少女と小箱 3人組再び

■ショートシナリオ


担当:熊野BAKIN

対応レベル:11〜lv

難易度:やや難

成功報酬:8 G 76 C

参加人数:5人

サポート参加人数:2人

冒険期間:02月09日〜02月14日

リプレイ公開日:2008年02月15日

●オープニング

●珍しい依頼人
「まぁね、出来ることならアタイらだってあんた達の手なんか借りたくは無いさ」
 アマンダと愉快な・・・・もとい、3人組のリーダー・アマンダは、ギルドの受付担当を前にきっぱりと言いきった。
 −ひくり−
 受付嬢の口が僅かに引きつる。仮にも客である以上、『だったらしなければ良いじゃないですか』などと言うわけにもいかない。十八番の営業スマイルを張り付かせて。
「それで、本日はどのようなご用件でしょうか?」
 勤めて冷静な声で依頼人に依頼内容の説明を求めた。
「あーあ、何だってこんな所に頼まなきゃいけないんだか・・・・」
 −ひくひく−
「姉さん。このままじゃ話が進みませんぜ。これも仕事ですから」
 受付嬢の表情に気がついたのか、居た堪れなくなったアマンダの子分1・ヘルマンがなんとかリーダーをなだめる。
 「あんたに言われなくったって、わかってるよ!」 手下に睨みを利かせると、アマンダはようやく本題を切り出した。

●ある依頼
「さるお方の依頼でね。とある村に行って娘っこを1人と、これくらいの・・・・」
 胸の前で手を開いて大きさを示す。
「小箱を預かって、期日内にキャメロットまで送り届ける。以上だ」
「え・・・・?」
 冒険者ギルドは彼ら3人組と一度は敵として、一度は依頼人として関わったことがあった。その時の報告では、「些か間が抜けたところはあるが、腕の立つ3人」だったはずだが・・・・
「間抜けは余計だよ」
「・・・・」
 どうやら口に出してしまっていたようだ。
「まぁ本来ならアタイらだけで十分なんだけどね」
 アマンダは思わず沈黙してしまった担当を気にも留めずに先を続けた。
「ところが依頼人の希望でね。娘と小箱は別々に運んで欲しい、と」
「なるほど・・・・」
 「さるお方」が「娘」と「小箱」を「別々」に。あくまでも推測に過ぎないが「身分のある方」が「縁のある」子供と「証」を別々に運んで欲しい、と望んでいるのではないか。そして別々に運べと言っているのは、道中に「トラブルが予想される」からだろう。しかし・・・・
「もしも、もしもですが」
「ん?」
「どちらかが「何らかの理由」でキャメロットに着かなかった場合は?」
 単純に考えれば、娘と証の両方が揃わなければ依頼人の望みは叶えられないはずだ。それなのにトラブルが予想されるからと言って、わざわざ2手に分かれてリスクを増やすのは、果たして良策だろうか?
 アマンダは少し考え。
「箱が届かなければ娘の証になる物は無い。娘が届かなければ証も必要は無くなる・・・・それだけさね」
 きっぱりと言い切った。
「どっちがどっちを運ぶかはあんた等に任せる」
 アマンダはゴードン−3人組の1人。ジャイアントの戦士−からコートを受け取る。
「アタイらの方に混じりたいってぇならそれも構わない・・・・まぁ、なんだ」
 言い難そうに語尾を濁すと、受付嬢に背を向け。
 「あんたらの実力は知ってるからね」そういい残して、ギルドを後にした。
「・・・・」
 冒険者の実力を知っているからこそリスクを背負う気になった。言い換えれば「絶対に成功させる」アマンダの強い意志を感じた。

●今回の参加者

 ea5225 レイ・ファラン(35歳・♂・ファイター・人間・イスパニア王国)
 eb2628 アザート・イヲ・マズナ(28歳・♂・ファイター・ハーフエルフ・インドゥーラ国)
 eb5451 メグレズ・ファウンテン(36歳・♀・神聖騎士・ジャイアント・イギリス王国)
 eb9943 ロッド・エルメロイ(23歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ec1783 空木 怜(37歳・♂・クレリック・人間・ジャパン)

●サポート参加者

リアナ・レジーネス(eb1421)/ マロース・フィリオネル(ec3138

●リプレイ本文

●とある村
「それじゃアタイらが小箱、あんた等が娘。それで良いんだね?」
 赤に染められた皮鎧を身に着けた女、アマンダが確認する。
「ああ。どちらにしろ妨害はあるだろう・・・・気をつけろ」
 アザート・イヲ・マズナ(eb2628)は表情一つ変えず、しかし彼らの身を案じるかのような言葉で答え。
「そう言うことだ。それで帰りのルートだけど、俺らは行きと同じ道を使うとしてそっちはどうする?」
 アマンダは、空木怜(ec1783)の問い掛けに、ふふんと鼻を鳴らして。
 「そいつは言えないねぇ」にやりと笑う。
「姐さんはあんたらを信用してないわけじゃないぜ? 何せこっちは小箱一つだ。獣道でも何でも使い放題だからよ」
 すかさずフォローを入れるヘルマン。誤解を招きやすいボスの言動を補佐するのも、彼の仕事のうちなのだろう。
「その小箱ですが」
「ん?」
 メグレズ・ファウンテン(eb5451)はアマンダに手作りの木箱を差し出す。持参した木材で運ぶ小箱と同じぐらいの箱を作っておいたのだ。とは言え素材も違うし制作時間が限られているため、彫刻までは再現できなかったが、それでも遠目から見ればそれらしく見える。
「へぇ・・・・こいつは良いね。有難く使わせて貰うよ」
 3人組の女ボスは小箱を受け取るとゴードンに手渡し。
「あんたらは来た道をそのまま逆戻りで良いのかい? 確かにキャメロットまでの本道だけどさ」
「脇道に入って待ち伏せされるよりは、下見をした道のほうが安心できるしな」
 レイ・ファラン(ea5225)は往路で幾つか側道を調べて見たが、道が細かったり森に繋がったりして見通しが悪い道が多かった。本道と言っても小村の道だから広さも手入れもたかが知れているが、一度通った道だけに、ある程度危険な場所の目星は付いている・・・・と言うのは、こちらもフェイク。
 冒険者達は、ロッド・エルメロイ(eb9943)の提案で「多少遠回りになっても日程を最大限に使って、安全な道」を選ぶ事にしていた。往路をそのまま戻るより若干遠回りになるが、その分の時間はセブンリーグブーツや馬でカバーできる。
 アマンダはそれ以上詮索する事は無く「そうかい」短く、一言だけ答えた。

●真夜中の訪問者
 冒険者は3人組と別れた後、予定通り本道からはずれ。やや迂回をする形でキャメロットに向かった。日中は予想された襲撃も無く、夕闇が訪れるより少し早く初日の野営場所を決定した。
 そして辺りに夜の帳がおりた頃。
「アイーナは?」
「余程疲れていたんでしょうね、ぐっすりと眠っていますよ。メグレズさんが側についています」
 焚き火の輪に戻ってきたロッドは、アザートの問いに答えると腰を下ろした。年端も行かない少女が身の危険を感じながら旅をしているのだ、無理も無い。少女は巨人族の騎士に見守られ、兎のチニーを抱きしめて安らかな寝息を立てていた。
 −からっからから−
 その時、レイが野営地の周囲に張り巡らせた鳴子が鳴り響いた。冒険者達に緊張が走る。もしかしたら狐や鹿の類かもしれない・・・・しかし。
「ちょいと邪魔するぜ」
 音を立てた何かは、はっきりとイギリス語で意思表示をしてきた。

 声の主は焚き火の明りで見える限り、短剣一本身に着けていないように見える。それでも他に仲間がいるかもしれない。怜は警戒のためにそっとバイブレーションセンサーの魔法を発動させた。
「誰だ?」
 警戒を隠そうともせず、レイは誰何の声を上げる。
「そんな怖い顔をしないでくれ。大体わかってんだろ?」
「さるお方に頼まれたうちの1人・・・・か」
 抑揚の無いアザートの言葉に「まぁそんな所だ」男は両手を挙げ、敵意が無いことを示すと焚き火の側に腰を下ろした。黒々とした髭を蓄えたその顔は、一見しただけでもただの旅人ではない事を感じさせる

「それで私達に何の御用ですか? まさか火にあたりに来ただけでは無いのでしょう?」
 「半分当たりだ」髭の男はからかう様にロッドの質問に答える。
「あんたらと相談したいことがあるんだが・・・・その前にもう少し火にあたらせてくれよ」
 男はそういうと焚き火で手を温めだした。

●訪問者再び
 訪問者は冒険者と30分ほど会話をすると、大人しく引き上げていった。その後、厳重に夜番をたてて襲撃に控えたが、結局その夜は何事も無く過ぎ・・・・
 夜が明けると一行は身支度を整え、キャメロットへ移動を再開した。

 メグレスは馬を並べるアザートに語りかけた。
「昨夜のは、やはりそういう事だったんですよね?」
「・・・・多分」
 少女の側についていたので相手の顔は見えなかったが、途切れ途切れに聞こえる会話で大よその内容は把握していた。彼は「期日までに娘を届けないで欲しい」と持ちかけて来たのだ。
「あの顔で子供好き、と言われてもな・・・・」
 アイーナの横で彼女のペースを見守っていたレイが話しに加わる。少女は怜が用意したセブンリーグブーツを履いているが、何しろ慣れない長旅。冒険者がフォーローしてやらなければならない。
「普通に考えればこちらの手の内を見に来た、と言うところでしょうね」
 暫しの沈黙。彼が子供好きかどうかはさて置き、ロッドの推測は正しい。と、誰もが認める結論だった・・・・とはいえ。
「1人で、それも丸腰で来た相手をどうこうするわけにもいきませんしね」
 「・・・・」返ってきたのはやはり、沈黙。

「よぉ、また会ったな」
 やや道が開けた所で見知った顔に出会った。今度は1人でもなければ丸腰でもないが、その髭面だけは見間違う事は無いだろう。
「今度はそっちが焚き火でも用意してくれてたのか?」
 軽口を叩きながらもレイは素早く敵の数を把握する。
 「・・・・6、7人」相手の技量にもよるが対応できない数でない、が。剣や手斧を携えた中に短弓携えた男が1人。そしてもう1人「いかにも」な杖を携えた男。気取られぬよう後ろ手で仲間に注意を促す。
「なぁ、もう一度考えてくれねぇか?」
「何をです?」
 メグレズはアイーナを自分の後ろに下がらせ、問い返す。
「あんたらがちぃと遠回りしてくれれば、その子に怖い思いをさせなくてすむって話さ」
 やり難そうに髭面を掻いた。
「・・・・確かに、彼女がこの先どうなるかはわからない」
 ほんの一瞬、アザートは少女に視線を向けた。髭面はうんうんと頷く・・・・しかし。冒険者は誰一人動揺を見せることは無い。
「それでも俺達はこの件が彼女にとって良きことであれ、そう思っているよ」
「・・・・」
 髭面は大げさに溜め息を付くと長剣を引き抜いた。
「交渉決裂か、残念だ」
 
●激突
 アイーナの小さな身体を抱きかかえ、メグレズはジリエーザの影に運んだ。キャメロットに付いたら渡そうと思っていたオリオンネックレスを小さな手に握らせる。
「貴女は私達が守ります。だから貴女も私達を信じて」
 優しく微笑む。少女はネックレスと優しき騎士の顔を見比べ・・・・「はい」震える声で、しかしはっきりと答えた。メグレズはもう一度微笑むと、ホーリーフィールドの結界を張り巡らせた。

「ふっ!」
 放たれた矢を霞小太刀で叩き落すとアザートは「弓の男を・・・・頼む」後衛に声をかける。
「了解・・・・ローリンググラビティ!」
 「うぉ!?」 放たれた重力魔法が2矢目をつがえた男を上空へと「落下」させ、再び地面へと呼び戻す。
「魔法使いが居るって言っただろうが!」
「やはり・・・・偵察だったか」
 「! ちっ!」 音も無く滑り込んできたアザートの斬撃を、辛うじて受け流す髭面。折角の情報収集も、ならず者に有り勝ちな「根拠の無い自信」のお陰で無駄足に終わったようだ。
「そういう事。でも・・・・なっ」
 「?」 横薙ぎの一撃をバックステップを踏んでかわし、距離を取る。
「子供が好きってのも、嘘じゃねぇんだな」
 男は顎鬚を撫で、にやりと笑った。

 「どうする?」 手斧の男の胸にホーリーレイピアを打ち込み、レイは思案する。魔法使いと弓使いを先に黙らせたいところだが、人数は向こうが上だ。無理に突出すれば手薄になった前衛を突破されるかもしれない。
「?」
 身体の中に炎のように熱い意思の力が湧き上がる。
「俺達で時間を稼ぎます。目の前の敵に集中して下さい」
 火の魔術師ロッドのフレイムエリベイションの効果だ。振り向くまでも無い、いつも通り礼儀正しい立ち振る舞いなのだろう。
「暫く頼む」
 2人倒せば何とかなる。手斧男に意識を戻した・・・・その時。

●生きているから
「きゃぁぁ!」
 一筋の閃光。そして・・・・少女の悲鳴に場が凍りついた。
「何しやがる、娘を殺す気か!?」
「期日までに到着しなければ良いんだろ? 別に生かしておく必要も無いじゃないか」
 髭面の怒声を杖を持った男は鼻で笑った。
「許しませんっ・・・・妙刃、破軍!」
 怒りに燃えるメグレズはならず者に駆け寄ると、大上段からの一撃を叩き込む!
 −ざしゅ!−
 鈍い衝撃音。一拍遅れて男の身体が崩れ落ちた。
「ここは引き受けます、あの男を!」
 次の詠唱に入ろうとしている魔術師をダーツで牽制し、レイは一直線に駆けた。

「思ったより傷は深くない。結界のお陰だな」
 怜は少女の容態を冷静に見極め、ポーションの瓶を取り出した。多少火傷をおっているが、この程度なら痕も残さず治るだろう。
「悪かったな。嬢ちゃん」
 髭の男は縛り上げられたまま少女に詫びた。
 魔術師を除くならず者6人は冒険者に投降していた。それぞれが重傷・瀕死手前の傷を負い、勝ち目が無くなったという事もある。何より金で雇われただけの彼らに、命を懸けてまで役目を果たす義理も無い。
 縛り上げて置いて、後で衛兵に通報すれば事足りる。上手くいけば彼らの雇い主もただでは済まなくなるだろう。

「守るって約束したのに、御免なさい」
 うなだれるメグレズの手を握り、アイーナは微笑んだ。 
「まだ生きてるから・・・・平気」