リバーサイド・ストーリー
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■ショートシナリオ&プロモート
担当:熊野BAKIN
対応レベル:フリーlv
難易度:やや易
成功報酬:0 G 52 C
参加人数:5人
サポート参加人数:1人
冒険期間:09月02日〜09月07日
リプレイ公開日:2006年09月06日
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●オープニング
○依頼人御一行
「あの〜、依頼の受け付けはここでいいんですかね?」
「はい、こちらで受けたまわります」
毎日繰り返されるこの光景、毎日の様に交わされる会話。そして変わらぬ笑顔で依頼主を迎える受け付け担当に、今回の依頼人は幾分ほっとした表情を浮かべた。
「大した事じゃないんですがねぇ」
依頼人はご婦人方・・・・と言うより農家のおかみさん達は切出した。
○リバーサイド・ストーリー ダウンサイド
「もう我慢できねぇ!」
「そうだそうだ! 向こう岸のやつら、ちょっとばっかし城下に近いからって鼻にかけやがって」
「この前なんかエリックんとこの子供が丸裸で泣いて帰ってきたでねぇか!」
「ここらで一つ、思い知らせてやん無きゃなんねーべ! な、ジェイソン」
1日の仕事を終えたダウンサイド(小川を挟み、キャメロットから遠いというだけ)の農家の男達
(といっても4家族、14人だが)が村の酒場(早い話ジェイソン宅)で日頃の不満をこぼしあっていた。
ジェイソンと呼ばれた巨漢は、伸び放題の髭を撫でながら考え込んでいたが・・・・。
「よぉし、何時までも馬鹿にされたままじゃぁ男が廃る! 明後日の夕方、奴らに目にもの見せてやらぁ!」
○リバーサイド・ストーリー アップサイド
「スミスさん。ダウンサイドやつら、明後日の夕方決着をつけようって言ってきましたよ」
「へぇ、ジェイソンも腹を括ったかい。収穫まで待ちきれなかったようだな」
アップサイド(小川を挟み:以下略)の纏め役、スミスがニヤリと笑う。ジェイソンとは対照的な伊達男だ。
「どうするんです? 向うはジェイソンを筆頭に体力バカが揃ってますよ。真っ当に行ったら・・・・」
「頭は生きてる内に使うもんよ。俺に任せときな」
確かにアップサイドはダウンサイドに比べて体格は劣る。だが向うより人数が多い(5家族18人)、「頭は生きてるうちに使うもんさ」とスミスは不敵に笑うのだった。
○依頼
「では依頼内容は喧嘩の仲裁ということで?」
「いえ、そっちはもうどうでもいいんです」
「はぁ?」
思わず聞き返す担当者。
「事の発端は下らない話なんですよ、それも男達ばっかりで盛り上がってて」
「いよいよ私達の堪忍袋も限界でねぇ」
「ここは一つ、気が済むまで遣り合ってもらうことにしたのさ」
「鎌とか鍬とか刃物みたいな危ないモンは、みぃ〜んな隠して来たしね」
女は弱し、されどおかみさんは強し。気圧されっぱなしの担当、なんとか平静を装い職務を遂行する
「で、では依頼というのは?」
「ああそうだったね。ようは殴り合いが終ったあと、男どもを村の集会所に運んで欲しいのさ」
「なにせ、ジェイソンは熊みたいな図体してるからねぇ。あたし等だけじゃとてもとても」
「それをいったら、スミスんとこの息子だって負けてないわよ」
「全く村の男どもときたら、図体ばっかりでかくて頭の中は子供なんだから」
−かんらからから−豪快な笑いがギルドに響き渡る。
「と言う訳で、図体のでかい子供の後始末を手伝って欲しいんだよ」
「・・・・はぁ」
「あんまりお金は出せないけどさ。その代わりに行き返りと滞在中の食事は、あたし達でもたせてもらうよ」
「そうそう、一汗かいたら私らで宴会を開くから、遊びのついでと思って手伝っておくれな」
「もっともあたしらはソレが楽しみなんだけどね」
−かんらからから−豪快(以下略)
−落ちつけ自分。君はプロだ− 一呼吸。
「分かりました。その線で募集をかけて見ます」
最後の最後に自分を取り戻した担当者に、拍手。
●リプレイ本文
●夕刻、嵐は過ぎて
「あんた達かい? 手伝ってくれる冒険者さんってのは」
橋の上から騒動を見守っていた女達の一人が、村に到着したばかりの冒険者達に声をかけた。
「ああそうだ、間に合ったかな?」
馬から下りて答えたのは七神蒼汰(ea7244)だった。
「丁度いいくらいだね、ほらもう終るよ」
おかみさんが指すままに橋の上から小川を見下ろすと、死屍累々・・・・もとい川岸や土手、あちら此方にぶっ倒れている男達。
全員K・O済みか? いや違う。残照に照らされて、大柄な影が2つ見える。
「アレが噂のジェイソンさんとスミスさんの息子?」
「そう。図体ばっかり大きくて、中身は子供の親玉とガキ大将さね。悪いけど面倒見てやっとくれな」
問われたおかみさんが赤毛の少女、神楽絢(ea8406)に答えた。
パラである絢は、集まった冒険者の中でも一際小柄だった。だがおかみさんはそんな事を気にもせず「面倒を見てやって」と言った。
「わかってるなぁ」絢は心の中で独りごちた。
−ごつ!−
−がす!−
打撲音が2つ。
「あ」
思わず声を上げた黒髪の少女、衣笠陽子(eb3333)が見守るなか、2人の大男はそれは見事なクロスカウンターを交わして崩れ落ちた。
『ふむ。勝負は引き分けだな』
『左様ですなぁ。ま、陰惨な事件になるよりはマシでござろう』
『そりゃそうだ』
ジャパン語で会話しているのは日高瑞雲(eb5295)と龍堂浩三(eb6335)の2人。何故と言われれば、浩三がイギリスに来て日が浅く、イギリス語を解さない為だ。
「さぁて、そろそろはじめようか」
その声を契機におかみさん達が動き出した。
『それじゃ俺達もとりかかるか』
瑞雲がジャパン語で仲間に声をかける、奇遇にも今回のメンバーは全員ジャパン出身だった。
●下準備
「それじゃ、この荷車借りるわね」
「好きに使っとくれ」
絢がおかみさんに挨拶をしている間に、蒼汰と瑞雲が彼女の馬を荷車に繋いでいた。
蒼汰、絢、瑞雲の3人は乗馬を所有していたので、農家から荷車を借り、荷馬車を使って効率よく怪我人を運搬する計画だ。
荷車といっても、藁や飼葉を摘む程度の物だが3〜4人は余裕で積みこめるだろう。
「これで良し、と。あと1台借りられれば準備完了か」
「まぁ問題なかろう、みんな協力的だしな」
蒼汰の呟きに笑いながら瑞雲が応じた。
「そうですか・・・・。お邪魔してすいません」
絢はおかみさんに頭を下げた。
『どうでござった、絢殿?』
『私達の国と出入り口の形が違うので、戸板と言う物は無いそうです』
陽子と浩三は担架の変わりに戸板を借りようとしたのだが、文化の違いでかなり難航していた。
『成る程。ならば何か代替品は無い物でござろうか』
忍びという職業柄、浩三は率直に現実を受けとめ次の手を考えていた。
『あの、床板とかはどうでしょう?』
成る程、此方の家の床は板張りが多い。ならば手頃な物が有るかもしれない。
『それは名案でござるな。その線でまいろう』
既に浩三は修繕中らしき家に目星を付けていた。
●作業開始
冒険者は手始めに、ジェイソンとスミスJrを運搬する事にしていた。この2人の熊、もとい大男を済ませてしまえば後は人並みの体格ばかりだ。
ジェイソンの脇と臀部にロープで補強した縄梯子を通し、5人全員を投入して荷台へと釣り上げる。
『行くぞ、いいな? せーの!』
瑞雲が音頭をとって掛け声をかけているのだが・・・・集会所にいるはずのおかみさん達、若い娘さん達までもが遠巻きに集まっているのは気のせいか? 瑞雲の掛け声と供に黄色い歓声が上がっている。
ギャラリーばかりか絢は苦笑いしているし、陽子に至っては耳まで真っ赤になって下を向いている。
瑞雲が褌一丁で奮闘しているのに、失礼極まりない話ではないか。・・・・褌はジャパン男児の正装ですよ? そうですよね?
下準備のお陰で多少重さに悩まされモノの、最重量級の2人を片付けた後はスムーズに作業は進んだ。
蒼汰、瑞雲の2人組は、積みこみと荷馬車を引いて河原から集会所への運搬を行った。
彼らの持ち馬がノーマルホースだった事がこの作業には幸いした。彼らには駿馬ほどの足は無いが、荷車を難なく引く体力を持っていたからだ。
戸板はなかったが浩三と陽子が調達してきた床板を切り揃え、結束する事で代替品を用意出来たのも作業の効率化に繋がっていた。
浩三と陽子は、絢の荷馬車を使って3人で怪我人を運搬していた。
『気絶した者が平素より重く感じられるのは、重心が運びにくいように動いてしまうからでござる。物体は、そのままであり続けようとする、というものでござるよ』
肉体労働はとかく無口になって沈みがちになるもの、力が弱く体力が無い者ほどテンションが下がって能率が落ちていく。
その点浩三は、薀蓄を織り交ぜて女性陣を上手くサポートしていた。
●早目の収穫祭
「ご苦労さんだったねぇ」
「こんなに早く片付くなんて、またお願いしようかね」
絢達が最後の怪我人を集会所に送り届けたのは、作業開始から1時間半ほど後の事だった。
「先ずは一杯やっとくれよ。一汗かいた後は最高だからねぇ」
一仕事終えた冒険者達を迎えたのは、テーブルに並べられた料理と樽で置かれたエール酒。そして陽気で逞しいおかみさん達だった。
「いよぉし! 飲むぞ!」
真っ先に樽に突進したのは、これを楽しみに褌一丁で奮闘した瑞雲。ジョッキを引っつかむと−ごきゅごきゅ! −と喉を鳴らして一息に飲み干す。
「抜け駆けは許さないわよぉ〜」
続くは小さな体に大きな笊、絢だ。
同じくジョッキを手にすると、なみなみと注がれたエールを一気に流し込んでいく。
「ほほう。やるじゃねぇか」
「ふっふっふ、あなたもね」
もう2人は止められない、止めるどころか廻りが煽りたててるし。宴会が大酒宴へと移行しつつあった。
『おや? 蒼汰殿は酒は嗜まれんのでござるか?』
『いや、そう言うわけでは無いんだがな』
蒼汰は微妙な表情で浩三の問いに答える。その返事を聞いた浩三は、両手に持ったジョッキを一つ、蒼汰へと差し出した。
『では一献付き合って下さらんか。良いご内儀ばかりでござるが、やはり言葉が通じんのがのう』
『違いない』
そう言うと蒼汰はジョッキを受け取る。
異国の地で同朋と、懐かしい故郷の話を肴に酒を酌み交わすのも「まぁ悪くない」そう思った。
その頃陽子は、未だに料理をつくっているご婦人達の側にいた。
「なんだい? お嬢ちゃん」
にこやかに微笑むおかみさん達。
生来の奥手で、何事も後悔ばかりだった陽子。でもこれはまたとない好機、思いきって胸の内を打ち明ける。
「あ、あの、私。料理が好きなのですが、まだ何も出来なくて。だから、その・・・・」
「あっはっは。そうかいそうかい、それであたし達を見て覚え様としてたんだね」
「は、はい」
料理が出来ない事を笑われた、そう思った少女は可哀想なくらい赤面して俯いてしまう。しかし。
「でも、どうせなら見てるだけじゃなくて手伝っておくれよ。これからミートパイをつくるとこなんだ」
陽子は顔を上げた。満面の笑みを浮かべるおかみさん達、なんて暖かい笑顔なんだろう。
「は、はい、お願いします」
ちょこんと頭を下げた異国の少女を、まるで実の娘の様に迎え入れる農家の女達。
これで一人でミートパイが焼ける様に成るかはどうかは、また別の問題。しかしこの時間は陽子にとって貴重な経験になるだろう。
●帰路での一幕
翌日の昼下がり。
依頼を完遂した一同はキャメロット城下への帰路についていた。
「今日だけは寝かせといてやるさね」
そう言うと農家の女達は冒険者達に別れを告げ、笑顔で野良仕事へと向かっていった。
「どこの国でも、最後までしぶとく生き残るのは百姓衆でござるな」
浩三が言った。飄々としている様に見えるが、その口ぶりは実に楽しげだ。
「土といきる人は強いよね・・・・。あ、そう言えば陽子さん。昨日は何処にいたの?」
そう浩三に応じた絢は、ふと思い出して陽子に声をかけた。
「おかみさん達に料理を教えてもらっていました」
「本当? じゃあ今度つくって食べさせてよ」
「えと、あの・・・・」
ふと陽子の脳裏に、おかみさんの声が甦った。
『上手く作ろうと思うより、美味しく食べて貰いたいって思う事。それがコツだよ』
「はい、頑張ります」
「それは楽しみでござるなぁ」
何時の間にかゲストが増えたのは気のせいだろうか。
蒼汰と瑞雲は3人よりも少し前で馬を並べていた。
「なぁ蒼汰。昨日俺何かしたか? 全く記憶に無ぇんだが、妙に顔が痛むんだよ」
顔に一閃、いまだに鮮やかな跡を残した瑞雲が連れに問い掛ける。
「さぁな。二日酔いか、さも無きゃ酔ってぶつけたんだろう」
蒼汰はそっけない返事を返す。
実は酒宴の後半に泥酔した瑞雲が、老若厭わず女性に絡みだす一幕があったのだ。
絡むとは言うものの、その実「肩を並べてひたすら口説く」程度の事。その程度の事だったのだが、余りの節操のなさに、業を煮やした蒼汰が「備えあらば」と用意していた簗染めのハリセンで粛清した、と言うのが事の顛末。
覚えていないなら、それはそれで手間が無い。一息付きかけた矢先。
「そーいや、往路で肩代わりした飯の事だけど」
どき。
「いくら食料が村持ちだからって、行き分ぐらいは用意しようや」
そう、なんと蒼汰は1日分の食料も持たず出発していたのだ。他の4人が余分に食料を持ってきていたから良かったものの、いかにも迂闊ではあった。
「村から貰った食料で清算したんだ。もうその話はいいだろう」
憮然とする蒼汰に、瑞雲がしれっと一言。
「いや〜、ハリセンなんてモンでぶっ叩かれたんだ。ちっとはお返ししねぇとな」
「っ! 貴殿、たばかったな!?」
いきなり駆け足になった前の2頭を、何事かと見守る3人と1頭。
世は全て事も無し・・・・?