道具、そんなに安売りしても良いのだろうか?
「助かります。でも・・・・本当によろしいのですか?」
 杜狐冬(ec2497)は素直にたずねた。まさかこの依頼に裏があるとは思えないが、腑に落ちないことは出来るだけ解消しておいたほうが良いと思った。
「単純な損得勘定さ。あれがいる海に新しい網を投げるわけにもいかねぇ、使い古しの網で片付けてくれるならこっちとしても有難い話だ」
 必要以上のモノは欲しないが、必要とあらばケチな損得勘定は度外視。これが海の男なのか、はたまた依頼人の性格なのか、なんにしろ気風が良いとはこういう人のことを言うのだろう。

「入り江の中には変な流れもないし、急な浅瀬も無いよ」
「そうですか」
 漁師の話に、サスケ・ヒノモリ(eb8646)は一先ず安心した。手漕ぎ船は何度か扱った事はあるが、あくまでも経験者程度のモノで、波が荒い場所や潮の流れの速い場所では自信が無い。そういった意味では、ウォータージェルは良いところに居てくれた・・・・といえなくも無い。不謹慎ではあるが。

「折角冒険者になったのに、まさか海に戻ってくるとはね〜」
「そう」
 漁師から借り受けた小船を点検しながら少女は・・・・もとい。パラの、セフィア・リーンナーザ(ec3279)がぼやきながらてきぱきとこなしていく。漁師の経験がある彼女にとっては手馴れた作業だった。それにしても・・・・わざわざキャメロットの冒険者ギルドまで出向いて冒険者になったというのに、まさか始めての依頼で海に戻ってくるとは夢にも思わなかった。
 たまたま近くにいた、エルティア・ファーワールド(ec3256)がポツリと応じる。別に無口というわけでもないが、口数が多い方でもない。適度にセフィアの身の上話に付き合いながらも、船に網を張る準備を進めた。

●櫂を漕げ、いざ海へ
 冒険者のプランは2艘の船に網を渡し、入り江を回るというモノだ。海の色と一体化して流されるままに移動しているウォータージェルを、目視で発見するのは非常に困難。地味で地道な手段ではある、が。その分、堅実で確実な手段ともいえた。ちなみに網にはミモザ商店提供の餌(非常食)が括り付けられている。ジェルはともかく魚は獲れそうだ

「そろそろ網を広げよう」
 右の船に乗り込んでいたセフィアが隣に並ぶ船に合図を送った。「了解」左の船を操船していたサスケは、手を振って応えると2艘の小船がゆっくりと離れていく。と同時に、船の間に張られた網がどんどん広がっていく。
 微妙な間隔調整や操船の合図は、漁師経験者のセフィアが出すことになってる。操船の技量が最も高く、海の上で経験も豊かなパラの少女は、今回の作戦のキーマンなのだ。

「風が気持ち良いですね〜」
 心地よい海風にマリエッタは同船している狐冬に声をかけ・・・・思わず言葉が止まる。狐冬は万が一、海に転落してしまった時の事を考え、薄手な衣服を選んで身に着けていたのだが。その服が返って彼女の豊かな胸を強調して、同姓のマリエッタですら目のやり場に困る状況になっていた。
 狐冬は彼女の視線に気付いくと、頬を真っ赤に染めながら「あ、あんまり見ないで下さい」両腕で胸元を隠して抗議の声を上げた。
「え、あ、ごめんなさい」
 慌ててマリエッタは海に目を向ける、が。何であやまら無ければいけないのだろう? ふと疑問が浮かぶ。
 「なんだかな〜」そんな2人を最年少のセフィアは櫂を握りながら、呆れ半分・微笑ましさ半分という感じで見守る。
 実にうららかなある日、朝の光景だった。これが仕事でさえなければ。

●波間にたゆとう厄介者
「狭い入り江とはいえ、やはり時間がかかるな」
 幾度目のかの漕ぎ手交代、エルティアから櫂を預かるとサスケは船を漕ぎ出した。一度昼食をとるために村に戻ったが、6時間でようやく入り江の半分を回ったところだ。
 ジェルの目撃情報は入り江の中央付近だったが、別の個体が居ることも考えて丁寧に調査を行った結果だ。
「波に動かされて移動した可能性は?」
 ここで言う移動は調査済海域、という事。エルティアの疑問ももっともだ、十分にその可能性はあるが。
「とにかく入り江を1周しよう。後のことはそれからだ」
 言ってみたものの、バイブレーションセンサーでは探知も海の上では探知もままならない。単調な作業に頼るしか無いと言うのも、また事実なのだが。
 
「ふゎぁ〜。判ってはいたけど骨が折るわ、これは」
 こちらの船も状況は概ね同じだが、操船はセフィアが一手に引き受けていた。船を繋ぐという特殊な状況では、船の扱いに慣れた彼女の指示がどうしても必要だった。
 海の上という珍しい状況に、最初のうちはマリエッタと狐冬の2人はテンションが上がっていたが、変わらぬ景色と常にゆれ続ける足場に、かなり「やられ」ていた。
「あら?」
 マリエッタが声を上げた。まだ声を出せる元気があったのかと思いつつも、海慣れしているセフィアは彼女に話しかけた。
「どうしたの、魚でも跳ねた?」
「微かだけど・・・・呼吸の反応があった」
 船頭のジョークに気がつかなかったのは、ブレスセンサーの魔法に感が合ったから・・・・という事にしておこう。
 「方向は?」 「このまま正面・・・・いえ、もう少し右」 併走する僚船に合図を送ると、セフィアはマリエッタが示す方向へと船を向けた。

 船を走らせること数分。
「網に穴が! あそこです!」
 ひたすら網の状況を監視していた狐冬が叫ぶ。船の後方。指差す先を見ると今まさに網の目が溶かされ、穴が広がりつつある。その中心に居るのは、明らかに海水とは粘度の違う海色の・・・・「物体」
 真っ先にエルティアが反応した。足場が安定しない船上のため片膝をついて、出来るだけ揺れを受けない姿勢を取り、番えた矢を放つ。
 ウォータージェルに突き立った矢はつかの間、その形を留めたが木の部分が酸で腐食していく。酸でモノが溶かされていく・・・・それこそ滅多に見ることの無い光景に、冒険者の手が一瞬止まる。
「いけない! 手を緩めないで!」
 再び狐冬の叫びが海上に響く。わずかな間隙をつき、ジェルは網を伝わって移動を始めたのだ。唯でさえ狭い船だ、取り付かれでもしたら迂闊に魔法を使うことも出来なくなる。
「グラビティキャノン!」
 サスケが放った魔法がジェルの進行を押さえつける、が・・・・彼が放った重力の魔法は、射線にあるモノ全てに効果を及ぼす。静かな海面を穿ち、激しい衝撃を走らせ、そして・・・・ジェルが取り付いた網をも水面に押し込む。その網の先は、船に固定されている。
 「きゃっ!?」 「あぶ、あぶな!」 
 揺れる船に必死の思いでしがみ付く冒険者達。重装備では無いから海に投げ出されたとしても、すぐに沈みはしないだろう。それでもジェルの浮かぶ水面に入るのは・・・・断固拒否だ。
「す、すまない」
「それは後回し、また動き始めたよ!」
 サスケの声を掻き消すようにセフィアが叫ぶ。操船に長けた彼女は既に小船の揺れを収め、スリングに手を伸ばしていた。 
「消えてもらいます!」
 彼女に続いて立ち直ったマリエッタは、気迫と共にライトニングを解き放った。

●乙女の恋心は夕日と共に
「来た来た!」
 借り物の釣り竿を握り締め、サスケは無邪気な子供のように興奮して叫んだ。島国のイギリスではあるが、海で釣りというのはなかなか出来ることではない。
「兄ちゃん引き過ぎだ、それじゃ糸がもたねぇぜ」
 釣りの手ほどきをしてくれた漁師の声が聞こえた。うん、川の魚とは違って海魚はあたりも様々で億が深いな・・・・頭の隅でそんな事を考えながら、彼はアドバイスどおり糸を緩めた。

「ほい、出来たぜ」
「わぁ・・・・良い匂い、頂きます」
 狐冬は日没間近の浜部で、弟さん特製・魚の塩スープ煮込みを受け取った。味付けは塩のみという素朴な料理だったが、魚の旨みが溶け出していてなんとも贅沢な味わいだ。
「美味しい。なんだか懐かしい味がします」
 素朴な料理には素朴なパンが良く合う、狐冬は固パンをスープに漬して味わってみる事にした。
「お嬢さんもどうだい? お世辞にも上品な味じゃないが、仕事の後は最高だぜ」
 弟さんはマリエッタにも木皿に盛られたスープを勧めた。彼女は何するでもなく、ぼーっと火にかけられた鍋を見つめていたが・・・・狐冬のように料理そのモノに興味がある風でもなかった。
「あ、はい。頂きます・・・・ところで」
 マリエッタは木皿を受け取ると、思い切って切り出した。
「ん?」
「弟思いの素敵なお兄さんですよね、隊長さんて独り身ですか?」
 ときめく鼓動を押さえつけながらマリエッタは切り出した。乙女のハートは今、熱く燃えています!
「ああ、たしか3人目の子供が生まれた筈だ」
 「・・・・そうですか」鎮火。
 大丈夫。いつの日か貴女にもきっと素敵な出会いが待っている・・・・筈だから。

 夕日が今、乙女の恋心と共に静かに燃え尽きた。