リバーサイドストーリー 続・懲りない面々

■ショートシナリオ


担当:熊野BAKIN

対応レベル:フリーlv

難易度:やや易

成功報酬:0 G 52 C

参加人数:5人

サポート参加人数:4人

冒険期間:07月23日〜07月28日

リプレイ公開日:2007年07月28日

●オープニング

●怒れるご婦人方
「とにかくね、あたしゃもううんざりなんだよ!」
 −どぉん!− 別に槌を振り下ろしたわけではない。目の前のご婦人−もう何度か顔を合わせている−が、受付のカウンターを両手で叩いたのだ。
 自分は結婚していないが長女と言う立場柄、やんちゃな弟妹に悩まされて来た経験がある。幼い子供の面倒を見るのも苦労するのに、それが図体がスケールアップして今も続いているとしたら・・・・「冗談じゃない」正直な感想だ。
「それで、今回は旦那さん方のお仕置きですか?」
 気持ちはわかるが、冒険者が依頼とはいえ一般人に手を出すわけにもいかない。これはお断りするしかないかな、と思っていた、が。
「少し違います」
 ジェイソン婦人の後ろから別のご婦人が歩み出てきた。たしか・・・・スミス婦人だ。
「・・・・」
 担当はあえて口を挟まなかった。ご婦人方の説明を待とうと思ったから、なのだが。
「結局は何時もの欲求不満だからね」
 少し頭が冷えたのかジェイソン婦人が後を引き受けた。
「今回はあたしらも日頃の鬱憤を晴らさせてもらおうと思ってるのさ」
「・・・・?」
 説明してもらったら余計に判らなくなった、困った事に。

●第一回・煤玉投げ大会・・・・第一回?
「こうゆう風に布を丸めて、煤を塗りたくったモノを投げ合うのさ」
「怪我人が出ないようにそれ以外の手段は無しです」
 冬に良くやった雪玉の投げあいの様なモノだろうか?
「参加者は白い上着を身に着ける。上着に煤玉をぶつけられた者は失格」
「亭主チームと女房チームに分かれて1時間戦い、最終的に生き残った数の多いほうが勝ち・・・・と言うルールです」
 さほど重みの無い布の玉なら力の有無よりも、飛ばすコツを掴んだ方が有利になる。しかも常日頃から井戸端会議で意思の疎通をしている女将さんたちとは違い、何かにつけて衝突している旦那方はまともな連携は取れないだろう。
 なかなか考えられているな、素直に関心する受付嬢・・・・だが、とすると今回は何の依頼なのだろうか?
「それでね」
 質問をしようとしたまさにその瞬間、ようやくジェイソン婦人が本題を切り出した。
「あんたらに審判を頼めないかと思ってね」
「なるほど」
 どんなにルールに凝っても、それを公平・公正に執行する者がいなければ役に立たない。審判に冒険者を起用すると言うのは、いささか女将さん有利な気もするが・・・・まぁその辺も計算の上か。
「まぁ審判だけじゃなく、こっちに参加したいって人は参加してもらっても構わないけどね」
「ええ。勝ち負けよりは思いっきり騒いで日頃の鬱憤を晴らそう、と言うのが目的ですから」
 村の男の殆どが怪我でダウンするよりも、村の橋を壊されるよりも・・・・たった一日。一日だけ仕事を休むほうが得策。女将さん達の判断、意外と合理的かもしれない。

「あいも変わらず大した御礼も出来ないけど、食べ物には不自由させないからね」
「よろしくお願いします」
「・・・・はぁ」
 便利な言葉でその場を切り抜けるものの。「依頼書・・・・なんて書けば良いんだろ?」 新たな問題に頭を抱えて机に突っ伏す・・・・受付担当の、ある晴れた日の午後だった。

●今回の参加者

 eb5463 朱 鈴麗(19歳・♀・僧侶・エルフ・華仙教大国)
 eb5549 イレクトラ・マグニフィセント(46歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 eb8646 サスケ・ヒノモリ(24歳・♂・ウィザード・ハーフエルフ・イギリス王国)
 ec2025 陰守 辰太郎(59歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ec3226 ロイ・グランディ(30歳・♂・ファイター・ハーフエルフ・イギリス王国)

●サポート参加者

黄桜 喜八(eb5347)/ アーシャ・イクティノス(eb6702)/ ハスラム・エルバード(ec1623)/ セフィード・ウェバー(ec3246

●リプレイ本文

●審判団打ち合わせ
「それでは陰守さんと私はフライングブルームで上空から会場を把握、ですね?」
 サスケ・ヒノモリ(eb8646)は村人の有志(主にお年寄り)の審判団と共に、入念な打ち合わせを行っていた。
「そうですね。私達が上空から全体を、細部は皆さんにお任せします」
 陰守辰太郎(ec2025)は頷き「ただし・・・・」と、言葉を継げる。
「何度警告してもルール違反をする人には、容赦なくご退場願いましょう」
 集まったお年寄り(とはいえ、まだまだ現役)はどっと盛り上がった。
「ジェイソンのハナタレ坊主がぐずったら、わしがとっちめてやるわい」
 一人の老婦人が名乗りを上げる。何でもジェイソン氏と女将さんを引き合わせた人だそうで、あの大男もこちらの老婦人には全く頭が上がらないのだそうだ。
「それじゃスミスの小僧は俺が目を光らしておこう。あいつは昔っから悪知恵だけは働くからのぅ」
 赤ら顔の老紳士が楽しげに名乗りを上げた。子供の頃のスミス氏を良く知っている、いわば天敵のような存在との事。
「皆さんノリノリですね」
 盛り上がる審判団を前にサスケは辰太郎にそっと耳打ちした。
「それだけこの村の結束が強い、と言うことでしょう」
 辰太郎はにっこり微笑んだ。

●旦那チーム
「馬鹿いってんじゃねぇ、だぁれがお前なんかと!」
「ふっ。その言葉そっくり返させてもらおうか。力だけの熊男と仲良くなどと、願い下げだな」
 ここは村で酒場を経営する、ジェイソン家。一つの卓を真っ二つに分けて、旦那チームはいがみ合い・・・・もとい、ブリーフィングをおこなっていた、のだが。
 「これは想像以上だなぁ」あまりの雰囲気の悪さに、ロイ・グランディ(ec3226)は半分呆れ、半分諦めの表情で派閥争いの顛末を見守っていた。
 だが話を聞いていてわかった事も幾つかあった。第一に、この二つのグループは本当に憎みあって対立しているわけでは無い、と言うこと。要は・・・・アイツとはどうにもソリが合わない、その程度の感覚か。第二にジェイソンとスミス、それぞれのリーダーが「仕切りたがり」なのだ。ガキ大将2人がお山の大将の座を狙って対立している・・・・実もふたも無いが、つまりはそうゆう事だ。
 そして第三。ジェイソンもスミスもそれぞれが人望のあるリーダーだと言う事。
「勝ち目は薄いけど・・・・やれるだけやってみようかな」
 ロイは覚悟を決めると−ばんっ−両手でテーブルを叩くと、旦那チームの押し問答を中断させた。

●女房チーム
「朝一番でこことここに籠を付けるのじゃ」
 一方、こちらはスミス家。女房チームの打ち合わせ場所では村の地図上、数箇所のポイントを指差し、朱鈴麗(eb5463)は打ち合わせの陣頭指揮を執っていた。彼女はこの「煤玉投げ大会」で、事もあろうに罠の設置を提案していら。
 提案した直後は、そこまでやるのはどうだろう・・・・と言う雰囲気があった。しかしスミス婦人の「あら、それは面白そうね」の一言で、あっさりとこの罠作戦は承認されてしまった。

「奥さん。どうして罠作戦に賛成したんだい?」
 銀麗と一緒に女房チームで参戦した、イレクトラ・マグニフィセント(eb5549)はスミス婦人に尋ねてみた。
 「だって」スミス婦人は柔らかな微笑を浮かべて答えた。
「体力では男の人には敵いませんし」
 いたってシンプルかつわかり易い回答に、イレクトラは思わず声を上げて笑ってしまった。なんだ、当たり前の事じゃないか! 勝つために最善を尽くす。冒険者としては非常に納得いく答えだった。
「今回は馬鹿亭主どもをコテンパンにするのが目的だからね」
 女丈夫、と言った雰囲気のご婦人が話しに加わってきた。この人物がジェイソン婦人だ。
「いつもはこっちが我慢してやってるんだ。お返しさせてもらったって罰はあたらないさね」
 と、豪快に笑うジェイソン婦人。イレクトラはこの村、そして村人達の関係を羨ましく、そして眩しく感じた。

●大会当日・正午
 丸太橋を挟んだ川の両岸。アップサイド(キャメロットに近い川岸)には青い布を首や腰に巻いた女房チームが、ダウンサイド(キャメロットから遠い川岸)に赤い布を身につけた旦那チームが布陣していた。両チーム共通で着用している白い上着のせいか、何処と無く異様な光景ではある。
 審判である辰太郎は旦那チームに対してルール確認を行っていた。
「煤玉を当てられた者は失格ですよ? 隅っこで応援でもしていて下さいね」
 もう一人の冒険者審判、サスケは女房チームで同様の説明を行っているはずだ。村人審判はフィールドの各所・・・・橋の上や窓際など、それぞれの持ち場についている。
 ちなみに、審判の指示に従わなかったものは強制退場及び、試合後に罰ゲームが待ち受けているとの事。
「試合時間は1時間。相手を全滅するか、終了時間により多くの選手が残っていたチームの勝ち」
 フライングブルームに跨ったサスケが橋の中央付近へ移動しつつ、勝利条件を確認する。
「それでは煤玉投げを開始します!」
 同じく魔法の箒を操り、辰太郎は試合の開始を高らかに告げた。

「撤退じゃ!」
「走れー!」
 開始早々、女房チームの銀麗とイレクトラは号令をかけた。待ってましたとばかりに女衆は一目散に逃げ出す。開けた場所では遠投力に勝る旦那チームが有利、こちらの仕掛けに引き込んでこそ女房チームに勝機が生まれるのだ。
 「見事なチームワークだね」開始の合図と同時に近くの木によじ登ったロイは、相手の素早い動きに思わず唸った。
 木の下にはジェイソン、スミスが今にも取っ組み合いを始めそうな表情で控えている。樹上から敵チームの動向を伺い、2人のリーダーを通じて旦那チームに指示を出す、と言うのがロイの目論見だった・・・・が。
「いきなり逃げ出すとは思わなかったなぁ」
 もぬけの空になった敵陣をぼんやりと見つめていた。

 「木の上に何かいるぞ」「静かに、静かに・・・・」
 旦那チームの偵察隊は建物の影から一本の木を見上げていた。青々と茂った木の葉が風とは違う揺れ方をしている。しかもわずかな隙間から布のようなものが垣間見える。
 旦那達は無言で頷き合うと、物音を立てないように木に近づく。高鳴る動悸を無理やり押さえつけ、ようやく木の下にたどり着く。見上げると、やはり枝の隙間から青い布切れと白い布、それとロープに括り付けられた木桶が見える・・・・ロープと木桶?
「今よ!」
「ロープを!」
 銀麗とジェイソン夫人の声が響いたかと思うと、ロープが引かれその先に結び中けられた木桶が傾く。当然、木桶の中身は下にいる旦那チームの選手目掛けて降り注ぐ・・・・小さく丸められた布に、たっぷりと煤がまぶされた煤球が。
 「わぁ!?」 「うひぃ!」 「や、やられた」
 上着どころか、頭っから煤まみれになった旦那衆が地面にへたり込むのを見て、銀麗とジェイソン夫人はにんまりと微笑みあった。

「罠の使用は反則じゃないか?」
 報告を聞いたロイは審判に異議を申し立てる。何らかの手段は講じるだろうとは思っていたが、まさか罠とは・・・・
「うーん、確かにやり過ぎの様な気もしますが・・・・」
 辰太郎審判が考え込む。やりすぎではあるが「罠の使用は禁止」というルールは無い。(というより、そこまでやるとは思っていなかったのだが)
「審判長どうします?」
 判断を審判長である村の長老に委ねた。委託されたとはいえ余所者の自分より、村の重鎮に裁いてもらった方が納得しやすいだろうとの判断だ。
 「ふむぅ」橋の中央に陣取っていた審判長は少しの間、目を瞑り。そして・・・・
「アイデアの勝利じゃな」
 とのお言葉に、ロイは「はぁ・・・・そうですか」 と答えるのが精一杯だった。この御仁、なんとも柔軟な発想の持ち主。
「やっぱりちまちましたのは性にあわねぇ! 俺も暴れて来る!」
 悪い時には悪いことが重なるもので、ついにジェイソンに我慢の限界が訪れた。もともと村の騒ぎの先頭に立ってきた男だ。ここまで我慢したと言うのが珍しい。さらに・・・・
「ふん。お前が出て行ったって、でかい的が一つ増えるだけじゃないか」
 スミスが火に油を注ぐ。あまりの急展開にさしもの冒険者もあっけに取られ、いい大人同士の大人気ないやり取りを呆然と見つめてしまう。
「冒険者のお兄ちゃん」
「はい?」
 そんな状況下で後ろから呼びかけられ、素直に答えるロイ。振り向くと10歳ぐらいの少女が立っていた。
「どうしたんだい? お家の中に居なくていい・・・・の?」
 白い上着に、青い布で髪の毛を束ねた少女。
 −ぽふ−
 お腹の辺りで軽い音が聞こえた。
 「あ、ロイさん。失格ですね」追い討ちをかけるように、サスケの声が聞こえた。

●平和な村に日は暮れて
「大した御礼も出来ないのに、酒まで差し入れてもらっちまって・・・・なんだか悪いね」
 夕刻。勝者チームは冒険者の差し入れた勝利の美酒を堪能し、敗者チームは村の大掃除を行っていた。
 ふと見れば辰太郎はジャパンの酒、どぶろくを手に勝者の労を労って回っている。米というイギリスでは珍しい穀物で作られた酒を、村の女将さん達は珍しそうに味わっていた。銀麗に至っては自分で差し入れた発泡酒で出来上がり、スミス夫人の膝の上で「まだ飲むのじゃー」等と、幸せそうに寝言を言っている。
「この村は・・・・本当に仲が良いね。うちのとは大違いだ」
 イレクトラはぽつりと呟いた。
「なぁに、アンタの良い人だってアンタの事を想ってるに決まってるさ」
 え? 自信満々の言葉に思わず女将さんの顔を見る。
 「こんな良い女を忘れる馬鹿な男がいるもんかい」女将さんは胸を張って断言すると、からからと笑った。つられて声を上げて笑うイレクトラ。

 あいつはいまノルマン辺りかね・・・・あたし達の一人娘はパリで名を上げているらしいよ。暮れ行く空に向かって、そっと呟いた。