リバーサイドストーリー 収穫祭のゲスト

■ショートシナリオ


担当:熊野BAKIN

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 52 C

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:10月25日〜10月30日

リプレイ公開日:2007年10月31日

●オープニング

●自然の恵みと冒険者に感謝を
「今年も色々世話になったしねぇ」
 受付担当の「なんだかなー」・・・・露骨な表情をあっさりスルーしてジェイソン夫人は続ける。
「収穫祭の準備やらなんやらで人手が欲しいってのは建前で、祭りは人が多いほど楽しいしね」
 依頼があればそれをこなすのが冒険者ギルドの存在意義ではあるが、収穫祭の手伝いとか賑やかしの依頼というのも・・・・「なんだかなー」2度目のため息を心の中でつくと、さらさらと依頼草稿のメモ書きを始めた。

●冒険者にやって欲しいこと
「ちょっとばかり麦の運びのこしがあるのと、村の集会所の修繕をするんで男衆を手伝って欲しいんだよ」
 荷物運びと日曜大工か「なんだかなー」と思いつつも、これもまぁ正式な依頼に違いは無い。違法性も裏も無い以上断る理由も無い。あとは依頼を受けるか受けないかは冒険者達の判断に任せれば良い。
「後は・・・・料理の手伝いをしてくれても良いし、祭りを盛り上げてくれる楽器とか歌とかもいいね」
 要は「祭りまで好きなように村の仕事を手伝って欲しい」って事ね。
「食事はこっちもち、少なくて悪いんだけど手伝い賃も出せるよ。あとは好きなだけ飲み食いして元を取っとくれ」
 豪快に笑う夫人に何事かとギルド中の視線が集まるが、当の本人は全く意に介さず。むしろ担当している受付嬢のほうが身を縮まる思いだったとか・・・・

●とどのつまりは
「と、まぁ色々理由をつけてみたけどさ」
 にやり、と笑うと女将さんは本音を語りだした。
「子供達も男衆も女衆も・・・・世話になったあんたらに礼が言いたいんだよ」
「・・・・」
「かといって、村人総出でキャメロットまで来るわけにもいかないし、ただ呼び出すのも悪いしね」
 「・・・・」こういう場合、ギルドの担当者としてはなんと言うべきなのだろうか? すぐに適した言葉が浮かばず、沈黙するしか無かった。
「寂しい田舎の人間を慰めると思って、よろしく頼むよ」
 建物の中に笑い声を残し、女将さんはギルドを後にした。

「・・・・なんだかなー」
 一言。ようやく声にだすと、苦笑いを浮かべながらも依頼書の作成に取り掛かった。

●今回の参加者

 eb2628 アザート・イヲ・マズナ(28歳・♂・ファイター・ハーフエルフ・インドゥーラ国)
 eb3310 藤村 凪(38歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb3333 衣笠 陽子(26歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb5549 イレクトラ・マグニフィセント(46歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 ec2813 サリ(28歳・♀・チュプオンカミクル・パラ・蝦夷)

●リプレイ本文

●集会所の修復
「そろそろ一休みしておくれな」
 おかみさんが修復作業に没頭する冒険者達に声をかけた。
「はいなー、おーきに。アザートはん一息いれまひょかー」
 藤村凪(eb3310)抱えていた木材を下ろすと、不思議なイントネーションのあるイギリス語で屋根で作業をしている、アザート・イヲ・マズナ(eb2628)に声をかけた。
 「ああ・・・・」アザートは一言、素っ気無い返事を返すと、立てかけてあった梯子を伝って地面へ降りてきた。
 建物修繕の心得は無かったが、痛んだ箇所は見よう見真似の日曜大工でもどうにかなるモノだった。本職と比べれば倍以上の時間をかけてはいるが、日が落ちるまでには雨漏りしない程度にはなるだろう。

 エールをあおるアザートの異国風の顔立ちに興味を引かれて、おかみさんはふと他愛ない質問をぶつけてみた。
「にいさん、良い人はいるのかい?」
「?」
 いわゆる「その手の」経験に乏しい彼は、きょとんとした表情で見返す。
「だからさ、恋人はいるのかい?」
「!? ・・・・い、いや・・・・」
 想定外の質問内容に戸惑いを隠せず、うわずった声で否定の声を上げたのが運の尽き。
「あらまぁ、こんなに良い男が独り身なんてもったいない! ちょっと皆来ておくれよ」
 「あ・・・・そうだ、チニーとバゥに宿の場所を教えないと」そこは百戦錬磨の冒険者。危険な雰囲気を感じ取ると、愛馬と愛兎を探すふりをして一先ずその場を逃げ出すことに成功した。
「あらま。アザートはんも災難やね」
 遠ざかる背中をのんびりと眺める凪・・・・だが、君はこうゆう言葉を忘れてはいないだろうか? 曰く「明日はわが身」
「ところで、お嬢さんはもう結婚はしてるのかい?」

●荷物運び
「ここで良いかい?」
「もう運び終わったのかい、さすがは姐さんだ」
 男顔負けのスピードで麦の袋を運び終えてしまった、イレクトラ・マグニフィセント(eb5549)にスミスは驚きを隠せない様子。
 「荷物運びにもコツってのがあるんだよ」船乗りにとっては食品や積荷等々、荷運びはごく当たり前の作業。イレクトラはかかと笑って見せた。
「すいません姐さん、こっちも手ぇ貸してくれませんか」
「ちょっと待ってなー!」
 去り行くイレクトラの背を見ながらアップサイドの顔役は。
 「・・・・あんな姐さんが嫁に来てくれたらなぁ」ポツリと呟いたとか。

●料理班
「おやおや、陽子お嬢ちゃんじゃないか。元気だったかい?」
 衣笠陽子(eb3333)の姿をみつけるやいなや、ジェイソン夫人は我が子をそうするように、優しく抱きしめた。
「は、はい。ジェイソンさんもお元気そうで」
 奥手で引っ込み思案な陽子は、気の毒なほど真っ赤になりながらも応えた。
「お陰さまで元気だよ・・・・どうだい、少しは料理の腕は上がったかい?」
「ええと、少しだけレパートリーが増えました・・・・失敗も多いですけど」
「あっはっはっは、失敗上等。やる気が大事なのさ」
 もじもじと答える陽子を夫人は豪快に笑って励ました。
「あのー」
 再会を喜ぶ2人を前に、タイミングを失っていた少女がようやく声をかけた。
「おやまぁ、これはまた可愛いお嬢ちゃんだね。お嬢ちゃんも祭りに来てくれたのかい?」
 サリ(ec2813)は少女、といわれて少々複雑な表情を浮かべたが、それでもにっこりと笑うと自己紹介を始めた。
「サリといいます。お料理のお給仕とか村のお子さん達と出し物を出来たら、と思っています」
「そうかい、そりゃ楽しみだね。子供達なら川原にでもいると思うよ」
「ありがとう御座います。さっそく行ってみますね」
 丁寧にお辞儀をするとサリは川原へと向かった。
「さぁて、久しぶりに陽子お嬢ちゃんのお手並みを拝見しようかね」
「お、お手柔らかに・・・・」
 どうやら陽子に他の選択肢は無いらしい。

●収穫祭
「よぉし、野郎ども!」
「野郎だけじゃない、女衆もいるぞ」
「んなことわかってらぁ、いちいちまぜっかえすんじゃねぇ伊達男!」
 スミスに怒鳴り返すと、ジェイソンは改めて特大のジョッキを掲げる。
「冒険者の皆さんを迎えての収穫祭だ。日頃の憂さ晴らしにどんどんやってくれ!」
 イギリスのとある村の、ささやかな収穫祭が始まった。

 味や質はともかく、とにかく大皿に山と盛られた料理に少しづつ手を付けながら、凪は会場を見てまわっていた。
「田舎のお祭りで退屈してません?」
「いやいや、満喫させてもらってま。あ、ご招待ありがと〜な〜」
 確か・・・・スミスはんの奥方さんやったかいな? 声をかけてきたご婦人の素性を思い出しながら、それでも愛想よく答えた。
 「それなら良かった」品良く笑うスミス夫人に、凪は出立前から考えていた事を伝えようと思った。
「あーせや、奥さん。うち手伝い賃は遠慮するわ〜。十分楽しませてもらうによって」
 「あら、随分と慎ましいのね」夫人は楽しげな表情を浮かべ「それは困ります」と、あっさり凪の申し出を断った。
「でも・・・・」
「農家は畑を耕す、狩人は狩りをする。冒険者は依頼をこなして収入を得るのが当然でしょう?」
 「それはまぁ、せやけど」 それでも何か言いたげな凪を制し。
「次回からお願いしづらくなってしまいますわ」
 好意とは言え、一度の特例がお互いの関係を損なうこともある。スミス夫人の意を察してここは折れることにした。
「そろそろ出し物が始まる時間ね」
「そういや、サリはんが子供らと打ち合わせしてはりましたな」
 2人はステージに目を向けた。

●緊張と好奇心と躍動と
「さぁさ、よぉっく見ておきな」
 イレクトラは村人を見回した。いつぞや使った煤玉を樽の上に置くと、代わりに弓と矢を手にして大股で十歩離れて立ち止まり・・・・−ちっちっち−指を左右に振ると更に3歩離れて、弓を構え矢を番える。
 ごくり。誰かが息を呑む音が聞こえる程、場が静まり返り、一瞬の静寂・・・・
 −しゅっ・・・・かっ!−
 風を切り裂く音。一拍遅れて板切れに何かが突き立つ音。観衆が立てかけられた板に目を向けると・・・・突き立った矢の尾羽に射抜かれた煤玉。
 −うぉぉぉぉっ!−
 「さすがは姐さんだ!」 「こんなすげぇ腕前、はじめて見た」「一生ついていきますぜ!!」
 「それはいらない」きっぱりと拒絶しておいてから。
「さぁ次は動く的だ、誰か煤玉を投げておくれ」
 その声を合図に、十個ほどの煤玉が一斉に夜空に放たれた。
「モノには限度ってモンがあるだろ!?」
 イレクトラの怒声と若者の笑い声が夜空に響いた。

「お姉ちゃんあっちは?」
「あの星はね、お隣の星とあっちの赤い星を繋いで・・・・」
 キャメロットよりも明かりが少ない村では、夜空の星がはっきりと見える。陽子は踊りに参加できない小さな子供達を集めて星座の話をしていた。
 当然ながらイギリスで見える星と彼女の故郷で見える星とは全く違う。彼女が話しているのはイギリスで見える星座の物語だが・・・・
「お姉ちゃんの故郷ではね」
 自分が子供の頃に聞いた話を織り交ぜ、2つの国の物語を話して聞かせていた。

「皆で楽しく踊りましょう」
 サリはステージに上る直前、一人ひとり子供達の手を取って緊張を解して回る。実はこのステージ、男の子が木箱や板を村中からかき集め、女の子は花や木の実を拾いあつめて作り上げたモノ。
 このステージで踊りを披露するというのがサリの提案だった。
「だいじょうぶ、みんな頑張ったんだもん」
 女の子のまとめ役ジェイソン家のマリアがにっこりと微笑む。
「さぁ、行きましょう」
 心強い返事に勇気付けられ、サリは子供達を促した。

 「エミリー!」 「ジョン、笑って笑って」「どうしたボビー、顔が真っ赤だぞ?」
 子のある親はステージにかぶりつき、若者は弟分妹分の晴れ舞台を見ようとそれを囲む。頑張ると決めて出たステージだが、観客とその熱気を目の当たりにした緊張で強張る子供達。
 −とんとんぱん。とんたんたん−
 一人の少女、いや。パラの娘が一歩前に出ると手をうち、足を踏みしめリズムを刻み始めた。
 −ぱん、ぱん、ぱんぱんぱん−
 その後を追う様に、マリアが手拍子を打って一歩前にでる。一人、また一人と子供達が輪に加わり、ついには大人たちも手拍子と足踏みでリズムを刻み始めた。誰が奏でているのだろうか、いつの間にか笛の音が加わり、心得のある観客は思い思いの楽器を手にしてこれに続いた。
 こうして子供達のささやかな出し物は大人を巻き込み、大盛り上がりのうちに幕をおろした。

●祭りの意味
「演奏ご苦労さん。どんどんやっとくれ」
 アザートはジェイソン夫人の差し出すジョッキを受け取り、なみなみ注がれたエールに口を付けた。予定より長い演奏で乾いた唇を発泡酒が潤していく。
「村の子供に鞠をくれたんだって? 気を使わせてしまってすまないね」
 そう言えば昼間、自分のことを見つめていた少女に蹴鞠をあげたか、と思い当たる。
「何処かの国の玩具らしい・・・・子供が持つ方が自然だろう」 
「あっはっはっは、そりゃそうだ」
 素っ気無い答えに屈託無く笑うおかみさん。そんな彼女を見て、アザートは一つだけ。
 「聞いてもいいか?」 質問した。
「おや、一体なんだろうね?」
 楽しそうに次の言葉を待つジェイソン夫人に、彼は問うた。
「収穫祭とは聞くが、実際には何をする祭りだ・・・・?」
 「うーん、そうだねぇ」眉間に皺を寄せてしばし考え込むジェイソン夫人。そして。
「年に一度。何のお咎めなく羽目を外す口実、ってのはどうだい?」
 屈託無い笑顔で答えた。

 本当のところは良くわからない。だが・・・・この笑顔に嘘はない、そう感じだ。
 だから。
「そうか・・・・」
 一言だけ、答えた。