仲間割れは他所でやってくれ

■ショートシナリオ


担当:熊野BAKIN

対応レベル:11〜lv

難易度:普通

成功報酬:6 G 65 C

参加人数:8人

サポート参加人数:5人

冒険期間:01月15日〜01月20日

リプレイ公開日:2008年01月18日

●オープニング

●2頭のオーグラ
 イギリスの冬にしては暖かな昼下がり・・・・2頭のオーグラは森の中にぽっかりと開けた
広場で相対していた。
 −うがぁぁぁ・・・・−−ぐるるるるる−
 とはいえその様は「再会を喜び合う」ようでも「偶然仲間と出会った」ようでもなく。強いて言うなら「縄張りを争う」ならず者だったと言う・・・・

●目撃者は語る
「その日はいつに無くあったかい日だったモンで、息子を連れて兎狩りに出かけたんでさぁ」
 衛兵隊長に連れられて来た老狩人はこう切り出した。
「いつもは村の近くで済ませるんですが、せっかくなんでちょっと足を伸ばして半日ほど離れた森まで足を伸ばしたんです・・・・」

 その日、森の中は何時もとは違う雰囲気で満たされていた。冬の森とはいえ冬眠しない動物もいる。鹿や狐、兎の類なのだが・・・・その動物達の気配がまるでしないのだ。
「親父なんかおかしくねぇか?」
「ああ、何だか肌がピリピリしやがる・・・・こいつは」
 殺気ってヤツだ。ベテランの狩人である父は、幾度かこの感覚を体験したことがあった。手負いの熊と遭遇したとき、折悪しく野盗に出くわしてしまった時・・・・だがこの感覚は少し違う気がする。
「俺はもう少し先にいって様子を見てくる。お前は先に戻っていろ」
 渋る息子をなだめすかして村に帰すと老狩人は、獲物に近づくときのように気配を殺し、森の奥へと向かった。

 森の中、突然視界が開けた。昔は大木があったらしいのだが、その木が朽ちて以降は若木が育たず、今のような空き地になったのだが・・・・
 空き地に先客の姿が見えた。
「オ、オーグラだ」
 慌てて下草の中に身を隠し更に様子を窺うと、先に見えたオーグラの向こうにももう1匹、褐色の巨人の姿。そして2匹を取り巻くように数匹、オーガの姿も見える。
「・・・・何だぁ?」
 狩人はすぐに異変に気がついた。2匹のオーガが対峙している周りで、オーガ同士が小競り合いをしている。
 「縄張り争いか?」 獲物が少なくなる冬に偶然2つの集団が、森の中でかち合ったとしたら・・・・可能性は否定できない。
 もう少し様子を見ていたかったが、オーガ達に見つかったら本気で命が危ない。老狩人はそっとその場を離れた。

●依頼内容
「ではオーグラ達の排除の依頼ですか?」
「そういうことになるな」
 老狩人に代わって衛兵隊長が受付嬢の問いに答えた。
「雪の森の中と言う場所でオーガ同士の小競り合い・・・・少々イレギュラーな要素が重なっているんでな。君達の方が適任と判断した」
 相変わらず言いにくい事をはっきり言う人だ。お役人としては貴方も随分イレギュラーですよね・・・・等と言えるはずも無く。
 「恐れ入ります」受付嬢は会釈した。
「彼の話ではオーグラは2匹。それぞれ2〜3匹のオーガを従えているらしい」
 総数で6〜8匹と言うところ。
「そう広い森ではないが、今のところ2つのグループは森の中から外に出ている様子は無い。もっとも・・・・」
「縄張りを追われた方がいつ外に出るかはわからない、ですか?」
 衛兵隊長は受付嬢の言葉に、無言で頷いた。

●今回の参加者

 ea0050 大宗院 透(24歳・♂・神聖騎士・人間・ジャパン)
 ea1274 ヤングヴラド・ツェペシュ(25歳・♂・テンプルナイト・人間・神聖ローマ帝国)
 ea7263 シェリル・シンクレア(21歳・♀・ウィザード・エルフ・フランク王国)
 ea9951 セレナ・ザーン(20歳・♀・ナイト・ジャイアント・イギリス王国)
 eb2257 パラーリア・ゲラー(29歳・♀・レンジャー・パラ・フランク王国)
 eb2628 アザート・イヲ・マズナ(28歳・♂・ファイター・ハーフエルフ・インドゥーラ国)
 eb3671 シルヴィア・クロスロード(32歳・♀・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 eb5295 日高 瑞雲(34歳・♂・浪人・人間・ジャパン)

●サポート参加者

ソムグル・レイツェーン(eb1035)/ 桜葉 紫苑(eb2282)/ リースフィア・エルスリード(eb2745)/ マミー・サクーラ(eb3252)/ 鳳 令明(eb3759

●リプレイ本文

●第3勢力
 −ぐるるる−−があぁっ!−
 その日もオーグラが率いる2つのチームは空き地で対峙していた。前に狩人が目撃していたように、小競り合いをしているのは取り巻きのオーガで、リーダー格のオーグラは睨み合うだけ・・・・

「オーグラ同士は争わないのでしょうか?」
 日高瑞雲(eb5295)に、セレナ・ザーン(ea9951)の呟きが届いた。ひのふのみ・・・・オーガの数は5匹、都合7匹か。敵の数を確認してから自分なりの推論を述べて見る。
「頭が負けりゃそれまでだしな、相手の力量を見てるんじゃないか?」
「なるほど」
 実際、オーグラにそこまでの考えがあるかはわからないが、勝敗の見えない勝負はしないのが兵法ってもんだ。
「始めても良いかな?・・・・」
 大宗院透(ea0050)が独り言のような口調で仲間の判断を仰いだ。これ以上待っても状況の変化は望めそうも無い。
「あたしは準備オーケーだよ〜」
 真っ先にパラの、パラーリア・ゲラー(eb2257)が賛同する。大将同士が争わないのは予定外だが、冒険者にはその程度の誤差を埋める準備と実力がある。
 透は別の隠れ場所に居る仲間の連絡を待って、ロープを切った。

「これから始めるって」
 もう一つの隠れ場所の中。シェリル・シンクレア(ea7263)もとい、ウィンディはテレパシーの魔法で、計画開始の連絡を受けた。
「わかりましたわ。では計画通りに」
 枯葉で見事にコンシールメントされた塹壕から、シルヴィア・クロスロード(eb3671)がゆっくりと這い出す。
 同じ隠れ場所から、ヤングヴラド・ツェペシュ(ea1274)も立ちあがる。
「少々早いようであるがあの場所に居るよりはマシであるな」
 ウール入りの上等な防寒具を用意しては来たが、急場で掘った狭い塹壕にいたため節々が痛む。ヤングラヴドは出来るだけ静かに、そっと伸びをした。
 アザート・イヲ・マズナ(eb2628)も手裏剣を用意して戦闘に備える、が。
 「ウィンディ?」 どうしても気になったことがあり、漆黒のローブを纏ったウィザードに声をかける。
「はい?」
「・・・・いや何でもない」
「?」
 以前、どこかで会った気がするのだが・・・・今は関係ない事、まずは仕事を片付けるほうが先決。アザートは手裏剣の切っ先を見つめ、精神を研ぎ澄ませていった。

 −ばさぁ− 
 透が樹上に仕掛けた網が取っ組み合いを演じていたオーガ達に覆いかぶさった。
 −がぁ!?− −ぐぉおぉぉ!−
 突然の出来事に、当のオーガのみならず、睨み合いを続けていたオーグラも呆気に取られた表情で立ち尽くす。
 「ふっ」 −ばささっ!− シルヴィアは状況の掴めていない敵に近づき、枯葉の中に隠されていたロープを切断すると同時に、棒立ちになったオーガの頭上に錘を仕込まれた網が落下。
 −うがー!− じたばたじた・・・・網を被ったオーガはパニックを起こして転げまわる。
 奇襲成功。こうして冒険者の完全優位で戦いが始まった。

●備えあれば憂いなし
 時間は前後するが、冒険者達がいつ罠や隠れ場所を掘ったのか? 答えはその日の午前中。
「大宗院殿、穴はこの位で良いであるか?」
 穴と言っても、道具も無いので短剣でようやく地面をほじくった膝丈程の窪みだが・・・・ヤングヴラドは樹上に声をかけた。
 透は手がけていた仕掛けの具合を確かめるとするすると木を降りる。そのまま穴の深さと広さを確かめると軽く頷く。
 あとは穴に寝そべって毛布を被り、上から枯葉でも被せれば完璧だ。隠蔽の手順を考えていた所にシルヴィアが声をかけてきた。
「確認して置きたいのですが、私はどの綱を切れば良いのでしょう」
 本当は広場全域を覆う網が欲しかったのだが、依頼人が所有していたのは粗末な投網が2つ。しかもかなりの年季の入った代物。ゴブリンやオークならまだしもオーガやに何処まで持つか・・・・それどころかオーグラなら容易く引き千切ってしまうかもしれない。
 「ここです・・・・」地面が踏み固められている場所を2箇所選び、錘を仕込んだ網を設置しておいた。ロープを切れば真下に落下しターゲットを捕らえることが出来る仕組みだ。網がどれだけ持つかは、やってみなければわからない。

「・・・・大きいのが2匹、その他が5〜6ってとこかな」
 経験を積んだ狩人なら地面に残された手がかりから獲物の数を推測するのは、さして難しい事ではない。しかも相手は森には似つかわしくない足跡を持っている。パラーリアは自信を持って数をはじき出した。それだけに隣でいぶかしげに首を捻るアザートが気になった。
「どうしたの?」
「少し考え事をしてた」
 アザートはパラの娘に答える。確か酒場で会った事があると思ったんだが・・・・
「ウィンディ・・・・?」
「え?」
 「いや別に」幾ら考えても答えは出そうに無い。アザートは一先ず考えるのを止めた。

●戦ってばかりのオーガさん達
 透は枯葉を跳ね飛ばして身を起こすと2匹のオーグラを無視して、網の範囲からもれたオーガに狙いを定めた。魔弓ウィリアムに矢を番え・・・・放つ!
 −ごぁぁぁ!−
 放たれた矢は狙いたがわずオーガのわき腹に突き立つ。激痛に身をよじるオーガ。
「ライトニングサンダーボルト!」
 ウィンディの掌から光の奔流が放たれる。罠発動と同時にリトルフライの魔法で樹上に移動して、視界と安全はしっかり確保済み。角度があるため、全てのオーガを射程に収めることは出来なかったが、雷撃に貫かれた2匹の身体がその衝撃で跳ねた。
「・・・・は、冒険者にお仕置きされて春を迎えられないのでした〜」
 黒衣のエルフは誰に言うとも無く呟くと、1匹たりとも逃がすまいと樹上からオーガの動きに目を光らせた。

「準備は良いか?」
「・・・・参ります!」
 オーガスレイヤー・おにぎり丸を手に声をかけた。セレナは答えの代わりに、オーラエリベイションを発動させると盾を前面に押し出し、駆け出した。彼らの役目は仲間が取り巻きのオーガを仕留めるまでオーグラを抑える事。
 「強敵ではありますが一対一なら負ける相手ではありません」それは過信でも慢心でもない。騎士としての誇りと実力に裏付けられた、確信。
 跡に残された瑞運も竜の逆鱗を拾い上げると、セレナが向ったのとは別のオーグラを目指して移動を始めた。

「我は慈愛神の地上代行者なり! 自らの罪を償わぬ生物よ、刃の露となるこそ慈悲と知れ!」
 テンプルナイトは高らかに鬨の声を上げ、オーガへ切り込んだ。あまりの展開に戸惑っていたオーガだが、人間の姿を見て反射的に棍棒を振り上げる、が。放った一撃はいとも容易く聖騎士の盾に弾かれてしまう。
 −がぁっ−と、同時に胴体に鋭い痛みを感じ。オーガは苦悶の声を上げた。

 倒れている敵を攻撃するのは誇れる行為ではない。しかし力なき人々を守るのは騎士の務め。村人達が安心して狩りの出来る森にする為に。
「はぁ!」
 −がつっ!− 大上段から放たれた渾身の一撃は鈍い音と共に、網から抜けようともがくオーガの身体に深々と食い込む。
 −うがぁぁ!−
 それは苦悶や怒りを通り越し、死を感じた者が発する恐怖の叫び。

 「囲まれても平気なのよね〜」木々の隙間を縫って降り積もった雪の上を舞うように動き回るパラーリア。その根拠は雪上に適したウルの長靴を履いているから・・・・それだけではない。網から這い出してきたオーガ達を翻弄する様は、風に揺られる蝶の如く。さらに巧みなフェイントでオーガの攻撃を誘い、一瞬の隙を見逃さず魔法の短剣を投げつけ着実にダメージを稼いでいた。
「手助けはいらないか」
 言いながらアザートはパラの動きに付いていけず、体制を崩した1匹の背中に霞小太刀を突き立てた。
「るるんたるるんた・・・・あ、ちょっとの間お願いできる?」
 「?」 彼女が何をするのか様子を見ていると、スクロールを取り出し集中に入った。
 アザートは最小の動きで棍棒を交わし、流れるような動きで切りつける。次の攻撃に備え振り向くと・・・・オーガの氷着けが出来上がっていた。
「残らず殺すことは無いと思うのにゃ」
 アザートは少し考え。「全滅が目的では無いしな」目の前の敵に意識を戻した。

「流石に効くなぁ」
 オーグラの棍棒を盾で受け止める度、あまりの衝撃に直接殴られているかのような錯覚を覚える。一旦間合いを取り、魔法薬を一息で飲み干す。たちまち手の痺れや痛みが溶けるように消えていった。
「待たせたな。どっちが先に倒れるか・・・・勝負!」
 自分より腕の立つ仲間に「頼りにしている」と言わちゃぁ、な。瑞運は無造作に近づくと鬼切丸を振り上げた。

「無駄です!」
 セレナはオーグラが拾い上げた木の棒目掛けて剣を振り下ろした。べきっ! 何の変哲も無い棒が耐えられるはずも無く、生木が折れるような音を残して砕ける。
 これで2本目。オーグラの武器は木の枝や棒切れだが、彼らが持つとその膂力も相まって恐るべき威力を持つ。彼女はまず武器を封じる事でその力を封じようとしたのだ。
 −がぁ!−
 悔しげに吠えるオーグラ。辺りを見回すがそうそう手頃な棒が落ちているはずも無く。彼はその力を封じられたまま、手錬の騎士と戦う事になったのだ。

●ジャパンの神秘
「どうする?」
 冒険者達は全てのオーガを討ち取った後、最後に残った氷漬けの処遇を決めかねていた。抵抗できない相手を殺すのは寝覚めが悪いが、このまま放置して良いモノか・・・・誰もが言葉につまり、一瞬の静寂が訪れる。
 その時、その瞬間。待ちかねたように透がぽつり、とジャパン語で呟いた。
『「縄張り」争いでは「何針」も縫う怪我をします・・・・』 
 幸か不幸か−多分、不幸−今回のメンバーにはジャパン語を使える者が多く。
 ジャパン語を理解できないウィンディ、セレナ、シルヴィアは何が起こったか理解できぬまま。力なく崩れ落ちる仲間を前に、ただただ困惑するばかり・・・・