お転婆狂騒曲 令嬢の家庭教師

■ショートシナリオ


担当:熊野BAKIN

対応レベル:フリーlv

難易度:やや易

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:11月24日〜11月29日

リプレイ公開日:2007年11月30日

●オープニング

●ある日のこと
「叔母様! 叔母様ー!」
 キャメロット城下のとあるお屋敷・・・・その豪奢な佇まいに似つかわしくない大声が響きわたった。
 テラスでハーブティーの香りを楽しんでいた館の女主人は「はぁ・・・・」きっと自分はこの数ヶ月程で一生分の溜め息をついたに違いない、そう思いながらもたっぷり5つ数え。
「私はここにいますよ」
 蚊の鳴くような声・・・・とまでは言わないが、なるべくなら見つけられたくないという思いを込めて。普通よりも「やや」小さな声で返事を返した。
「叔母様!」
 ばぁん! 壊れんばかりの勢いで扉が開いたかと思うと、手入れの行き届いた銀髪とくるくると良く動く大きな鳶色の瞳をした少女が飛び出してきた。
「メアリーアン・・・・」
 今日だけで何度目の溜め息だろう? 頭の隅で考えながらも、涼やかな微笑を浮かべ。
「そんな扉の開け方を教えたありませんよ?」
 と、たしなめた。
「叔母様っ! 私、約束どおり行儀作法と縫い物と舞踏と歴史のお勉強を終わらせましたわ!」
 ひくり・・・・無視ですか。女主人の微笑が一瞬引きつるが、そこは踏んできた場数が違う。
「まぁまぁ、やはり私の姪ですわね。ですがメアリーアン・・・・」
 今の扉の開け方では行儀作法を勉強した、とはいえませんわよ? そう続けようとしたのだ、が。
「叔母様も約束を守ってくれますわよね!?」
 ひくひく・・・・先ほどよりも更に引きつりの度合いが大きくなる。
「もちろん約束は守りますわ。でもね? メアリーアン・・・・」
 これでは課題が終わったと言えませんわ。そういいたかったのだ、が。
「わぁ素敵! だから叔母様大好きっ!」
 がばぁっ・・・・有無を言わせず抱きつかれ、その後の台詞を全てカットされてしまった。
「何を着て行こうかしら。やっぱり派手な服より動きやすい服がいいわよね・・・・そうだ! ばぁや、去年ばぁやが縫ってくれた服、まだあるかしら?」
 メアリーアンは現れたときと同じぐらい、大きな音を立てて扉を開けると−ぱたたたたた・・・・−軽快な足音を響かせ走り去った。
 「小さな嵐が駆け抜けたよう」とは、後日女主人が知り合いに洩らした言葉。

●要するに
「家庭教師、ですか」
 4回目ともなるとさすがに距離感がつかめて来た。受付嬢はマーシネスに対して平常心で応対することが出来るようになっていた。
「ええ・・・・あの子を甘く見ていましたわ」
 苦笑とも微笑ともつかない表情で溜め息を一つと少しの間。
「始まりはささいな口約束でしたの」
「・・・・」
「家出の一件からあの娘・・・・メアリーアンは今まで以上に外の世界に興味を持ったようですの」
 まぁあれだけ自由に街を飛びまわって、同年代の子供と遊べ倒せばそうなるのもわからないでもないが。
「顔を合わせるたびに外に行きたい、行かせて下さいとうるさいもので・・・・つい」
「つい?」
 「・・・・」マーシネスはばつの悪そうな表情で。
「1週間分のカリキュラムを3日で終わらせたら・・・・」
「許可する、と」
 「・・・・」マーシネスは頭を抱えて机に突っ伏した。
「まさか2日で全て終わらせると思いませんでしょう!?」
 言葉の最後は、ほとんど悲鳴だった・・・・
●依頼
 10分後。どうにか冷静さを取り戻した貴婦人は、ようやく依頼内容を切り出した。
「メアリーアンをお預けする間、礼儀作法とあの娘が興味を持ちそうなことを教えて頂きたいの」
 それは乗馬でも、動物に関することでも、商売のことでも・・・・何でも良いとの事。
「了解いたしました。礼節や雑学に通じている者もおりますので問題ないと思います・・・・けど。あのぅ一つよろしいですか?」
 些細な、ほんの些細な疑問。
「・・・・仰らないで」
 その質問はさえぎったモノの、彼女の表情が全てを語っていた・・・・「僅かでも良い、穏やかな時間をすごした」と。

●今回の参加者

 ea7435 システィーナ・ヴィント(22歳・♀・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 eb3310 藤村 凪(38歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb5300 サシャ・ラ・ファイエット(18歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 eb7208 陰守 森写歩朗(28歳・♂・レンジャー・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●対面
 マーシネス邸。冒険者達は彼らの生徒に会うため、キャメロット城下の邸宅を訪れた。
「マリィ!」
 門をくぐるや否や挨拶よりも何よりも、見知ったボーダーコリーに駆け寄る銀髪の少女。件のおてんばお嬢様は、システィーナ・ヴィント(ea7435)の愛犬・マリィに抱きついた。
「お久しぶりメアリーアン。マリィは気に入って貰えたけどアリオンはどうかな?」
 システィーナは愛馬アリオンを少女に紹介する。
 「あ・・・・」メアリーアンは慌ててマリィから離れ、冒険者に会釈をする。
「冒険者のお兄様お姉さま。メアリーアンです、よろしくお願いします」
 挨拶自体は心得のある者から見ても全く問題無い。むしろ彼女の年齢を考えれば十分に合格点だ。あえて言うならば、元気すぎて周りが見えなくなってしまうのが欠点か。
「こんにちは、はじめましてやね。ウチは藤村いいます。宜しくお願いします〜」
 藤村凪(eb3310)が一礼する。
「元気なお嬢様でいらっしゃいますのね」
 サシャ・ラ・ファイエット(eb5300)も少女に一礼すると、悪戯っぽく微笑み。
「実はわたくしも礼儀作法は苦手ですの。ですから一緒に勉強させてくださいね」
 それを聞いたメアリーアンは嬉しそうに微笑み返し。「はい、サシャお姉さま」元気良く返事をした。
「たくさんお勉強して、めいっぱい遊びましょうね」
 えてして勉強と言うものは1人でするより、一緒に学ぶ学友がいると効率があがるもの。サシャの申し出は教える冒険者にとっても学ぶメアリーアンにとってもありがたい話だった。

「お久しぶりですね。お元気でしたか?」
 冒険者家庭教師、最後の一人にして唯一の男性。陰守森写歩朗(eb7208)が少女に声をかけた。
「はい・・・・あのぅ」
「どうしました?」
 怪訝な表情を浮かべるメアリーアンに森写歩朗は優しく微笑みかける。
「失礼ですが何処かでお会いしましたかしら」
 「・・・・」言いにくい事でもしっかり言う。悪い事では無い。無いのだが。こうもはっきり言われると、流石に・・・・そこではたと気付く。前に会った時、自分はクラウンの扮装をして他の子供達の相手をしていたはず、と。
「旅芸人の道化です」
「ああ!」
 少女の顔がぱぁっと明るくなる。
「ご無沙汰していますお兄様。その節はお世話になりました」
 小さなレディは優雅な仕草で森写歩朗に礼を述べた。

●冒険者の礼儀作法講座・異文化交流編
「まずはやる気が肝心」
 生徒「達」を前にシスティーナ講師は切り出した。本人にやる気が無ければ、どんなに教える方が頑張っても身につかない。と言うわけでマリィ達と遊ぶのは礼儀作法の勉強が終わってから、と言うことにした。馬の目の前にニンジンをぶら下げるようだが、明確な目標があると集中力を発揮するタイプには有効な手法である。

「まずはウチの授業や」
 ここで凪講師が更なる秘策を発動。
「ウチが教えるのはジャパンの礼儀作法や」
「素敵っ、凪お姉さま早くジャパンのお話をして下さい!」
 反応の良さに凪のテンションも上がる。たとえ今日明日の役には立たなくても、異国の文化に接した事が何れ役に立つかもしれない。生徒の食いつきだけでは無く、将来も見据えての講義内容だった。
「ウチの国ではな・・・・」
 凪は母国の礼儀作法だけではなく、書道・茶道と言う独特の文化を身振り手振りを織り交ぜて話して聞かせた。中でも生徒達はイギリスで言うお茶会、茶道に興味を持ったようだ。
 「ジャパンのお茶会ではおしゃべりはしないんですの?」 積極的に質問の声が上がる。
「まずは亭主(ホスト)がお茶を一服点ててお客を持てなす。客は亭主の心遣いを静かに待つんや。お話しはその後やね」
「イギリスではお茶と一緒にお喋りを愉しみますのに、ジャパンでは違うんですのね」
 メアリーアンの隣で講義を受けていたシャサも興味深々といった様子。
「茶道には一期一会ゆう言葉があんねん。これはな「2度と会うことの無い人であっても、何時でも会える人でも、今日この瞬間の出会いは1度きり」っちゅーこっちゃ。つまり」
「今日、この日この出会いを大切に・・・・と言うことでしょうか?」
 講師は生徒の回答に頷く。
「ええかー。礼儀作法で大切な事は「人に会ったら挨拶する」っちゅー事や」
「その時の出会いを大事にするため、ですね」
 「うん」満足そうに微笑むと凪講師は「これでウチの講義は終わり!」 授業の終了を告げた。

●冒険者の礼儀作法講座・実践編
「優雅とか綺麗に見えるのって、人に会うのに大事な事なの」
 実技をかねたお茶会。システィーナ講師は開口一番、メアリーアンに諭した。
 皆が自分のしたい事、したい話をするだけならお茶会は必要無い。自分だけが楽しめば良いのではなく、集まった誰もが楽しい時間を過ごすための場であり、そのための教養・礼儀作法だと言うことに気付いて欲しかった。
 カップを静かに持ち上げ、爽やかな香りと共にハーブティーを口に含みまたカップをテーブルに戻す・・・・それだけの動作なのに。
「綺麗・・・・」
 メアリーアンは講師の一挙一動に目を奪われていた。なんと優美で流れるような、それでいて耳障りな音の無い所作なのだろうか。自分も真似てみようとするのだが・・・・
 −かたかたかた−
 「あ」緊張で手が震え、ハーブティーを溢してしまった。頬を真っ赤に染めて俯く生徒に。
「恥ずかしがらなくていいの。はじめは誰でも失敗するもの」
 優しく声をかける。しかし少女は顔を上げることなく押し黙ったまま・・・・その時、−ぽふ−メアリーアンの膝の上に、黒くて毛むくじゃらな何かが飛び乗ってきた。
「ねこさんはお好き?」
 と、話しかけられた。
「え?」
「お嬢様のお膝の上にいるのがらくちゃん。この仔がこらくちゃんですの」
 振り向くと小さな黒猫を抱いたサシャが立っていた。
「黒猫は縁起が悪いだなんて迷信もいいところですわ。2人ともとってもおりこうさんですもの」
 −んな〜ぉ−膝の上でらくちゃんが−元気を出して−と言いたげに一声鳴く。
「・・・・はい、2人ともとっても可愛いです」
 ようやく笑顔が戻った少女を見て、システィーナはほっと胸を撫で下ろす。「お茶を溢した」それだけの事。
 だが、こんな些細きっかけでも苦手意識が生まれるのには十分なのだ。
 −ありがとう−目配せに気付いたシャサは微笑みで応えた。
「そうだ、お茶菓子はいかが? 私の手作りなの」
「わぁ素敵!」
 持参したバスケットを取り出すと、メアリーアン・・・・と、らくちゃん・こらくちゃんの瞳がキラキラと輝いた。

●今この時を大切に
 翌日。森写歩朗はメアリーアンを連れ、市場へと向かっていた。「もっと世の中の事を知りたい」と言う少女の希望と、ご褒美を兼ねた「お外でお食事会」の材料買出しが目的だった。
 メアリーアンは初めて目にする市場の活気と人の多さに驚くばかり。
「まずは野菜を見に行きましょう」
「はい・・・・きゃっ!?」
 後を追おうとした矢先、恰幅の良いご婦人にぶつかった。勢いそのままに尻餅をついてしまった。
「ごめんよお嬢ちゃん。大丈夫かい?」
「は、はい、おば様。私の方こそごめんなさい」
 おば様と呼ばれたご婦人は少女を抱き起こすと、目を丸くして驚いた。
「こんなしっかりしたお嬢ちゃんは見たこと無いよ。うちの娘にも見習わせたいね」
 感心しきり。
「申し訳ありませんでした」
 声をかけてきた若い男に、問題ないと伝えると「本当に悪かったね、お嬢ちゃん」そう言い残し人ごみに消えていった。
「大丈夫ですか?」 
「平気ですわ。ぼんやりしてた私が悪いんですもの」
 メアリーアンは服の埃を落とすと恥かしそうに答えた。そんな彼女の目の前に手が差し伸べられる。え・・・・森写歩朗の顔を見上げると。
「人が多いですし、お嫌でなければ」
 先ほどまでの恥かしさとは別の熱で頬が染まるのを感じる。「は、はい」思わず声が上ずるのもご愛嬌。差し出された手を両手でぎゅっと握った。

 お食事会の予定地。城外の野原でメアリーアンを待っていたのは、家庭教師を勤めた冒険者達と彼らのペット達。そして・・・・
 「おーい、メアリー」「こっちよー!」
「トミー! アニス! 皆、どうして?」
 それは彼女が家出をした時の事。彼女を友達として認め、行動を共にした子供達。
「大切なお友達ですし、声をかけておいたんです」
 森写歩朗は片膝をつき、少女の手を取ると毛糸の手袋を取り出してその手にはめた。
「これから寒くなりますしね」
「・・・・」
 メアリーアンは手袋と森写歩朗の顔を交互に見る。
「お兄様ありがとう。大好き!」
 思いっきり抱きつき、友達のもとへ駆けて行った。

●お別れの時
「お兄様、お姉さま。本当にありがとう御座いました」
 メアリーアンは冒険者に深々と頭を下げた。
「お嬢様だけでなく、わたくしにとってもとても有意義な日々でしたわ。また、一緒にお勉強しましょうね」
「はい! サシャお姉さま」
 差し出されたサシャの手を握り締め、元気良く返事をする。
「挨拶、忘れんよーにな。慣れてくると自然にすっ、と身体が動くよーになるで」
「頭の隅で意識しますわ、凪お嬢様」
 凪の教えを繰り返すと、メアリーアンは森写歩朗に歩み寄る。
「手袋、ありがとう御座いました。大切にします」

「これ、もらってくれたら嬉しいな」
 システィーナは魔法少女の杖とローブを差し出した。困惑する少女に、先輩魔法少女は。「来年になったらもう使えない年になっちゃうから」と付け足した。
「では、ありがたく頂きます、システィーナお姉さま」
「あ、でもこれだけは約束して」
 杖とローブを受け取った後輩に魔法少女の心得を解く。
「悪用はしないこと。魔法少女は人を幸せな気持ちにするのが使命だから」
「約束しますわ、お姉さま」
 まばゆい笑顔を見て。この笑顔には人を幸せにする力があるな、そう感じた。