商人の息子 棚卸し作戦

■ショートシナリオ


担当:熊野BAKIN

対応レベル:フリーlv

難易度:やや易

成功報酬:0 G 52 C

参加人数:4人

サポート参加人数:1人

冒険期間:01月25日〜01月29日

リプレイ公開日:2008年01月30日

●オープニング

●老兵は死なず
「トーマス爺さん、相変わらず元気だねー」
「うはははは。まだまだ若いもんにゃぁ負けんよ!」
 レイモンドの家で先々代の頃から働いているトーマス爺さんは、今でも使用人の仲で1、2を争うほどの荷運びだった。
「トーマスさんあまり無理をしないで下さいね」
「なぁに若旦那。あっしにとっちゃ小麦袋の3つや4つなんざ荷物に入りませんや」
「あはは、明後日も頼りにしていますよ」
「任しておいてくだせぇ」
 明後日。倉庫の中の商品を整理し、在庫の確認をする・・・・いわゆる棚卸しの作業があるのだ。商品の数だけでなく、倉庫の奥に積まれたために出荷されず古くなった食料品の処分等も行うため、かなりの重労働だ。
 それも1人で3人分の働きをするトーマス爺さんが居れば何とかなるだろう。レイモンドは午後の配達分の商品リストに目を落とした・・・・
 「大変だー!」 「トーマス爺さんが小麦袋に潰されたぞー!」 「は、早く助け出せ!」
「・・・・えーーー!?」

●ギルドにて
「それでトーマスさんは大丈夫なんですか?」
 そこまで話を聞いた受付嬢は、荷物の下敷きになった肉体派お爺ちゃんの身を案じる。
「ええと・・・・」
 レイモンドは言葉を選び、やがて苦笑いを浮かべながら頷いた。
「荷物の下敷きになった割には怪我一つ無いんですが・・・・」
「ですが?」
 怪我一つ無いのは何よりだが彼の言葉尻が気になり、言葉を重ねる。
「どうも腰を痛めたみたいでベッドから起き上がれないんですよ」
「ああー・・・・うちの父も昨年、腰をやりました。辛いみたいですね」
「ええ」
 あの感覚は経験したことの無い彼らにわかるはずも無いが、激痛と情けなさで泣きたくなるくらいきっついですよ?
「という事は、今回はお店の棚卸しのお手伝いですか?」
「はい。実は店の者が何人か熱を出して寝込んだ上に、今回のトーマス爺さんの件があったもので人手が・・・・」
 レイモンドは申し訳なさそうに言葉を続けた。
「冒険者の皆さんにお願いするのは失礼かと思いましたが、信頼できる方に来て頂きたいんです」
「恐れ入ります」
 信頼と信用は実績の証。受付担当は小さく会釈をして。
「それで内容はどのようなものですか?」
「倉庫にある荷物とリストの照らし合わせが主になると思います」
 その他掃除など、こまごました事もあるらしい。こんな雑務に人手が集まるかは微妙だが、これも仕事には違いない。担当は草稿に条件を書き足していく。
「雑務で申し訳ありませんが、作業が終わればささやかな宴を用意しますので楽しんで頂ければ幸いです」
 若き商人は一礼するとギルドを後にした。

●今回の参加者

 ea2890 イフェリア・アイランズ(22歳・♀・陰陽師・シフール・イギリス王国)
 eb2628 アザート・イヲ・マズナ(28歳・♂・ファイター・ハーフエルフ・インドゥーラ国)
 ec2497 杜 狐冬(29歳・♀・僧侶・人間・華仙教大国)
 ec3704 タイラー・プライム(30歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)

●サポート参加者

李 雷龍(ea2756

●リプレイ本文

●棚卸しとは何ぞや?
「ようは在庫と台帳の照らし合わせの事です」
 倉庫の前でレイモンドは手元の羊皮紙の束を叩いて見せた。
「武具や旅に使う用具も取り扱っているのか?」
「いえ、うちは基本的に食料品を取り扱っているので、そういった類のモノはここにはありません」
 タイラー・プライム(ec3704)は雇い主の明確な回答に、「そうか」と理解の意を示した。
「あの・・・・」
 恐る恐る手を上げた、杜狐冬(ec2497)に「何でしょう?」 にこやかに応じるレイモンド。
「トーマスさんは大丈夫でしょうか?」
 レイモンドは面識ある狐冬が見せてくれた老使用人への心遣いを嬉しく思ったが、どう説明したものか・・・・少しの間考え。
「ええ、腰以外は健康そのものです」
「良かった。仕事が一段落した後で、看病をさせて頂いてもよろしいですか?」
「それは構いませんが・・・・良いんですか?」
 冒険者に依頼したのは棚卸しの手伝いであって、腰痛の使用人の看病ではない。契約外の申し出に若き商人の顔に困惑の色が浮かんだ。
「ええ、是非」
 「・・・・」たおやかに微笑む狐冬の顔を暫し見つめて。
「ありがとう御座います。きっとトーマスさんも喜びます」
 素直に彼女の好意を受けることにした。

「仕事を始める前に、荷物とペットを預かって欲しいのだが・・・・」
 アザート・イヲ・マズナ(eb2628)の希望はあっさりと叶えられる、と言うより配慮がなされていた。
「使用人部屋です申し訳ありませんが、ご自由にお使いください。乗馬がある方は厩へどうぞ」
「うちのブラストウィンドもよろしゅう頼んまっさ」
 「勿論です」レイモンドは目の前に現れたシフールの娘、イフェリア・アイランズ(ea2890)の申し出に微笑んで答えた。
「おおきに。倉庫の方はうちがきっちり仕切ってみせますよって」
「頼りにしていますよ、イフェリアさん」
 「・・・・へぇ」予想外の答えに、思わず唸るイフェリア。
 正直、シフールの自分が力仕事メインの依頼に出張って来たのだ。心配されたり疑念の目でみられるか、質問の1つや2つはあるかと思っていたが・・・・まさか「頼りにしている」と、あっさり言ってのけるとは。それが本心であれ建前であれ。
「おもしろい子やね」
「?」
 「何でもあれへん、こっちのことですわ〜」怪訝な表情を浮かべるレイモンドを、今度はイフェリアが不思議なイントネーションで軽くいなした。

●棚卸し
「タイラーはん、その袋は奥の方がえーなぁ。アザートはんー、そこの木箱壁際に寄せてーな」
「わかった」
「ああ・・・・」
 天井付近で倉庫の全体を見回しつつ、イフェリアは指示出しに徹していた。シフールゆえに力仕事を手伝うことは出来ないが、自在に飛べる彼女の能力は効率的にスペースを埋める整理整頓の指揮官として、十二分に効果を効果を発揮していた。

 一方、指示を受けているタイラーの方も、何やら仕事以上の熱意を持って荷運びに集中している。小麦袋を2つづつ、両肩に乗せて倉庫の奥へと移動させる。その原動力は何か?・・・・
 「トーマス爺さんがどんな風に働いてたかって? ・・・・そうだねぇ、小麦袋なら3つ4つ纏めて担いでたけど」と言う、他の使用人の情報。
 いかに相手がベテランの荷運び人だとしても、「若さと体力に勝る自分が負けるはずが無い」と言うプライド・・・・だが。確かに運搬するスピードは速いものの、荷を担ぎ上げるときと降ろすときにどうしてももたついてしまう。
「なにか技術があるのか?」
 機会があれば荷運びの極意を達人に尋ねて見ようか・・・・ふとそんな気になった。

 『大丈夫そう・・・・だな』
 アザートは指示された木箱を壁際に下ろすと、作業の進捗を見守るイフェリアを見上げた。考えて見れば冒険者として十分に経験を積んだ彼女が、無茶をするはずも無い。
 そう言えば社は・・・・? もう一人の仲間の姿を探して入り口に目を向けると、レイモンドの隣で羊皮紙に書き込みを入れている異国の服装を纏った女性の姿が見えた。
「向こうもやる事はわかっている・・・・か」
 それならば。自分もあれこれ気を回す必要は無い。この国の言葉は理解しているつもりだが、個々の品物と名称を全てとなると自信は無い。
 「アザートはん、ぼけーっとしてたらあかんでー。次はそっちの箱をあっちになー」 上空から降ってきた指示に手を振って答えると、自分の出来る仕事・任された仕事に集中することにした。

●その頃のトーマス老
 −こんこん−
 その日の午後、トーマス爺さんの部屋の戸がノックされた。
「・・・・あいとるよ」
 中からか細い声が聞こえる。現役バリバリで働いていた男が大事な仕事の最中、寝ていなければならないのだ。元気がなくなるのも当たり前か。
「おお、あんたは確か・・・・」
 入ってきた女性に見覚えがあった。あれは確か・・・・年末に若旦那の護衛をしてくれた冒険者の娘の・・・・
「お久しぶりでトーマスさん、狐冬です」
 そうだそうだ。異国の聞きなれない響きに聞き覚えがある。
「あんたも手伝いに来てくれたのかい。いや、申し訳な・・・・ぬぉ!?」
 身体を起こそうとした瞬間、腰部に激痛が走る。
「大丈夫ですか?」
 狐冬は持ってきた者をサイドテーブルに載せると、ベッドに駆け寄る。
 「・・・・面目ない」額に脂汗を滲ませ、激痛を噛み殺しながら言葉を搾り出す。
「腰は長引くといけませんから、無理はしないで下さいね」
 水を絞った手ぬぐいでトーマス老の汗を拭うと、狐冬は噛んで含めるように言い聞かせる。
「うむむむむ・・・・」
 自分の孫くらいの娘に言われ、複雑な表情を浮かべるも反論の余地もなく。トーマス爺さんはそのまま狐冬の看病を受けることになった。

●仕事の後の一杯は・・・・
「今年もなんとか無事、棚卸しを終えることが出来ました」
 最終日の夕刻。レイモンドはエールを満たしたジョッキを掲げ、冒険者・従業員を前に棚卸しの終了を告げた。
 いつもは店員と来客でごった返す店内はあちこちから机や椅子が持ち込まれ、酒や料理が所狭しと並べられている。決して贅沢なモノが並んでいるわけではないが、店の女衆が腕によりをかけてつくった家庭料理が用意されていた。
「・・・・多少のアクシデントもありましたが、これも冒険者の皆さんにお手伝い頂いたお陰です」
 冒険者に一礼。
「それでは皆さん。お疲れ様でした!」
 その声を待っていたように、宴席のあちこちで木製のジョッキを打ち合わせる音が響いた。

「お嬢さん、楽しんでいるか?」
 タイラーは給仕の若い女性に声をかけた。
「ええ、冒険者さんはどう? 楽しんでる?」
 娘はくすくす笑いながらも付き合う。この辺りは日頃の接客業務で鍛えられているらしい。
「ああ。いま君と出会えたからな」
「あはは、口が上手いねお兄さん」
 宴の楽しみ方は人それぞれ、人の縁もまたしかり。

「向こうはよろしくやってはるなぁ〜」
 イフェリアは「よろしく」やっている2人を眺めつつ、自分の背丈と同じぐらいのジョッキに注がれたエールに口をつける。隣ではアザートが黙々と料理を胃袋に詰め込んでいる最中だ。
 「・・・・俺、何かおかしなことをしているか?」 視線に気付き、怪訝な表情で尋ねるアザートに。
「別に」
 少しだけオーバーに、手をふって答えた。
 宴の楽しみ方は(以下略)

●謎の女(ひと)再臨
 「トーマスさん、具合はどうですか?」 宴の席を抜け出した狐冬は未だベッドから立つことができないトーマス老の部屋を訪れていた。それは「トーマスさんだけ宴に参加できないのは可愛そう」と言う、彼女らしい優しさゆえの行動だった。
「狐冬さんかい。お陰でだいぶ楽に楽になりましたわい」
「そうですか、良かった・・・・あ、スープを持って来たんですけど召し上がりますか?」
「何から何まですいませんなぁ」
 弱っているときは人の情けが身にしみるもの。いつもは人並み以上に元気なご老体であれば、なおさらだろう。
 最初に会った時と今、トーマス老が何だか一回り小さくなった気がして。それがなんだか気の毒に思えて・・・・狐冬は意を決して口を開いた。
「トーマスさん・・・・これから見聞きすることは絶対に秘密にしていてくださいますか?」
「ん? 何だかわからんが世話になったあんたの頼みなら・・・・」 
 −しゅる、しゅるる−
 遠くから聞こえる宴の喧騒より大きく、衣擦れの音が響く。月明かりの下に照らされる狐冬の肢体・・・・そして振り向いたその顔には。
「あ、あんたは・・・・もしや!?」

 トーマス老はその日の約束を終生違える事はなく。仕事に復帰してからは今まで以上に若々しく、元気に働き続けたそうな。