村娘の帰郷

■ショートシナリオ


担当:熊野BAKIN

対応レベル:11〜lv

難易度:普通

成功報酬:5 G 55 C

参加人数:8人

サポート参加人数:4人

冒険期間:11月05日〜11月10日

リプレイ公開日:2007年11月09日

●オープニング

●村娘の護衛
「この娘を村まで送り届けて欲しいんだ」
 依頼人は1人の少女を受付担当の前に連れ出した。少女の表情は暗く、そして今にも泣き出しそうな表情で、それでもしっかりと受付嬢の顔を見据えて。
 「シェリーと言います。よろしくお願いします」と、頭を下げた。
 行儀見習いの娘の帰郷を何故冒険者が・・・・と思うかもしれないが、それなりの理由があるらしい。
「もしかして例の辺りですか?」
 例の辺り・・・・というのはここ最近、荷馬車や旅人を狙った強盗の噂がある街道の事。特に途中通り抜ける森での被害が数件、報告されている。
 さして重要な道では無いし道行く人もさして多くも無いルートだ。が、それだけに人目につきにくく、襲う側にとっては事を起こしやすい場所でもある。

「護衛自体は問題ありませんが・・・・」
 ギルドにしてみればよくある依頼ではある。あるのだが・・・・何も盗賊が徘徊している危険な時期に里帰りする必要も無いだろう。そのうち衛兵も盗賊対策に乗り出すだろうし、それからにしたほうが良いのでは?
「おじいちゃんが・・・・危篤らしいんです。もう長く無いって」
 村娘・シェリーが急ぐ理由を告げた。依頼人の話によると昨年シェリーの父親が急逝したとの事。そのために彼女は家を出て、父親の友人であった依頼人の店で働いていたらしい。ようやく街の暮らしにも慣れ、細々とではあるが仕送りを始めた矢先の知らせだった。
「シェリーの爺さんには世話になったし、なんとか可愛い孫娘にあわせてやりたいんだ」
「・・・・わかりました。早急に手配します」
 「商人というのもすてたもんじゃないな」などと考えながら、担当は依頼書に筆を走らせた。

●衛兵からの依頼
「あー。すまんな、聞くつもりは無かったんだが」
 先の依頼人達が戸外に出てすぐ次の依頼人が窓口に現れた。
「あら、隊長さん・・・・依頼の立ち聞きは困りますね」
 何度かギルドに依頼を持ち込んだことのある衛兵隊長だった。受付嬢は眉間に少しだけ、皺を寄せて隊長を軽くにらむと、すぐに営業スマイルに切り替え仕事に取り掛かった。
「今回はどのような案件ですか?」
「うん。そのなんだ・・・・例の盗賊の件で、な」
 成る程「聞くつもりはなかった」か。
「あら奇遇ですね。それでどのような?」
 少しだけトゲのある口調で、それでもスマイルを崩さずに続きを促す受付担当。
 「・・・・うむ」居心地悪そうにもぞもぞと体を動かすと、覚悟を決めて依頼内容を語りだした。

「被害者の話を聞く限り盗賊は5人から7人。強盗なんぞ働くだけあって、そこそこの腕はあるらしい」
「被害の内容は?」
「どうも食料や金品目当てのようだな。中には抵抗して切り付けられた被害者もいるが、命に別状は無い」
 一息。
「あまり往来のある道ではないが、変に欲を出されてより人通りの多い街道に出られても困るんでな」
 衛兵を動かすよりも小回りの利く冒険者の方が迅速に対応できる。つまりはそういう判断。
「それでは先の依頼より早く人を集めないとまずいですね・・・・あら、そうすると」
 先発する隊が盗賊を排除してしまえば、先ほどの依頼は無用になってしまう。それ以前にタイミングよく盗賊討伐の人手が集まるかどうか・・・・
「あー、それについてなんだが」
 考えこむ担当に隊長が解決策を提示した。
「盗賊に賞金がかけられた」
「え?」
「盗賊1人捕縛するか討ち取れば報奨金が出る、という事だ」
 ただでさえ往来の少ない道に盗賊狩りに挑む腕自慢が通るはずも無い。つまるところ。
「それは一般にも公開されるんですか?」
「いずれはそうなる。ま、暫くの間は私と君だけしか知らない話ではある」
 随分とギルドの立場に配慮した扱いだ、が。
「・・・・」
「往来の激しい道だったらこうはいかないが、まぁ不幸中の幸いだった」
「・・・・」
「別に私の独断ではないぞ? 念のために言うが」
「・・・・」
「・・・・」
 気まずい沈黙。そして。
「俺もこんな仕事だからな。爺さんどころかお袋の死に目にもあえなかったよ」
 それは公人としてはあまりにも私情に流された本音。それでも、こういう人物が街の治安を司る位置にいる、というのは・・・・幸せなことなのかもしれない。

●今回の参加者

 ea1364 ルーウィン・ルクレール(35歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea2756 李 雷龍(30歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 ea2890 イフェリア・アイランズ(22歳・♀・陰陽師・シフール・イギリス王国)
 ea4137 アクテ・シュラウヴェル(26歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 ea9669 エスリン・マッカレル(30歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 eb3862 クリステル・シャルダン(21歳・♀・クレリック・エルフ・イギリス王国)
 eb7208 陰守 森写歩朗(28歳・♂・レンジャー・人間・ジャパン)
 ec3138 マロース・フィリオネル(34歳・♀・神聖騎士・ハーフエルフ・イギリス王国)

●サポート参加者

カイ・ローン(ea3054)/ シルヴィア・クロスロード(eb3671)/ サスケ・ヒノモリ(eb8646)/ アクア・ミストレイ(ec3682

●リプレイ本文

●依頼完了。最短記録?
「シェリーさん、寒くないですか?」
 クリステル・シャルダン(eb3862)はスノウの鬣にしがみ付き、吹きすさぶ寒風と体験したことの無い高さに耐えるシェリーに声をかけた。
「・・・・」
 返事は無い。寒さは渡しておいた防寒着で何とかなるだろうが、やはり高さを楽しむ余裕は無いようだ。

 彼女達は数十分ほど前に仲間と別れ、クリステルの愛馬・ペガサスのスノウに乗って盗賊が潜む森を空から迂回し、シェリーの村に向かっていた。事前に仲間が集めた情報によると、盗賊団の飛び道具は短弓だけ。ある程度の高度を保てば安全に通過できる。
「う〜、さむいわぁ」
 不思議なイントネーションが聞こえた。
「お帰りなさい。どうでした?」
「森の外に見張りはおらんよーやったわ」
 シフールの、イフェリア・アイランズ(ea2890)はクリステルの質問に答えた。
「どうやら森の中に引き込んでから事に及ぶのが向こうの手のようだ」
 ペガサスのやや後方にヒポグリフのティターニアが並ぶ。イフェリアと共に様子見に出ていた、エスリン・マッカレル(ea9669)が分析する。
「こちらへの妨害は無さそうですね」
 まじめな話をしている2人を尻目に「シェリーはん。うちも防寒着の中入れてーな」シフールの娘は返事を待たず、彼女の胸元にごそごそと潜り込む。
「ふぅ、ぬくぬくやわぁ」
 始めは呆気にとられていたシェリーだが、あまりにのん気な物言いに釣られて、くすっと笑みがこぼれる。
「あ、シェリーはん笑った顔もかわええな」
「ええと、イフェリアさんも可愛いです」
「あはは。うちが可愛いのは当たり前の事や」
 さすがに距離があるエスリンには聞こえないだろうが、クリステルには途切れ途切れの他愛ない会話が聞こえていた。
「もう少し我慢してくださいね」
「あ、はい」
 声をかけると今度は返事が返ってきた。「少しは気が紛れたみたいですね」・・・・無事に村にたどり着いたとしても、そこに待つのは肉親との死別という悲しい現実、それでも。僅かな少女の心境の変化にクリステルは安堵した。

「おい。あれは何だ?」
 1人の村人が空から近づく存在に気がついた。
「馬、いや翼の生えた馬みてぇだけど・・・・」
 連れの男が首を捻りながら答えた。確かに馬のようだけが、まさか空を飛ぶ馬がいるはずが・・・・しかも2頭も。そうこうしている間にもそれらはぐんぐんと近づき、ついにはペガサスとヒポグリフが村のど真ん中に舞い降りた。
「ひ、ひぇぇぇぇ」
 腰を抜かした男達を無視して。
「早く祖父殿のところへ!」
 いち早くティターニアから飛び降りたエスリンが、シェリーをペガサスから抱え降ろす。地面に降りた少女はお礼もそこそこに走り去った。

●やけに頼もしい行商人一行
「シェリーさん達、もう村に着いたでしょうか?」
「そろそろだと思います」
 マロース・フィリオネル(ec3138)に商人風のコーディネートをして貰いながらも、ルーウィン・ルクレール(ea1364)は几帳面に返事をした。メインの依頼である護衛は、幸いなことに「少しでも早く村につけるなら」という、シェリーの申し出により、ペガサスで空輸することになった。念のために護衛も付けてあるし、こちらは盗賊の捕縛に集中することが出来る。
「こんなものでどうだろう?」
「あら、良い感じですね」
 持参した礼服やら防寒具を駆使して「行商人」に化けた、陰守森写歩朗(eb7208)を一目見て、マロースは満足そうに答えた。のも、つかの間。
「でも。そうね、ちょっと上着の色が・・・・」
 森写歩朗とルーウィンは目をあわせ、やれやれ・・・・という風に苦笑を交わした。

「アクテさん、こちらの軍馬もお願いします」
 李雷龍(ea2756)は軍馬を何とか荷馬に見えるようにと苦心して擬装している、アクテ・シュラウヴェル(ea4137)に、イフェリアから預かった軍馬のカモフラージュを頼んだ。
「すぐにいきますわ」
 −商人が軍馬を連れていたらおかしいですものね−アクテは行商人の一行に見えるよう、荷物を調節してカモフラージュすることにした。

●盗賊現る
 少し先で道を監視していた仲間が手を振るのが見えた。
「来たぞ」
 その合図を受け、あからさまに人相風体の悪い男達が3人、切り倒しておいた木で道をふさぐ。向こうは向こうで、獲物が通過したら道をふさぐ手はずになっている。
「何人いるって?」
「5人、だな」
「女はいるのか?」
「そいつは見てからのお楽しみだ」
 今まで抵抗らしい抵抗を受けたことが無いため、すっかり気が緩んでいるのだろうか。気配を隠そうともせずに下卑た笑いをあげた。

「雷龍殿、お気づきか?」
 森写歩朗は小声で馬を引く雷龍に声をかけた。
「ええ。見られていますね」
 茂みの中を移動する人影を見かけていた雷龍は、特に驚く事も無く淡々と告げる。とは言え、敵の姿と数を確認しないうちは迂闊に動けない。
 「さて、何処で仕掛けてくるか」森写歩朗は馬上からの警戒を強めた。

「・・・・」
 隊列の先頭を進んでいたルーウィンが立ち止まる。森の中の小道にさしたる幅は無く自然、後に続く面々も停止を余儀なくされた。
「ルーウィンさん、どうなさったの?」
 少々不機嫌な口調でアクテが問いただそうとした時。
 「へっへっへ、わりぃね皆さん。ここは通行止めだ」 あまりにもお約束な台詞と共に手斧や短弓で武装した男達が現れた。
「それは困りましたね。私達はこの先の村に用があるのですが」
 それらしい応対をしながら「2、3人」アクテは盗賊の数を確認する。事前に聞いた話では盗賊は6〜7人のはず。数が合わないな・・・・と、すると。予想通り後方から別の声が聞こえる。
「こっちもたった今、通行止めになったぜぇ」
 振り向くと刃こぼれした剣やら薄汚れた皮の盾を、これ見よがしに構えた盗賊が3人。判で押したように下品な笑いを浮かべて立っている。
「そろそろいいですよね?」
 ここにいる奴らを捕まえれば他に仲間がいるかどうかわかる、マロースは魔法の集中に入った。

●咎人に鉄槌を
「魔法使い!?」
 「慌てるなっ、1人や2人護衛がいたって数はこっちの方が上だ!」 予想外の抵抗に盗賊達は激しく動揺する。
 森写歩朗は馬から飛び降りると術の集中に入る。数は上、か。実に正論だ。自分も1人で複数の敵を相手にする気はさらさら無い・・・・が。
「忍法・微塵隠れ!」
 術を解き放つと同時に、森写歩朗のいた場所が轟音と共に爆発した。盗賊はあまりの出来事に混乱を通り過ぎて唖然とするばかり。
「うっ」
 盗賊の1人が崩れ落ちる。後方にいた3人の背後、首筋に手刀を打ち込んだ姿勢で森写歩朗が立っていた。
「い、いつの間・・・・に!?」
 マロースの束縛の魔法に囚われ更に1人。
「奥義・龍飛翔!」
 十二形意拳・辰が奥義が一。まさに東方に伝わる伝説の龍が天に昇るかの如く、雷龍の拳が男の顎を捉え、龍叱爪が骨を砕く。
「あ、あがぁ」
 男は顎を抑え地面でのた打ち回る。まさに「瞬きする間」に、背後の3人が戦闘不能となった。

「こ、こいつら何なんだ!?」
「私達は私達ですよ」
 盗賊達の恐怖を酷薄に斬って捨てるように、アクテはスクロールを開いて集中する。詠唱をとめるべきか? 逃げるべきか? 一瞬の迷いが致命的な隙となった。
「グラビティキャノン!」
 放たれた重力波が盗賊達を地面へとねじ伏せる。
「ひ、ひぃぃ!」
 かろうじて転倒を免れた1人が武器を投げ捨て、倒木を乗り越えて逃げ去った。
 しかし「た、助け・・・・」「化けモンだぁ」何とか起き上がり、逃げようと足掻く盗賊達にシールドソードの切っ先が突きつけられる。
「逃がすと思いますか・・・・」
 ルーウィンの冷ややかな視線に射すくめられ、動けなくなった。

●天網恢恢粗にして漏らさず
「はぁはぁ・・・・」
 どれだけ走ったろう。男は心臓が爆発する思いで走り続け、森の外まで逃げ延びる事ができた。森で暮らしていただけあって、土地勘がついていたのが幸いした。
 追っ手の気配は無い。少し休んでからこれからの事を考えよう・・・・思ったのもつかの間。大きな羽ばたきが聞こえた。
「そこで何をしている?」
 声が聞こえた。恐る恐る視線を上げると、今まさに鷲と白馬の体を持つ獣・ヒポグリフが舞い降りてくるところだった。
 「ええと盗賊・・・・そう! 盗賊に襲われたんだ」とっさに嘘をつく。
「そういえば、この辺りで盗賊の被害が出ているそうだな」
 女の態度に安堵した男は、嘘を信じ込ませよう畳み掛けた。
「おれは、行商人の護衛でこの先の村に向かっていたんだよ」
 相手が何者かも知らずに。
「なぁ兄さん。もしかしてその行商人の中に、鉢巻したアンちゃんがいてへんかった?」
 奇妙な訛りに驚き、声のした方向を見るとヒポグリフの頭の上にシフールの娘が座っていた。
「シールドソードを持った男もいただろう?」
 エスリンがオークボウを構えると、男は力尽きたようにその場に座り込んだ。

●その夜。村娘は強く、冒険者は優しかった
「・・・・」
 クリステルはスノウの背で一枚の金貨を見つめていた。それは盗賊退治の褒賞として支払われる金額。出立の前、シェリーに渡そうとしたモノだった。

 貴女の護衛とは別の報酬だから、と差し出した金貨に村娘は少し迷い、そしてふるふると首を振り。
「このお金があれば、きっとすごく助かります」
 少女は真っ直ぐとクリステルの目を見て言った。
「でも、いつか苦しくなった時。また誰かが助けてくれるって思ってしまうから」
 シェリーの祖父は彼女の到着を待っていたかのように息を引き取った。少女は祖父にすがり付いて泣く弟妹の前で、一度も泣かなかったそうだ。
「そうですか」
 クリステルは金貨を納め、優しくシェリーを抱きしめた。少女は驚いたような表情で彼女の顔を見上げていたが。
 最初は微かに、やがて大きな声で。祖父への惜別の想いを振り絞った。