小悪魔狂騒曲 この橋渡るべからず

■ショートシナリオ


担当:熊野BAKIN

対応レベル:1〜5lv

難易度:やや易

成功報酬:1 G 0 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月16日〜12月21日

リプレイ公開日:2007年12月21日

●オープニング

●微妙な問題
「まぁね、それほど困ってるわけじゃぁ無いんだよ」
 この方、キャメロットに程近い農村で小麦畑を営んでおられるローエン夫人は、なんとも煮え切らない口調で話を切り出した。
「発端はうちのじーさんが橋から川に転げ落ちた事なんだよ」
 「え?」 受付担当は「酔っ払って橋から川に飛び込んだのでは」・・・・と結論付けたい衝動を一先ず押さえ込む。そんな顔色を察してかローエン夫人は苦笑いを浮かべて続ける。
「まぁ言いたいことはわかるよ。でもね、うちのじーさんは70越えても畑に出るほど足腰が丈夫でね」
 70過ぎてなお現役とは・・・・恐るべき御仁。それでも酒に酔えば足元が覚束なくなる事もあるだろう、しかし。
「しかもこの歳まで一滴も酒を口にしたことが無い変り種でねぇ、そんなじーさんがいきなり橋から転げ落ちるなんておかしな話だろ?」
 おかしいといえばおかしいが、理由理屈は幾らでも付けられるような気もする。
「それにさ。その日を境に、毎日橋から落っこちてるんだよ」
 「はぁ?」 あまりの衝撃に、つい受け付け嬢の本音がこぼれた瞬間だった。

●事件の背後にヤツの影
「それでおじい様は大丈夫なのですか?」
 幾ら元気だとはいえこの時期、毎日のように川に落ちていれば健康を害してしかるべき。しかるべき、なのだが。
「ああ、そっちは全く。多分今日も「わしはまだ衰えてないわい!」 とか言って出かけてるんじゃないかね」
 「・・・・」それはもう、元気と言うか何といおうか・・・・言葉が見つからない。見つからないので。
「そ、それでその橋と言うのは?」
 逃げた。
「ああ。村から畑に行くための橋でね。古い方の橋で村のモンもあまり使わないんだよ」
「古い方、と言いますと?」
「10年ほど前に新しい橋を作ったのさ、古いのよりも幅が広くてがっちりしたヤツをね」
「なるほど」
 古い方はローエン老の他はたまに村人が使うぐらいで、その存在すら忘れられているらしい。彼は何故新しい橋を使わないのか? と言う問いに夫人は肩をすくめて。
 「50年来の習慣だってさ」老農夫の答えを告げた。
「そう、ですか」
 それは若い頃からの習慣、儀式見たいなものかな・・・・受付嬢はくすりと笑った。

「つまり、何故毎日のようにおじい様が川に落ちるのか調査をして欲しい、と?」
 ようやく仕事の本題に入る。
「こんな変な話でもやってくれるかね?」
 不安げに聞き返すローエン夫人に、受付担当はにっこりと微笑み。
 「そのための冒険者ギルドです」そう請け負った。
「何でもいいのですが心当たりとか、気がついたことはありませんか?」
 原因に直結しなくても全く情報が無いよりはマシ。こういう些細な積み重ねが事件を解決に導くのだ。
 「そうだねぇ・・・・」腕を組み、祖父の話を思い出す依頼人。暫しの黙考、そして。
「そう言えば」
 何事か思い当たり、顔を上げた。
「落ちた後、川から上がると子供みたいな甲高い笑い声が聞こえるっていってたね」
「笑い声、ですか」
「そう。それで悪戯坊主の仕業かと思って辺りを見回しても・・・・」
「誰もいない、と」
 頷く依頼人。受付担当はこの子供じみた犯人の目星がついてきた。
「辺りに誰もいないのを確認して渡ったのに足を払われた、とも言ってたね」
 姿の見えない悪戯の首謀者、子供のような甲高い笑い声・・・・9割方ヤツだ。女の勘、と言うか今までの蓄積がそう告げている。
「すぐに人を募りますの。事件が解決するまでの間、おじい様には新しい橋・・・・」
 そこまで言ってから受付嬢は依頼人の苦笑いに気がついた。
「を、使うのは無理、ですよね?」
 彼女もつられて苦笑い。

●依頼書
 「急募・近隣の農村にグレムリン出没・・・・云々」

●今回の参加者

 eb2933 ベルナベウ・ベルメール(20歳・♀・ファイター・人間・イスパニア王国)
 ec2497 杜 狐冬(29歳・♀・僧侶・人間・華仙教大国)
 ec2813 サリ(28歳・♀・チュプオンカミクル・パラ・蝦夷)
 ec4270 シリウス・ディスパーダ(27歳・♂・ナイト・エルフ・イギリス王国)

●リプレイ本文

●老いてなお
「また小悪魔さんが悪さしてるって聞いたの! もう、いっつもあぷしてるのに懲りないんだから・・・・もっともっとあぷしなきゃ!」
 ベルナベウ・ベルメール(eb2933)は依頼人であるローエン家につくなり、憤りを隠しもせずぶちまけた。どうやら彼女の中では「前に撃退したグレムリンと今回のグレムリンは同一小悪魔」に、なっているらしい。
「いやいや。最近足がもつれるようになったと思うたら、まさか小悪魔の仕業だったとはの。それにしても嬢ちゃんは元気が良いのう、実に良い。わーっはっはっは!」
 齢70にしてほぼ毎日「強制水風呂」を続けているとは思えないほど、豪快で活力に満ちた表情と声で笑うと、ローエン老はべうの頭を撫でた。
 つられて「えへへ」ついさっきまで怒っていた少女の顔も笑顔に変った。
「お加減は如何ですか? お怪我はありませんか?」
 この分なら大丈夫かも、とは思ったが風邪をこじらせでもしたら一大事。杜狐冬(ec2497)はローエン老の体を気づかうが。
 「おーおー、これはまた別嬪さんじゃな。わしが後10歳若ければほって置かんのじゃが」10歳若くても60歳ですよ、お爺さん。普通の女性なら呆れるなり引いたりするところだが、そこは狐冬。
「痛いところがあれば仰ってくださいね」
 臆したそぶりも見せず堂々とした対応。
「えーと、それでですね?」
「荷車があったら貸してもらえないだろうか」
 話に乗り遅れ気味だった、サリ(ec2813)と、シリウス・ディスパーダ(ec4270)がなんとか話に割り込む。
「荷車か。あるにはあるが干草を積んだままじゃぞ?」
「あ、そのままで構いません」
 もともと身を隠す場所を作るために荷車を使うつもりだった。空樽でも積み込もうかと思っていたが、荷がつんであるなら手間も省ける。
「それでわしはどうすればいいのかの?」
「何時もどおりでかけてください」
 サリはローエン老に変らぬ日常を過ごすように伝える、ただし。
「ご帰宅もいつもどおりで。ただし、私達が行動にでたら絶対に近づかないでください」
 「ふむ」老農夫は少し考え。
「まぁ仕方ないのう、そうするわい」
 冒険者の提案を受け入れた。「わしが犯人をとっ捕まえてやる!」 なんて言い出さないでくれて助かった。
「ありがとう御座います」
 感謝の言葉を伝えた。

●投網の練習、小道具の準備
「見ている分には簡単なのだがっ」
 シリウスは体ごと捻り投網を放つ! ・・・・網は十分に広がらず、目印においた薪の手前でばさりと落ちた。
「もうちょっと早く手を離したほうが良いと思うの・・・・たぶん」
 何しろ網を用意したべうでさえ、投網で漁をした経験はほとんど無い。
「あら? あらら」
 パラのサリにいたっては網を振った時の重さで足元が覚束ない。力があれば良いというものでも無いが、力不足を補う技術は一朝一夕で身につくものでもない。見よう見真似のやり方で何とか正面に飛ばせるようにはなったが、果たして実戦で使っていいものか・・・・判断に苦しむところではある。
 何はともあれ、やらないよりはやった方がマシ。結果が出ることを信じて、冒険者達は投網の練習を続けた。

 狐冬は投網の練習には加わらず、過去の経験をもとに小麦玉−布で小麦粉を包んだモノ−をこしらえていた。直接ぶつけられなくても包みが解ければ小麦粉が飛び散り、近くにいる小悪魔をあぶり出すことが出来る仕組みだ。
 シンプルな仕掛けだが信頼性・安定性は折り紙つき。特に今回は4人の冒険者の中で、姿を消している小悪魔を感知できるのは狐冬だけ。上手く使えば彼らに大きなアヴァンテージをもたらしてくれるだろう。

●夕刻・現行犯
 その日の夕方、村はずれの旧道。珍しく古い方の橋を使おうとする人間がいた、しかも2人。
 1人は村へ向かう方向−ローエン爺さんの帰宅ルート−から少女が。そしてもう1人は村の方から干草を積んだ荷車を引いて来た男。その干草の隙間には・・・・
「そろそろだと思うんですが、どうですか?」
「ダメ、まだ近くにいないみたいです」
 橋までまだ少し距離はあったが、ディテクトアンデッドの魔法で小悪魔の存在を探った狐冬は、サリの問いに首を振って答えた。
「そうですか」
 もし相手が用心深い性質なら、いつもの老人の他にも橋に近づく人間がいないか見張っていてもおかしくはない。今まで上手く行っていた為に油断したのか、ものぐさなだけか・・・・まぁ小悪魔の性格など推察しても仕方が無いが。
「そろそろベルナベウ殿が橋を渡り始める」
 暫く荷車で揺られていると、車を引いているシリウスの声が聞こえた。干草の隙間から覗く、と。ほんの数メートルほど先に、いかにも「使い古された感」のある欄干の無い橋が。そして川向こうから一歩二歩と橋を渡り始めたべうの小さな姿が見えた。

 「小悪魔さん来るかな?」 べうは声に出さず呟く。
 お爺さんの話では足を滑らせたり転倒するのはいつも橋の真ん中辺り。この位置から落ちればほぼ間違いなく川の中だ。昼ごろ下見ついでに橋を見に来たとき調べたのだが、川の深さは彼女の腰位まであった。泳ぎの得意な者には問題無い深さだが何しろ冬の川。出来れば落ちたくない、落ちたくないのだが囮なので仕方が無い。
 鼻歌を歌いながら1歩、2歩、3歩・・・・「あれ?」 小柄なべうではあるが、既に橋の真ん中は越えた。対岸では荷車を引いた男が、彼女が橋を渡り終えるのを待っている。
 何時もと違う人間が、しかも2人もいたので小悪魔も手を出すのを控えたのか? それともお爺さんしか狙わないのだろうか? 何れにしよ橋の真ん中で止まるわけにも行かない。覚悟を決めていただけに気抜けしたような気持ちで次の一歩を踏み出す、と・・・・着地寸前の足を払われた!
 「はっ、はわぁ〜〜〜!」 「いました! 橋の真ん中から少し手前!」 だっぱーーーん!
 悲鳴を残してべうの姿が橋の上から消えた。その後を追うかのように響く水音・・・・時に12月の半ば、身を切るような寒風が吹く農村の夕方だった。

●小悪魔捕獲
 「はっはわぁ〜〜〜!」 「いました! 橋の真ん中から少し手前!」 だっぱーーーん!
 狐冬の叫びとほぼ同時、悲鳴と共にベルナベウの姿が消えた。そしてすぐに。
 −ぎーっきっきっきぃ!− 甲高い笑い声が夕闇迫る辺りに響き渡った。
 荷台からはサリが干草を跳ね飛ばしながら、荷車に手を突っ込んだシリウスが振り向き様に。今日一日・・・・もとい、半日・・・・いや四半日。猛特訓を重ねた投網を放つ!
 −ぱさ−−ぱささ−
 投網は共に目標ポイントの手前に落下した。どちらも練習を始めたときよりも網が開いている、すばらしい。練習の成果が出ているのは間違いない。
「えい!」
 一拍おいて狐冬が小麦玉を続け様に放つ。
 −ぽふ−
 投げた玉の大半が川へと吸い込まれたが、1発が橋のど真ん中に落ちる。落下の衝撃で包みが解け小麦粉がもうもうと立ちのぼり・・・・小麦粉は少しの間その場所に留まってから寒風に乗って、すぐに消えた。その場に残されたのは。
 −ぎ?−
 グレムリンの毛に絡みついた小麦粉の一部。
「えい!」
 一足先に網を手繰り寄せたサリが、白く染め上げられた空間目掛けて今一度、投網を放つ。今度は狙った場所目掛けて網が広がるが、ほんの僅かの差で白い影が網の範囲から逃れた。
 事ここにいたって、ようやくグレムリンは「自分が狙われている」事に気づいた。とにかく逃げなければ! 慌てて翼を広げて空に逃げようと・・・・したのが運の尽き。
「はっ!」
 ようやく準備が整ったシリウスの2投目。放たれた投網がグレムリンの「たった今、広げた翼」に絡みつく。
 −ぎ!?− 片方の羽を押さえ込まれた小悪魔は逃れようと必死にもがくが。
「サリさん今です!」
「は、はい!」
 サリの3回目のチャレンジで完全に自由を奪われてしまった。

●天罰覿面・あぷっ!
「あうぅぅ・・・・」
 川岸に隠しておいた槍を手に、ようやく道に這い上がってきたべう。冬の川は想像以上に冷たく、彼女の体温をごっそりと奪い取ってしまっていた。姿を消したグレムリンに振りかけようと用意した発泡酒入りの皮袋も流してしまっていた。
「大丈夫ですか?」
 シリウスは自分の荷物から毛布を引っ張り出してベルナベウの体を包む。少女の体は気の毒なほどガタガタと震え、その髪は凍りつきそうなほど冷え切っていたが・・・・
「ベルナベウさん?」
 毛布を羽織ったまま網の中でもがくグレムリンに近づき。
「あぷな子たちはお仕置きなのっ!」
 槍でぽかり。擬音は可愛いが、彼女の槍はデーモンスレイヤーの魔力を秘めた魔槍。叩かれたグレムリンはたまらず頭を抱え、悶絶。

●暖かい部屋と温かいスープ
「おうおう、上首尾のようじゃのう。ご苦労さんご苦労さん」
 程なくして日課どおりローエン老が旧橋を渡ってきた。ごそごそとうごめく麻袋を見て満足げに頷く。
「それでその小悪魔はどうするんじゃ?」
 至極最もな質問に狐冬は涼しい顔で。
「これから教会でたっぷりお説教をして差し上げるつもりです。きっと改心して良い悪魔になってくれるでしょう」
 良い悪魔と言うのが存在するかどうかは別として、彼女はやる気満々のようだ。
「あのね、あのね」
「嬢ちゃんどうしたね?」
 真っ青な唇で、それでもべうは明るい口調で食欲を主張する。
「美味しいご飯が食べたいな」
 「はっはっは」お願いを聞いた老農夫はさも愉しげに笑った。
「よしよし。一生懸命働いたご褒美に、羊のスープとチーズをご馳走してやるかの」
「わぁい!」
 はしゃぐ少女の頭を撫で、帰路につくローエンお爺さんの後姿に。
「いつまでも元気でいて下さいね」
 パラの娘は短く、祈りの言葉を投げかけた。