水源清掃 ゴブリンさんどいて下さいね

■ショートシナリオ&プロモート


担当:熊野BAKIN

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 35 C

参加人数:8人

サポート参加人数:1人

冒険期間:09月10日〜09月15日

リプレイ公開日:2006年09月15日

●オープニング

○ある村の風景
「そろそろ水源の掃除に行かねばなんねぇな」
「そうだなぁ、でも‥‥」
「うむぅ‥‥」
 廻りに川が無いこの村では、水源を井戸と近くの森の奥に湧く清水に頼っていた。
 2つ水源がある為、水に不自由していない様にも思える。だが実際は地中に眠る岩盤のせいで井戸は1つしかなく、大半は涌き水から引いた水路で賄っていた。
 水路は林の奥にあり、年に数回村人総出で水路の掃除や補修を行い維持・管理をして来たのだが、今年は少し事情が違った。
「しかたねぇ、冒険者ギルドさ行って助っ人を呼んでくるか」
「んだなぁ。背に腹はかえらんねぇ」
 沈痛な面持ちで村人は決断した。

○昼下がりの受け付けで
「ふぁ‥‥平和だねぇ」
 伸びをするついでにふと声が漏れる。
 今日は珍しくまだ一件の依頼も入っていない。こう平穏だと、ギルドとしては商売上がったりなのだが「たまにはこうゆう日もある」と、受け付け担当はのんびりと外を眺めていた。
 と、一人の若者が目に止まる。一目で「依頼人か」と担当者は確信した。
「本日1人目のお客さんか。まぁ一日中平穏なんてそうそうあるわけも無いか」

○依頼
「冒険者ギルドへようこそ。依頼の申請ですか?」
「は、はい」
「どうぞ此方へ」
 受け付け担当の秘儀「笑顔の接客」で、若者の緊張は大分やわらいだように見える。
 この技は何も好感度や、営業上の物ではない。依頼者を落ちつかせ、より正確な情報と報酬の上乗せをもたらす実戦の技なのだ。
「本日はどのようなご用件で?」

「実は村の水源に、ゴブリンの集団が済み付いたんです」
「ではゴブリンの討伐、という事ですね?」
「はい」
「それでは、ゴブリンについての情報はお持ちですか?」
 テキパキと依頼内容を書き出していく担当者、それでいて顔は依頼者への笑顔を絶やさない。プロだ。
「数は10匹前後だと思います。特に村へ悪さをするわけじゃないんですが、何か起きてからじゃ困りますし、それに」
「それに?」
「ぼちぼち水源の手入れをする時期なんです」
 どうやらゴブリンが村に近づくというより、村人がゴブリンに近づかねばならないらしい。
「あと群の中で1匹、体格の大きいヤツがいたって話もありました」
 成る程。10匹も集まっているならリーダー格がいてもおかしくない。

「わかりました。ではゴブリン討伐で参加者を募ります。それで宜しいでしょうか?」
「はい、宜しくお願いします」

●今回の参加者

 eb3333 衣笠 陽子(26歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb5295 日高 瑞雲(34歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb5451 メグレズ・ファウンテン(36歳・♀・神聖騎士・ジャイアント・イギリス王国)
 eb5818 乱 雪華(29歳・♀・武道家・ハーフエルフ・華仙教大国)
 eb6596 グラン・ルフェ(24歳・♂・レンジャー・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb6621 レット・バトラー(34歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 eb6623 ジェイ・フェラーリン(27歳・♂・神聖騎士・ジャイアント・ビザンチン帝国)
 eb6656 ディオ・ブランディ(24歳・♂・神聖騎士・ハーフエルフ・イギリス王国)

●サポート参加者

龍一 歩々夢風(eb5296

●リプレイ本文

●ブリーフィング
「最終確認といこうか」
 口火を切ったのは、黒髪を束ねた異国の青年、日高瑞雲(eb5295)
「OK。まずはこれを見てくれ」
 その言葉を受け赤毛の青年、レット・バトラー(eb6621)が見取り図を机の上に広げた。
「これは偵察班の調査結果を纏めた地図だ」
 その見取り図は水源の位置から獣道、ゴブリンを待ち伏せる地点と、罠を設置した場所が一目で見て取れる物だった。レットの言葉を引き継ぐ様に褐色の肌をしたエルフ−冒険者達は彼がハーフエルフだと知っている−グラン・ルフェ(eb6596)が発言した。
「敵の数は全部で12。水場に立ち寄ったというよりは、住みついてるって感じだった」
「それで群のリーダーの件ですが」
 さらに後を受けたのは同じくハーフエルフの女性、乱雪華(eb5818)
「一匹、明かに格上のモノがいました。もしかするとウォーリアーかも知れません」
  ゴブリンの中にも稀に幾つモノ戦いを経験し、腕を磨いたウォーリアーと呼ばれる者が存在する。そしてそれは通常のゴブリンとは比較にならない強敵だ。
「それは厄介だな」
 ジャイアントの聖騎士、メグレズ・ファウンテン(eb5451)が呟く。相手が本当にゴブリン戦士ならば、彼女の力を持ってしても手に余るかもしれない。
 沈黙を破ったのはもう一人のジャイアント、ジェイ・フェラーリン(eb6623)だった。
『大丈夫。皆の力を合わせれば勝利を掴めます』
「ジェイはいい事を言った。それに、俺達がやらなきゃ村人が困るしな」
 雪華の通訳にディオ・ブランディ(eb6656)が賛同する。ハーフエルフにして聖騎士。そして教師という生業を持つ彼は、その出自に負けることなく強い正義感を持っていた。
「私も頑張ります」
 8人の冒険者、最後の一人。陰陽師と言うジャパンの魔術師装束を纏った衣笠陽子(eb3333)も続いた。

 それ以上は声に出さずとも、皆の心は決まっていた。

●陽動
 数時間後、瑞雲とレットはゴブリンの野営地へと向かっていた。
 彼らの仕事は「群を水源から誘き出し、待ち伏せ場所まで誘導する」事。なのだが、道中気になった瑞雲はレットに声をかけた。
「レット。これから走るってのに、その格好はちょいと重くないか?」
 瑞雲には相棒の装備がこの仕事には少々重く思えたのだ。
「大丈夫、何とかなるさ」
 レットは瑞雲の心配を他所に軽く答えた。

「それじゃ始めるか」
 スタート地点に到達すると、瑞雲は持参した食料を取り出した。それを見たレットが声をかける。
「そんなものどうするんだ?」
「まぁ見てなって、あんたはそこで待っててくれ。俺が合図したら死ぬ気で走るんだぜ?」
 そう言うと瑞雲は干し肉を手に歩きだした。

 −ぎぃ? ぎひゃひゃ! −
 群に起きたざわめきに、リーダーは辺りを警戒した。すぐに木々の切れ目にたたずむ人間を見つける。
 此方を見ながら何かを食らっている様だ。何故ここに人間が、とも思ったが何よりその手にある食料にひかれた。
 −ヤツらは美味いものを食っている−
 謀らずもこのリーダーは、幾つもの村を襲った事のある筋金入りだった。そして人間の食料はそこらのモノよりも、はるかに美味い事を知っていた。
 −コロセ! −
 リーダーの号令で一斉に群が動き出した。

「かかったぞ、走れ!」
「了解っ! 俺の走ったとおりについて来いよ!」
 獣道にはレットら偵察班がしかけた、足止め用の罠が設置されている。引っかかれば転倒は免れないし、そうなればたちまち追着かれてしまうだろう。
「先刻承知よ!」

●迎撃部隊
「来た!」
 少し前方で見張っていたディオが陽動隊の帰還を告げる。一気に緊張が高まる。
「皆さんいいですね? 打ち合わせした場所には入らないで下さい」
 雪華が念を押す。彼女は偵察に出た際、瑞雲から借り受けたロープで、迎撃場所の数ヶ所に罠を仕掛けていた。
 こちらも足止めや逃走防止を目的とした簡易な物だが、味方が引っかかる事態だけは避けたい。
「ジェイ、こちらを頼む」
 メグレズは雪華の通訳でジェイに声をかけた。これが彼にとって初戦と言う事もあったし、もしかしたら同族への配慮なのかもしれない。
 ジェイはこの気遣いを素直に受けとめた。
『任せて下さい。あなたも気をつけて』
 それは最も強力であろう個体を迎え撃つ、メグレズへの敬意でもあった。

「もう少しだ!」
 やはりレットの装備で全力で走る瑞雲を先導するには、少々無理があったようだ。足止めのお陰で追着かれずにここまでは来れたが、既にゴブリンは背後まで迫っていた。
 間に合わない。即決したグランは弓を構え、先頭付近のゴブリン目掛けて矢を放った。
 −ぎぎゃぁ! −運悪く目に矢を受けた一匹が転倒して後続を巻きこむ。
「今のうちに早く!」
 2人が駆け込むと、ジェイとディオがゴブリンの群に立ちはだかる。言葉が通じなくとも、入念な打ち合わせで自分のすべき事は頭に入っていた。

「お願いします、陽子さん」
 雪華は陽子に雪華が微笑みかけた。これから彼女は「鳴弦の弓」を爪弾き、仲間を援護しなければならない。
「はい、任せてください」
 陽子は力強く答えた。鳴弦の弓を使っている間、雪華はどうしても無防備になってしまう。他の仲間がゴブリンを相手にしている以上、彼女を護るのは自分しかいない。
「行きます」
 呼吸を整え精神を集中する。
 霊弓はただ鳴らせば良いと言う物ではない、奏者の集中力と精神力が極みに達してこそ破邪の波動を発する事ができるのだ。
 雪華に応じ鳴弦の弓が唄い出した、邪なる存在を許さぬ神気の歌を。

「あれか」
 巨躯の聖騎士は手斧や小剣を手にした群の中で、唯一フレイルを手にした一匹を見つけた。ぼろきれや薄汚い皮鎧を身に着けた他の者よりも、幾分マシな鎧を身につけている。
 相手もメグレズに気付いたようだ、武器を構えなおし歩み寄って来る。メグレズは気取られぬよう少しづつリーダーを群から引き離しにかかった。

●激戦
『やはり的が小さいとやりにくい』
 ジェイが母国語で−それしか解さない−呟いた。
 的の小ささもさる事ながら、彼の装備もまた、多数の敵を相手にする状況には少々重荷だった。
 最初の1匹は難なく渡り合えたが、相手が体勢を立て直すにつれて徐々に受身にまわりはじめた。手にした盾のお陰で目立った傷を受けていないのが救いか。

 一方、苦戦はディオも一緒だったが身軽な分まだ余裕があった。軽い傷は幾つか受けてはいたが、さしたる問題ではない。
 それに彼はもう一つ、別の理由でモチベーションが上がっていた。
 仲間内で彼は「女たらし」と言う不名誉な呼ばれ方をしていた、とはいえそれ程の事をしたわけでもないし、気にした事も無い。
 好みの子がいればやる気も上がるのだから仕方ない。目の前のゴブリンを切り伏せると、ポーションを取り出し一息で飲み干した。
「うんうん。カワイ子ちゃんの前だし、もういっちょ気合い入れますか」

 「雪華さんを護らないと」陽子は少し気負っていた。不快な音を止めようと前衛を迂回した1匹にスリープを放つ。昏倒したゴブリンに駆け寄るとその胸に小柄を埋めた。
「陽子、危ない!」
 警告と供にグランの放った矢が、彼女に襲いかかろうとしたゴブリンを射ぬく。
「すみません」
「あんまり無理しないで、俺もいるからさ」
 グランに微笑みかけられ陽子は、一つ深呼吸をした。

 序盤こそ、罠や鳴弦の弓の力で互角に戦えてはいたが、やはり敵の数が多い。徐々に劣勢になる冒険者達・・・・その時だった。
「野郎ども、もうひと踏ん張りだ。キャメロットに帰ったら、初陣祝いに奢ってやるからよ!」
 息を整え体勢を立て直した瑞雲が戦線に加わり、手近なゴブリンに切りかかったのだ。
 −依頼失敗したら〜。褌一丁、逆立ちでキャメロット一周の刑! −瑞雲の脳裏に声が聞こえた、それは・・・・それだけはご免こうむる!
 仲間が発した言葉の意味を彼は理解できなかった。
 だが敵に走った一瞬の動揺は見逃さなかった。「おお! 」裂帛の気合と供に、ジェイはその巨躯に相応しい巨剣を振るって、眼前のゴブリンを粉砕した。
 新手の鬼気迫る勢いと巨人のプレッシャーに後押され、流れは完全に冒険者のモノとなった。

 「強い」幾つもの場数を踏んできたメグレズは、素直に認めた。自分が対峙している相手は自分と互角、いやそれ以上かもしれない。
 それでも鳴弦の弓の音が届く範囲であったのが幸いだった。リーダーは神気を含む音色に苛まれ実力を発揮しきれていない。
「牙刀、剽狼!」
 鎧ごとリーダーを両断しようと試みるが、センチュリオンソードの刃は皮鎧を砕くまでに至らない。一方、敵のフレイルも幾度かメグレズを捕らえているが、固い護りに阻まれ有効打は生まれていない。
 膠着状態。
 だが次の瞬間、この状況を一筋の疾風が切り裂いた。−ぴしゃぁ! −露出した足に走る激痛。思わずふりかえるゴブリンリーダー。
「俺の鞭は痛いぜ。覚悟しな」
 バックアタックをしかけたレットがうそぶく。
 まるで視線だけで敵を殺そうかという程に、リーダーは背後の敵を睨みつけた。だがその望みがかなう事は無く。
「撃刀、落岩!」
 背後に響く裂帛の気合と振り下ろされる斬激に導かれ、彼は闇へと落ちていった。

 リーダーが討たれた今、群は呆気なく士気を失った。敷かれた罠によって撤退も許されず一匹、また一匹と数を減らしていった。

●戦い終わって
 ゴブリンを殲滅した一同は村に凱旋を果した。
 後始末は「どうせ水路の手入れもありますし」と言う村人達の申し出もあり、村に任せる事にした。

「他に水源はないのですか? もしあれば今回みたいな事には・・・・」
 陽子の質問に彼らは笑って答えた。「この水路が俺達の爺さんや婆さん達が残してくれた、2つ目の水源なんだ」と。
 無い物を探すより、ある物を大事に使いつづける。そんな彼ら逞しくて、美しいと感じた。