小悪党の災難な数日
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■ショートシナリオ
担当:熊野BAKIN
対応レベル:11〜lv
難易度:普通
成功報酬:5 G 55 C
参加人数:8人
サポート参加人数:1人
冒険期間:08月18日〜08月23日
リプレイ公開日:2007年08月24日
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●オープニング
●立てこもる2人
「ゴードンさん、今のうちに包帯を変えましょう」
「・・・・」
自分の半分ぐらいしか無い小柄な少女に促され、スキンヘッドのジャイアントは床に(椅子では届きにくいので)腰を下ろした。少女は手際よく大男の腕に巻かれた包帯代わりの布切れを外すと、新しいモノに変える。
「・・・・」
戸口から外を窺っていた痩身の男は、微笑ましいようなそれでいて苦々しいような表情で2人を見た。
彼らはこの村の人間ではない。いつもはリーダー格の女魔術師と3人であちらこちらに流れて行き、行き着いた場所で面倒事や汚れ仕事を引き受ける・・・・いわば流れ者だ。
行き着いた先の人間と親しくしたって何のメリットも無い。仕事が終われば自分達は別の街や村に流れて行くだけなのだから。
「なーに難しい顔してんだい!」
どーん! と背中を叩かれ、危うく戸外に転げ出そうになる。
「あぶあぶ、あぶねぇって!」
彼−ヘルマン−をどやした年配のご婦人は悪びれる素振りも無く、カラカラと笑い声を上げ。
「じきに朝だ。そうすりゃ一息つける・・・・それまでの辛抱だよ」
ドアの隙間から外をのぞくと、うっすらと空が白み始めている。程なく太陽が上がり、襲撃者達は巣穴へと戻るはずだ・・・・少なくとも昨日まではそうだった。
「姐さん、急いで下さいよ」今日もそうである事を祈りつつ、ヘルマンは心の中でリーダーに呼びかけた。
●ギルドにて
「だからさ、腕利きのヤツを用意して欲しいんだよ、今すぐ!」
「だから落ち着いて事情を説明してください!」
これで3回目だな・・・・と言う、同僚の視線を感じながらも受付担当は粘り強く、赤系統でコーディネイトした同業者風の女を粘り強く諭した。
「だから急いで人が要るんだって・・・・」
ああ4回目・・・・同僚の目に同情の色が浮かんだ瞬間。−ばぁん!− 受付担当は両手でテーブルを叩いた。
ギルド内が静寂に包まれる。1秒・2秒・3秒・・・・たっぷり10秒数えてから。
「それで本日は、どのような件ですか?」
「あ・・・・うん」
「掻い摘んで話すと、アタイらはとある山師に雇われて廃坑になった鉱山に行ったのサ」
何時の世も一攫千金を夢見る輩はいるモノ。枯れた鉱山と言うのも、ありがちと言えばありがちな話だ。
「何時もならそんな話には乗らないんだけどネ・・・・まぁ、色々物入りでね」
ここで視線を逸らす。担当は担当で「はぁ」と苦笑い。実はこのアマンダと言う人物、数ヶ月前に密猟を行っていたのだが、冒険者に捕らえられ詰め所に引き渡されたと言う経歴があるのだ。
「まぁそんなこんなでその廃坑ってヤツを調べてたら、別の穴に繋がっちまってね・・・・あー、その」
「その、何ですか?」
「・・・・コボルトの巣穴だったんだよ」
「それは災難でしたね」
例の件の報告では、彼女達もそれなりの技量を持っているとの事だった。コボルト程度なら造作も無くあしらえる筈だ。
「それがさ、ちょっと珍しい群れでねぇ」
「7、8匹ぐらいですか?」 ふるふると可愛く首を振るアマンダ。「10くらい?」 ふるふるふる。「まさか・・・・それ以上、ですか?」
「ええと20はいなかったと思うんだ・・・・コボルト戦士が、多分。えへ」
徐々に重くなる雰囲気に耐え切れず、場を明るくしようと試みるアマンダ。
「えへ、じゃありません!」 失敗。
「近くに民家とか・・・・まさか村や街は無かったでしょうね?」
草稿どころか、ダイレクトに依頼書を書き始める受付嬢だ・・・・が。いやーな間に恐る恐る顔を上げて。
「だから急げって、何度も言ったじゃないのサ!」
「開きなおるなぁ!」
今日一番の怒声がホールに響き綿渡った・・・・虚しく。
●状況説明
「廃坑の側に小さな村があるんだけど、アタイらはそこで宿を借りて調査をしてた」
羊皮紙に「廃坑」「村」と書き込んでいくアマンダ。
「それで村には何人残っているんですか?」
「・・・・男女合わせて14、5人。それとアタイの仲間が2人」
「貴方達に護衛を頼んだ人達は?」
受付嬢の質問に、「はっ」はき捨てるように答えた。
「真っ先に逃げ出したよ。村人に逃げろの一言も無く、ね」
ふと先の報告書と今回言っている事に矛盾を感じて、尋ねてみた。
「貴方は逃げようと思わなかったの?」
アマンダは一瞬驚いたような表情を浮かべたが、すぐに不適な笑みを浮かべ。
「依頼人を見つけ出して、目ん玉飛び出るくらいの割り増し請求をしてやるつもりさね」
うそぶいて見せた。
●対応策
「これだけの群れだし、族長がいてもおかしくないと思うんだ」
群れの数が増えれば増えるほど秩序を維持するために、中心となる個体が必要になる。それは人もコボルトも変わらない。
「群れを討伐するにしろ追い払うにしろリーダーを叩かない限り、また何処かで別の群れを作るだろうね」
この読みはおそらく正しいだろう。しかし、逆に言えば・・・・
「リーダー抑えてしまえば何とかなる。そういう事ですね」
「だからこそ腕利きが必要なのサ」
アマンダはニヤリと笑った。とはいえ、言うほど簡単な作業ではない。20匹弱のコボルト戦士の群れからたった1匹を見つけて、事に寄れば群れを掻き分けるような事になるかもしれない。
「ウチの2人が村人を一所に集めて護ってるけど、そんなに長い間は持たないだろうね」
「何か他にわかっていることはありますか?」
担当の質問に少し考えてから答える。
「以前酷い目にあったのか、明るいのが苦手なのか知らないけど奴等は夜にしか来なかった」
コボルトが夜行性とは聞かないが、族長の個性と言うか嗜好なのかもしれない。夜? ・・・・ふと思いついてもう一つ質問を・・・・と思った瞬間、アマンダが口を開いた。
「昼間のうちに村人を動かす、ってのは少し難しいかもしれない。年寄りが多いからね」
この意見を聞いた瞬間「彼女は彼女なりに最良の方法を考えている」そう確信できた。
●リプレイ本文
●月夜の攻防
その村は明かりも無く、ただ月明かりに照らされた小さな影が躍るかのごとく家の間を蠢いていた。
「アマンダ殿の仲間は粘っておるようだな」
尾花満(ea5322)は木立の合間から村の様子を観察した。
「? 何故わかるんですか?」
ふと気になった、クァイ・エーフォメンス(eb7692)は素直に問うた。彼には判断基準があるのだろうか?
「動きに殺気がありますわ」
「??」
九紋竜桃化(ea8553)が解説してくれたが、今ひとつピンと来ない。それもそのはず、彼らの表現は武士の感覚であって、イギリス生まれのクァイには馴染まないものだ。
「要するに奴等は狩りの最中って事だ・・・・桃化、これを」
草早の剣を手に近づいてきた、陰守森写歩朗(eb7208)が要旨を判りやすく解説する。
「お借りいたしますわ」桃化は一礼してから差し出された、オーガ殺しの剣を受け取った。
「で、どうするんだい? 朝まで待つか、それとも・・・・」
すぐに仕掛けるか。アマンダは挑発的な視線で冒険者の顔を見回した。
「まだ宵の口といった頃ですわね・・・・」
「夜明けを待つには待ち時間が長すぎる」
これまたジャパン独特の表現で時刻を計った、柊静夜(eb8942)と、 クロック・ランベリー(eb3776)の発言がこの後の行動を決定付ける。
「幸い月明かりのお陰で何とか狙える」
魔弓「夜の夢」を肩から外すと、クオン・レイウイング(ea0714)がOKサインを送る。彼の技量ならこの程度の悪条件は苦にもならない。
「すぐに攻撃を開始する。それでよろしいですわね?」
異議を唱える者はいない。セレナ・ザーン(ea9951)は静かに、しかし決然とささやかな作戦会議を締めくくった。
●強襲
−・・・・−−ぐるっ?− 微かに風を切るような音が聞こえた気がして、族長は辺りを見回した・・・・その時。−ぐがぁぁぁ!?− 人間の巣をこじ開けようとしていた同胞が、苦悶の悲鳴を上げてのた打ち回る。−ぎゃん!− 一瞬送れて、隣に立っていた仲間に何かが突き立つ。
−おおおぉぉぉん!− 敵だ! 即座に判断すると、族長はコボルト戦士達に敵の出現を知らせる雄たけびを上げた。
「吠えたヤツがリーダーかな?」
「多分そうだろう。群れの動きが変わった」
クァイの呟きにクオンが応じた。2人は他の仲間の突撃を支援するため、月明かりを頼りにコボルトの狙撃を行っていた。悲鳴を上げたコボルトは彼らの矢に射抜かれ、いまだ地面に転がっていた。
「もう少し混乱してくれると思ったが・・・・優秀なリーダーだな」
仲間の悲鳴に群れに動揺が走ったのが見えた、が。たった一声、一声の号令で波紋は消え去り、群れの機能が戻っている。
「乱戦になる前にもう少し削っておきたいかな」その声に答えるようにクオンは2本目の矢を放った。
「はぁぁぁっ!」
弓の奇襲が成功したと同時に、前衛の冒険者は木や岩の陰から飛び出した。敵リーダーの機転で奇襲の効果は薄れたものの、彼我の実力差を鑑みればその程度の見込み違いは問題にもならない。
桃化は月光を鈍く反射するコボルトの剣を交わすと、すれ違い様に大上段からの一撃を叩き込む。−ぎゃひぃ!− 小柄とはいえコボルトの体を両断するかの如き凄まじい斬撃が、瞬く間に彼を瀕死に追い込む。オーガスレイヤーの魔剣は存分にその切れ味を見せた。
「桃化様、お見事ですわ!」
セレナは異国の剣士の技に賛辞を送る。とはいえ彼女とて負けてはいない、両手持ちの長剣を上段に構えると、裂帛の気合と共に振り下ろす。
「村の人には指一本・・・・触らせません!」 振り下ろされた刃から放たれた剣風は隣接していた2匹を纏めてなぎ払う。さすがに一撃では仕留められませんわね・・・・セレナが呟いたその時、衝撃波から立ち直りかけた1体を真空の刃が弾き飛ばした。
「ご助力感謝いたしますわ、クロック卿」
ソニックブームを放ったクロックはその声に無言で頷くと、次の目標に目を向けた。
●焦り
コボルト族長は焦っていた。突然現れた人間どもは、彼の部下を枯れ木でも薙ぐかの様に容易く切り伏せていく。このままでは全滅するのも時間の問題だ。
−おぉぉぉん!− リーダーは即座に撤退の命令を下した。
「判断が早いな」
混乱を収拾した統率力、引き際の潔さ・・・・満は敵リーダーがなかなかの切れ者だと評した。とは言え冒険者達も僅か数十秒の戦闘で7匹ものコボルト戦士を仕留めていた。
目立った被害と言えば、カウンター狙いの桃化が軽傷を受けた程度。それも持参の薬で全快している。
「ヘルマン、ゴードン。コボルトは追い払ったよ、出ておいで!」
アマンダが呼びかけると一軒の家の扉が開き、決して人相のよろしいとは言えない痩身の男が飛び出してきた。
「待ちかねましたぜ姐さん!」
「いい女は待たせるもんさね」
泣き付くヘルマンを軽くいなしながら、アマンダは冒険者に目を向けた。
「これからどうするんだい?」
「巣穴の掃討に向かうつもりだ」
ぶる丸と柴丸の労を労いながら森写歩朗が答える。強行軍ではあるが、敵が体勢を立て直す前に叩いておきたい。
「災難ついでだ。村人の護衛を頼む・・・・さも無ければ」
雇われたとはいえ、3人組は事の発端に関わっているのだ。鋭い視線に思わず息を呑む3人組。
「森写歩朗さん。成り行きはどうあれ、あの方達は良い判断をしてくれましたわ」
静夜の助け舟を受けて。「逃げも隠れもしないよ」小悪党のボスは腹を括ったか、そう答えた。
●巣窟
「ここだよ」
村人の安否を確認すると、冒険者はすぐさまコボルトの追撃に移った。村の護りは引き続きヘルマンとゴードンが、巣穴への先導はアマンダが買って出た。
「この奥はどうなっている?」
「20mぐらい行くと開けた場所に出る。そこが奴らのねぐらさ」
クオンの質問に淀みなく答える。
「わざわざ出向いて、それを確認なさったのですか?」
「ああ」アマンダは肩をすくめながらセレナの問いに答える。
「雇い主が、どうしても・・・・ってごねたモンでね」
「成る程」
奥の様子を窺っていた満が会話に加わった。
「それでは打ち合わせの通りにセレナ殿はこの場を固めてくだされ・・・・ああ、アマンダ殿」
「アタイもここで待機、って言うんだろ」
「手の具合は良いか?」
「・・・・放っといとくれ」満の皮肉交じりの問い掛けに、アマンダは憮然と答えた。
「見張りも立てないとは・・・・思った以上に痛手を与えたらしいな」
「人に害を為す以上容赦は出来ぬ、ここでけりを付けねばなるまい」
松明に照らされる岩肌を見ながらクオンと満が言葉を交わす。あれだけの群れなら1匹や2匹、道中で出くわすと思ったがその気配すらない。
「そろそろ広場ですわ」先を行く桃化が小声で告げる。
どれ程の戦力が残っているかは不明だが少なくとも7匹は討ち取っている。アマンダ達の情報を信じるなら残りは族長を合わせても10匹程度の筈だ。
「思い切って参りましょう」
静夜は鬼剣・斬鉄を抜刀し、突入の気を待った。
●逆襲
「おおおおっ!」
人間どもの鬨の声を聞き、族長は己の迂闊さを呪った。まさか彼らの巣まで・・・・しかも夜と言う彼らの時間に攻め込んでくるとは思っていなかったのだ。
1匹の同胞が続けざまに射抜かれ崩れ落ちた。先ほどの戦闘で傷ついた同胞が真空の刃に切り倒される。
−戦って血路を開け!− −があぁぁぁっ!− 族長は決死の覚悟で号令を下した。
「見つけた! リーダーはあいつだよ!」
冷静に群れを見ていたクァイは、その変化を見逃さなかった。群れの奥・・・・一匹のコボルトが吠えるのと同時に、他のコボルトが応戦の構えを見せた。
「はぅっ・・・・」
静夜の注意が僅かにそれた。振り抜こうとした斬鉄が一寸深く敵の体に食い込み、一瞬動きが止まる。苦し紛れに振り回したコボルトの毒剣がわき腹をかすめた。異変に気付いた桃化がすぐさまコボルトを押し返す。
静夜は素早く解毒剤を飲み干すと目礼を送った。桃化は戦場にありながらも柔らかな微笑で礼に応えた。
「柴丸・ぶる丸、暫時敵を抑えろ!」
2頭の忍犬に命令を下すと森写歩朗は素早く印を結ぶ。暫しの集中の後、彼が解き放ったのはジャパン独自の魔法・忍法「微塵隠れ」
−どおぉぉん!−
術が結したその瞬間、彼の立っていた場所が轟音と共に爆発する。あまりの衝撃に一瞬、敵味方の手が止まった。そして・・・・粉塵が消えた時、森写歩朗の姿はその場から忽然と消えていたのだ。
−何処に消えた!?− 族長は姿を消した人間を必死に探す・・・・そして。
「此処だ」
背後から聞こえた声に慌てて振り向く、そして。村雨丸の刃が彼の肩に食い込んだ。
−ごあぁっ!− 長があげた苦悶の絶叫に、群れの士気はあっさりと崩れさった。
●夜明け
「小悪党等と言われていますが、気骨がおありですわね」
桃化の賛辞にアマンダは「よしとくれ」苦笑いを浮かべた。村ではようやく訪れた平穏を、ある者は神に、ある者は冒険者に。そしてある者は・・・・小悪党に感謝していた。
「貴方がたがこの村を救ったんです。なかなか出来ることではありませんよ」
「経緯はどうあれ3人であれだけの敵から村を守ったんだ。良くやったな」
年上のお姉さま方、商売敵の冒険者に褒められ、小悪党は苦虫を噛み潰したような表情でひたすら耐えるばかりだった、が。
「最初に言ったろ? これも仕事の内さね」
「依頼主を不名誉から守ってやったンでさぁ。がっぽり・・・・じゃねぇ、気前良く払っていただかねぇと」
「割りに合わないねぇ」
「・・・・ん」
そう言い残して3人組は村を出て行った。
結局のところ。
彼らがそう望む限り、彼らは「小悪党」なのだ。
冒険者達がそう望む限り、「冒険者」であるように。