商人の息子 年末商戦につき・変態様お断り
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■ショートシナリオ
担当:熊野BAKIN
対応レベル:1〜5lv
難易度:普通
成功報酬:1 G 35 C
参加人数:4人
サポート参加人数:1人
冒険期間:12月25日〜12月30日
リプレイ公開日:2007年12月29日
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●オープニング
●次期店主の依頼
「お久しぶりです」
「あらレイモンド君・・・・失礼、レイモンドさん」
ギルドの受付に現れたのは、キャメロットでも大手の部類に入る商家の次期当主・レイモンドだった。彼はまだ17歳、少年と言ってもおかしくない年頃ではあったが、その雰囲気は既に貫禄すら漂わせていた。
「お気になさらず。まだまだ修行中の身ですから」
レイモンド・・・・容姿端麗でつつましやかな性格。それでいて時には見ているモノをはらはらさせる程、大胆な行動を取る。今年に入って彼の家の売り上げが伸びたのは、レイモンド目当ての顧客が増えたから・・・・そんな噂が立つほどの好青年であった。
「それで、今回はどのようなご用件で・・・・!?」
商家の若旦那からの依頼、であれば大口の荷物護衛だろうか? 軽い気持ちで問いかけた受付嬢は彼の浮かべた陰鬱な表情に驚き、思わず絶句する。
依頼人は黙して語らず、ただ一枚の羊皮紙を差し出す。そこにかかれていたのは・・・・
−親愛なるレイモンド君。一年の終わりに君と熱い一時を過ごすことを望む。
ネームレス−
「・・・・」
それは去年の事。キャメロット城下でも有数の美少年だったレイモンド君を狙った、仮面の変態紳士・ネームレスからの新たな予告状だった。
「正直、困るんです」
「はぁ・・・・それは、そうでしょうね」
こんなものを有難がる者はそうそういないだろう。そう思っていたから。
「いえ、そうではなくて」
「はぁ!?」 思わず声がでてしまった。
「あ、いえ失礼しました」
慌てて取り繕う。
「こちらこそすいません、言葉が足りませんでした」
苦笑いを浮かべ、レイモンドが補足した。
「ただでさえ忙しい年末に、困るんですよ」
「ああ、成る程」
大手の商人にとっては忙しくない時間などありはしないのだが、それに輪をかけて忙しい年末。些細な厄介事も持ち込まれたくないのは当然の事。
「では今回もレイモンドさんの身辺警護、という事で?」
「はい。腕自慢の身内に助けて貰おうかとも思いましたが、やはり時期が悪くて」
「わかりました。それで期間は?」
「そうですね・・・・」
少し考え。
「5日間ほど、お願いします」
「それでよろしいのですか?」
問題があるわけではないが、敵も馬鹿ではない。護衛がつくとわかればその期間を外して事に及ぶかもしれない。
「ええ。年内の仕事も一先ず落ち着きますし、そうなれば自分達で何とかできると思います。」
依頼人は爽やかな笑顔で答えた。
●5日間の行動
「そうですね・・・・」
護衛期間中の行動を確認するレイモンド。
「午前中は入荷した品と出荷品のチェック。午後はキャメロット内の配達ですね」
「若旦那さんが配達を?」
意外といえば意外。しかし理由を聞くと。
「お得意様の要望もありますが、配達先で新しい顧客を広げられるんですよ」
「成る程」納得。レイモンド氏、どうやら商人としてのしたたかさも身に着けてきたようである。
「夕刻は伝票の整理をして終了・・・・多分こんな感じになるかと思います」
「そうですか」
この中では配達中がダントツに危険性が高い。ついで、品物の出入りと共に人の出入りが激しくなる
午前中も怪しいが、人目が多いところで「仮面にマント」と言う、あからさまに不審な人物がいればあっという間に見つかりそうな気もする。逆にデスクワークの夕方は、人気は少ないが侵入する難しさがある。果たして彼は何処から来るつもりなのか・・・・
「申し訳ありません、これから商談があるので今日はこれで」
依頼人が席を立つ。
「それではすぐに募集をかけますので」
「よろしくお願いします」
受付担当の言葉に一礼すると、レイモンドは足早にギルドを後にした。
●リプレイ本文
●乙女護衛隊
「いけめんさんはこの世の宝なの。ひとりじめしようだなんて、べう許せないんだ!」
「 神の名にかけて、決してレイモンド様を傷物にはさせません」
依頼人であるレイモンドと顔を合わせるや否や、ベルナベウ・ベルメール(eb2933)は断固とした決意を瞳に宿し。杜狐冬(ec2497)は依頼人の手を取り、慈愛に満ち溢れすぎて潤んだ瞳で請け負った。
「よ、良くわかりませんが、よろしくお願いします」
新進気鋭の若手商人もアツい乙女の情熱に押され、笑顔を引きつらせつつやっと言葉を搾り出した。
「さすがにテーソーの危機だの言われると放っておけんからの」
何やら得心したような表情で頷いているのは、梅若帰蝶(ec1164)。ベルナベウに頼まれての参加ではあるが、加わった以上は徹底的にやるつもりだ。
「屋敷とお店の見取り図はあるかの?」
「いえ、ありません」
「ならばわらわが作っても構わぬかの?」
「この件が終わった時にお引渡し頂けるか、処分して頂けるなら結構です」
「承知」帰蝶は即答するとその場を離れた。
「相手の顔や特徴はお分かりになりますか?」
帰蝶を見送り、アイリス・リード(ec3876)は本題・ネームレスの件を切り出した。仮面にマントという以外に情報が無い。
「申し訳ありませんが、私も彼の事は殆どわかりません」
彼もネームレスの仮面の下を見たことが無い。もしかすると直接の面識は全く無く、完全無欠に「一方的な愛情の押し売り」である可能性も否定できない。いや、むしろその可能性が高いかもしれない。
何にせよ押し付けられるほうにとっては、迷惑極まりない話だ。
●屋内防衛ライン
屋根裏から帰蝶がひょっこりと顔を出す。
「こんなものかの」
身のこなしも軽く床に降り立つと蜘蛛の巣を払い、手書きの見取り図に何事か書き加えていく。屋上からの侵入に備え、鳴子を始めとする警報用の罠を仕掛けて回っていたのだ。書き込んでいるのは罠の位置と種類、どの罠が発動したかを知るための資料だ。
そこに屋内を巡回していたアイリスが通りがかった。
「上はどうですか? あら」
「わらわより前に潜り込んだ者はおらぬようじゃ・・・・何か?」
帰蝶は作業を一時中断。図面から顔を上げると、アイリスは部屋の隅で水差しの水を手桶に注ぎ何事かしている。
「・・・・」声をかけようか迷っているうちにこちらを振り向くと、程よく水気を絞った手ぬぐいを差し出してきた。
「お顔が汚れてますよ」
「すまぬな」
好意でしてくれた事と割り切り、手ぬぐいを受け取って無造作に顔を拭う。
「そちらはどうじゃな?」
「そうですねぇ」
手ぬぐいを絞る間。
「暖炉の煙突が気になりますけど・・・・」
時期柄、暖炉には常時薪がくべられている。ネームレスが防火の魔法を会得していない限り、ここからの進入は難しい。何よりアレだけ気障な真似をする相手が「煤まみれで夜這い」をするだろうか?
「ふむ」帰蝶は見取り図に−暖炉、注意−と書き込んだ。
●護衛秘書
夜番の疲れはあったが「いけめんさん」を守ると言う使命感が彼女に活力と高いモチベーションを与えているらしい。
「いけめんさーん〜守り隊っっ!」
自作の鼻歌を歌いながら、ベルナベウは出入りする人物のチェックを行っていた。出入りする全ての人間を把握するのは難しいので、不審な−主に仮面をかぶったとか、そんな−人物が居ないかどうかに重点を置いていた。
「ご苦労様です」
振り向くと台帳を抱えたレイモンドが立っていた。彼のすぐ後ろには帰蝶が張り付き、人ごみに紛れて不審者が接近しないよう目を光らせている。
狙われているという緊張感か、はたまた連日の疲れか。レイモンドの表情はどこか硬く、強張っているような感じがする。
「おはよー」そんなレイモンドにべうは笑顔全開で挨拶を返した。
「いまのところ、怪しい人はいないから大丈夫!」
ぐっ! サムズアップがべうの笑顔にベストマッチ。その可愛らしくも頼もしい姿にレイモンドは思わず−くす−と微笑んでしまう。
「やっぱり笑ってる方が素敵なの」
屈託の無い笑顔で何時もの自分を取り戻す事が出来たみたいだ。
「今日もよろしくお願いします」
一礼して自分の仕事へ戻って行った。
●乙女護衛隊大ピンチ!
天井裏に仕掛けまくった罠のお陰か、昼夜問わぬ厳重な警戒の賜物か。3日目の夕刻になるまでネームレスは影も形も現すことなく、依頼人と乙女護衛隊は平穏無事な日常を繰り返していた。
「今日分の荷物は終わりです」
御者台リストを確認していたアイリスは、どちらかと言うと荷馬車の前後で警備を固める護衛隊に配送終了を告げた。
「じゃぁ今日のお仕事は終わりだね? お腹減った〜」
「ベルナベウさん、まだ伝票の整理が残っていますよ?」
「え〜」狐冬の指摘にべうが不満そうな声をあげる。この寒空の下、べうで無くとも暖かいスープが恋しくなると言うもの。
手綱を握っていたレイモンドは微笑むと。
「伝票の整理は私がやりますから、皆さんは食事をどうぞ」
彼女達に声をかけた。正直、店の売り上げ計算まで外部の人間に任せられないし・・・・その時、馬の轡を取っていた帰蝶が馬を止めた。
夕闇が迫っているとは言え、キャメロットの市場通りにはまだ行き交う人も多い。道筋に灯された篝火とこれから営業を始める酒場からこぼれた光が辺りを照らし出していた。
道行く人々がある一点、馬車からの距離は5メートルと言ったところか。水が流れに突き立てられた小枝を避けるように人の流れが割れた。
小枝とは即ち−仮面を被り、闇よりなお暗き漆黒のマントに身を包む男−ネームレス。
「長かった」
芝居がかった仕草で仮面の男は、御者台に座るレイモンドに手を差し伸べた。
「ようやく君を迎えに来ることができた」
街の雑踏も好奇の視線も全てを無視して、一歩踏み出そうとしたネームレス・・・・だが、その前に熱き乙女達が敢然と立ちはだかった!
「何方ですか?」
ローブを羽織った狐冬が物干し棒を構え誰何の声をかける。持ちなれないため、今ひとつ様にならないが、伝染り(うつり)そうな気がするので直接触りたくない、そんな乙女心。
「いけめんさんを独り占めなんて、あぷ!」
べうは携えていた槍を振るおうとするが。
「ベルナベウさん、いけません!」
レイモンドの制止ではたと気付く。人気の無い場所ならまだしも、市場通りで槍など振るえばどうなるか。どんなに相手に非があったとしても「あぷ」されるのは自分の方だ。
「あうぅ」
しぶしぶ変態スレイヤー、もとい。槍を地面に置くと鬼神ノ小太刀を構えた。これならまだ言い逃れもしやすい。
ネームレスは立ちはだかる乙女達を悠然と見回し。
「無粋な者達と話す口は持ち合わせていない」
意に介さず動いた。
「きゃっ!」 「速っ!?」
棒を難なく捌き、べうの横一閃を軽々と飛び越える仮面の変態。そこに荷馬車との間に割り込むように帰蝶が滑り込み。
「やらはせぬわ!」
ネームレスの足目掛けて鉄扇で薙ぐ! ・・・・だが次の瞬間。
「な!?」 声をあげたのは帰蝶の方。ネームレスは軽業師のような身のこなしでとんぼ返りを切り、鉄扇を交わしたのだ。
●救いの戦士
乙女隊必死の抵抗もむなしく、ネームレスはレイモンドの座る御者台に駆け上がった。
「待たせたねレイモンド君。さぁ行こう・・・・?」
そこにはレイモンドの胸に顔をうずめるようにしがみ付くアイリスがいた。
「君に用は無い、どきたまえ」
言い聞かせるように語り掛けるネームレスだが。
「・・・・わたくしには分りません」
「む?」
「このまま如何に足掻いたとしても、彼の心は決して手に入りませんのに」
心優しき淑女の言葉は、しかし変態の心には届かない。
「何を言うかと思えば下らん事を」
芝居がかった仕草でマントを一振り。
「障害無き愛など児戯に等しい! 困難であればあるほど私の情熱は燃え上がるのだ!」
「うわぁ」「最っ低」野次馬の呟きはシャットアウト。今、変態が暑苦しく燃えている!
「と言うわけでそこをどきたまえ」
ヒートアップしたため少々呼吸を乱してアイリスに詰め寄る。近づく−はぁはぁ−に鳥肌が立った。
「いやです!」
意地でも譲らない。
「いいからどきたまえ」
業を煮やしたネームレスの手がアイリスの肩にかかる。
「いやー!」
絹を引き裂く乙女の叫びが夜の帳を引き裂く、その時。
「お待ちなさい!」
凛とした声が響く。
「誰だ!?」 声の主に視線が集まる。そこにいたのは・・・・下着同然、むしろ下着よりも遥かにきわどい衣装を纏った、アイマスクの女。
「私こそが変態を狩る変態。貴方の好きにはさせません!」
びしぃ! ネームレスを指差し言い放つ仮面の女戦士。
「鼻の下伸ばしてるんじゃないわよ」 「かーちゃん、おのおねーちゃん寒そうだよー」「ジョミー! 見るんじゃないよ」 「私しか見えないって言ってたじゃない!」 「わしがもう20も若ければのぅ」なんだか野次馬がヒートアップしたのは気のせいではない・・・・男って馬鹿。
「何者だ?」
新手の出現にたじろぐネームレス。しかしそれを確かめる時間は無い。−がちゃ、がしゃっ−鎧を纏った一団が近づく音。騒ぎを聞きつけた衛兵だろう。
「無念だが今宵はここまでだ。何れまた」
硬直しているレイモンドを一瞥すると野次馬の中へ駆け込む。べうと帰蝶が後を追うが、仮面とマントを外されてしまえば捕らえることは難しい。
「助かりました・・・・あら?」
アイリスは窮地を救ってくれた女性に礼を述べるが、既に彼女の姿は無く・・・・
●謎の人
「わ、私の趣味ではありませんから」
頬を真っ赤に染め、荒い息の下で自分に言い聞かせる。時間を稼ぐための苦肉の策、やりたくてやったわけじゃない・・・・それでも。
あの感覚を思い出す度に、胸の鼓動が早鐘のように鳴り響くのを感じた。