開拓村攻防戦・村の守り手
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■ショートシナリオ
担当:熊野BAKIN
対応レベル:11〜lv
難易度:やや難
成功報酬:8 G 76 C
参加人数:8人
サポート参加人数:5人
冒険期間:12月08日〜12月13日
リプレイ公開日:2007年12月12日
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●オープニング
●必死の抵抗
「もうすぐ夜だ。篝火を絶やすな!」
開拓村の衛士長は部下に指示を飛ばす。彼を含めて4人の衛士はそこかしこに傷を負い、五体満足な者は誰一人としていなかった。
「隊長さん、柵の修理終わったぜ」
「助かります村長、これで今夜は耐えられそうだ」
村長・・・・と言う肩書きだが歳は30そこそこ、筋骨隆々の大男が不敵な笑みを浮かべて立っていた。
「ああそれとな、今夜から俺達も野番に立つぜ」
「・・・・! しかしそれは・・・・」
村の護衛としては守るべき人間を危険にさらすわけには行かない、が。しかし・・・・彼の意を汲んで「はっはっは」村長はカラカラと高笑いを上げる。
「ここは俺達が切り開いた俺達の村だ。これ以上あんたらに厄介事を押し付けるわけにいかねぇ」
村長の後ろに村の男集が集まっている。
「・・・・」
それでも、隊長はうつむいたまま沈黙を保った。どうしても彼らの申し出を受けるわけにはいか無い。何故なら、相手は自分達よりもはるかに強い、そんな相手に素人同然の村人が立ち向かえばどうなるか? 結果は見えている。
「それによ」村長の言葉にようやく顔を上げた。
「仲間が怪我をおして体張ってんだ。ほっとけねぇだろ?」
仲間、か・・・・
「あと3日」
「ん?」
今度は村長が怪訝な表情で尋ね返す。
「使いに出したうちの小僧が、ぼちぼちキャメロットに着く頃だ。あと3日も耐えれば助けが来る」
先ほどまでの畏まった口調とは違い、友人に話しかけるような言葉で断言した。村長は口の端を吊り上げると。
「みんな聞いたな? 3日たったらオーグラ野朗に目にモノ見せてやる! それまで絶対に守りきるぞぉ!」
3日後の援軍・・・・あまりにも希望的観測過ぎる結論。使いに出した衛士が何時キャメロットに着くのか、それ以前に着けるのかすらわからない。第一、彼らが3日の間、持ちこたえることができるかすら危ういのだ。
それでも。村人達は自分の村を、家族を、仲間を守るために。生き残るために。
「おおおおおお!!」
村長の檄に男達は森の木々を震わせるほどに激しく吠えた。
●すがる手、差し伸べる手
「村の位置はここですね?」
受付嬢はキャメロット近在の地図を指差して確認する。
「は、はい」
文字通り、ギルドに「転がり込んで」きた若い衛士は、カウンターにしがみ付くように体を支えている。話では丸2日、休憩も取らず馬を走らせ、馬が走れなくなると自分の足でキャメロットを目指して駆け続けたらしい。本来は話をしていられる状況では無いはずなのだが・・・・
疲労と焦燥でやつれ、強行軍で埃と垢にまみれた顔に使命感に燃える瞳を宿し、ギリギリの所で踏ん張った。
「敵はオーグラが3匹。主に夜に襲撃をかけてきますが、気まぐれに日中でも姿を見せるので気を抜けない状況です」
村にオーグラが出没して村を襲撃しているとの事。場所は森の中にある開拓村で、熊やゴブリン等の小型のオーガを警戒するため、数人の衛士が駐留していたらしい。
「形だけですがゴブリン除けの柵を設置していたので、数日は耐えられると思います・・・・でも」
熊やゴブリンとは違い、オーグラは手練の冒険者でも苦戦する相手。村人を守りながら何時までも支えきれるとは思えない。
「敵はオーグラと時間、ですね・・・・わかりました。すぐに人員を募集します」
「・・・・」
−どさ−受付担当の回答を聞いて緊張の糸が切れた若い衛士は、床の上に崩れ落ちる。
「誰か、この方をお願いします!」
依頼人を同僚に託し、彼女は依頼書の作成に没頭した。
●リプレイ本文
●援軍到着
「あれでしょうか?」
リースフィア・エルスリード(eb2745)のペガサス、アイオーンに同乗していた、アクテ・シュラウヴェル(ea4137)の鋭い目が鬱蒼と茂る森の中、ほんの僅か切り開かれた場所を見つけ出した。
「ツレの調べとも合うな」
グリフィン・高天を駆る、日高瑞雲(eb5295)が仲間の調べてくれた資料と照らし合わせ、彼女の推察を裏付ける。
「陸路の方々に伝えたほうが良いですよね?」
「だな」
リースフィアに同意すると瑞雲は高天の進路を変えた。
「予想より早くつけそうね」
現在、出発から数えて2日目の午後。シエラ・クライン(ea0071)はフライングブルームやセブンリーグブーツを用いて3日目の昼までにはと、思っていたので些か気抜けしたような風。
「衛士の坊主は良くやった。それでもちょいと考えが回らなかったようだね」
おばちゃん・・・・もとい、ベアトリス・マッドロック(ea3041)はニヤリと笑う。どんな名馬でも休み無しで走らせれば半日と持つまい。馬を捨ててから走り続けたというが、多少回り道をしてでも、近くの村に助けを求めたとすればもっと早くキャメロットにつけたはずだ。それでも。
「そんな事に気付けぬほど必死だった。という事だろう」
クロック・ランベリー(eb3776)は衛士の行動を冷静に分析した。経験と思慮に欠けた選択ではあったが、その行動は賞賛に値する、と。心の中だけで呟く。
「クロック卿の仰る通りですわね」
でも・・・・セレナ・ザーン(ea9951)は次の言葉を飲み込んでしまった。言いたいことが言えない自分の気質はもどかしいが、こればかりはどうしようもない。それでも「彼は自分の責務を全うしましたわ」それは壮年の騎士の想いと近しいモノだった。
「村人の事も気がかりだ。すこし急いだほうが良いのではないか?」
マックス・アームストロング(ea6970)が最後尾から声を上げた。
初日はフライングブルームと瑞雲が用意したアヴァロンの涙で距離を稼ぎ、一晩休息をとってからセブンリーグで残りの行程を踏破する予定だった。だが村が近いとわかった以上、その提案に否を唱えるものは無く。
暫くの後、村人の予想よりも丸1日以上も早く冒険者は村に到着した。
●反撃の狼煙
「良く頑張ったね衛士の坊主達。後はあたしらに任せな」
ベアトリスは開口一番、村を守ることを宣言すると衛士の傷の状況を確認し、リカバーの魔法を唱える。
何れも深手を負ってはいるが致命傷ではない。致命傷では無い、が。彼らは今夜もオーグラを阻止するため傷ついた体で敵に立ち向かっただろう。冒険者の迅速な到着が結果として衛士達を救ったのだ。
「今夜は村の人を一箇所に集めて、立てこもってください」
「それは構わないが、一体どうしようってんだ?」
村長はアクテの指示を受け入れはしたが、率直に疑問をぶつけてきた。その疑問にマックスが作戦の概要とともに答える。
「オーグラを村に引き込んで閉じ込める」
「な!?」 今まで守り通した村に敵を引き込もうというのだ、村長が絶句するのも無理は無い。
「万一取り逃がすと追う余裕が無いでしょうから、引き込んで確実に倒したいんです」
「戦いが始まったらこいつを扉にかけてくれ」
既に夕闇が迫っていた。シエラは議論をしている時間は無いと判断し村長に反論の間を与えず畳み掛ける。瑞雲もハグストーンを村長に押し付け。
「使い方を教える、一度しか言わねぇからな」
展開の速さに苦情をつけるタイミングを失う村長。呆然とする彼の肩を叩いたのは・・・・
「衛士長、あんたから何とか言ってくれないか?」
村長としてはオーガを柵の中に入れるなど許せる話ではない。それは衛士とて同じはず、はずだったが。
「彼らに全て任せよう」
「・・・・」予想外の言葉に再び言葉を失う。他の衛士達も冒険者が用意した薬や魔法で回復し、士気も最高。
「立てこもりならお手のモノだ。あんたらは俺達が守って見せるさ」
なおも沈黙で抵抗を試みたが。「もう一晩の我慢、だな」ついに白旗をあげた。
●村の守り手
その夜。オーグラ達は獲物の異変に戸惑っていた。昨夜は手製の柵の中で抵抗していた人間共の姿が見えない。それどころか硬く閉じられていた門が開け放たれているのだ。
自分達の攻撃に耐えかねて逃げだしたのか? それにしては所々に火がたかれている。好奇心に勝てず、オーグラは恐る恐る門をくぐった。
「来たわね」
焚き火に照らされるオーガの姿を見るや、シエラはフレイムエリベィションの詠唱を始めた。ほぼ同時に冒険者の存在に気がついたオーグラが吠える。
−うがぁぁぁ!−
「おおっ!」 敵の叫びに負けぬ雄たけびを搾り出しマックスが走る。声だけではなく、その体躯も決してオーグラに引けを取ってはいない。先頭のオーグラが放った薙ぎ払いを盾で受け止めると、名剣モラルタを叩きつける!
−ぐがぁっ− 苦悶の叫びを上げつつもオーガは斬撃に耐えた。右隣にいた1匹が一瞬動きの止まったマックス目掛けて棍棒を振り上げる、が。
「邪魔はさせません!」
セレナが隙間に体を捻じ込みオーグラの攻撃を妨げる。すぐさまオーグラは目標を目の前に現れた敵に切り替えるが如何せんタイミングを狂わされたため、中途半端な攻撃になった。女騎士は棍棒を盾で弾き、がら空きの胴目掛けてクレイモアを叩き込む。
−手ごたえあり−そう思ったのもつかの間。ダメージをものともせず棍棒を振り回す敵に、一先ず間合いを取る。
「なかなか歯ごたえがあるな」
セレナと同様、間合いを取ったマックスが不敵に笑った。強い敵と戦うのは戦士冥利に尽きるというもの、そしてそれは騎士とて同じ。
「バーニングソード!」 アクテの魔力が具象化し、セレナのクレイモアが炎を纏い燃え上がる。「感謝を」短く礼を述べると。
「私達だってまだまだこれから、そうでしょう?」
あまりにも素っ気無い口調に思わず微笑がこぼれたが、すぐに表情を引き締め。セレナは炎の剣を掲げ。
「シャルグ・ザーンの娘、セレナ・ザーン。参ります」
騎士の礼に則り、名乗りを上げた。
−律儀な事だ−クロックは声に出さず呟く。彼が信じるのは肩書きではなく実力。まぁ彼女は実力も申し分無い、な・・・・最小限の動きでオーグラの棍棒をかわし、ククノチで肩口を打ち据えた。彼もまた一流の騎士。
「っしゃぁ!」 斬っ! −ぎゃおぉっ−
オーグラの背後から覇気とともに斬撃音が響く。と同時に背中をかち割られたオーグラは、驚きと激痛の叫びを上げた。
「門は閉めたのか?」
相手も確かめずに声をかけた。
「万事抜かりねぇぜ」
期待通りの答えが返ってくる。声の主・日高瑞雲は、隠身の勾玉を使ってオーグラが柵に入るのを確認し、門を施錠して馳せ参じたと言う次第。
「背後からばっさりってのもアレだが、挟撃も兵法の内さね」
ふてぶてしく言って抜ける異国の剣士に、騎士は肩を竦めて見せた。
いかにオーグラといえど、手錬の剣士に挟まれては勝ち目は無い。数分後、一体のオーグラが地に伏し動かなくなった。
流石に無傷で、とは行かなかったが。瑞雲はおにぎり丸(鬼切丸)を地面につきたて、リカバーポーションを一息に飲み干した。
「日高の坊主、後で優しくしてやるから根性見せな」
おばちゃん、もとい。ベアトリスの檄に手を振って応えると剣を握りなおす。
「助太刀御免、お邪魔するぜ」
「日高様。お早いですわね」セレナの口調には余裕が感じられる。
剣士が前線を支え、術士が後方からフレイムエリベィションやリカバー等の魔法で援護する。実に基本的で効果的な戦術が功を奏し、総じて戦いは冒険者の目論見どおりに運んでいた。この時までは。
−がぁ!−
マックスが相手取っていたオーグラが一声、短く一声叫ぶと、2体のオーガが手にした棍棒を冒険者に投げつけ、ばらばらの方向へと逃走を図る。
「ぬぅ」
盾で棍棒を叩き落としたマックスだが、僅かにバランスを崩しほんの一歩遅れを取る。クロックはソニックブームを放とうとして「どちらを狙うべきか?」 一瞬躊躇う。
「左っ!」
シエラの凛とした声に呼応し、炎の壁がオーグラの行く手を阻む。フレイムコントロールで篝火を掌握しておいたのが役に立った。
「はっ!」 鋭い呼気とともに放たれた衝撃波がオーグラを捉えるが、とどめには至らない。
次の瞬間、逃げ道を求めて足掻くオーグラの足元から、炎の柱が吹き上がった! アクテの放ったマグナブローの業火は、オーグラの巨体を飲み込み容赦なく焼き焦がす。
永遠とも思える一瞬が過ぎた後。彼が見たのは振り下ろされる刃に反射した、炎の色。
オーグラを追おうとしたセレナの頭上を白い影が抜き去る。
「リースフィア卿!」
ランスを手挟み、愛馬・ペガサスのアイオーンを駆るその姿はまさに天翔る騎士。
「やぁぁぁっ!」
森を切り開いた村の中、ペガサスでのチャージを試みるにはこの広場しかない。左手でアイオーンの手綱を握り、右手に構えたブレイブランスをオーグラに叩き込む!
「っ・・・・」激しい衝撃に息が漏れる。すぐさまアイオーンを地に降ろすと、ランスを投げ捨て鞍から飛び降りる。鞍に吊るしておいたグラムを抜刀して身構えるが・・・・
その時すでにオーグラは、我が身に何が起こったのか理解できぬまま絶命していた。
●開拓者
出立の朝。村人は総出で村の救世主の見送りに集まていた。
「生きる為に未開地を切り開くと言うのは分かりますけど・・・・」
「なぁに。苦労にゃ、主は相応の恵みを賜るさ」
救援を求めるには遠く、危険な場所で生きる村人を案じるシエラに、ベアトリスは満面の笑みでそう請け負った。
「上手くいくことを祈ってるよ」
「ああ。5年、10年後を見てなって」
「・・・・」衛士長は村長と冒険者のやり取りを見て「まるで肝っ玉母ちゃんに腕白小僧だな」と、呟いたとか。