お転婆狂想曲 初めてのお見合い
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■ショートシナリオ
担当:熊野BAKIN
対応レベル:フリーlv
難易度:やや易
成功報酬:0 G 52 C
参加人数:5人
サポート参加人数:1人
冒険期間:03月10日〜03月14日
リプレイ公開日:2008年03月16日
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●オープニング
●とあるお屋敷
「お嬢様ー」「メアリーアン様ー!」
その日。そのお屋敷では朝から大騒ぎになっていた・・・・
●その日は何時にもまして
マーシネスの髪型は乱れ、上等なはずの衣服はうっすらと誇りにまみれていた。
「・・・・ええと」
「ええ。今日のお願いもメアリーアンの事ですの」
あ、相当大変なことになっているんだな・・・・何時に無く余裕の無い貴婦人の立ち振る舞いに、受付担当は不穏な空気を嗅ぎ取った。
「まぁあの娘の気持ちもわからないでは無いですが、まさか竃の中に潜り込むなんてねぇ・・・・」
「ええ〜?」
思わず素が出てしまった担当にマーシネスは苦笑いで答える。慌てて表情を繕う。しかし、仮にも良家のお嬢様が竃に逃げ込むような事態とは一体・・・・
●なぜかと言えば
「お見合い、ですか?」
確かメアリーアン嬢は11歳・・・・いや、今年で12歳だったはず。幾らなんでも早すぎるのではないだろうか。そんな受付嬢の表情を読み取って、マーシネスが付け加える。
「まぁお見合いと言っても、貴女が想像しているような堅苦しいものではありませんわ。そう・・・・顔見せ程度のお食事会、そんなところですわね」
「それでお嬢さんはその話を聞いて?」
「ええ・・・・」一転、心底疲れきった表情を浮かべる貴婦人。
「一昨日は馬小屋の敷き藁に潜り込んで、馬に踏まれそうになり。昨日は屋敷を抜け出そうとして大捕り物」
「そして今日は竃で篭城ですか・・・・お察しします」
「ありがとう」
形式では無い、心のそこからの労いにマーシネスは感謝した。
●と言うところで今回の依頼は
「お見合い、いえ。お食事会の日まで、あの娘の面倒を見て頂きたいの」
「それは・・・・方法もこちらに一任、と考えても?」
「結構ですわ」即答。
「当日、メアリーアン本人が、私の目の前に、元気な姿で居てくれさえすれば結構です」
方法は一任する。信頼を得たからこその言葉ではあるが、裏を返せばそれだけ責任も重い。
「それでは直ぐに募集をかけます」
「よろしくお願いしますわ」一礼して席を立とうとしたマーシネスに。
「あの・・・・1つよろしいですか?」
受付嬢は声をかけた。
「何でしょう?」
「・・・・お着物が汚れているのは、もしかしてマーシネスが?」
かなりぼやかした質問ではあったが、貴婦人はその真意を汲み取り苦笑い。少しだけ言葉を選んで。
「前にも言いましたが、私とメアリーアンは良く似ていますの」
それは容姿の事ではない。考え方や興味の対象、そして・・・・多分、行動パターンの事。
●リプレイ本文
●初対面
「お兄様、お姉さま。はじめましてメアリーアンです」
少女は冒険者達に丁寧な挨拶をした。手入れの行き届いた銀髪とよく動く鳶色の瞳が・・・・些か、かげって見えるのは、きっと気のせいではないだろう。
「お初にお目にかかります、メアリーアン様」
ロッド・エルメロイ(eb9943)は少女の挨拶が終わるのを待ってから立ち上がった。正式に礼儀作法を学んだことは無いが、そこは常日頃から紳士たらんと行動しているロッド。その立ち居振る舞いは十分様になっていた。
続いてロッドと同じエルフの、ルースアン・テイルストン(ec4179)が立ち上がった・・・・もっともこちらは女性だが。
「はじめまして、メアリーアンさま。私のことは気軽にルーシーと呼んでくださいね」
たおやかな淑女に微笑みかけられ、少女はすこし頬を染め。
「はい、ルーシーお姉さま」
はきはきした返事にルーシーはもう一度微笑んだ。
「姪御さんをピクニックにご招待したいのですが」
マーシネスは、シルヴィア・クロスロード(eb3671)の提案を少しの間、考え。
「館に押し込めておくよりは良いかも知れませんわね。お願いできますかしら?」
「勿論です。リーンもメアリーアンさんと遊びたがっていますかしら」
名を呼ばれたエレメンタルフェアリーは、何? と言いたげに主の顔を覗き込む。
「それと、出発前にお台所を貸して頂けませんか?」
杜狐冬(ec2497)は母国の持ち運びやすく、イギリスでは珍しい料理を作ってお弁当にしようと、台所の使用許可を求めた。実際問題、材料や調味料の兼ね合いで出来る料理は限られるだろうが、そこは料理人の腕の見せ所。
「なんだか私もついて行きたくなったわ」成り行きを見守っていたマーシネスは楽しそうに笑った。
「あの・・・・」
レン・オリミヤ(ec4115)は退出しようと立ち上がった館の女主人にそっと近づき、声をかけた。
「あら私に御用? 何かしら」
「私、お屋敷にいても・・・・良い?」
「どういう意味かしら・・・・貴女、もしかして」
察した貴婦人の疑問にレンは−こくん−と、頷く。顔の大半を覆っているため、本人がそうといわない限りわからないが、彼女はハーフエルフ。
実力主義である冒険者の世界はともかく、世間一般では忌避する者が多い。場合によっては露骨な差別を受けることもある。貴族の中にも嫌悪感を抱いている者は多いだろう・・・・しかし。
「貴女はギルドから派遣された冒険者。そして私はギルドを信頼しています・・・・これで答えになるかしら?」
マーシネスはレンの問い掛けに対し、明確な言葉で応えた。自分の素性を明かしたレンへの返礼、そしてギルドへの信頼の証だった。
●淑女と貴婦人
「正直、私の失言でしたわ」
マーシネスは「メアリーアンにどんな話をしたのか」と言う問いに、隠し立てすることなくはっきりと言い切った。
「本当にただのお食事会の予定だったのですが、先様にメアリーアンと同じぐらいのご子息がいらしたので、つい・・・・」
「お見合い、と言ってしまわれたのですね?」
ルーシーの推測に、貴婦人は溜め息で答えた。自分の立場を理解しているとは言え、メアリーアンはまだ11歳の少女。突然お見合いをしろ、などと言われれば動揺するのは当たり前だ。
「あの子をお願いします」
席を立つルーシーに、姪を思いやる叔母の声が届く。
「姪御様は元気があり余っているようですし・・・・」
エルフの淑女は振り向き、悪戯っぽく微笑むと。
「思いっきり遊んできますわ」と言い残し、一礼して貴婦人の部屋を辞した。
●狐冬の聞き込み
「見合い相手とはどの様な方です?」
狐冬は館の使用人を捕まえてはこの問いを繰り返した。全員が全員知っているわけではなかったが、話を総合すると「マーシネスの知人のご子息」との事。
話好きな女中は「まだまだ遊びたい盛りなのにねぇ」と、メアリーアンの事を気づかった。お見合いを嫌がる理由もその辺りにあるのだろうか?
「最後に1つだけいいですか?」
「こっちも忙しいんだけどねぇ。で、何だい?」
女中は眉をひそめるがどこか楽しそうな表情で、狐冬の質問を待ってくれた。
「マーシネスは、その・・・・どの様な方なんですか?」
「・・・・」きょとん。
女中は3秒程沈黙。言葉を選んだつもりだが、まずかったかな? 主人の素性を探られて、警戒しない使用人はいないだろう。しかし、突如からからと笑い始めた。
10秒後、呆気に取られる狐冬に向かって。
「マーシネスはマーシネスさ。それ以上でも、以下でもないよ」
今度は狐冬が、きょとん。
●馬上の告白−似た者同士−
「わぁ速い! シルヴィアお姉さま、風になったみたい!」
「お望みなら、後で手ほどきをして差し上げます」
「素敵っ、是非お願いします!」
早駆けするシェロンの上で、シルヴィアは腰に回された華奢な腕の感覚を確かめる。実は彼女には、冒険者の中で唯一、メアリーアンと同じ経験をした事があった。だからこそ伝えたいことがあった。シェロンの歩を並足に落とすと、背後に居る少女へ語りかけた。
「・・・・実は、私もお見合いが嫌で逃げ出したことがあるのですよ」
「え?」
驚きが少女の手を伝わってきた。
「馬小屋に隠れたり部屋に閉じこもったり・・・・私達、似たもの同士ですね」
「・・・・はい」もぞもぞと居心地悪そうに動く気配がする。自分の行動を思い出して照れているのだろう。
「貴族の娘が自分で道を選ぶのは困難です。それでもなりたい何かがあるなら、逃げてはいけません」
「・・・・」
「私は、そうして今ここにいます」
自分と彼女の置かれた立場では、きっと多くの違いがあるだろう。そんな事はわかっている、わかっているけれど。
「貴女が望むなら、いつでも力になりましょう」言わずにはいられなかった。少女の気持ちがわかってしまうから。
言葉での返事は、無い。ただ腰に回された手に少しだけ力が入った。
「・・・・そろそろお食事にしましょうか」
−こくん−背中で少女の小さな頭が動いたのを感じる。シルヴィアは仲間が待つキャンプへとシェロンを向けた。
●ピクニック−少女の気持ち−
「ご存知ですか? とある国の王様もお見合いが苦手で、独身でらっしゃるのですよ」
ロッドは昼食の場でお見合いの話を切り出した。本来の仕事はメアリーアンの護衛・・・・と言うよりお見合い当日までのお目付け役だ。こんな話をすれば、彼女の機嫌を損ねてしまうかもしれない、それでも。
「?」 言葉の真意を計りかね、パンを持ったまま小首をかしげるメアリーアン。
「お見合いしたからと言って直ぐに結婚をしなければいけない、と言うわけではありません。まずは・・・・」
一旦、言葉を区切り。少女の反応を確認してから言葉を続けた。
「お会いして、その後で御自分の気持ちをはっきりと示すことが大事なのです」
「ロッドお兄様のお話、私には難しいですわ・・・・」
パンを置いて俯くメアリーアン。難しい、と言うのは少し嘘。言葉は違うが、馬上でシルヴィアの言った事と同じ事なのだから。ただ・・・・頭ではわかっているけれど、気持ちの整理が付いていないだけ。
−きゅっ−少女の小さな手が握られた。
「・・・・話して」
驚くメアリーアンの鳶色の瞳に、フードの下から光る碧色の瞳が映った。
「レンお姉さま?」
「私たち貴女の事が心配・・・・何でも良いから、話して」
自分達はお見合いの場に同席することは出来ないだろう。だから今、何の気兼ねも無く話せる場所でメアリーアンの気持ちを聞きたい。自分達の思いを伝えておきたい。
「・・・・はい」
少女はレンの手を握り返し、少しづつ、言葉を選びながら話し始めた。貴族の娘である自分の立場、初めてのお見合いをする不安を。
●お見合い当日
大方の予想通り、お見合い(食事会)への列席はやんわりと拒否された。冒険者達は控えの間でお見合いが終わるのを待っていた。
「お姉さまお兄様っ、終わりましたわ!」
バタン! 扉が賑やかな音を立てて開くと、綺麗に整えられた銀髪を揺らしてメアリーアンが駆け込んできた。
出会った時とは打って変わって、元気全開な少女をルーシーが迎えいれた。
「いかがでした? レディらしいお持て成しは出来ましたか?」
「はい! あ、あの、ええと・・・・出来た、と思います」
元気良く返事はしたものの。たった今しがたの「レディらしくない」扉の開け方を思い出し、バツが悪そうに俯いた。
「それで、お相手はどうでした?」
狐冬の質問が助け舟に・・・・
「ええと・・・・とっても大人しくて、何だかちょっと頼りなさそうで・・・・」
ならず。素直な感想ではあるが少々気まずい感じに。
「でも、今度一緒に川遊びをする約束をしましたわ」
その約束に場の空気が和らいだ。
「そうですか。新しいお友達が出来たんですね」
「はい!」
シルヴィアの言葉に満面の笑顔で答える少女の手を、またレンが握った。その碧色の瞳には、あの日のような気遣う色は無く。メアリーアンの成長をわが事のように喜ぶ、暖かくて優しい気持ちであふれていた。
「正直、驚きましたわ。どうやって言い聞かせましたの?」
ただ1人、お見合いの一部始終を見たマーシネスはその変りように驚き、ロッドに尋ねた。
「特別な事は別に。ただ」
「ただ?」
「御自分の意思こそ何より大事に、と」
その言葉を聞くと、貴婦人は「ほほ」と笑った。
「随分と過激な呪文ですこと」
身分ある者がその責よりも自分の気持ちを優先させたら、一体どうなるか? もしかしたら国のありようにも関わる事が起きるかも知れない。だがマーシネスは冒険者を咎めなかった。
それは自分が姪に伝えたいと思っていた魔法。立場ある自分には、口に出すことの許されない呪文。
「貴方がたに来て頂いて良かったわ」
その言葉に貴婦人の本心を感じ、ロッドは恭しく一礼した。