小悪魔狂騒曲 恋人達が木の下で

■ショートシナリオ


担当:熊野BAKIN

対応レベル:1〜5lv

難易度:やや易

成功報酬:1 G 0 C

参加人数:5人

サポート参加人数:3人

冒険期間:10月07日〜10月12日

リプレイ公開日:2007年10月10日

●オープニング

●若者達の依頼
 『幸せの木、か。何処にでもあるのよね、こういう話』
 受付担当は依頼人である村の若者達の話を聞きながら、妙に冷めた立場でひとりごちた。勿論、心の中だけで。
「・・・・と、いうわけで何とか助けて頂けないでしょうか?」
「勿論です、そのための冒険者ギルドですから」
 その言葉と共に浮かべた受付嬢の笑顔は、今までに無く薄っぺらいモノだった・・・・後に同僚かく語れり。

●幸せの木
 事の起こりは・・・・まぁそれなりの村や街であれば似たような話はあるモノだろうが・・・・彼らがすむ村のはずれに、一本の大樹がある。この木は村人から「幸せの木」と呼ばれており、若い男女が月夜の晩に木の下で将来を誓い合うと、幸せな結婚を迎えることが出来る。と、信じられ大事にされているそうだ。

「ですが・・・・僕が彼女と一緒に幸せの木に行くと・・・・」
 一人の若者が木に起こった異変を語り始めた。
 それは秋にしては珍しく暖かな夜だった。若者は愛しい恋人の手を引いて、村はずれの「幸せの木」を目指していた。
 その下で若い男女が将来を誓えば、木に宿る精霊の加護を得て幸せな家庭を築けるという。ありふれた話ではあるが、若い彼らにとってはそんな些細な言い伝えも興奮と未来への希望、そしてすこしの不安で心満たされ、まるで大冒険をしているような気持ちだったそうだ。
 走ること10分ほど。小高い丘の上に幸せの木はいつもと変らず立っていた。友人と野山を駆け回っていたとき、隣村まで行くとき、そして彼女にほのかな恋心を感じたときも・・・・いつかはこの木の下で将来を誓おうと決めていたのだ。
 ようやくその時が来たのだ、と。若者は感慨にもにた感情で、ただただ約束の木を眺めていた。

「ねぇ、いつまでこうしてるの?」
 彼女に袖を引かれ、若者は我に返った。2人の両親とも彼らの交際を認めてくれいるし、約束の木のことも知っている。だからこそ嫁入り前の娘を夜中に連れ出すという、常識破りの行為に見てみぬ振りをしてくれたのだ。とは言え、あまり長い間連れ出して親に心配をかけるのは良くない。若者は決意を固めると彼女の手を握りなおし、坂を上がりじはじめた。
 ようやく木の下にたどり着こうかというときだった。
 −ひゅ−風を切るような音が聞こえたかと思うと、「痛っ!」  悲鳴を上げて娘がしゃがみこんだ。
「どうした!?」
 月明かりに照らされた娘の額からは一筋の血の筋が見て取れる。どうやら石の様なものがぶつかったらしい。
「こんな悪戯をするのは誰だ!? 冗談じゃ済まされないぞ!」
 大切な彼女の顔に傷を付けられた若者は木に駆け寄ると、犯人を捕まえようと木を上り始めた・・・・が。
 「痛、いたた! や、やめ・・・・」石つぶてが雨のように降り注ぎ若者を打ち据えたのだ。
 ほうほうの体で娘のもとに退散した若者が見たのは・・・・太い枝の上で彼らをあざ笑うかのように見下ろす、毛むくじゃらの物体。
「まさか・・・・」
「もしかして・・・・」
 2人は顔を見合すとたっぷり3秒、間を取り。
「グレムリンー!?」
 来たときと比べ、明らかに倍以上の速さで村へと逃げ帰った。

●人の恋路を邪魔する毛玉は
「その後も何度か何組か木に行ったのですが・・・・」
 小悪魔と思しき毛玉の妨害で「儀式」を完遂できた者は居ないそうだ。ちなみに妨害されるのは夜だけで、昼間に行っても何も起こらないとの事。
「姿かたちといい、悪戯を好むところといい、グレムリンで間違いないようですね」
 そういうと、受付嬢は妙に爽やかな笑顔で依頼書を作成し始めた。
「では確認します。幸せの木からグレムリンを追い払う、という事でよろしいですね?」
「はい、お願いします」
 ・・・・本当にご利益があるなら、次は試してみようかな。あ、でも若いって何歳ぐらいまでなんだろう? 依頼書にペンを走らせながら、受付担当は頭の隅でそんな事を考えていたとかいないとか。

●今回の参加者

 ea6484 シャロン・ミットヴィル(29歳・♀・クレリック・パラ・フランク王国)
 eb5350 レイチェル・ダーク(31歳・♀・クレリック・エルフ・イギリス王国)
 ec2497 杜 狐冬(29歳・♀・僧侶・人間・華仙教大国)
 ec3680 ディラン・バーン(32歳・♂・レンジャー・エルフ・イギリス王国)
 ec3682 アクア・ミストレイ(39歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)

●サポート参加者

クリステル・シャルダン(eb3862)/ ロキ・ボルテン(ec0168)/ アトルシャン・バーン(ec1360

●リプレイ本文

●幸せの木に集うは・・・・昼下がり
 秋には珍しく暖かな日が続いているある日。近隣の村人達が「幸せの木」と呼ぶ、一本の大樹の下で、この辺りでは見かけない男女がパーティー−ささやかなモノではあったが−の準備をしていた
「ほほほ、恋人達の邪魔をする不届き者は馬に蹴られると良いわ」
 出来合いのテーブルにノリノリで用意した発泡酒を並べているのは、レイチェル・ダーク(eb5350)。悪魔相手に効き目があるかどうかは不明だが、ハーブをブレンドした自作の薬湯・その名も「恋人達の祈り(邪魔者は消えるべし)」−突っ込みどころ満載の楽しい一品−を用意してお邪魔小悪魔を待ち受けていた。

 一方、複雑な思いで宴の準備しているのは、杜狐冬(ec2497)。テーブルに木製のジョッキを並べては物思いに耽り、暫くして我に返るといそいそと準備を続ける・・・・そんな事を暫く続けていた。
「杜さん、どうかしましたか?」
 「きゃ・・・・ああ、シャロンさんですか。い、いえ別に何でもありません」背後からの問い掛けに、慌てて返事を返す。
 声をかけたのは、シャロン・ミットヴィル(ea6484)。当たり前ではあるが、やはり彼女の挙動が気になったようだ。
「人の恋路を・・・・ではありませんが、報いは受けてもらいましょう」
 狐冬の行動を小悪魔への怒りゆえと取ったのか、シャロンはさらに続けた。決して愛想が良いとはいえない彼女がここまで言うということは、かなり怒っているのだろうか?
「そ、そうですね」
 とりあえずは便利な相槌でその場を切り抜けた狐冬ではあったが、その心中は誰も知らない・・・・知られるわけにはいかなかった・・・・

「女性陣は盛り上がってますね。意気込みが目に見えるようです」
 ディラン・バーン(ec3680)は酒宴の準備をしている女性チームから離れ、捕縛用のロープのチェックをしていた、アクア・ミストレイ(ec3682)に声をかけた。
「こういう事柄は女性の方が思い入れが強いんだろうな」
 アクアは女性チームに一瞬目を向け、そういうと作業に戻ろうとした、が。ふと、思いついたようにディランに声をかける。
「手が空いているなら、木の枝に小麦粉を振りかけて置いてくれないか?」
「枝に、ですか?」
「宴会に引っかかれば良いが、迂回して木に登られた時の事も考えておかないとな」
 軽業師のように・・・・とはいかないが、酒よりは自信がある。「わかりました」笑顔で応えるとエルフの青年は幸せの木に向かった。

●幸せの木に集うは・・・・夕刻
「まだ、近くにアンデッドは居ませんね」
 彼女、狐冬が言うアンデッドにはデビルも含まれている。ディテクトアンデッドの魔法で周囲の探索をしたため「アンデッド」と言ったまでで、ターゲットは毛玉の小悪魔ことグレムリンだ。
「やっぱり日が暮れるまで来ないのかしらね」
 そう言うとレイチェルはジョッキを傾けた。念のために確認しておくと、彼女達が口を付けているジョッキには水が入っている。グレムリンを捕まえる前に自分達が酔っ払ってはもともこも無い。
 「・・・・」シャロンは無言で水入りのジョッキに口を付けた。
 シャロン以外の2人は私服に村娘風の服を着ているので、まぁ・・・・「想い人待つ娘(?)」 達に、見えなくも・・・・無い?

 その頃、想われ人。もとい、男性2人はパーティー会場jから少し離れた場所にいた。酒が不得手なディランは、自分の外見を利用して「木に近づくカップル」として行動しようと思っていた。当然ながらこの場合の相手役は・・・・アクアになるわけだが、物理的に。
 当のアクアはというと、パートナーとも言える忍犬に指示を与えていた。正直なところ、簡単な命令なら卒なくこなす程の錬度はあったが、命がけの戦闘でも平時と同様に動いてくれるかどうか・・・・若干の不安もあるが、ここは訓練のつもりで働かせるつもりでいた。
 「落ち着いて、訓練どおりやればいい」アクアは優しく忍犬を撫でた。

●幸せの木に集うは・・・・冒険者と小悪魔
「さすがに冷え込みますね」
 焚き火を用意しているパーティー会場とは違い、小悪魔が現れるまで待機していることを選んだ男性陣の方には勿論、火の気はない。秋にしては暖かいとは言え、日が暮れてしまえば相応に冷え込む。男達は手をこすり合わせたり、犬を抱き寄せて思い思いに寒さを凌いでいた。

「そろそろかしら?」
 そう言うと頬杖をついてレイチェルが体を起こした。女性陣の方は焚き火のお陰で暖は取れていたが、さすがに水のジョッキをあおるのも飽きたか、世間話で時間をつぶしていた。
「そうですね・・・・」
 どちらかと言うと聞き手に回っていたシャロンが、精神を集中すると小声で何事か呟いた。それは先刻、狐冬が用いたのと同種の魔法、ディテクトアンデッド。
「・・・・いました、西に2体」
 不死者感知の魔法がグレムリンの存在を感知した。女性陣に緊張が走る。
「距離は?」
「20・・・・もしかしたらもっと近いかも」
「それで、レイチェルさんの方はどうなんですか?」
 無言で頷くと狐冬は怪しまれないよう、他愛もない会話を始めた。
「そうねぇ・・・・まぁまぁ、というところね」
 いわゆる「恋の話」というヤツだ。グレムリンが会話の内容を気にするとも思えないが、得てして計画や作戦は些細な所から破綻するモノ。念には念を入れたまでだ。
 発泡酒−ついでに「恋人達(略)」−入りのジョッキはあらかじめテーブルの端に配置してある。後はグレムリンが酒に手を出せば作戦開始だ。
 『沢山有りますのよ。どんどん召し上がれ』酒宴の主催者は心の中で呟いた。

 −ぎ?− −ぎぃぎぎ−
 現地にたどり着くはるか前に彼らは遊び場の異常に気がついていた。いつもは星明り月明かりしかない丘に焚き火があれば、まぁ普通は気付くだろう。
 不審に思い今晩は帰ろうかとも思ったのだが、今まで人間達の抵抗がなかった事と、彼らの慌てふためく姿が小悪魔達を大胆にさせていた。そして何よりもテーブルの上に並べられた木製の器に、強く強く関心を惹かれた。
 そう、その器に満たされているのは彼らの大好物、酒だ。

 −ずず−
 微かな音を立て、テーブル端のジョッキがテーブルの下へ消える。
「そういうものですか」
 気取られぬよう会話を続けながら、何気なく炎にかざした手をゆっくりと振り、男性陣にサインを送る。
 合図を受けたディランとアクアが動いた。一組の人影がゆっくりと焚き火に向かって歩き出す。
 狩人達の間に静かな緊張感が走る・・・・間にも、一つまた一つとジョッキがテーブル下に消えていく。見事なまでに空気の読めない毛玉小悪魔達。もっとも空気が読めれば、恋人達の逢瀬を邪魔したりはしないだろうが。

 少しづつ男性陣が近づいて来る。もう少し、もう少し・・・・「!」
 狐冬が隠し持った小麦粉をテーブルの下目掛けて叩きつける! もうもうと湧き上がる白い粉に染め上げられたのは、見慣れた者にはもうお馴染みの毛玉小悪魔こと、グレムリン。
 −ぎぃ?− 
 呆気に取られた1匹はジョッキ片手に呆然と辺りを見回すばかりだったが、事態を把握した1匹が弾かれた様に走り出した。
「コアギュレイト!」
 詠唱を終えたシャロンは逃げ出したグレムリンを目標に束縛の魔法を放つが、抵抗されたか効果を発揮しない。
 噴煙が上がったのを見たディランは梓弓を構えると2本の矢を番え引き絞る。小麦粉を振りまきながら逃げる塊目掛け。
 「逃がしはしません」一息に放つ。
 一本は僅かに狙いを外し地面を穿つが・・・・−ぎぃぁあぁ!− もう一矢が小悪魔の肩を捉えた。激痛にのたうちまわりながも、しかしグレムリンは逃げようともがき続ける、が。
 「行け!」 主の命令を受け忍犬が猛然と走り出し、小悪魔に踊りかかった。悪魔にとどめを刺すことは出来なくても、その動きを封じることは出来る。逃しさえしなければ倒すことが出来る、武器でも・・・・「ホーリー!」 魔法でも。

 残った1匹の結末はあっさりと決着がついていた。
 −ぎぃー! ぎぎー!− 必死にもがいてはいるものの、レイチェルの腕に翼と体を絡め取られているその姿は、一見ぬいぐるみのように見えなくもない。ただし抱いているほうの腕が5、6mも伸びていなければ、の話。
「あら、引っかくなんて躾がなってませんわね」
 ミミクリーの魔法で伸ばしたとは言え、紛れもなくそれはレイチェル本人の腕。引っかかれて痛くないはずが無いのだが実に落ち着き払っている。どれぐらい落ち着いているかというと、見ている狐冬の方が「今すぐ癒しますね」浮き足立って見えるほどだった。

●幸せの木に残ったのは
「イタズラもほどほどにしとけよ。そうじゃないとまた退治しに来るからな」
 まぁ1匹は倒しちまったけどな・・・・そう思いつつも、アクアはロープで縛り上げられた小悪魔に睨みを効かせていた。相方が倒されている分、説得力のある台詞だ。
 「それじゃ、そろそろ戻りましょうか」 宴会の片付けは朝に回すとして、取り合えず火の始末を終えたディランが声を上げた。

 仲間が呼んでいる。狐冬は覚悟を決めたように幸せの木に手を沿え、何事か呟くとぱたぱたと駆け去って行った。
 彼女が何を言ったのか。それは彼女と幸せの木だけが知っている、ささやかな秘密。
「私にも素敵な殿方が現れますように」
 夜風が大地を渡る音よりもなお小さな声で紡がれた、ささやかで清らかな乙女の祈り。

「忘れ物をしましたわ。すぐに追いつきますから」
 そういい残して仲間と別れ彼女が向かったのは、忘れ物をしたパーティー会場・・・・では無く、幸せの木の下。
 エルフの淑女が忘れたモノとは・・・・「私、普段はおまじないを信じませんのよ?」

 これからも幸せの木は願いを聞き続けるのだろう。恋人達の願いを、これまでと変らずこの場所で。