崖に住み着いた脅威 オーガ撃退作戦
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■ショートシナリオ
担当:熊野BAKIN
対応レベル:6〜10lv
難易度:普通
成功報酬:3 G 9 C
参加人数:5人
サポート参加人数:-人
冒険期間:11月18日〜11月23日
リプレイ公開日:2007年11月22日
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●オープニング
●村人の懸念
「近く・・・・といっても、村から半日ほど歩いた洞窟にオーガが住み着いたんです」
初老の村長はそう切り出した。
「オーガですか、それは危険ですね」
受付担当はメモを取りながら応じた。その巨体から繰り出される槍は鋭く、一般人はおろか駆け出しの冒険者では立ち向かうのが難しい強敵だ。
「場所そのものは滅多に近づくことの無い場所で、今すぐに危険と言う訳では無いのですが」
彼の言いたいことはわかる。小さな村に気軽に冒険者を雇えるほどのゆとりがあるとも思えない。それをおして行動に出たという事は、それなりの事情があると言う事。
「冬になれば今以上に食料が手に入らなくなるでしょう。そうなれば・・・・」
当然オーガも食料を求めて移動を始めるだろう。山奥へでも向かってくれれば良いが、もしその進路が村の方へ向けられたら・・・・抗うすべの無い村人がどうなるか、考えたくも無い。
「早急に対応します。それで現場の地理ですが・・・・」
メモ書きから顔を上げ、今現在可能な限りの情報収集を開始した。
●戦場となるのは
「ちょっとした崖の下にあいた・・・・まぁ言って見れば大きなひび割れみたいなものでして」
村長は絵心が無いなりに簡単な絵を書きながら説明をしてくれた。まぁ自分達の生活が懸かっているとなれば必死になるのも当たり前か。
「もともとは小高い山だったらしいんですが、地崩れか何かの弾みで岩肌むき出しの崖になったそうです」
「崖の上には上れるんですか?」
「そうですねぇ」
村長は少し考えると、淀みなく答えた。
「多少、時間をかければ迂回する道があります」
「成る程・・・・」
メモと依頼人を交互に見ながら、受付嬢は崖についての質問を重ねる。
「崖はどうでしょう?」
「絶壁ではありませんし手がかりになる場所には困らないので、登ろうと思えば登れるかと」
成る程。もし崖の上に陣取ったとしても、事によっては這い上がって来る可能性もあると言うことか。聞いた話では崖周りには立ち木もあり、やり方次第では気付かれずに接近する事が出来るかもしれない。
「上手く奇襲をかけられれば、有利に戦えるかもしれないわね」受付嬢はそう呟くと、その旨を依頼書に書き込んだ。
●リプレイ本文
●崖の上にて
「いやー最近ひまでさ、喝を入れるには丁度良い相手だ・・・・なんてな」
「まぁ」
日高瑞雲(eb5295)の意気込みに、サラン・ヘリオドール(eb2357)は口元に手をあてくすくすと微笑んだ。
「有利な場所で戦えるからってあんまり甘く見るなよ? あいつら結構強いからな」
そんな2人に、セティア・ルナリード(eb7226)が軽く突っ込みを入れる、が。もとより彼らが油断しているとは思っていない。そんな人間が生き残れるほど冒険者家業は甘くないのだ。では何故、わざわざ苦言を呈したのか? これはもう天下のツッコミ魔道少女の性としか言いようが無い。
そんなセティアと「わかってるよ」とでも言いた気な表情で手を振る瑞雲とを見比べ、サランはまた微笑を浮かべた。
「大丈夫、入り口の近くにも周りにも人間大の生き物は感じられないです」
崖の淵、丁度洞窟の真上辺りでブレスセンサーを使い、周囲を探っていた、マリエッタ・ミモザ(ec1110)が、陰守辰太郎(ec2025)に振り向きゴーサインを出した。
辰太郎は無言で頷くと−ピィ!− 短く、鋭く指笛を鳴らした。と・・・・崖下の茂みががさがさと揺れ動き、包みを咥えた一頭の犬、辰太郎の忍犬・狼牙が姿を現した。狼牙は辰太郎の指笛の指示に従い、包みを洞窟の前に置くと再び茂みの中へ姿を消した。
「頭の良い子ですね」
一部始終を見ていたマリエッタは感嘆の声を上げた。そんな彼女に辰太郎は。
「訓練と信頼の賜物、だ」とだけ答えた。
餌は巻かれた。後はオーガが釣られて来るのを待つだけ・・・・冒険者達は釣り人のような心境でその時を待った。
●時間は少し遡って
「崖の上に出るにはぐるっと回って裏側から向かうか、岩場の獣道を伝って登るしかないです」
村長は机の上に小石を並べただけの見取り図を使って冒険者達に説明した。
「身一つで登るなら獣道でも良いが、装備を考えると回り道をした方が良くねぇか?」
「同感です」
瑞雲の意見にマリエッタが賛同する。装備の事もあるが何よりも。
「奇襲をする前に気付かれました、じゃぁ話にならねーしな」
セティアの意見が全員の共通の思いでもあった。
「迂回で決まりだな? それじゃ村長、この道について詳しくわかるヤツは誰だい?」
より詳細な情報を集めるべく瑞雲は村長に尋ねた。
「良いですか? 私達が悪いオーガを懲らしめてる間は、絶対に見に来たり崖の方に近寄ったりしてはいけませんよ」
サランは村の子供達を集めて「お姉さんと良い子のお約束」をしていた。予想通り数人の男の子が、いかにも「ちぇー」といった顔で不服そうな表情を浮かべている。
釘を刺しておいて良かった、そう思いつつサランは。
「良いですね、約束ですよ?」
満面の笑顔で、悪ガキ共(推測)一人ひとりに念を押す・・・・全員が「うん」と言うまで。
●戦闘開始
「ん・・・・出てきた、かな」
マリエッタと交代でブレスセンサーによる警戒を行っていたセティアが、大きな呼気の反応を感知した。位置はほぼ真下、崖に口を開けた洞穴の中。
「ようやくおいでなすったか」
おにぎり丸・・・・もとい、鬼切丸を引き寄せると、音を立てないように用心深く崖っぷちににじり寄る瑞運。他の面々も後に続く。
村人から提供して貰った新鮮な鹿肉に誘われてきたのか、あるいは狩りの時間なのか。数秒後、崖の裂け目から姿を現したのは槍を手にした有角の巨人・・・・オーガ戦士。
「1、2・・・・3」
素早く敵の数を把握すると、辰太郎は片膝立ちの姿勢に身を起こし星天弓に矢を番える。
「良いか? 行くぜ」
全員の表情を確かめると瑞運は作戦・其の3後半。陽のエレメンタルビースト、照明を飛ばした。
−うが?− 突如、陽光とは違う光源に照らされ、3体のオーガは新たな光の方を見た。と・・・・
「サンレーザー!」
「風の精霊たち、わたしに力を貸して!」
「・・・・っ」
陽光を集めた熱光線、風のエレメンタルの力を得て放たれたライトニングサンダーボルト、そして星天弓につがえられた2本の矢が一体のオーガに打ち込まれた!
−がぁぁあぁぁ!?− 体を焼かれ、射抜かれたオーガは突然の激痛に、悲鳴とも怒号ともつかぬ叫びを上げるのだが・・・・
「硬いな」
辰太郎は眉をしかめてうめき声を上げる。彼の用いた星天弓ではオーガ戦士の分厚い皮膚を破ることが出来ず、せいぜい引っかいた程の傷しか与える事が出来なかった。
サランとマリエッタの魔法もオーガに傷を負わせたようだが、こちらも決して決定打とは言えない。
「少々手こずるかもしれんな」
歴戦の忍びの表情はさらに鋭く、厳しく引き締まった。
●消耗戦
当初の目論見どおり、冒険者を発見したオーガ戦士達は迂回路を選ばす、最短距離で−岩肌を登って−崖の上を目指した。
冒険者達は打ち合わせどおり、おにぎり丸を振るう瑞運が這い上がってきたオーガに備え、他の4人は崖をよじ登り無防備な敵を弓と魔法で叩く戦法を取った。
−うがぁ!?−
1匹のオーガが崖にかけた手を電撃に弾かれ、なすすべなく転げ落ちる。
「罠って言うには露骨だけどな」ライトニングトラップを仕掛けたセティアは、すぐさま魔法スクロールを開いて集中に入る。そして・・・・
「シャドウバインディング!」
たった今転落したヤツ目掛けて束縛の魔法を放つ。目標となったオーガは静止画のように−ぴたり−動きを止めた、が。
−うが?−
次の瞬間、何事も無かったかのように動き始めた。
「あれぇ?」
自分の体を見ながら首を捻るオーガと、その光景に首を傾げる術士・・・・と。ふよふよと戦場を回り、周囲を照らす照明の姿が目に入った。
「瑞運っ、おまえのエレメンタルビースト退かせるか動かすな、影が消えるっ!」
彼女が放ったのは影を目標としその本体を束縛する魔法、故に影が消えると効力が消失してしまう。おりしも天候はうす曇り、照明の放つ程度の光でも影に影響が出るような状況だったのだ。
「あいよ」
察した瑞運は照明に上がるよう命じ、エレメンタルビーストはふよふよと上昇していった。満足そうに頷くセティア。正直いまの天候のままでは、シャドウバインディングを仕掛けるか迷うところだが、「それならそれで別の手を考えるさ」と、すぐに頭を切り替えた。
「サンレーザー!」
崖の中ごろまで登ったオーガに陽光の魔法を放つサラン。始めはオーガ立ちも焼かれる痛みに驚き、あっさりと転落していたが、魔法の威力を学習したか歯を食いしばり岩肌にしがみ付いている。
そしてとうとう1匹のオーガが、矢と魔法の波状攻撃に耐えつつ崖の上に体半分ほど引き上げた。その瞬間。
「おらぁ!」
瑞雲のおにぎり丸が大上段から振り下ろされた。普段ならこれほどの大振りをむざむざ食らうようなオーガ戦士ではない。だが度重なる攻撃を耐え、ようやく崖上に上半身を乗せた今の状態では、身をかわすすべも無く・・・・太刀がその重量、そしてオーガスレイヤーの魔力を切れ味に乗せて。
オーガの肩口を深く、深く切り裂いた。
−っっっ!− その巨体が声にならぬ絶叫と共に崖下に転落し−ごつっ−鈍い音ともに動きを止めた。打ち所が悪く絶命したか、あるいは気を失っただけかは判断できないが、少なくとも当面の敵が1つ減ったのは間違いないようだ。
●忠義
−・・・・−−・・・・−動かなくなった仲間を見てオーガ達の動きが止まった。
上にたどり着きさえすれば、あの程度の人間などすぐに叩きのめせると思っていた。受けた傷の痛みを何十倍にしてぶつけてやろうと、その一心で上を目指していた・・・・しかし。
既に彼らも少なからず傷を負い、ピクリとも動かない仲間の骸を見せ付けられたオーガ達・・・・その時、感じた事の無い恐怖が彼らの心を支配した。
−がぁぁぁ!−
悲鳴にも似た叫びを上げると、地面に飛び降り別々の方向へと走り出した。
「大人しく眠りなさい!」
オーガの逃走を阻止するべくマリエッタがスリープの魔法を放つ。同時に一体のオーガの巨体がくたりと倒れ、動かなくなる。
「ダメだ、木の影に入られた!」
シャドウバインディングのスクロールを手にセティアが叫ぶ。
「あっちは・・・・! まずい村の方向だ」
崖から飛び降りて追おうとする瑞雲を辰太郎が止める。
「私が行く。皆はあのオーガを頼む」
そう言い残すと彼はフライングブルームに跨り、オーガが走り去った方向へと飛び立つ。その背中に「すぐ後を追うから無茶すんじゃねーぞ、おっちゃん!」 仲間の声が追いついた。
立ち木の隙間から赤銅色の体躯を発見した辰太郎は先回りして地面に降りる。弓を構え、矢を番えるときりり・・・・っと弦を引き絞った。
オーガの巨体が徐々に大きくなる。
「ふぅ」一呼吸−ひゅんっ−
放たれた2本の矢は狙いたがわず分厚い胸板を捉える、が・・・・巨体は止まらないどころか、辰太郎目掛けて加速する。
「間に合うか?」 立ちふさがり次の矢を番える辰太郎だが、突然オーガが勢いそのままに転倒した。足元を見ると1匹の犬が食らい付いている。
「狼牙!」
彼は主を守る為、自分よりはるかに巨大な敵に牙を向いたのだ。だが直ぐに−ぎゃん!− 渾身の力で蹴り飛ばされ悲鳴をあげる。
「っ!」 辰太郎はオーガの巨体に矢を放ち続けた。
「おっちゃん大丈夫か?」
数分後、残ったオーガを片付けた冒険者達が追いついた。瑞雲は狼牙を抱きかかえるように座り込む辰太郎に声をかけた。
「大事無い。念のために薬を飲ませた所だ」
人用の薬が犬に効くかはどうかわからないがリカバーポーションを飲ませていた。そのお陰か随分呼吸が落ち着いた気がする。
後は洞穴の入り口を塞げば依頼完了だ。サランは狼牙の側に腰を下ろすと、その背を撫でながら「これで村の皆さんも安心して冬を過ごせるわ」優しく微笑んだ。