貴婦人の憂鬱 おてんば狂想曲

■ショートシナリオ


担当:熊野BAKIN

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:09月07日〜09月12日

リプレイ公開日:2007年09月13日

●オープニング

●僅かながらも大きな違い
 すっかり秋めいたある日のキャメロット。それでも冒険者ギルドは、依頼を持ち込む者・依頼を受ける者がひっきりなしに訪れ、相も変わらず盛況だった。

「お邪魔しますわ」
「! これはマーシネス…?」
 入り口を押し開け入ってきたのは、通称マーシネス・・・・「侯爵夫人」と呼ばれる貴婦人その人だった、が。前回依頼を持ち込んできた時の、あのマーシネスとはどこか違うような気がして、受付担当は一瞬「あれ?」 という表情を浮かべた。
 マースネスはその表情の変化に気付いたのか、微かに乱れた前髪を手櫛で整えると苦笑を浮かべながら。
「お見苦しい姿で失礼。少々頭の痛い出来事がありますの」
 ああ、そうか。担当は気がついた。以前この貴婦人を見たときは、前髪の乱れどころか立ち振る舞いから仕草まで「一分の隙も無かった」のだ。然るに今のマーシネスは・・・・極端に言えば日々の生活に疲れた主婦のようなオーラを発していた。まぁ、身に着けているモノは庶民には高値の花・・・・な、品々ではあったが。
「それで、本日はどのような件で?」
「・・・・・はぁ〜〜〜」
 長い長い溜め息を一つ。マーシネスはしぶしぶ口を開いた。

●おてんば娘の破壊力
「王侯貴族というものは得てして兄弟・親類縁者が多いものですが、私もそうですの」
 別に家族が多いというのは上流階級に限った話ではないが、家名や血統に拘る分そういう確かにそういう傾向が強い。
「子供と言うのは可愛いものですわ。特に自分が母となる年齢になってからは特にそう感じますの。可愛い息子に手料理を作り、娘と一緒に縫い物を・・・・」
 「・・・・」正直、話の要旨が見えないが黙って聞く事にする。
「失礼、話がそれましたわ。私の姪にメアリーアンという子がいますの。まもなく11歳になる、さらさらとした銀髪と鳶色の目がとても可愛らしい子なのですが・・・・」
 ここで一息。
「それはもう、おてんばですの」
「はぁ・・・・元気があるのは良いことだと思います」
 「元気がある?」 うっかり発した受付担当の言葉に、マーシネスの瞳がきらーんと光を放つ。
「あれは元気がある・・・・なんてものじゃありませんわ! 主人の肖像画に熊のような髭を書き足したかと思えば、暖炉に潜り込んで煙突を登ろうとしてみたり・・・・挙句の果てに秘蔵の貴腐ワインで自分のお洋服を染めようとしましたのよ!?」
 この間、一息。
「・・・・あー。随分と個性的な姪御様でらっしゃいますね」
 かけるべき言葉が見当たらず、当たり障りの無い台詞で何とかその場を乗り切る。この分だとまだまだ余罪はありそうだ。何とか仕事の話に持ち込まねば。
 「それで本日はどのような件で?」 思い切って放った必殺の慣用句! まぁ・・・・使い慣れた道具が一番頼りになる、という事で。

●家出? 冒険? かき回される事に変わりは無いけれど
 さしものマーシネスも冷静さを取り戻すのに10分ほどを要した。鬱積したストレスは一度吐き出されると止まらない。この現象に貴賎の差は無いんだな、と今一良くわからない事実を確信した時。
「昨日の事ですわ」
 あ、ようやく復活した。貴婦人はなにやら文字の書かれた紙片を差し出す。そこに書かれていたのは・・・・『叔母様へ。 暫く外出します。  メアリーアン』
「ええと・・・・家出、ですか?」
 「私が聞きたいですわ」疲れ果てた。心底疲れ果てた・・・・マーシネスはカウンターに突っ伏した。

「当家の者は連日の騒動で、疲れ果てておりますの。どうかお願い致しますわ・・・・」
「今回の依頼は姪御様の保護、という事ですね?」
 「ええ」とマーシネスが頷く。
「何か特徴といいますか、手がかりになる事はありますか?」
「一度、家の者が見かけたのらしいですが、男の子の服を着ていたそうですわ」
 「姪御様はお金をお持ちですか?」 服を手に入れた、と聞いて表情が引き締まる。迂闊に大金を持ち歩けば、街中にいる「よからぬ者」の目を引きかねない、が。
「いいえ、あの子にはコイン1枚だって渡していませんわ」
 自信を持って断言する。ではその服は何処から手に入れたのだろうか?
「あの子は、メアリーアンはお友達を作るのがとても上手ですの。初めて行く土地でも、すぐにお友達を連れて来たものですわ。だから・・・・」
 街の子供達が協力しているのかも知れない、か。
「他には何か・・・・そう、好きな食べ物とか、お洋服が好きとかはありませんか?」
 「そうですわね」思案げに目を閉じると、すぐに何かに思い当たり声を上げる。
「犬とか猫とか蝶や鳥も、とにかく動物が好きでしたわ。だから絶対に生き物を苛めない子でした」
 とすれば、街の子供達に案内されて虫取りスポットや、飼い犬・飼い猫のいる家を歩き回っているかもしれない。
 些細な情報だが、これで行動パターンを読めるかもしれない。生き物が好き・・・・受付嬢はしっかりと書きとめた。

●血は争えない
「お手数をお掛けしますが、よろしくお願いしますわ」
 必要な手続きを終えると、執事に支えられながらマーシネスは立ち上がった。
「あのお聞きしたい事があるのですが」
 悩んだ末にひとつ尋ねた。これは仕事というより好奇心だった。
 「あら、何かしら」振り向いたマーシネスには「余裕」が蘇っていた。ああ、やはりこの人はこうでなくては。と、心の片隅で思いながら受付嬢は問うた。
「そんなに大変な姪御様なら、何故お預かりになったのですか?」
 「そうねぇ」貴婦人は少しだけ言葉を選んで、そして答えた。
「可愛い姪ですもの。それに・・・・」
「それに?」
「『メアリーアンは私の幼い頃にそっくりだ』って、よく言われますの」
 悪戯っぽく微笑むと、貴婦人はギルドを後にした。

●今回の参加者

 ea0021 マナウス・ドラッケン(25歳・♂・ナイト・エルフ・イギリス王国)
 ea1364 ルーウィン・ルクレール(35歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea2834 ネフティス・ネト・アメン(26歳・♀・ジプシー・人間・エジプト)
 ea6557 フレイア・ヴォルフ(34歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea7435 システィーナ・ヴィント(22歳・♀・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 eb2357 サラン・ヘリオドール(33歳・♀・ジプシー・人間・エジプト)
 eb3252 マミー・サクーラ(26歳・♀・ウィザード・エルフ・ビザンチン帝国)
 eb7208 陰守 森写歩朗(28歳・♂・レンジャー・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●帽子の子供達
「うーん、ダメだわ」
 サンワードの魔法でおてんば娘こと・メアリーアンの行方を探っていた、サラン・ヘリオドール(eb2357)煮え切らない表情で結果を告げた。金を媒体に太陽との会話を可能にするものだが、曇っていたり対象が日陰にいる場合は上手くいかないと言う弱点もある。の、だが。
「同じような服装の子が一杯いるのよ」
「どういうことだ?」
 道化のマスクを手にした、陰守森写歩朗(eb7208)がサランに問う。
 「多分・・・・」彼の疑問に答えたのは術士ではなく、フレイア・ヴォルフ(ea6557)だった。
「ありがちな帽子と男の子の服を着ている・・・・というのが原因ではないか?」
 そう、もしメアリーアンが「銀髪」で「お嬢様」の格好をしていれば、場所の特定が出来たかもしれない。しかし彼女は−冒険者にとっては不幸にも−街の少年達の服を借りて行動している。つまりは街の子供達の中に紛れ込んでしまったのだ。

 「大きな、白黒の毛色の犬」別の魔法でメアリーアンの行動を探っていた、ネフティス・ネト・アメン(ea2834)が浮かんだイメージを口にした。彼女が使ったフォーノリッヂは、幾つかの単語で指定した未来を見ることが出来る。その時間は決して長くないし何時ごろの未来かも分からないが、このまま冒険者達が状況を変えなければ、メアリーアンは「大きな白黒の犬」がいる場所に現れるという事だ。
「そこにメアリーアンが現れるなら、街の人に聞いてその場所を探してみます」
 ルーウィン・ルクレール(ea1364)が立ち上がった。他のメンバーは街の広場で旅芸人を演じるらしいが、彼は探しに出るつもりで居た。
「それじゃ私も行くね」
 久しぶりに引っ張り出してきた子供服を気にしながら、システィーナ・ヴィント(ea7435)も席を立った。彼女は愛犬のマリィと共に、子供に近い身長・年齢を生かして、彼らから情報を得るつもりだった。
 「あ」思いついたようにシスティーナはネフティスに尋ねる。
「大きな白と黒の犬って、マリィじゃ無いですよね?」
 「・・・・」一同の視線がマリィに集まる。
 1分経過。
 誰もその問いに答えることが出来なかった。

●貴婦人と淑女と吟遊詩人
「失礼ですが、姪御様が家を出た理由にお心当たりはありませんか?」
 屋敷の女主人を前に、マミー・サクーラ(eb3252)は話を切り出した。探索の頭数は十分に足りている、だからマミーは「何故彼女は家出をしたのか?」 その原因をはっきりさせようと思い、屋敷に乗り込んできたのだ。
 メアリーアンの肖像画を借りるため、マナウス・ドラッケン(ea0021)も同行していた。この後、街で旅芸人として行動する都合上、白鳥の羽の配されたつば広の帽子を手に吟遊詩人の扮装をしている。
「そうですわね・・・・無いこともないわ」
 事も無げにマーシネスは答えた、が。意味ありげにマミーとマナウス・・・・交互に視線を移す。
 「?」 その微妙な間と表情に疑問を感じたが、あえてエルフの淑女は貴婦人の答えを待つことにした。
「その前に・・・・そちらの吟遊詩人さんはメアリーアンの肖像画がご要りよう、でしたわね?」
 突然話を振られたマナウスは、動揺一つ見せず立ち上がると優雅に一礼する。
「すぐに用意させます・・・・素敵な帽子ですわね」
 借り物ではあったが、衣装を褒められた吟遊詩人は心の中で貸主の−こっちの方が似合うぞ似非吟遊詩人殿−台詞を思い出していた。
 『あながち皮肉でも無かったか』そう思いながら、今一度優雅に、そして恭しく一礼した。
 
●現在捜索中
 −くぅぅぅん−
 これで2度目。家と家の隙間、成犬とはいえ犬でさえ入ることを躊躇うような隙間の前で、フレイアはニルとヴァルを労う。
「全く子供は・・・・」
 メアリーアンのスカーフを借り、犬達に匂いを頼りに探させていたのだが・・・・最初は街の水路に降りた所で匂いを見失い、ようやく発見したと思ったら今度は僅かな隙間に阻まれた。と。
「フレイアさん、見つかりましたか?」
「たった今、見失ったところだよ」
 苦笑いを浮かべながら、ルーウィンに少女が通ったと思しき隙間を指差す。呆れたような表情を浮かべる騎士に、フレイアは「まぁ子供は元気が一番、だよ」と微笑んで見せた。これもまた彼女の偽らざる気持ちではあった。
 暫く情報交換をして1人と2匹はまた少女の匂いを、1人はその姿を求めて路地に消えていった。

「こうして見ると普通のお嬢様だな」
 一言呟くと、マナウスはマーシネスから借り受けた銀製のロケットを閉じた。ロケットにはメアリーアンの肖像画が収められている。もっと大きい絵もあったのだが、持ち運びを考えれば妥当な判断だ。
「さてメアリーアン嬢を探しに行きますか・・・・ん?」
 ふとキルトの裾を女の子−5、6歳といった所か−が掴んでいた。
 「どうしたんだい?」 迷子だとしたら邪険に扱うわけにもいか無い。目線を合わせて少女に声をかける。
 しかし少女は吟遊詩人に答えず、背線を左右に動かしてなにやらもじもじとするばかり。
「ああ、そうか」
 マナウスは彼女が何をしたいのかすぐに理解した。なぜなら彼女の視線の先に居るのは、仔猫のリトとナハト。
 「触ってみるかい?」 その申し出に少女の顔がぱぁっと輝く。彼の意を汲んでかリトが少女の胸に飛び込む。
 予定とは少々違うが、程なく他の子供達も集まってくるだろう。もとより彼はメアリーアンを無理やり連れ帰るつもりは無かった。
「急がず焦らず、ね」
 吟遊詩人は妖精の竪琴を取り出し爪弾いた。

「ねぇ、一緒に遊ばない?」
 システィーナは少年のグループを見つけると迷わず声をかけた。当初の読みが当たったか少年達は何やらひそひそ話しをしているが、敵意は感じられない・・・・だが。彼らの興味は彼女よりもマリィにあったらしい。
「ねぇ、この犬噛み付かない?」
「マリィは優しいから大丈夫だよ」
 恐る恐る問いかけてきた少年に、システィーナは太鼓判を押した。とたんに少年達はわっとマリィに群がった。ある少年はおっかなびっくり背中を触り、帽子の少年は大胆にもマリィの首っ玉に抱きついて頬ずりをしている。
 あまりの騒ぎに大丈夫かな? と、マリィの表情を窺うが、意外にも彼女はこの状況を楽しんでいるのか、はたはたと尻尾を振っていた。
「ねぇ、最近よそから来た女の子に会わなかった?」
 ぴたり。子供達の歓声が消える。
 「失敗したかな?」 今更後に退けない。
「メアリーアンって子なんだけど・・・・」
 「あの」マリィに抱きついていた少年が帽子脱ぐと−ふわっ−銀色の髪がこぼれ落ちた。
「私に御用ですか? お姉さま」
 鳶色の瞳に見つめられたシスティーナは、きっかり5秒。瞬きも忘れてメアリーアンを見つめる・・・・そして。
「広場に旅芸人が来ているんだけど皆で行かない? 動物もいるみたいだし」
 人間、予想外の展開に行き当たると、割とアドリブが効かなくなると言う一例。

●家出の理由・彼女の理由
「さぁ皆、クッキーは如何? 足りなくなったら皆で作らないか」
 集まった子供達にクラウンは用意したお菓子を振舞った。メアリーアンを保護したら後の子供は用無し・・・・と言う訳にもいかない。第一このまま追い返せば、不審に思った子供達が騒ぎ出すかもしれない。
 「彼らには包み隠さず話そう」クラウン−写歩朗−は最初から決めていた。彼らも少女の家族が心配している事を知れば、きっとわかってくれるはずだ。目立たない役回りではあるが、まぁ悪くは無い。
「ぶる丸、ぶち丸。皆さんに芸を見て頂こう」
 写歩朗は愛犬に声をかけた。

「あの子は賢い子ですから、薄々将来の事を感じているのでしょうね」
「・・・・」
 マミーは黙してマーシネスの次の言葉を待った。どんなに賢くてもメアリーアンはまだ11歳。そんな少女が何を感じているというのか。

「貴女がメアリーアンね?」
「はい、お姉さま」
 どちらかと言うと、サランの腕に止まったハルヒュイアに気が引かれている様にも見えたが、少女ははっきりと返事をした。
「叔母様が心配なさっているわ。一度家に戻った方がいいわね」
 叔母の事を聞かされると少女は後悔の気持ちからか、表情を曇らせた。
「貴女もお友達が、お手紙一つでいなくなってしまったら心配するでしょう? まずは叔母様に謝って、皆とまた遊べるようにお願いしましょうね」
「・・・・はい」
 自分のした事の重大さに気付いたのだろうか。最初の明るさとは打って変わって、少女はぽつりぽつりと答える。
「まぁまぁサランさん。メアリーアンだってお年頃なんだもの。きっと何か悩みがあるのよね?」
 一緒に話を聞いていたネフティスが助け舟をだす。
「どんな悩みでも私が占ってあげるわよ。あ・・・・もしかしたら、もう恋の悩みのお年頃かしら」
 「・・・・」「!?」
 顔を上げたメアリーアンの顔には、まるで何もかも悟った、世捨て人のような陰鬱な影がこびりついていた。

「貴族と言うのは、意外と不自由なものなのですわ」
 教養にマナー、家訓や名誉。考え様によっては確かにそういう面もあるのだろう。
 「何よりも」その時、マミーは貴婦人の表情に陰鬱な影が落ちるのを見た。彼女達は知るべくも無いが、それはメアリーアンが見せたそれと同種。
「あの子は、何方に娶られるのかしらね」
 「・・・・」それは隙間風のように寂しく、切ない声だった。

「ご迷惑をお掛けしました」
 マーシネス邸の門前でおてんば娘は冒険者達にぺこりと頭を下げた。彼女がほんの一瞬見せた影は、とうとう語られることは無かった。それでも華のような可憐な笑顔が冒険者の心を和ませてくれていた。
 「ああ、そうだわ」門を潜ろうとしたその時、メアリーアンはくるりと振り向くと、弾ける様な笑顔でこういった。

 「お兄様お姉さまと一緒なら、叔母様も安心ですわよね!」