おてんば狂想曲・外伝 新年の迎え方 

■ショートシナリオ


担当:熊野BAKIN

対応レベル:フリーlv

難易度:やや易

成功報酬:0 G 52 C

参加人数:5人

サポート参加人数:1人

冒険期間:12月31日〜01月04日

リプレイ公開日:2008年01月06日

●オープニング

●依頼と言おうかお誘いと言おうか
「新年を迎える会・・・・ですか?」
「そういうことになるわね」
 マーシネスはたおやかな微笑で頷くと「それで、いかがかしら?」 と、呆気に取られる受付嬢の返答を促した。
「まぁ斡旋は可能ですが・・・・」
 正直、実入りに直結しにくい内容ではあったので、その返事は歯切れの良いものではなかった。

 早い話が、12月31日の夜から翌朝1月1日の夜明けまで、マーシネス邸にて「新年を迎える会」を催す事になったそうな。さすがに時期も時期なので以前のマスカレードほど賑々しいモノでは無いらしいが、ホストの身内や近しい友人・知人が集まる事になっているらしい。
「あまり人数が少なくても寂しいですし、色々な経験や技能をお持ちになってる方にいらして頂ければ会も盛り上がりますでしょう?」
 まぁ・・・・それはそうだけれど。
「それに楽曲や舞踏、何か出し物をして頂けるなら個別に報酬をお支払いしますわ」
「なるほど」
 冒険者の中には楽器演奏や歌、大道芸等に精通している人材も多い。そういうことなら何とかなるかもしれない・・・・底まで考えたとき、頃合を計ったように。
「ただし。こう見えてもわたくし、目と耳は肥えてましてよ?」
 「・・・・」素人はだしぐらいではごまかせない、と暗に仰せなのね。受付嬢は特に言葉を使わず、苦笑いだけで応えた。

●パーティー概要
「会では庭と食堂、ホールの3箇所を使う予定ですわ」
 貴婦人は一度言葉を切り、受付担当がメモを取る用意が出来るのを待って説明を再開した。
「ホールは演奏やダンスに使って頂いて、歓談や食事は食堂で・・・・当たり前ですわね」
「片付けも楽ですしね」
 至極シンプルでストレートな感想にくすっと微笑み「そうですわね」同意の意を示して話を続ける。
「最後に庭ですが。こちらは派手な出し物をするもよし、星占いをするもよし。こちらは好きに使って頂いて構いませんわ。勿論・・・・」
 受付担当は先ほどの間とは明らかに違う、含みのある物言いにメモから顔を上げた。
「2人きりになりたければそれもよし、ですわ」
 ほんの一瞬、受付担当はぽかーんとした表情を浮かべ。それを見た貴婦人は満足げに頷くと楽しそうに笑った。

●今回の参加者

 ea2834 ネフティス・ネト・アメン(26歳・♀・ジプシー・人間・エジプト)
 ea2913 アルディス・エルレイル(29歳・♂・バード・シフール・ノルマン王国)
 ea5556 フィーナ・ウィンスレット(22歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea5866 チョコ・フォンス(29歳・♀・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ec0964 アルフィエ・グレイシェル(25歳・♂・バード・人間・ロシア王国)

●サポート参加者

キュアン・ウィンデル(eb7017

●リプレイ本文

●最後の夜
「それでは皆様、今年最後の夜をお楽しみください」
 新年を迎える会のホスト・マーシネスはワインを満たした杯を掲げ、挨拶を締めくくった。それと同時にホールは音楽で満たされ、ゲスト達は談笑しながら思い思いの場所へと散っていく。
「こうゆうお仕事は私の本職なのよね〜」
 褐色の肌に異国−彼女にとっては母国−の衣装を纏い、ネフティス・ネト・アメン(ea2834)は生き生きとした表情でホールを見回した。
 その隣では、アルフィエ・グレイシェル(ec0964)が緊張した面持ちで妖精の竪琴をかかえている。半分「お客気分で」と思ってはいたが、いざ本番が近づくとやはり独特の緊張感が沸いてくる。ネフティスの踊りの伴奏をする予定なのだが、エジプトのジプシーである彼女の踊りはイギリスのそれとは全く別物。となれば伴奏する曲も別物。多少の練習はして来たが、後はもう勢いと雰囲気で乗り切るしかないだろう。
「ネフティスお姉さま!」
 −ぱたぱた−
 軽い足音と共に一人の少女がネフティスの腰に飛びついてきた。
「お久しぶりメアリーアン、覚えていてくれて嬉しいよ」
 ジプシーの娘は子猫のように飛びついてきた少女を抱きしめる。
「私、一度お会いした方の事は良く覚えてますの」 
 そう言うと少女は嬉しそうに笑ったが、急に何かを思い出したように離れ。
「お久しぶりですネフティスお姉さま、その節はお世話になりました」
 淑女の挨拶をして見せた。「ええと、こちらの方は・・・・」次にメアリーアンは一緒にいたアルフィエに挨拶をしようとしたが何分初対面、言葉を詰まらせる。
「は、始めまして。僕・・・・私はアルフィエ・グレイシェルと申します」
「アルフィエお兄様ですのね? 私、メアリーアンですわ」
 礼儀作法に疎かったので、事前に友人のキュアンに手ほどきを受けておいたのが役に立った。少々ギクシャクはしたものの、良家のお嬢様と無事挨拶を交わすことが出来た・・・・それだけでアルフィエは一仕事終えた気分がした。
「そうだメアリーアン。これから故郷の踊りを舞うつもりなんだけど、見てくれるかな?」
「わぁ素敵! 勿論です、お姉さま」
「良かった。彼も伴奏をしてくれるから応援してね」
「え、あ・・・・」
 予想外の場面で話を振られ思わず言葉が詰まる。そんな彼に。
「お兄様が伴奏なさるの? とても楽しみですわ」
 無邪気な追い討ち。
 「ご期待に沿えるよう、頑張ります」そこは吟遊詩人。ここで引くわけにはいかない、頑張れ男の子。「・・・・あれ?」
 そんな話をしているうちに、いつの間にか緊張は消え去っていた。

●貴婦人の肖像画
「マーシネス、この度はお誘い頂けて光栄です。よろしくお願いします」
「冒険者さんね? こちらこそおいで頂けて嬉しいわ」
 女主人は、チョコ・フォンス(ea5866)の挨拶をたおやかな微笑で迎えた。
「楽しんで頂けたら良いのだけれど。何かあったら遠慮なく仰ってくださいね」
 その言葉に後押しされ、チョコは自分のやりたかった事を思い切って切り出す。
「あの、よろしければ似顔絵を描かせて頂けませんか?」
 パーティーのホストを長時間独り占めさせてくれと言っているようなモノ。ダメもと覚悟で言って見たのだが・・・・案ずるよりうむが安しとは東洋の諺だったか。
「あら嬉しい。私でよろしいの?」
「是非お願いします! じっとしていて頂かなくても大丈夫ですから」
「それは助かりますわ」
 る貴婦人の側に陣取ると、チョコは似顔絵制作に取り掛かった。

●錬金術師
「さて皆さんは錬金術をご存知ですか?」
 寒空の下、それでも見目麗しきエルフの錬金術師に心引かれた観客−半数ほどは10代半ばの少年少女−の注目を一心に集め、フィーナ・ウィンスレット(ea5556)が口を開いた。
 錬金術。その呼び名で誤解されがちだが、ただ単に「金ならざるものから金を生み出す」事が目的ではない。万物を研究してより完全なモノを云々かんぬん・・・・その理念は一先ず置いといて。フィーナはいわゆる「人々が夢見る錬金術」ショーを演じようとしていた。
 即ち「金ならざるものから金(偽)を生み出す」錬金術を。

「まずはこちらの結晶をスプーンに乗せます」
 錬金術師は庭に用意されたテーブルの上から大きめのスプーンを取り上げ、白い結晶をすくうと燭台の炎でそれを熱し始めた。白い結晶は熱せられにつれ、卵が腐ったような異臭を放つ。
 −この匂いの為に外での実験を余儀なくされたわけだが−
 次に銀灰色の粒を摘み上げてスプーンの先へ落とす・・・・
「さぁ、ご覧ください」
 観客に実験の成果を示す。
 −おお・・・・−静かなどよめきがおきた。スプーンの先には鈍色の金属、そして・・・・燭台の炎をうけ、黄金色に光る数粒の塊が。
 一瞬の静寂の後。目前で起きた奇跡に、観客達は惜しみない拍手をもって錬金術師を讃えた。

●新年を迎える歌
 マーシネスの似顔絵を仕上げた直後から、チョコの周りには自分も似顔絵を描いて欲しいとひっきりなしに顧客が集まった。殆ど休み無く描き続け、宴が始まってから3時間程経った辺りでようやく開放された。
「大好評でしたね、私の似顔絵は無理かしら?」
「ううん平気よ。さ、そこに座って」
 庭で錬金術の実験を行っていたフィーナが、休憩がてら食事と暖を取りに食堂に戻ってきた。
「実験はどうだった?」
「お客さんの反応が良くって、とても盛り上がりました」
 ギャラリーのリアクションを思い出し、思わず−くす−っと微笑を洩らすフィーナ。「あ、良い表情・・・・」モデルの魅力的な表情をイメージに焼付けると、絵師はデッサンに取り掛かった。
 「あら?」 「あれ?」
 その時。ホールから聞こえてきた聞き覚えのある歌声に、2人は顔を見合わせた。 

  −舞い降りる雪は 父なる神からの祝福 祈り捧ぐ民を優しく包む 祝福の白
  燃えさかる炎は 母なる神からの慈愛  祈り捧ぐ民を暖かく包む 慈愛の赤−

 妖精の竪琴を爪弾きながら、アルフィエはこの年を過ごせた感謝を神に捧げるように歌う。賑わっていたホールが礼拝堂になったかのように静まり、その歌声は聖歌のように響いた。

 使用人がマーシネスに何事かを告げると、貴婦人は立ち上がり。
「皆様、ただいま新たな1年が始まりました。この年が皆様にとって実り多き年でありますように」
 新たな年の始まりを告げた。
 その報せを待ちかねたかのように曲調が変った。それは新しい年を迎えた喜びと希望に満ちた歌。

 −さあ歌おう 喜びの曲を さあ踊ろう 歓びの舞を
 今宵宴は始まったばかり 新たなる年もまた然り−
 
 楽器を持つものは曲に、楽器を持たぬものは歌に加わった。

 −飲みあかそう 家族と友と 遠くの友を思いながら
 語りあかそう 家族と友と 新たな友を想いながら−

 隣り合った者同士杯を酌み交わし、恋人達は抱き合って喜びを分かち合う。

 −新たなる年は始まったばかり 今宵宴もまた然り−

 そう。旧年を偲ぶ宴は終わったが、新年を迎えた宴は今まさに始まったばかり。

●朝日が昇る少し前
 新年を迎えた興奮もひと段落。ジプシーの娘はもう一つの「本領」を発揮していた。卓上に配置されたカードを吟味し、依頼人のご令嬢に占いの結果を告げる。ちなみにご所望は結婚について。
「今年は良縁に恵まれます。ただし貴女が進んで機会を得ようとしなければダメ」
 依頼人の口調や仕草から、奥手な性質を見て取ったネフティスはもっと積極的になる事を勧める。ただ言われるがままに占うばかりが占い師ではない。依頼人の悩みを理解し、的確なアドバイスを送るのが良い占い師なのだ。
「お忘れなく。貴女が動かなければ何も始まりませんわ・・・・あら」
 席を立つ依頼人を見送り卓に目を戻す、と。つい先ほどまで占いを食い入るように見つめていたメアリーアンが、小さな寝息を立てて眠りに落ちていた。
「頑張ってたけどね」
 きっとこんな時間まで起きていたのは、彼女にとっては生まれて初めての経験だろう。何度かマーシネスが席に訪れ、寝室に行くよう勧めたのだが。そのつど少女は「皆と一緒に朝日が見たい」と言い張り、その度に伯母上は苦笑いを浮かべて退散した。
「さてどうしようかしら・・・・」
 暫くこの寝顔を見ていたかったが、このままでは風邪を引いてしまう。かといって寝室につれて行ったら、後で何といわれるかわからない。どうすべきか迷っているネフティスにチョコが近づいてきた。
「寝ちゃったの?」
「ええ。かける物を取ってくるから、少し見ててくれない?」
「それはいいけど・・・・寝室に連れて行ったほうが良くない?」
 もっともな提案ではあったが。ネフティスはマーシナスがそうしたように苦笑いを浮かべ。
「もうすぐ夜明けだし、一緒に夜明けを迎えたいってこの子が」
「ああ・・・・」
 チョコはくすっと微笑むと、ネフティスを見送った。

「そうだ」
 暫く少女を見ているうちに、チョコは彼女の似顔絵を描いていなかった事に気がついた。どうしよう、寝顔なんか描いたら後で怒られるかな? でも・・・・
「きっと良い思い出になるよね」
 そう決めてスケッチ道具を広げる。
「・・・・おねぇさま」
 どき。出来るだけ音を立てないよう気をつけたつもりだが、起こしてしまったか? 恐る恐る顔を上げると・・・・無邪気な寝顔。
 寝言だったみたいね。胸を撫で下ろし準備を続けようとしたが、その前に何となく少女の銀髪に手を伸ばした。柔らかな感触を手のひらに感じる。
「素敵な事があるといいな」
 ぽつり、と呟く。それは少女の為だけの祈りではない。「大事な人たちにとって幸せな年でありますように」と捧げられた。
 今年、一番最初の優しい祈り。